第27話
■□■
「こっちは片付いた! ブレ、三秒後に
「おけ! 3、2、1――【パリィ】!」
コンフュージョンボアとかいう、巨大な猪の頭を円盾でかち上げ、ブレくんが下がったところに、ミサキちゃんが入る。
【パリィ】は防御系のスキル。
普通は、相手の攻撃に合わせて使うことで、相手の攻撃を弾いて、攻撃の勢いを止めたりするのに使うんだけど、ブレくんはそれを『相手に隙を作り出す技』として使ってるね。
仰け反った状態のコンフュージョンボアが何もできないことをいいことに、代わったミサキちゃんが一気に攻撃を叩き込んで、コンフュージョンボアのHPを削る。
「若い子たちは元気があってえぇのう」
「ほんにねぇ、お爺さん」
御者台でゴブ蔵さんたちと並んで座り(私のデンドロ○ウム馬車は御者台も大きいのだ)、お茶を飲んでいた私もブレくんたちの鮮やかな手並みに思わず息を呑んじゃうよ。
なんか凄い!
「しとめきれない!
仰け反りが終わるタイミングでミサキちゃんが下がり、今度はそれと入れ替わるようにしてブレくんが前に出ようとするが、それよりも先に、一条の炎の槍がコンフュージョンボアを貫いて、ボアは一瞬でその場でポリゴンとなって消えてしまう。
「あー、要らんかったか?」
馬車の天井部で寝転んだままのタツさんが、余計なことしたかなーとちょっと困惑気味の顔を見せるけど、確かに余計だったかもね。
「いえ。ありです」
でも、ペコリと頭を下げるミサキちゃん。
ミサキちゃんの下がったタイミングにドンピシャで【ファイアーストライク】を合わせたタツさんだったけど、まぁ、時間短縮には良いんじゃない? ってくらいで、多分、ブレくんとミサキちゃんだけでも簡単に終わっていた気がする。
それにしても、パーティーでの初戦闘は簡単に終わったね。
意外なくらいスムーズに勝利した気がする。
私は全く関わってないけどね!
あまつさえ、お爺さんたちと一緒にお茶とお煎餅を頂いてましたけどもね!
「あー、タツさん? ゴブリン三匹にコンフュージョンボア一体って、それなりに強い編成だよね?」
「まぁ、そこそこやな」
タツさんに言わせるとそこそこらしい。
私だったらアタフタして、何か良く分からない内に終わってそうだ。
それにしても、他人の戦闘を初めてまじまじと見たけど、緊張感が半端じゃないね。
やっぱり、命が懸かってるから本気度が違うというか、運営もこういうことをやって欲しかったのかなと不本意ながらも、ちょっと納得できてしまったよ……。
みんな普通に真剣なんだよね。
思わず、轢き逃げアターックとかやってる自分を恥じてしまったよ……。
「あ、怪我ない? 回復するよー」
というわけで、戦闘も終わったので回復タイム。
HPに余裕があっても、痛いと動きが鈍るからね。こういうことはこまめにしないと。
そして、それはブレくんもミサキちゃんも分かっているのか、素直に並ぶ。
「はいはい、【ヒールライト】、【ヒールライト】」
「そんなに連発してMP大丈夫?」
「馬車で座ってると自動回復が促進されるから大丈夫、大丈夫」
ミサキちゃんに心配されるけど、問題ないことをアピール。
本当は、MPが2000を越えてるので、消費MPが7の【ヒールライト】なんて200回唱えても何ともないんだけど、一応、怪しまれないように理由付けはしておくよ。
「なんか、その種族スキルズルい……」
「その代わり、尖ってる部分もあるからね?」
死の宣告をちゃんと二十四時間以内に行わないと私自身が即死するとかいうマイナス条件もあるし、ただ便利なだけのスキルじゃないんだよねぇ。
まぁ、気をつけてれば便利に使えるから、羨まれるのも仕方ないのかもしれないけど。
「大丈夫じゃよ、お嬢ちゃん」
不満に頬を膨らませるミサキちゃんに救いの手を差し伸べたのはゴブ蔵さんだ。優しい笑顔のままに言葉を続ける。
「バンシーにはバンシーの良いところがあるからのう。それを引き出せるようになれば、お嬢ちゃんも十分強くなれるじゃろうて」
「バンシーの良いところ……?」
考え込むミサキちゃんだけど……。
そもそも、ミサキちゃんってバンシーだったんだね。
そういえば、チュートリアルの時に金切り声をあげていた気がするよ。あれが種族スキルなのかな?
魔術の種類にはなかった気がするし、そうなのかも。
それにしても、ゴブ蔵さん……。
「良くミサキちゃんがバンシーだって分かりましたね?」
「そこは、年の功じゃよ。長く生きておれば、色々と知っとることも増えるというものじゃ」
「嫌ですよ、お爺さん。この間、お昼ごはん食べたの忘れてたじゃないですか」
「あぁ、そうじゃったっけ? これは一本取られたのう」
朗らかに笑うゴブ蔵さんとイコさん。
まさにおしどり夫婦って感じだけど。
…………。
「まぁ、いいか」
何か変な違和感があるんだけど、私に直接関わってくるような話じゃなければ、気にしなくても良いよね。
■□■
「ちょっと休憩にしませんか……?」
最初に音を上げたのは、馬車の前を歩き、常に先陣を切って戦っていたブレくんだった。
移動開始から三時間。
間断なくやってくるモンスターたちをちぎっては投げ、ちぎっては投げとやっていたが、流石に集中力も限界のようだ。
ブレくんが肩を落としながら馬車に近付いてくる。
「というか、タツさん、最初に言ってませんでしたっけ? 街道沿いはそんなにモンスターが出てこないんじゃないかって? すっごい頻度で出てくるんですけど?」
「モンスターが出てこんとは言ってへんよ? モンスターが弱いとは言ったかもしれへんけど」
「この街道って、こんなにモンスターが出てくるものなの?」
私も気になって、思わず聞いてしまう。
さっきから、五分に一度くらいのペースで出続けているように感じられたからだ。
確かに、少し街道から外れれば森があるし、モンスターが出てきやすい環境だとは思うけど、森の奥の方でもこんなに頻繁にはモンスターには出会わない。
出現率のバグを疑うほどだ。
ちょっと
何なんだろうね、一体。
「街道はモンスター出現率低いはずなんやけどなぁ。今日に限ってはそうでもないみたいや」
「いつもと比べて、モンスターの出現数が多過ぎますよ! そのせいで、ほら! ハイエナの人たちもちぎれちゃってますし!」
そういえば、いつの間にか後ろをついてきてたはずのハイエナさんたちがいないね。
「でも、今は落ち着いた」
ミサキちゃんが言うように、ハイエナさんたちの姿が見えなくなってから、モンスターの出現率も急激に下がったように思える。
だから、こうして、先行していたブレくんたちも馬車まで戻ってきて、愚痴を言いに来れたんだもんね。
「人が大勢集まっておったから、なんじゃなんじゃと集まってきたんじゃないかのう」
「お爺さん、お祭りじゃないんですから」
「あー、もしかしたら、街道を通る人数に応じて、モンスターの数もバランスをとってポップアップさせてるかもしれんなぁ」
「ブーッ!?」
タツさんの言葉に思わず口に含んでいたお茶を噴き出しちゃったよ。
いや、もう【バランス】って言葉を聞くと条件反射で過剰に反応しちゃう私がいるんだよ!
もはや、
勘弁してよ!
「なんや、ヤマちゃん、お茶噴き出して。ワイそんなオモロイこと言った覚えはないで?」
「いや、ちょっとお茶が気管に入っちゃって……」
まぁ、流石の【バランス】さんでも、モンスターのポップ数にまで作用しないでしょ。
もし、そんなことが出来たら、たったひとつのユニークスキルがシステム面にまでガッツリ食い込んでるってことだしね。ナイナイ。
…………。
普通にガッツリ食い込んでるんだよなぁ……!
勝手にスキルレベル上げたり、勝手に新流派立ち上げちゃったり……どう考えてもシステムに悪影響を及ぼしてるし!
じゃあ、街道にいつもよりもモンスターが多く出てくるのも、【バランス】さんの仕事?
いや、それは偶然とか、システム的にそういうアルゴリズムになってるとか、全てを【バランス】さんの仕事にしちゃいけないと思うんだよね。
はぁ、と心を落ち着けて、再度お茶を飲む。
はー。苦味が心を落ち着けてくれるわー。
「というか、遭遇するモンスターもおかしいんですよ」
「普通は一種類の群れ」
「なのに、今回会うモンスターは強いのと弱いのでセットで現れて……まるで、強さのバランスを取ってるかのようで――」
「ブフォゥッ!?」
思い切り【バランス】さんの仕事じゃん!
そこまで徹底して調整してくるのは【バランス】さんしかいないよ!
おかげで、飲もうとしていたお茶をまた吐いちゃったじゃない! どうしてくれるのさ!?
「ヤマちゃん、お茶飲みすぎや。体が拒否反応起こしとるで」
違うよ! 拒否反応起こしてるのは、【バランス】さんにだよ!
「ヤマちゃんもこんな調子やからな。しゃあない、少し休むか。道程も三分の二は消化しとるし、問題ないやろ。あと少し進んで、地下迷宮の入口まで行ったら、今日は野営するでー」
野営、野営かぁ……。
…………。
「野営でなんか【バランス】とることってないよね?」
「何のバランスとるねん?」
だよねー。
でも、私は油断しない!
【バランス】さんは油断しているとやってくるということを、今回良く知ったからだ!
というか、徐々にやり口が巧妙になってない?
やるなら、もう少し分かりやすい【バランス】のとり方でお願いします! 【バランス】さん!
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