第46話 なりたて冒険者は女奴隷との連携を深める
『ガルルル!』
「
迫り来る魔狼に対し、ティルルカが魔法を使って対抗する。不可視の障壁が彼女を包み、咆哮が魔狼の行動を縛る。
俺はそれを囮に、直ぐさま行動に移る。此処からは時間との勝負だ。狙いは、ティルルカの障壁と魔狼が激突するその一瞬。つまりは魔狼の意識が俺から逸れるその一瞬だ。
『グァルァァァァ!』
「てぇぁぁぁ!」
障壁に魔狼が激突し、それをティルルカが押し返す。その瞬間、俺は既に魔狼の直ぐ脇にまでたどり着いていた。
『ガルア?! ガッ』
「
魔狼は直ぐに気付いたが、時すでに遅し………だ。俺の短剣が魔狼の首を横から突き刺さり、俺の魔力がその切先から瞬時に流れ出て、首の反対側へと突き抜ける。リリーヌ嬢が見せてくれた魔刃を模した魔法剣だ。
強靭な生命力を誇る魔物といえども、首を完全に貫かれては耐えられない。魔狼は直ぐに絶命する。
「ご主人様! 次、北北東から二体です!」
「
「はい!」
「なら直ぐに
「了解です!
ティルルカの
『『ガルラァァァ!』』
草むらから飛び出してきた二匹の魔狼は、俺のマントとティルルカに向かって一直線に駆けていく。ティルルカの方に向かった魔狼はそのまま彼女の障壁に激突し、もう一方の魔狼は俺のマントに突っ込んだ。
俺のマントに突っ込んで来た魔狼は戸惑う様子を見せながら、バサリと被さり視界を遮ったマントをなんとか振り解こうともがいている。
マントには俺の匂いが染み付いている上に、魔力によって人間の動きを模している。正直人間が見たらただの布切れがヒラヒラ舞っているだけに見えるだろうが、相手は獣なのだ。匂いと魔力を誤魔化せば、完全には無理であっても一瞬意識を反らせる事ぐらいなら可能である事を、この所の経験で理解していた。
俺は両手を組んで握り締めて魔力を篭めると、魔狼の頭があるであろう場所目掛けて振り下ろす。
「
『グカッ』
俺の
威力はあるがリーチが無いので当てるのが難しく、使用場面が限られる使い所の難しい技なのだが今回は上手く行った。
すると、仲間を殺られて怒りを覚えたのか、ティルルカに襲い掛かっていた魔狼が、咆哮を上げながらこっちを向いて身構えていた。
だが、それは悪手だ。
「
ティルルカの棍棒の一撃が、魔狼の胴体を激しく打ち据える。
『グァッ』
その一撃に骨を砕かれ、弱々しくなく唸りながらヨロヨロとふらつく魔狼。
俺はそんな魔狼に素早く近寄り
「
トドメのための一撃を突き刺した。魔力の刃は正確に魔狼の魔核を砕き、瞬時にその肉体を塵へと変える。
「………周辺に敵影なしです」
「了解。周辺の警戒は任せるから引き続き頼む。俺は討伐証明の素材採取しとくから」
「了解です!」
元気よくそう返事をかえして寄越すその様子見れば、ティルルカには怪我はなく、それほど消耗もしていないだろう事は見て取れる。取り敢えずは安心し、彼女に気付かれないようにホッ息を吐く。
俺とティルルカの二人は、あのリリーヌ嬢との訓練を経て、魔物の討伐依頼をこなす様になっていた。今回は幾度目の依頼だったか………ともかく、俺達二人の連携は、だいぶ形になって来ていて、魔狼やゴブリン程度なら、何匹か徒労を組んでいたとしても対応出来るくらいには成長していた。
「………そろそろ次に進むべきなのかもしれないな………」
討伐証明の牙を抜き取りながら俺がポツリとそう呟くと、それにティルルカがピクリと反応してこっちに顔を向ける。
「あたしもそれが良いと思います。愛が深まったお陰で「愛など無いわ」だいぶ連携取れるようになりましたし、同じ魔物ばかり相手してると、危険は減りますけど自分達の成長が阻害される恐れもありますし………」
『慣れ』ってのは偉大で、戦闘を楽にしてくれるのは確かだが、それが時には弊害になる事もある。同じ敵ばかりを相手していると、大体同じような戦闘の流れが繰り返される事になり、戦闘がルーティン化してしまう恐れがあるのだ。こうなると、何かイレギュラーな事態が起こった場合に、対処出来なくなる恐れがある。
そうなる前に、他の魔物との戦闘も経験し、不測の事態に対処できるよう、スキルを磨かなければならない。
「となると次にどの狩場で経験を積むかだが………」
「人型であるゴブリンや獣型である魔狼を相手にしてきたのですから、その他の魔物を選ぶべきかと思います」
「だな。それじゃ、魔木型の魔物を選ぶとするか。そろそろお前の大盾をグレードアップさせたいと思ってたし」
「うぐっ………あのお爺さんの言いなりになるのは癪ですが………」
と言う訳で、今後の方針を固めたところで今日は帰還と相成ったのだった。
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