狂ったもの 都時彰編 9

「でも、そういう殺人って男子を起用するものではないか?女子を練習台にして」

新屋敷先輩。言いたい事はもっともなんですけど。もうちょっと言い方はなかったんですか。

「あーしは同世代の男にもひけを取らなかったから。そのせいだろうね。さっ!話す事は以上だ。はーっ、すっきりした。じゃ、愛実。任せた」

「········わかった。」

俺の背後にいる愛実さんから不穏な空気が漂うが不承不承といった感じで俺もくるように顎で示すとまた外に出てしまう。

ヤンキーのお姉さんとバイクの2人乗りとかは男が運転するからときめくだけでその逆は違うと思うのは俺だけだろうか。


そうしてバイクを走らせる事、10分程したら愛実さんが話し出す。

「あいつの話、あれで終わりじゃないのは分かるよな。」

その切り出しに俺は「はい」と答えた。

「聞きますけど、星宮先輩は警察には」

「そこからか···。いいけどよ。あれ確か、にゃあの親がにゃあを殺そうとしたところから始まるんだよな。」

は?待て待て待て

何をどうしたらそうなるんだ。

「本人にとっては両親が自分を殺そうとする光景は異形に映っただろうな。実際はにゃあの持っていたナイフを取り上げて、殴っただけなんだけどな。」

それは。つまり、

「まあ、親なりに娘の罪を庇いたかったんだろうな。殴って気絶させたにゃあをアタイんとこの爺ちゃんに渡して、自分達はそのナイフで自殺しちまうんだから」

そこで左折するため少し左に体を傾けると、少ししてコンビニへ入る。

「夕飯ですか?」

「水買ってきて。はぁ!はぁ!はぁ!」

急に胸を押さえた愛実さんはかけていたポーチから薬を出した。

事情はともかく財布を受け取った俺は手早くペットボトルの水を買い、愛実さんに蓋を開けて渡した。

そして、しばらく胸の痛みに耐える時間がかかってから

「サンキュ。アタイ、元々体が弱いんだよ。早苗姉、いたろ?アタイと双子なんだけど母親の体内で吸収する栄養分が偏っちまってアタイだけ長くて二十歳までしか生きられる体じゃねえんだとよ」

待て。星宮先輩の情報を知りたいのにあなたの情報も入れてたらシリアス展開がパンクするんですけど。

でも、それならこの人の体の小ささにも納得がいく。

「中学生の坊主には女子高生はオカズなんだろ?抜いてみ?」

いや、こちらからお断りします。

なんかジでポの法律に引っ掛かりそうですし。

「······今から引き回しに変更してもいいんだぞ」

「愛実さん万歳!愛実さんかわいい!愛実さん抱き締めたい!」

「おいおい、もうさっきから抱き締めてるだろ。しょうがねえ中坊だな」

うん、わかった。この人、器も小さい。

「移植とかして治るものじゃないんですか?」

「元々体全体の機能が脆弱な状態で産まれてるから仮に心臓なりを移植しても他の部分に負荷がかかるから駄目なんだとよ。」

あ、そうそうと言い。また、病院目指して走りながら星宮先輩の話に戻した。

「あいつ、警察に自首しに行こうとしたんだけどもう、にゃあの親がやった事になった後で小学生の言うことに取り合ってくれなかったんだよ。んで、この後だな。あいつが睡眠不足になるの」

ん?睡眠不足だったのは最初の拷問の時じゃないのか?

バーカ。と愛実さんは意地悪く言うその姿に年相応じゃなく、見た目相応だと思ったのは内緒の話。

「女子小学生だぞ?それで大事な友達を殺したんだぞ?トラウマになるだろ。もう毎日友達への懺悔で押し潰されそうでずっと眠れない日々が続いたんだ」

そうか。そうだよな。そりゃそうなるよな。なんか、星宮先輩の態度を見てるとそんな心が弱いイメージがないから考えなかった事だ。

「ほら、アタイがこんなんだからさ。一緒に病院に行って睡眠薬を貰ってくるんだよ。今でも常備してるはずだよ」

まだ、癒えてないんだ。それもそうだよな。星宮先輩はまだ女子中学生なんだから

「で、寝たは良いんだが。今度は夢の中で友達や親にずっと責められる夢を見ちまってすぐ叫んで起きちまうんだよ」

病院に着いた。

愛実さんは入り口近くでバイクを停めると勝手知ったるように院内に入った。

「アイツ、薬を勝手に増やして飲む事もあってヤバい時期もあったけど今はアタイと早苗姉の2人の監視で一緒に抱きついて寝てるから。まだ安心できるのか少しは寝れる時間が増えたぞ。昨日は·····4時間くらいか」

すみません。昨日俺は7時間寝てました。

「学校でにゃあに会ったら男でも紹介してやれよ」

そう締めくくって、愛実さんは自分の診察へ向かった。

俺は外村先輩の下着を届けに······行く流れなのが悔やまれる。

いや、本人には申し訳ないけど。この流れで中学生の先輩の女性下着を渡すのはどうかと突っ込みたくなる。

と、言っていても仕方がないので外村先輩の病室へすたこらさっさ。

そして、楓さんに出会いガミガミガミガミ。

「まったく。文乃の下着を持ってきたから何かと思ったら·······。通報しようかと思ったわ」

いや申し訳ない。でも、これは俺が悪いんじゃない。あの親が悪いんだ。

「わたし、来週の火曜日には退院できるから」

「それはおめでとうございます」

「だから今度から文乃の下着はわたしが持ってくるから、もう持ってきて匂いを嗅いだりしないように」

「してませんからね!あくまで母親の言う通りにしただけですからね!」

「どうだか」

疑り深い先輩彼女を持ったものだ。

そこへ楓さんを宥める外村先輩

「まあまあ、かえでっち。都時少年にも事情があるし。都時少年もありがと。助かったよ」

そう言って、早速布団の中で下着を穿こうと試みるがどうもまだ左半身が麻痺が残っているようで中でもぞもぞしているようだ。

「外村先輩。まだ麻痺してます?」

「いや、回復の兆しはあんだけど。あれよ。まだオイルの切れたロボットみたいに少しずつゆっくりでしか動けなくてさ。関節も硬くなってるから」

そうか、それはまだ入院が必要なようだな。

「あ!そうだ都時少年。これ穿くの手伝って」

「文乃!待って!自分が何を言ってるのかよく考えてから発言して!わたしが手伝うから彰くんはもう帰っていいわよ」

まあ、そろそろ退院できるという話を聞いた以上、そうしても問題ない訳だし。そうしますか。



そうして病院の入り口には居なかったので探してみたら。愛実さんはカフェルームでココアを持って飲んでいた。

「ここにいるなら、連絡下さいよ。探したじゃないですか」

「うるせー。外じゃ体がもたねーんだよ。アタイ、あんたの番号知らねーし」

はいはい。送りますよ

ライ〇を起動させ、愛実さんと連絡先を交換する。

「都時····彰ね。ん、何かあったら連絡するわ」

俺、将来この人のパシりにされるのか。

