狂ったもの 都時彰編 10
そしてアパート内では椎堂がぷんすかプンプンだった。
「都時。遅いじゃないか」
「ごめんって」
「まあいいや。その··········あまり心配させるなよ」
あれ?もう少し怒られるかと思ったがそうでもない。
まあ、あれこれ言われるのは楓さんで懲りてる俺としては早く済むのはありがたい話なんだけど。
そう思い俺は自分のテリトリーである部屋の右奥へ行く。
そこでスマホでモンスターがぶつかり稽古をしたりすり抜けの術に励むゲームをしているとやたらと視線を感じる。
それも椎堂から髪を弄りながらこちらを物欲しそうに見つめている。
まさか······いや、まさか。そう思いスマホのカレンダー機能を開くとそこには11月8日を告げている。
やばい!!氷見先生には椎堂の誕生日プレゼント買ってあることになっているんだった!!
そこに気づかなかった理由は、そう。外村先輩、新屋敷先輩、星宮先輩。後楓さんの問題が頭から離れなかった事が原因なのであって俺は悪くない。
すみません。幼なじみの女の子の誕生日イベントを外したらアホですよね。
当然今俺の手元にある通学鞄には椎堂に渡す誕生日プレゼントらしき物なんて有るわけがない。
俺は、この後の展開を予想しつつも
「椎堂、どこか行きたい所ない?」
「なに?まさか誕生日プレゼント買ってないとか言わないよね?誤魔化してないよね?」
読まれた!!どこか連れてくのが誕生日プレゼントだよとか中学生がやるものじゃなかった!!
「ちょっとコンビニへ」
「行かなくていいから正座して」
はい。俺は今からあなたの捕虜です。なんなりとご命令を。
もう間髪を容れず正座する俺に呆れる椎堂。
「じゃあなに?あの氷見先生の言葉は嘘だったと?ただ氷見先生の家に遊びに行ってただけと?」
「あの···いえ。これには訳が」
「返事は『はい』か『いいえ』以外認めないから」
怖い!!目が怖いですって椎堂さん!!
そこからは怒涛の質問責めだった。
なんで氷見先生の家に居たのか。外村先輩が目的とはどういう事か。それで俺がどうしたいのか。楓さんは納得してるのか。楓さんにはフォロー入れてるのか。 今度椎堂と映画を見に行く約束をするがいいのかなど色々聞かれた。
あれ?最後のは質問の体をとったデートじゃねえのか。
すると、膨れ面をした椎堂という珍しいものを見た。
「いいだろ!たまには幼なじみで映画くらい!私にだって都時を好きにする権利あるし来週の土曜日の午後2時から空けといてね」
そう言ってから自分の持ち場である入り口近くの左側に陣取って柔軟を始めた。
早いとこ家が建つといいがあと3ヶ月はかかるそうだからそれまではバルコニー付きのワンルームで我慢するしかない。
特に寝る時が大変で。今俺、椎堂、母さん父さんの四人で過ごしてる。入り口側から見て左手側にトイレ、シンク、冷蔵庫とあり。右手側に風呂場、洗面所、クローゼットとある。その間の通路に布団1枚分のスペース。その奥の洋室には布団3枚分のスペース(縦向き2枚、その奥に横向き1枚)がやっとなのである。
父さんが仕事場で寝るという手も考えたが回らない寿司屋をやっている以上そこに布団とかあると万が一食材に入るとまずいということで却下された。
俺達だけの問題ならいいがその結果お客さんに問題が発生するのはまずいな。
てな訳でなんとか4人で寝るのだが。
ここでまた問題。さっき言った布団の配置、奥に椎堂。左右に父さん、俺。で通路に母さんという順番。
そこで夜中トイレに行って戻るのにも気を付けねばならず、人を踏みつけないよう角の方を進まなければならないのも問題だがここで椎堂がトイレから戻る際に寝ぼけて俺の布団に潜り込むことが多くなってきた。
最初は本当に寝ぼけてだったらしくびびったがどうもその後の案件は楓さんと付き合ってからということもあり確信犯のようだ。
