第55話 下位冒険者は新たな仲間を獲得する その弐
「ご主人様、
森の中を歩いていると、さっきの変質者じみた表情とは打って変わった真剣な顔で、ティルルカがそう警戒を呼び掛けてきた。
「数は?」
「………四体ですね。もうこちらに気付いてます」
「なら、いつも通りに」
「了解しました。
ティルルカは、俺の言葉に返事するやいなや、背負っていた大盾を手に取り、全身に魔法の薄い膜を張り巡らせながら軽快に走り出した。
その足取りは、冒険者になりたてだったあの頃とは違い、本当の意味で軽やかだ。あの頃は、一見するとなんの不自由も無く駆けていたように見えても、実はかなり神経を尖らせて進んていた。目が殆ど見えないティルルカは、万物に宿る魔力を感知して動かなければならず、森の中のような足場の悪い場所では、神経と魔力をすり減らしながら動いていたのだ。
今ではだいぶ慣れてきたので、そこ迄の疲労は無いと本人が言っていた。足場に気を使いつつも、周辺への警戒を解く事もなく、自分の役割を全う出来る行動を自然に行う事が出来ている。
「
森の中では、
俺はそれを見て、一番後ろにいる個体を狙って大きく回り込む。それに気付いたその一体は、幾本かの枝を鞭のようにしならせ、俺に向かって打ち放ってきた。
これは
枝の鞭を時には避け、時には短剣で受け流し、更には左手に装備した手甲で受け止める。長剣等の長物には全く適正が無い俺だが、冒険者となってからこれまでの経験で、短剣や体術にはそれなりに自信が付いてきていた。
しかも俺達は、
今、ティルルカが装備している大盾は、その時に得た素材を元に、行きつけの防具屋のドワーフの血を引くあのおやっさん作ってもらった業物だ。ティルルカ本人はすこぶる不満顔だったが、それでも文句のつけようがないその出来に、苦渋の表情で受け取っていた。おやっさんはそんなティルルカの様子にご満悦だった。あのおやっさんも良い性格してるよな。
俺は何度か
『っ?!』
顔が無いから表情を読めず分かりづらいが、
俺がやったことは単純だ。動きに緩急をつけて俺の『速さ』を誤認させ、防御から一気に攻撃に転じただけだ。
俺が間近に近づき、ようやく他の攻撃手段を取ろうとする気配が見えるがもう遅い。
「
俺の魔刃が
あと三匹。
俺は立ち止まる事なく走り出す。勿論、ティルルカが引き付けている他の
俺は状況を把握する為、直ぐそちらに視線を向け、ハッとなる。それは視線を向けたその先から、不思議な光景が飛び込んで来たからだった。
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