第18話 ある見習い冒険者の初連戦 その後
「うはぁ………死ぬかと思ったぁ………」
俺は大きく息を吐き、バタンと仰向けに倒れ込む。木々の隙間から見える青空を見て、激しかった心臓の鼓動と呼吸がようやく落ち着いていく。
そして今、これまでとは全く違った感覚が、自分の中に生まれているのが理解出来た。魔力の流動を、特別意識しなくてもなんとなく感じ取れるようになっていたのだ。
今までは魔力の流れを感じ取ろうとするあまり、感じ取ろうとする部位にばかり気を取られていた。それはそれで魔力探知までの行程では必要な事であったとは思うが、同時にそれが流動探知の足枷になっていたのだろう。
(近くで見て分からんのなら、一歩離れてみりゃ良かったんだ)
魔力全体を探知………別な言い方をするなら把握する事で、そこから感じる違和感を辿って行けば、魔力の流れを感じ取る事が出来るのだ。まさに『全の中の個』と言う訳だ。この流れていく魔力に意識を集めれば、体内の魔力全てを把握する事が出来るようになるだろう。
「『全』の中の『個』を把握し、更にその『個』を繋ぎ合わせて『全』とする………なんとも哲学的な話しだ」
そう呟いたあとは、暫く魔力流動の探知に集中する。
(没頭じゃなくて集中………魔力流動だけを意識するんじゃなく、魔力そのものを感じ取ってその行程の一つとして魔力が流れて行くのを感じ取る………)
さっきまでは、戦闘直後だった所為か、全体的に魔力が蠢いてる感覚があった。だが、呼吸が落ち着いていくのと同時にそれも収まり始めてる。風が吹いて火照った身体が冷やされていく中でも、波が引いていく時のように魔力がすーっと引いていくのが分かる。
トクントクンと鳴り響く心臓の拍動の動きの中にも魔力を感じる事ができた。これを感じ取れるようになったのも、全体を見れるようになっているからだろう。
問題はこの後だ。この魔力流動の探知を足掛かりに、魔力を操作出来るようにならなくてはならない。
「………まぁ、焦っても仕様がないか。やっと自然に、魔力の流動を感じ取れるようになった所だし。今は、この魔力の流動に意識を乗せて、波間に浮かぶ木の葉みたいにゆらゆら揺れているとしようかね………」
疲労感はあるが、感覚が鋭くなっているのか、特に意識しなくても自然と周囲の様子を把握出来ている。これなら、例え魔力流動に身を任せていても、モンスターや他の冒険者の気配を直ぐに察知できるだろう。
「寧ろ今の方が、気配を察知しようって意識を集中してた時よりはっきり周りが見えるんだよね………」
これが『集中する』って事なんだろう。
(あ………風が吹いてるのを感じる時も、遠くで鳴いてる獣の遠吠えを聞こうとする時も、あの青空に浮かぶ雲を見ようとする時にも魔力が動いてるな………魔力持ちってのは、こんな些細な行動にも魔力の流動が伴うのか………)
この魔力をより多く流し込む事が出来れば、感覚や視覚、聴覚の強化に繋がり、突き詰めれば身体強化に至るのだろうか。でもそうなると、元々魔力量の少ない俺が、なけなしの魔力をかき集めて身体強化に至ったとしても、たいした効果は得られないような気がする。
「………まぁ、そこは実際に身体強化出来るようになってから考えるか………今は、もっと目の前の目標を達成していった方が良いな。何はともあれ魔力を『溜めて』魔力量を増やさなくちゃ………あ!」
俺はそこでむっくりと起き上がり、辺りを見渡しながら立ち上がった。
「そういや、荷物置きっぱなして逃げて来ちまった。戻らきゃ………」
ついでだから魔力の流動を感じながら走るとしよう………そう思い立ち、ゆっくりと走り出す。
足場の悪い森の中を走るのは、実はかなり骨が折れる。常に足元に気を配りつつ、どのルート走れば良いのか瞬時に見極め、更には魔物の気配に気を使う。
だが………
(今の状態なら、それほど苦にはならなそうだ)
さっきまでに比べて視界はクリアーで、無意識下でも周囲の警戒が出来ている。その上、地面を蹴る際に魔力が足回りを巡り、律動してい感覚が意識せずとも感知出来るのだ。
(そうだ………この、魔力の律動に合わせて流動を強めてみるか)
筋肉に流れ込む魔力の勢いを、ほんの少しだけ加速させてみるのだ。魔力の流動を完全に意のまま操る事は出来ないが、今なら流動そのものに干渉する事は出来るだろう。
(イメージするのは………そうだな………水嚢に溜めた水を、袋を押して穴から押し出すところかな? んで、別な器に流し込む………)
一歩一歩、足を踏みしめるたびに起こる魔力流動の律動に、俺は水嚢を押し込んで水を押出し、身体に流し込むイメージで意識的に干渉を図る。
(イメージ、イメージ………押し込んで、流れてる魔力に勢いを付ける………お?? 今、少し動いたか?! この調子で繰返しイメージを続けて行こう………)
こうして俺は、魔力操作の領域に文字通り一歩踏み出す事に成功したのだった。
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