第25話
■□■
それから、三十分くらいゴブ蔵さんとイコさんとのんびりと話をしていたら、冒険者ギルドの入口からタツさんが現れた。
そして、タツさんの後ろから付かず離れずの距離で、二人の魔物の姿も見える。
あれが、今回パーティーを組むメンバーかな?
私は【隠形】を解除すると、ゆっくりと立ち上がる。
「すみません。連れが来ましたので失礼しますね」
「あら、そうなの? お茶美味しかったわ。ごちそうさま」
「婆さんが迷惑をかけてしまったようですまんのう。何の依頼をやるかは分からんが、依頼が上手くいくことを願っておるよ」
ニコニコと笑顔で見送る二人に軽く手を振りながら、私はこっちに気付いたらしい、タツさんと合流する。
「もしかして、その鎧の感じ、ヤマちゃんか?」
あー、サークレットにヴェールが付いてるせいで、私だと分からないかー。
「そうだよ。愛しのヤマちゃんだよ」
「なんや。待たせてもうたか。すまんな」
小ボケを挟んだのに華麗にスルーを決めるタツさん。やりおる。
「まぁいいよ。特に時間とか指定してなかったし。のんびりと待たせてもらったおかげで素敵な出会いもあったしね。それで? そっちの二人が今回パーティーを組む二人かな?」
「よ、よろしくお願いします!」
「しくよろ」
一人は礼儀正しい感じのゾンビで、もう一人は言葉少なめの黒髪長髪の艶めかしい感じの女の子……。
あれ? どこかで見たことがあるような?
「ヤマちゃんも初めて会ったってわけやないが紹介しとくわ。こっちのゾンビくんがブレイバくんで、女の子の方がミサキちゃんや」
うん。何となく知ってはいたけど、プレイヤーだよね? 流石にNPCじゃないよね?
ちなみに、ブレイバってことは、本名は勇気くんとかその辺りかな?
しかし、どこで見たんだったけっかなー。
私がヴェールの下で悩んでいると、ブレイバくんも同じように悩んだ顔を見せる。そして、おもむろに口を開くと、
「あのー、前に一度どこかでお会いしませんでしたかね?」
口説き文句みたいなことを言い出した。
それを見かねたのか、ミサキちゃんが怖い顔で、ブレイバくんの脇腹に肘鉄を入れる。
うん、普通に体重の乗った一撃だったね。
ブレイバくん、悶えてるよ。
「チュートリアルで会った人」
あー、ミサキちゃんの言葉で思い出したよ!
確かにチュートリアルで一緒になったゾンビくんと女の子だね。
ゲームを進めた結果か、装備も変わってたし、ちょっと気付かなかったよ!
ちなみに、ブレイバくんの装備は革の鎧に革の帽子に革の篭手に革の脛当てといったザ・地味って感じの印象。強そうな冒険者のイメージは欠片も湧かないモブ衣装って感じだね。
で、ミサキちゃんの装備もほぼ同じ。
まぁ、ミサキちゃんの方が美人さんだけあって、ブレイバくんよりは映えるけど、お揃いの感じが凄いね。
あ、でも、二人共武器はそれなりに良い物を持ってるのかな?
この辺の店売りの武器だと、ガガさん製作だろうからね。お値段相応には良い剣だと思うよ。
「今回、ヒーラーとして参加するヤマ――ちゃんです。二人共よろしくね」
思わず本当のプレイヤー名を名乗りそうになったけど、タツさんの『お前、やらかすんやないやろな?』って視線で、何とかやらかさなくて済んだよ。危な〜。
「えっと、ブレイバです。一応、前衛でタンクメインです」
「ミサキ。前衛アタッカー」
うん。聞いてた通りの構成。
私がタツさんにチラリと目を向けると、タツさんはちんまい肩をすくめてみせていた。
「雑魚戦メインやと、二枚アタッカーの方がはよ済むし、損害が少ないからな。割とようある編成なんやで」
「そうなんだ」
冒険者の事情とか全然知らないからね。そういうのがオーソドックスだと言われたら、そうなんだと返すしかないよ。
でも、多分、長期戦には向かないだろうなーというのは、私でも分かる。回復なしの殲滅スタイルなんて長続きしないのが、相場ってもんだしね!