またさっき入った入り口から出て、バイクへ乗ると俺もその後ろに座り腰に腕を回す。

「あ、今ココア飲んだばっかだからそうされると出そうだから腰掴んでくれ」

まあ、そんなにお腹を圧迫させてる覚えはないが本人がそういう以上は従う仕方ない。

俺は愛実さんの腰に思い切り掴んだ。

「ひゃ!!」

そしたら、あら不思議。愛実さんから女の子らしい悲鳴が聞こえるではありませんか。

「愛実さん。もう一回やってもらっていいですか?今から録音するので」

「おまえ、アタイをおもちゃにしようとしてるだろ絶対ひゃ!!」

愛実さんのかわいらしい悲鳴ゲットだぜ。

どうやら愛実さん。今まで自分でも気づかなかったようだが、腰回りが感じやすいようだ。

「~~~~~~~!!おまえ~~~~~!!服の中に手え突っ込むんじゃねえよ!!なんかおかしいなって思ったら!!アタイの肌に触るな!!そして素手で触るな!!」

「だってそうしないと落ちちゃうし。愛実さんもいけないんですよ」

「なんでアタイが悪いことになるんだよ!」

「だって普段ダミ声の人がかわいい悲鳴出したら、そりゃあやりたくなるに決まってるじゃないですか!」

「決まってねーよ!それどこの常識だよ!アタイだって好きでこんな声出してんじゃねーよ!だから触んなこらーーー!!」

愛実さんも女の子なんだな。腰やらお腹のお肉がすべすべで柔らかい。

腰回りは比率でいくと楓さんにひけをとらない。どころか細すぎるくらいかも。

「愛実さん。これ、細すぎませんか。ダイエットにしてはやり過ぎかと思うのですけど」

「お前、これ以上アタイに何かしてみろ。引き回しの為のロープを買ってくるぞ。資材店の場所は知ってるから頑丈なの用意はすっから」

目がマジだよこの病弱女子高生。

「にしても星宮先輩といい、愛実さんといい。あの神社はギャップ萌えクイーンの巣窟にでもなっているんですか。あ、ギャップ萌えクイーンの称号要ります?」

「要らねえよ!ぜってえにゃあも要らねえっつうし!······でも。そうだな、そういう意味では早苗姉もすげえな」

ん?ここにきて早苗さん?

あのおっとり天然系に見えるかわいらしい人が?

は!?まさか包丁を持つと人格か変わるとか!?

やだやだやだ!そんなのやだ!

ああいう人は、豊満な胸にダイブして『疲れたよ~』とか言ったらニコニコ笑顔で『お~よしよし』と言いながら頭を撫でてくれるのが男の子の夢なんだ。

いや、あの胸は椎堂を越えるぞ。

Gかな?H?I?

まさか、とんでとんでJカップとか。

これは妄想が膨らみますなあ。グエッヘッヘッへ。

「····なんか早苗姉で変な事考えてねえよな?」

なんで!?なんでことごとく貧乳民は勘が鋭いんだ!?

いや、そんなこと言ったら新屋敷先輩に失礼だ。

新屋敷先輩、どうもすいませんでした。

「まあ、いいや。とにかくお腹も腰も禁止だから肩を抱く感じ以外認めないからな」

よしきた。

「·······これから発進するから。くれぐれも耳に息を吹き掛ける真似はするなよ」

うん、わかった。

「あんっ!」

じゃあ発進する前ならセーフ···じゃないですね!!

愛実さんの顔が寒さのせいだけでは説明がつかないくらいの険しいものになっていた。

女の子がそんな顔しちゃいけません。とはいえ原因は俺なんだけども。

男子中学生が女子高生をからかうのは2度までだということを心に刻んだ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」

