第9話

「あら、早かったわね。……もう出来たの!?」


 手順としては、時間を守って同じ事を繰り返すだけだったので、作業自体はサクサクと進んだ。結局、最終的には十六本の【初級ポーション】を持って、ミレーネさんに話しかけたら、先の台詞だ。


 しげしげとポーションの品質を確認されるが、落ち度はないはず。


 ドキドキとしながら待っていると、ミレーネさんは満面の笑みで片手で丸を作ってくれる。


 それって……。


「オッケーよ。品質にも問題なし。貴女が商業ギルドの会員となることを認めましょう」

「やった!」

「そういえば、名前を聞いてなかったわね。私はミレーネ。ギルドの副会長をしているわ。貴女は?」


 まぁ、お互いに知ってはいると思うけどね。あっちは【鑑定】で、こっちは依頼の方で、互いの名前を知っている。でも、だからと言って名乗らないというのは、無粋ってもんですよ!


「ヤマモトです」

「そう、ヤマモトね。それじゃ、ギルドカードを発行するから、ちょっと待っていてね」


 というわけで、三分ほど待たされた後に、鉄で出来たギルドカードを渡されたよ。おー、ドッグタグみたい! 格好いい!


「仮の入場許可証はこちらで返しておくわね。それじゃ、簡単にギルドの説明をするけど良いかしら?」


 どたぷーんと胸を揺らしながら、ミレーネさんが説明する。


 もしかしたら、悪さをした新人くんって男の子で、ミレーネさんのにやられて、適当に依頼を受けちゃったクチだったりして。だとしたら、ミレーネさんも相当の悪女だよねぇ。


 さて、ミレーネさんの説明によると、この鉄のギルドカードはE級を示す印なんだそうだ。


 ギルドのランクが上がる度に、鉄(E)→銅(D)→銀(C)→金(B)→ミスリル(A)→アダマンタイト(特級)にギルドカードの種類が変わるらしい。


 最高のランクは特級ランクといって、記載上はA級よりも上。


 ただ、実力によるランクというよりも生産者を纏める立場の者に、国から与えられるような名誉ランクなので、凄腕の生産者となるとA級の生産者がそれに該当するらしい。


 ちなみに、過去にはS級生産者というのもいたらしいけど、今はいないようだ。


「何で、S級生産者はいないんですか?」

「S級っていうのは、A級の生産者で国の危機を何度も救ったとか、国民の生活を改善するような革命的な道具を何個も作ったとか、経済援助や外交で国が傾くのを救ったとかで頂けるランクなの。今は魔王国も安定しているし、そう簡単に授与されるようなランクじゃないのよ」


 そういうことらしい。


 で、このランクを上げるには、基本的にギルドの依頼を受けるか、店や露店などを開いて売り上げを上げていくと、勝手にランクが上がっていくそうだ。


「上納金とか納めないといけない感じですか?」

「そのへんは、ギルドカードを持っていると勝手に納められていくから大丈夫。ヤマモトちゃんは勝手に作って売っていれば問題ないわよ。でも、ランクを手っ取り早く上げるには、ギルドの依頼を受けた方が早いわね」


 いつの間にか、みかじめ料を払うことになっていた件。


 詳しく聞くと、売上の何%かが勝手に上納金として吸い上げられていっちゃうみたいね。ほとんど税金レベルのものなので、引かれている側もあまり気にならないわよ、とミレーネさんは言っているが、滅茶苦茶気にするタイプなんです、私! 小市民だからね!


「あぁ、そういえば、先程の【初級ポーション】納品依頼の代金を渡してなかったわね」

「貰えるんですか?」


 ギルドカードが依頼報酬だと思っていたから、貰えることにびっくりだ。


「元々、失踪した新人クンの未完了依頼だったからね〜。勿論、完了に応じた報酬は用意してあるわよ。というか、依頼主から依頼料も取っているし。報酬までガメるわけにはいかないでしょう?」


 まぁ、ギルドで報酬の二重取りはダメだよねぇ。


 というわけで、ミレーネさんから報酬を受け取る。


 ▶ミレーネの依頼を完遂しました。


 ▶褒賞石500を獲得。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶経験値500を追加獲得。


 ▶ヤマモトはレベルが2上がりました。


「ふぁっ!?」

「なぁに、変な声出して?」

「い、いえ、ちょっと予想より多く頂いたので!」


 【バランス】さん、そのいきなりの不意打ちは卑怯ですよ!?


