第4話

 体力を27にまで上げたら、他のステータスも軒並み27に上がり、私のステータスは非の打ち所がない程にバランスの取れたものとなりました……。


 バランスって凄いね!


 どうも。孤独のステータス芸人ヤマモトです。


 なお、HPを上げて【ヒールライト】を唱えてみたら、普通にHPを回復出来たよ。


 やっぱり、このゲームではディラハンは妖精扱いということで間違いなさそう。


 というわけで、今度は油断せずに、辺りをところ構わず【鑑定】しまくりながら、森の中を進んでいる最中だったりする。


 目指すは、チュートリアルの受けられる街!


 そこで、今日はログアウトするナリー!


 ステータスの問題はどうしたかって? もう、考えるのもアホらしいので諦めたよ。


 どうせ、運営に報告してロールバックされる運命だし。考えないことにしたよ。


 ちなみに、【鑑定】しまくって移動しているのは、【調合】のスキルの配下に【ポーション作成】というスキルがあったんだけど、その素材に【薬草】が必要らしく、それを探しているためなんだよね。


 うん。多分、見ているとは思うんだけど、【鑑定】のレベルが低すぎて、その辺の野草を【鑑定】しても【草?】としか出てこないんだ。


 なので、絶賛、馬車の御者台に座りながら、スキルレベル上げの為に【鑑定】をしまくっている次第。


 なお、馬車は動いているけど、私は静止している状態なのでMPの自然回復速度が早く、MP切れということにはならない。


 まぁ、時折、モンスターが襲ってくるのでMPが常に全快というわけではないんだけど。


 あ、ちなみに私のレベルは3にまで上がりましたよ?


 フッフッフッ、恐怖の角兎(正式名はホーンラビットだった。まんまじゃん……)はどうしたかって?


 【土魔術】の【サンディソイル】が超有能だったんですわ!


 角兎の足場を【サンディソイル】で砂地にしてやったら、あからさまに突進出来なくなって、動きが鈍くなったんで、そこをちょっと分からせて上げましたよ?


 もう、角兎なんて目じゃないわ! ふはは!


 というか、ステータスが軒並み二倍近くに跳ね上がったから、そりゃ、雑魚兎に遅れなんて取りませんて。


 まぁ、相変わらず戦い方は不格好だけど。


 それでも、ステータスの暴力は正義って感じよねー。


「とりあえず、今日は街に着いてからログアウトかなー」


 森の中を彷徨うこと、既に六時間。


 いい加減、この陰鬱な景色にも飽き飽きしている。リアルと一緒だからこそ、飽きるのも同じくらい早いというのは、如何なものか。


 というか、そろそろ中世ヨーロッパ風の街並みが見たいわけですよ!


 というわけで、馬車をドリドリと走らせていたら――、


「ぎゃーす!?」


 まさか、人を轢くとは思ってもみなかったよ……。


 ■□■


 私が馬車で轢いたのは、小さな翼が生えたトカゲ?


 それとも、ドラゴンかな?


 それが、馬車で轢かれたせいか、スタン状態になって倒れている。


 なるほど。馬車で轢くと、相手にスタン状態が入るのか。これは、雑魚モンスター相手に轢き逃げ作戦も出来そうで何よりですな。


「とりあえず、証拠隠滅の為に、この小さなトカゲは埋めていくか……」

「おいぃっ!? 何怖いこと言うてんねん!?」


 チッ、どうやらスタンが解けてしまったようだ。じっくり観察なんてしてなきゃ良かった。


「何舌打ちしてんねん! 轢いといて、その態度はあんまりやろ!」

「まぁまぁ、トカゲさん。落ち着いて」

「トカゲちゃうわ! ドラゴンや! フェアリードラゴンっていうちっちゃなドラゴンさんや! 可愛いやろ!」

「自分で言う? 可愛いって?」


 それにしても、フェアリードラゴンって……。


 某国民的RPGでそんなモンスターいなかったっけ……?


