狂ったもの 都時彰編 14

「お待たせしました。とんこつラーメンです」

「あ、アーシアーシ」

星宮先輩が手を上げる

タオルを頭にかぶったかわいらしい女性店員がまたひとつこちらへ持ってきたので観察するとそれが俺の右隣にいる星宮先輩の前まで皆河さん、氷見先生姉岳さんと渡される形で届く。

俺は先ほどラーメンを食べたばかりなので満足なのだが星宮先輩的にはここでラーメンを食べたい気分なようだ。

「いいなぁ」

そのはずだが、こうやって実際目の当たりにされるとまた食べたくなるのはなんでだろう。

そう俺が口にすると

「こういうところのラーメンって旨いって聞くしな」

「あの店員さんかわいいな」

「おめぇいっぺんかえにど叱られろ」

だって可愛い店員さんが居たら普通見るでしょ。可愛いかったら可愛いなってなるでしょ。

俺に注意を促す星宮先輩はのびる前にとラーメンを口につける。

割り箸を手に取り、口で片方を噛んで割るのはイメージ通り、その2本の箸を持ったら一人前より少し少なめの器の中に箸の先をつっこみ麺を1口で入るギリギリまで掴みそれを星宮先輩の口へ運び、中へ麺を送ったら星宮先輩の唇上も下も全周が麺に触れその麺独特の油が唇に当たっているのが麺と唇の境から伺い知れるくらい油が濃厚なのを確認した後、ズルズルッ!と女性にしては少し大きめと思われる啜る音をたてて麺を口に入れた後数十秒の噛む時間ができ、飲み込んだ後2口目3口目と次々口の中へ放り込まれる間星宮先輩の唇は麺に含まれる油でテカりを帯び、それが色っぽく感じる衝動に俺は我慢できなかった。

「見すぎ!止めえトーキ!」

あ、星宮先輩も食べるとこ見られるのに我慢できなかった。

箸を置いて俺の顔を正面から手で押しつけて距離をとろうとするがその行為に意味はあるのだろうか。

俺の視線に気づいたのだろうそばにあったお冷やを口に含み唇のテカりを拭おうとその後おしぼりで口を一旦拭いた。

少し照明が暗くなっている店内でも星宮先輩の白い肌が赤くなっているのが分かる。

「だってそばに美人な先輩がいたら緊張するじゃないですか」

「見んなっつってんの!恥ずいから!美人どうこうを理由にすんじゃねえ!ほんとにかえに言いつけんぞ!」

「てか本当に言いつけてるから安心して星宮先輩。そして芹沢先輩からの伝言、『星宮さんに彼氏を紹介すれば許してあげる』だそうだ」

あ、また平間さんが楓さんに言いつけた。

そしてなんですか、その新手の許し方は。

だが星宮先輩はこの悪人面と髪型で男っ気無くしてるから無理だろうと思われているから楓さんも言っているのだろうが実はそうでもない。

その為ならば

「皆河さん皆河さん」

俺は皆河さんの側に寄り、ある提案をした。

ゴニョゴニョヒソソ

「任せなさい。」

その場から皆河さんが退席するとどこかと電話を掛ける。

「おい、何をしてるんだ。変なこと企んでるんじゃねーだろーな!」

当然、そこへ星宮先輩が俺の服の裾を強めに引っ張りながら聞いてくる。

ま、流れ的に自分に降りかかるだろう事は容易に想像できる。

「大丈夫ですって。星宮先輩はいつも通り世の男性方を虜にしていればいいですからこっちは気にしないでください」

「してねえ!!勝手に人のキャラをアレな方向にもってくな!!」

「そうだよ。なはちゃんはイナゴの佃煮を食べてくれる貴重な存在なんだからこれ以上キャラを付与しないで」

「タガメあん時の事は言うんじゃねえ!!忘れてえんだよ!!」

本上先輩本当になにやってるんですか。

「えー····星宮先輩。その話聞い」

「たらテメエの腹ん中ぶちまける事になるが?」

星宮先輩!ただでさえ悪人面なのに凄まないでください。チビりますよ!

