第34話 なりたて冒険者は女奴隷とパーティを組む その壱


「クロさん………とうとうそこまで思い詰めましたか………」


 リリーヌ嬢はそう言って、視線をそらして大きくため息を吐いた。


 ここは勿論冒険者ギルドの受付だ。俺は、正式にパーティメンバーとなったティルルカを主な活動拠点であるここのギルドに登録するため、なんか面倒くさいことになりそうだなぁと思いつつもやむを得ず足を運んでいた。


「確かに私は、貴方には仲間が必要と言いましたが、それは背中を預けられる友を作っては如何いかがでしょうか………という意味で言ったのです」


「いや、リリーヌさん何か勘違いしてません?」


「それを、欲望に駆られて欲望のまま抗えぬ相手を無理矢理手篭めにするだなんて………」


「いや、だから俺そんな事してな………」


「ここまで思い詰めさせてしまったのは私の責任です。そして、クロさんの毒牙にかかったその方をお救いするのも私の役目でしょう」


「いやだから! 俺、別に毒牙にかけたりしてないって!」


「問答無用です。世のため人のため私のボーナスアップのため、ここで大人しくお縄について頂きましょう」


 チラッと本音を漏らしつつ、リリーヌ嬢は光の速さで剣を抜き、俺の面前に切っ先を突き付けてくる。


「だから違うわぁぁぁ! ティルルカ! お前からも何か言ってやれ!」


 朝から、何やら頻りに後頭部を気にしているティルルカに俺は助けを求めた。


 するとハッと姿勢を正すと、深々と頭を下げた。


「………リリーヌ様。先日はあたしなどの為に色々と手続きをお任せしてしまい、大変申し訳御座いませんでした」


「………へ?」


 頭を下げて礼を言うティルルカに、俺は戸惑いの視線を送る。


「それが私の仕事ですので、お気になさらずに」


「へ?」


 気付くと切っ先はいつの間にか仕舞われている。相変わらず人間技とは思えない速さだ。


「お身体の方はもう宜しいのですか?」


「はい。頑丈さだけが、ドワーフの血を引くあたし唯一の自慢ですから」


「幾らドワーフの血を引いていると言っても、負担にならない筈がありません。ご自愛下さいね?」


 そういやこの間、依頼の報告したあとに全部対処してくれたのリリーヌ嬢だったわ。その時、ティルルカとも面識出来てたし、店主とも話ししてたな。クソっ………また担がれたのか………。


「そういう訳には行きません。あたしはご主人様の奴隷です。ご主人様のご命令とあらば、戦闘時にはご主人様の盾となり、ベッドの上では激しいご主人様の全てを受け入れる所存です!」


「………」

「ちょっと待てぇぇぇい!」


 ギルドの中は騒然となり、リリーヌ嬢からは表情が消える。


「お、俺は何かした覚えは無いぞ?! 誤解を受けるような表現は慎むように!!」


「えぇ………でも激しかったのは事実です。あたしは奴隷という立場としての制約上、嘘をつく事はできません」


 その一言に、ギルド内では更にざわめきが広がり、リリーヌ嬢の表情は無表情を通り越して見事なまでの営業スマイルが浮かんでいた。


 俺は誤解を解くべく慌てて口を開いた。これ以上悪評が広がってたまるか!


「確かに、ベッドが一つしかなかったから一緒のベッドで寝たけど、広いダブルベッドの端と端で寝たから触れてもいないだろうが!」


「いえ、ご主人様の寝相の悪さはかなり激しくて・・・・、朝起きたら床で寝てたじゃないですか? 度々そんな事になったら風邪引いちゃいます。あたしは奴隷として、ご主人様の体調管理にも気を配らなければなりません!」


「………いやそれ、お前だから寝相悪いの。お前の寝相が悪すぎて、俺はやむを得ず床に避難したんだよ」


「ええっ! も、もしかしてあたしの後頭部に瘤らしきものが出来ているのは………」


「ベッドから転がり落ちたんだ! 滅茶苦茶鈍い音してたのに、全く起きる気配もなくガーガー鼾かいて寝続けるお前に俺がビビったわ! 小柄な割に重いお前をベッドに戻すの結構大変だったんだからな!」


「な、なんて事………奴隷として失格です! ご主人様! 直ぐにあたしに罰をお与え下さい! なんなら今日は部屋に戻って、あたしのピーを奪って頂いても構いません! あたしはご主人様の奴隷ですので!」


「ちょっと待てぇぇぇい! なんで直ぐにそっちに結びつけるんだ!」


「ご主人様からの折檻で、奴隷が目覚める・・・・のはお約束の展開なんですよ!」


「なんかお前の奴隷観なんかおかしくねぇか?!」


「『女奴隷とご主人様シリーズ』では、いつもそうなんですぅ!!」


「またそのシリーズか………いい加減、その話題からはなれろ!」


 などとワーワーやっていたので気付かなかったが、俺達のやり取りをアホらしく思った周りの冒険者達は、もう散り散りになってギルドから出ていき、受付嬢様は、俺達を無視して通常業務を再開していたのでしたとさ。


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