狂ったもの 都時彰編 23

「ここは?······今何時?」

「アタシんち。今は11月24日の月曜18時35分だな」

 時刻は平間さんが開いたスマホ情報である。

「本上先輩は?」

 そうだ。俺は本上先輩の家にお邪魔してて

「あ~~~。ま、気にすんな。」

 その言い方は非常に気になるが、この人は本当に気にしてない節があるし。説明も面倒くさがる時があるからなぁ。

「都時くんが死ぬーってあの昆虫先輩からラインがくるからさ。かけつけたらメグミもほっしー先輩も猫も来てたからさ。誰の家に移すか決めるのに、じゃんけんしたらアタシになったから背負ってここまで来たってわけ。なにか質問は?」

「学校は?」

「アタシ?あー。サボったサボった」

 うわー。サボることに対してご満悦なのはどうなんだろうと思わなくもないが、かわいいから許す。

「てかアタシ、勉強好きじゃないから助かったところもあるし、都時くんが風邪で寝込んでるから看病のため休みますって小林に言ったらあっさり通るからよかったし。いやー、初めて小林が担任で良かったと思ったよ」

 で?今平間さんの手にはなにやら緑の小さな茶碗から湯気が出てるものが白色のお盆に載せられた状態で載せられている。

 少し首を傾けると、お粥だった。決してサムゲタンではない。

「お、食えるか?」

 たしかに大分寝て体が重く怠いのは無くなったがまだ熱っぽいのは残ってる。

 ここは少し無理してでも起きて食べるべきか。

「あーーー!!!生きてる!!」

 なにやら失敬な事を宣ってる人が1名いるのだが、この先輩は本当にどうしたらいいのだろうか。

 まあ、そもそも先輩らしくないからいいのかもしれない。

 その先輩は俺に抱きついてきた。

 白いパーカーに黒いショートパンツ姿で

「楓さん。その格好は風邪ひきますよ」

「既に風邪引いてるのがなんか言ってるよ」

 俺の問いかけに答えた(?)のは平間さん

「は!?ちょっと!?彰くんは本上さんとこの虫の毒で死にそうって聞いたから飛んできたんだけど!?」

 そこで快活に笑っている平間さんを見てなんか事の成り行きが見えてきた。

「平間さん。楓さんに嘘つくのやめて下さい。この人本当に本気にしますんで」

「でもないと土居先輩の策略に嵌ったままだったよね絶対」

「そりゃそうですけど」

「ねえ!?先輩の預かり知らないところで後輩だけで話を進めるのはやめてくれない!?わたし先輩よ!?」

「········んで土居先輩は」

「話を聞けーーーー!!!」

 普通の先輩女子はムキになって病身の後輩男子の首を絞めたりしませんけども。

「ちょっと芹沢先輩!!タンマタンマ!!えーーー。今回の土居先輩と彰くんの·····そ····の········アレなやつは」

  お、珍しい。恥ずかしがってる平間さんが見れる。

「平間さん?アレってなんですか?はっきり言わないと分かりませんよ」

「芹沢先輩、思う存分絞めて良いですよ。その陸上部の仲間を穢した男を」

「調子に乗ってすいませんでした!!土居先輩に動画を撮られて楓さんに報告されたくなければ平間さんに陸上の大会でドラッグの疑いをかけて辞退させるのを協力してと言われました」

