第13話 ある見習い冒険者の食糧調達 その後
収穫したむかごを手土産に、リリーヌ嬢に自作の料理が如何に美味かったかを語り続けていたら、どうも空腹で気が立っていたらしく、無言で剣の切っ先を突きつけられてそのままギルドから追い出されてしまった。
『まあ、報酬の受け取りはほとぼりが冷めてからにしよう』
そう思い、ねぐらにしている安宿へと足先を向けた所で背筋にゾワッと寒気が走り、俺は慌てて振り向いた。視線の先にいたのは無表情であるものの、冷たい殺気を放ってこちらを見ている………
「リリーヌ嬢?!」
いや、何でそんな殺気立ってるのよ? 元A級冒険者のそんな殺気を受けたら、見習い冒険者たるこの俺は、足が竦んで動けんがな。
「ななななな何か、ごごごごご不快なここここ事でも御座いましたでしょうか?!」
必死に平静を装うが、ちょっぴり恐怖心が勝っちゃってるかもしれない、そんな俺の問い掛けに、リリーヌ嬢がようやく殺気を解いて口を開く。
「貴方の所為です」
「な、何が?」
「ギルドは今日、体調不良者が出てしまい、人手不足で凄まじい混雑振りでした」
「………いや、いくら何でもそれは俺の所為じゃないでしょ? どう考えても言い掛かりで………」
「なので、私は今日、お昼を食べ損なったのです」
「………はぁ………」
「空腹で意識朦朧としていた私の前で、貴方はお料理自慢を始めたのです。人として最低ですよね?」
「………いや、それ、何をどう考えても俺の所為じゃないよね? 混雑酷くて昼飯抜きだったのは同情するけど、んな事、俺に分かるわけ無いよ?」
「あと少しで、退勤の時間でしたので、あれを食べようこれを食べよう………と、色々と予定を立てていたのです。それが、貴方の所為で全ておじゃんです」
「いや、食いに行けばいいじゃん幾らでも。俺にかまってる暇があったら直ぐに行き……「今の私の口の中はもう貴方の言った冒険者料理で一杯なのです! もうそれ以外は受け付けません!」
食い気味にそうセリフを遮られ、俺は「は、はい……」と間の抜けた返答しか出来ない。
「山芋の笹の葉包みの蒸し焼きを! 蛇団子の茸スープを! あんな真っ当な人間ではあり得ないような罪を犯した貴方には私の為にそれを作る義務があるのです!」
んなアホな。大体、罪って何よ、罪って………。
「えー………自分で作れば良いじゃん。自分で作れば………。むかごもあるし、何なら干物にしようと思ってた蛇の切り身もあるし、山芋も残ってるのあるから自分で作ってよ」
俺がそう返した途端、リリーヌ嬢はつつーっと視線を外す。
あ、察し。
「あー………と、取り敢えず、森の入り口にある一般開放してるキャンプ場で作るんぎゃんぎゃんぎゃー!」
「その、何もかも悟った様に話をされるとそれはそれで腹が立ちます!」
「襟元掴んで前後に振るな! 何処のチンピラだ己は!」
俺はゲホゲホと咳こみながら喉元を抑えてそう抗議するが、リリーヌ嬢は全く悪びれた様子もない。
「
「いや、俺、それを悟って話逸らしたんだけど?」
「その昔、冒険者として各地を回っていた頃は、当然ながら私も料理番として当番が回ってくることもあったのですが、いつの頃からか、食材や料理道具から遠ざけられるようになっていました」
「結局、話すんかーい」
「私としても、他の仲間に対しての申し訳なさもありましたので、何度か手伝おうとしたのですよ。ですがその度に、丁重にお断りされてしまいまして。それを幾度か繰り返したある日、聞いてしまったのです」
「何を?」
「仲間達が陰で私をなんと呼んでいるかをです」
ゴクリと息を呑み、俺はその先を促した。
「
「………」
「思えば、私が料理当番の次の日は、皆さん青い顔で不調を訴えていた気がしないでもなかっです。当時は、探索の最中に体調を崩すなど軟弱な………などと思っておりましたが、それが自分の所為だったとは露ほども思い至りませんでした」
そりゃ、言ってみれば
俺はやむを得ず、森へととんぼ返りをして、再度料理を作るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます