第15話 ある見習い冒険者の訓練指南 その弐


「総魔力量が多いと、自分の魔力が邪魔して探知するには魔法の助力が必要になるんです。クロさんは、内在魔力の感知は出来ていますか?」


「それは何とか」


 あの水溜りのようなものを内在魔力と呼ぶのは憚れるが、感知そのものは出来ていると言っていいだろう。そう思いたい。


「魔力の流動を感じ取る事は?」


「なんとなくだけど………」


 筋肉を動かす度に、魔力の流れを感じる………と言うか、たどる事が何とか出来ている状態だ。


「ならば魔力を自らの意思で流動させる事は?」


「それはまだ………」


「『まだ』という事は、内在魔力への干渉に到れそうな感覚はあるのですね?」


「あ、ああ。まだ干渉までは行かないけど」


 俺が出来るのは、筋肉を動かして、自然に流れる魔力に無理矢理触れる事だけだ。


「ならば先ず、魔力の流動の感知を意識せずとも出来る様になって下さい。魔力の操作は、ある程度魔力の流動を感じ取れるようにならないと意味を成しません」


「どういう事?」


「魔力操作は魔力の動きを理解していないと大きな効果は得られないのです」


「………よく分からないが、そういうもんだと思う事にする」


「悪人顔の割に素直である事は評価しましょう」


「悪人顔は関係無いよね?!」


 ………よね? って目をそらすな!!


「それはともかく………」


「『ともかく』するなよぅ………泣いちゃうよ俺……」


「………総魔力量を増やすには二つの方法があります。『作る』か『溜める』かです。ですが、恐らくクロさんには『作る』の方は効果が薄いと思われます」


「何故?」


「経験則です。魔力量の成長期はもっと幼い時期にあるのです。幼少期にある程度の下地を作っていないと、そのあと増やすには才能が必要になります」


「俺にはそれが無い………と」


「はい。才能の欠片も感じられません」


「………シクシクシク………」


 涙をチョチョ切らせる俺に構う事なく、リリーヌ嬢は話を続けるチクショーメイ。


「なのでもう一つの方の『溜める』を試す事になります」


「………それは俺も思った。内在魔力を探ってた時に、生まれる魔力が蒸発するみたいに消えていくのを感じたから………あれを留め置く事が出来たら、魔力量も増えるんじゃないかと」


「自分でその考えに到ったとは驚きです。悪人顔でもやる時はやるのですね」


「相変わらず辛辣ダナ!」


「イメージとしては、自分の中に器を作ってその中に無理矢理押し込む形が一般的です。あとは必要な時に必要な分だけ、魔力をその器から引き出す事になります」


「そして、相も変わらずこの件に関する俺のツッコミはスルーっすか………」


 だが、今の説明は分かりやすかった。ゆらゆらと立ち昇っていく魔力を抑え込むイメージがし難かったのだが、器を作って押し込むってのは頭の中でイメージしやすい。


「魔力への干渉はイメージです。自分の中で、どれだけ分かりやすくイメージ出来るかが鍵ですので、生活環境によって人それぞれ変わってきます。あとはご自分にあったイメージの仕方を確立して下さい」


 イメージ………イメージか………心の奥底にある水溜り………ゆらゆらと立ち昇る靄………そうか………俺の中では魔力は液体………既にある水溜りを器に移すイメージはしづらいな………液体を巡らせる? 水脈? ………壮大すぎてイメージし難い………水溜りから道を作って引いていく………筒の中を液体が通る様に………筒? 血管? 全身をめぐる血液と血管………これは良いかも。


「分かった………何とかしてみる」


 そう答えたところで、俺はふと疑問に思う。リリーヌ嬢は何故ここまで助言をくれるのだろうか? まさか………もしかして!?


「食事のお礼です」


「デスヨネー」


 気勢を削がれるように告げられて、俺はがっくりと肩を落とす。


「………あとは………まぁ、見習いとは言え冒険者を名乗る者が、こう素直に我々ギルドに属する人間の話を真剣に聞く事は稀です。冒険者は我が強いものが多いですから。そういう意味もあって、他のギルド職員からクロさんへ御礼がてら指導を頼まれたのです」


「そんな事が………それで、リリーヌ嬢が専属で俺に特別講義を………」


「他の職員では怖がって話し掛けられませんから。専属という言葉は語弊があるので使わない様に。殺意が湧きます」


「デスヨネ! そして相変わらずの塩対応アリガトウ!」


 チクショーイ………



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