第14話 ある見習い冒険者の訓練指南 その壱


 森の中で料理を始めて程なくして、リリーヌ嬢が何故仲間内から生命を刈り取る料理人デスサイズと呼ばれていたのか、その所以を否が応でも知る事になった。


 とにかく何をするにも適当なのだ。


 初めはじっと待っていたリリーヌ嬢だったが、退屈してきたのか手出ししようとし始めた。だが、それらが尽く悪手なのだ。


 材料を切り揃えようともせず、調味料の量を計ろうともせず、火加減を調整しようともせず、蒸し時間を考えようともせず、何もかもフィーリングでやろうとする。


 その上、


「あ、これを加えたら良くなると思いません?」

「隠し味にこれなんてどうですか?」

「これなら間違いありませんから入れてみましょう」

「それよりこっちの方が良くありません?」 etc……


 と、お得意のフィーリングで、適当に他の食材や調味料、香草や薬草を加えようとするので、それを抑えるのに苦労した。


 料理ってのは、レシピがあるなら余計な食材や調味料ものや工程を加えようとせず、レシピ通りに作れば失敗しないはずなのだ。レシピ以上の事をしようとするから失敗する。レシピ以上の事それはある程度経験を積んでからするべきだろう。


「クロさんは、悪人顔のくせにいちいち細かいですね。だから余計にモテないんですよ」


 そんな事、余計なお世話だ、こんちくしょー。


 各種妨害を乗り越え、そう心の中で一句詠みつつ料理は完成した。


「なるほど。確かに自慢するだけの事はありますね。今後は、調理済みの物をお土産としてお持ち下さい」


「………」


 いや、アンタ、なに見習い冒険者に食事たかろうとしてんの………口に出しては言えないが、俺は抗議の意味も込めてジト目をリリーヌ嬢へと向ける。


「外食ばかりだと、如何しても栄養が偏ってしまうのです。味も濃いものになってしまうので、どうしようかと考えていましたが、これで問題は解決です」


 抗議の意味はなかったようだ。


 まぁどうせ俺は底辺の見習い冒険者だ。どのみち受付嬢かつ元A級冒険者のリリーヌ嬢には逆らえない。


 ため息をつきながら、無言で片付けを始めた俺の横で、突如リリーヌ嬢は立ち上がり、腰に差していた聖剣のようなものを抜いた。


 え? 何? もしかして俺の態度、気に触った?


「お食事のお礼です。少し戦い方をご教授して差し上げましょう」


 ヒェッと叫び声が上がりそうになりつつも何とかそれを抑え込む事に成功した俺を尻目に、そう言いながら森の奥へと顔を向ける彼女の視線を辿ると、二匹のゴブリンが森の奥から出てくる所だった。


「料理の香りに誘われて出てきたのでしょう。敵と自分の力量差も測れない野生の猛獣にも劣る様な下位のモンスターで少し気が咎めますが、これも神のお導きでしょう」


 するとフラリとその姿が歪み、次の瞬間には彼女は二匹のゴブリンの背後へと抜けている。


 何が起こったのか訳も分からぬ状態のゴブリン達を尻目に、彼女はシュッと聖剣のようなものをひと振りすると、さっと鞘へと納刀し、そして最後にカチンと音が鳴る。


 すると、叫び声を上げることも許されず、ゴブリン達は血飛沫を撒き散らしながらバラバラに切り割かれ、ボトボトと地面に落ちていった。


 息を呑みそれを見ていた俺のもとへと戻ってくると、彼女は小首を傾げながら口を開いた。


「クロさん、何があったのか分かりましたか?」


 その問い掛けに、俺はハッとなって暫し考え込む。


「………俺が理解できたのは、アンタの魔力が微かに揺らいだ事位だ。魔力が瞬間的に………膨らんで………いや、巡ったのか? それと同時に動き始めたんだから………身体強化か? あとは気付いたらゴブリンがバラバラになってた」


 俺の返答に、彼女は少し驚いた様子を見せる。


「なるほど。クロさん、どうやら貴方は魔力探知の才がお有りのようですね」


「魔力探知?」


「そうです。魔法も使わず魔力を探知したのですから、魔力を感じる感覚が鋭いのでしょう。しかも、私はある程度、自分の魔力を隠蔽していますから、それを感じ取ることが出来たのであれば、その才はあると考える方が自然です」


「俺にそんな才能が………」


 そう歓喜する俺だったが、それはすぐさま上げた本人に落とされる。


「総魔力量が少ない方によく見られる才です」


 よく見られるのかぁ………『才』だなんて言葉を聞いたから、俺だけの特殊能力かと思って喜んじゃったじゃないか。しかも俺、魔力が少ない事がコンプレックスなのに………。


 そんな俺の事情とはお構い無しに、リリーヌ嬢の話は続くのだった。


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