第81話 下位冒険者は新たな武器に挑む その四


魔法障壁プロテクション!」


 ティルルカが発動したのは基礎的な防御魔法。流石にゴブリン相手に不動要塞フォートレススタンスを使うのは憚られたんだろう。訓練にならんし。


 問題はこの後だ。多数を相手取る時の継続戦闘能力が課題の俺達は、この問題をクリアしないと鉄等級への昇格は叶わない。


威嚇の咆哮ウォークライ!」


 ゴブリン共が視界に入った瞬間、ティルルカは直ぐさま自分にヘイトを集め盾を構える。


 散らばっていたゴブリン共は、ワラワラとティルルカの下へと集まり始め、先頭のゴブリンが振り上げていた粗末な棍棒を勢い良く振り下ろしす。


 手に持つ大盾でボゴッとその一撃を受け止めるティルルカの周辺には、既に何匹ものゴブリンが武器を振り上げ集まっている。


 ティルルカは、最初の一撃を大盾で受け止めると同時に、魔剛鉄アクサライト製の細身の棍棒を真横に振るって、集まってくるゴブリン共にその一撃を放つ。


烈風イ・テンペス!」


 扇状に生み出された激しい突風がゴブリン共に襲い掛かる。突風はゴブリン共を吹き飛ばすほどの威力は無いが、足を止めさせ、身体中に浅い裂傷を生み出す程度の威力が込められている。


『『『『ギギャー!!』』』』


 思惑通りにゴブリン共は足を止め、裂傷による痛みに動きが妨げられている。


 俺はその隙に奴等の背後に、気配を消して足音をたてずに回り込んた。


追跡の一閃スネイクスタブ


 刺突牙ランスと違い、勢い任せに突きを放つのではなく、狙いを定めて魔力を込めた突きを放つ。放たれた突きは、相手の急所を追跡する様に軌道を変え、狙い通りにそこを射抜くと、止まることなく引き戻されて、瞬時に次の相手に狙いが変わる。


 素人が見れば、幾匹もの蛇が獲物に襲いかかるように見えるだろう。


『ギョェ……』『グカァォォォ!』


 何匹かのゴブリンがその場に崩れ落ち、それ以外も腕を射抜かれて武器を取り落としたり、脚を射抜かれて勢い余ってもんどり打って倒れている。


 この技は、刺突牙ランスよりも威力は低いが、相手の動きに合わせて穂先を誘導出来るので、目標に当てやすい事が特徴の短槍術だ。


 急所を狙えばゴブリン程度なら一撃で倒せるだろうし、急所以外のところを狙えばダメージを与えつつ行動不能に追い込む事ができる。


 そして行動不能に陥ったゴブリン共は……


墜撃インパクトォォォ!」

追跡の一閃スネイクスタブ


 ティルルカと俺が追撃を与えてトドメを刺した。


 残心しつつ様子を覗っていると、ティルルカがホッとした様に残心を解く。


「……目標全て沈黙です」


「良い感じの連携だったな」


「それはもう愛のなせる技です!」


「………」


 ポンッ


「……え?えぇぇぇっ?!いいいい今の『ポンッ』は何ですか?!『ポンッ』は!?ああああたしは如何すればァァァ???!」


「知らん」


 こいつはやたらと攻めに徹してくるが、攻められるのには弱いって事は良く知ってる。しかもさり気なくやるってのがコツだ。あまり使い過ぎて慣れられて効果が薄れると面倒だから多用はしないが。


「もももも一回!も一回プリーズ!!」


「それは今後の働き如何いかんによっては考えなくもないな」


 考えるだけならただだしな。


「ぐぐぐっ……こうなってはやむを得ません!暫し討伐に集中し、ご主人様からの『ポンッ』を頂きますよ!」


 そう言って、森の奥へと手に持つ棍棒を突き付けるティルルカを見つめながら俺は、戦闘中なんだから討伐に集中するのは当たり前だと心の中でツッコミを入れる。


「ショルツちゃん!次お願い!」


「ナァ〜」


 ティルルカの呼び掛けに、どこからともなくショルツから返事が返ってくる。


「ご主人様!来ます!多分飛び道具あり!ホブもいます!」


 飛び道具持ちがいると難度が跳ね上がる。他にホブがいるなら尚更だ。ホブってのはホブゴブリンの事で、力を付けたゴブリンが進化した個体だ。通常のゴブリンよりも大柄で、子供と大人ほどの違いがある。パワーに特化していて、その分素早さが犠牲になっているが、特化したパワーはそれを補って余りある。


