第41話 なりたて冒険者は初めてのパーティ戦に挑む その参
「掛かって来なさいこの下郎! ご主人様専用肉壁であるあたしが相手です!」
そんなもん持っとらんわ! と、ツッコミを入れたいのをぐっと我慢し、俺は足音を立てないように注意しながら、ゴブリンの死角に向かって駆け出した。台詞の内容はともかく、ゴブリンの注意はしっかりとティルルカへと向いている。あいつへの折檻は、ゴブリンを倒したあとに考えよう。
今回は、足場をしっかり選んでおり、ティルルカの足元に不安は無い。受けに徹する事を求められているので、大盾を両手で持ち、迫り来るゴブリンに向かってジリジリとにじり寄っている。
「ギェェェ!」
芸のない奇声を発しながら、やはり芸のない棍棒の振り下ろしで仕掛けてくるゴブリンを、ティルルカは迎え撃つ。振り下ろされたその一撃を、『ガツッ』と鈍い音を立てつつも、ティルルカはその場から微動だにせず受け止める。さすがはドワーフの血を引いているだけはある。
本来ならば、この隙にゴブリンを背後から倒してしまえば良いのだが、今回は少し様子を見ることにする。
「ギギョ! ギギャァァァ!」
二度三度と振り下ろされる棍棒を、ティルルカは冷静に捌いてみせる。重いはずの大盾を、それを感じさせずに取扱う姿に、俺は少し安堵する。あれならゴブリン相手なら間違いが起こることもないだろう。腰に下げた棍棒を使えば、簡単に仕留めることもできるはずだ。寧ろ俺が一対一で戦うより、ずっと安全に安定した戦い方ができるだろう。
俺は完全にティルルカに意識を集中しているゴブリンの背後に周ると、その死角から攻撃を繰り出した。
「グガッ………」
完全に意識外から繰り出されその攻撃は、ゴブリンの意識を一瞬で刈り取り、一撃で仕留めることに成功する。
先程の戦闘の焼き回しのようだが、ゴブリンの身体はぐらりと揺らぎ、崩れ落ちる前に絶命した。
「よし………やっぱりパートナーがいると戦闘が楽だな。ティルルカどうした?」
「ご主人様! 次は魔狼です!」
戦闘態勢を崩さないティルルカに、俺は小首を傾げるが、その鋭い警告に直ぐさま自分も戦闘態勢を取り直す。
「距離は?」
方角はティルルカの顔を見れば分かる。
「100m先、こっちに気付いて向かってきてます!」
「数は?」
「おそらく一匹!」
その言葉通りに、その気配が獣の臭いと足音、唸り声等となってティルルカの視線の先から感じられる。
「戦い方はゴブリンと変わらない。行けるな?」
「はい!」
その返事と同時に『グルガァァァ!』と咆哮を上げながら、魔狼が飛び出して来た。
「モ、モフモフだからって、よ、容赦なんてしてあげませんからね!」
それの何処が挑発になるんだ? そう思ったが、どうやら魔狼はティルルカを獲物に選んだようで、ジグザグに動きながら彼女の死角に回り込もうと試みてる。
「つぶらな瞳で見つめないでぇぇぇ!」
悲鳴を上げながらも、的確に大盾を動かし魔狼の動きを牽制するティルルカ。
魔狼の凶悪な眼差しを『つぶらな』と表現する感性は引いてしまうが………あ、そう言えばティルルカはそこまで見えないんじゃないか? もしかしてオーラとやらではつぶらな瞳に視えるのか?
そんな疑問を口にする余裕も無く、俺はさっきの対ゴブリン戦と同じように死角に回り込むよう試みるが………
「クソッ………さすがに獣相手じゃそう上手くはいかないか………」
俺が死角に回ろうとする度、魔狼から鋭い視線が向けられる。気配察知能力はゴブリンの比じゃないな。
それを察したティルルカは、更に自分に注意を引くべく、魔狼の動きに合わせて大盾を突き出した。
「
『ギャインッ』
辛うじて直撃を避けたものの、魔狼はティルルカに意識を向けざるを得なくなったようで、俺に対する注意が少し散漫になってくる。
でもまだだ。俺は逸る気持ちを抑えてじっと魔狼の様子を覗う事に集中する。
ティルルカは更に棍棒を腰紐から引抜き、片手で大盾を巧みに扱いながら、棍棒で牽制し始める。
「
振り下ろされた棍棒の一撃は空を切り、そのまま地面を叩いた。しかし、振り下ろされたその勢いのまま地面で棍棒をバウンドさせ、更には身体の捻りを上手く使って軌道を修正し、避けた魔狼を追いかけるように横に払った。
魔狼は獣だけあって身が軽く動きが速い。攻撃は当てるだけでもひと苦労だ。だが、ティルルカはあくまで盾役だ。その攻撃を当てる必要は無い。あくまで牽制で問題ないのだ。
実際ティルルカの攻撃は、魔狼の逃げる方向を限定し、大盾の方へと誘導しているのがよく分かる。勿論それは、大盾をブラインドにする為で、俺を魔狼の視界から隠す事が目的だ。
俺はその期待に応えようと、完全に俺から意識を外してティルルカに集中し始めた魔狼に気付かれないよう素早く移動する。
「もういっちょ
『ギャワッ』
棍棒を上手く使いながら、今度は大盾の一撃を魔狼に食らわせるティルルカ。
魔狼は、辛うじてそれを受け流すが、完全に体勢が崩れ、瞬時には動けない決定的な隙が生まれていた。
俺は、大盾の影から飛び出し、魔狼に体当りするように一歩踏み出した。魔狼は俺に気付くが、もう避けようがない。
俺の短剣は魔狼の喉元に突き刺さり、そして横に払って切り裂いた。
『グガッ………』
俺は直ぐさま飛び退き、魔狼の様子を観察する。
魔狼はフラフラとよたつくと、最期はバタンと横倒れになったのだった。
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