第13話

『ヒュオオオォォォォ……!』


 仮称、クリスタルドラゴンとしておこう。


 それに、絶賛威嚇されているヤマモトです。


 こんにちは。


 うん、クリスタルでキラキラなドラゴンさんは、完全に私のことを敵としてロックオンしているね。もう話し合いとか出来る雰囲気でもないです。


 出会い頭の【鑑定】も悪かったのかなぁ?


 でも、モンスターにマナーって? って感じだし。


 こうなれば、戦うのみ……か?


 【熟練のツルハシ】を【収納】でしまい、愛用のロングソードを取り出す。


 まぁ、魔術主体の私が接近戦なんて挑むわけがないけど、雰囲気って大事だよね!


 というわけで、さして何か立派なやり取りもなく戦闘開始!


 クリスタルドラゴンさんが大口を開けて迫ってくる中、私は移動しながら【ファイアーストライク】を連打。これが一番弾速が早いし、クールタイムが早い魔術だから選択したんだけど、当たりはするものの、ダメージ自体は少なそう。


 クリスタルドラゴンさんは、怯むモーションも見せずに突っ込んでくる。


 大口を開けたまま、私を喰らおうとするクリスタルドラゴンさんだけど、私はその動きを難なく躱す。


 どうやら、直感や敏捷は私の方が圧倒的に上のようだね。正直、あんなとろい動きだったら、いくらでも躱せそうだよ。


 馬鹿みたいに突っ込んできては、私に距離を取られて魔術でダメージを食らうクリスタルドラゴンさん。しかし、それを何度か繰り返していたら、クリスタルドラゴンさんの動きが変わる。


 前脚でドシンドシンと地面を叩き始めたかと思うと、頭上からいきなり大量のクリスタルが降ってきたんですけども!?


「これは、流石に避け――……ちょっと、そこに突進はズルいでしょー!?」


 スチール製の掃除用具入れに閉じ込められたままで、全力で放り投げられたら、こうなるの? ――って衝撃。


 とりあえず、頭が取れないように懸命に片手で押さえながら、後方へ錐揉みしながら吹き飛ばされる!


 地面に激しく叩きつけられて、思わず「ぐぇっ」て声が出ちゃったよ……。


 ヤバい、泣きそう……。


 これだけ痛いのは、いつ以来よ……。


「ひ、【ヒールライト】……」


 光のシャワーを浴びながら、私は在りし日の記憶を思い出す。


 あれは、親友だと思っていた子から、「私が○○君のこと好きだって知ってたくせに、最低!」と罵られ、思い切り平手打ちを食らった時以来の衝撃だ。


 あの時は目から星が飛んだが、今もそれぐらいの衝撃があった。


 というか、アンタ! 私に好きな子の話なんて一度もした事なかったじゃん!? なんで、その○○君を私がフッただけでビンタされなきゃなんないのさ!?


 思えば、アレがキッカケでクラスでも孤立し始めたように思う。それから、すぐに無視とイジメが始まったような……?


 いや、でも、今思い出してみても、何で私が殴られたのか、全く理解出来ないんだけど!?


「あぁ、もう! 痛みで動揺しちゃってるのか! しっかりしろ、私!」


 何か色々とフラッシュバックしちゃったよ!


 そして、【ヒールライト】が終わるよりも早く、クリスタルドラゴンさんが反転して、尻尾で攻撃しようとしてくる。ギャー!


 躱す時間がない!? 耐えるしかない!?


 両腕を上げて、ガードを固めようとした瞬間、私の脳裏にピキーンとインスピレーションが走る。


「下から上に受け流ーす!」


 高速で迫ってきた巨大な尾を、まさに掬い上げるようにして、私はタイミング良く上へと放り上げる!


 よっぽどタイミングが合っていたのか、超高速で迫ってきた尾はそのまま私を越えて、彼方へと飛んでいったよ。


 これは、直感パラメーターさんの仕事!?


 良い仕事するじゃない!


 尻尾があらぬ軌道をとったせいか、体勢を崩すクリスタルドラゴンさんを前にして、私はロングソードを片手に、その後ろ脚に斬りつける。


「とりゃー!」


 ギギン!


 金属同士がぶつかるような嫌な音!


 思わず耳を塞ぎたくなるが、我慢して二撃、三撃と加える。


 だけど、効かない!


「もう体勢を立て直し始めてる!? 強過ぎィ!」


 そして、クリスタルドラゴンさんの動きも早い。


 私はロングソードを【収納】にしまい込むと、今度は【熟練のツルハシ】を取り出す。


 そして、それをクリスタルドラゴンさんの水晶状の鱗に引っ掛けると、一気に背中へと跳び乗った。


 普通ならこんなこと出来ないけど、【バランス】さんがバランスを取る仕事をしてくれている! こういう普通のことも出来る【バランス】さん、素敵!


「ヘッヘッヘ、背中に馬乗りになって滅多刺しよぉ……」


 悪役みたいな台詞を吐き出しながら、改めてクリスタルドラゴンさんの背中を見渡してみると――、


 一面が、採掘ポイント!?


