第3話

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【バランス】

 全てにおいて、バランスが取られる。

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「バランススキルがどうとか書いてあった気がしたから、改めて確認してみたけど……。これって、?」


 自分のユニークスキルの性能をまじまじと睨みながら、こんにちは。


 どうも、ヤマモトです。


「全てにおいて……つまり、三大生産スキルの内、二つしか取得していなかったから、バランスが悪いって判断されて、勝手に最後のスキルが取得されたってこと……?」


 だとしたら、無茶苦茶なスキルだ。


 バランスを取るためという理由で、ゲームバランスを崩しにきている。【バランス】というスキル名ながら、圧倒的なバランスブレイカーっぷりである。


「どうしよう、これ? 運営に連絡した方が良いのかな?」


 システムウインドウを開いて、運営への連絡をしようとするが、アイコンが多くありすぎて、どれが運営への連絡用のアイコンなのか分からない。


 意識を集中するが……。


「あれ? 出てこない?」


 運営への連絡は、ゲーム内からだと出来ない仕様? うーん。


「とりあえず、ログアウトしてから、PCで連絡すれば良いか。とりあえず、もう少し遊んでからにしよっと」


 もしかしたら、データがロールバックされるかもしれないけど、折角、現実にしか見えないVRMMORPGの世界にやってきたんだ。


 ある程度、遊んでからログアウトしたい。


 というか、廃プレイするって決めてから遊び始めているのに、いきなり開発側の不都合のせいで、それをやめなければならないなんて、ちょっと納得出来ないんだよねー。


「まぁ、スキルにSPを振らなきゃ良いでしょ」


 というわけで、ステータスを改めて。



 名前 ヤマモト

 種族 ディラハン(妖精)

 性別 ♀

 年齢 0歳

 LV 1

 HP 170/170

 MP 24/120

 SP 26


 物攻 22(+12)

 魔攻 8

 物防 25(+15)

 魔防 25(+13)

 体力 17

 敏捷 5

 直感 4

 精神 12

 運命 7

 

 ユニークスキル 【バランス】

 種族スキル 【馬車召喚】

 コモンスキル 【鍛冶】Lv1/ 【錬金術】Lv1/ 【調合】/Lv1


 ステータス的には、敏捷とか直感が低いのが気になる。


 けど、それは戦闘職をメインにしている場合だよね。


 生産職をメインにするなら、物攻、魔攻、体力とか運命を上げるべきなのかな?


 ほら、【鍛冶】とか、ハンマーで鉄を叩くイメージだし。【錬金術】は魔力を使うイメージだしね。後は、良い物が作れるかは運の要素も絡むと思うから、運命も必要なのかなとは思うね。


「ステータスを上げるのには、SP1が必要かぁ」


 ちなみに、ステータスはレベルアップ時にもランダムで2ポイント上がるらしい。


 そう攻略サイトには書いてあった。


「ステータスはレベルアップで上げていくのがお得かなぁ」


 わざわざSPを振る魅力を感じない。


「とりあえず、一回戦闘してみようかな?」


 ずっと馬車の中のセーフティーエリアに引き籠もっているというのもいただけないし、と私は馬車の中から外に出る。


 森の中は、相変わらず薄暗く不気味だ。


 何処からでも、モンスターが襲ってきそうな気配がする。


「凄いよねぇ、コレ。どう見ても本物だもん」


 木々のグラフィック、足元の下草、森の香り、もしかしたら、ゲームをしながら普通に森の癒やし効果まで付いてくるのかもしれない。


 そんな事を考えていたら、ガサガサと下草の揺れる音がする。


 なんだろうなーと、視線を向けたら……。


「おぉう!?」


 額に角が生えた兎の突進を受けてしまった。


「いった〜……」


 衝撃に体が揺れ、思わず尻もちをついてしまう。


 HPバーが瞬間的に視界の端に現れ、一割程がぐぐっと削れるのが見えた。


 一応、ダメージエフェクトみたいなのが飛び散ったので攻撃を受けたのは分かったんだけど、エフェクトがなければ本気で動物に襲われたみたいなリアル感があった。


「リアル過ぎるってのも考えものだねー。ちょっと怖いし……」


 私に突撃した角兎は、後ろ足で砂を掻くような動作をする。闘牛かい。


「あー、【鑑定】ぐらい取っておくんだった! 相手の名前も分からないじゃん!」


 とりあえず、仮名は角兎としておくかな。


 角兎は、後ろ足を三回掻いた後で、またも私に突進。


 尻もちを付いてる私に回避する術はなく、またも直撃を喰らって、HPバーがググっと減ってしまう。


「わわっ、タイム! タイム!」


 私は叫ぶけど、勿論、角兎は聞いてくれない。


 とにかく、立たないと駄目だ!


