第56話 下位冒険者は新たな仲間を獲得する その参


 自分が受け持った動く樹木レッサートレントを倒して直ぐに、他を引き付けているティルルカの救援へと向かうべく視線を向けた俺だったが、飛び込んできたその光景に一瞬目を疑った。


「………えーと………ルカ?」


「ひ〜ん、ご主人様ぁ〜! 助けてくだいよぉ〜」


 そう救援を求めるティルルカだったが、俺としてもどう対応すべきかと戸惑いを覚える。


 何故なら………


「俺にはそいつらが、身を削ってお前に貢いでるように見えるんだが………」


 三体の動く樹木レッサートレントが盾を構えるティルルカを取り囲み、何故か外皮を削ってベロリと剥がし、彼女の前に置いている………いや、『捧げている』って表現がしっくりくるな、どう見ても。


 文字通り身を削ってるってわけだ。


「お前、いつの間にか魅了チャームとか調教テイムとか使えるようになったのか?」


「そんな便利な魔法使えるようになってたら、ご主人様を魅了チャームして、あたしの初めて捧げてますよぉ〜」


 ぶっちゃけ過ぎだろ。まぁ今に始まった話じゃないが。


「んじゃ、この状況、どう説明するんだ?」


「あたしも良く分からないんですが………そう言えば、この子達と接触する直前に、猫のものに似た鳴き声が聞こえたような………」


 そう言ってティルルカがチラリと視線を向けた先には、二股尻尾の山猫リックマータ姿の二つの姿を持つ幻獣グラッツェンが、大きく口を開けてふぁ〜っと欠伸をしているところだった。


「………あいつの仕業か?」


「おそらくは。それに仕業というよりは『お礼』ではないですか? 幻獣は頭が良いですし………」


「なるほど………なら………」


 俺は、毛繕いを始めた幻獣グラッツェンに近寄りながら声を掛ける。


「もしかして、あれってお前がやってくれたのか?」


 親指で背後のティルルカ達を指しながら、俺はそう問い掛ける。すると幻獣グラッツェンは毛繕いを中断し、俺の目を見ながら「ナァ〜」と返事を返してきた。


「そうか………ならアイツ等を追い払えるか?」


「ナァー」


 幻獣グラッツェンは再度そう返事をしてすっくと立ち上がると、せっせとティルルカに貢いでいた動く樹木レッサートレントに近寄り「ナァ」とひと鳴きした。すると幻獣グラッツェンの額の辺りに魔法陣が描き出されて瞬時に消える。


「あっ?! 魔木トレント達が………」


 そのティルルカの呟きの通り、動く樹木レッサートレント達はテクテクと歩き出して、森の奥へと消えていった。


 残ったのは、貢物?として捧げられた樹皮の山だった。


「………なにか申し訳ない気分になってきますね」


「そうか? 楽して素材が手に入るなら、それに越したことはねぇだろう」


「冒険者の矜持って言うかなんと言うか………」


「戦ってぶちのめして奪い取るってだけが冒険者のやり方ってわけじゃねーだろう」


「そう言われるとヤクザみたい……いえ、はっきりとヤクザですね。確かに平和的に貰えたんだから良しとしましょう」


「そー言うこった」


「ご主人様のそういう所も素敵です! みんなからゴブリン並みに顔と心がが歪んでるって言われてもめげずに平和的な行動をうごぐげっ!」


「誰がゴブリン並だ! しかも顔だけじゃく心もって、益々表現が酷くなってるじゃねぇか!」


「はぁ………これです………この拳骨があたしとご主人様の愛の絆………はぁはぁひはぁ……」


 恍惚とした表情で、はぁはぁ言ってる変態ティルルカは放っておくことにして………と言うか見ないようにして、俺は幻獣グラッツェンに視線を繰れる。幻獣グラッツェンもティルルカの様子にどん引きしたのだろう、微かに震えながら、そっとティルルカから視線を外している。


「お前さん、一緒に来るか? いや、一緒に来ると、もれなく変態あれも付いてきちゃうけど」


 俺の台詞に、チラリと変態超変態へ視線を繰れ躊躇する様子を見せる幻獣グラッツェン。目を瞑り、頭をゆっくり巡らすその姿は、人が思い悩む姿にそっくりだ。


 そして暫しの逡巡を経て、結局は付いて来ることに決めたようで、俺の側へと近寄ってくる。そんな幻獣グラッツェンの鼻先に、俺はお手製の干し肉を差し出した。それを美味そうに食べ始める幻獣グラッツェン


 本来ならここで格好良く調教テイムの魔法を使って魔物モンスターを契約で縛るのだが、俺にはそんな魔法は使えない。


「………ルカ、お前調教テイム使えたっけ?」


 未だはぁはぁ言ってるティルルカに、俺はそう尋ねた。


「え? 何ですか?」


「だからお前は調教テイムの魔法使えるかって聞いたんだ」


 そこで俺がチラリと幻獣グラッツェンへと視線を繰れると、ティルルカもそちらに視線を繰れる。


「それは………無理ですね」


 俺の仕草で意図を覚ったのだろう、少し難しい表情を浮かべてそう答えるティルルカ。


「だよなー。どうするかな………」


「幻獣には契約せずに従う子もいるって言いますし、一般的に幻獣グラッツェンは大人しくて人間に害がないことでも有名ですから、そのまま街に連れて行っても問題ないのではないですか?」


「外見は二股尻尾の山猫リックマータだけど………」


「尚更大丈夫だと思いますよ。二股尻尾の山猫リックマータは自分より魔力が高い相手に絶対服従するので、わざわざ調教テイムで契約を結ぶことは有りませんし、王都の方では一般家庭でも普通に飼われてるので、契約してなくても不自然ではないと思います」


「なら良いか。お前、俺達と一緒に街に入るなら、その姿のままでいて欲しいんだが良いか?」


 黙々と干し肉を食べ続けていた幻獣グラッツェンは、俺の問い掛けに顔を上げた。


「ナァ〜」


「良いみたいですね」


「だな。あとは連れて行くなら名前あった方が良いよな?」


「ですね」


「………ショルツでどう?」


「ナァ〜」


「良いみたいですね」


「だな。これから宜しくな、ショルツ」


「ナァー」

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