「それじゃ、早速行く? フォーサイド?」
「待て待て、命懸かってるんやぞ? そうホイホイ行けるか! まずはきっちり作戦会議してからや!」
というわけで、四人で打ち合わせを行うことになったよ!
■□■
適当に席に座って、打ち合わせを開始すること三十分。
意外と細かいところまで打ち合わせていることにビックリしている私がいる。
冒険者ってこんなに用意周到なものなの?
まず始まったのが、各人で出来ることの確認。
ブレイバくんはメイン盾以外にアタッカーもできるし、少しなら【風魔術】で補助もできるらしい。
あと、ゾンビなので痛覚が鈍く、そこまで痛みも辛くないから、回復はミサキちゃん優先で良いって言われちゃったよ。
そのミサキちゃんは回避盾もできる速度重視のアタッカータイプで、
タツさんには、飛び込むタイミングで魔術を撃たないで欲しいみたいなことを言っているところをみると、誤射された経験でもあるのかな? それとも、飛び込むタイミングが独特なタイプ? それだと合わせにくいと思うけど、まぁ、タツさんなら問題ないでしょ。
で、タツさんの方は自由に移動する火力砲台で、本当に脆いから後ろに敵を通さないで欲しいってことをお願いしてるね。
それで、私なんだけど、一応、【光魔術】が使えることと各種回復アイテムの在庫があることぐらいは明かしておく。
今回はヒーラーとしての参加だからね。
あまり戦闘はできないふうに装っておくよ。
いや、でも実際に戦闘はできないんだよね。
リアルで武術とか習ってたわけじゃないし、ステータスの暴力に頼って暴れているだけだしね。
そんなことを思っていたら、
「ヤマちゃんのことはあんまり心配せんでえぇで。敵を後ろに通したとしても、自分で何とかするタイプやからな」
タツさんの信頼がやけに厚い件。
もしかして、EODってかなりヤバイ相手だったのかな? 今更ながらにそんなことを思う。
で、立ち回りや役割について話し終わったら、今度は持ち物チェックだ。
回復系のアイテムは揃っているか、野営の道具はあるのか、食料は持っていくのか、いかないのか。
これ。
私は凄いビックリしたんだけど、冒険者の中には食事はフレーバーだと割り切って、持っていかない人も結構いるみたい。
まぁ、その分、【収納袋】の枠が空くから、そこにドロップアイテムを積められるんで、儲けが『ボロい!』ってことなんだろうけど……。
私的にはすっかりこのゲームの料理の虜になっているから、持っていかないなんて選択肢は無いんだけどねー。
というわけで、散々抵抗した結果、個人の判断に任せるという形になりました。実質、勝利。イェーイ。
さて、持っていく物が決まって、その分担が済んだら、今度はルートの確認だ。ついでに出てくるモンスターの種類なんかも、みんなで確認していくよ。
「第四都市フォーザインに着くには、エヴィルグランデから、こう、森を北西に突っ切っていけばえぇ。基本的には街道が用意されとるらしいから、それに沿って真っ直ぐ行けば迷う心配はないやろな」
エヴィルグランデ近辺の地図を覗き込んだからか、一気にマップの黒い部分が白く埋まった。うん、地図って便利! 冒険者の方々は特に感動はないみたい。もう埋まってるのかな?
「街道に出てくるモンスターはどれくらいのレベルなんです?」
「森の浅層と同じレベルや。それぐらいなら、どうとでもなるやろ?」
まぁ、どうにもならないレベルなら、次のエリアを目指してないよね。
事実、ブレイバくんとミサキちゃんの目は自信に満ちあふれているように見えるよ。
「まぁ、森ん中は問題ないやろ。問題はフォーザイン地下迷宮の方や」
森を進んでいった後、岩山みたいな絵が地図に描かれてるんだけど、そこにバッテンが描かれているね。
どうやら、ここが地下迷宮の入口らしい。
なんかワクワクするね!
