狂ったもの 都時彰編 17

ついで向かった先はクレープ屋だった。

今更だがこういう店をチョイスする辺り女の子なんだなと再認識してしまう。

ただし、俺が勧めたチョコバナナは赤面顔で却下するあたり楓さん、意味を分かっているんだなと思いニヤニヤしてしまい足を踏まれてしまう。

「これ食べたらカラオケ行くわよ」

俺は歓喜に体が震えた。

これまでの流れから推理すると───。

「楓さん生でする覚悟が」

「できてない!!!彰くん何考えてんの!?かわかっちゃう自分がいるのが悲しいわ」

おお楓さんよ。頽(くずお)れてしまうとは情けない。

まあ、楓さんだしこういうポーズも似合ってしまうとは口が裂けても言わない。

「ねえ?なんでわたし彰くんにお尻を叩かれなきゃいけないわけ?」

しまった!口には出さなかったが手が勝手に動いていた!

俺は条件反射で土下座体勢に入っていた。

その目の前で楓さんは腕を組んで仁王立ちしていた。

顔は少し上にしながら視線は冷ややかで見下すニュアンスが込められていた。

「彰くん。この際だから言わせてもらうけどあなたは変態なの?え?女の子のミニスカートの上からお尻をやさしめに叩くのが好きな変態なの?」

「それは違います楓さん。どちらかというと短めのズボンを穿いた女の子のお尻を思いっきり叩いて悲鳴を聞くのが興奮するんです」

「ちょっと彰くん!?充さんのこと言えないくらいのド変態よ!?」

俺への凄みを効かせた態度は消え去り動揺の色が見てとれる。

その言葉そっくりそのままお返しします。

「細かく言うとですね。お尻の下のラインが少し見えそうで見えないズボンを穿いて、ストッキングとか無しでナマ足であ、でもニーハイソックスならOKですね。なぜなら太ももが少し見えるから、そのボディラインがある状態で叩きたいんですよ」

「もういい、ちょっと黙ってて。頭痛くなってきた」

頭に両手を置いたまま疲れた様子の楓さん。

これは今日の性行為は止めといた方がいいやつか。

「まあ。ショートパンツくらいなら穿いてあげてもいいけど」

「えっ!ホントッ?じゃあこっちにファッションフロアあるんでお願いします」

「私たち中学生よ!そこまでお金ないわよ。そしてお尻叩く気でしょ」

え?駄目なの?