この周辺に子供連れがいなくて良かったと思う。

「ときに本上先輩」

「なんぞや?アキくん」

「まさかこんな時にも昆虫を持ってきたりしないでしょうね?」


「やだな~~!アキくんそんなこと」

「ですよね~!」

この時お互い両者笑顔のやり取り


「持ってこない理由が何かあるの?」


一瞬で空気が凍りついた。

誰かこの先輩も簀巻きにして外へ放り出して。

この人は恐怖常識というものを知らないのか。

それはここにいる全員の共通認識だったので即刻レッドカードの退場となった。


「で?話を戻すと純くんは本上先輩となんかあったの?」

まさかこの流れで話を戻されると思わなかった純くんはたちまちワタワタ慌てだした。

それは態度然り口頭然り。

「いや!あの········なんでもない」

これは何かある時の決まり文句だな。

間違いない。

「ここは素直にお兄さんに言った方が良いと思うなぁ」

あ、そっぽを向いた。俺には相談したく·········ない顔をしてたなぁ。

「じゃあ?お姉さんなら話してくれる?」

そう聞くのは土居先輩だった。

岡庭元部長の言を信じるなら最低女のようだがその言葉の真意は何だろうか?

純くんは赤くなって恥ずかしそうに視線を下へ向けて──違う!あれは土居先輩の大きなおっぱいを見てるだけだ!

その事実に気づいたのは俺の他に実の姉が1名。

「エロガキ。とっとと吐けやコラ!」

尋問は実力行使にもつれ込んだ。

即座にタンマのタップを平間さんの腕にする純くんはゲホゲホした後で

「とりあえず····鬼ババはどっか行って」

ここで言う鬼ババとは平間さんの事だろうがそんな事を言うとまたやられるのは目に見えてるだろうに椎堂が羽交い締めにして土居先輩岡庭先輩の3人でもって無理矢理トイレまで平間さんを連行した。

「あと····顔が怖い兄ちゃんも」

ああ、そうですか。そうですよね。普通はそうなるよね。今までがおかしかったくらいだもんね。顔に火傷のある男なんてこういう扱いが普通だもんな。

俺も仕方なく立ち上がりトイレまで行くと男子側からも分かるくらいドタドタドタと暴れて扉とかに当たる音とその犯人であろう平間さんの怒号が聞こえてくる。

「あの馬鹿の言う事聞くんじゃねえよ!なんでワタシを除け者にすんだよ!」

「身内だからこそ言えないこともあるの。純くんも男の子なんだから女の子には恥ずかしくて言えないこととかもあるでしょ。」

「土居先輩!この際言われるのは良いとしてもさっきからパンツの中に手を入れるのは止めてください!」

なにやってんのそこはーーー!

飲食店側から出禁食らいたいのかーーー!

「とにかく」

この場を納めようと動くのは岡庭先輩のようだ。まぁ、もう一人がまとめる能力はないでしょう。

「弟のプライバシーを守るのも姉の役目じゃないのか」

岡庭先輩惚れてまうやろーーー!!!

何これ!?俺がちょろいだけ!?

え!?岡庭先輩のワードセンスが秀逸だから!?

何にしても岡庭先輩が女に生まれてしまったのが悔やまれる。

かわいいだけじゃない岡庭先輩。

「うぃーす」

と、そこへ星宮先輩が入ってって!

待て!星宮先輩!?