 何で!? でも、悔しい! 採掘しちゃう!


「採掘王に私はなる!」


 採掘王の血が騒いでしまった私は、クリスタルドラゴンさんの背でロデオをしながらも、手早く採掘ポイントを掘っていく。


 ここでも【バランス】さんが大活躍! フッフッフ、今の私はちょっとやそっと揺らされたくらいじゃ落ちないぜー!


 そして、ウヒョー! 素材の宝庫最高ー!


 あ。


 気付いたら、クリスタルドラゴンさんの背中は森林伐採が酷い禿山のようになっていた。


「一体、誰がこんな酷い事を!」


 そう。私です。


 そんな事を言いながらも、武器をロングソードに持ち替えて、クリスタルが無くなったドラゴンさんの背中を滅多刺し!


 ダメージエフェクトが派手に飛び散り、さっきよりも明らかにダメージの通りが良くなっている。


 もう、あと一歩! と頑張っていると、クリスタルドラゴンさんが最後の力を振り絞って、私を背中から放り出す。


 抗えない!


 というか、システム的に強制的に放り出された感じ? 


 だけど、【バランス】さんが機能して、私は猫のように華麗に着地! 十点満点!


「ちぇー、そう簡単にはいかないかぁ」


 とか思っていたら、クリスタルドラゴンさんが地底湖の方に戻ろうとしている。いやいやいや! 地底湖に逃げられたら、私としては攻撃手段がありませんので、逃しませんよ!


「逃がすかぁ! 【馬車召喚】! あんど轢き逃げアターック!」


 デンド○ビウムでドリフトを決めながら、クリスタルドラゴンさんを弾き飛ばして、その巨体を地底湖から引き離す。


 無敵のセーフティエリアの頑丈さをなめんなよ!


 それに怒ったのか、クリスタルドラゴンさんが二本脚で立ち上がって威嚇しようとするが、私の方が早い。


「頭が高ーいっ! 喰らえ! 大★切★ざーん!」


 加速する馬車から、馬車の屋根を踏み台にして、上空へと跳び、大上段からの唐竹割りをクリスタルドラゴンさんの頭に叩き込む!


 私の攻撃が轟音と共にヒットすると、クリティカルでも入ったのか、派手なエフェクトが飛び散って、クリスタルドラゴンさんの頭が地面に激しく叩きつけられた。


「よっしゃー! ……あ、スタン状態」


 クリスタルドラゴンさんの頭上に可愛らしいヒヨコマークが飛んでいるのが見える。


 これは、大チャンス到来!?


「一気呵成に攻めたててやるー!」


 クリスタルドラゴンさんが動けなくなったことを良いことに、ここぞとばかりに【ファイアーピラー】を複数設置しながら、ロングソードで散々頭をぶっ叩く!


 剣術とか持ってないから、完全に力まかせだけど気にしない!


 いい加減、終わってー!? と私が思い始めたところで、クリスタルドラゴンさんの体から激しい光が……!


 私は警戒して跳び下がるが、どうやら杞憂だったっぽい?


 光が弾けるようにして散ったと思ったら、クリスタルドラゴンさんの体が宙に溶けるようにして、スーッと消えていく。


 そして、後に残るのは静かな洞窟に響く水の音……。


「勝った……?」


 途中、ひやりとしたが、何とか勝った?


 勝った、みたい……?


「勝ったぁ……」


 そう思ったら、全身から力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。


 うぅ、怖かった……。


 死ぬかと思った……。


 ガガさんの馬鹿! やっぱりダンジョンは一人で行くもんじゃないんだよ! 危うく死ぬところだったんだからね!


<プレイヤー:【ヤマモト】の手によって、EOD『クリスタルドラゴン』が退治されました。>


 ▶EOD『クリスタルドラゴン』を初討伐しました。

  SP10が追加されます。


 ▶EOD『クリスタルドラゴン』をソロ討伐しました。

  SP5が追加されます。


 ▶称号【竜殺し】を獲得しました。

  SP5が追加されます。


 ▶経験値10240を獲得。

 ▶褒賞石8252を獲得。

 ▶水晶竜の宝珠を獲得。

 ▶水晶竜の鱗を獲得。

 ▶水晶竜の牙を獲得。

 ▶水晶竜の爪を獲得。

 ▶ヤマモトはレベルが4上がりました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石1988を追加獲得。

 ▶水晶竜の角を追加獲得。

 ▶水晶竜の尾を追加獲得。

 ▶水晶竜の逆鱗を追加獲得。


「流石はバランスさんだねぇ……」


 レアなアイテムであろうと、ドロップ率を完全無視して全種類をバランス良く揃えてくれるとか、相変わらずとんでもないスキルだよ。


 私がノホホンと構えていたのはそこまでだった。


 ▶【バランス】が発動しました。

  戦闘技術のバランスを調整します。


 ▶武術流派に【ヤマモト流】が誕生しました。

 ▶【ヤマモト流】を取得しました。

 ▶【ヤマモト流】に【轢き逃げアタック】が登録されました。

 ▶【ヤマモト流】に【採掘王に私はなる】が登録されました。

 ▶【ヤマモト流】に【大★切★ざーん】が登録されました。



「え、いや、何て……?」


 【バランス】さんが発動して、貰える褒賞石が増えたり、アイテムが多くもらえたりするのは想定内。


 だけど、何? 【ヤマモト流】って?


