第40話 なりたて冒険者は初めてのパーティ戦に挑む その弐
「普段、足元まで『視えてる』なら、それができる能力はあるってこった。後はもう慣れるしかねぇな。魔物と正対するまでは、『視えてる』んだろう?」
「はい」
「なら、初めの内は、足場の良いところで足を止めて迎え討て。無理に動かず相手を引き付けてくれれば良いから」
「分かりました。やってみます」
ティルルカは、表情をキュッと引き締めそう答えた。
「あんまり思い詰めんじゃねぇぞ? 上手くやろうとしなくていい。出来ることを確実にやればいいんだ」
「出来ることを確実に………」
「そうだ。今は足を止めて敵を引き付け、確実に敵の攻撃を受け止めろ」
「了解しました!」
ふんぬと気合を入れるティルルカを見て、俺は内心ため息を吐く。正直なところ、俺自身、今の言葉が正しいのか自信が無い。奴隷を従えた以上、自信の無い姿を見せる訳にはいかないと思っての言葉だ。
だが、此処で躊躇っていても先に進めない。今はこのティルルカを前衛盾職として独り立ちさせ、俺は少しでも楽をしたい。戦闘のたびに命を懸けてたら命がいつくあっても足りんだろうが。
「さて、行くか。ティルルカ、次はどこにいる?」
「近くにはいません。もう少し奥に行きますか?」
「そうだな………いや、このまま此処で素材採取をしながら、魔物に備える。そういう練習もしておいた方がいいだろうし」
そう言って、周辺を見渡し素材採取を始める俺。ティルルカには周辺の警戒を担当してもらう。
「この辺はマーナ草は少ないな………あ、ミカゲの実は結構なってる」
「どれがミカゲの実なんですか?」
尋ねるティルルカに、俺は実際に現物を渡して確かめさせる。
「………微かに魔力を感じますね。でも、個体識別出来るほどの個性は感じられないです。もう何個かミカゲの実を集めて頂けますか? 同じミカゲの実で違いがあるのかを知りたいです。それと他の木の実もお願いできますかね? そちらも違いがあるのか調べてみたいです」
その問い掛けに、俺は更にミカゲの実を採取し、更に地面に落ちてる適当な木の実を拾って渡す。
「やはり、ミカゲの実からは魔力を感じますが、他の木の実と確実に判別できるほどではないですね………ミカゲの実同士でも正直区別が付かないです」
「そんなに簡単に分かるんだったら苦労はしねぇ………いや待て。今思ったんだが、これを判別できるようになるまで繰り返せば、お前さんの感覚強化の訓練になるんじゃないか?」
「そうですね………『今』出来なくてもこれから出来るようになれば良いんですのよね! あたし、頑張ってみたいです!」
「なら、差し当たってこのミカゲの実を触ったり、舐めてみたり、潰してみたり、色々試してみろ」
「………それよりも、『視る』ことに集中した方が、訓練になるのでは?」
「感覚強化ってのは、多角的に物体を感じれるようにならないと効果が薄いと聞いたことがある。全く何も知識が無い状態よりも、ある程度体感して頭と身体で理解していた方が、結果として深く感知出来るようになるって話だ」
「ご主人様、よくそんな事知ってますね」
俺の言葉に、ティルルカは心底感心したかのような表情で
そう頷いた。
「俺は、総魔力量がかなり少ない。だから体内で魔力を循環させてその少ない魔力量を補いつつ高い効果を得られる各種強化魔法に力を入れてるんだ。その関係で、ギルドの資料室で文献をたくさん読み漁った」
「なるほど………ご主人様は、悪人顔、悪人顔、と罵られていながらも、ご自分の能力の研鑽を止めなかったという訳ですね? 尊敬しむかガゴガッ?!」
「だからお前は一言余計だ!」
「うう………この拳骨は、ご主人様からの親愛の印として甘んじて受け入れますぅ………」
「そんな親愛の印は嫌だぞ俺は………」
涙目になりつつも、少し恍惚とした表情が見え隠れしているその姿に、俺は少し引き気味だ。
気を取り直したティルルカは、ミカゲの実のひと粒をつまみ上げる。ミカゲの実は小指の爪くらいの大きさで、小さな果実のような構造だ。それを指でコロコロ転がしたり、摘んで硬さを確かめたり、最終的には潰して果汁を搾り出し、それを恐る恐る舌先で舐めた。
「ウッ……苦いです………」
「ミカゲの実は見た目は美味そうなんだけど、実は苦味とエグ味が強くて食用には向かないんだよな」
「舐める前に教えてほしかったです」
「先入観はヨクナイ」
「それ、絶対今思い付きましたよね?」
そんなやり取りをしていると、少し離れた場所からガサリと草場を掻き分ける音が聞こえて来た。
「「っ?!」」
俺達二人は慌ててそちらを振り返り、武器と盾を構え戦闘態勢を整える。
「またゴブリンか………まぁこっちとしては好都合だけど」
「今度こそ、役に立ってみせます」
キリッと表情を引き締め、そう誓うティルルカ。
「あまり気負う……「やれる事をやれ………ですね?」
俺の言葉を遮るように、ニッコリ笑みを浮かべてそう返すティルルカの頭を手のひらでポンと叩く。
「そういうこった。やれるな?」
「はい!」
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