第24話

「うーん、どうしたものかなぁ……」


 やれることは増えたはずなんだけど、何もできないような手詰まり感。


 RPGで遊んでいると、ある程度まではサクサク進むんだけど、急にモンスターが強くなったり、装備が必要になって、強制的に足止め食らう感じあるよね?


 あの状況に似てるかも。


 どうしたものかなーと悩んでいたら、タツさんからチャットがきた。もちろん、出るよ!


「はろはろー、タツさん。どうかしたー?」

『ヤマちゃん、今大丈夫か?』

「大丈夫だよー」


 問題は沢山抱えてるけど、いますぐ爆発するようなものは少ないからね! 問題ナッシンだよ!


『ワイら、そろそろ次のエリアを目指そうかと思っとるんやけどー』

「ほむほむ」

『よかったら、ヤマちゃんもどうかなー思うてな』

「なるほど。次のエリアかぁ」


 次のエリアに行くためには、エリアボスを倒さないといけないんだっけ?


 確かに、一人でエリアボスと戦うのは、ちょっと不安があるんだよねー。


 何せ、痛みがリアルだからね。


 私のステータスがいくらエリアボスの攻撃力を上回っていようとも、ちょっとした攻撃の痛みに耐えかねて、悶えていたところをフルボッコにされるなんてことは普通にあると思うんだ。


 ただのゲームだったら、被弾覚悟で突っ込んで、HPを回復しようで済むんだけどね。


 このゲームは痛い攻撃は本当に痛いから、被弾覚悟で普通に戦えると考えたらダメだと思う。


 だから、タツさんからの誘いは、かなり有り難いものだ。タツさんが良ければ、こっちから頼みたいくらいだよ。


 だけど、タツさんはワイって言ったんだよねー。


 タツさんだけなら、悩むことなく即決したんだけど、知らない人たちとパーティーを組んで大丈夫かな?


「タツさんは、私のことと思うから良いけど、知らない人もいるんだよね?」

『あー、その辺は大丈夫や。ヤマちゃんには回復やってもらおう思とるからな。せやから、直接戦闘にはほとんど関わらないと思うで』


 なるほど。回復役かぁ。


 私は、【光魔術】も使えるし、【再生薬】や【ポーション】だって沢山持っている。


 それに、パーティーのサポートだってできる補助系の魔術だって習得してるしね。


 立ち回りに連携が必要だったりする物理アタッカーをやってくれって話だったら、断ろうかと思ってたけど、後ろで適度に回復するだけのヒーラーの役だったら引き受けてもいいかな?


 それに、そっちの方がヤマモトバレしなくて済みそうだしね。


「うーん。だったらいいよ。参加する」

『そうかぁ、助かるわー。こっちはちょい人数が足りなくて困っとったねん』


 タツさんから話を聞くと、今回のエリア攻略に参加するのは、私とタツさんを含めても四人だけなんだって。


 タツさんは普段は野良で、色んな人たちとパーティーを組んでやっていたりするんだけど、その二人は固定のパーティーメンバーでいつもやってるらしい。


 けど、悪い人ではないので、今回のエリア攻略の話を引き受けたってことだけど……。


「タツさんからした話じゃないんだ?」

『ワイは色んな人をサポートして、なるべくならこのゲームをデスゲームとしてやなく、楽しんでもらいたいと思うてるクチやからな。折角、開発時代から付き合ったゲームやのに、デスゲームのせいで、プレイヤーに胸糞な思い出しか残らんのは嫌やし……。そんなわけで攻略自体にはあんまり興味がないねん』


 そっか。


 そうだよね。


 多分、LIAは攻略されたら、至上最悪のゲームとして、もう二度と遊べなくなるゲームなんだ。


 だから、その時の思い出を悲しいものだけに塗り潰されるよりは、少しは楽しいこともあったんだって思えるようにしたいと考えるのは、タツさんらしいといえば、そうなのかも。


『その二人は、前々から次のエリアに行きたい思うてたらしいんやけど、やっぱり二人きりやと不安に思うたらしくてな。ギルドの連中の何人かに一緒に攻略せんかと声掛けて回ってたみたいやわ』

「でも、人数が集まらなかった?」

『せやな。まぁ、理由は様々にあるんやけどな……』


 曰く、レベルが足りない、装備が弱い、パーティー構成に不安、連携に疑問、などなど。


 普段から、二人だけでやっているせいか、その腕前に疑問を持たれたりして、そういう意味でも参加者がなかなか集まらなかったらしい。


「タツさんは、良く参加したねぇ」

『なんや、放っといたら二人きりで挑戦しそうな雰囲気やったからな。自殺者二人も出したらアカンやろ』

「自殺者って……。そんなに実力に問題があるの?」

『実力的には普通やろ。ただ、二人共前衛のアタッカーなんや。流石に回復役なしで突っ込むのは無茶やろ』


 なるほどねぇ。


 痛みがリアルなゲームの中で、ヒーラー無しはキツイよねぇ。


 だから、私に白羽の矢が立ったわけか。


 …………。


 いや、私、生産職なんですけども!


「いいよ、分かった。私、生産職だけどヒーラーやるよ。それで、いつ攻略するの?」

『EODを倒しといて、生産職言い張るんはもう無理ちゃう?』

「タツさん、私にこの話断らせたいの?」

『あー、ヤマちゃんの方も準備とかあるやろ? ワイも相手に説明せんとアカンから、明後日とかどうや?』


 タツさんが話の分かる人で良かった。


 それにしても、準備に一日も必要かな?


 あ、でも野営とかするかもだから、その辺の準備が必要かも?


