第39話 なりたて冒険者は初めてのパーティ戦に挑む その壱
生い茂った草場を割って出て来たのは、ティルルカの報告通り一体のゴブリン。そのゴブリンは、こっちには全く気付いていなかったようで、慌てて手に持った木製の棍棒をこちらに向けて来た。
「ゴブリン発見! 戦闘に移行します!」
そう大声を出し、大盾を前面に出しながらゴブリンに向かって駆け出すティルルカ。ゴブリンもそれを迎え撃つように「グゲェェェ!」と奇声を発しながら、ティルルカに向かって駆け出した。
盾役としては正解だ。盾役は何よりも敵の注意を引き付けなければならない。俺もそれに合わせて動き出し、ゴブリンの視界から逃れる様に移動する。
「掛かって来なさうぃぐぼふぇ!」
「アギッ?!」
しかし、ティルルカとゴブリンが交錯しようかというその瞬間、目を疑うような光景が繰り広げられた。
地面から突き出た突起状の石に躓いたティルルカが、そのままバタンと倒れ込み、ゴブリンが斜めに振り下ろした棍棒は見事に宙を切って空振りしたのだ。
ゴブリンからすれば、目の前にいた敵が突然面前から消え失せたのだから驚きだろう。実際には、その敵は地面で盾を下敷きにうつ伏せで倒れている訳なんだが。
ゴブリンは一瞬、何があったのか理解できずに動きを止めたが、直ぐさま下で寝転んでる獲物に気付き、慌てて棍棒を振り上げた。
「グギッ! ガグ………」
まさにゴブリンが棍棒を振り下ろそうとした瞬間、背後に回っていた俺は、逆手に持った短剣をその首に突き刺した。流石にこの隙を見逃すようなら、冒険者を名乗れない。
ゴブリンからすると予想外の一撃が意識の外からやって来たのだ。防ぎようも無い急所への一撃は、このゴブリンの意識を一気に刈り取り、地面に崩れ落ちる前に絶命した。
「………」
「………」
ムックリと起き上がったティルルカの表情は、命名するならまさしく『無』。ただ、ちょっぴり耳の先が赤いのだが、それを口にするのは彼女の名誉のために止めておこう。
ティルルカは、何事も無かったかのように辺りを見渡し、一点をキッと睨んで声を上げる。
「ゴブリン発見! 戦闘に移行します!」
そうか。さっきのは無かったことにするのか。まぁ良いけど。
そして俺の視線の先では、先程と同じようにティルルカとゴブリンが交錯し………
「我が盾、貫けるもの無グゴボロッ………」
「アギャッ?!」
交錯する寸前に、今度は地面に落ちてる腐った果実を左足で踏んで、ズルリと滑って大きく前後に開脚してるよ。身体柔けーなおい。ゴブリンはまたも目の前から消えたティルルカを見失い、焦った様子でキョロキョロしている。
「グゲッ………」
「はい、ご苦労さん」
俺はその隙を突いて、ゴブリンさんにトドメを刺した。
「………」
「………その、なんだ………ドワーフってのは身体が硬いイメージが有ったんだが、思いのほか柔らかいんだな。それともそれは人間の血の方か?」
「………」
ティルルカは、俺の言葉に反応するでもなく、そのままゆっくりと立ち上がる。
「………ま、まぁ、こんな事もあるさ。それに敵を引き付けるって目的は十分に果たしてくれたし、俺は楽にトドメを刺せた。ある意味目的は果たしたわけだしな」
「………」
無言のまま、ティルルカは悔しそうに顔をクシャッと歪め、子供みたいな顔で涙を流し始めた。
「いいいいや、泣くほどのことじゃないって! 今はまだ戦闘自体に慣れてないだけだ! 次頑張れ! な?」
「………」
拳を握ってプルプル震えるティルルカの様子に、俺は頭を掻きながら近付いて、彼女の頭をポンポンと叩く。
「取り敢えず、なんで上手く行かなかったのか、冷静に分析してみような? 元々今日は、お互いの能力と戦闘スタイルを確かめ合って、今後の参考にする為に来たんだし………」
「………」
そこでティルルカは、グイッと涙を拭い、無言のままコクンと頷いた。
「先ずは何で転んだか………だ。俺が見たところ、森の中を歩く事自体は問題なかっだろ? 石も根っこもひょいひょい避けてたし」
「はい………普段は意識拡張強化で周辺の情報を感知してるんですが、さっき魔物を前にしたら意識がそちらに取られて、足元への注意が疎かになってしまってました………」
「親御さん達と一緒に戦闘してた時はそんな事はなかったんだろ?」
「はい。でも………思い起こせば、これ程足場が悪い所での戦闘は初めてだったと思います。それに両親は、あたしが魔物と戦いやすいように立ち回ってくれていたように思えます」
「それはまぁそうだろうな。つまり今回の失敗は足場の悪さを考慮に入れず、魔物に意識を取られすぎて突っ込んだことが原因だってことだな」
「そう改めて言われると、自分自身の思慮の浅さを思い知らされるようですね………」
「まぁ、お前さんの立場を考えれば、焦るのもしようがない。少しでも役に立つところを見せたかったんだろ?」
「いえ、相手がゴブリンだったので頭にカッと血が上って気付いたら突っ込んでました」
「フォロー台無し!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます