第42話 なりたて冒険者は初めてのパーティ戦に挑む その四
崩れ落ちた魔狼が再度動き出さないか注意深く観察していたのだが、どうやら間違いなく絶命してるようだ。
「ふぅ………ティルルカ、怪我は無い………って、どうした?!」
振り向いたらティルルカが四つん這いで肩を落としていたので、何かあったのかと俺は焦る。
「モフモフぅ………モフモフがぁ………」
「はぁ?」
「モフモフですよMOHUMOHU! ご主人様はモフモフを虐殺して何も思わないんデグガッ」
涙をちょちょ切らせて俺の襟首に掴みかからんばかりに迫ってくるティルルカの頭に拳を落としながら、俺は大きくため息を吐く。
「ったく、何があったのかと思えば………あの凶悪な面見てモフモフモフモフよく言ってられるな」
あざとく、涙目の上目遣いでこちらを見上げていたティルルカは、ムムッと不満気に頬を膨らませ、つつーっと視線を外して口を開いた。
「あたし、顔付きまでは分からないですし『モフモフは正義』が我が一族の掟です」
「顔付き分からずよく、んなこと言ってられるな。しかも、その一族とやらに奴隷に落とされといて、その掟に縛られるってのはどういう了見だ?」
「はっ?! い、いえ、確かにそれは一理ありますが、モフモフとは別に考えなくちゃならない事なんですよ!!」
「そもそも、魔狼はモフモフではない」
「………へ?」
「触ってみろ。俺はそれをモフモフとは認めない」
俺の言葉に、恐る恐る魔狼に近付き、そっとその死骸に手を伸ばすティルルカ。
「………っ?!」
雷にでも打たれたかのようにビクンと身を強張らせ、アイアンゴーレムのようにキキーっと首を捻って、顔だけこちらに向けてくる。
「な? それをモフモフと呼ぶのは憚られないか?」
その問い掛けに、ティルルカは苦渋の表情を浮かべ、ギュッと拳を握りしめてガクンと頷きを返してきた。
「魔狼の毛皮は硬いんだ。抱きついてもゴワゴワして痛いだけだ」
ティルルカはガバッと顔を上げ、仲間を見つけたかのように喜び勇んで俺の台詞に食い付いて来る。
「と、言うことはご主人様は抱きついた事があるんですね?」
目をキラキラさせてそう食い付いて来るティルルカには悪いが、俺の場合は抱きついた訳じゃない。
「普通に店の仕入れで触ったことあったんだよ。この間も言ったが、俺は冒険者になる前はとある商会のお気楽次男坊だったからな。魔獣系の魔物の毛皮はみんなこんなもんだったぞ?」
「夢も希望も無いお話しですね………冒険者家業してたらモフモフには巡り会えないのかもしれないのですね」
再度ガックリと肩を落とすティルルカの様子に、何やら罪悪感じみた感情が湧き上がる。
「ま、まぁ、動物の毛の質ってのは、生活環境や食生活に左右されるって話だから、美味い飯食って、優しくブラッシングされて、穏やかな暮らしをしている魔物ならモフモフになるのかもしれないな」
「そうですよね………まぁ、そんな魔物がいたら見てみたいものですけど」
「デ、デスヨネー」
視線を逸らし、卑屈にそう言うティルルカの様子を見れば、これ以上この話題を続けても結果わ変わらなそうだと理解出来る。
話題変えよう。
「魔獣系の魔物を相手にすると、ゴブリン達とは違った戦術が必要になるな」
「………そうですね。魔獣は気配に敏感で、こっそり死角に潜り込んでも、気付かれる可能性が高いです」
「よりティルルカに負担が掛かりそうだが問題無いか?」
「その為の前衛盾職ですよ。あたしが魔獣から脅威と見られれば、あたしに魔獣の意識が集中します。あとは、さっきのように、戦闘相手の魔物が躱しようのない攻撃を加えてもらえれば
「要するに複数を同時に相手しなくちゃならなくなった時か………」
「そうです。こればっかりは、実際にやってみないと程度は分かりませんが、おそらくゴブリンや魔狼なんかの低級魔物でも苦戦は免れないと思います」
「今はまだ無理する時期じゃないな。暫くは戦闘その物に慣れる事を第一に考えよう」
俺の言葉に、ティルルカは少し目を見開き、次いで優しげな笑みを浮かべてコクリと頷いた。
その笑みを不思議に思い、俺は小首を傾げて問い掛ける。
「………なんだ?」
「いえ、何でもありませんよ」
ニコリと笑ってそう言い切るティルルカに、俺は更に疑問を覚えるが、まぁ、本人が何でもないって言ってる以上、大した話ではないのだろうと、俺は話しを切り上げたのだった。
(このご主人様はやっぱり………普通なら、能力が足りない至らない前衛に、ましてや奴隷身分のあたしなんかにそこまで気を使う必要なんてないのに………噂なんてやっぱり当てにならないな………出来るだけ長く、お仕えできれば良いんだけど………)
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