代わりに楓さんから頭を叩かれた。




そして予定は変わらずカラオケ店。

そこは黒の革のような素材のソファがコの字型に3つと相対するように置かれたディスプレイとカラオケセットというよく見かけるカラオケの個室で。6人程が座れるだろうか。

「じゃあさっそく」

楓さんが真ん中のテーブルに置かれた機器を使い曲を入れ込む。

入れたのは某俳優が出演兼歌ってたCM曲だった。

普段からキャーとワーとか大きくつんざく高音域の声を聞く機会がある楓さんだが歌声はやさしめな高音ボイスだった。

そして何気に上手い。

「楓さん歌上手かったんですね」

歌い終わって素直な感想を告げると本人は無い胸を張って自慢げにフフンと偉ぶったある意味先輩らしい態度をとる。

「これでも1年の頃文乃達とカラオケ通ってたんだからね」

さらに畳み掛けるかのようにVサインも決めるあたり褒められてまんざらでもないご様子である。

「それは他の面子もおのずとわかりそうなものだけど聞いてもいいですか」

「でもその頃6クラスあって同じクラスだったの文乃と新屋敷さんだけだからさ。その3人だけで行ってたわよ」

その割には新屋敷先輩と距離が縮まってないように感じられますが。

「だってその頃の新屋敷さんこっちに声かけてくれないんだもん!」

もんじゃないですよ。それはあなたも同じだったと氷見先生その他から聞いてますよ。このコミュ障先輩が。

「だから星宮さんと本上さんは2年から。ま、氷見先生とは2年連続担任なのは驚いたけど」

でしょうね。

「あ、でも鷹峰くんもいたか。新屋敷さんとしかつるんでなかったけど」

そうでしたか。野郎の話はどうでもいいですけど。

「ほら、カラオケに来たんだから話すだけじゃなくて歌いなさい」

「え!?」

「え!?じゃないわよ。何、まさか·····」

俺の返事を待たずに楓さんはガッツがテーマのオオカミズの曲を入れた。

「さ、まずは大声出せばなんとかなる曲から始めて自信をつけるわよ」

いや、楓さん。その曲知ってますけど結構高音の箇所あって歌いづらいと思うんですけど。

だがあの鬼教官モードになった楓さん相手にそんなこと言えず、俺はマイクを手に取り歌い出す。



歌い終わる頃には1人気絶していた。



またか。昔椎堂と行った時も俺が歌った後気絶してたけどあれは椎堂の体調が悪かっただけかと思っていたし、その後カラオケに椎堂を誘っても陸上の大会が近いからと拒否られてたけど。

これで結論が出た。どうやらカラオケは狭い空間ゆえ酸欠になりやすく体調を崩しやすいのだと。

「彰くんが下手すぎるのよ!!!」

俺の結論にテーブルを叩いて待ったをかけられた。

しくしく。本当はわかっていたよ。カラオケルームは換気設備がしっかりしてるから密閉じゃないってことくらい。

でもまさかあの猫型ロボットが出てくるアニメの小学生アーティストじゃあるまいし歌でどうかなるとは思わないじゃないか。

「もうこれは下手なんてレベルじゃないわ!!ここまで歌声にズレが起こるなんて災害よ!!」

確かに30分以上気絶してましたもんね楓さん。

その間に襲ってしまおうかと思ったがハグだけにした自分を褒めたいものだ。

いえいえ、決して胸を触って自分のと変わらないくらいだから萎えたとかじゃないですよ?

「·····彰くん。わたしが気絶してる間に変なことしてないわよね?」

「そ!そんなわけナイジャナイデスカ!」

その返答にすかさずスカートの中を確認する楓さん。

いや、さすがに俺もそこまで外道じゃないですって。

「······さっきまでの発言でありえないと思えないんですけど」

それはごもっとも。だがそこまではしてないです。そこは同意の上でしたいので。

「どうだか」

何がどうしてこんな信用を落としたのかな。お尻ペンペンの趣向を話しただけなのにあら不思議。

それはそれと俺が歌うこと禁止令を出され楓さんだけが曲を入れる展開に。

と、しばらくして楓さんがトイレに行ってしまった。

どうやらドリンクコーナーで入れてきたカル〇スが下半身に回ってきたようです。

飲めるだけ飲んだ方が得とか言ってるから。

そして室内には俺1人。

正直な話、俺自身歌うのは下手だが。だからといって歌うのは好きか嫌いかと聞かれれば嫌いではないわけであって。

つまりどういう事かというとこの状況なら歌ってもいいだろうと俺の脳内にいる天使が告げている。

あれ?これ言ってるの天使!?悪魔じゃなくて?

そして悪魔何やってんだ仕事しろ。え?どうでもいい?

なんてこった。ならいいか。

結論が出たのでユニゾンなバンドのシュガーなソングを入れて。はいきたドン!

うん。やっぱり歌は楽しくなければな。

さらに次の曲を入れたい衝動に狩られるのを楓さんの言い付けを守る為、抑える。

だからこそ、この一曲を全身全霊で楽しむんだ!


そして歌い終わった4分程経った頃。ふと周りを見れば一名倒れていた。


なんてこと!さっきの光景がよみがえる。

だがこの服装。ノースリーブのフリル付きの白服に白の短いプリーツスカートからして楓さんではない。むしろ店名が書かれた服を着てる時点で店員だと分かる。

と。そこでコンコンと扉を叩く音がしたので見ると楓さんだった。

楓さんが下を指差しているので見てみると店員さんの体が扉の開閉を阻害しているのがわかった。

なんと、頭から血を流している!これでは密室殺人事件の現場ではないか!

このままでは俺が犯人にされかねないので急いでうつぶせで倒れている店員さんの両脇に手を入れ必死に椅子の上まで移動させる。

この人、楓さんより少し重い。そして赤みがかった茶髪を肩より長くさせた髪型をポニーテールにしているのを顔がみえるようにすると女性であることが分かる。

ま、両脇に手を入れた時に胸にも少し触ったからわかったのだけれども。

大きさはそれほどでもない。いや、楓さん以上ではあるが、ほどよい大きさで形が良いのだろう。手のひらでおさまる大きさ。柔らかい。

そしてスタイルがいいときた。

顔もかわいいし。ん?でも、この顔どこかで見たことあるような······。

「彰くん。警察に連絡して」

楓さん!?ちょっと待って下さい!!俺は殺してなんかいないですよ!?

「彰くんの歌は殺人級よ!!現にこうして頭から血が·····ってこれ。イチゴジャムね」

なんと人騒がせな。さっき楓さんが唐揚げとフライドポテト&イチゴジャムを頼んでいたらしい。

それにしても楓さん。甘党なのは知ってますけどフライドポテトでイチゴジャムはないですよ。なんでケチャップ、チリソース頼まないんですか。

「大丈夫ですか!」

楓さんが声をかけながら店員の頬を軽く叩くが返事はない。ただの屍ではない。

息はしているようだから。

「楓さん。この人に見覚えあります?」

「は?ないに決まってるでしょ?何聞いてるの?」

「いや、俺この人をどこかで見たような気が」

「嘘なら目の前でナンパとかいい度胸だし、本当なら何知り合いを手にかけてるのってなるわよ」

いや、だから殺してませんって。

どうして楓さんは俺が殺したことにしたいかな。

「で?ひとつ聞いていい?」

楓さんからの質問。その表情は訝しげなものであった。

「なんなりと」

楓さんの問いに答えない訳にはいかない俺の返事に楓さんは俺の右手を指差して


「どうして七森さんの胸を触っているのかしら?」


「·············いや?違うんですよ楓さん。これは·······そう!心臓が止まってないかの確認ですよ!そうそう」

頭をフル回転させて出した解答に納得していない様子の楓さん。

「ふーん?·······で?心臓はどうなの?鳴ってるの?」

「はい」

「なら離しなさい。そのままだと彰くん通報するわよ。あ、というより通報しようか?」

あ、これ。許してないやつだ。

「うーーーん··········え?·········え?────────エエエエエエエエ!!!」

俺が即効手を離そうと頭で理解しつつ本能が離さない間にその店員さんの目が覚めたらしく、状況の理解に達した結果悲鳴が上がった。

慌てて周りを見た後、椅子やら机を散らかしながら楓さんの背後に隠れる店員さん。

これは······俺がアウェイな展開だな

「この変態!!何、人の胸触ってんの!!警察呼ぶわよ!!」

大変怒ってらっしゃる。まあ当然の事だが。

いかん。今まではクラス単位、知り合い、身内単位でのセクハラだったが赤の他人は問題が大きい。鎮化できる自信がない。

さすがに今回は猿並みの性欲反射に反省する。

ん?待てよ。店員さんのネームプレートには『七森 茜(なもり あかね)』となっている。

思い出した。多分そうだ。

「七森優子さんのお姉さん?」

「え?何?優子と知り合い?」

ビンゴ。この展開に困惑している茜さん。

「彰くん。この人なんなの?」

あ、もう1人困惑してる先輩もどきがいた。

「俺と同じクラスに七森優子さんっていうのがいて。で、そのお姉さんの七森茜さんだという事が今分かったって状況です」

「ああ。·····でも許されないわよ。女性の胸を触った代償は高くつくわよ」

なんでそこで楓さんが責め立てるんですか。

「ごめんなさい茜さん!!この後輩はわたしが川流しにしますので!!」

あなたはなんてことを言い出すんですか!付き合ってるんですよね俺たち!?

「いや!そこまでしなくても·····あたしも気絶してるとこ死んでないか見てくれてたんだろうし。気が動転してて」

ごめんなさい茜さん。良い解釈してるとこ申し訳ないのですが、胸触ったのは彼女の胸の無さからくる持て余した性欲が原因なんです。

いやしかし。あまり七森さんと話をする間柄ではないけど顔はよく似ている。

「優子さんに似てますよね」

「そりゃ姉妹だし。あの子、学校ではどうよ?塞ぎ込んでたりしない?」

「えーーと·····」

七森さんかぁ。水戸さん達といるところよく見かけるけど、いつも怒られてるイメージしかないんだよなぁ。なんか表情も暗いし。

「年中葬式みたいなムードでしょ?」

こちらが言いにくいことをバシバシ言うよなこの人!?

「葬式かはともかく。明るくはないですね」

そこで少し悲しげに笑う茜さん。

溜め息1つして茜さんが言うには

「あの子、滑舌が絶望的だからクラスで弄られるし、人と話すの苦手だし。よく手首切ったりするし」

最後の一言は衝撃的だった。

「彰くん!その七森さんって苛められてるの!?」

楓さんも聞き捨てならなかったようだ。新屋敷さんの事があるから苛めを許せない気持ちは強いだろう。

「どっちかと言うと、カースト上位の女子グループに入って自分を守ろうとしてる感じだけど上手くいってないんです」

「あの子は······」

頭を抱えてしゃがみこむ茜さん。

性分なのか姉だからなのか。妹のことが心配なんだろうなこの人。

「あの子ね。小学生の頃から自傷癖が酷いのよ。なんとか止めさせようとするんだけど。これが楽しいって言い出す始末だし」

それは重症だ。教室で見る分には気弱な少女の印象だったからそんなこと思いもしなかった。


「はぁ。自分の部屋を与えちゃったのもいけなかったなあ」


茜さんの一言に楓さんは戦慄が走ったように畳み掛けた。

「ちょっと!!死んでたらどうするのよ!!」

「だから鍵のない扉にしてるって!!」

当たり前のことを言われて余計イライラしている感じの茜さんに俺は距離を置きたくなったが、ここはカラオケボックス。離れるにしても対面に座って2、3メートルくらいが関の山だろう。

妹のことでイライラしているのが目付きやら眉間の皺とか雰囲気からありありと感じれる。

茜さんは楓さんから離れ、俺から見て右側のソファに腰掛け、足を組んで頬杖をつく。

「楓さん、仕事はいいんですか?」

「あと30分くらいで上がるからいいんじゃない?」

その間にも他の部屋へ行くことできるでしょ?

バイトだからって監視カメラでここ見られたらまずいんじゃ。

「いいのいいの。ここ、そんな金ないから廊下と駐車場に設置されてるだけだし」

なるほど、つまり楓さんとあんなことこんなこと。

「こーら!何サボってるの茜」

「うげっ!りみりん!」

「りみりんやめえ!人前では坂倉(さかくら)さんというって言ったでしょ?ごめんなさいね。この子、サボり癖があるから」

やはりそうですか。これは保護者的ポジションがいてくれて助かる。

「あ、この黒淵眼鏡の頭良さそうに見えるのが坂倉里美(さかくら さとみ)ね。実際頭良いんだけど。あたしの大学の同期。ちなみに彼氏もちでクリスマスと年末年始は彼氏の家でお泊まり決定でお楽しみでしょうねフフフ」