 え、【バランス】さん、ちょっと待って?


 私は慌ててステータスを呼び出すと、コモンスキルを確認する。


「ある……。【ヤマモト流】……。何か生えてる……」


====================

【ヤマモト流】

 既存の体系のいずれにも属さない自由な攻撃流派。攻撃アシスト系のスキルを持たない場合にのみ、この流派を会得出来る。

 

 ※あなたが宗主です。スキル取得者が会得できる技をあなたは任意で登録できます。


 Lv1 【轢き逃げアタック】

 Lv2 【採掘王に私はなる】

 Lv3 【大★切★ざーん】

====================


「何これぇぇぇぇ!?」


 とりあえず、【大★切★ざーん】は、【大★切★斬】にスキル名を変えてっと……違う、そうじゃない!


「あれか! 私の攻撃方法が自由過ぎて、既存のスキルデータと全く合致しないから、【バランス】さんが既存のスキルデータ群とバランスを調整して、私の戦い方をスキルのひとつとして、体系化させちゃったの!?」


 バランスさんは、基本はより大きいものとバランスをとって、小さいものを大きいものに引き上げる特徴がある。


 そう。例えば、経験値と褒賞石の関係とかね。


 今回も多分そのケース。


 沢山のスキル群と、私が使った自由な攻撃……普通なら私の攻撃はスキルとも呼べないシロモノなんだけど、バランスさんに言わせると、特殊攻撃のくせにスキルに分類されないのは気持ちが悪かったみたい。


 なので、バランス調整した結果、私の特殊攻撃はスキルとして成立しちゃった……?


 まぁ、そういうものとして認識するしか……。


「いや、やっぱり、このユニークスキルおかしいよ!?」


 認識できるものにも限度があるよ!


 絶対、このスキルおかしいから!


 とりあえず、地底湖に向かって思い切り「おかしいからぁぁぁぁ!」って叫んだら落ち着いた。


 ふぅ、現状を把握しよう。


「受けたダメージは、回復魔術の効果もあってほぼなし? そんなに攻撃力が高くないモンスターだったのかな? 凄く強そう……っていうか、強かったんだけど」


 そして、私のアイテム袋には大量の【水晶鋼】とかいう見たことも聞いたこともないアイテムが入っているよ。


 多分、クリスタルドラゴンさんの背中を丸裸にした時に【採掘】したものっぽいね。


 あとは、クリスタルドラゴンさんのドロップアイテムが多数。


 でも、そんなに数が無いから、迂闊に生産作業で使えなさそうかな。ここぞってところで使うべき? でも、私、意志が弱いしなー。


「まぁ、今はとりあえず、採掘の続きでもしよっと。そもそも、【鉄のインゴット】が作れないし……」


 そう。クリスタルドラゴンさん関連のアイテムは大量に手に入ったんだけど、肝心の【鉄鉱石】が全然足りていないのだ。


 私は【熟練のツルハシ】を【収納】から取り出すと、いつの間にか復活している複数の採掘ポイントを見つめながら、新たに取得したスキルを発動する。


「【採掘王に私はなる】!」


 ガガガガガガ!


「おぉう、スッゴ……」


 一瞬で、目に見える範囲の採掘ポイントが全て【採掘】完了したんですが。


 これが戦闘用スキルという頭のおかしさよ! 超便利スキルじゃん!


「うんうん。ヤマモト流は生産者に便利な流派を目指していくのだ!」


 一人、うんうん頷いていたら、視界の端に突然のチャットのお知らせ。


 ちょっと、ビクゥッとなりつつも、特に相手を確認もせずに通話許可ボタンを押す。


「はろはろー、タツさん? 何〜? お金の無心〜?」


 そう、私のフレンドってまだタツさんしかいないからね! 名前なんて確認しなくても、タツさんだって分かってたよ! ちょっと悲しいね! 畜生!


『いや、ヤマちゃん、何やっとんの!』

「何って……【採掘】だけど?」

『いや、今、ワールドアナウンスでヤマちゃんの名前が出てたで! 何か、EOD倒したとか何とか……』


 いや、そんな事言われましても……。


 とりあえず、タツさんにワールドアナウンスに自分の名前が出ないようにする方法を教えてもらった。これで、今後、私が何かしてもワールドアナウンスされないから安心だ。


 というか、私の名前がワールドアナウンスに流れたってことは、私、有名人?


 何か顔を隠すアイテムとか作った方がいいかなぁ?


『で? 何やったん?』


 顔を隠す前に、タツさんには洗いざらい吐いて、色々と巻き込ませてもらいましょうかねー。

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