「星宮先輩ここ男子トイレですよ!?」

「んだよわあってるよ。でもあの平間んとこのガキに追い出されたんだよ」

さすが悪人面女が板に付く先輩。

「·······今オメエ、アーシを褒めてねえだろ」

「そうじゃないです!早いとこ女子トイレに行ってください!」

「やだよあんなうるさいとこ」

ここにあなたがいてもやがてうるさくなると思うのですが

「いいか?アーシがあそこに加わったらアーシまで平間を食い止める手助けをすることになる。ここはいいか?」

まあ、そうですね。

「で、だ。アーシとしてはそんな面倒なことは極力避けてえ。前にも言ったけどアーシは平和主義だ」

「お、おう。」

アサシン小学生が平和主義という矛盾は生じるがまあこの際どうでもいい。

「つうことでアーシはあっちのゴタゴタに加わりたくない。おわりっ」

「おわりっじゃないですよ!平和主義なら向こうが平和になるように動いてくださいよ!」

「やだ!ぜってえ女のぐちゃぐちゃした喧嘩みてぇなのになってんだもん。そういうの苦手なんだよ。だからアーシはここにこも」

ろうと個室の中まで行こうとしたので手にかけていた扉から手を離してもらい必死に入り口外まで連れ戻す。

「止めてくださいお店に迷惑ですから!」

「もうすでにあっちで迷惑してんだからいいじゃん。」

よかねえよ。何考えてんだよこのバンダナ強面女が。

とかなんとか言ってるとどうやらこちらの状況も向こうに筒抜けらしく俺は椎堂と平間さんに怒られ、星宮先輩は岡庭先輩に怒られた。

あれ?なぜ俺だけ2人に怒られてるの?

これ俺が悪いの?



その後、純くんが言い淀んだ理由もトイレ組は分からなかったが桜都手先輩がニヤニヤだけど笑うとかわいいのが分かったから良しとする。

いやいや。これは不倫じゃありませんよ。ええ、決して。

ただ。かわいいものをかわいいと愛でる普通のことをしてるまでですよ。

その後皆でボーリングとカラオケに行こうと平間さんが言い出したが愛実さんの具合が悪くなったのをきっかけにそのままお開きになった。

「なんだか·····なんだかだよねぇ」

椎堂がこう言っているのはさっき見た愛実さんの体調だろう。

あの時、愛実さんは帰る際が思いの外寒かった為体を冷やして食べたものどころか胃液まで撒き散らすほどに吐いていた。

本人の顔も夜の店の外灯だけでも分かるくらい青ざめていたのが余計見ている椎堂たちにはショックだっただろう。

「体が弱いって····自分じゃどうしようもないのかな。私が筋力トレーニング教えて元気になればいいけど」

いや、それは余計吐きそうな可能性があるのでご遠慮願いたい。

ちゃんと本人の状態をみて行うとは思うが、なにせ椎堂だからな····。

「私に思うところがあるなら聞くが?」

ジト目でこちらを見られてもそんなに怖くはない。

だって星宮先輩の眼力に慣れてしまったから。

「都時、今すぐ頭を下げるか私の手で頭が肩より下へ下げた方がいいかどっちがいい?」

待て。そういう暴力沙汰は星宮先輩のお株だぞ。むやみにキャラの方向性を弄ってはいけません。

だが椎堂の顔は笑ってない。

「あ、そうだ。楓さんに電話しなきゃ」

「今日ぐらいは止めといたほうが」

そんな椎堂の制止も何のその。アドレスから楓さんのところでタップしようとする前に連絡があった。

名前は姉岳充。

午後6時からの着信履歴が 8件入っている。

これは····あれか?フハハハハハハ!お前の大切な楓は預かった。返して欲しくば椎堂を差し出せとか言うやつか。

そんなの······。

楓さんが無事なら喜んで差し出すに決まってるじゃないか!!