「他人の個人情報を明かすなアホ!どうも失礼しましたーーー!!」

はなせとかなんか聞こえるが無視して襟首掴んで連行する坂倉さんを見てるとなんか皆河さんの世話をする姉岳さんを想起させる。

いや坂倉さんが来なければ愚痴の捌け口にされるところだった。

しかしこれは良いことを聞いた。

「させないわよ」

先手をうたれた。まあ、変なことしたら臭いでばれるから消臭効果アイテムを置いとかないと。

「その前に扉から見られたらアウトよ」

「楓さん、羞恥プレイに興味は」

「ないからマラカス持って。わたしが歌うから」

なんとも言いがたい展開になった。楓さんの歌を盛り上げるファンにでもなった気分である。



歌い終わる頃には夕暮れ時である。

まあここらで帰った方が無難かな

「あ、いたいた」

·········どうやら妹の愚痴を聞かなきゃいけないルートが見えてきたので聞こえた方向とは逆向きくるりして歩こうとすると後ろから俺と楓さんの首に腕を回す迷惑系女子大生が。

さらにその後ろから溜め息をそれとはなしにつく御世話係系女子大生が歩いてくる。

「茜、迷惑してるから離しなさい」

「いいじゃん。バイト代入ったから飯奢ってあげるんだし。ほら、これなら迷惑じゃないって何事も経験だよ経験」

「断るなら今の内よ。中学生のカップルさん」

ああ。やっぱり優しい人がいるってありがたいな。

「でもよー。こいつら中坊なら帰り道あぶねえからあたしらと行動してりみりんの彼氏の車で一緒に帰った方がよくね?親さんに言ってさあ」

「それもそうね。」

ちょっと優しい女子大生代表坂倉さん!?

あなたがそっち側に回られたら俺らの退路が無くなるんですけど!?

「いえ。わたし達はこれから帰るんで大丈夫です」

おお。楓さんが頼りになる発言をするなんてありがたやありがたや。

「まあ待ちなさい。世の中にはどんな狼がいるか分からないから大人の言うことは聞くべきよ」

その楓さんの肩に手を置き、なにやら熱を入れてそう語る坂倉さん。

「ほんとになー。みっくんとかヤバかったし」

茜さんが気無しに同意を示すことを言うのに対し俺は踏み込んでみる事に

「失礼ですけど坂倉さん。その狼に何か心当たりあるんですか?」

「まあ······アタシ達の中学の同級生に姉岳充という人がいて。女の子を襲ったっていう噂が流れたのよ」

この人達、あの充と同級生なのか!?

そこから頭の後ろで手を組んだ茜さんと胸の前で腕を組む坂倉さんの充を話題に話し出す。

「あれ本当なのかなー」

「でも飯野さん相当犯されたって聞いたわよ。20や30じゃ効かない数だって」

「あたしに声かけてきたし。まあ、カラオケ行って寝てたんだけど」

「ああ。アタシも誘われた時ね。あの時は男子とは絡まなかったから茜の体触ろうとする男共睨みまくってたけど」

「おい!初耳だぞそれ!お前そんなことしてたのか!」

「そもそも茜がいなきゃカラオケなんて誘われても行かなかったし。あんた胸揉まれそうになってたからね」

「マジか!?それは遅くなったけどありがとう!」

ねえ。このくだりに俺達居る必要ある?

茜さんがノリで握手してるとこへ「うむ」とか言ってノってくる坂倉さんというこの状況で居る必要ある?

女子大生のノリに付き合う中学生男女というこの構図は何?

「わたしその充さんと食事に行って酒飲まされたんだけど」

ちょっと楓さん!?そこへ入り込まないで!もう2人についてくこと確だから!

