第6話
リリカ教官曰く、魔術はSP使わなくても、図書館で魔術書を一定時間読んでいれば、覚えるらしいと聞いて、マーリン君が身悶えている。
うん。彼、普通に【火魔術】と【闇魔術】取っていたもんね。SP的には、8も損したことになるんだから、身悶えもするよね。
かくいう私も、SP4も損している。ガッカリだよ。
「スキルの中には、時間を掛けて鍛錬することで修得できるものも多い。時間は掛かるが、それらの時間はきっとお前たちを高みに導いてくれるはずだ! また、修得したスキルもより使い込んでいくことで、より洗練されていく! 有名なところだと、魔術の腕が一定以上に上がると、魔法が使えるようになるとかだな。腕を上げたいのなら、とにかく精進あるのみだ!」
なるほど。
何でもかんでもSPを使って、スキルを取る必要もないと。やっていれば、勝手にスキルとして生えてくるものもあるみたい。
そういうことは、もっと早く言って欲しかったなぁ。
あぁ、でも、それを説明するためのチュートリアルだから、寄り道していないで早く来いということなのか。
あと、リリカ教官の話で印象的だったのは、魔術の属性の話。
このLIAでは、各属性によって得意不得意があるらしくって、例えば【火魔術】は相手を攻撃する魔術が多いんだけど、逆に回復とかは出来なかったり、【水魔術】は防御力方面を強化することが得意なんだけど、攻撃魔術がほとんどないとか、そういった感じ。
で、リリカ教官が言うには――、
【火魔術】は攻撃力が高く、範囲攻撃が多いので、攻撃系の魔術師は必ず取得している。
【水魔術】は防御に長けていて、安定した戦い方が出来て、地形効果とかにも強い。補助系の魔術師が良く取得するらしい。
【風魔術】は、敏捷を強化することが得意で、命中、回避、手数が増えるので、戦闘を早く終わらせるのに便利。スピード型の前衛職や補助系の魔術師が取得することが多いみたい。
【土魔術】は、相手を妨害するのが得意で、岩壁やら、泥沼やら、砂地やらを作って、戦術的な戦い方を強いるので、軍事系の職に付いている人とか、頭の良い魔術師が取得している場合が多いらしい。
【光魔術】は傷の回復、状態異常の回復とかが得意。でも、抵抗を上げたりするのは【水魔術】の方が上だったりする。回復魔術師御用達の魔術だってさ。
【闇魔術】は、相手の魔法抵抗を下げたり、相手の視界を奪ったり、呪ったりと嫌がらせ満載の魔術で、絡め手が好きな魔術師と、攻撃系の魔術師がデバフ目的で良く取るらしい。
うん、ここまでの話で良くわかるように、どういった役割を目指すかで、修得する魔術は絞らないといけないんだ。
例えば、回復を一手に担う回復魔術師なら、【水魔術】と【光魔術】の二種に絞ったりとかさ。バフ専門なら【水魔術】と【風魔術】といった感じで……。
まぁ、何が言いたいかと言うと、私みたいに全属性揃えている人がほとんどいないっぽいんだよねー。
というか、パッと見、素人丸出しのビルドのように見える……。
いや、これやったの私じゃないんですけど? そして、下手に【鑑定】されたら、笑われるの私じゃん。
…………。
今後も【鑑定】を弾けるくらいには、強くなっておこうっと……。
■□■
「さて、それでは、次は実技指導を行う!」
ようやく机上での説明が終わったと思ったら、今度は冒険者ギルドの地下にある訓練場とやらに移動して、指導を行うらしい。空間的には、体育館程はあるんだけど、周りに何人か人がいてやり辛いね。
「冒険者登録をする者は、ここで良い動きが見せられれば、いきなりD級冒険者からの開始となるからな! 頑張れよ!」
いや、D級とか言われても良く分からないんですけど?
なので、タツさんに聞いたところ、普通は下っ端のE級から始まるらしい。
「E級は採取とか、荷運びとか、そういうのをメインでやる冒険者なんや。街に知り合いを作ったり、近場の地理を覚えさせたりと初心者さんに少しでも知識を付けさせるようなクエストがぎょーさんある感じやで」
「良いことじゃない。何がいけないの?」
「冒険者=モンスターを倒すみたいなイメージがあるからなぁ。出来れば、お使いまがいの仕事をすっ飛ばして、モンスターとだけ戦いたいっちゅー奴は、Dを目指すんや」
「そうなんだ。タツさんもそうなの?」
「ワイか? ワイはどっちでもえぇかな。どっちに転んでも、まぁまぁ楽しめそうやし」
「そういうの大事だよねー」
私とタツさんが話している間にも、一人目の吸血鬼くんがリリカ教官に片手で攻撃を受け止められて、すぐさま投げられている。
全力で殴りにいったけど、通用しなかったって感じかな?
「攻撃力は良し! だが、その遅さでは早いモンスターには一撃も当てられずにやられてしまうぞ! もっと、敏捷や直感を鍛えるんだ! では、次!」
物理攻撃に特化したビルドにしてるのかな? まぁ、そのおかげで、敏捷や直感を疎かにするのは頂けないけど。
そして、二番手はゾンビの子だ。
彼は剣を構えて、摺り足でジリジリと近付いていく。
何か慣れた感じだし、剣道でも習っていたんだろうか?