 そういえば、私、外で寝泊まりすることがなかったから、その辺の装備がひとつもないよ。


 【魔神器創造】とかでキャンプ道具とか作って準備しようっと。MP1000払って作るキャンプ道具とか超豪華だね!


 というわけで、タツさんと打ち合わせた結果、一日を準備期間にあてて、明後日の朝一番で冒険者ギルドの一階で攻略メンバーと待ち合わせることになった!


 ちょっとドキドキだね!


 ■□■


 さて、エリア攻略に挑戦する当日。


 私は準備万端に整えて、冒険者ギルドへと向かった。


 準備万端とはいっても、手ぶらだけどね!


 普通のプレイヤーは、開始時に【収納袋】という格納道具ストレージを持ってスタートするんだ。


 その中には、百種類ほどのアイテムがストックできるんだけど、私の場合はその【収納袋】に加えて、スキルで【収納】も取得していたりする。


 【収納】のスキルの方は、スキルレベルにあわせてストックできるアイテムの数が増えたり、中のアイテムの時間経過が止まったりといった便利仕様。


 全体的に性能が【収納袋】よりも上なんだよねー。


 なので、スッゴイ重宝している。


 更に加えて、私には馬車とかいう、現在物置きになりつつある代物まで存在する。


 私が【調合】や【錬金術】、【鍛冶】のアイテムや素材を大量に抱え込みつつ、いつでも軽装なのは、その辺の収容能力がずば抜けていることが大きいのだろう。


 そんなこんなで、軽装のままに冒険者ギルドへと足を踏み入れる。


 ワクワクして朝早くに来たためか、酒場兼任の一階部分にはまだ人が少ない。


 変に絡まれるのも嫌だったので、【隠形】を発揮しつつ、私は誰も座っていない席に腰を下ろすよ。


 そのまま持ち込みの松葉茶を淹れて、のんびりと楽しむ。


 ガガさんの工房の近くに松が生えて(炭の材料なんだって)いたので、少し失敬してお茶っ葉にしてみたんだけど、香りが強くて苦味が若干強い感じかな? 美味しいってわけじゃないけど、口寂しい時には悪くない味だ。


 何よりゆっくり時間を潰すのには向いている。苦くてグビグビ飲めないからね。


 そうやって、のんびりと時間が過ぎるのを待っていたんだけど……。


 ――何故か、今はご老人二人と相席している。


「イコさんや、今日は良い天気じゃのう。行楽日和じゃあ」

「そうですねぇ、ゴブ蔵お爺さん」

「…………」


 いや、時間が経って、少しギルド内も混み始めてきたってのもあるよ?


 そして、そんな状況で【隠形】使ってたら、気付かずに同じ席に座られちゃうこともあるかもしれない。


 でも、彼ら、多分だけど私を認識してる。


 ニコニコと笑顔を崩していないけど、たまにチラリと私を見てくるんだもん。


 ちなみに、ゴブ蔵さんと呼ばれたお爺さんは、緑色の肌をした禿頭とくとうの人で、出で立ちが宇宙戦争のヨー○に似ている。一見ボロっぽい布切れを身に着けているのとか、まさにそれ。もしかしたら、デザイナーにファンがいるのかもしれないね。


 でも、名前がゴブ蔵さんだから、多分、ゴブリン種族なんだろうね。勘だけど。


 一方のイコと呼ばれたお婆さんは、頭にへにゃっとした犬耳? 狐耳? を生やした獣人の品の良い感じのお婆さんだ。真っ白でモシャモシャって感じの髪をしていて、顔は人間のお婆さんっぽく、服装は着物のようなものを着ている。


 うーん。このゲームでは、獣人は魔物認定なんだね。


 結構、人間種族に獣人を含めているゲームも多いから、ちょっと驚いちゃったよ。


 まぁ、狼男ワーウルフを運営が人間と見るか、魔物と見るかで、その辺の扱いは変わってくるとは思うんだけど……。


 そんなイコさんの視線は、さっきから私の飲む松葉茶に釘付けだ。


 もしかしたら、お茶の香りに気づいて、私の【隠形】を見破ったのかもしれない。


 獣人って鼻も良さそうだしね。


 しかし、こうして、ずーっと見られていると飲みにくいなぁ。


 なので、ちょっと聞いてみる。


「あのー、もしよかったら、お茶どうですか?」

「あら、良いの? 嬉しいわ、ありがとう」

「これこれ、イコさんや。若人わこうどにタカるような真似はしちゃいけませんよ」

「いえいえ、大丈夫ですよ。何でしたら、そちらのお爺さんも如何です?」


 元手はタダだからね。


 何なら、ちょっと苦味が強くて、これからどうやって消費しようか悩んでいたぐらいだからね!


 飲んでくれるなら助かるよ!


「そうかい? それじゃったら、少しもらおうかのう」


 というわけで、三人で一服。


 なんだろう、この縁側でのんびりする感じ。


 いや、周りの景色的にはバーなんだけど、この周辺だけ憩いの空間が広がっている気がする。


「あら、懐かしい味ね、お爺さん」

「そうじゃなぁ。昔を思い出すのう、お婆さん」


 お茶を振る舞った二人も喜んでくれているようで何より。


 最悪、不味いって言われて、お茶をぶっかけられることまで想定していたからね。


 まぁ、そうなったら、躱すけど。


 ほんわか〜とした気持ちで時間を潰していると、何となく私に天啓が走る。


「もしかして、お二人がタツさんが言っていたパーティーを組むっていうメンバーの方々だったりします!?」

「「?」」


 全然違うみたい。


 …………。


 直感さん、仕事してよ!


 超恥ずかしいじゃん、私!

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