狂ったもの 都時彰編 7

「どうしよう。今日は爬虫類ショップの人達に見せる約束してるのに」

「その時はここじゃなくて人気のないところでやってくれ。頼むから」

もう新屋敷先輩が素で話している。

さっきのは演技だったんじゃないか。

「でも既に皆河さん達には見せたし」

「皆河さんとも知り合いなんですか?本上先輩」

「うん。爬虫類ショップ仲間。一緒に行く事もあるから」

なるほど、蛇と蠍が繋げた交友か。

「爬虫類ショップに蠍売ってるんですね」

「んー?それもだけどゴキブリとかムカデとかも売ってるから狙いはそっちかな?」

昆虫も趣味の範囲かこの先輩

「新屋敷先輩。この先輩って····」

「皆まで言うな。喋らなかったら普通に友達もできるし可愛いからモテるのにこれで台無しにしてるんだよ」

新屋敷先輩もですけどね

「新屋敷先輩も前髪上げたらかわいいですよ」

「あ!ありがと!」

急な振りに赤面する新屋敷先輩

「んふふー。青春してますな~新屋敷さん」

「い!いや本上よ!これは主と眷属との魔法干渉による現象だ!ゆえに我が色恋などというものなどあり得ない!そう!あり得ないのだ!」

すると、その時スマホが反応したので〇インを見るとはたまた外村先輩から

『しんけっちとは仲良くやってるかい?』

と来たので

『なんかサソリ先輩に引っ掛かってます』

と返すとビデオ通話になった

『やっほ♪やっぱりたがめっちか』

俺のスマホの角度的に本上先輩が映ったのですぐ認識できたのだろう。

「外村先輩、今電話大丈夫ですか?」

『いんじゃね?5分くらいなら』

『良くないわよ!イタタ!』

「楓さん。お腹刺されたんですから大人しくしててくださいよ」

おそらく、いや。確実に楓さんが病院内の電話使用について咎めたのだろう。

大声出すとお腹に響きますよ

それから隣から『彰くん!?』と言いながらガチャガチャしてる音が聞こえたから楓さんが外村先輩の方へ向かっているのだろう。

「いや、楓さん。傷口開くとまずいから寝てて下さいよ」

「アキくん。芹沢さんお腹刺されたって一体····」

俺の前で本上先輩が何か言っているが説明しなくてもいいだろう。

『大分治ったから平気よ。このくらい』

『いや、楓っち。腸に穴が空くのはヤバイからウチが行くけど』

『文乃は動いちゃダメ!』

あなたもですよ。楓さん

『しんけっちも元気かい?』

「それより汝(なんじ)はどうなのだ?」

『あー。何とか左の指がだんだん動くようにはなってっから。まだ頑張るし。まあそれまでしんけっちも頑張れよ。色々と』

何が色々なのか気になるがそこは聞かない方が良いだろうと思い、俺はそこを詮索するのは止めた。

で、今。本上先輩、新屋敷先輩、俺の3人で1つのスマホを見てる都合上、三方の顔の距離が大変近い事になっている。

この事に大変怒ってらっしゃる人物が今目の前に現れた。

『彰くん。帰ったら分かってるわよね』

「スマホを見てるんですからしょうがないじゃないですか!?」

『ふーん?まさかもうキスしたり胸揉んだりしてないわよね』

「してない!してないですから!」

これ以上バレたら楓さんが何をするか分からない俺は懸命に嘘をつこうとする。

「何を言うか眷属よ。先ほど本上の胸を揉んだだろう」

「違う!サソリに触れたの!!楓さん!違いますよ!知ってますよね?この先輩がサソリをぶら下げてること」

『···ちょっとたがめっち?今日もサソリを連れてきたのかい?』

そこへキレかけている外村先輩が映し出された。

「え!?いや!その~······アハハハハハハハ

ハハハ!」

目が泳いでいる本上先輩。

俺は無言で本上先輩の首の鎖を持ち上げた

「いや!アキくんのエッチ!女の子の大事な部分を見せないで!」

「誤解を招くようなこと言わないで下さい」

蝎は女の子の大事な部分じゃありません。

そうしてロドリーさんをスマホの見える位置まで掲げる。

『······今日、サソリを持ってきたら殺処分するって言ったよねうち?』

外村先輩は蠍(モブ)を許さない。

「で!でもこの子は大人しいから!」

『都時少年、たがめっちの耳触って。その子耳弱いから』

俺はすかさず耳を触る。

「きゃ!やめ!」

その隙に蠍を取り上げた。

「返して!!その子は家族なの!!」

「家族なら家でお留守番させといて下さい」

「何がいけないの~!わたしはただ蠍が好きなだけなのに!」

普通の人は怯えるんです。

「本当に変わった先輩ですね」

『あー。一応フォローするとだね都時少年。たがめっちの名前の由来は父親が昆虫学者だった事から家族の反対押しきって田鼈になったからで。家の中が昆虫だらけの環境下で育ったからというのは分かってくれるとありがたい。その子を分かってくれる子もなかなか居ないんだよ。それはしんけっちもだけど』

