第52話 下位冒険者は森の中で幻獣に出会う
「あっ!」
少し休憩しようと安全地帯へと向かっていると、突然ティルルカが声を上げ立ち止まった。
「ルカ、どうした?」
「いえ、すみません。さっきの魔鳥なんですが、魔力の波長が昨日、森で遭遇した魔獣と似ていることに気付きまして………」
そう言って考え込む仕草を見せるティルルカ。
そう言えば、最近の話だが、ティルルカと名前を呼ぼうとしたら何故か『ティルルルルカ』になって、彼女の機嫌を損ねてしまうという事件があって、それ以来本人からの申し出で『ルカ』と呼ぶようにしている。
「………魔鳥と魔獣じゃ違いすぎないか? 使い魔とか?」
使い魔は魔力で創られた疑似生命体で、その姿は術士のイメージによって創り替えが利くものだし、魔鳥の姿を魔獣に変える事くらいは可能だろう。
ただ使い魔は、魔力で疑似肉体を創り上げるという術の性質上、小鳥や猫などのような極力小柄な動物をイメージ元として選ぶ傾向にある。魔鳥や魔獣じゃ、無駄に魔力を多く使い、使い魔として具現化出来る限界時間がかなり短くなるだろう。
それに………
「使い魔でしたら、あたしにならそれと気付けます。何処かで『視た』記憶が合ったのですが、形が違い過ぎて気付くのが遅れました」
ダヨネー。魔力を視ることが日常のティルルカなら、使い魔かどうかは一目瞭然だろう。
「そりゃまぁ魔鳥と魔獣じゃ似ても似つかないからな。でも、流石に同一存在って訳じゃないだろ?」
「普通に考えるとそうなんですが………これ程、魔力波長が同じだと、同一存在だとしか思えません」
「それじゃ、人間が変化魔法で化けてるとか?」
「それもあり得ますが、それよりも以前どこかで読んだ
まぁ変化の術だったなら、そんな術を使ってまで、いったい何を観察してるのかって問題も出てくるし、幻獣って言われた方が確率が高いし納得もしやすいだろう。ホーリーグリフやユニコーンなんかの珍しい幻獣なら驚きたが、そんな珍しいものだけが幻獣として存在している訳ではない。
因みに幻獣ってのは魔法を使える魔物の総称で、その昔、魔法によって生み出された生き物らしい。所謂魔法生命体って奴だ。
「二つの姿を持つ幻獣………この間、遭遇した魔獣は、二股の尻尾を持った山猫みたいな魔獣だったよな? 確かリックマータだっけ? あれに似た姿だった」
「はい。そしてさっきの烏みたいな魔鳥がクワトローナの姿でしたので、その二つの姿を併せ持つ持つ幻獣と言えば、グラッツェンだと思われます。この森周辺で比較的目撃情報が多くて、遭遇したって冒険者も多いですし」
「つーことは………あれか?」
「はい、おそらくは………」
そう言って立ち止まり、ティルルカが視線を向けた先では、グラッツェンと思わしき幻獣が烏のような魔鳥の姿でバサリと翼をはためかせながら大木の枝に降り立ったところだった。
すると、その姿が霧がかったように歪み、次の瞬間には二股の尻尾を持った山猫のような魔獣の姿へと変化していた。まるで俺達の会話を聞いていたかのような登場と変化だ。
「………あれってやっぱり………」
「だな」
山猫姿の魔獣は見覚えがあった。あれは、昨日の
ま、あれだ。
「餌付けしちゃったって訳だな」
「昨日の食事はまた格別に美味しかったですからね」
昨日の食事を思い出してか、ティルルカはよだれでも垂らすんじゃなかろうかと心配になるくらい緩んだ表情で、エヘエヘとだらしない声を漏らす。
「昨日は鳥の香草蒸し焼きを試したんだったな………って鳥肉食わせたってことは共食いか?!」
「別に自然界では猛禽類が他の鳥を獲物にする事は普通ですし、共食いには当たらないのでは? あの子も嫌がってなかったですし」
「寧ろ、また食わせろって感じだな」
じいーっとこちらに向けている視線を見れば、言葉は分からなくともなんとなく何が言いたいのか分かるってもんだ。
「まぁ、良いか。こっちに危害を加えようって感じでもないし。ルカ、一応見張っとけよ」
「了解しました!」
差し当たり、敵意のない幻獣は無視する事にして、俺とティルルカは森の中を進む。その間、幻獣は付かず離れず一定距離を保ってついて来ている。
程なく目的地にたどり着き、俺達は周辺に幻獣以外の
「………やっぱりついてきましたね」
尻尾と、恐らくは魔法を使って地面を綺麗に整え、その場に丸くなる幻獣を見ながら、ティルルカはポツリと呟いた。
「だな。これはまた幻獣様に喜んで頂くために腕によりをかけて作らなきゃなんないな」
俺は苦笑しながらそう冗談を口にして荷を解いた。
という訳で、俺はティルルカと幻獣に見守られながら食事の準備を始めたのだった。
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