 俺の自白に平間さんはしれっとした様子で目を·····細めてるようだけど判別しにくいので雰囲気で察した。

「まあ、そんなところだとは思った。しかもレンの太ももの刺し傷も土居先輩だよね?アタシを陸上から引きずり下ろす為に」

 俺は即座に頷く。

「それどころか。他に安全ピンで色々と」

「あれもか。レンは怖がって何も言わなかったけど」

 それほどまでに椎堂のなかではトラウマなのだろう。

 俺は楓さんに椎堂が土居先輩にされた事の一部始終を話した。

「ひどい········」

「ふんっ!それで陸上部が出場禁止になったら意味ないね」

 どうも平間さんは怒りに打ち震えているようで。

「アタシだって大会出たかったんだよー!それをあの馬鹿は!!挙げ句に椎堂まで!!ああ、法律が許すんなら殺したい!!」

 殺気を帯びた平間さんというのはなんとも近づき難いものがあったが病身ではこれ以上距離を空けることはできない。

「それより、彰くん?」

 お?なにやら楓さんが真剣な顔でこちらに向き直っている。

 仲直りのキスだろうか。


「土居さんとは生でしたの?」


「「·········」」

 俺も平間さんも楓さんの発言に鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まった。

 そして言った本人は顔を背けて顔を赤らめて早口で捲し立てる。

「土居さんと性行為したんでしょ!?どうなの!?コンドームつけたの!?してないの!?そもそも中に入れたの!?当てただけ!?どうなのよ!!」

 なんだろう。どちらかというと清純派の楓さんの唇から下ネタワードの羅列が行われている。この異常事態に俺も平間さんも耐性が無いためフリーズしてしまう。

「えと······つけてしました。温かったです。」

「感想までは聞いてない!!」

 背けた顔が俺の眼前まで迫った。

 まだ顔が赤いや。だって楓さんだもの。

「でもあたしも恥ずかったし」

「だよねー」

 と、そこまで楓さんが答えてから誰が来たのかと確認する3人が驚愕した。

 それもそのはずで、そこには土居先輩が居たのだから

 最初にアクションしたのは平間さん。土居先輩のベージュのチュニックコートの襟を乱暴に掴んで壁に押しこむ。

 ちなみにチュニックを知ってたのは楓さんに教わったからである。そういえば楓さんって女子だったんだなとか思ったのは内緒の話。

「よくもまぁ顔出せたなぁてめぇ。自分がしたことわかってんのか!」

 恫喝、暴行と思わしき態度がその声と土居先輩の腹部目掛けて殴った拳が示している。

 その殴られた本人はケロッとした顔で。

「ひどーい。これでもあたし、都時くんを心配してお見舞いに来たのに」

 その内容に目を細めて····いるんだろう平間さんから

「本音は?」

 と聞かれたらあっけらかんとした態度で

「まさかバラすとは思わなかった。これでまた別のところから平間に声がかかったらどうすんの」

 床に唾を吐く平間さん。

 いや、自分の家だからいいんだろうけど女の子が唾を吐くのはいかんでしょ。

「おめえはスポーツクラブの勧誘受けてんだってな。良い子ちゃんだこと。誰かさんのせいで逃したアタシと違って」

 平間さんも土居先輩への嫌悪を隠そうともしなかった。

 失礼を承知で言うなら。この人が腹に一物あるような事ができるとは思えない。

「ま、これが普段の行いの違いだね」

「本当そんな事よく言えるよな。恥ずかしくねえのか」

 いつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌土居先輩。

 この人の場合本当に這い寄りそうだから怖いな。

 と、思ってたら腹痛が増した。

 原因は土居先輩の踏みつける攻撃。

 この行為に平間さんはもちろん、楓さんも土居先輩に掴みかかった。

 が、平間さんは相手の服を破こうがお構いなしにやってのけるが楓さんは逆に締め上げられていた。

 がっ!ごっ!という息ができなくて苦しい藻掻き声にも止める気配のない土居先輩。

「やめてく!」

 れと俺が言う前に足蹴にされてしまう。

 まだ体が重たい感じが残っていて本調子じゃないのが腹立たしい。

 どんなに平間さんが土居先輩を殴っても楓さんをいじめる手は緩めないようだ。

「やめろって!芹沢先輩死んじゃうだろ!」

「そうね。そろそろ」

 そこは言うことを聞くようでドサッと倒れ込み床に咳き込んで屈み込む楓さん。

 かわいそうなんてもんじゃない。空手をやってたはずなのにその成果が出ていないあたりが特に。

 と、しばらくするとまた楓さんの襟首を掴み、苦しんでいるのも無視してまた首を締め上げる。

 楓さんがやだと1度必死の思いで叫んだのにも聞いてくれない卑怯者の手により再開される。

 さっきよりも悲鳴か増しているのは助けて欲しい表れだろう。

 泣いて苦しんでいるのなら止めて欲しい。

 そんな楓さんは······見たい気もしなくはないが、他人にやられるのを見たいわけじゃない。

 自分で弄ってこそかわいいのが楓さんなんだ!