「さ!椎堂一緒に行こう!!」

「ねえ!手を繋がれて嬉しい自分と嬉しくない自分が存在するのはどういうわけ!?ねえ!?」

おっと!そうだ。その前にまだ事実を確認するのを忘れてた。いけないいけない。

俺は着信履歴から仕方なく姉岳充をタップして折り返し電話する。

するとすんなり通じた。

「テメェ。俺の楓さんに何をした!?」

『オメーの言うことはどうでもいいから聞け、その楓ちゃんがトラブル起こしたから家まで送り届けたから。んじゃ、伝えたからな』

即座に通話を切る態度に不快に思ったがそれよりも楓さんがトラブルという言い回しも驚いたのは事実なので俺はすぐに楓さんの家に向かった。




そして向かった楓さんの家では

楓さんが部屋で泣いていた。

俺と、一緒についてきた椎堂は楓さんの部屋の前までしか来れなかった。

というのも

「あの子。充さんと食事中に間違えてお酒飲んじゃって。それで酔って女の店員さんに暴力を振るったのよ」

俺も椎堂も二の句が告げなかった。

「止めようにも充さんが席を外してる間だったみたいで」

でも普通間違えて飲むなんてありえるか?

細かい状況はわからないが普通対面で座って食べるから

飲み物は互いの近くに置かれる訳で。となると、この場合充さんか頼んだお酒を取ろうと思うと手を伸ばさないと取れないと思うが。

「だから今楓には反省してもらってるわ」

「椿さん。それって充さんの証言ですよね」

「都時君、私だって娘を信じたいわ。でも暴力事件にまでなるとこちらの非を認めざるを得ないのよ」

楓さんからは自分がトイレに行ってる間にすり替えたんじゃないかと言ってるようだがお店側は楓さんの言い分は認められず警察には言わない代わりに出禁とする事で許してもらうことになったようだ。