「ちゅーか、アンタ、プレイヤーやろ」

「そうです。ロマンチックな出会い方をした私は、プレイヤーです」

「せやな。パンを咥えて、遅刻遅刻〜って急いで走っていたら、角から現れた馬車にドーン……って、一欠片もロマンチックちゃうわ! なめとんのか!」

「ノリいいですね」

「お前がやらせたんやろ!?」


 目を怒らせながら、こちらを見るちみドラゴン。


 うん。悔しいが、ぷりてぃ♪


「しかし、アンタ、顔いじり過ぎやろ……。どんだけ別嬪さんにしとんねん……」

「そりゃどうも。でも、顔は無修整ですので……残念!」

「馬車ぁ! 馬車をあんだけ弄っとる人間が、顔だけ無修整なわけあるかい!」


 なるほど。普通に考えれば、自分のアバターにだけデザイン的に手を抜くって考えはないか。


 いいね。それで押し切ろう。


 実際は武器防具と馬車と棺桶のデザインで力尽きたんだけどもね。


「馬車も無修整です」

「せやったら、ワイのドラゴンフェイスも無修整になるわ! って、何で対抗せなアカンねん! おかしいやろ!」


 第一絡まれプレイヤーがなかなか楽しい人な件。まぁ、嫌な人でなくて良かったよ。いきなり嫌な出会いをしていたら、暫くログアウトして帰ってこないところだったし。


「まぁ、エエわ。ワイの名前はタツ言うねん。見ての通りの魔物プレイヤーや。アンタは?」

「ヤマモト。一応、人族プレイヤーに見えるけど、ディラハンね。ほら」


 カポッと頭を取り外すと、タツさんは驚いて三メートルぐらい後ろに下がる。


「うわぁ!? 吃驚したぁ!? なんや、それ! 人ちゃうやんけ!」

「おんなじ魔物プレイヤーだって言いたかったんだよ」


 カポッと首と頭をドッキングさせて、キュッキュッと捩じ込む。


 これで、頭も簡単に外れないぞ!


「なんや、アンタも魔物プレイヤーやったんか。……いや、それやと、困ったなぁ」

「困った? 何で?」

「ワイの予想やと、この先に街があんねん」


 うん、私の予想でもそうだね。


 というか、矢印がずーっと視界の片隅に映ってるしね。


「で、その街が人間の街やったら、ワイらのような人外は入れへん可能性が高いんちゃうかと睨んどる」

「それは困るなぁ」


 生産活動を行うにも、錬金とか鍛冶の道具が無いと何も出来ない。そういった細々とした道具を買うために、街に入れないのは致命的だ。


「まぁ、ヤマちゃんは人間っぽいから入れるかもしれんが」

「ヤマちゃん」

「アダ名や、アダ名。プレイヤー名なんて呼び難い奴がぎょーさんおるからな。ワイは自分の呼びやすいようにアダ名付けるんや」

「なるほど」


 凝りすぎて、どう読むんだよという名前もネット上には良くいるものねー。


「ちゅーわけで、この先の街が人間の街やったら、人族プレイヤーに付き添ってもらって、身元保証してもらわな入れんなーと思っとったところや」

「居るのかな? 人族プレイヤー?」

「さぁな。分からん。ヤマちゃんがワイが出会った初プレイヤーやからな。まだ見たことないわ。……でも、ヤマちゃんなら行けるかもしれん。どうする? 試してみるか?」


 まぁ、街に入ろうとしたところで、いきなり喧嘩を吹っ掛けられるようなこともないでしょ。駄目なら、追い返されるか、説明ぐらいはあるとみた。


 というか、入ろうとして拒否されるような場所にチュートリアルの矢印が伸びるのも解せない。


 なので、案外取り越し苦労で普通に魔物の街があるんじゃないかなーと、私は思ってるよ。


「普通に魔物の街って可能性もあるんだよね?」

「せやな。その可能性も捨て切れん」

「それじゃ、とりあえず行ってみてから考えてもいいんじゃない?」

「それもそうやな。憶測だけで話しとっても進まんし……」

「じゃあ、目的地も一緒だし、一緒に行く?」

「ワイを轢いた馬車でか……?」


 何か言いたそうな目。


 だけど、私は完全スルー。


 とりあえず、利便性を前面に押し出す。


「楽だよー。プレイヤーは静止状態だから、自然回復のスピードが上がるし、モンスターは轢き殺せるし」

「それで、ワイも死に戻りしそうになったんやけどな……。まぁ、ええわ。せやったら、頼むわ。正直、HPがレッドゾーンでシンドイねん」


 思いもよらないところで、轢き逃げアタックの有用性が証明された形?