これには父さん母さん揃ってお説教されているが直す気はない。
頼むから椎堂。朝勃ち以外の要因を作らないでくれ。
だが、今の寒い時期は人肌が欲しいとかワケわからん理由を述べる椎堂に母さんがキレるというくだりがあってからはなくなった。
「あ、楓さん来週の火曜日には退院だって」
「そう。それはよかっ·······た?」
「そこはストレートに喜ぼうよ」
どれだけ彼女を退けたいんだよお前は。
最終的にはヤンデレ化するんじゃないだろな。
既に楓さんがそっちの気があるから彼氏サイドとしては止めて欲しい。
幼なじみと彼女がヤンデレとか誰得だよ。
「楓さんは悪い人じゃないんだけどなあ。まさか都時と付き合うとか。あ、下の名前で呼び合えば私もいつかは」
「知ってるか椎堂?そういうのを馬鹿の発想って言うんだぞ」
「ムキーーー!!」
椎堂が怒りだした。原因は言わずもがな。
するとそこへ父さんが帰ってきた。
「ただいま」
時刻は午後の23時00分を回る頃、ここから父さんの仕事場までは車で30分はかかる。店の閉店が21時だったから。今日は22時30分くらいまで何か色々してたんだなと分かる。
前にそんなに遅くまで何するのか父さんに聞いたら片付けの他にもその日の会計だったり売れ行き。在庫から鑑みて明日の調達をどうするかシャリの仕込みなどと言ってたから俺が考えてるような浮気じゃなくて安心した覚えがある。
子供の方も浮気なんてしてませんよ。ただ流れに逆らえなかったたけで。
ええ。浮気じゃありませんとも。
そうして、休み明けの月曜日という不幸を楓さんが帰ってくる喜びを支えに乗り切りやってきました火曜日。
「なんで学校に来てないんだ楓さん」
「今日退院だからって朝退院できるわけないって。明日だって」
俺が机に突っ伏して落胆しているところへ姉岳さんが言い聞かせてくれる。
アキラ『楓さん、明日来れます?』
かえで『まだ退院まで時間かかる!いつになるんだ!うがー!昼になってもまだなら強行突破してやるー!』
楓さんが壊れてらっしゃる。
まあ、俺も楓さん症候群になりかけてたから一歩引いて見ることができたから楓さんのこの反応はある意味ありがたかった。
アキラ『お医者さんも忙しいから退院の段取りとか手続きも大変なんですよきっと』
かえで『むー』 かわいい犬のむくれ顔スタンプ
そこでチワワを選ぶあたり楓さんらしいと思ってしまう。
するとホームルームのチャイムが鳴ったので急いでスマホを仕舞う。
そうして今日も1日何事なく授業を終え、ふと部室である図書館横の部屋へ行く事にした。
まあ、本当は文芸部員ならちゃんと行くべきなんだろうが。
図書館から部室へ向かう扉の前には新屋敷先輩がいた。
「新屋敷先輩、どうしたんですか?」
「いや、あの!えーと。───今宵、我らは闇のグリモワールを追及するべく馳せ参じた者なり。然る時がくるまでここを調べなくてはならない」
「ごめんなさい新屋敷先輩。多分文芸部員になったって言いたいんでしょうけれども俺には一緒に居る男子生徒の疑問もあるのでそこから突っ込めないです」
「われの名はインジニフィット=グラーテス
。左腕に闇の龍を」
「新屋敷先輩の同類ですね。ではこちらに」
「眷属よ!そこは最後まで聞くべきどころだぞ!」
誰が好き好んで年上の野郎の厨ニ全開の台詞なんか聞くもんか。
新屋敷先輩はよく見ればかわいいからまだ聞けるんだ。
「入部届は出したんですね」
「ああ」
俺を見てポカンとしてしまったインジニフィットさんは俺の質問に答えた後、俺を訝しげな雰囲気を混ぜた目で見てくるが、まあこの容姿だしさもありなん。
そして、俺は新屋敷先輩にこっちにくるように手招きして彼女が近づいてから
「えー·····。つかぬことをお伺いするしますがあの方の本名を教えて頂けますか?」