「ルカはホブに集中。俺が飛び道具持ちを殺るまで無理をするな」


「了解です!」


 ティルルカは、元気良くそう返事をすると、いつになく真剣な表情でキッと森の奥を睨み付ける。


愛の前ではウォー全てが無意味ですクライ!」


 なんか良く分からんが背筋に悪寒が疾走る。ヤバいスイッチでも押しちまったか?


「……まぁいいや」


 俺は考えるのが億劫になって、ボソリとそう呟きつつ、群れの後方で待機しているゴブリンに狙いを定めて走り出す。飛び道具を持ってるんだから、当然こっそり後方に控えてる奴がそいつ等って事だ。


 隠蔽ハイディングしながら群れの死角へ回り込み、俺は一体目の弓持ちゴブリンに襲い掛かる。


追跡の一閃スネイクスタブ


 狙いはゴブリンの延髄辺り。そのまま喉を突き破って口まで穿く。声を上げさせない為だ。


烈風イ・テンペス!」


 どうやらティルルカもゴブリンとの戦闘に入ったらしく、牽制の一撃を放っている。今回は先制攻撃で烈風イ・テンペスを放っていた。小柄なゴブリン共はそれで足を止めているが、大柄なホブは構わず突っ込んでいる。


『ガグォォォ!!』

「どっせいぃぃぃ!!」


 ホブの大剣の一撃をティルルカが大盾で受け止める。あの大剣は冒険者から奪った物だろう。強烈な一撃だが、ティルルカならば受け止められる一撃だ。


 俺は、ティルルカがホブを抑えている間に、次々に他のゴブリンに襲い掛かる。足音をたてずに側に駆け寄り、気付かれる前にトドメを刺していく。


 しかし、それに気付いた他のゴブリンが、頭を振って仲間を殺して回っている相手の姿……つまりは俺を探しているが、俺は一処に留まらずに駆け回ることで、ティルルカの方へ向かって行こうとするゴブリンの数を減らしつつ、奴等の死角へ回って確実に一体ずつ葬りさって行った。


暴風エク・テンペス!」

『キョエイィィィ!!』


 烈風イ・テンペスよりも、より激しい風が竜巻状に吹き上がり、ホブの視界を遮っている。


 俺はホブ以外のゴブリンを全滅させ、最後の一体を倒すと同時に一気に加速し、短槍を構えた。


刺突牙ランス!」

『ガフッ……』


 短槍の穂先はホブの心臓辺りを正確に穿ち、有無を言わさず葬り去った。


「……ナイフだと、隙間を通すように刃を突き立てないといけないから、なかなか一撃じゃ倒すの難しかったですけど、短槍だと割と雑に打ち込んでも致命傷を与えられるみたいですね」


「だな。ナイフじゃ骨を断つのは技術と魔力が必要だし、下手すると刃が欠けちまってたしな。近付くのも毎回命懸けだったし。その辺、短槍だと相手の間合いの外から骨格ごと穿けるし、攻撃そのものに意識を集中できるから威力も増す」


「……あ!ご主人様、ショルツちゃんがもう次を送り込んできたみたいです!」


「マジか……あいつ結構スパルタだな」


「なんか、ノリに乗ってるような雰囲気がありますね」


「何かあいつ、こっちが苦しむ姿を見てキラキラしてねぇか?」


「ショルツちゃん、意外とSっ気有りますからね」


「この辺のゴブリン共をさっさと全滅させて終わらせよう」


 そう言ってお互い青くなった顔を見合わせて頷くと、次の戦闘へと移行するのだった。





 その後、ゴブリンの襲撃は断続的に繰り返され、三時間程してようやく終わった。


 疲労で地面に横たわる俺達の傍らで、満足気な雰囲気を醸し出しながら毛づくろいをするショルツを見て殺意が湧く俺とティルルカなのであった。


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