外村先輩は交友関係迷子センターでもやっているんですか。

しかし、蠍を取り上げただけでこの慌てよう。もはや異常者だと思われても仕方ないと思うが。

「かーえーしーてー!!かーえーしーてー!!」

俺の前で本上先輩がピョンピョンしている。

ついでに胸の膨らみもピョンピョンしている。

俺の方がこの人より身長が高いから腕を上げれば取れなくなるし。だが、そのせいで今度は床に寝転がって両手足バタバタやってだだっ子になっているのだが。

スカート汚れますよ。中身見えますよ。恥ずかしくないんですか。

大声上げて泣いたって返しませんからね。

『·····都時少年。もう返してあげて』

「え?外へ放り投げちゃ駄目ですか?」

すると本上先輩がすり寄ってきた。

「お願い!!それだけは止めて!!何でもするから!!ほら、服脱ぐから!!セックスでも何でもするからそれだけは!!」

そう言ってもう既にパンイチになっている本上先輩。

「ぶっ!!!」

「ほら!揉みなさいよ!!」

もはやパンツも脱いで俺の手を取り自分の胸に当てる。

なんですか。爬虫類ショップに行く人達は男に裸見せるのに抵抗ないんですか。

隣の新屋敷先輩も突然の展開にフリーズしている。

『おい!コラたがめっち!!クソビッチ!!昆虫馬鹿!!返すっつってんだから止めろ!』

『あ~き~ら~く~ん······』

俺は大声で怒鳴る外村先輩より低く通る声で言われた楓さんの呼び掛けの方に恐怖を覚え、蠍を返すと本上先輩はそれをすぐ首にかける。

いや、その前に服着てくださいよ!

人が来ますよ。

流石にここまでバタバタしてると教室内から人がやってきて本上先輩を散らばったセーラー服も含め中へ隠して着替えさせた。



そして何とかお客さんにも見られず、蠍はこんなこともあろうかと外村先輩が前もって指示して購入しておいた頑丈なプラケースに入れて掃除道具入れに入れる事になったらしい。

「いや、ウチのクラスの者が申し訳ない事をした。今ヤツはお説教受けてっから。トーキにはサービスで先にやってもらう事にするから」

「整理券番号3番だけどいいの?1番2番の人を差し置いて」

「いいいい。整理券には10時00分スタートって書かれてっから、今9時00分だからくるまで十分時間あるし。ここの生徒2人くらいなら揉めないっしょ」

ずいぶんあっけらかんとした人だなぁというのが今目の前にいる人の第一印象だった。

名前は星宮 柰坡豕(ほしみや なはし)さん。楓さんのクラスメイトなのだが、現段階ではどちらかというと本上先輩の世話係が日課になっているそうだ。

お疲れ様です。

星宮さんはオレンジ色のバンダナと切れ長な目が特徴なくらいかな。

「さて。ここのシステムは聞いてる?」

「あ、はい。外村先輩から」

「そ。一応言っとくと今から30分間。ご指名の生徒と服装と食事メニューをどうするか決めれば始まるから。で。どうするよ?」

そう言いながらまず、生徒の顔と名前とPRの書かれた冊子を渡される。その次のページが衣装でその次が食事メニューだな。

「なら、新屋敷先輩でバニーガール。メニューは····シュークリームとソーダで」

「あいよ」

「星宮先輩と迷ったけど」

「ククク!本上じゃねえのな?」

だが、ここの冊子には本上先輩は載っていない。

何を喋るかわからないからだろう。

「だってあの先輩と話が通じるとは思えなくって」

「まあそう言うな。男ウケする顔じゃねえかよ」

「それは確かに」

「だろ?まあ残念ながら」

「本当に残念ながらですよね。あの昆虫マニア先輩は」

「その話をあーしは聞いてるんだぜ?また来た時あーしを指名するならその愚痴になるかもしんねえぜ?」

そう言って舌を出すこの先輩はヒップホップのラッパーでもやっているのかと思ってしまう。

「んー?別に俺はそれでも構わないですよ。ただ、先輩の事が知りたいだけなので」

「···そうかい。あーしのこと···あんたになら話してもいいかもな。ま、まずは新屋敷だな。お楽しみに」

そう言って奥へ引っ込むのと入れ違いに嫌がる新屋敷先輩がやってくる。

あくまでもお盆はまだこの段階では他生徒が持っているのだが、そんなに嫌だったかバニーガールが

そのご本人。もう俺が目の前にいると分かるとお盆をひったくり。机の前まで持ってきた

「まさかこんな仕打ちされるなんて思わなかったぞ眷属よ」

「でも、似合ってるからいいじゃないですか」

「似合うかこんなもん!!」

いやいや。実際、楓さんより似合うのは間違いない。出るとこ出てるこの人が着ると色気が出て選んだ甲斐もあるってもんです。

そしてこれが正真正銘バニーガールせゲフンゲフン!

