第38話 なりたて冒険者は女奴隷とパーティを組む その伍
「ご主人様! 直ぐに
防具屋を出て、鍛冶屋に戻ったが鎚のメンテナンスに少し時間が掛かると言われ、出来上がるまでの繋として木製の棍棒をレンタルし、俺達はカーフの森に向かっていた。途中、鞄や冒険に必要な道具等を色々購入して結構な荷物になった。
そこで、防具屋のおやっさんに揶揄された事が悔しかったのか、ティルルカは足を止め、そう訴えてきたのだ。
「駄目だ。まだお互いの能力も把握してないのに、行ったことのない場所で戦闘行為をするなんて自殺行為だ。先ずは俺が行き慣れたカーフの森で、軽く調整してからだ」
「うぐ………」
顔を顰め、グルグルと表情を変えながら、最終的には大きく息を吐くティルルカ。
「………はい、了解致しました。少し冷静さを欠いていました。申し訳御座いません」
俺の言葉に少し思うところがあったのだろう、ティルルカは多少不本意そうではあったが、そう言って頭を下げる。
「あの爺さんは、ああ見えてかなり高位の冒険者だ。新米の俺達には見えない物が見えてんだろうよ」
「不本意ですが、そういう事だと受け入れられるよう努めます」
表情からして全く受け入れられてないぞティルルカ。
「まぁ、俺としては元々堅実に行くつもりだったし、装備に技量が追い付かないんじゃ目も当てられない。遠回りに思えても、装備を整えるより先ずは技量を高めることが、冒険者としてのランクを上げる、最も近道な方法だって教えてくれたんだろうよ。死んだらそれまでだし」
「………ハァ………その通りですね。ゴブリンに遅れを取った事で少し焦りがあったようです。そういう意味では、あの鎚を直ぐに使えない事も、かえって良かったのかもしれませんね」
「そうだな。壁役に攻撃力が有りすぎると、それに頼りきりになって、壁として機能しなくなるかもしれんし、今は魔物の攻撃を防ぐ事を第一に考えて戦闘に臨んでもらう事にしよう」
「畏まりました、ご主人様」
完全に冷静さを取り戻したらしいティルルカは、軽く頭を下げてそう返してきた。
俺達二人は再び歩き出し、程なくカーフの森へとたどり着いた。目的は魔物との戦闘なので、魔物がいそうな森の奥へと移動する事にする。
「この辺の魔物は、一角兎や大鼠が大半で、ゴブリンが出るのも稀だ。もっと森の奥の方に移動して、素材採取をしながら進んで行く」
「了解しました。素材は何を採取するのですか?」
「ハクナギ草にハクセン、マーナ草にミカゲの実、辺りだな。特に
「………あたし、その辺は不得意かもしれないです………」
「目で見れないと、判断付きづらい物もあるからな。まぁ、採取自体は俺がやるから、周辺警戒と、荷物持ちを頼む」
「はい! 植物もオーラが見えない事もないんですが、多分その間、周辺への警戒が疎かになると思います」
「感覚強化による周辺警戒は神経を使うからな。慣れるまでは、無理する必要はない」
「そう言って頂けると助かります。早く素材採取の方でも約に立てるよう頑張ります。勿論、夜の方も頑張りま
「それはもういいっちゅうに………」
ティルルカの頭に拳骨を落とし、俺はそうため息をつく。殴られた頭を抑え、涙目の上目遣いで恨めしげにこちらを見詰めてくるが無視だ無視。
俺はティルルカを放っておいて、森の奥へと足を進め始める。すると、ご主人様の前方は自分の居場所だとばかりに、彼女は慌てて俺を守るように前に出る。
そっと、ティルルカを観察しいていると、木の根っこやゴロゴロと転がる石なんかで足場の悪い森の中を、器用にひょいひょい避けながら進んでいる。しかも周辺への警戒を怠ることもない。それを見れば魔力による感覚強化が上手く働き、日常では目のハンデを感じさせないとの評価は間違っていないと断言できる。
体力についても問題なさそうだ。大盾の他、冒険者に必要な装備や道具を身に着けた状態でも息も切らさず涼しい顔で進んでいる。
「取り敢えずは、ゴブリンや魔狼を相手に戦闘経験を積んで行く。ティルルカ、お前は相手を引き付け防御に徹しろ」
「分かりました! 盾役はお任せ下さい!」
元気にそう返事をしたティルルカは、背負っていた大盾を手に取り、それを構えながら進み始めた。更に神経を張り詰め、周囲に気を配っているのが見て取れる。
「前方より、ゴブリンらしき魔物が近付いてくるのを感じます」
「数は?」
「一体です。向こうはこちらに気付いていません」
「防御面を見たいから、相手がこちらに気付くまで待機」
「了解です」
すると直ぐに、ガサッと草むらが揺れる音が聞こえた。
さあ、いよいよ戦闘の始まりだ。
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