第54話 下位冒険者は新たな仲間を獲得する その壱


「さて、そろそろ行くか」


「そうですね。まだ、依頼された素材が全部集まってないですし」


 食事を終えた俺達は、その後始末を終えると依頼クエストに戻るべく行動を開始した。


 今日受けてきた依頼クエストは、素材採取が主なもので、それは森に自生している薬草や木の実も有れば、魔物モンスターを倒して得なければいけないような物まである。


 俺とティルルカは、最早なりたての新米冒険者ではない。見習い期間を除けば、ライセンスを取得してから一年半以上の時間が経過している。等級も上がり、下位ではあるが中堅に片脚を突っ込み始めた冒険者だ。


 因みに冒険者の等級は八つに区分され、それぞれ


 見習い期間の『白石』

 なりたて〜新米の『黒石』

 中堅所で数も多い下位冒険者である『銅』

 熟練者ベテラン熟達者エキスパートが多い中位冒険者の『鉄』

 中位冒険者の中でもある程度の功績を挙げた『銀』

 才能豊かで経験値も高い上位冒険者に当たる『金』

 上位冒険者の中でも高い戦闘能力を持つ『金剛石ダイヤモンド

 世界で数えるほどしか居ない特級冒険者『魔鉱石アダマンタイト


 以上のように分かれており、俺とティルルカはついこの間銅等級に昇格したのだ。これはペースとしては特に早くも遅くもなく、一般的な昇格速度だ。


 銅等級は、真面目に依頼クエストをこなしてさえいれば、言ってみれば誰でもなれる等級なのだ。ここから先は長く険しい道が続いている。


 鉄等級や銀等級に昇格するには、深い経験を得るための長い時間や誰が見ても分かるような高い潜在能力ポテンシャルを認められる必要があるのだ。


 あと一つ付け加える物があるとすればそれは運だ。


 良い経験を積めるかどうか………自分が秘めている潜在能力ポテンシャルを他人が見出し理解できるのか………その大部分は運によるところが大きい。運が無けりゃ良い経験に巡り会える確率も低いし、潜在能力ポテンシャル………言い換えれば才能って奴だが、これは外からは分かりにくいものも多い。これを見つけてくれるような出会いってのもやっぱり運によるところが大きいだろう。


 俺はこの辺の『運』ってやつには見放されてる節があるし、地道にコツコツ積み上げていくしかないだろうと思っている。まぁ元々そこまで等級ランクには拘りがないから、銅等級に上がれたのでそれなりに満足だしな。


「………付いてきてますね」


「そうだな」


 後ろを振り返れば、二股尻尾の山猫リックマータ姿の二つの姿を持つ幻獣グラッツェンが付いてきている。懐かれたかな?


「まぁ、敵意が無いなら困るもんでもないし良いんじゃないか?」


「ですね。寧ろもっとお近づきになってモフりたいです」


 ティルルカがそう口にした途端、グラッツェンはビクリと身を震わせて、ほんの少しこちらから離れた。


 まぁ無理もない。ティルルカのセリフは、ジュルリと舌なめずりをした上で変質者じみた視線を繰れながらのものだったのだ。生存本能を刺激されたとしても不思議ではない。


「そんな事よりこれからのことだ」


「それもそうですね。あと必要なのは幻影揚羽ゲノパピヨンの鱗粉と動く樹木レッサートレントの樹皮ですね」


「パピヨンとトレントかぁ………トレントは如何とでもなるけどパピヨンはなぁ………」


「あたし達、飛行系の魔物モンスターとか、幻惑攻撃して来るような魔物モンスターとか苦手ですもんね」


 そうなのだ。強力な飛び道具や攻撃魔法の無い俺達は、只でさえ、空を飛んでる魔物モンスターには相性が悪い。その上、パピヨンどもは獲物を幻惑し捕食するのだ。幻惑攻撃に対する対抗魔法も存在するが、俺達二人はその手の魔法には疎いのだ。正直、関わり合いたくない部類の目標魔物ターゲットモンスターなんだよな。


「まぁしゃーない。依頼が来てる以上、採取を諦めるってぇ選択肢はない。なるべく単独でふらふら浮いてる獲物を見つけて、さっさと倒して採取しちまおう」


「情けないけど、それが最善ですもんね。アイツ等の感知外から攻撃出来るような飛び道具はないし、罠を仕掛けて惹き寄せても、一匹ならともかく沢山集まったら対処出来なくなっちゃいますし………」


「言うな。この先が思いやられる」


 これは俺達の今後の課題だ。この先もコンビで活動するなら、いつかこの問題も解決していかなきゃならないだろうが、それは今すぐ解決できるって事でもない。


 金を掛ければ防具や魔導具アイテムで対処できるだろうが、今の俺達ではそれが続けば簡単に破産するだろう。


 普通は魔法に頼って攻撃を防いで対処するか、幻惑攻撃の射程圏外から速攻で片付けるかで対処するかになるのだが、どちらも俺達には荷が重い。


 となれば、俺達に取れる手段は限られてる。偶然はぐれ出た獲物を討伐するとか、俺達と同じぼっち属性の獲物を延々と探し続けるとか、他の冒険者達のお溢れを狙うとか、あとは本末転倒になるがどっかから鱗粉を買い取って来るとか………少々情けない話だが。


 まぁ、銅等級の下位冒険者なんてこんなもんだ。背伸びし過ぎて死んじまう冒険者なんてのも後を絶たない。


「無理して命の危険に晒されるより、情けなくとも確実性を取るのってのが俺達のやり方だ」


「ですね。じゃないと………夜床でご主人様に可愛がって頂けませんし、キャ♫」


「ほぉほぉ、ルカには『可愛がって』くれるご主人様ってのがいたんだな。それは良かった。俺の肩の荷も降りたよ。良かった良かった」


「じょじょしょじょ冗談ですよ! 冗談ですからそんな心の底から安心し切った良い笑顔で話しを終わらせようとするの止めて下さいよぉ! ちょっとご主人様ぁ〜」


 

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