「鷹峰 藤吉郎(たかみね とうきちろう)だが、本人には言わないようにな。真名を現世で知られてしまうと身を滅ぼすことになるからな」
なんで同じ闇属性の中二病キャラで設定が違うんだよ。そこはお互い話し合うなりしてつながりをもたせろよ。
「眷属よ。ひとえに中二病と言ってもな、各々が作り上げた世界観があるのだ。それは一種の理であり、曲げてはならぬものなのでな。理解して頂けるとありがたい」
もう中二病キャラはめんどくさいんだけど。
「ま、まあ。中へどうぞ」
図書館でもいいが今日はまた一段と寒い。窓からの隙間風がある上広いのでここに3人だとエアコンをつけるにしても暖かく感じるのに時間がかかるので、部室なら3人でも十分なスペースでストーブもあるため、話をするならそこの方が良い。
「では失礼する」
鷹峰さんは腕に包帯、左目には·····ヘアバンドというのか。幅が4センチほどの黒色をした柔らかい布地にゴムが入ってるような物を左目を隠すようにして輪になってるそれを斜めにかけている。
「失礼ですけど。インジニフィットさんは眼帯はされないんですか?」
「ふっふっふ。われはその·····手に入れる為の巣窟に向かえるレベルではなかったのでな。代わりに同族から得た封印のアイテムを使っておるのだ」
なるほど、要は中学生では眼帯を買えなかったから、妹か姉かお母さんが使ってるヘアバンドを使ったんだな。
俺は長机をひとつ挟んだ廊下側に1つある椅子に座り、窓側の椅子を·····1つしかなかったから新屋敷先輩に座ってもらい。もう1つを図書室から物色し鷹峰先輩にも座ってもらう。
「お二方はここの活動内容は把握してますね」
「ああ」
「ええ」
俺の質問に肯定の意を示す中二病ズ
「まあ、ならいいです。じゃあ後は自由に本を読むなり執筆するなりして下さい。あ、常識の範囲内なら歓談も可です」
「それはかなりフリーな活動というかなんというか。てっきり1人1作品文化祭までに書けとか言われるかと」
俺の一回改まった姿勢からの脱力モードに虚をつかれた新屋敷先輩が思うところを述べる。
「正直なところ。我々としてはその方がありがたいのだけどな」
そういう····えーと。なんとかはめんどくさいので鷹峰先輩で統一しよう。
が、そう語るのに違和感を感じた。
その方が『良い』ならまだ分かる。が、しかし。その方が『ありがたい』というのは一体?
とはいえ、原因は分かっているのだが···。
「お二方?なんでジャージ姿なのか聞いてもいいですか?」
2人揃って肩が跳ねる。
そうなのだ。運動系の部活ならいざ知らず、文芸部においてジャージでくる必要性はない。
新屋敷先輩が唇を噛み締めて涙が溢れそうになる。
その横で鷹峰先輩はアワアワとパニック顔になっている。
「えー·····言いたくないのは百も承知です。でも、このまま何もしないという選択肢を俺はしたくないです。何が起きて。じゃあこれからどうしていくか考えましょう」
新屋敷先輩は机に隠した顔を上げられなかった。
泣き声を噛み殺していた。
鷹峰先輩は少し落ち着いたのかゆっくりと話し出した。
「われとリブライテッドはいじめに遭っていたんだ」
やっぱりか。
「内容は?」
「昼に男子トイレに行ったら個室の周りに人が5人くらい居たから中を覗くと····リブライテッドが水をかけられて縛られてて······。助けようとしたらわれも同じように縛られて。·········何度もバケツの水をかけられて」
それは苛めてる奴らからすれば新屋敷先輩が子役時代に演じてたドラマの再現という好奇心なのだろうが本人からすれば人格が壊れるトラウマを掘り起こされる恐怖心でしかない。
新屋敷先輩は大地震でも起きたのかというくらいに身体が震えていた。
そして、言わずにいるが新屋敷先輩の通学用の鞄からとてつもない臭いがする事からして色々と漏らしてしまったのだろう。