「何や、そのホクホク顔……。一応、言っとくけどなぁ。ワイのステは紙装甲やからな? 馬車を武器として計算するのはやめといた方がえぇぞ!」


 ちなみに、HPが一発レッドになると、スタン状態のオマケが付くんだって。


 何だ。馬車の轢き逃げアタックの特殊効果じゃなかったのか……。


 私はちょっとだけガックリとしながらも、タツさんを御者台に乗せて、街への道を急ぐのだった。


 ■□■


「ワイなぁ、こう見えてもアルファテスターやねん」


 馬車に乗りながら、モンスターをシバきつつ、タツさんと話していたら、急にそんなことをカミングアウトしてきた。


 何か妙に、『魔物種族は進化があるから選んだ』とか、モンスターとの戦い方にソツがなかったりするところに、深い知識と経験を感じていたのだが、開発段階のゲームで遊んでいた経験があるらしい。


「言うても、バイトやけどな。バグ見つけては開発に報告する――みたいな奴や」

「へー、だから、何かモンスターとの戦いも手慣れてるんだ」


 普通、いきなり四足歩行の生物になった時点で移動が困難だと思う。なおかつ、フェアリードラゴンってほぼほぼ空を飛んでるから、空中での姿勢制御に全力を尽くさないといけないし。更には、モンスターの弱点に的確に攻撃しつつ、相手の動作を見切って躱すとか、初めたばかりの素人には無理でしょ。


「まぁな。ちゅーても、途中で辞めたんやけどな」

「何でまた?」

「バグが多すぎてな……。報告しても、報告しても、終わらなかったんや……」


 心当たりがあり過ぎるんだけど……。


「まぁ、あの時は散々やったけど、こうして発売に漕ぎ着けたってことは、それなりに致命的なバグも減ったってことなんやろなぁ。今となっては良い思い出やで」


 そういえば、このゲーム、ベータテストのプレイヤーを公募しなかったとか、ネット記事で読んだ気がする。


 その時は、守秘義務だとか、凄腕の開発チームがいるんだとか、専門のテストプレイヤー集団がいるんだろ、とかいう書き込みを見て、勝手に納得していたのだが、今となると随分と怪しい話に聞こえる。


 ま、まぁ、ネトゲは運営しながら改善していくって部分も少なからずあるし、ゲームのリアル感や自由度は今までに体験したVRMMORPGの中でもダントツなので、そこにプレイヤーの視線が向いている間に改善されるといいんじゃないかな。


「そういえば、このゲーム、味覚も再現してるって本当?」

「モチのロンや。貴族連中が食っとる高級な飯なんぞ、味覚の新次元ってレベルで美味いでぇ〜」

「うわぁ、食べてみたいなぁ……」


 むしろ、【料理】スキルを取って、自分で料理するのもあり?