「地下迷宮のモンスターはとにかく硬いんや。物防が高いから普通の武器やとロクにダメージが通らんねん。せやから、地下迷宮ではワイの魔術メインで進むで。二人には主に敵の引き付け役を頼むことになると思うわ」
「そこに関しては、お願いします。でも、基本は極力戦わないで進むんですよね?」
「せやな。狙いはエリアボスや。わざわざ途中で消耗すんのもアホらしいやろ」
その辺はRPGの定石だよね。
ボス倒しに行くのに、レベル上げの勢いで敵と戦うようなことはしないもんね。
「まぁ、中には避けて通れん戦闘もあるやろうから、その時の話や。ちなみに、地下迷宮の地図は持っとる言うとったな?」
「買った」
私がキョトンとしていたら、
「フォーザインは地下迷宮の中にあんねん。せやから、地図屋でフォーザインまでの地図買うとダンジョン内の地図までオマケでついてくるんや」
とのこと。
なんかセット販売みたいだねぇ。
「ちょっと高かった」
「まぁ、フォーザインまで辿り着ければペイできる金額や。そう考えれば悪くないやろ」
そうかー。
フォーザインって街の名前はミレーネさんから聞いて知ってたけど、地下迷宮にある都市なんだね。
地下都市っていうと、最初に思いつくのがカッパドキアとかだけど、エヴィルグランデも私の予想を覆す黒いサクラダファミリアだったからねー。
どんな感じの都市なのか、今から楽しみだよー。
「ほんじゃ、地図見て、最短ルートの確認しよか」
「あ、タツさん」
「なんや、ブレ?」
「ブレ……」
「戦闘中にブレイバって呼びにくいやろ。せやから、ブレや。少なくともワイはそう呼ぶ。慣れといてな」
「ブレ……、ブレですか……? なんか色々ブレブレになりそうで嫌なんですけど……」
「大丈夫、ブレ。元気出す」
「ミサキちゃんまで!?」
今まで無表情だったミサキちゃんが急に生き生きしている。ブレくんを弄るのが楽しくて仕方ないのかな? この二人の関係も結構謎だよね。
あ。ちなみに、私もブレくん呼びでいくよ。
ブレイバとか言い難いし、さっきから何度も噛みそうになってるからね。私の舌の安全のために略させてもらうよ!
「そんで? なんや、ブレ? なんか気になっとるんか?」
「その、ロックリザードと遭遇した時はどうするのかなって……」
ロックリザード……。
どっかで聞いたことあるような気が……どこだったっけ?
「ワイの魔術で速攻沈められるようなら沈めたるわ。まぁ、無理そうなら逃げの一択やな」
あー。泥沼に沈めて、【ファイアーピラー】でトドメをさした奴だね。大したことないモンスター……。
「え、逃げる!? 何で!?」
思わず声に出しちゃったよ!
だって、超お手軽に倒せる相手じゃん!
それなのに逃げるの……?
すっごい疑問なんだけど……。
「ヤマちゃんは知らんかもしれんけどなぁ」
知らないどころか、戦ってますし、瞬殺してますよ――とは言えない私。
絶対にそんなこと言ったら、タツさんに呆れられるもん。
「ロックリザードはめっちゃ硬いから物理攻撃がほとんど効かんねん」
そうだっけ?
何か魔術に弱かったイメージはあるけど、その辺はどうだったか覚えてないなー。
「で、倒すには魔術しかないんやけど、魔術でドッカンドッカンやっとると、すぐに他の敵が集まってくるんや。せやから、すぐに倒せないと判断したんなら逃げるんが正解やと思う」
「そうなんだ……」
そんな強くないと思うし、瞬殺だと思うけど、今回はヒーラーだからね。あんまり攻撃方面には口出ししないよ! 空気の読める女なのだ、私は!
そんなこんなで更に打ち合わせること三十分。
いい加減に確認できるところは、確認しきったかなーといった頃合いになって、派手な音がギルド内で響く。
なになに、何事?
まさか、ついに冒険者登録に来たルーキーに絡んじゃうイベントきちゃう――!?
「うるせー! 無理なものは無理なんだよ!」
立ち上がって怒鳴る冒険者と、
「ゴブ蔵さん、大丈夫かい?」
「大丈夫じゃよ、イコさん……」
転ばされたのか、ギルドの床に倒れ込んでいるゴブ蔵さんと、それを案じて屈み込むイコさんの姿があったんだけど……。
え、ルーキーに絡みにいく展開はドコ……?
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