 と、言うことを元気な時ならかろうじて冗談混じりに言えるが不調な今、そんなことを言おうものなら土居先輩と楓さん。平間さんの蹴られ殴られ締められの嬉しくない4Pが待っている。

 正規の意味なら·····うーん。土居先輩のに夢中になりそうな気がする。

 いやいや、何がとは言いませんけども。

 ええ。2つの平原に丘が見えたら目が行くのは自然の摂理。だから俺は悪くない。

 「や!やめぐるじ!!」

 とか思ってるところに土居先輩が平間さんに首を締められていた。

 そうまでして平間さんがブチ切れるのも無理はない。

 土居先輩に至っては自業自得ですからね。

 そして俺もこのままやられっ放しなのは嫌なので土居先輩の足にしがみつき、噛みつき攻撃をすることにする。

 土居先輩は痛がって足を振り回したが離してたまるかと腕と顎で固定する。

 平間さんが平間さん首絞め、俺は噛みつき。楓さんはゲホゲホヒューヒュー言いながら紫色の顔色の回復に努めるため横たわっている。

 そんな状態がしばらく続き、俺たちが満足するまで行ってからやっと開放した。

「わかったか?え?次やらないようにもう一回やってもいいんだぞ?よし、わかった。もう一度やるか」

 もはや土居先輩に意見を求める気のない平間さん。

 その土居先輩はというと俺の歯形がついたふくらはぎを痛がっている最中だった。

 だが聞こえていたようで必死に匍匐前進で逃げようとして階段のところで転がり落ちている。

 楓さんにひどいことしたんだからざまぁとしか思わないが。

 それでもドタドタと慌てて走っているところを聞くに外村先輩のようにはなっていないようだ。

「芹沢先輩。大丈夫···ではないでしょうけど帰れます?」

 声を出そうとするが咳き込んでうまく話せない状態が続く

「······· ·····      」

 楓さんが口をパクパクさせながら焦った顔をしている。

「話せない!?」

 楓さん検定1級の俺はすぐ聞き返した。

 そうしたら即座に何度も頷く楓さん。今にも泣きそうな顔をしている。

「とりあえず病院に連絡するから芹沢先輩はそれまで都時くんの手でも握ってて下さい」

 もう手どころか抱きついてきたんですけど楓さん。風邪が感染ったらどうするんですか?

 と、言おうと思ったが楓さんの匂いが心地良かったのでま、いいか。

「はーい。てっしゅー」

 ほら平間さんのクレーンゲームが始まった。

 このクレーンのアームはかなり強めなのでなかなか外れませんよ楓さん。

 残念そうな顔をさせたのは心苦しいが平間さんには逆らえないのでなすがままである。

 


 翌朝には体調は元通りになったので、今日から平間さんと登校開始。

 ちなみに荷物については椎堂に持ってきてもらいましたとさ。めでたしめでたし

 と、いうわけなく。平間さんに押し付けられながら土下座することになった。

 土下座の先はもちろん椎堂である。

「わたくしのせいで傷を負わせてしまい、誠に申し訳ありませんでした」

 一言も発しない長い沈黙が続いた。

 周りに生徒がちらほらいたが様子見をしようとすると平間さんが見るなと睨みを利かせた為、皆即登校モードに切り替えてしまう。

「その目は薬物でもやっちゃったのかな?」

 が、それが利かないのが教師にはお利口さんロボットのドイミツえもんである。

 三次元ポケットにはコンドームしか入ってないような気がするが。

「さあ。行こうか」

 当然のように無視を決め込む平間さんについていく手下1号、新規追加で2号が後に続く。

「とーとーきくん♪お姉さんとイイコト」

「いわせねーよ。バーカ」

 あらま。土居先輩の誘惑を止めてくれるバンダナ先輩に感謝せねば。

「あのー先輩?お名前はなんていうんですか?」

 と、思ったらその先輩はどこぞの後輩男子にナンパされていた。

「あ?何だてめえ?」

 だが星宮柰坡豕と名乗れば良いものを、凄んで脅してたらせっかくの赤髪ロングのウィッグによる美人効果も薄れてしまうもの。

 1人の生徒はそれで先に走り去っていったがまた別の男子女子、後輩先輩問わず星宮先輩をわらわらと質問責めないし告白されるものだからいくら敵意を見せてもキリがなかった。 

 と、いうよりこれは最初はいつも通りの対応をしたがいつもと違う展開に驚いてドギマギしているとみた。

 末永くお幸せに~~~。と言えば良いのかなこの場合。

「とにかく待てオメーら!スマホ出せ!」

 声を張り上げ今から金でも巻き上げようかのような声音で星宮先輩と友達になろうの命が下る。

 それに歯向かう者は星宮先輩の周りには1人もいなくて、男女先輩後輩皆が行っていた。

 ここで邪魔するのもなんだし俺らは先に学校へ行った方が······と思ったら椎堂と平間さんはもう行ってるや。

 仕方なく登校再開しようとしたところ

「ちょっとお話いい?」

「アンケートなら結構です」

「ただの先輩と後輩のコミュニケーションだよ」

 まだ居たよ。肉体関係者が

「あ、わかった。都時くんには身体同士のコミュニケーションの方が」

 言わせねーよ。take2

 なのだが、いかんせん。これは自分で解決しなければならない。

 星宮先輩は友好関係増幅中のようで話しかけづらいし、それ以外に俺の仲間も見当たらない。

 あれ?今俺、星宮先輩に友人の数で負けてる?

