第12話

「嫌だぁ〜! 無理〜! 死んじゃう〜! 鉄鉱石取って来いって、ダンジョン行けってことでしょ〜! 私一人には荷が重すぎます〜! せめて、ガガさんも付いてきて〜!」

「うるせぇ、バカ! こっちは炭焼きで忙しいんだ! 場所は教えてやるからテメェで行け!」


 ゴネたけど駄目でした……。


 というわけで、翌日にはガガさんに追い出されるように、私は件のダンジョンに向かっています。


 どうも、ヤマモトです。


 いやー、無理だって言ったのにも関わらず、聞く耳持たず。


 というか、ろくに戦闘経験も無いのに、初ダンジョンにソロで挑むとかバカなの? こういうのせめてパーティーで挑むものじゃないの?


 ガガさんに聞いたら、今から向かう【水晶の洞窟】は三階層ぐらいのクソ雑魚ナメクジダンジョンだから、私ひとりでも十分余裕なんだってさ。E級冒険者でも死にはしないぐらい楽勝らしい。


 それでも! それでも、ソロアタックは何があるか分からないから怖いんだって! けど、私の心の叫びはガガさんには届かなかったみたい。


「とりあえず、モンスターに気付かれないように移動しよう……」


 本当は、湧いて出てくるモンスターをちぎっては投げ、ちぎっては投げしたいんだよ?


 でもさー、こんな森の奥深くだと、どれだけ強力なモンスターが出るか分からないじゃない? 無双してたら、いきなりドラゴンが出てきてガブリンチョな展開もあるわけだし……。


 というわけで、私は謙虚に行くことにしました。馬車も使わずに徒歩です。


 というか、木と木の間が狭すぎて、馬車で行くとなかなか大変そう。オブジェクト破壊しまくってまで目立ちたくはないのです!


 鬱蒼と生い茂る草花を掻き分けて進むこと三十分。まぁ、行き掛けの駄賃ついでに、色々と植物系のアイテムも手に入れちゃうけどね! 商業ギルドの生産系の依頼もやること忘れてないしー!


 まぁ、とにかく、そんなことをしながらも、ようやく目的地に到着。


 突如、木々が途切れたと思ったら、目の前には人工的に作ったのかと思える程の垂直な崖。その崖の一部にぽっかりと人一人が通れるような穴が開いている。


 マップと照らし合わせて見ても、あそこで間違いなさそう。


 なら、早速といきたいところだけど。


「何かいる……」


 森の中では、幸運にもモンスターとの遭遇は無かったんだけど、ダンジョンの入口近くにデッカいトカゲが日光浴でもしているのか寝転んでるよ……。しかも、頭上にZzz……マークが出てる……。


 トカゲなのかな? 【鑑定】してみよう。


 あ、【鑑定】スキルだけど、よくよく書いてあるテキストを確認してみたら、【鑑定】成功時には相手に【鑑定】されたことを悟らせないって書いてあった。


 なので、ここは相手の対策を練るためにも使ってみようと思う。


 一応、バレた時のことを考えて、木の陰からコッソリとだけどね。


 ▶???を【鑑定】します。

 ▶【鑑定】に成功しました。


 名前 (名無し)

 種族 ロックリザード

 性別 ♂

 年齢 ■歳

 LV ■

 HP 580/580

 MP ■/■


 物攻 47

 魔攻 23

 物防 ■

 魔防 22

 体力 58

 敏捷 19

 直感 ■

 精神 ■

 運命 ■

 

 ユニークスキル (無し)

 種族スキル 【石喰い】

 コモンスキル 【噛みつき】【■■】【硬化】


 うーん。【鑑定】のスキルがまだLv3だからか、読めない部分があるね。


 でも、そこまで強い相手ではなさそう?


 特に魔法防御が弱そうだから、魔法で攻めれば割と簡単に倒せるんじゃないかな。


「ふふふ、昨日、ダンジョンに行くと決まって慌てて考えた必殺コンボを今こそ試す時!」


 私は木の陰から堂々と姿を現すと、こっそりとロックリザードに近付いていく。まぁ、寝ていて、油断もしてるから出来る芸当なんだけど……。


 それにしても、ロックリザードというのは、言い得て妙だね。


 皮膚というか、鱗? が大きな岩をゴロゴロ貼り付けたような感じになっていて、岩山で会ったら正直どこにいるのか分からないんじゃないかってレベルで小さな岩山です。


 そして、そんな岩山と取っ組み合いの喧嘩なんてする気はないからね。


 手早く終わらせてもらうよ!


「地の底に沈め! 【マッディ・グラウンド】!」


 私が片手を向けると同時に、ロックリザードの足元が泥沼化し、ロックリザードの巨体が徐々に地面に沈み込んでいく。


『グゥォォォ……!』


 【マッディ・グラウンド】は【土魔術】Lv3の魔術。効果時間は短いものの、相手の足元にいきなり泥沼を作り上げる魔術だ。


 設置型の魔術なので、相手の敏捷が高かったりすると抜け出されてしまう心配があるが、高耐久、低敏捷のロックリザード相手なら相性の良い魔術である。


 事実、眠りから目覚めたロックリザードが即座に暴れ始めるが、低敏捷のせいで泥沼から抜け出せないでいる。


 まさに、ここが攻め時!


「動けないところをトドメ! 【ファイアーピラー】!」


 これまた設置型の炎の柱がロックリザードを中心に置かれて、相手の体を燃え上がらせる。


 【ファイアーピラー】は【火魔術】Lv2の魔術で、Lv3の【ファイアーストライク】よりも実はトータルダメージが多い魔術だ。


 とはいえ、この魔術は設置型のため、一度範囲外に出られると、まともなダメージが出ないといった欠点もある。


 それを補う形で使えるのが、地形を味方に出来る【土魔術】というわけである。これで足さえ止めてしまえば、全段フルヒットも狙えると思い付いた時は、私は自分で自分の才能が怖くなったね。


 まさに天才の発想って奴ですよ!


 ……え、ありきたり?


 気の所為でしょ。あっはっは。


 ▶経験値168を獲得。

 ▶褒賞石52を獲得。

 ▶ロックリザードの鱗を獲得。

 ▶ロックリザードの牙を獲得。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石116を追加獲得。

 ▶ロックリザードの肉を獲得。


「うーん、ホーンラビットとは経験値の桁が違うね。強いモンスターだったりするのかな?」


 戦った感じは魔術二発で終わりだったし、手応えのようなものは全く感じなかったんだけど。


「ま、いっかー」


 それよりもダンジョンだ!


 初ダンジョン、緊張するなぁ……。


 人一人分の入口を抜けて、いざダンジョンへ!


 ▶【水晶の洞窟】


 視界に一瞬文字が浮かび、空気が変わる。


 さっきまではムシムシするような亜熱帯の空気だったのに、ここは少し寒気がするぐらいに涼しい空間だ。


 冷気というのかな?


 ちょっとした暗がりに入ったようなそんなゾクゾクとした寒さを感じる。


 洞窟的には、岩で出来た洞窟タイプ。


 ピチョン、ピチョン、とそこら中で音がするので、地下水とかが染み出していたりするのかもしれない。


 何にせよ、雰囲気も合わせて、ちょっと薄ら寒い感じだ。


「あ、アレ装備しないと」


【熟練のツルハシ】

 レア:2

 品質:普通

 耐久:200/200

 製作:ガガ

 性能:【採掘】Lv1

 備考:誰もが熟練者のように掘れるようになるツルハシ


 なんと、装備するだけでスキルが生えるツルハシですよ! これを持っていれば、私も【採掘】持ちですわ!


 というわけで、【採掘】のスキルが生えたからか、あちらこちらに採掘ポイントが見えるように……!


 どうやら、ほんのりと光っている部分にツルハシを打ち込めば、素材が取れるみたいだね。


「採掘王に私はなる!」


 とりあえず、一人でドン!としておきながら、片っ端から採掘ポイントを掘っていく。


 【採掘】のレベルがもう少し高ければ、一回のポイントで掘れる回数も増えるみたいなんだけど、現状はSP不足だし、そこは我慢かなぁ。


 というか、【細工】も【彫金】も【革細工】も欲しいし、ステータスに全SPをぶち込むんじゃなかったよ! あれだけ考えて使わないとダメだって思っていたのに、思い切り良すぎたね! 反省!


 悶えながらも洞窟を進んでいたら、第一モンスターと遭遇。


 不定形でドロドロの水の塊……。


 これは、かの有名なスライムさんでは?


 ▶???を【鑑定】します。

 ▶【鑑定】に成功しました。


 名前 (名無し)

 種族 スライム

 性別 無し

 年齢 ■歳

 LV ■

 HP 20/20

 MP ■/■


 物攻 5

 魔攻 5

 物防 ■

 魔防 7

 体力 2

 敏捷 2

 直感 ■

 精神 ■

 運命 ■

 

 ユニークスキル (無し)

 種族スキル 【分裂】【吸収】

 コモンスキル 【溶解液】


 うーん、弱い!


 ガガさんが、クソ雑魚ナメクジとか言っていたけど、その通りのモンスターだね。一応、スキルは特殊な感じだから、気を付けるとしたら、その辺かな?


「【ファイアーボール】」


 ▶経験値7を獲得。

 ▶褒賞石5を獲得。

 ▶スライムの核を獲得。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石2を追加獲得。


 魔術で出来た火球をぶち当てたら、一瞬で蒸発してしまった件。


 これは、セオリー通り、物理には滅法強くて、魔法には弱いみたいな奴かな?


 戦いやすくて、有り難くはあるんだけど、経験値も欲しいからなぁ。


 そんな事を考えながら、一本道を進んでいると、やがて開けた空間に足を踏み入れる。


「うぁ、綺麗……」


 私の目の前に広がったのは大きな地底湖。


 その湖面が不規則に揺れながら、キラキラと光っている。


 何かと思ったら、洞窟の上に水晶がびっしりと生えていて、それが何処からか入ってくる太陽の光を乱反射させて、シャンデリアのように光ってるんだね。


 それを湖面が映し出す姿は、まるで地上に出来た星空だ。お酒と一緒にこんな景色を見ながら口説かれたら、ちょっとクラクラきちゃうかもしれない――それだけ美しい景色が、目の前に広がっていた。


 私がその光景に思わず見惚れていると、


 ▶【バランス】が発動しました。

 モンスターの出現バランスを調整します。


 ゴゴゴ、といきなり洞窟全体が揺れ始める。


 え? 何? 嫌な予感しかしないんですけど?


 そして、こういう時の予感は当たっちゃうもので――、


 ザバーン、と地底湖から水晶で出来た巨大な腕が出てきたかと思うと、それ以上に長い水晶で出来た首が出てくる。


 うん、どう見てもボスモンスター的な奴です……。


「でかっ!」


 全身に水晶が生えたドラゴン――……私が、そいつを見た感想である。


 あのー、ガガさん? こんなの出るとは聞いてませんよ?


 と、とりあえず、【鑑定】してみよう。


 ▶???を【鑑定】します。

 ▶【鑑定】に失敗しました。


 あ。絶対アカン奴だ、コレ……。

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