第45話 なりたて冒険者は受付嬢から魔法剣を伝授される
視線の先で切断された立木の半分がポトリと地面に落ちるのを見送り、俺とティルルカは互いに唖然と顔を見合わせた。
「『視えた』か?」
「いえ。気が付いたらポトッて音がしてました」
いやまじ意味分からん。斬撃が届く距離ではなかったし、かと言って木剣に通した魔力を飛ばした様子も無かった。飛ばしてたら、立木の後ろにも斬撃の影響が出てるはずだろう。
今のは、リリーヌ嬢が剣を振るったと同時に、他への影響が全く無いにも関わらず、立木が断ち切られていたのだ。
「いや待て………剣を振るったと同時に断ち切れる………」
今でた言葉を頭の中でイメージしてみる………振るわれた木剣………断ち切れた立木………
「まさか………」
「ご主人様、分かったんですか?!」
「もしかしてだけど………剣を振るったと同時に立木が断ち切られていたって事は………切先の『延長』?」
「え? それって魔力でコーティングした木剣の切先から、魔力の刃を伸ばしたって事ですか? で、でも、あたし、しっかり『視て』ましたがそんな痕跡ありませんでしたよ?」
魔力をオーラという形で『視る』事に長けているティルルカは、俺の言葉に猜疑の目を向けて来る。その気持ちは分からなくもない。俺も全く見えなかったし感じなかった。
だけどそう考えるのが最も妥当なように思える。
「魔力隠蔽か単に早すぎて俺達のレベルじゃ見えなかっただけか………どっちにしろ、切先を伸ばして斬り付けたと考えるのが一番しっくり来る」
そう言って、俺はリリーヌ嬢に視線を向ける。
「クロさんが仰った解答でほぼ正解です。正確には、薄く引き伸ばした魔刃を振るったので、視覚では認識しずらかったというだけですが。薄くしすぎたせいで根元の木剣が纏う魔力に意識を奪われ、ティルルカちゃんには『視えなかった』のでしょう」
魔刃ってーのはその名の通り、魔力で作り出した刃の事だ。本人の魔力強度や刃物に対する
「あの一瞬で魔刃を創り出して、見てる俺らに認識させずに振るって見せるって………そりゃ俺達のレベルじゃまだアンタの足元にも及ばないのは分かってたけどさ………」
ちょいと凹む。自分自身が強くなれば強くなるほど、レベルの違いっていうか、才能の違いっていうか………ともかく少し劣等感を覚えるくらいに自分との実力に差を感じちゃうな。
俺のそんな内心に気付いているだろうに、リリーヌ嬢は当然の如く全く気を使う様子はない。
「魔力で作った刃は重さも無いですし、慣れればあの程度の距離なら引き伸ばして振るう事ができます。放出系の魔法とは違って魔力の消費も少ないですし、覚えると便利ですよ? 対人戦闘ですと魔力障壁で防がれてしまいますが、間合いを誤魔化したり、手前の敵を狙うと見せかけて奥を狙ったりと、悪人顔で性悪冒険者と
「その性悪云々
「あとで文句を言われても責任は負えませんので、予め真実を告げておこうかと思いまして」
澄まし顔でそう曰うリリーヌ嬢に一矢報いたいが返り討ちに合うのは目に見えてるのでグッと我慢する。
チクショーイ。
それはともかく、俺は短剣を取り出し、身体強化に回している魔力を短剣へと送り込む。リリーヌ嬢のスムーズな魔力操作と比べると、悲しくなるくらい拙い。
「武器に魔力を留めるには少し経験とコツが必要になります。まずは斬撃や刺突に合わせて魔力を流し込むように操作すると、感覚が掴みやすいと思います。こんな風に」
そう言って、リリーヌ嬢は木剣を逆手に持つと、剣先を地面に穿った。あまり力が入っていないように見えたのだが、木剣は地面に半分ほど突き刺さり、蜘蛛の巣状のひび割れを地面に描き出す。
「「………」」
俺とティルルカは言葉も無く唖然とその光景に目を奪われた。
「さて、お腹も空きましたし今日のところはこの辺までに致しましょう」
そう言って、リリーヌ嬢は半ばまで突き刺さった木剣をサクッと抜き放つと、未だ衝撃が抜けない俺とティルルカを尻目にその木剣を元の場所に置きに戻り、そして直ぐにこっちに戻ってきた。
「クロさん、今日の晩御飯は何ですか?」
「はぃ?」
突然そう問い掛けてきたリリーヌ嬢の意図が分からず、しかも一連の出来事の衝撃が抜け切れていなかった俺は、小首を傾げて間の抜けた返事をかえした。
「ですから晩御飯です」
「いや………住み始めた奴隷商の社員寮の食堂の賄いだけど………」
「………は?」
「「ヒィッ!?」」
一気に空気が氷点下に急降下して、思わず俺とティルルカの口から押し殺した悲鳴が漏れる。
「いいいいいいいや、今日はティルルカとコンビを組んで初めての戦闘だったし、流石に食材集める余裕なんて無くて………」
「………」
「ヒッ………だだだから、今日は何も無いから、作ろうにも作れなくて………」
「………」
「えーと………あの………」
「………」
「し、私財を擲ち作らせて頂きますぅ………」
結局作ることになった。
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