だから下校時刻に帰ると周りの嫌悪の視線が嫌でも集まるから皆が帰るまで帰れないと。
「新屋敷先輩·······」
「······ひっぐ!ひっぐ!───もうやだ!!こんなの!!」
そう言いたくなるのも無理はない。
相当嫌な事をされたのだから
「とりあえずこの事を氷見先生に」
氷見先生がこんなことを許す筈ないと分かっているからこその提案をしたが
「それはだめ!!!」
当の新屋敷先輩に止められた。
その事に疑問に思った俺はその意をそのまま伝えた
「なぜです?」
「────。·········」
新屋敷先輩は俺に顔を近付けるようにジェスチャーするので俺は新屋敷先輩の唇に耳を近付ける。
本当に今日楓さんが居なくて良かった。
こんなところを見ただけでもmajiでキスする5秒前とか言いそうだから。
新屋敷先輩はか細い涙声で内容を話した
「朝。教室に行ったら·····。男子生徒達数人に囲まれて。男子トイレの個室に入れられて······。ロープで縛られて大きいペットボトルの水を無理矢理飲まされて······。ガムテープで口をぐるぐるに塞がれたままにされて」
そこまで話すとまた泣き出して止まらなかった。
「新屋敷先輩。もう止めましょう。すいません。嫌ですよねそんなことされら。何も聞きませんから」
「撮られた」
何とは聞かない。
だが、今ここの臭いからして大小漏らしたところを撮られた。そして先生に言ったらその写真をばらまくとでも脅されたんだろう。
そんなこと女子中学生の新屋敷先輩に言わせるのは酷なのは明らかだった。
どうしよう。これでは先生に言ったら····。
いや、待てよ。この場合は
俺はスマホを操作する
数分後
「新屋敷さん。行くわよ」
「え!?氷見先生!?」
自分が思ってもいない展開に混乱しているのだろう。
そしてしばらくして今目の前にいる俺に悲痛の視線が向けられる
「とときくん!!言ったよねわたし!!」
「新屋敷先輩落ち着いて下さい!この場合、その苛めていた生徒が先生に言った事がバレたら写真をばらされるのであって先生が他の生徒に言わなければ言っても問題ないんですよ!新屋敷先輩は氷見先生がそう簡単に言いふらす人だと思う?」
俺は努めて優しく言うように心がけた。
そこでやっと得心いったようで少し落ち着いた新屋敷先輩
「鷹峰君も都時君も帰りなさい。後は私がなんとかするから。」
「待って下さい」
鷹峰先輩が氷見先生に制止を促し目を隠していたヘアバンドを外した。
三者三様、その意味が分からなかったが
それを新屋敷先輩に渡そうと手を伸ばし
「これで前髪上げてから出た方が目立たなくなると思う。」
「···········────え?」
新屋敷先輩が困惑していた。
まあ、その長い前髪で外に出たら運動部員に記憶に残るだろうな。
ただ、新屋敷先輩の前髪が長いのは額の傷と義眼を目立たなくするためなので新屋敷先輩としては前髪をあげる事に抵抗感があるのだろう。
「いいんじゃないですか?新屋敷先輩、額隠せますし。その方が新屋敷先輩かわいいし」
「か!かわいいとか言うな!!」
あ。そっちに反応できるのか。
頬の赤らみが分かるのは照れている証拠である。
「まあまあ。新屋敷さん、ここは乗ったほうがいいとは思うわよ。2人ともあなたのことを気にして言ってるんだし、あなたもあまり騒ぎにしたくないでしょ?」
「そ、そりゃあそうですけど·····。でもなぁ·······」
「新屋敷先輩、恥ずかしいのは一瞬です。慣れればスッキリしますよ。」
「視界がね!なんか変な感じに聞こえる言い回しは止めてー!」
よし、突っ込めるくらいには回復したか。
これなら後は帰れそうだ。
「じゃあ、俺はこれで。先生さよならー」「はいはーい」
俺はそそくさとその場を後にしようとしてふと、鷹峰先輩を誘うことにした。
