第28話

「おー、雰囲気あるねぇ……」


 何だかんだで、日が落ちる前までにフォーザイン地下迷宮の入口にまで辿り着いたよ。


 フォーザイン地下迷宮の入口前はちょっとした広場みたいになっていて、そこで野営をしている人も何人かいるみたい。


 まるで、キャンプ場だなーと微妙な気分になっていたんだけど、地下迷宮の入口はきっちりと凄かった!


 山の裾野に一枚岩を積み重ねて作った鳥居のような巨大な入口がぽっかりと穴を開けているんだ!


 規模は違うんだけど、まるで古墳の入口のような感じだね。それだけ、中の迷宮も巨大で広いって感じになるんだと思う。


 とりあえず、死の宣告をして、適当にモンスターを狩った私は、地下迷宮の入口を見学した後で、パーティーメンバーの野営地へと戻ってきたよ。


 そこでは、すでにテキパキと野営の準備を初めているブレくんたちがいる。


 ちなみにタツさんは戦力外。サイズが小さ過ぎるから、手伝おうにも手伝えないんだ。


「おー、ヤマちゃん戻ったかー」

「私も野営の準備手伝うよ。何したらいい?」

「ほんじゃ、テント建ててくれへん? ゴブ蔵さんたちのテントがまだ建ってないねん」

「オッケー。テントだね。任せて」


 というわけで、ちょいちょいとテントを建てていくよ。


 …………。


 はい、完成!


 ふふふ、テントが建てられなくて泣きつく私を想像したかな?


 この辺はリアルスキルを持っているので、普通に建てられちゃうんだよねー。だてに、子供の頃にキャンプに行って、お父さんに色々と仕込まれてないんですわ!


「このテントが、ゴブ蔵さんたちのテントね。実家だと思って寛いでもらっていいよ」

「流石にテントを実家にするのは堪えるのう」

「言葉の綾ですよ、お爺さん」


 というわけで、建てたテントをゴブ蔵さんたちに譲渡。


 あとは、何したらよいかなー。


「あとは、ヤマちゃんのテントを建てればテント関係はおわりやな」

「あれ?」


 ……あぁっ!?


 ゴブ蔵さんたちが増えたことを計算してなくて、私の分のテントがない!


 むぅ。今更、ゴブ蔵さんたちに、『それ、私の分のテントなんです。返してください』とも言い辛いしなぁ。それに、ゴブ蔵さんたちを野宿にするわけにもいかないし……。


「わ、私は馬車で寝るから大丈夫だよ!」

「なんや、声震えてへんか? 大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫!」


 キャンプ用具を張り切って揃えてきたはずなのに、私の分しか作ってなくて、結果的に足りないというね!


 いや、仕方ない!


 人数増えるなんてこと、誰も予想できないもんね!


 まぁ、寝床は別に馬車でもいっか……。


 また馬車を召喚しないといけないのは、ちょっと間抜けだけど仕方ないよね。うん。


 それよりも、キャンプといったら、やっぱりキャンプ飯でしょう!


 私はウキウキで準備をしようと思っていたのだが――、


「ほんじゃ、ワイは寝るわ。ここは、セーフティーエリアやからモンスターは襲ってきぃへんと思うが、何かあったら起こしてなー」

「あ、僕も寝ます。流石に、ちょっと今日は疲れたので……」


 そう言って、タツさんとブレくんの二人は自分のテント(タツさんは猫用の籠?)に入って、早速、寝に入ったんですけど!


 いや、待って! 食事は!?


 フレーバーだからってこんなにあっさり寝に入れるものなの!?


 私がひっそりとショックを受けていると、肉を両手に持ったミサキちゃんがやってくる。


「たまにモンスターからドロップする食材に興味があった。焼く?」

「ミサキちゃぁぁぁん……!」


 歳のせいかな。


 ミサキちゃんに縋り付いてちょっとだけ泣いてしまった。


 私、今回、これだけが楽しみで凄い準備してきたってのもあるんだけど、一人でも味方がいることがこんなにも心強いものだなんて知らなかったよ!