「マジで!?ならその後···」

右手で筒を作り、左手の人差し指を抜き差ししている茜さんやめなさい。

坂倉さんは哀れみの目で楓さんを見てるし

「強く生きなさい」

ほらもうサれた前提で話進んでるし

「違う違う違う違う!!」

楓さんは顔を真っ赤にして全否定しまくる。

「その時酔っぱらってわたし。その時のことはまあ。覚えてないんですけど、キレて暴れて店員さん殴っちゃったみたいで」

「うわあ·······え?あなたが」

「あ、芹沢楓と言います」

「じゃあメイプルちゃんで」

茜さんがつけた新たなあだ名に少し戸惑い気味の「ええ」を言う楓さんという珍しい顔を撮影する俺を人前だからと止める事のできないで「ムー!」と言いたげな膨れ面でこちらを見てくるがかわいいからもう1枚パシャリ。

「で、楓ちゃんが殴ったの?」

メイプルちゃんルールは茜さんのみ適用のようで坂倉さんが楓さんにそう聞く。

「まあその───はい····」

悲しげに笑いながらそう語る楓さん。申し訳ない気持ちがまだあるんだろうな。

「あの······正直、素面の時にそこの店員さんの胸が大きくていいなとか。こちらに食事を置くときに胸が顔の近くにあったから。見せつけてんのかと少しイラッときたのは事実。でも少しですよ!」

ちょっとこれ楓さん完全にシロですか!?

酒無くてもやってないと言いきれますか!?

「あなたは悪くはないわ。全部充が悪い」

なんか坂倉さんが熱のこもった視線と発言で楓さんと握手してるんですけど!

確かに坂倉さんと胸無いの分かってましたけど触れずにいた部分に自分から言ってきましたよね。

だが、この時点では坂倉さんの人柄がそう言わせてるのと着やせするタイプだから胸があるという可能性も捨てきれないが。

「あれよね。男子ってすぐ胸見てくる割には無いとあからさまに溜め息つくから腹立つし」

あ、これ坂倉さん無いタイプ確定だわ。

「あー分かります分かります。で、顔は良いのに残念とか言ってきますよねあいつら」

「そうそう。ま、ガン無視だけど」

「なあ?なんで胸無いおめえらはちゃんと彼氏いて。あたしはできねえんだ?」

「アンタできてもヤり捨てばっかだもんね昔から」

坂倉さんがどこか嬉しそうにそう茜さんに攻撃する。

「うっせー。向こうが悪いんだー。気づいたら他に女がいること分かった時とか地獄だぜまじで」

あーあ。女が3人いると姦(かしま)しいとはいうがまさにそれになってるな。

こんなとき男はどうすればいいのかマジで悩む。

「で、坂倉さんの彼氏ってどんな人ですか?」

「えー?」

楓さんがそう聞くのに対し照れながら戸惑う坂倉さん。

この人初見だとクールなイメージだったけどコロコロ表情変わると印象変わるな。

こう、お隣のお姉さんみたいな感じ?

「おら!スマホの待ち受け見せやがれー!」

「巨乳に見せるものはありませーん」

「ありませーん」

どうやら巨乳と貧乳で壁を作っているようだ。

まあ、壁を作るのは色んな意味で貧乳側なんだけど。

「おいコラしばくぞそこ2人!終いにゃメイプルの彼氏と秋塚さんで3Pすっぞ!」

ちょっと茜さん!?下ネタが過ぎませんか!?それとも女子大生はそのくらいの発言普通なんですか!?

「こちとら3P経験済みだぞええ!」

そして茜さんなんでちょっとヤクザ気味になってるんですか。

「アンタそんなことしてたの?」

ちょっと坂倉さん!?その話掘り起こさないでください!

中学生男子には刺激が強すぎます!

「あれは高2の時だな。髪に剃りこみのあるヤツと緑色の髪したヤンキー2人。学校の帰りに声かけられて路地裏に連れ込まれてだな。なんか色々終わった後悲しくてしばらく倒れたまま動けなかった記憶があるな」

「あの時か。しばらくって······あんた。雨の中2、3日ずぶ濡れで倒れたままだったのをアタシが見つけたんじゃん。アタシが来なかったらあんた死んでたわよ」

この人なんでそんな過去あってこんなに強く生きてるの!?