「あ、鷹峰先輩も一緒に帰りませんか」
「なぜ、われがお主と」
そう言う前に扉の向こうへ連れて行き閉めてから肩に手を回し
「顔に火傷のある俺と見た目ジャ〇ーズ系のイケメン男子の鷹峰先輩が先に一緒に歩けば自然と目立って後からくる新屋敷先輩の目眩ましになるでしょ」
俺の目的が分かった鷹峰先輩が鞄を取りに再度部室に入った。
「じゃあ先生俺と鷹峰先輩は今から1階正面入り口の下駄箱から帰りますので」
「分かったわ。10分くらいしたら私達も職員玄関から行くから」
さすが氷見先生。察しがいいようでありがたい。
そう言い残し、行く前に俺は自分のジャージ下と鷹峰先輩がジャージの上を新屋敷先輩に渡してすぐさま出て行った。
「いや!!いいって!!絶対汚れるから!!いいから!!」
さっき、ちらっとお尻を見たら結構汚れてるのが見えたからまだ相当漏らしてるだろうからと配慮した結果なので、何も言わずに逃げるように去っていく俺達と突き返そうとする新屋敷先輩。
男子中学生と勘違いさせるのも狙いなんだけどな。
そんなこんなで帰路に向かう為校舎を出た野郎2名
「にしてもよ。今回新屋敷先輩を狙ったのは」
「止めときな。その話を誰が聞いてるかわかんねえぞ」
俺の追及に待ったをかける鷹峰先輩。
「········悪い」
「ま、大方見当はついてるけどな。われと同じ奴なら覚えてるから」
「そうか」
そういえば鷹峰先輩もいじめを受けていたんだっけ。
「そういえば。鷹峰先輩の中二病のきっかけはなんです?」
学年1年分違う2人して横に並びながら歩いてるなか出てくる話題なんて相場が決まっている。
しかし、こうしてヘアバンド無しで見るとイケメンなんだなって思う。見た目だけならジャ〇ーズにも入れそうなくらいなんだが。
こんな人がどうしてこんなキャラになっちゃったんだろう。
正統派のイケメン枠として入れそうな顔立ちで、黒髪も清潔感のある好印象持てるものなのに。
指摘するところがあるとすれば中二病なところなのだが。
すると、周りをキョロキョロしだしてから鷹峰先輩がちょいちょいとこちらに近づくように指示をする。
なんだ。中二病キャラは耳を近付かないと話ができない取り決めでもあるのか。
まあ、先輩だし。言うこと聞いて耳を近付けると
「───リブライテッドが好きで」
へー?ほうほう。
こちらがニタニタと笑いながら視線を向けると顔が赤くなっている。
「気がついたら目で追うようになっていたんだよ。芸能人とか、子役だとか。そんなこと関係なくな。だから、われも中二病ぽくなれば接点ができていつか付き合えるかと思って」
どうだろう。あの人と話してる中ではそんな素振り。あ、でも星宮先輩にいじられてたとき慌ててたし可能性はなくもないか。
「まあ。新屋敷先輩かわいいですもんね」
「だろ?」
「だが。俺の楓さんの方がもっとかわいいですからね」
「なにをー!!あのぺったんこの何がいいんだよ!!それなら大きさも形も申し分ない新屋敷の方がいいだろ!!」
「ハハハッ。鷹峰先輩分かってないですねー!楓さんの方が新屋敷先輩より腰周り細いでしょ!あの腰の細さは芸術品レベルだと思わないですか!」
「後輩よ。乙女とは見た目だけではない。性格や人間性からつながる魅力も大事だぞ」
さっきまで胸の話してた人間が何を言うか。
「それなら病院でナースさんが気を利かせてチョコレートをくれたからそれを食べてる時に頬にチョコがついてるのとかどうですか。楓さんっぽくてかわいいでしょ」
写真提供は外村先輩です。
「なにをー!!こっちはな。リブライテッドの家に呼ばれて新世界バトル繰り広げたんだぞ」
「あーーー!!内容はともかく新屋敷先輩の家に呼ばれるのはいいな!!羨ましい!!」
「フハハハハハ!そうだろうそうだろう。」
「あなた達は何を騒いでいるのかしら?」