それでも、簡単にリリカ教官に躱されて、足を掬われている辺り、相手にもなってないね……。
「一撃の鋭さは良し! だが、創意工夫が足りない! 誰もが正面から戦うと思うなよ!」
「……ッス」
「では、次!」
次はパーティードレスの女の子だ。
彼女はおもむろに口を開くと、唐突な金切り声を響かせる。それと、同時に衝撃波がリリカ教官に飛ぶ。
リリカ教官はその攻撃をギリギリで見切って躱すと、女の子が二撃目を撃つよりも早く近付き、女の子の首元にナイフを突き付けて終わらせた。
「うっ……」
「破壊力は素晴らしい。だが、スキルのクールタイムをどう乗り切るかは考えておかないとダメだ。よし、次!」
弱いモンスター相手だと、二の矢は必要なかっただろうしねぇ。そのへんは、考えてこなかったのだろう。女の子も思うところはあったのか、すごすごと訓練場の端に向かう。
次に出てきたのは、マーリン君だ。
彼は片手に杖を構えたまま、リリカ教官を前に微動だにしない。
「多分、クールタイムを気にして、魔術が撃てへんのやろなぁ」
「躱されたら、あの子の二の舞いだしねぇ」
とはいえ、これは訓練のようなものだ。
いつまでも動かないというわけにもいかない。
「どうしたぁ! 教官として、先手はそちらに譲る決まりがある! お前が動かないと、いつまで経っても終わらんぞ!」
「く、くそっ! 【ダークミスト】!」
マーリン君の声と共に、辺りが一瞬で黒い霧に覆われる。得意の【火魔術】じゃなくて、【闇魔術】で意表をついた形だ。
けど、黒い霧が晴れた時、マーリン君の姿はリリカ教官に片手で吊り上げられていた。何が起こったのだろう?
「お前は馬鹿か! 私の種族は闇を友とするサキュバスだぞ! 私に【闇魔術】は効かん! 魔術の効果をもっと良く考えるように! 次!」
「しゃあない。行ってくるわー」
「タツさん、頑張ってー」
私の声援を受けて張り切ったのか、タツさんがアクロバット飛行をかましながら、リリカ教官に【ファイアーボール】をばら撒いていく。あれって、明らかにスキルのクールタイムを無視しているように見えるんだけど、タツさんのユニークスキルなのかな?
まるで、爆撃のような攻撃だったけど、リリカ教官が翼を使って飛び始めたら、あっという間に形勢が逆転しちゃったよ。最後は、タツさんが白旗を上げる形で終了。リリカ教官ってば、強いね!
「お前は戦い方を既に確立しているな! その嫌らしさに磨きを掛ければ、お前の力は上位にも通じるだろう! よし、お前はD級から始めても良いぞ!」
「お。お墨付き貰えたわ。らっきー、らっきー」
「良かったねぇ〜」
「では、次!」
ん?
「あのー、私、生産職志望なんで、冒険者になる気はないんですけど? それでも、この実技指導を受けないといけないんでしょうか?」
「一応、規則で全員が受ける決まりになっている! 大丈夫だ、こちらも加減はする! だから、安心して掛かって来い!」
「安心して掛かって来いと言われましても……」
とりあえず、リリカ教官と対峙する位置に移動しながら、どうしようかと考える。
まぁ、こんな大勢の目の前で手の内を晒す必要もないよね。
というわけで、無手のままでリリカ教官に向けて駆けていく。
「教官、覚悟〜」
「ふっ」
苦笑と共に、リリカ教官の姿が視界から消えるが、何となく左側面に回られたことを感じ、慌てて反転する。
「うわっ!?」
「!?」
顔の目の前を蹴りが通過していく! 怖っ! そして、直感さん、仕事してるー!
いや、もう一発来る!?
私の直感が更にヤバいと告げてきている!
リリカ教官は、こちらに背を向けながら、独楽のように回転して、連続で後ろ回し蹴りを繰り出そうとしているみたいだ。それを私は背を反らしながら、何とか躱そうと頑張る。
「ひぇっ!」
「これもか!?」
リリカ教官の鋭い後ろ回し蹴りが反転中の私の鎧を僅かに掠り、その力が私の上半身を急激に加速させる。そして、そのまま、グルンっと回った腕が、蹴りを放った直後で硬直していたリリカ教官に直撃してしまう。もしかして、スキル硬直時間中だった?
「あっ」
「くっ!?」
ちょっと触れただけだと思ったのに、思った以上に威力があったのか、リリカ教官が予想外に吹き飛ぶ。
いや、リリカ教官がスキル硬直の最中だったから踏ん張れなかったんでしょうけども。それにしても、飛び過ぎですって……。
「あのー、大丈夫ですか……?」
「ふふ、攻撃力、直感、敏捷、運命力……全てが駆け出しとは思えない位置にあるな! よし、お前もD級から始めろ!」
「いや、私、生産職ですから!」
ケロリとした顔で立ち上がったリリカ教官だったが、また涼しい顔で爆弾を落とすし、もー……。
マーリン君と、吸血鬼っ子の睨み付ける視線が痛いんですってば!
「ふむ、冒険者になりたくなったら、すぐに冒険者ギルドにまで来い! 前途ある若者の登録はいつだって歓迎しよう!」
「あははは、今はその予定無いでーす」
リリカ教官の熱烈なラブコールを受けながらも、ギスギスした感じのチュートリアルは何とか終わるのであった。
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