「許さん!!今からロープ買いに行くからな!!運転手はアタイだから自由だぞ!!」

早く大人になって免許取りたいなと心から思う瞬間でもある。



稲瀬神社到着。

「ただいま~」

「あらぁ。愛実ちゃんおかえり~。ねえ?どうしてそこの都時さん?は顔が赤いけど自分何かあった?」

早苗さんが俺の顔の所々が赤く腫れてるのを確認して聞いてくるが不機嫌顔の愛実さんに何でもないと突っぱねられた。

「別に~?な~んもないよな?な?」

「はい······」

普段からダミ声なのに加えてわざと低音を出してるあたり恐怖心が沸き上がる。

その実態はというと、前方の車が左後方に位置する愛実さんの乗ってるバイクを確認せずプラス、ウィンカーも出さずに左折しようとしたので慌ててブレーキをかけた。

そもそも愛実さんがスピードを出す人じゃなかったのが幸いして車と接触すること無く左に倒れるくらいで済んだ。

が。この時、俺は愛実さんの身が危ないと思い、身を庇うように愛実さんの体を抱き締めて倒れ込んだ。

この時、歩道と車道の間に植えてある植物の植え込みに倒れ込む形となりバイク共々もその枝に引っ掛かった。

で、だ。抱き締めたのはいいんだが、最初走り出したときの体勢が愛実さんの肩を抱く体勢になっていたのもあって抱き締め方がそのまま上から押さえつける形になり。


俺の手の平が愛実さんの胸を触っているなんて気づかなかった。


その事にご立腹な愛実さんは被っていたヘルメットを俺の顔面に何度も叩き込んだ結果が今の現状である。

だって愛実さんの胸ぺったんこなんだもん。

そこまで楓さんと比率を揃えなくてもいいのに。

プラス、愛実さん的には事故りかけた事が母親にバレるとバイク禁止令が下されるから黙ってて欲しい思いもあるという。

「まあ、いいわ~。都時くんも今ご飯用意してあるから食べて食べて」

ああ。同じ双子とは思えないくらい、女子力というか包容力というか。男子中学生にはオアシスのように感じられる人である。

そう。女子高生にはこういうのを期待してるんですよ。決して暴力系ではなくて。

「あ、そうだ。早苗姉の部屋、都時に見せてもいい?」

「ふぇ?へ?え?な、なんでそんなことに」

「ふふん。ギャップ萌えクイーンはアタイとにゃあだけじゃないって事を都時に教える為だ」

「ちょっと待て!黙って聞いてりゃなんだよそのギャップ萌えクイーンって!」

あ、野生の星宮先輩が飛び出してきた。

だが、ボールが手元にないので捕獲はできなかった。

そもそも、この人とはたまに会うくらいの距離感がベストだと思う。結構雑多なイメージがあるから共同生活できないように感じるし。

「都時からの称号。ほら、組長とか副組長とかと同じ感じの」

「ぜってえちげえ!!要らねえよんな称号!トーキもなんであーしがギャップ萌えクイーンになってんだ!!」

そりゃあ、ガサツな先輩女子が年相応の女子中学生な面を覗かせてるからですよ。

ボカン!バキン!

頭の中だけのつもりが声に出ていたので殴られた。しかも2回も。

殴ったな親父にもぶたれたこと無いのに。

ああ。もう殴られる可能性は無くなったから。その分星宮先輩が父親代わり····は嫌だなあ。

この人のガサツ加減がどんなものかまだ未知数だけどこの人の性格からして部屋の中ゴミだらけになってそうな。

「まだ殴られてえのか?」

また声に出していた。ここは可及的速やかな土下座をせねば

「ギャップ萌えクイーンどうこうはいいとして、女の子の部屋を男の子に見せるのはちょっと···」

「って言ってる早苗姉の部屋は男部屋そのものだぞ。」

「愛実ちゃ~ん。言い方は気を付けなさ~い」

「ってことは星宮先輩と良い勝負」

「トーキ、いい加減あーしが片付けられない女子代表みてえになってんのやめろ」

違うんですか。

「そもそも、早苗さんみてえに物をごちゃごちゃ置くのきれえだから最低限の物しかねえからキレーになってんだよ」

あ、そっちのタイプか。それはそれでこの人は期待を裏切らないからOK。

「にゃあ、ぜってえ都時の奴にゃあを良い意味で考えてねえぞ」

人の心を読むなダミ声ぺったんこヤンキーが。

「いい。なんかいちいち手ぇ出すのもめんどくなったからまた手ぇ出したくなった時までキープにするわ」

俺、この人に尽くさなきゃ殺されるかもしれない。

「ち、違うのよ都時くん。ただ私はその~···」

「ま、はえー話がメカオタだな。早苗姉は」

··········はい?メカオタですと?この天然おっとり系の巨乳属性女子高生が?