こんなことって········。

「これ以上調べる事とかは」

「お店側にも悪いし、さっきも言った通り暴力沙汰だからその際は警察介入にまでなるから余計悪化するだけよ」

ひどい。酷すぎる。

楓さんはただ食事に誘われただけなのに。それについてった為にこうなるなんてあんまりだ。

「楓さんと話とか」

「だめ。楓も悪いことしたんだから1人で反省する時間は必要なの」

俺は椿さんを睨み付けた。

いっそ椿さんに詰め寄りたいが椎堂がそれを引き留める。

「これを理不尽ととるならいくらでもとりなさい。でもなにがあっても暴力だけは駄目なの」

「·········分かりました」

俺は家を出る。

そこへ椿さんも外へ出てきた。

「彰君」

俺は去ろうとした足を止める。

「あなたは中学生だし調べるなんて限られてるだろうけど言っとくわよ。これ以上調べないで。これは絶対よ。ここで調べて楓が無実なんてあり得ないから」

弁護士である椿さんに言われると言い返せない言葉である。

「あと·····」

そう言って椿さんは俺に猫が口を開けた形をしたシルバーの指輪を受け取った。


「椿さん。中学生に何を求めてるんですか」

「違う」

おお、凄まじい勢いで冷徹な視線を受けたぞ。

「楓が店頭で欲しそうに眺めてたのを充さんが買ってくれた物よ」

あの男の出資というだけで受け取りたくなくなる。

俺はそう思い「いいです」と言おうとしたらその前に

「楓も同じのを持ってるから」

ペアリングという言葉に俺は浮き足立ち、理性と欲望の間で見事欲望が勝利した。

「わかりやすいわね」

この行動に椿さんは呆れていた。

「でもこれペンダント式になってるから。指につけるのは二十歳になってからだって楓が言ってたそうだから伝えたわよ」

その口振りだと情報元は楓さん、姉岳充、椿さんの順番か。

なんか間を置いて聞かれる事に不満はあるが楓さんからのプレゼントであることは事実なので喜んで首にかけて帰ることにする。

「都時、少し速いからもう少し遅くして」

ああ。そういえば椎堂と手を繋いで帰っていたっけ。気づかなかった。

「······そう言われて手を放すあたり今の気持ちはどこに向かっているのか分かるからムカッとくるんだけど」

「ほらあれだ。椎堂も男作れば万事解決って事で」

「私はもう寝とるか愛人かの2択なんだが」

なにをして女子中学生がその2択になるかねえ。俺は受け入れ····ん、待てよ。

「愛人かぁ。椎堂ならOKか」

「最低なんだけどこの男!視線が容赦なく一点集中放射してるし!」

だって椎堂のメリットって言ったらそこだし。

「ねえ?そんなに男子って大きな胸がいいの?」

「それは違うぞ椎堂。大きな胸がいいんじゃない」

それを聞いて椎堂は眼を丸くする。そりゃそうだ。現時点の状況下では説明できないもん。


「顔もスタイルも良くて若くてかわいい女子が好きなんだ。そこに胸が大きければなお良しと」


「最低以外の言葉が出てこないんだけど!!ちょっとこれ警察に捕まらないの!!」

「だからうん。正直な話、星宮先輩もいけるんだ」

途端にえーという否定の言葉が返ってくる。

「星宮先輩ってあの顔が怖い先輩でしょ?都時も物好きだよね」

あの人が怖いのは目深に被ったバンダナと切れ長の眼、あと言うなら拷問の影響で少なくなった後頭部の髪の毛のせいだろう。

「ま、次買い物にでも皆で集まる頃には星宮先輩の良さが分かるかと」

そこで疑問を顔で表現する椎堂もかわいいなって思うが、一番は楓さんなのは変えないように注意する俺である。

あ、そうだ。

俺は椎堂の後ろに回って少し服を弄る。

「え!?ちょっと!?何!?何してるの!?」

「いいから。はい、このまま歩きましょう」

「ん?まあうん。」

俺と手を繋げるだけで気が紛れるって椎堂の脳内は大丈夫なのかと、楓さんとは違うベクトルで心配になる。

しばらくすると、なんということでしょう。後ろから来た大学生らしき男の人達から声をかけられたではありませんか。

「そこの子、よかったらお茶しない?」

まあなんとも分かりやすい茶髪にピアスのチャラ男だこと。

他のやつらもそんな雰囲気だし

「え!?いや!?その····」

「じゃあ俺はここで」

椎堂がしどろもどろになっている隙に俺は1人で家路を目指す。

「ちょっとーーーー!!」


まぁ、さすがに軽いノリの男に椎堂を渡すのも後味が悪いので、数分後椎堂に連絡をして迎えに行く段取りをしているとさっきいた道路にはもう椎堂達は居なかった。

〇インによる連絡も既読はついて。今どこにいるのかという質問に対してメモリーという店名のバーだというから中学生の自分では入れないでいる。

スマホで検索エンジンかけて場所は分かるからここまで来れたが。

こんなことなら焼き肉屋の帰り際に土居先輩から聞いたパーカーのフードを裏返すと彼氏募集中になるなんて情報を活用するんじゃなかった。

くそ。今頃椎堂のあの巨乳があいつらに好き勝手されてるのか。

今までに椎堂の胸を見たり飛び込んだり揉んだりした分だけ他人にされるのには抵抗がある。

でも。いつか椎堂が結婚をすることになるならそうもいってられないか。

ああ。でもなぁ。椎堂の巨乳レンタルキャンペーンとかできないかなぁ。

と、色々な後悔に狩られていると横からタックルされた。

情けなく地面に転がされる俺が当たってきた方向を見るとそこに椎堂がいた。

「椎堂!無事だったのか!」

と、言ってる間に抱きしめられた。

「······あの?椎堂さん?」

「怖かったんだからな」

その声は震えていた。

そうか。そりゃあそうか。女の椎堂からしたら見も知らぬ男らに連れてかれるのは怖いことなんだ。

何をされるかわからない。最後には殺されるんじゃないかとか。

これは俺の憶測でしかないから、実際は何に恐怖しているのか正確には分からないのが現状なんだが。

「私は陸上やってたから、なんとか掴んでた手を必死で離して全力で走って逃げたらなんとか助かったけどそうじゃなかったら·····」

「ごめんなさい。これが悪かった」


「私だって初めては都時にするって決めてるんだからね」

ん?