2人正面の校門を出ようとしたところで壁に寄りかかっている楓さんがいた。
約2名即座に土下座の構えをとる。
「いい心がけね。あ、この事は新屋敷さんに報告するから」
「止めろ芹沢ーーー!!われが体目当てに見えるじゃないか!!」
「実際そうじゃない。あ、もうLINEしたから。既読ついたわ『聞こえてる。大声で話すな変態』ってさ」
横で土下座してる鷹峰先輩は力尽きたようだ。
「さて。お二人さん、わたしに何か言うことはないかしら?」
「「胸が平らな事を指摘してすみませんでした。今後の成長に期待します」」
「謝罪はしてほしいとこだけど、言い方がアウトね。はい、もう一回。」
「それでも俺は楓さんが好きなので許してください」
「それでもわれはリブライテッドが好きなので芹沢には何の感情も沸かないのでお許しください」
「2人して告白の流れは予想外だったわ。ちょっと彰くん。ここ他の生徒も通ってるから止めてくれない?」
「そうですね。前に楓さんが体育の時間のバスケで転んだ時の『ひゃん』は怪我よりも先にかわいいなって思ってしまいました。お許しください」
「ああ、あの時か。あの時われは同じ体育館で卓球だったが、なぜ都時氏はその事を」
「たまたま美術の時間で校内のものを描く時間だったので体育館に」
「なるほど。もちろんモデルは」
「楓さん一択です」
「懐かしいな。われの時は戦闘スタイルのリブライテッドを描いたな。恥ずかしがってたが」
「そこ盛り上がらない!!彰くんは謝罪に見せかけてのわたしの羞恥プレイはやめて!!まだ部活で走ってる子達に聞こえるから本気でやめて!!」
本人からの本気の制止がきたから止めますか。仕方のない先輩ですね。
「あ、できた絵は校内に飾りましょうか?」
「止めて」
「なら、われの描いたリブライテッドも持ってくるから」
「そうか。1人だけ飾られるのは恥ずかしいからな。よし、じゃあ新屋敷先輩と2人なら」
「止めてって言ったよね?鷹峰くんも悪ノリは止めて。この子はそういう事すると本気で実行するから」
まあ、楓さんのイラストの完成度を見てもらいたい衝動はあるが、やっぱり本物じゃないと満足できないのが本音なのでやらないけども。
しかし、俺達が目立つ事で新屋敷先輩が人の目を掻い潜りやすくするのが目的なのだが楓さんがいるのは計算外だったりする。
「楓さん、退院おめでとうございます」
「ありがとう。できればそれを第一声に聞きたかったわ」
「ほら。そこは楓さんが魅力的すぎるのが悪いわけでして」
「物は言いようよね」
はたして。このようなやり取りをしている間、鷹峰先輩は何を思っているのだろうと横を覗き見ると
「おいっす。何?なんなの、この状況はさ」
聞きなれた声だったので振り向いてみるとやはり平間さんだった。
「平間さん。陸上部はいいの?」
「もう最終下校時刻だからね。しかし。日の入りにあわせて決めるとどうも時間が取れなくて困るね。ま、家でやるからいいけどさその分」
話はそれるがこの人の快活な笑顔はこっちも笑顔になるから癒される。
練習したら即下校したのだろう。学校指定の赤色のジャージ上下に身を包んでいる。
女子中学生の間では芋ジャージと呼ばれ嫌がられているが、この人のキャラクターがそうさせるのか似合って見える。
「で、何をどうすれば都時くんは土下座することに·····て言うだけ野暮か。ダメだよ先輩彼女を怒らせちゃ」
少し寒く感じる風が吹き抜ける中、疑問を口にした。
「平間さん。楓さんと面識あるんだ」
「そこはあれだ。ワタシが都時くんと仲良く話してるのをこの人が勘ぐってきてさ」
「ひーらーまーさーん?」
楓さんが少し怖い顔をして平間さんを牽制するが時すでに遅し。
楓さん、やきもち焼いてくれてたんですね。彼氏として嬉しい限りです。
「───何ニヤニヤしてるのよ?帰るわよ」