「こっち」

 と、思ってたらウェーブがかった肩口までの黒髪の女子生徒が俺の手を引っ張り歩き出す。

 土居先輩も知らない生徒のようで目をパチクリさせて固まっていた。

 まあこちらにとっては好都合だが。

 そのまま歩いて向かった先は『1−4』の黒い板のかけられた教室。

 ここは椎堂のクラス、ということはこの子は椎堂のクラスメイトか。

「じゃ」

 その生徒は話をする気はないようで、自分の席まで歩きだした。

 後で椎堂にでも聞くか。

「あ、きたきた」

 聞こうと思ったのだが、椎堂のクラスからまた声をかけられた。

 このクラスは青髪ツインと茶色のキラキラでキャラクター過剰摂取してる感があるからこれ以上強いのは出てほしくないと思いながらその声に答える。

 俺は中に入らず、自分を呼んだのかの確認をその生徒にしたら頷きなから近づいてくる。

「はい、これ」

 ざっくばらんに切られた紺色の髪。それも目を引くのはその目の大きさ。アニメキャラに見られるよつなぱっちりした目。

 どこかの誰かさんとは歴然の差である。

 まあ、口には出さないけども。

「お!千里(ちり)じゃん!ここにいたか!」

 おやおや。件の目が細い人が来ましたよ。

「平間さん、この人知ってるの?」

 当然、知らない俺は平間さんに目の前の人間の素性を聞くことにする。

「おう。野上千里(のがみ ちり)。小学校が一緒なんだよ」

「佐江も元気〜?」

 と、平間さんと話をする中にその野上さんは平間さんに抱きついていた。

 女子特有のスキンシップにどう反応すればいいのか戸惑う俺。

「で、千里がなんで都時くんに?」

ハグハグタイムは終わったようで平間さんが野上さんに聞く。

「あ、そうだ。はい、これ」

 と、言われて野上さんが手に持っていた書類を俺は受け取る。

 書かれているのは給食費等の請求。その下の書類は国語数学理科社会の課題だった。

「ほら。その········椎堂さんが今保健室登校だから昨日の連絡物渡せてないのよ。あなたなら家一緒でしょ?はい、ミッションクリアー。いえーい」

 なるほど、誰か代わりにこの仕事やってくれる人はいないのかと待ってた訳か。

「はい。だめー」

やばーばばい?

「えー!?」

 平間さんが俺の手から書類を奪い取る。

 そこへ野上さんも反論の姿勢を示す。

 平間さんが頭をガリガリさせながら。あ、顔も少し不機嫌だ。

「あのなー。椎堂とは仲悪いのかお前?」

「そういう訳じゃないけど······」

 野上さん両の人差し指を何度も突付き合わせる動きをしながら困り顔。

 個人的にはそういう動作はそばかすのある女の子の方が似合うと思う。

 この人、肌綺麗だし。俺が知ってる女子の中でも1番肌が白い楓さんより上だ。

 いや、待てよ。ペルートさんの方が楓さんより白いな。

 じゃあ楓さんは2番目だ。

 大丈夫、俺は2番目の女でもイケる。

「野上さんってハーフ?」

「え?なんで?」

 まさか俺からそんな質問がくるとは思わなかったんだろう野上さんが素っ頓狂な返事を返す。

「知り合いにハーフの人いるからさ。その人も白かったからそれで」

「お前、交友関係どうなってんだよ。芹沢先輩にど叱られるぞ」

 そもそもクラス内にハーフはいるけどあの人は黄色人種なんだよな。

 楓さんも周知の事実だから問題ありません。あの人と俺がどうこうもないので無問題。

 だが楓さんがそっちの気がでてきた時は逆に心配だけども。

「残念ながら違いますー。クウォーターなのよ」

「あれ?んな話、聞いたことねえぞ」

「聞かれなかったからね。分からないレベルだしね肌以外ロシア系の血筋全然出ないから」

 なるほど、ハラショーなわけですか。

 これはかしこいかわいいを期待できそうだ。

 委員長キャラが賢くないわけないし。

 でも、かわいいはずなのに出してる雰囲気が刺々しいのが玉に瑕だよな、この人。

 もっと笑顔を見せればいいのに。なんでこうもまあ········そもそも顔を火傷してる男にビビるのが普通で笑顔なんて遠いもんなんだろうな·····。

 悲しい時ー。悲しい時ー。

 周囲の女子から笑顔が消えた時ー。

「ん?でもクラス委員長なら姉岳さんのことも知ってるか」

「モチのロン!」

 なぜにテンション高い返事?