これで···Eカップくらいかな?少なくとも本上先輩には勝ってる感じがする。

「汝はサーヴァントである芹沢がいるのに良いのか?我にそんな視線向けて」

「だって楓さんじゃなかなかこの絶景味わえないもの」

「そうか。後で我が教えておくということは考えなかったのか?」

「それより座って話さない?」

むすっとした顔をする新屋敷先輩。だが約束は守る性格のようで少し乱暴に椅子に座る

「ご注文のシュークリームとソーダだ」

「できれば前髪と包帯は取ってもらえると」

「これ有りの条件で引き受けることにしたんだよ。これ、取るなら帰るからな」

必死に衣装の胸部分をたくしあげて隠そうとするが、残念ながら谷間までは隠せないようだ。

それはもう顔を真っ赤にした新屋敷先輩は可愛かった。

「火事だったっけ?」

「あ、知ってるんだ?」

「無属性サーヴァント外村から聞いたからな」

無属性ですか。この人の設定ではそんなのあるのか。

「それは外村先輩が弱いと言うことで?」

「そんなことはない。無属性はレベルさえ上がれば色んな属性が付与できるから可能性は期待できるぞ。その代わりパラメーターは低めだがな」

「ちなみに新屋敷先輩は」

「闇属性一択だ」

「ダウナー系は闇属性じゃないと付与できないと?」

「そういうことだな」

「じゃあ楓さんは?」

「あやつは氷属性だな」

新屋敷先輩の中では冷たいイメージらしい

「あの人、話してみると優しい人ですよ」

「そんなことはない。我の前では怒りに震えてこちらを見ようともしないのだ」

それ、多分新屋敷先輩の風貌が怖くて震えてるだけだと思います。あの人、ビビりなんで

「こちらを見ても眼孔を鋭くするだけだし」

緊張で顔が強ばってるだけかと

「にしても、新屋敷先輩はりんごジュースですか?」

新屋敷先輩の前にはペットボトルのりんごジュースが置かれていた。

「我が代償を払い手に入れた禁断の果実の聖杯だ」

うん。自販機で買ったりんごジュースですよね?

「自分の飲み物は自費ですか?」

「もしくは自ら生成するかだな」

「新屋敷先輩はできるんですか?物質の生成が」

「残念ながら、そういうのは光属性の者の特権だな。我には難しい芸当である」

「光と闇の二属性持ちになればいいじゃないですか」

「我は闇に生きると決めているのだ。我に光は似合わないな」

「ダークマターの生成は闇属性の特権かと思いますけど」

「うぐ!ま、まだ我はその領域に達していないのでな!」

この人、設定が甘いところがあるな。

「にしても···」

「ん?な!なんだ?」

ふと、新屋敷先輩の顔を覗き込む

キスが出来そうなほどに近づけると嫌がって遠ざける新屋敷先輩。

「なんか····どこかで新屋敷先輩を見たことあると思ったら····」

その時、新屋敷先輩の顔が強ばったのを感じた。


「楓さんに似てるんだ。新屋敷先輩」


すると、何故か唖然としてしまう新屋敷先輩

「····待て。なぜ我があのサーヴァントに似てると」

「いや本当によく顔を見てる俺が言うから間違いないですよ。顔のパーツが楓さんにそっくりなんです」

そう言いながらあの首筋にキスされた楓さんの写真を横に置いて新屋敷先輩も右目が見えるように横にして確認する。

うん。顔の輪郭までそっくりだ。

「実は姉妹だったりとかは」

「しないな。おそらく前世ではお互い勇者と魔王だったのだろう。」

どんな理屈ですかそれ。

するとふうと溜め息をつきながら新屋敷先輩が小さな声で。


「あの事じゃなかったか····」


少し気になったが、これは聞こえないふりの方がよさそうだ。

「先輩。モデルとかやればいいじゃないですか」

そう言うと新屋敷先輩は容態が悪化した

というより、戻した。

はっきり言おうか。リバースしたと

俺は楓さんや外村先輩の件があるのでとっさに自分が飲んでたソーダの入っていた紙コップで受けようとしたがすぐに溢れてしまい俺の手とテーブルに零れてしまった。

これはこの後の文化祭に影響が出ると思い、自分でもよくわからないまま新屋敷先輩の唇を強引に俺の唇で覆い被せた。

「んーーーーーー!!!!」

目の前で思いっきり瞳を見開く新屋敷先輩。でもこんな時だが失礼にも楓さんそっくりだなと感じてしまっていた。

喉と舌に感じる味はゲロ特有の腐った味と少しのりんごの味がした

まさか、俺のファーストキスが新屋敷先輩になるとは思わなかったが。

新屋敷先輩が吐ききっているのを感じると唇を離し、ダッシュでトイレに駆け込み含んだそれを吐き出した。



テーブルの上の物を片付けたのは星宮先輩だった。

今、新屋敷先輩はトイレで口を濯いだ後。本上先輩と入れ替わりで外村先輩からスマホによるお説教を聞いていると聞かされた。



そしてその後、星宮先輩の意向で俺にはさらにサービスで新屋敷先輩をお持ち帰りする事になった。

というよりゲロの匂いした生徒を教室に入れたくないだけじゃないかとも思ったが仕方ないか。

どうも星宮先輩の話では新屋敷先輩は極度のあがり症らしく、このまま居てもまた吐きそうだからというのもあるらしい。

それはクラスの皆の共通認識だったらしい。

いや、ならそんな人を指名に組み込まないで欲しいんですけど。

しかし、ふむ。お持ち帰りとまでいくともはやこれはキャバクラではないかと思ってしまうがどうだろう?