「はいはい」
もうここまですれば新屋敷さんも下校しただろうと思われるので俺も帰ることにする。
「待てーーーー!!」
そこへ走ってくる女子生徒の姿が。
まあ見なくても分かるからいいか。
「都時!せめて君だけでも止まって!幼なじみでしょ」
「椎堂。中学までの幼なじみならまだたくさんいるから椎堂と俺だけの関係じゃないぞ」
「ん?てーと。あのクラスだと都時くんを知ってるのって誰になる?」
平間さんからそう聞かれ
「えーと。幼稚園からでいくと七森(なもり)さんと甲斐。新谷だろ」
「え?あそこと一緒なの?」
俺の回答に驚く平間さん
こういう時、楓さんはどう立ち回った方がいいかわからないでいるのがかわいい。
「七森さんかー。あの子には悪いことしたなー」
椎堂がそう言い放つのを納得する俺。
「え!?七森さんって。あの少し暗めでネガティブで地味な感じの子でしょ」
平間さん、あなたも現在進行形で七森さんに悪いことしてますよ。
椎堂、何したのの呼び掛けに
「平間さん、七森さんが滑舌悪いのは知ってるよね?」
「ああ、うん。それはあの子、サ行がハ行になるよね。ん、待てよ。小学生ってまさか」
「発表会とかある時、クラス全員に笑われて七森さん泣いてたんだ」
「椎堂酷いじゃないか!!」
平間さんはそういうのは嫌うタイプだろう。
「待って!待ってよ佐江。当時は小学生だったし」
「にしたってさ」
「平間さん。今でこそ七森さんってサ行がハ行になるくらいだけど当時はもっと酷かったからね」
「酷い?」
俺の言葉に疑問で返す平間さん。そして詳細を語ろうとする椎堂
「まず、りに小さいやゆよがうまく言えないし、タ行もハ行になるから『よろしくお願いいたします』が『よろひくおねがいいはひまふ』になるから挨拶から笑っちゃって」
「それで?その後謝ったんだよね?」
「もちろんだよ。それに新谷くんが怒ったのも大きいし『おめえら人が一生懸命やってるのを笑うんじゃねえ』って」
「へえ。あの金髪やるじゃん」
「実はあいつ、ジャ〇ーズにいたことあってさ」
「おい!?マジかよ。なんでそんなヤツが」
平間さんのリアクションに
「鷹峰くん。ほら、ツテができたわよ」
ここぞとばかりに楓さんが入ってくる。
「いい。われはそういうの興味ないから」
鷹峰さんに会話を投げる。
「本当だよ。ここにジャ〇ーズ入れそうなのいるじゃん」
その流れに乗っかる平間さん
「ただ、本人の性格の悪さが露見して退社したみたいですけどね」
「あー。駄目だ。それはどうにもできないわー」
勝手に株を上げて勝手に下げる平間佐江市場。
「でも、新谷くんのおかげで七森さんの滑舌改善したんでしょ。本人達は言わないけど」
「のようだね。なんか一緒に帰ってるの見かけたし」
「はーーー。それが今はああか。てっきり甲斐と新谷でつるんでるだけかと思った。そこに七森さんは予想外だわ」
まあ、今お互い別々の友達がいる状態だとそんなこと分からないよな。
「後は·······椎堂のクラスになればいると思うけど俺のクラスはそんなとこかな。俺のクラス人数少なかったし」
「でも今言ったメンバーと都時くん仲良くしてるとこ見たことないけど」
「昔は七森さんとは謝った後皆で話す事もあったけどね。今はお互い他にコネクションできちゃったから」
「ワタシはあれだな。水戸日和と綾城圭一とかその一派もだな。」
また濃いメンバーと一緒になったもんで
「あ、姉岳と皆河もそうだ。ここは小学校からだけど。あとは保育園から」
まだキャラが濃いのが残ってた。
「つーってもこっちは何も面白くねーぞ。やってること今と変わんねえもん」
せめて、姉岳さんくらい何か劇的な変化があるのを期待してたんだが無理だったか。
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