第20話 エピローグ


『光弾よ 敵を撃て 魔法の矢マジックアロー


 俺の指先・・から放たれた、通常の半分以下の大きさの光の矢がヘロヘロと飛んでいき、指定された的へと命中する。


「これで十発ですね。先程の立ち木切断と合わせて課題はクリアーです。試験は合格。おめでとう御座います、クロさん。貴方は今日から冒険者です」


 お得意の営業スマイルを浮かべて、そう宣うリリーヌ嬢へ気の利いた返しも出来ずに、俺はその場にへたり込んだ。情けない話だが、成りたて初級冒険者でもこなせる十発分の魔法の矢マジックアローで力尽きる寸前まで行ったのだった。しかも呪文マジックスペルを改編し省エネで放ったのにも拘らず………だ。


 しかもヘロヘロ。


 見に来ていた野次馬共がやんややんやと野次を入れて来るが、俺はそれに反論する事もできない。ヘロヘロなのは事実だし。


「しかしクロさん考えましたね。まさか、呪文マジックスペルを改編し、消費魔力を抑える事に思い至るとは思いませんでした」


 そのリリーヌ嬢のひと言に、野次馬共が静まり返る。


呪文マジックスペル改編は、ある程度の知識とセンスが必要になりますから、見習いの冒険者ができる事ではありません。それを省みても今回の試験の合格は妥当と言えますね。悪人顔であること以外は」


 呪文マジックスペルの改編の意義を知らなかった俺は、リリーヌ嬢の前半の言葉に気を良くしたので、後半の悪人顔云々は脇に置く事にした。


「ふっ………悪人顔には悪人顔の矜持があるんだよ」


「ドヤ顔がこれ程絵にならない人も珍しいですね。嫌悪感しか湧きません」


「ほっとけ」


「クロさんの呪文マジックスペル改編は、初めてにしては上出来ですが………」


「そしてやっぱりそのまま話し続けるんかーい」


「上出来ですが、やはり少し無理のある改編です。正しくはこうなります」


 そう言うと、リリーヌ嬢は俺やった様に人差し指を的に向かって突き付け、魔力を指先に溜めつつ呪文マジックスペルを唱えた。


『敵を射抜きし一条の光 魔法の矢マジックアロー


 リリーヌ嬢の指先より放たれた魔法の矢マジックアローは、一般的なものより大きさが半分だが、それでいて魔力は寧ろ凝縮されているので威力が高い。


「まぁ、これだと射程は短くなりますがね。消費魔力は抑えられますが。どうせ省エネにしたいならこういう魔法がお薦めです。『光弾よ 敵を穿て 魔法の飛礫マジックバレット』」


 次いで放たれたリリーヌ嬢の魔法は、光の飛礫が螺旋状に回転しながら飛んでいき、そのまま的を貫通すると、さっと霧散して消えた。


「こちらならば、消費魔力は更に減り、魔力の込め方に寄っては威力も増します。総魔力量が少なく、それでいて魔力操作に長けた人間に取っては使い勝手の良い魔法になるでしょう。ただ、射程は短いのであまり離れていては使えませんが」


「なるほど………飛び退きながら牽制に使うとか、リーチを誤魔化したいときなんかに使えそうだな」


「流石はクロウさん。あくどい事を考えさせたら右に出る者はいませんね」


「いや、今の別にどこもディスる要素なかったよね?! 普通だよね?! 何でもかんでもオチに使わないでほしいんだけど!?」


「まぁ、何よりこの魔法の優れてる所は………」


「そしてやっぱり俺の抗議は無視ですかーい」


「悪人顔でも使えちゃう所です」


「悪人顔、関係ないやろー!」


「今なら特許使用料金一万バリスで使い放題」


「んで金取るんかーい」


「しようがないですね。それが嫌でしたら、今後もキチンと料理を貢ぎ………納めなさい」


「今、貢げとかなんとか不穏な台詞、言いかけてたよね?!」 


「気のせいですよ」

 

「んでしらを切りとおすと………」


 こうして何のかんのと言いながら、俺の冒険者ライフは始まるのだった。


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