ちなみに新屋敷先輩はバニーガールから普通の制服に着替えている。

俺としてはあのままでも良かったが本人が公開処刑は嫌だと言うのでセーラー服になったのだが。

「いや本当にすまない」

「いや····こちらこそごめん。初めてが俺で」

新屋敷先輩から謝罪を受け、俺も謝罪で返す。

「な!ななななにを言うか眷属よ。き!キスの思い出があんなのは嫌であろう?」

「まあ····楓さんともまだですし」

「なぬ?では我が···」

「マウストゥマウスは初めて····」

「「·····」」

き····気まずい····。

「に!にしても!新屋敷先輩のそれってひょっとして『小見様はコミュ症』のコスですか?」

「そ!そうだ!!気に入っているのだ!!あは!アハハハハハハ!」

あの方をリスペクトですか。恋がしたくないの方でもよさそうなのに。

そのまま喋らない時間が流れた

「·····俺のクラスの出し物、行きませんか?」

「良いのか?こんな我でも?」

「構いませんよ。俺もこんなですし見た目は気にしません」

ここまで見た目大した事ない雰囲気が続いているが現在は一般入場も始まっている時間帯なので一瞬こちらを見たり、振り返り様に見てきたりする視線はどんな感情なのかどうしても分かってしまう。

「そうか····。なら···」



そうして入った教室には既に椎堂が居たのが運のツキだった。

直ぐ様椎堂が〇インでこの事を楓さんに伝えるとお叱りのお言葉が俺の〇インに羅列された

『彰くん。どういうこと?』

『わたしがいない間に良い度胸ね』

『そんなに胸のある子とアレコレしたいの?

『新屋敷さん、胸大きいもんね?』

『死ねしねしねしねしね死ねシネ死ね死ねしねしね』

もう最後の方は罵詈雑言でしかなかった。

この際だから俺もお茶係に入る事にしようと動くと裾を新屋敷先輩に掴まれた。

少し涙目で首を横に振っている。行かないでの意思表示だろう。

この人、ますます楓さんに似ているよなぁ。

「···わかりましたよ。もう」

「すまない···」

そうして運ばれてきた団子とお茶は美味しかったのだが、持ってきた相手が不味かった。

「我が君なぜここに!?まさかその男にまた乱暴な事を!おのれ都時ゆるさんぞ!!」

なぜかペルートさんだった。

ご丁寧にメイド服を着てだ。

なんか····なんかだよなぁ。まさかペルートさんが誤解するくらい似てるとは思わなかった。

そしてペルートさんは俺にヘッドロックを極めていたから言い訳もできないくらい息苦しい。

「おい!?何!?何なの我が君って!?ねえ!?なんでトトキくんがこうなるの!?」

頼みの綱である新屋敷先輩はパニックになってるし。

お願いですからそこは楓さんじゃないんですから先輩らしさを発揮してください。

「ペルート。違う違う。その人はかえちー先輩と顔が似てるだけでダウナー先輩って言って別人なの。だからトトキンを離してあげて」

やっと皆河さんの言葉で解放される俺。

「ゲホッ!ゲホッ!ハア!ハア!ハー·····」

俺の背中をさすってくれる新屋敷先輩。普段自分がされてるからやってるのだろう。

おかげで少し落ち着いた。

というより、ペルートさんが落ち着いてくれれば良かった話だと思う。

「本当にあなたは我が君ではないのか?」

「ごめん。まず我が君って誰?」

まあまずそこだよな。

「楓さんの事だよ」

「なるほどなるほど····ってえーーーー!!!どおゆうこと!?え!?我が君ってあれだよね!?その······恋人的なやつ···」

「すみません。このアメリカ人は女性ですけど女性が好きな者で」

「えー?あーーー。·····我も範囲内であると」

「むしろ3〇したいくらいですよ。日本人ですよね?」

「ひえっ!」

そうだった。あくまで日本人女性好きだった。この人

「ちょーーーっと我はそういう趣味はないのでご遠慮願いたいかなぁーーー?って······アッハハハハハハハ!!」

「大丈夫です!そういうのはヤってみたらなんとでもな!!!」

目がマジである。アウト

再犯する気満々だったので皆河さんと2人して撃沈させておいた。

「なんでこの人を働かせているんですか!!」

「違うよ。元はといえば、お茶係が上手く機能してなかったからたまたま通りがかったペルートに任せようとしたらこっちもやりだしたんだよ。お茶の方が大変だし。その辺の知識もペルートなら分かるし」

まあお嬢様がメイドを使役させる事に問題点はないですけれども。

こういう飲食の出し物をする際は検便とかしてからでないとできないんですからね本当は。分かってますかね?この中国人ハーフとアメリカ人は。

「でもあれ?あなた、どこかで見たことあるような?」

すると椎堂がそんな事を新屋敷先輩を見て言ってくると、即座に新屋敷先輩が冷や汗を流して反応している。

「だから。それは楓さんに似てるからで···」

「いや···なんか昔どこかで····」

するとそこへまた別の人物が現れた。


「あれ?能古屋 真由美(のこや まゆみ)じゃん?」


姉岳充だった。

いや。こいつはおそらく椎堂を探してここに来ただけだろう。それも嫌悪だけどそれよりも······。

「充さん?能古屋真由美って?」

椎堂が何気なく聞く。

「あれ?蓮ちゃん世代じゃないっけ?昔、天才子役って事で有名だったんだよ。ほら、聞いた事くらいあるだろ?『復讐』ってドラマ。3話で放送中止になったって取り沙汰された」

「あーーーーー!!!思い出しました!!そうだ···」

「いじめをテーマにしたのがPTAにクレーム食らって、そのドラマで主役のいじめられ役をやってたこの能古屋真由美は天才子役から突然テレビで見なくなったんだけど······まさかここの生徒だったとはねえ。鹿児島出身とはなんかで知ったけど」