 未知の食材を調理して、どんな味がするのか楽しむっていうのも面白いよね。


「まぁ、味覚が再現されてるっちゅうのは、良いことばかりやあらへんけどな。上があるっちゅーことは下もあるっちゅーことや」

「下……。もしかして、タツさんは下も味わった……?」

「運悪くテスト項目にあったわ……。舌の感覚失くなるレベルでおかしいから、気ィ付けぇや……」

「気を付けるレベルでどうにかなれば良いけど……。見たこともない食材だったら、興味本位で食べちゃいそう……」


 タツさんと何だかんだでお喋りしつつ、森の中を右往左往。


 まぁ、私の馬車はデカいからねー。


 森林破壊しないで進める道を選んでいると、どうしても遠回りになっちゃうのよ。


 それでも、二時間もしない内に、見上げると首が痛くなるぐらいに立派な城壁が見えてきた。


「タツさんー、多分だけど、アレ、人間の街じゃないよ?」

「城壁がおどろおどろしすぎるなぁ。多分やけど、魔物の街とちゃうか?」


 門のところで、入場チェックをしてるのも、鎧を着た骸骨だしね。


 どう見ても、人間の街じゃない。


「あ、そろそろ、馬車をしまわないと」

「別に町中でも馬車の通行はNGとちゃうぞ?」

「いや、色々と面倒臭い条件がある馬車なんだよ」


 というわけで、森近くに引き返して、何かデップリ太った毒々しい蛙を馬車で轢く。


 蛙はひっくり返って、スタン状態になったみたいだね。


「あなたに死を宣告します!」


 ▶毒々山椒魚モドキに死を宣告しました。


 どう見ても蛙なのに、山椒魚モドキって名前なんだね。もしかしたら、本当に山椒魚の姿をしたモンスターもいるのかもしれない。


「喰らえ、【ファイアーボール】!」


 というわけで、早々に動けない山椒魚モドキに魔法をぶち込む。


 直接攻撃しても良いんだけど、街はもう目の前だし、スキルレベルアップのためにも魔法を使っていかないとね!


 私の詠唱と共に発射された火の玉は、山椒魚モドキに当たるなり、ボウボウとその身を燃やし続ける。どうやら、炎によるスリップダメージも入るみたいだね。


「ほー。ヤマちゃんも魔術使うんか」


 タツさんは、フェアリードラゴンという小さなドラゴンなだけあって、物理攻撃じゃなくて、魔術攻撃がメインの戦い方をする。


 しかも、魔法系にステータスを特化しているだけあって、私よりも魔術のダメージは高いように見えた。


 まぁ、正確な数字は分からないんだけど、飛び散るエフェクトが私よりも派手だったので、そう判断したのだ。


 もしかしたら、魔法に冠するユニークスキルを持っているのかもしれないね。


「攻撃魔術を使うんやったら、同時に【闇魔術】も取っといた方がえぇぞ。【闇魔術】の中には、相手の魔防を下げる魔術もあるからな」

「あ、うん。【闇魔術】なら取ってるよ」

「ほう、用意周到やな。えぇやん」


 というか、勝手に取れちゃったんだけど。


 炎のスリップダメージに悶えている山椒魚モドキが動かなくなったところで討伐完了。


 ▶死の宣告に成功しました。


 ▶経験値12を獲得。

 ▶褒賞石10を獲得。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石2を追加獲得。


 うん。きちんと死の宣告が成功したので、召喚していた馬車が消えたね。


「なんや!? 馬車が消えよったぞ!?」

「そういうスキルなんです」

「けったいなスキルやなぁ……」


 まぁ、条件は変だけど、便利は便利なんだよね、このスキル。


「それじゃ、街の方に行きましょーか」

「せやな。とりあえず、チュートリアル受けたら、装備とか更新したいわ」

「タツさんの体に合う装備なんてあるの……?」

「まぁ、特注になるやろなぁ……」

「だったら、私が作ろうか?」

「はぁ? ヤマちゃん、装備とか作れるんかい?」

「私、一応、生産職志望なんで。【鍛冶】とか取ったよ?」

「生産職志望の割には、魔術二種も取っとるんか? SPは考えて使わんと、後で後悔するで?」

「それは勿論。というか、パーティー組む気も無かったんで、器用貧乏になるのは致し方ないかなと」


 今のところ、器用貧乏というかオールマイティーになりつつあるけどね?


 全ては、【バランス】とかいう、ユニークスキルが悪いんだ!


「まぁ、他人のビルドにゴチャゴチャ言うのもアレやし、それ以上言わんけど……。あと、ワイの装備は革で揃えよう思うとるから、【鍛冶】スキルやと無理やからな? 【縫製】とか【革細工】とかが必要になるんちゃうかな?」


 あー。私自身ディラハンの金属鎧や剣を製作する気でいたから、革鎧は考えて無かったわー。


 でも、柄とかに革を巻いたりすることを考えると【革細工】も取っといた方が良いのかな?


 誰か、生産に詳しい人が居たら教えて欲しいんだけど……。


「まぁ、ヤマちゃんに装備頼むとしても、材料揃ってからやな。今は適当に安く済ますわ」

「出しゃばっちゃったならゴメン」

「えぇよ。生産職志望とか珍しいから、ヤマちゃんと縁が持てるんはエェことや」


 生産職って、そんなに珍しいかな?


 まぁ、魔物側で生産職というのは、結構珍しいのかもしれない。


 普通は人族側で生産職をやるだろうしね。


 コレって、もしかしてニッチな産業だったりする……?

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