「あの人とは話が合うからよ」

 ほう。この人が姉岳さんと仲良いとは何があることやら。

「とにかく。クラスのやつが渡さねえと余計仲良いやつとのつながりがなくなってクラスに復帰できなくなるぞ。だから千里が渡してこい」

 野上さんに突き返した書類。強く出れないのか受け取る。それは俺も平間さんも確認済み。

 そうして空いた平間さんの手は俺の襟首へ。

 いや、平間さん。そんな引きずらなくても教室へいけるからね。

「えー·······」

「じゃ。アタシらはもう教室戻らなきゃいけねえから」



  まあ色々あったけれどその後の授業は滞りなく終わり帰りは椎堂を中心に囲んだVIP待遇かのようなかたちでの登校になっている。

 お送りするのは楓さんとこのクラスと俺のクラスの仲間。

 あとは椎堂のクラスから、野上さんともう一方。

「なるほど。尻高由衣(しったか よしえ)さんと」

「トトキン。ハーレム構築のターゲットにするの」

「ド腐れ野蛮人、二度と名前を呼ぶな」

 自己紹介してくれた女子生徒、尻高さんは俺が土居先輩にちょっかいかけられたところを野上さんの元まで連れてきてくれた人である。

 名前を確認しただけでマイペースお嬢様から言いがかりをつけられ、それを本気にして毒を吐かれたら不本意にも程がある。

「クシシッ!なんともクセのあるやつが居たもんだ」

「そだねー」

 それをバンダナ目つきが蛇女と昆虫マニア女に言われるのはどうかと思うがな。

「先輩!名前は?」

「お!おう。星宮 柰坡豕だけど······」

 野上さんの勢いに押されたのもあるがそれ以上に名前を伺いながらもいきなりハグして匂いをガッツリ嗅がれる事にドン引きしている星宮先輩。

「なあ?ちょっと離れてくんねえか?」

「大丈夫です!良い匂いなので!」

「あーしが大丈夫じゃねえんだよ!」

  なんだろう····。多分このまま2人だけの世界にしたほうが良い気がする。

「では」

「まて!」

 俺が退散しようと星宮先輩に一番近かった距離を離そうとするも星宮先輩の手は離してくれなかった。

「おめえの連れだろ?なんとかしろ」 

 違います。椎堂のです。

 新しいコミュニティができるのは良いことなり。

 相手は女子生徒。うむ、健全な関係が築けるようでなによりだ。

「健全な女子は胸に顔を埋めて匂いなんか嗅がねえよ!」

 あれ?その方はユでリな感じだからそれがデフォなのでしょう。

 なら問題ない問題ない。

「あーしにそっちの気はねーーえ!」

 大丈夫です先輩慣れれば気持ち良くなりますとか野上さんが言ってるのを聞き届けてから俺は姉岳さんの元へ向かった。

「あそこのアレとは委員長仲間らしいじゃないか。助けに行ってはどうだろうか?」

「あー。言ってどうにかなるもんじゃねえし。ああなったら好きにさせといた方が良いだろ。何気にかわいいし、匂いもラベンダーだし」

「なぜラベンダー?」

「あれ?知らね?ラベンダーの匂いってトイレ行きたくなるって」

 知らんがな。

「·······ってことはあれですか?姉岳さんはあの人とトイレで·······」

「ちょっと待て。流石に指までだぞ」

 それでもアウトだよ。

 どこに基準作ってるんだよ姉岳さん。

「だって気づくとケツの穴にまで指を突っ込んでるくるし·····」

 あの人がいかに変態かよーくわかった。

「おい聞こえたぞ!!助けろやそこの後輩共!!」

 怒号とまではいかないが焦り気味な先輩女子の声がどことなく聞こえてくる。

 仕方ないので俺は助ける事に。

「野上さん。相手が止めて欲しい時は止まるんだよ」

「分かってるわよ」

「こいつを引っ剥がせ!!あーしに近づけんな!!殴ってでもいいから!!」

 平和主義はどこいったんですか。

 仕方がないのでどかしてやりました。

 さっきの威勢のよさはどこに?

