第16話 ある見習い冒険者のゴブリンとの戦闘再び
『魔力を器に………血管を通して全身に巡らせる為には、器は心臓であるべきだ………心臓の鼓動による微細な振動から、魔力の流動を感じ取れれば………』
先日のリリーヌ嬢の訓練指南以降、俺は本格的に魔力感知の訓練を始めた。
彼女のアドバイスは的確で、俺は以前より魔力の流動を感じれるようになっていた。今は、それをより深く感じれる様に、微細な流動を感じ取るためにイメージを明確にしている所だ。
初めは、器のイメージを木の箱にしていたのだが、それじゃどうやっても体の中にあるようにイメージ出来なかったので、今では心臓に押し込むイメージで魔力を抑え込もうとしている。
その際に心臓の拍動にも魔力の揺らぎを感じ、それを正確に読み取る事が出来たら、もう内在魔力の感知に関しては問題なかろうと考え訓練に勤しんでいるが、これがなかなか難しい。まるで砂漠でひと粒の砂金を探してるかの様な気分にさせられる。
まぁ、千里の道も一歩からって言うし、非才なこの身じゃ近道なんてなかろうしね。地道に続けていくとしよう。
俺は「ふぅ………」と大きく息を吐き、閉じていた瞳をゆっくりと開けた。
「心臓の拍動から感じる魔力の揺らぎの感知してると、他の魔力流動は感じやすくなるな」
身体を動かすと、微量の魔力が自然と流れて行くのが分かる。まだある程度の集中力は必要だが、前ほど意識を向けなくとも、更に言えば肉体的な疲労が必要なくとも感じられる様になった。これは明らかな進歩だろう。
あと何か一つ切っ掛けがあれば、流動する魔力を操作できるようになる気がするんだけど………まぁ、焦りは禁物だ。
「さて………今日も魔物退治と行きますか………」
そう言って立ち上がる俺の視線の先では、1匹のゴブリンが森の中から出てくるところだった。
「ギャギャ!」
「ふぅ………」
あの、初めての戦闘以来、俺は度々このゴブリンとの戦闘を熟すようになっていた。得物は相変わらずの短剣で、熟練者とは程遠いような、素人に毛が生えたような戦い方である事は変わらないが、何とか死なずにここまで来ている。
食事をしっかり摂るようになった事で、少し
しかし、流石に何度も戦っていれば、相手の弱点も見えてくるというものだ。
「ギギギョギー!!」
基本的にゴブリンは知能が低い。だから、武器を持ってはいても、大概は剣を片手で振り下ろすだけだ。腕力は人間の子供よりは少し有る………といった程度なので、斬り下ろしの時のスピードも、目で追える程度のものなのだ。何度も見せられれば、見切る事も容易くなっていく。
「ギャガー!!」
振り下ろされた粗末な剣は、飛び退いた俺の前で地面にガキンと叩き付けられ、ゴブリンはたたらを踏んでまたこちらに向き直る。
ここで相手の空振りに合わせて攻撃に転じられれば格好いいのだが、生憎と俺はまだ一度でそれに合わせる自信はない。二度三度と同じ事を繰り返えし、ようやくタイミングを掴むのだ。
振り上げられた剣がいつ振り下ろされるか見定めれば、その斬撃を躱すことそのものはそう難しくはない。知能が低いゴブリン相手だから出来る戦法だ。
俺は、その後も何とかゴブリンの斬撃を避け続け、一度大きめに飛び退き間合いを空ける。
「ふぅ………」
俺は軽く息を吐き、呼吸を整える。次の斬撃に合わせて攻撃に転じよう。
「ゴギュガギェ!!」
攻め疲れ始めたゴブリンのひと振りを、今までとは違って前に出ながら紙一重で避ける。
「ギョギッ?!」
「ヒュッ………」
戸惑うゴブリンに構う事なく、軽く息を吐き出してそのままその横を走り抜ける。
勿論ただ通り過ぎた訳じゃない。
「グギャァァァァ!!」
短剣を振るいながらだ。
剣をカランと取り落とし、切り裂かれた頸動脈を片手で抑え痛みに悶えるゴブリンの死角を突くように回り込みながら移動し、今度は脇腹へと短剣を突き刺す。
「ガァァァァァ!」
短剣を引き抜き、すぐさま飛び退いて間合いを空ける。一撃の火力が乏しい短剣で戦う以上、無茶は禁物だ。何しろ
「グガガガ………」
そして、無理をするまでもなく、目の前のゴブリンの動きは悪くなっていく。ゴブリンも、生き物である以上血が失われれば死ぬ事になる。俺の攻撃は即死させる程の威力はないが、それでも頸動脈への斬撃と脇腹への一撃が、ゴブリンから生命を奪う為に必要な出血を促すには十分な攻撃だったのだ。
「ガガ………」
ゴブリンの瞳から光が失われていき、最終的にはバタンとその場に倒れた。だがこれで油断するわけにはいかない。コイツ等は死んだふりをすることもあるのだ。
俺は、コイツが使っていた粗末な剣を拾い上げ、首元に叩き付けてトドメを刺す。ここまでして、ようやく一息つけるのだ。
そして慎重に魔石を取り出し、それを収集袋へと放り込んだ所でハッと気付いた。
「………ヤバい………他にもいる………」
俺は、戦闘を終えて一息ついたのも束の間、再び戦闘の準備に入るのだった。
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