 ふんぬっと、気合を入れて立ち上がったところで、角兎がまたも突進。


「ギャー!」


 突進の衝撃で、また転びそうになるのを何とか踏ん張る。


 ひーんっ! モンスターが強過ぎて嫌なんですけども! というから私、タンクビルドのくせに盾持ってないじゃん! 色々装備が間違ってる〜!


「げ! またぁ!?」


 角兎が後ろ足で砂を掻いている。


 それを見て、慌てて剣を構える私。


 儀礼用の剣にも見える美麗な装飾が施されたロングソードだ。


 剣の振り方なんか知らないけど、一直線に角兎が突っ込んでくるのは分かっているんだから、相手の通り道に剣を置くだけでずんばらりんな筈だ!


 キィー! キィー! キィー!


 あ、何か角兎が赤く光った!


 まさか、戦闘系のスキル!?


「ひええっ!?」


 怖すぎて、思わずしゃがみこんだ瞬間に、持っていた剣にやたらと重い衝撃が!?


 何? 何が起こっているの!


 私が混乱している間に、何か視界の端にダメージエフェクトが飛び散っているんですけど!?


 見上げると、捧げるように持っていた剣の刃に角兎が引っ掛かってる!


「あ、あっち行け!」


 剣を振って、角兎を地面に叩き付けると派手なダメージエフェクトが……。


 ちゃ、チャンス……?


 起き上がるも、片足を引き摺って私から距離を取ろうとする角兎。


 そんな角兎にちょっとだけ同情しながらも、私は無慈悲に剣を振り下ろす。


 ▶経験値33を獲得。

 ▶褒賞石8を獲得。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石25を追加獲得。


「やっ――……、えぇっ?」


 喜ぼうとした気持ちが一瞬で消し飛んだよ。


 えーと、これってつまり、経験値33を得ているのに、褒賞石……この世界で言うところのお金だ……を8しか得てないから、バランスが悪いっていうんで勝手に調整が入ったの?


 それで、褒賞石も33取得出来るように追加で取得した、と。


 他の人のユニークスキルがどういうものか知らないけど、このユニークスキルは絶対おかしいよね? やっぱり、どう考えてもぶっ壊れな気がする。絶対ナーフ対象だよ、もうっ!


「はぁ、ユニークスキルのことは後で考えよう……。とりあえず、雑魚モンスター相手でも苦戦した現状を考えながら作戦会議だ……」


 仕方ないので、ノソノソと馬車に戻る。


 セーフティーエリアが自前で用意出来て本当に良かったよね……。


 こんなメンタルのままで、連戦なんてとてもじゃないけど無理だ……。


 宇宙船を模したのっぺりとした操縦室コクピットにダラーっと寝転びながら、ステータス画面をオープン。


「実際に戦ってみて分かったけど、私に接近戦は無理だ……」


 さっきのは兎だったから、まだ良かったけど、デカい蜘蛛とか蟷螂だったら、正直、剣を放り出して逃げ出す自信がある。


 それだけリアルで怖かった。


 なので、私は考えた。


「このステータス、意外と魔法方面の伸びも悪くないんだよね? だから、魔法を覚えてみても良いんじゃないかな?」


 魔法なら、こう、鈍臭い私でも遠くから狙えるし、イケるんじゃないかな?


 後は、鑑定スキルも取っておこう。


 調合をしたりするにも、薬草が分からないというんじゃ、お話にもならないしね。必要経費ってことで選択しておく。


「しかし、魔法……。結構、種類があるな。そして、初期は魔法じゃなくて、魔術から覚えていくのか……」


 初期で取得出来るのは、魔法じゃなくて魔術らしい。


 そして、その上位スキルとして魔法が存在するようだ。


 取得出来る魔術は、火、水、風、土、光、闇の六属性。


 とりあえず、ディラハンのイメージを優先して闇魔術でも取得してみようかな。


 鑑定スキルも同時に選択して、SPを6消費して取得。


 あ、魔術の取得が、割とSPが割高らしく、4も消費するんだよ。


 これで、SPも残り20かぁって嘆いていたら……。


 ▶【闇魔術】スキルLv1を取得しました。

 ▶【鑑定】スキルLv1を取得しました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  スキルのバランスを調整します。


 ▶【火魔術】スキルLv1を取得しました。

 ▶【水魔術】スキルLv1を取得しました。

 ▶【風魔術】スキルLv1を取得しました。

 ▶【土魔術】スキルLv1を取得しました。

 ▶【光魔術】スキルLv1を取得しました。

 ▶称号、【賢者】を獲得しました。

  SP5が追加されます。


 ▶【収納】スキルLv1を取得しました。


 ……SPが5も返ってきた件。


 うぉい!