 というか、私の場合って、褒賞石を手に入れたら、同時に経験値も手に入る仕様なの?


 それだと、街の外に出てモンスターと戦う必要ないよね?


 いや、むしろ、有り難い……?


 痛覚設定が最大値の現在、腕を切り落とされれば、リアルに腕を切り落とされる痛みが伴うという。


 そんな状況で、果たしてまともに戦えるのかは疑問……というか、私には無理!


 腕が落とされたら、痛くてショック死してしまうレベルで無理だ!


 だから、レベル上げの為に、街の外にモンスターを倒しに行くのは嫌だなぁと思っていたのである。


 それが、街の中で依頼をこなすだけで、安全に経験値が上がるとは……。


 【バランス】さん、あなたは私の救世主かもしれないよ!


「【初級ポーション】って、一本50褒賞石もするんですね?」

「店売りだともっと高いわよ。100ぐらいで売られてるんじゃないかしら?」


 2倍も違うんかい!


 何か、ギルドに納品して損した気分だ……。


 それだったら、自分で露店販売した方が儲けは大きかったような……。


「あー、その顔は露店で売った方が儲けられたのにーって顔ねぇ?」

「い、いえ、そんなことは別に……」


 何故バレたし!


「まぁ、儲けを出すなら、それが早いし、手っ取り早いでしょうねぇ」

「え? いいんですか?」

「ここは、商業ギルドよ。ギルド会員じゃないなら、いざ知らず、会員が儲けるのを止める謂れはないわ」


 そりゃそうか。


 ギルド会員の儲けの何割かは、ギルドが接収しているんだもん。わざわざ儲けるなとは言わないか。


「けどまぁ、前途有望であるヤマモトちゃんがちまちまと小銭稼ぎに邁進する姿も見たくないから、ひとつヒントをあげましょうか」

「ヒント?」

「そうね。この商業ギルドでは、一階にこの受付や調合室、錬金施室があるんだけど、二階以降は資料室になっているのよ。で、その資料室には、D級以上でないと入れないようになっているの。そして、ランクが上がるたびに、更に上の階に〜って仕組みね。……で、上の階には、【中級ポーション】や【上級ポーション】といったレシピがあるわけよ」


 それって、ランクが上がれば上がるほど、高ランクアイテムのレシピが覚えられるってこと?


「その中には、【蘇生薬】のレシビもありますか?」

「勿論、B級会員になれれば確認出来るわ」


 【蘇生薬】でB級なのか……。


 でも、これは朗報。


 LIAがデスゲームになってしまった以上、誰もが【蘇生薬】は喉から手が出るほど欲しいはず。それを販売することが出来れば、ウッハウハですよ! ウッハウハ! ムフフ、笑いが止まらなくなる体験したいです!


「ランクの高いアイテムは、お値段も相応のものになってくる。【初級ポーション】でせこせこ稼いでいた金額なんて、それこそ雀の涙程度だって気付くはずよ」


 なるほど。


 当初の予定では、ワールドマーケット機能で【初級ポーション】を売って、プレイヤー相手に稼ぐ予定だったけど、それだとギルドのランクを上げるのには効率的じゃない。


 まぁ、初期の褒賞石集めには優位かもしれないけど、そのせいで後の大きな儲けを逃す可能性があるってことだよね。


 多分、これに気付いている生産者は、今、死に物狂いでギルドのクエストを消化しているはず……。そして、より良いアイテムを作り出して、オークションに流して、稼ぎを出そうとしているに違いない! くっ、私も負けられない……!