もう止めてくれ。さっきから新屋敷さんが顔を真っ青にして呼吸が苦しくなってるんだから。

「ち······ちが···う·····。ちがう·········ワタシ。そんななまえ······しらない····。べ···つのひ···とです·······。」

小さくて震えたかすれ声で懸命に反論しようとする新屋敷先輩は見てられなかった。

もう声もあげずに涙が教室の床に滴り落ちている。

「確か当時ニュースになってたよね?いじめ役の子役が皆自殺しちゃって世間じゃ能古屋が本当に『復讐』したんじゃないかって。」

俺は新屋敷さんの手を取りその場から連れ出した。

入り口とか出口とかそんなもん構うもんか。俺はお茶係側と仕切られてるカーテンを開けて黒板側の扉から出てとにかく人の動きも気にせず走り抜け、あの文芸部の部室までたどり着いて図書室と隔てる扉の鍵をかけた。

「わああああああああああああああああああ!!!!!!!」

もうさっきから後ろで大声上げて泣いていたのは分かっていた。

その場で崩れ落ちた新屋敷先輩は、皮肉にも生徒会長選挙で椎堂に妨害されて悔し涙を流している楓さんを思い出させた。

いや、実際はあれよりももっと深刻な問題なのだろう。




あれから、どれほどの時間が経ったのだろう。

気がつくともう椎堂のダンスも見れないのは確定していて。それでも良いと思ってる自分がそこには居て···。

「ぐすっ!!ずぴっ!!」

さっき程ではないが、まだすすり泣きしている新屋敷先輩。


だがそこで話ができる状態じゃなかった。


図書室がガヤガヤしてるなと思ったらここの扉の前で

「ここに能古屋真由美が居るって本当に?

「だってツキッターにそう書いてあったし」

「デマじゃねえか?」

「でもこの横顔とスタイルは相変わらずよねえ。前髪長くなってるけど」

····まさかあのペテンナンパ男。こっそり新屋敷先輩の写メとってツキッターにアップしたのかよ。

「でもここを通ってたって情報もあるし」

「なんか彼氏といたって目撃情報もあるしー?」

「まじかよ。あの事件忘れてお気楽モードかよアイツ。人間じゃねえだろ?」

いや。これはあの男だけじゃないはずだ。

おそらく、ここに来るまでに誰かが見かけた情報も流れているんだ。

そしたらドンドンと扉を叩く音が聞こえてきた。

「もしもーし。もしかしてそこにいたりする能古屋さん?能古屋真由美さーん?会ってみたいんですけどー?」

するとこんな時に椎堂から〇インが入った。

『今友達から聞いた話だけど、ツキッター上であの前髪の長い先輩の悪口がここの中学の文化祭のタグで大量に書かれてるって』

俺はツキッターをインストールして見てみる事にした。

言われた通りに操作してみるとそこには


『能古屋真由美は生きてた』

『マジか?死んだんじゃねえのかよアレ』

『つか死んだ方が良いよね?あのサイコパス子役』

『なんか今彼氏と密室でセックスしてるって』

『何?あの事件を反省してねえのかよ。本当人間以下だなアイツ』

『つかまたヘタしたらその彼氏も殺す気じゃね?』

『言えてるwwwwwwwwwwwwwww』


なんだよこれ····。

未だに外から聞こえてる声も酷い事言ってるけどこっちは更に酷い。

中にはこの中学自体を誹謗中傷するものまである。

「彼氏も彼氏でイカれてるんじゃね?能古屋の所属してた事務所って薬物やってる奴が多いって専らの噂だぜ?」

「え?じゃあ何?中ではキメセクしてる可能性もあんのかよ」

おい。これじゃあ新屋敷先輩が死んじゃうだろ。どこにいけば逃げられるんだよ。

「トトキくん····退いて。ワタシはもう大丈夫だから。」

大丈夫だからじゃないですよ。まだ体が震えまくってるじゃないですか。

ちくしょう。どこまでも楓さんに似てるよなぁこの人は。

「大丈夫。ワタシ、芸能人だから。このくらいの誹謗中傷は慣れてるから」

俺は小声でやり取りをする

「····やっぱりそうなんですね」

「うん。騙しててごめん」

「騙してなんかいないですよ。隠したい事だったんですよね?新屋敷先輩にとって。俺の火事の火傷がそうであるように」

「そうだったんだ。ごめんなさい。ワタシ不躾に火事の事聞いて」

俺は笑って首を横に振った。

「いいんですよ。隠そうと思っても隠しきれないですし」

「なんなら『魔術回戦』のあの人のコスプレでもすれば何とか」

「どう考えても日常生活に支障来しますってそれ」

なんでここでこういうボケかますかな。この人は

この人もこの人で面白い事が言える人なんだなぁと分かった。

「ワタシ。お母さんが女優でね?でも、ワタシあがり症が酷かったからお母さんに役者になるの勧められて。あがり症を治す為にって」

なるほど、子役のきっかけはお母さんだったか。

「ワタシ····やっぱり本番になるまで吐きまくってて······ワタシは何も役に立たない無能だって思いに潰されそうで······。スタッフや共演者の人にも迷惑かけてたんだけど。でも······演じてる内は他の人間でいられるから楽だったし楽しかったから。続けてこれたんだ。」

「そうなんですか」

この日、この先輩が素で笑っているように見えた。それはあの中二病キャラクターも役者としての演技の延長だっただろうから。

「でも。あの······『復讐』でそれも終わった。小学4年生でもらった役なんだけど。トイレで縛られてバケツで一回水をかけられるシーンの為に20回もリテイクしたり。無理矢理裸にされて教室に立たされたり」