 だから、今回はミサキちゃんの期待に応えられるように頑張るね!


「おや、どうかしたのかい?」

「あら、良いお肉ですね。今日はそれでお夕飯ですか?」


 あぁ、ここにも味方がいた!


 そうだよね! ゴブ蔵さんたちはNPCだから、私たちのように食事はフレーバーとかってわけじゃないもんね!


 ゴブ蔵さんたちのためにも、ちょっと本気で頑張っちゃうよ!


「ちょっと待っててね、ミサキちゃん! ゴブ蔵さん、イコさん! 今日は私……ちょっと本気を出します!」

「「「?」」」


 三人は良く分かっていない顔だけど、今日の私はキャンプ飯に全力だ!


 それだけ、嬉しかったというのもある!


 だけどね、それ以上に、私の初【魔神器創造】スキルの傑作を見てもらいたかったんだ!


 さぁ、特と御覧ごろうじろ!


 これこそ本邦初公開、私が【魔神器創造】で作ったキャンプ道具その1だー!


 どしんっ!


 私が【収納】から取り出したのは、巨大なバーベキューコンロ!


 それが、砂煙を立てながら現れる様子を、三人がポカーンと見ている。


「これが、私の本気です!」


 リアクションがないので、もう一度言ってみる。


 あれ、なんでリアクションがないの?


「普通のバーベキューコンロ?」


 ミサキちゃんが確かめるように言ってくるが、違う、そうじゃない!


「ミサキちゃんはバーベキューの経験は?」

「あんまりない」

「じゃあ、焼肉の経験は?」

「一人焼肉に行くタイプ」


 友達いないのかな?


 私が言えた義理じゃないけど。


「じゃあ、焼肉で考えて? 沢山のお肉を焼いてると、油が火に落ちたりして火が燃え盛って、網が焦げたりすることあるよね?」

「あるある」

「それが、肉にくっついて苦かったり、ガリっとしたり、嫌な思いをしたことはありませんか?」

「ぶっちゃけある」

「しかし、なんとこのバーベキューコンロ! 一切、焼き網が焦げが付きません! いつまでも新品! 焦げが肉に付くこともない!」

「おー」


 【浄化草】と【魔鉄】を元に創り出したバーベキューコンロは、焦げの汚れの付着を許さず、むしろ、焦げを吸収して熱放射のエネルギーに変えるエコ設計! 小さな魔力エネルギーで動く燃費の良さも魅力だ!


「しかも、このバーベキューコンロは温度管理もここにあるボタンひとつで楽々! 炭の必要もありません!」

「便利」

「でも、ちょーっと待って下さい。これだけじゃないんです!」

「まだ何かある?」


 何か口調がテレビショッピングみたいになっちゃってるけど、仕方ないね! 私、深夜のテレビショッピング見るの好きだったし! どうしてもそういう口調になっちゃうんだよ!


「例えば、誰が焼いたか分からない野菜! また、おしゃべりに夢中になっていって、お肉が焦げちゃった! ……とか、ありますよね!」

「おしゃべりする人いない」


 ブレくん! ミサキちゃんと一緒に焼肉に行ってあげてー!


 ここは、リズムを優先してスルー。


 ゴメン、ミサキちゃん。私にその心の闇は払えないよ……。


「でも、このバーベキューコンロならお肉やお野菜の焼き加減を自動で検知! 丁度良く焼けていたら、それ以上の加熱は致しません!」

「むむ、すごい」

「あらあら、それだったらのんびり食べられるねぇ」

「えらい機能じゃのう」

「しかも、このバーベキューコンロは炭火を使わずに魔力で焼くので、炭の後片付けなどに手間を取られることもありません! 更に、更に、肉や野菜を焼いた時に出る煙も吸い込んでくれるので、セーフティエリアの外で使ってもモンスターを呼び寄せる心配がない安心設計なのです!」

「画期的」


 ミサキちゃんから拍手をもらってしまった。


 悪くないね!


 私の天職は実演販売員だった?


 いえ、ただの生産職ですが何か?