 あれだけわーわー言ってた星宮先輩も対象物がいなくなると途端に話をしなくなる。

「星宮先輩ってあまり話さない人でしたっけ?」

「ナハシは進んで話すタイプじゃないんだよ」

 そう答えたのはインセクトガール本上。

「何話したらいいかわかんねえだけだよ。朝だってジャ○ーズの誰彼がとか言われても何も答えらんねえし」

 ほう。あの10代女子の間でのトークのキーとなるジャ○ーズ事務所のアイドルを知らないとは。

 まあ、ジャ○ーズに熱を入れる星宮先輩とか想像できないし納得か。

「トーキ、あーしに失礼なこと言わなかったか?」

 だから怖いですって!人の頭の中を覗かれるの!

 そんな会話を交わしつつ家まで帰っていく。



 そのまま、なんとでなく日々は過ぎ二学期の終業式も終え。冬休みに入った頃のある日、俺はある準備をして向かった。

「で?買ってきたのがキーホルダーって訳?」

「中学生にはそれが限界なんです。椎堂の事もあるし実の子供じゃない分小遣いをせがむのもあれじゃないですか?」

 楓さんの12月24日の誕生日に熊のキーホルダーを雑貨屋で買ってきて届けましたとさ。

 ただ御本人はそんなに喜んでないようで。

 声は出せるようになり、自宅へ戻ったのだが以前ような高い声ではなく男性よりの低い声になってしまった。

 最初聞いた時は驚いたが本人が一番動揺していたので宥めるのに必死で自分の感情はほっぽり出した感じてある。

 だから不機嫌に感じるのも声質による部分もあるし、そこからくる不調のせいもあるが。

「できれば映画とか行きたいよねー」

 なにより芹沢家の母から外出禁止令が出されたので満足に出歩けないのが原因である。

 いや、椿さんの思う所もわかるんですよ。

 外出する度に拘束してキス、腹を刺される、暴行騒動、声が出ない。

 ここまで娘が危機に遭えば、心配になるのも分かりますが······。

「突拍子もなくハグすんな」

 楓さんに頭をチョップされた。いたい。

 ハグぐらいいいじゃないか、付き合ってるんだし。

「心の準備がいるのよ」

 さいですか。まあハグした瞬間ビクッてなってましたもんね。

 今日もビビり具合は好調なようで何よりです。

 さりとて、今日は12月24日。世間ではクリスマスイブだ。そこへ楓さんの誕生日。

 そこで、だ。

「楓さん。これはクリスマスプレゼントです」

「よかった。まとめて1つにされるかと思ったから」

 そんな事はしませんよ。だって楓さんですよ?彼女とのクリスマスイベントを蔑ろにする理由ないじゃないですか。

 まあ。とは言うものの前述の通り中学生の小遣いではできることが限られてるので

「ほう。手袋ときましたか。」

 それも淡いピンク色のモコモコ系。

 なんか楓さんを見てたらそんなイメージが湧いてきたので買ったのです。

「実用的じゃないですか。これからまた冷えますよ」

「そうね。真冬だもんね。ただ、この色違いをわたしが持っているという問題さえなければね」

 しまったーーー!

 やっちまったなあ!

「まあいいわ。あれは水色だから彰くんにあげるわ」

 おお。楓さんのにおゲフンゲフン。お古を頂けるとは有難き幸せ。

 言うが早いか。楓さんの部屋にある。松の絵が描かれた襖を開けた押入れを漁り、奥深くにあるからか。体を突っ込んで探してるところを俺は後ろからお尻の形とか脚線美を堪能し、お尻を叩いてみる。

「止めなさい」

 もちろん怒られた。

 やんっ!なんて声が聞けて顔を赤くして怒る楓さんが見れるのであればこちらが得するだけである。

「いーい?絶対!お尻を叩かないでね!絶対だからね!ぜーーーーーっっったい!叩かないでね!」

 そんなに言われるとフリだと思ってまた叩きたくなるじゃないですか。

 でも楓さんがこういう時ってガチで止めろのサインなんだよな。

 だから楓さんがまた後ろを向いて押入れに身を乗り出すタイミングて手を振り上げでお尻ペンペン体勢をとってたら振り返ってきて。思いっきり睨まれた。

 まだやってないからセーフじゃないですか。

 なのに頭を3回も叩かれた。


 


 

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