酷い話だな。

「新屋敷先輩···良いんですよ。無理して言わなくても」

「ううん。言わせて·····スタッフや監督に役を降りたいって言っても誰も聞いてくれなくて······リアリティを追求するために本当に·····バッタや·····ミミズを·····トイレの汚い物も···食べさせられて···」

新屋敷先輩は涙を流すどころか瞳孔が開ききっていた。

恐怖に精神が蝕まれているのだろう。

「あの人の言う通りその当時、放送中止になって···でも。実際はもう25話分収録はしてたから···。放送してないところだと·····裸で校舎の屋上から逆さで縄にぶら下げられたり。太った30代くらいのおじさんと無理矢理キスさせられたり。手首を切り刻まれたり·····トイレの便器に顔を突っ込まれたり···他にも」

「止めて下さい新屋敷先輩。もう···十分です」

でも新屋敷先輩は首を横に振るばかり。

これにまだ続きがあるのかよ。

「で、放送中止になる前にいじめ役の子達がネット上でかなり炎上してて·····実際街中歩いててもその子達の悪口があったみたいで·······それが原因で皆自殺しちゃったのに。今度はそれまでワタシを擁護してた書き込みがワタシが犯人みたいな事になってて。そんな記事も挙がってて····。役者もしたくなかったから事務所と契約を切って地元の鹿児島の学校に行ってたんだけど······。ドラマの真似をワタシにする子達がいて·····。裸で縛られてお尻に思いっきりデッキブラシの柄を突き刺されたり····。もう5年生からは不登校になって。これじゃいけないと分かってても動けないワタシを心配して鹿児島から逃げて·····本名である能古屋を消す為にお父さんと話をして離婚をして名字も母親の姓である新屋敷としてここ、東京まで引っ越して···」

「なんで······東京へ?あれ、放送してたテレビ局あるから逃げたいでしょうに」

「ごめん。まだ言ってないことがあったね。ワタシ、ニュースがあった日にお母さんといじめ役の子達のお通夜に行ったんだけどね」

そういうと、いきなり新屋敷先輩は眼帯を取り、額と左腕に巻かれた包帯を解いた。

左腕には長さ10センチの深い傷痕。そして前髪を上げたと思ったら額にも同じ系統の5センチ程の傷痕があった。

それも衝撃的だったがそれ以上に左目に手をかけていた右手が下へ下ろされると

「その子役のお母さんが逆恨みでワタシに包丁を向けてきて、額と左腕の切り傷と左目を貫通したんだよ」

右手には義眼が握られていて。左目には何もない空間ができていた。

なるほど···。新屋敷先輩にとってあの中二病キャラは本当に過去を隠したい為の物だったわけか。

俺はあまりの出で立ちに驚きを隠せないでいた。

そこでなぜか新屋敷先輩はクスリと笑い。

「でもねえ·······。まだ役者を諦めきれなくてさ」

そう言いながらまた左目に義眼を嵌めて、眼帯やらもセットし直していく。

「なんで···ですか?嫌な記憶しかないでしょう?役者は」

「嫌な記憶『しかない』じゃないよ。楽しかった記憶『も』あるから」

その答えは意外だと思った。

「あがり症なのに役者がやりたいんですか?」

「本当にね······入りたての小さい頃なんかは緊張と自己嫌悪で嫌な感情しか沸かなかったのにね。色々な俳優さんや女優さんに教えてもらいながらそれまで楽しくできたのが大きいかな。やっぱり」

「子役やってて後悔してないんですか?」

「うーん。そう聞かれると、いいえになっちゃうんだよね。何て言うのかなぁ?子役として芸能界入りましたって、その時点ではまだ嫌な思いだった。でも、だんだん演じる事の面白さが分かってきて。でもあの事件でトラウマになっちゃって······だから。トータルで見たら嫌だったになるんだけど。それだけで片付けていいものじゃないんだよ。わたしのなかで子役としてやってきたことっていうのは。これまでのワタシのすべてだからさ」

そうか。普通の子供達が家族や友達と遊んでいる間にお芝居を頑張る。テレビドラマに出れるようになる。その為に努力してきたんだもんな。その時間を簡単には切り捨てられないか。