今、何をくちゃべりやがったこの女。

初めて俺?ホワイ?俺、椎堂とデきるのは嬉しいでも。それ、楓さんにバレたら確実に命の灯が消されるからよろしくないねそれ。

「うん·······とりあえず、帰るか」

「そうだな」

と、椎堂の手を取り店を背にして帰ろうとしたら前から見たことのある人物が目の前に見えていた。

さっき出会った蓮を連れ去ろうとした男共だ。

「まさかここにいるとはな」

俺は椎堂の胸ぐらを掴んでゆすった。

「椎堂!!まさかこいつらから聞いた場所をそのまま俺に言ったのか!わざわざ俺を騙す目的の為に!!」

「だって嘘をつく時は少し事実を混ぜたほうがバレにくいってテレビでやってたから!!私、嘘がつくの下手だし!!都時に一発ドッキリかまさなきゃ気が済まなかったし!!」

バカやろー!そうしたらこうなるのは目に見えてるじゃねーか!

「おい、お二人さん。ひとまず中へ行きましょうや」

そんな一見親切の言葉とは裏腹に、俺と椎堂を10人ががりで追いやっていく。

「あんな上玉なかなか手に入らないから仲間集めて良かったですね仁(じん)さん」

「んだな、んじゃま。始めるか」

地下に店を構えた店内にはワインの匂いとテンションの上がるロックミュージックが流れている。

「やだ!!やだやだやぁ!!止めて!!何でもするから!!変なことしないで!!」

椎堂は早くも裸に剥かれている。

なんとか阻止しようともがくが男20人もいたらそれもかなわない。

店内にも仲間がいるとなると絶望的である。

椎堂が泣いて懇願するが聞いてくれるやつは1人もいない。

「おい」

と、そこへ椎堂を襲おうと椎堂の足を無理矢理開かせた男が蹴られた。

蹴られた拍子にカウンターの壁に頭をぶつけたらしくそのまま動かなくなっている。

「誰に申し分もなくヤろうとしてんだコラ」

さっき話しかけられていた仁というヤツだった。

「んなもん俺からに決まってるよな?ああ?」

気絶しようがお構いなくカウンターにいる男に何度も蹴りを食らわせる非情ぶりに言葉が見つからない。

そして椎堂は裸のままガードが外れたのを幸いに逃げようとしていた。

偶然にも扉に鍵はかかってないため。そのまま出られた。

その必死さに男共は笑うばかり

「まだ来るっていうのに―····馬鹿だな」

実際にそう言われた時はカチンときた。

が、ここまでにもう俺も男達に囲まれて、蹴られまくってもう体じゅうが痛くて動けない。

実際裸の椎堂は階段を上がったところで戻されたのが音から分かる。

の、割にはおかしい。普通なら椎堂の悲鳴が聞こえそうなものだが全く聞こえない。

その答は入り口に戻った椎堂と男の顔ぶれを見て気づかされる。

「あのよ。ちょっとこの子は俺の知り合いだから止めてくれねえか?」

そう言ってのける姉岳充がいるからだ。

自分が着てたであろう高級感あるコートを椎堂にかけてあった。

ちょっとこの場はありがとうと言ってやる。

後はこの男の影響力だが

「充の知り合いか。充には借りがあるしな。じゃあ代わりの女がいるならいいぞ」

仁とやらが言うと充は俺の耳に小声で


「楓ちゃんをここに呼べ」


は?