「ミレーネさん、依頼の掲示板って、あそこにある奴で合ってる!?」

「お、やる気の目になったわね。嫌いじゃないわよ、そういうの? そうね、そこの三つの掲示板の一番左の奴がE級の依頼よ。そこの依頼をこなしていけば、勝手に作れるレシピが増えるように、私が計算して貼り出してあるわ」


 初心者育成も考えて依頼を用意してるとか、やっぱりミレーネさんってかなりやり手なんじゃあ……。


 でもまぁ、道が用意されているっていうのなら、それを利用しない手はないね!


「ちなみに、【調合】や【錬金術】の素材ってギルドで買えたりします?」

「沢山買ってくれるなら、割り引きで売ったりするわよ♪」


 やっぱり、ミレーネさんはやり手だ!


 私がそれに気付くように、わざわざギルドで素材を用意してくれたんだろうな、多分。


「ミレーネさん」

「何かしら?」

「私、ノンストップでランク上げちゃいますけど、他のギルド員にやっかみとか買いません?」

「平気よー」


 そう言うと、ミレーネさんは実に優しい笑顔で微笑んでみせていた。


「このギルドの高ランクの人たちって、皆、そんな感じで上り詰めていったんだから。わざわざ新人に文句なんて言わないわよー」


 そうかー。そうなのかー。


 ふふふ、熱いじゃん! 商業ギルド!


 ■□■


 私がミレーネさんに啖呵を切ってから、二週間が経過した。


「はい、コレがD級のギルド証ね」

「ありがとうございます!」


 ……長かった! 本当に長かった!


 クエストボードの依頼を片っ端から引っ剥がしては、毎日遅くまで調合室と錬金室に籠もる日々。


 特に、私は、私の我儘で【調合】と【錬金】を同時並行で進めていたから、D級になるまでのノルマ数が通常の二倍くらい掛かっているんだよね。


 ミレーネさん曰く、D級になるには、一定の金額がギルドに納められることと、特定の依頼を完了させることが条件になるらしく、私はその特定の依頼を最後の最後まで残していたから遅くなったのだ。


 いや、だって、依頼をクリアすることで調合とか錬金のレシピが取得出来るんだよ? そりゃ、全部クリアしてから、次の段階に移りたいじゃない?


 というわけで、人よりも数をこなしながら、活動時間を限界ギリギリまで引き伸ばして頑張った結果、何とか二週間という時間でD級というランクに届いたのである。


 なお、タツさんの周囲では、早い者で一週間でD級冒険者になる者が出てきたらしいよ! 私の半分の時間だ! くそー!


 ちなみに、タツさんはD級開始なので、C級にはまだ実績が足りないらしくて、頑張っているらしい。まぁ、無理はしないで欲しいけど、そこはタツさんの自由だからねぇ。


 というわけで、二週間頑張った私のステータスがこちら。


 名前 ヤマモト

 種族 ディラハン(妖精)

 性別 ♀

 年齢 0歳

 LV 11

 HP 470/470

 MP 470/470

 SP 38


 物攻 59(+12)

 魔攻 47

 物防 62(+15)

 魔防 60(+13)

 体力 47

 敏捷 47

 直感 47

 精神 47

 運命 47


 ユニークスキル 【バランス】

 種族スキル 【馬車召喚】

 コモンスキル 【鍛冶】Lv3/ 【錬金術】Lv3/ 【調合】Lv3/【鑑定】Lv3/ 【収納】Lv3/【火魔術】Lv3/【水魔術】Lv3/【風魔術】Lv3/【土魔術】Lv3/ 【光魔術】Lv3/ 【闇魔術】Lv3/ 【料理】Lv3


 うん。色々とオールマイティーな要塞になりつつあるよ。


 硬い、早い、強い、魔法も強い、魔法にも強い、運も良い――なんだ、このバグキャラ? って感じだね。


 しかも、一回も街の外に出て戦っていないというね。


 多分、攻略トップの人のステータスと比べたら、その人の得意分野では負けると思うんだ。でも、総合を考えたら、かなりヤバイ状態になっていると思うんだよね。


 だって、レベルが上がると、普通の人はランダムで物攻とか、体力とかが、2上がるんだけどさ、私の場合は【バランス】さんが突出するのを許さないから、全てのパラメーターが2上がっちゃうんだ。