「はーい。1名様ごあんなーい」

「待ちなさい愛実ちゃん!あなたに私の部屋を案内する権利はないわよ!」

「良いじゃん双子なんだし」

「双子関係ないわよ!」

「じゃあ部屋が隣だから。アタイの部屋に案内するけど、ひょっとしたら間違えて早苗姉の部屋に入っちゃうかもしれねえけど、そん時は許して」

「許さないわよ!そんな事前謝罪は許可しませんってこら!待ちなさーい!」

俺は早苗さんの部屋見たさに愛実さんをお姫様抱っこして、愛実さんの案内で走り出した。



「とうちゃーく」

そして、狙い違わず早苗さんの部屋に着いたら。そこはパソコンと周辺機器のオンパレードだった。

四方をラックに囲まれ、そこに新旧問わず置かれた据え置き型からノート型のパソコン。はたまたタブレット、その他付随する機器も種類毎に並べられていた。

「すごいですね。この数は」

「まあ早苗姉の趣味だからな。暇な時はよくパソコン関係の店に入ってるからそこの店員と仲良いし。今の彼ピもそのツテだし」

ほうほう。世の中には趣味が通じて恋仲になることもあるのか。

そうならずに30超えてまで独身貫いている人もいるっていうのに。世の中は不条理なものです。

ただ、これは趣味の度合いかもしれないなと思う。あの人ののめり込みは半端じゃなかったから

「氷見先生もそういう出会いがあればなぁ」

「アッハハハハ!何?お前氷見ちゃん知ってんだ。まだあの中学いんの?」

「ええ。あ、愛実さんも西ノ鳥中学?」

「そう。あ~、懐かしいな。今度会いに行こうかな」

「来年春には中ノ鳥中学へ異動だって話ですよ」

そこへ驚きの声が上がったのは追い着いた早苗さんだった。

「えーーーー!!ちょっと待って!!え!?氷見ちゃん先生でしょ!?明日お礼に行かなきゃ。愛実ちゃんも一緒に」

「早苗姉と一緒ってのは恥ずいけどま、いいぜ。行きたいのはアタイも同じだし」

そうか。この人達も氷見先生に世話になった生徒なんだな。

「あ、ちなみにだけど。あの先生まだ登山やってたり······」

「してるんです」

ここでもか。あの人の認識はそこになるのか。

「懐かしいな~。あの先生が男子から『結婚いつするんですか?』って聞いたら『いざとなったら山と結婚してるから大丈夫』って言ってたのはよく覚えてるわ~」

あの先生、そんなことを当時からしてたのか

「で、あの先生って結婚は······」

「ご想像にお任せします」

「はい。男子はここでおしま~い」

俺が氷見先生の結婚事情の返答を濁していると早苗さんが俺の背中を押して部屋から追い出してきた。

いや、女子高生にとって異性に自分の部屋を見られるのは恥ずかしいのは分かるが、この部屋は見る限りパソコンばかりなので羞恥となる物が該当しないと思うのだが、

でも、いや、待てよ。ここ早苗さんの部屋なんだよな。


「···早苗さん。勉強机とかはどこに」

「いいから!もう出てってくださ~い!」

「ああ、それならこの畳の下に」

「愛実ちゃんは黙ってて!!」

いよいよ早苗さんも穏やかな雰囲気でいられなくなったようでなにか焦っているようだ。

畳の下?確かに今見えているその床には8畳敷き詰められた畳になっており、その上に左右と奥を囲むように3段式のラックが160センチ程の高さで連なっている。

そして、その真ん中のスペースがぽっかり空いていて、丁度畳が縦に2つ並んだ形になっている。

「まさかまさか。この畳を開けるとそこに」

「ないない!ないから!はいしゅーりょー!」

「そりゃ」

「きゃ~~~~~~!!」

俺が本当に部屋の外まで追い出された所へ星宮先輩までやってきた。

そして、流れるように早苗さんを肩に担ぐように持ち上げてみせる。

うん。この流れは分かるぞ

お昼を呼びに来た星宮先輩、だがこれは面白い事になっている助太刀せねばの流れだ。

「星宮先輩ありがとうございます」

「おう。」

俺は躊躇なく畳を上げる。

「ちょっとそこ!!何連携してるの!!愛実ちゃんにゃあちゃん後で許さないからね!!」

するとそこには隠し扉があるじゃありませんか

「オープン」

「やめてえええええ!!!」