ふざけんなよ。楓さんを犠牲にしろってのか。

今の今暴行騒ぎが遭って傷心してるってのに。

「充。この女の代わりだから胸もこれ以上じゃなきゃ駄目だぞ。顔も良いよなぁこいつ」

仁が言った条件に舌打ちする充。

「だめじゃねえか」

良かった。楓さんがぺったんこで本当に良かった。

楓さんの壁具合をなめるんじゃねえ。

椎堂とじゃ雲泥の差だぞ。

ここまで楓さんの壁胸を感謝する日がくるとは思わなかったが。

「じゃあ、あれか。能古屋 真由美呼べ」

だからなんで傷心中の人ばかり呼ぶんだ。

「でもあの人椎堂よりは小さいよ」

「そこでなぜすぐに胸のサイズを把握してるのか謎なんだがそうか。小さいか」

まあ椎堂は丸見えを今現在も見てるし、新屋敷先輩についてバニーガールの時に分かったし。胸は大きいのは確かだが相手が悪かった。

「ん。待てよ。よしよし面白い事になってきた」

充がなにやらおかしな事を言い出した。

笑い声が気持ち悪い。薄く高笑いする男というのは見てて面白くない。

「ちょっと出掛けてくるわ」

「はあ?充、おめぇずらかるのかよ」

その反応に異論を示したのは仁だ。ここで椎堂を逃がせと言いながらその行動はまさに逃亡だと見なされてもおかしくない。

「まあまあ待ちな。オメーらが納得する相手にツテがあるからよ。ちょっくらそいつのとこへ行ってくるだけだよ」

その解答に眉根を寄せて押し黙る仁。

「そいつ、ちゃんとここへ来るんだろうな。」

するとあろうことか。椎堂からさっきかけていたコートを脱がして仁へ椎堂を渡しスマホで写真を撮ると

「その間、その子は預けるから。写真撮影とボディタッチはOKにするからそれ以上はなるべく止めてくれ。そしたら15分後にはとびっきりのを用意するから」

考え込む仁に対し離してと騒ぐ椎堂。だが他の男達に仰向けに取り押さえられて抵抗も叶わない。どころか早速胸を揉みしだかれている。

「やだ!!止めて!!気持ち悪い!!どけて!!充さん助けて!!!ねえ!!」

助けを求められた張本人は返事もないまま外へ出てしまう。おそらく車に乗りに行ったんだろう。しばらくして車のエンジン音と走行音が聞こえてきたから。

「なぁ?充はああ言ったけどよ。別にあいつの言うこと聞く必要なくね?」

そう仁の仲間である1人がそう言うと同意の声も1人2人、3人と出てくる。

「しかしなぁ。あいつのお陰で医大入学のコネが出来たのも事実だからおれとしてはあいつの機嫌を損ねるのは良くないんだよ。ただ、一方的に充だけが強気に出れる状況になるとこっちがアブねぇから。こっちもヤツの動きを抑えれるカードは欲しいな。充の言うことは聞いておく。そして、優位に立てるようにするために、この女は利用できると思ったんだけどな。充は基本約束は守るからな。とびっきりというのは気になる」

俺はそれよりも泣いている椎堂に構わず男10数人で取り囲みおっぱいを揉みしだいたり動画を撮ったり、さらにその先。

股の間に指を突っ込んでグチュグチュと音が出るまで引っ掻き回した。

止めてと叫んでもなんでも聞くから止めてと懇願しても男達に止める気配はない。

むしろ、椎堂への脅威となる行為はエスカレートするばかりである。

椎堂をうつぶせに組伏せるとお尻を全力で叩きだす男達

「痛い!!止めて止めて!!!痛いから!!!止めてください!!!」

「なるべくは止めてと言っただけだからな。これもOKだろ?なあこれ。何回叩く事にする」

取り巻きの1人がそう周りに意見を求めると

「あ、じゃあじゃあ。君さ。あの子のお尻何回叩く事にするか選ぶ権利あげるから何回がいい?」

こいつら頭おかしいのか。なんで俺が椎堂のお尻を叩く回数を決めなきゃなんねえんだよ。

「··········一回」







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