第61話 下位冒険者は受付嬢と駆け引きをする その壱
「さて………他人の心の傷にぐりぐりと踏込み、内心ほくそ笑んでる鬼畜なクロさんの処遇ですが………」
いや、全くの冤罪だしそれ。
「時間も惜しいので、
えっ?! 冤罪なのに
「当然ではないですか? 悪人顔のクロさんに人権など合ってないようなものです」
「いや、人並みの人権くらい分け与えてくれても………って、なんで俺が考えてること分かったの?!」
「クロさんは、顔に出過ぎです。悪人にそこを付け込まれないか心配です………と言いたい所でしたが、極悪人顔のクロさんに絡むことが出来る人間はそうそう居ないでしょうから、これは無用な心配でしたね」
「いつの間にか『極』が付いてパワーアップしてるし?! 確かに俺は悪人顔だけど、『極』が付くほど酷くないわい! ………ないよね?」
「ご主人様、大丈夫です! 世界の全ての人類が直視できないほどの醜悪な悪人顔でも、あたしだけはご主人様ご尊顔が一番です! 例えゴブリンよりも醜悪でンゴッ!」
「誰が醜悪な悪人顔だ!」
「ご主人様の愛の拳骨が気持ち良…じゃなくて痛いですぅ」
「愛などもとから無いわ! つーか、殴られて喜ぶ奴隷などいらん!」
「拳骨で恍惚となるティルルカちゃん………クロさん、よくここまでティルルカちゃんを調教しましたね」
「ご主人様とあたし二人の愛がなせる技ですぅ」
「コイツは元からこうで、断じて俺の所為ではない」
「ご主人様のイケズぅ………」
「お話が進まないので、イチャつくのはその辺にしておいてください」
「この流れ始まったのアンタの所為だろが! それとこれの何処がイチャついてるって話になるんだ!!」
「ご主人様………肉体的な接触がある以上、イチャイチャしてると思われても間違いではないのですよ………うふふ………うふふうヒャヒャヒャヒャ」
「拳骨を肉体的な接触と評し、それを恥ずかしげも無く喜びとしてひけらかす様な変態を相手に対してイチャつくような人間に見えるのか?」
俺がアンタにはそう見えるの? と問い掛けると、リリーヌ嬢はそっと目を逸らす。
「………そのことに関してはノーコメントで。話を次に進めます」
流石の高位冒険者且つ腕利き受付嬢でも、ティルルカの痴態はフォロー出来ないようだ。
「気になった事が一つあります。
「異常だって言われても………別にどっかで盗んだって訳じゃねぇよ?」
「それを疑っている訳ではありません。クロさんは極悪人顔ではありますが、盗んだ素材を転売する危険性を十分熟知していますので」
「まぁな。ギルド相手に盗品転売なんてした日にゃ、冒険者ライセンス剥奪の上、犯罪奴隷として一生滅私奉公する事になるだろうし、ギルドを介さず売り払おうとしてもよっぽどの伝がなけりゃ買い叩かれること間違いなしだ。裏ルートで売ろうとすれば、それをネタに無理難題を押し付けられて、役に立たなきゃやっぱり犯罪奴隷として売り飛ばされる未来が待ってるだけだ」
「仰る通りですね。伊達にその極悪人顔で、裏社会の有象無象から小銭を巻き上げ、彼らに恐れられていた訳ではありませんね」
「そんな事実は無い」
「ギルドはどうやって盗品かどうかを見極めるんですか?」
いつの間にか
「それは企業秘密です」
しかし、それに対してリリーヌ嬢の返答は素っ気ない。当然だが。
「やり方が分かったら対策取られちまうからな。んで、結局何が問題なの?」
「
そう訊ねるリリーヌ嬢に対し、俺はどう答えたもんかと「ふむ」と悩む。
俺は冒険者だ。冒険者である以上、この手の情報は武器であるのだ。そうやすやすと話してしまって良いものではない。だが、ここで問題となるのが、この話をしているのがリリーヌ嬢という事だ。
……別に恐れをなしてるわけじゃないぞ?
リリーヌ嬢は、時折こうやって俺を試してくるんだよね。ここで対応を間違えると、あとできつーい御仕置が待ってるなんて事にもなりかねない。
いやだから、別にそれを恐れてるわけじゃないぞ!
冒険者としては、この情報は秘匿しておきたいところだ。こののち、鱗粉を安定してギルドに納めることが出来るようになれば、それなりに大きな利益を独占出来るし、冒険者としての地位も上がるだろう。
だが……。
「……ギルドはこの情報にどんぐらいの値をつける?」
「ご主人様! いくらリリーヌ様の御仕置が怖いからと言って、重要な情報をホイホイ伝えるのはどうかとンゴホッ!」
「違ぇよ!」
ティルルカに拳骨を落としながら俺はその言葉を否定する。俺が情報の秘匿を選ばないのは、リリーヌ嬢が怖いからではない。
違うったら違うのだ!
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