「分かりました。新屋敷先輩がそういうなら止めませんよ」

「知ってた?ワタシって止められても突っ走るからね」

でしょうね。本当誰に似てきたんでしょうね。

「にしても新屋敷先輩、素でも結構喋るんですね」

「あー、そういえば。普段ならしどろもどろになるところなのに········」


「トトキくんなら、裸のワタシを見せてもいいのかもしれない」


「新屋敷先輩、自分からスキャンダル作りたいんですか!?」

「比喩!!心を偽らずにって意味!?勘違いしないでよ!!」

「でも芸能系のマスコミって都合の良いように情報操作するって聞くし新屋敷先輩もそういうの気をつけないと」

「分かりました!今の発言はワタシが悪かったです!」

本当にです。

ついさっき裸になる先輩を見たばかりだから、これ以上露出系痴女枠を増やさないで欲しい。

「ごめん。」

おや、新屋敷先輩が謝っているではありませんか

「何がです?」

「だって···トトキくん、本当ならこうやってる間にも回りたいクラスとかあっただろうから」

「気にしないでくださいよ」

「無理だって。本当は楽しみにしてただろうに。こんな嫌な事に巻き込まれて」


「でも俺はあそこで新屋敷先輩を見捨てて回ってたらそれこそ嫌ですよ」


「·······トトキくん?間違ってもそれワタシを口説こうとしてないよね?」

「な訳ないですよ!楓さんに怒られる展開は避けたいところですよ」

「ならトトキくんも発言は気をつける事ね」

「そうですね」


「本当びっくりした。······一瞬ドキッとしたじゃない」


「······新屋敷先輩?ここにマスコミいたら大変な事に」

「悪かったわよ!ごめんなさい!ああもう!本心を隠さなきゃいけないって面倒くさい仕事よね本当に!」

「え?さっきの発言本心って新屋敷先輩、俺の事···」

「忘れて!!ワタシまでセリザワさんに怒られる展開は嫌よ!!」

どうしようかな。でも、思春期男子メモリアルはそう簡単には消えませんぜ。

そうして、一般人が退場していくのを待っているのだが時刻は午後2時30分。あと30分で文化祭は終了だというのに扉の前の活気が変わらないのは、まあ······そういう事なのだろう。

おそらく先生達がこの喧騒をなんとかしようとしてるのだろうが、数が数だけに対処が難しいのだろう。

ちょっと氷見先生に〇インしてみよう。

『先生、今どこにいます?俺は新屋敷先輩と文芸部の部室にいます』

すぐ既読がついた。

それから数分して返信が

『どおりでその通路混雑してると思ったら···しばらくそこで待ってなさい。先生達でなんとかしたいけどあまりの事態に対応が遅れてるから』

ここからさらにしばらくか。

あれから4時間程経過しててもまだ冷めやらないのか。芸能人パワーがそうさせるのか。

かといって、ここで隣に聞こえるような大声で話をしたら何があるか分かったものじゃないからお互い小声で話すに留めてるわけだけれども。

「新屋敷先輩、寒くないですか?」

「あ、うん。それは···大丈夫」

「この部屋、窓からすきま風入るから気をつけた方がいいですよ」

「大丈夫。スカートの下、スパッツ穿いてるから」

「そこじゃないです。体が冷えないようにです」

まったく。なんでこんな時にボケるかな。すきま風でスカートがめくれるってどんなんだよ。

見るからに、新屋敷先輩のスカート丈は膝上どころか太ももまでばっちり見えるくらい短くて際どいからこちらも今更ながらこの人が女の子なんだと実感している次第なんだが。

あなた、そんなスカート短くするキャラでしたっけ?