開けたそこは意外にも一流企業の事務所のようなきれいなグレーのカーペット床と白色の壁が施されていた。

施されていたはいたが、それは上半分が見える壁と入り口の1メートル四方程と5、6箇所から伺える床から類推しただけの事。


あと見える物はガラクタの残骸だった。


「····早苗さんはおしとやかな女子高生だと思っていたのに」

「違うのー!!これはそう!機械とか車とかも好きだからそういうの修理したりカスタマイズしたりするために置いてあるだけで」

「で、どこで勉強するんですか?見たところ机が見あたらないんですが」

ちょーっと待ってと言い、担がれている早苗さんはまず星宮先輩に降ろすよう指示。

それを従い星宮先輩が降ろすと鉄の塊の間に足を通して左奥まで進む。そこに勉強机がかろうじてあった。

椅子もそこに設置されており、ギリ人が1人分引いて座れる部分が確保されているだけであった。

「こんだけ置いてあって何に使うんですか」

「これでも愛実ちゃんのバイクの修理だったり速度制限装置取り付けたりしたの私なのよ~。それに私としてはこの方が落ち着くのよ~」

本当によくこれだけ集めた物だ。いつか地震に遭ったら一貫の終わりだろうに。

「あ、色々計算して置いてあるから下手にどかしたりしないでよ」

もう何個か動かしましたけど何にも言わなければ分からないだろう。

「あーーーー!!!都時くん!!あの工具箱はこっち!!で、ここにある潤滑剤はあっち!!」

どんだけ記憶してるんだよこの人。そのスペックを片付けに生かして下さい

特に勉強机の右のスペースはガラクタの山となっている。

「すみません早苗さん。このガラクタの山はなんですか」

「ガラクタじゃないよ。ナットやボルトとか。あとはシリンダーとか水平器にチューブに電線に」

「整理して下さい。地震が来たらどうするんですか」

「大丈夫。そんな時の為にここにパーテーション建てるつもりで今頼んでるから」

「星宮先輩、これ処分で」

「あいよ」

「先輩の話を聞いてーーー!!!」

こちとらそんなのとっくに聞いてないですよ。



本気と書いてマジと読むというのが合うくらいの形相で早苗さんが暴れだしたから我々は止めざるを得なくなり地上一階の溜まり場らしきスペースに大きめの机に鍋ごと載ったカレーライスを頬張っていた我々一味。

「いい?都時くん。これからは絶対女の子の部屋に無断で立ち入らないこと。これができないとかわいい彼女はできませんよ」

「ゴクン。すみません、それはとっくにできてます」

「「嘘(だ)ーーーー!!!」」

土岐姉妹が大絶叫した。

「2人ともおじいちゃんが寝てるんだから静かに」

でもよーと言い反抗するのはもちろん愛実さん。

「都時くんも大丈夫?こんな時間まで居てお母さん達心配しない?」

「あ、今電話します」

言われて気づいてるようじゃ駄目なんだがここで行動しないわけにもいかずスマホを見るとそこにはラ〇ンで椎堂からの『いつ帰るんだ?』の羅列と楓さんから

『浮気なの?』15時30分

『そうなの?』15時57分

『そうなのね?』16時00分

『あと30分以内に連絡しなければ1ヶ月無視するから』21時03分

おそらく、この21時03分は外村先輩に宥められて、それでもしびれを切らした結果だろうと思われる。

ただいま21時22分なのでまだ間に合う為、即座にラインした

『今星宮先輩の家に居ます』21時04分

『星宮さんに迷惑だから帰りなさい』21時05分

即レスとは楓さん。画面見ながら待ってたんですか。

『家に連絡したら帰ります』21時06分

『ならよし』21時07分

なんかこちらも即レスしなきゃいけないかと思い返したら燕返しされました。

そして椎堂の携帯に電話した。

「あ、俺だけど。今から帰るってお母さんにも伝えてくれる?」

『都時、母さんがすごい心配してるから連絡はしてくれよ。事件に巻き込まれたんじゃないかとか考えてるから』

そんな大袈裟なと言いたいが、この間でも女子高生がSNSで出会った中年男性に殺された事件がテレビでやってた時に俺と椎堂も気を付けるように真剣に言ってたから心配もするか。