 バランスさん、仕事し過ぎじゃないですかね!?


「というか、魔術一種類を取ったら、全属性が揃ってしまった件!」


 いや、一種類だけじゃバランスが悪いからって、全部取得出来ちゃったの? やっぱり、このユニークスキル、効果がおかしいよ! というか、これ、完全にナーフ対象だよね!


 むぅ……。


 まぁ、その時はその時として、今はゲームを楽しもうか……。


 とりあえず、HPが減っているから回復したいんだけど……。


 全属性の魔術が揃ったので、その内容を確認する私。


【火魔術 Lv1】

 魔力を火属性に変換して、敵を攻撃する。

 ・ファイアーボール Lv1


【水魔術 Lv1】

 魔力を水属性に変換して、仲間を守る。

 ・ウォーターバリア Lv1


【風魔術 Lv1】

 魔力を風属性に変換して、仲間を援護する。

 ・フォローウインド Lv1


【土魔術 Lv1】

 魔力を土属性に変換して、敵を妨害する。

 ・サンディソイル Lv1


【光魔術 Lv1】

 魔力を光属性に変換して、味方を癒やす。

 ・ヒールライト Lv1


【闇魔術 Lv1】

 魔力を闇属性に変換して、敵を惑わす。

 ・ダークミスト Lv1


 普通に考えれば、回復出来るであろう魔術は光一択なんだけど、ここの運営はやらかしよるからなー。


 もし、ディラハンがアンデッド判定でヒールライトを自分に掛けたら、回復せずにダメージを受けるってなったら、最悪即死もありうるし……。


「HPバー、カモン〜」


 ちょいと、HPバーを呼び出して確認してみる。


 HP 106/170


 流石に即死するような生命力じゃないかな?


 けど、安全マージンは出来るだけ取りたい。


「ステータスに振ってみる……?」


 SPをステータスの体力に振ることで、多分HPが増えると思うんだよね。


 そうすれば、最大HPが増えた分、HPも上昇するわけで、その分、安全マージンが取れると――。


「称号で得た5SPなんて、泡銭みたいなものなんだし、これを全部使ってしまおう! 体力に全ブッパだ!」


 ステータスを開いて、SPを体力に追加しようとすると、1SPでステータスは2も上がるらしい。つまり、5SPなら体力が10も上がる寸法ってわけよ! そして、HPは体力の十倍だから、実質100HPの回復!


 安全マージンとしては、十分だ!


「よし! 全ブッパだ!」


 ▶体力が10上がりました。

 ▶HPの最大値が100上がりました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  ステータスのバランスを調整します。


 ▶物攻が17上がりました。

 ▶魔攻が19上がりました。

 ▶物防が17上がりました。

 ▶魔防が15上がりました。

 ▶敏捷が22上がりました。

 ▶直感が23上がりました。

 ▶精神が15上がりました。

 ▶運命が20上がりました。

 

 ▶ステータスを表示します。


 名前 ヤマモト

 種族 ディラハン(妖精)

 性別 ♀

 年齢 0歳

 LV 1

 HP 207/270

 MP 129/270

 SP 20


 物攻 39(+12)

 魔攻 27

 物防 42(+15)

 魔防 40(+13)

 体力 27

 敏捷 27

 直感 27

 精神 27

 運命 27


 ユニークスキル 【バランス】

 種族スキル 【馬車召喚】

 コモンスキル 【鍛冶】Lv1/ 【錬金術】Lv1/ 【調合】Lv1/【鑑定】Lv1/ 【収納】Lv1/【火魔術】Lv1/【水魔術】Lv1/【風魔術】Lv1/【土魔術】Lv1/ 【光魔術】Lv1/ 【闇魔術】Lv1


「運えええぇぇぇぇーーーいいぃぃっ!」


 私の嘆き声は、虚しく馬車の中に響き渡るのであった。

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