 つまり、普通の人の9レベル分のレベルアップを1レベルのレベルアップで済ませていることになるんだよね。だから、今は11レベルなんだけど、実際には91レベルぐらいの強さはあるんじゃないかなーとは思うのよ。


 ただ、ステータスを平たく積んでいる状態だから、特化している相手には勝てないってことで……。


 ちなみに、各種スキルがレベル3になっているのは、【調合】と【錬金術】を頑張った結果だよ。


 このスキルたちも、【バランス】のせいで、どれかひとつでも上がると、一斉にレベルアップするから、【調合】と【錬金術】が別々の経験値テーブルで管理されていないというか、他の人よりも苦労しないで、全てのスキルを育てられている次第です。


 けどまぁ、そんなお手軽にスキルが育っている(【バランス】のせいで勝手に育った)せいで、自分のスキルに何があるのか、きちんと把握出来ていない部分があるのが何とも。


 時間をとって、ちゃんと確認したいとは思うんだけどねー。


 特に、魔術系とか一回だけ目を通したぐらいだから、実戦で使えるかは甚だ不安。うん、そろそろ実戦もやるべきかな?


「とりあえず、これでヤマモトちゃんは、晴れてD級のギルド会員になりました。それと同時に商業ギルドの二階の資料が閲覧出来るようになります」

「はい」

「一応、資料室の資料は持ち出し不可なので、必要なレシピなんかがあったりしたら、メモに取るとかしてね? あと、私語厳禁だから、他の利用者の迷惑になるようなことはしないで頂戴ね」

「はい、分かりました」


 何というか、図書館みたいだね。


 というわけで、早速、商業ギルド二階の資料室に行く私。


 あー、ここまで辿り着くのに、本当に辛かったわー。その分、ワクワク感も半端じゃない! 期待!


 二階の資料室に辿り着くと、背の高い本棚が整然と並んでいる。そして、一角には資料を読むスペースかな? 長机がポツンと置いてある。


(あっ、珍しい。人がいる……)


 私が商業ギルドの一階で生産活動を行っていた時も、時折は人が通っていたのは見てたけど、基本的には商業ギルドって人の往来が少ないんだよね。


 まぁ、皆、町中で店とか露店とかを開いていて忙しいでしょうし? 生産施設もここよりも設備が整っているものが街中にはあるらしくって、ベテラン生産者はそっちの方を使っているらしいし?


 つまり、ここの施設を使っているのは、私みたいな駆け出しだけってことだね!


 というか、魔物プレイヤーで生産をやろうっていう新規の人が全然いないんですけど? それとも、私が見てないところでミレーネさんが断っているのかなぁ?


 うーん。


 まぁ、今はそんなことはどうでも良いか! レシピ漁りを楽しもうっと!


 本棚の間を歩いていると、沢山のヒントマークが浮かんでくる。どうやら、このヒントマークが浮かんでいるところの本が読めるようだ。


 私は特に意識することなく、一冊を選ぶとパラパラと中身を確認していく。


 これは、【万能薬】の作り方かな?


 麻痺とか、睡眠とかの状態異常を解除する薬らしいけど、材料には今までに使ったことのない素材の名前が載っている。流石、D級だねぇ。【調合】もワンランク進んだ感じかな?


 ▶【万能薬】のレシピを取得しました。


 五分ぐらい目を通していたら、そんなアナウンスが聞こえてきた。


 どうやら、レシピの本は内容全てに目を通さなくても、重要な部分が理解出来れば、【調合】や【錬金術】のレシピとして登録出来るらしい。


 こうなれば、片っ端からレシピを覚えてやるー! と、気合を入れて、次の本を読んだのだけど……。


 ▶【鉄鎖丸】のレシピを取得しました。

 

 ▶【バランス】が発動しました。

 D級ランクで取得出来る【調合】レシピのバランスを調整します。

 ▶D級ランクで取得出来る【調合】のレシピを全て取得しました。


 ▶【バランス】が発動しました。

 D級ランクで取得出来る【錬金術】レシピのバランスを調整します。

 ▶D級ランクで取得出来る【錬金術】のレシピを全て取得しました。

 

 …………。


 【バランス】さん、さぁ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る