「あ、ごめんねこんな話しちゃって。でも、かわいそうとか同情したくなる気持ちは分かるけどそれは本人は余計に過去を嫌なものだと刻み込むことになるから。あ、そうなんだくらいにしてくれると嬉しいかな」

そんな事を坂倉さんが言うわけだが、それは茜さんが言うことでは?

「まあ昔あたしがりみりんに言ったことそのまんまだな」

なるほど、当時の坂倉さんの態度に茜さんが言った言葉な訳か。

「よし。とりあえず飯だ。えーと、彼氏くん。スマホ貸せ」

茜さんが俺の首に腕を回して動けなくしてから言ってくる。

この行為必要なのか?むしろ胸が顔に当たる事で内心嬉しい気持ちとそれを上回るレベルで現彼女と貧乳仲間から冷たい視線で見られて痛い気持ちがあるから止めて欲しいのだが。

「都時彰です。あ、母さん?」

とりあえず俺の名前を伝えつつ母さんに友達と一緒にご飯を食べると伝えた。

「どうも、七森茜です。いえいえ、こちらも妹が都時くんと同じクラスということを知って。はい、よろしくお願いします。はーい」

伝えたはずなのに途中から茜さんがスマホを奪って話し出すし。フリーダムなのかこの人は。

「じゃあレッツラグーン!」

誰かこのフリーダム女子大生をなんとかしてくれ。

ただ、その頼みの綱である2人は彼氏とのツーショット待ち受けを見せあってきゃいきゃいやってるのでなんともしようがないのだが。



「ねえ?どうしてラーメン屋な訳?」

坂倉さんからの疑問が席についての第一声だった。

「いーじゃん。皆好きでしょラーメン」

店を決めたのは茜さんである。

「そりゃあ好きか嫌いかで言えば好きだけどさ」

確かにラーメンなら何回でも食べられるけども女子3人もいて行くのがラーメンというのは些か疑問が残る。

「ささ、若者よ。選ぶがよい」

あなたも若者だろというツッコミを飲み込み、俺と楓さんはお互い目配せしてから700円前後が並ぶメニューに目を通す。

「じゃあわたし。炒飯とアイスクリームのバニラを」

まず楓さんのオーダーから

「なんでさ!?」

「ひっ!」

その300円と200円で合計500円に机を叩いて抗議するかのような声をあげる茜さん。

すいません茜さん。その人、ビビリでヘタレなので突然そのような行為をお控え頂きますようお願いいたします。

「中学生だよ?イケてる女子がそれでいいの!?」

「むしろ女子中学生だからこそ少なめにしてるんですけど!」

楓さんのあの腰の細さは努力した結果なのか。

ん?待てよ?前にウエストが細い事にそこまで気にして努力してないとか言ってなかったっけ?

「じゃあトトーキよ。期待してるぞ」

なんか茜さんから変なあだ名がつけられ、いくらでも構わないぞ的なオーラを出しているところ申し訳ない。

「ネギ鶏白湯ラーメン」

「うんうん」

「以上です」

「おい中学生男子!!」

理不尽に首を絞められた。なんでこうなるんだ。しょうがないじゃないか。前に水居と平間さんと別のラーメン屋に行ったし。

そもそもモールに2件もラーメン屋入ってたらその店特有のを頼みたくなるでしょ。

で、味をじっくり吟味する方向で。

これ700円もするから結構失礼してる方ですよ。

この人は何がそう気に入らないんだ。

「いいじゃん!せっかく後輩がいるんだから先輩風吹かせてどっさり奢りたいじゃん!ちょうどバイト代入ったしさあ!」

椅子の上でバタバタとだだっ子のように暴れる女子大生。恥ずかしいから止めなさいと坂倉さんが言っても聞かない模様。

だったらラーメン屋じゃなくて三ツ星レストランとかにすればよかったじゃないですか。

「女子大生のバイト代をなめるなよ!大学に費やす経費とかあるし!」

なんか逆ギレされた。じゃあどうすればいいんですか。






























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