中学生はまだ保護者に守られてる身なんだなと考えてしまう。

「分かった。今車出してもらうから」

そう言い残し電話を切ると

「じゃ、行くか都時」

「あんたは駄目」

愛実さんが送り出そうとするのを雪恵さんが止める。

「いいじゃんけちー」

「夜中に出るのは禁止って言ったでしょ」

「でも出てるじゃん」

「あんたが言う事聞かないからでしょうが」

親子で口喧嘩が始まった。愛実さんが送る送らないの話だけで15分くらいかかって最後は雪恵さんが車を出してくれる事になった。

「いい早苗?ぜっっったいお爺ちゃんを起こさないようにね。もし起きても外に出さないように。最終手段は睡眠薬、これ渡すから。愛実も出さないように。柰坡豕もごめんね。この2人があれしないように見張っててフォローもしてくれる?」

「ハハハ。はいよ」

「「お母さん、私達(アタイら)とにゃあ(ちゃん)とで対応が違う(チゲえ)んだけど」」

「あんた達がアバズレなのがいけないんでしょ!!本当に、その点柰坡豕は良い子だから助かるわ」

差別だ差別だブーブーと言う愛実さんを一睨みしてから車の鍵を手に俺を送ってくれた。


その車の中

「···········」

「··········」

気まずい。何を話したらいいかわからない。

彼女の友達の育ての親と車の中で2人きりで何を話せばいいのさ。

稲瀬神社から出て5分ほど経った頃だがその時間の沈黙はそれ以上に長く感じられた。

「親御さん心配してたでしょう?」

すると雪恵さんの方から話があった。

心配?なのかなぁ?心配なのは分かるけどオーバーな気がする。

中学生だって少しは自由に外を出歩きたいと思う時だってあるのに。

「正直な話、心配しすぎかなと思いますけど」

すると、雪恵さんは溜め息混じりに苦笑していた。

「親の心子知らずとはよく言ったものだね。1度親になると分かるさ。どれだけ親が子供の事を考えてるかがさ」

「育ての親でもですか?」

「そりゃあそうさ。あたしだって、柰坡豕の事も早苗や愛実と同じように心配してるもの」

それは意外だった。

「柰坡豕だけ贔屓してるかと思ったかい?」

「あー!いや!」

なぜか読まれてた。

「どんな形であれ。子供にかける思いは同じだよ。ま、彰君もお母さんお父さんを大事にしな」

それからまた少し沈黙する。

このまま行けば後5分もしないだろう。

知ってる商店街まで出たので分かるが、ここは1つ話をしておくことにする。

「愛実さんが長くて20歳までしか生きられないって本当ですか?」

「···········ああ。」

言った後で気まずい話題だと気づいた。

「ごめんなさい!」

「いや、いいよ。気になるだろうし」

「実際医者からそう聞かれた親としてはどんな気持ちなんですか?」

「正直、最初は言葉が出なかったね」

そこから間を空けてから

「後になって意味が分かって。聞き間違いじゃないかと思って何度も聞き返して。でも·····現実に帰ると医者にお金は払うから治して下さいって言っても無理の一点張りなものだからもう·····泣き崩れるしかできなくて」

その心の痛みはどれほどのものだろう。

中学生の俺には計り知れなかった。

現に今も雪恵さんの目には涙が浮かんでいる。

「·············都時くん。ちょっとこの話は止めてくれる?」

「そうですよね。すみません」

そりゃあ当の親からすれば触れたくない話だろう。

「今涙で前が見づらくなってるから最悪事故を起こすわよ」

「すみませんすみません!!!本当にすみません!!!」

運転中の人に悲しい話題はNGだと言う事を学んだ。




そうして雪恵さんが俺を無事送り届けてくれた後、お母さん同士の交流のあれこれがあってから15分ほどしてやっと家の中へ入ることができた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る