第75話 下位冒険者は三文芝居に巻き込まれる その五
「第三者がどうのこうのって言ったよなぁ……俺達は当事者なんだよ! 俺達が被害を訴えてる以上、テメェはここに留まり糾弾される義務があるんだ!」
こちらを指差し、そう訴える槍男。名前は知らん。今更覚える気も無い。
「そんな
「そうですね。あたし達が
「俺達が
踵を返す俺と肩を竦めて返すティルルカに、男は激高してそう怒鳴りあげた。
「『そんな事実は御座いません』ほら、これで俺がやってないって証拠も出来たろ? この話は終わりって事でもう良いな?」
「んな訳あるか! これだから低能は……」
と、何かを言い掛ける槍男の言葉を遮り、ティルルカが口を開く。
「あなた方の訴えが証拠になるなら、今のご主人様の宣言も証拠になるに決まってるのでは? 所詮は本人同士の水の掛け合い話ですし、これ以上お話していても無駄に時間が過ぎて行くだけです」
「そうだな。俺達は、ギルドの上層部の召還には従うから、もし、この話を続けるんなら、上層部からの召還状を持ってくるんだな」
俺達の言葉に『金色の剣』のメンバーは互いに目を配り合いながら、チラチラと酒場の隅を気にしている。
「……なら、証人がいると言ったらどう……」
ドヤ顔を浮かべながらの台詞に、俺は素早く言葉を被せる。
「そこの奴は証人にはならねぇぞ。俺達はそいつがいたから、あの場を離れたんだしな」
にやけ顔で腰を浮かしかけた、隅でこちら伺っていた男が、ピタリとその動作を止める。更には、『金色の剣』のメンバーの顔には驚愕の表情が浮かび上がった。
「な、なんの根拠がってそんな事を……」
「根拠も何も、ティルルカが(本当はショルツもだけど)気付いたから俺達はあの場を引いたんだよ」
「何を馬鹿な事を! 目の見えないティルルカに、そんなこと出来るはずは……い、いや、べ、別に兄貴が証人だなんて話ではなく……べ、別に……」
しどろもどろになる槍男。決定的な事を言ってのけている事に気付いてないなこのアホは。
『兄貴』ってのが血縁を指してるのか敬称なのかは知らんけど、奴らに近い存在である事はこの場に晒された訳だ。
件の男も、顰めた顔を片手で覆いバタンと席に着いた。確か鉄級冒険者で、実力はあるが素行が悪く、何度か組んだパーティから追い出されているとか何とか。何でか俺、アイツに目の敵にされてるらしく、嫌がらせを受けてんだよね。
「ほうほう兄貴ね……お前らはそいつと知り合いって訳だ? 身内なら、その証言はやっぱり無効だろ?」
「っ?!」
今更ながら失態に気付いて、しまったって顔を晒し、一歩後退る
他の冒険者達は良く分かっていないらしく、ヒソヒソと小声で話しながら、俺達と向こうをキョロキョロと見渡してる。
「それと、『目の見えないティルルカに、そんな事ができる訳ない』だっけ? ティルルカを只のマスコットだとでも思ってたのか? お前ら揃いも揃ってその目は節穴だな。ティルルカも下位とはいえ冒険者だぞ? 普段のギルド内での行動見てればそれくらいは分かんだろが」
俺がそう言ってひと睨みすると、気不味そうに視線を逸らす冒険者達。俺の悪評と、愛嬌を振りまくティルルカの普段の姿に惑わされて、ティルルカの能力を見謝る程度の連中だ。
「もう良いよな? 俺達は行くぜ?」
扉に手を掛け押し開ける。チラリと視線を走らせると、悔しげな顔で俺を睨んでいる金色の剣メンバーとカルラ嬢が視界に入る。流石に何も言い返せない様だ。
バタンと扉を閉めて歩き出すと、ティルルカが小走りで傍らに並ぶ。
「……ご主人様……あたしの為に怒ってくれましたよね?」
「うるせーよ」
いつもの変態じみたニヤケ顔ではなく、本当に嬉しそうに微笑むティルルカにそう悪態をつきながら、俺は帰路へと着くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
照れてそっぽを向いたご主人様を見上げると、あたしの胸の奥は温かい
あたしの為に怒ってくれた事がたまらなく嬉しい。
心が麻痺してしまっているのか、ご主人様は自分に対する悪意に酷く
何を言われても、諦めたようにさらりと流している。
他の人から見ると、どうも邪眼でも当てられてるように思えるらしいが、あれは単に……本当に、ただ見ているだけ。相手を観察しているだけなのだ。
それなのに、あんなに恐れられるだなんて……不憫。
ま、ご主人様の魅力はあたしだけが知ってれば良いんだけどね。
ただ、最近、ちょっと怪しい人もいるんだよね。
何はともあれこれを期に、あたしの想いを受けて止めてはくれないだろうか?
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