「で、す、が!」

「「「?」」」

「バーベキューというと、「焼くのは簡単だけど、準備がねぇ……」という方もいらっしゃると思います! そこで取り出したるは、私の本気発明その2、スーパーフードプロセッサーだー!」

「「「おー……?」」」


 わかってない感じで三人に拍手を受ける。


 だが、その拍手はすぐに喝采へと変わるだろう! 私にはその未来が見える!


「このフードプロセッサー、硬い野菜や果物を粉砕するだけではございません! 例えば、新鮮な食材! ミサキちゃん、お肉頂くね?」

「ん」


 ミサキちゃんからもらったお肉をフードプロセッサーに入れて、スイッチを押してっと。


「バーベキュー用に厚切りステーキ」


 そう伝えただけで、あら不思議。


 フードプロセッサーの下の出口から、厚切りステーキサイズにカットされたお肉が次々と皿の上に盛られていくよ!


「この通り! 言葉で伝えるだけで望むサイズにカットされた食材が出てくるのです! もちろん、食材の皮むきをしなくちゃならないなんて面倒なことは一切必要ありません! 全て自動でやってくれます! これなら、包丁を握るのが不安なあなたにもピッタリ!」

「お爺さん、アレ買いません?」

「どうじゃろうなぁ。非売品じゃないかのう」


 そう、残念だけど、今は非売品だ。だって、素材が結構特殊なのが多いんだもん!


 ミレーネさんに交渉して何とか手に入れたものばっかりだからね! 


 簡単に生産できない以上、気楽に売りには出せないよ!


「もちろん、このフードプロセッサーはバーベキューにも対応! バーベキュー串と言って、材料を入れるだけで……」


 【収納】から取り出した、お野菜と肉を入れてあげると――。


「はい、この通り、串に刺さった状態で出てきます!」

「「「おー」」」


 さっきより関心が高まった感じかな?


 ちょっとだけ、声に熱が籠もっている気がするよ!


「じゃあ、そろそろバーベキュー始める?」


 言いつつ、ミサキちゃん、もう肉焼き始めてるじゃん!


 肉食系女子だねー。


「最後にひとつ。これ!」


 私はそう言って、【収納】から縦長の箱を取り出すと、その場に設置する。


「お肉の油で口の中がギトギトになるかと思います! だけど、そんな時もこれがあれば大丈夫! その名もドリンクボックス!」


 本当は、ジュークボックスとかけて、ジュースボックスとかにしたかったんだけど、思った以上に種類が増えちゃって、泣く泣くドリンクボックスって名前にしたよ!


「これは、水を原料にお茶からお酒、更にはツケダレまで、水物なら何でも出してくれるドリンクサーバーだよ!」

「なんじゃと!? 酒もか!?」

「お爺さん、はしゃぎ過ぎですよ」


 今日一でゴブ蔵さんの反応がいい。さては、イケルクチだね?


「有名焼肉店のタレも出る?」

「もちろん」

「むふ」


 ミサキちゃんはミサキちゃんで本当に焼肉が好きなんだねぇ。まぁ、こだわりがあるのは良いことだと思うよ。


「私はこんなにお酒の種類があると困っちゃうねぇ……」

「じゃあ、私と同じ梅酒にしましょうか」

「そうかい? それじゃあ、それでお願いしようかねぇ」


 というわけで、イコさんは私と同じで鶯○梅エクストラだ。普通の居酒屋で出てくる梅酒よりも味が濃厚で私は気に入っている。それをロックで。


 ゴブ蔵さんは、まずは肉にはビール派らしいよ。体育会系って感じだね!


 そして、ミサキちゃんは鉄観音茶。もしかすると、まだお酒は飲めない歳なのかもしれないね。


 というわけで、それぞれのグラスに飲み物を注いで、私たちはバーベキューコンロを囲んでグラスを掲げ持つ。


「それじゃあ、本日も頑張りましたってことで――カンパイっ!」

「「「乾杯ー!」」」


 さぁて、食べて飲んで楽しむぞぉ!


 今回のエリアボス挑戦は、これを楽しみにして準備してきたといっても過言じゃないからね! 食材だって沢山持ってきてるし、はしゃぐぞー!

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