「ほら」

俺は脱いだ詰襟の学ランを新屋敷先輩に差し出す。

「いやいいよ。トトキくんも寒いでしょ?」

「いいですから。それをスカートのとこに巻いてください」

そう言われて新屋敷先輩が自分のスカート部分を見る。

「あ~。トトキくん、女子中学生の太ももとか気になるの?」

なんか知らないが新屋敷先輩が茶化してきた。

「そうですよ。新屋敷先輩はスタイル良いんですから」

「それは一体誰がスタイル良くないんだろうね」

············。

「も、黙秘権を行使します」

「それって。名字にせのつく人?」

「黙秘します」

そう言ってニヤニヤする新屋敷先輩はやっぱり女の先輩で、この色気は芹沢さんには出せないものなのであって。

どうしよう。今ものすごくこの先輩を押し倒したい衝動に狩られている。

だが、それをしたら楓さんお説教コース待ったなしなので必死に理性を総動員している訳で

なんとか〇インでもしてごまかすか

「新屋敷先輩、連絡先交換して〇インでやり取りしませんか?」

「そうね、話してるよりその方が」

そういう経緯で新屋敷先輩の連絡先をゲットした。

リブライテッド『こんにちは』

トーキ『こんにちは』

両者、なぜか挨拶してみる

トーキ『なんでリブライテッドなんですか?』

リブライテッド『我が闇の世界から受けた真名がリブライテッドだからだが?』

ここでも中二病キャラ全開かよ。

トーキ『ここでは素で話しませんか?』

リブライテッド『何を言っている?これが我だ』

やっぱりこの人面倒くせえ。

連れてこない方が良かったかという考えが一瞬よぎってしまう。

それからリブライテッドさんは考える素振りを見せてから俺に〇イングループの招待をしてきた。

そのグループ名が『ギャル▪ヘタレ▪虫ヲタ▪中二病▪バンダナ』

もう、アイコン見なくても誰がいるか分かっててしまうのだが

一応、下のアイコンを見るとフミ、かえで、タガメ、リブライテッド、ナーシとなっている。

要は外村先輩と愉快な仲間達ですか。

俺はそのグループ〇インに入り、挨拶してみる事にした。

トーキ『こんにちは』

かえで『彰くん!?どうして!?』

リブライテッド『フハハハハ!我がこの闇の領域へと誘ったのだ』

フミ『ってことはしんけっち。まだ都時少年と一緒なのかい?』

トーキ『正直に言うと、新屋敷先輩の過去が学校じゅうに明らかにされてるから文芸部部室に立て籠ってるところです』

フミ『なるなる。で、もうどのくらいいるんだい?』

かえで『彰くん。新屋敷さんに手出したら分かってるわよね』

楓さん、やっぱりそこ気になるか

ナーシ『今休憩。なんだ?それでこっちの客がケーの話してるのか?』

タガメ『お客さんも入らないしね~』

フミ『たがめっち。さそりは連れてないね?』

タガメ『大丈夫、今ポーチのゴキブリ達がわたしを癒してくれてるから』

フミ『なはしっち。没収しておいて』

ナハシ『あいよ』

タガメ『待って!!これはロドリーちゃんのごはんなの!!』

フミ『蝎って1週間に1度くらいの食事で大丈夫だって聞いてるけど』

タガメ『でも食べたくなったら食べさせないといけないから。そのついでにわたしが観賞する用』

フミ『写真添付したら説教じゃ済まさないからね』

あ、外村先輩のこれ、マジだ。


リブライテッド『でもこれで我の事を知ってる人間が増えたんだな』


返信がそこで数分途絶えた。

新屋敷先輩から寂しいような悲しそうな顔をしている。

俺はとっさに新屋敷先輩を抱き締めた

「きゃ!~~~~~!!」

顔がすぐに赤くなるのも楓さんにそっくりだ

あ、そうだ。

トーキ『楓さん、新屋敷先輩と仲良くしてもらえませんか?なんか新屋敷先輩が話しかけてもなかなか顔を合わせてくれないって聞きましたよ』

かえで『だって新屋敷さん、前髪が怖いし勇気を出して話しかけても何かおかしな事を言うか、ごもごもするから会話が通じなくてどうしたらいいのか分からなくて』

こっちもかい。

トーキ『おそらく、中二病キャラ全開しているのといきなり話しかけられて何を話したらいいか分からなくてテンパっているだけかと』

リブライテッド『中二病キャラではない。我が我たらしめるものを見せているだけだ。まあ、話すことに戸惑うのは····セリザワとは初めてだし···その···』

かえで『まあ、確かに初めての人とはハードル上がるわね』

リブライテッド『そうであろう?』

良かった。話してみればお互い分かり合える筈だと言う俺の計算は間違っていなかった。

リブライテッド『それはそうとセリザワ。その···トトキが我を抱き締めてきたがそれはどうしたら···』

かえで『あんたとは話したくない』

俺のせいで開始10秒で仲違いした!?

かえで『彰くん。これで浮気は何回目かしらね?』

トーキ『楓さん違いますよ!ただ新屋敷先輩が寂しそうにしてたから』

かえで『新屋敷さん、美人だからすぐ彼氏できるだろうからその人に寂しさを埋めてもらいなさい。少なくともあなたがする仕事ではないわ』

リブライテッド『いやセリザワよ。我にそういうのは、まあ。トトキならいいかなとか』

かえで『新屋敷さん。引き回しって知ってる?』

楓さん。新屋敷さんに何をする気なんだーーー!!!

と、話してるとコンコンと部室と図書室の間の扉がノックされた。

「あーし」

星宮先輩!?

「人払いはしたから♪」

どうやってという疑問は残るが確かにこの扉の向こうの喧騒が無くなったのは事実なので扉の鍵を開けて中へ招き入れる。

「うっす」

すると中からさっき見た時と同じとオレンジのバンダナ姿の星宮先輩がやってきた。


姉岳剛さん、充さん、優さん。それと綾城圭一と長い茶髪の男が側にいたのだが


「星宮先輩!?なんであの人たちが!?」

「いやいや、あんだけ人がいるからさ。こうなりゃヤンキー面してる奴らでここシめるみたいにすれば逃げてくじゃん?だからよ、実際人は捌けたし結果オーライってことで」

まあ、それは確かにそうなので

気にくわない連中はいるが、あのままじゃあ新屋敷先輩の神経がすり減り続けるのは明白だったので一応礼を言う。

「ありがとうございます」

「まー、オレらとしては部室(そこ)使わしてもらう約束になってるからいいっつうか。あー、つかお前太一は初めてだろこいつが圭一の兄貴の太一な」

ロングで茶髪なヤツを指しながら姉岳剛さんが言う。

綾城太一さんは、俺を一瞬見ただけで煙草に火をつけた

なるほど、ここをたまり場にする代わりに人払いさせてもらうという条件か。

そういう意味でいうなら茶髪やら青髪やらガタイの良いヤツから目付きの悪いやつまで揃い踏みなら誰もがヤバいと思って立ち去るだろう。

というより、このメンツの中にいるから切れ長の目つきをしたバンダナを目に被せる形で頭に巻いてる星宮先輩がそっちの人に見えるじゃないか。

優さんなんかおもむろに酒の缶を開けてるし

でも。ここまでしてもらったら怒るに怒れないし。

実際あの状況をどうにも出来なかったから部室に立て籠ってた訳だし。

「んじゃ、サンキューな。あーしらは行くから」

星宮先輩はそれだけ言って姉岳兄弟と綾城兄弟を部室へ招き入れる代わりに新屋敷先輩を図書室を経由して廊下まで誘導する。

なんか納得いかない感じは残るがここに居ても意味はないので星宮先輩に続いて図書室から廊下を歩き、星宮先輩達のクラスである2年6組の教室へ

「さて、あーしらは片付けるけど。トーキは後であーしと帰ろうぜ」

は?

「ほら、新屋敷がこの状態だし1人でも知り合いが居た方が帰り道安心できるだろ?」

「あ、そういうことですか」

「何?まさかお姉さんとアレコレとか思」

「俺もクラスの出し物片付けるのでではこれで」

俺は恥ずかしさを誤魔化す為足早にその教室を去った

俺のクラスである1年6組の教室 へ戻るともう団子もお茶も売りつくしたようで片づけるものを片づけてのんびりしていた。

二番煎じでもいいので飲みたいというお客さんもいたため、お茶は皆河さんの計らいで出せるだけ出したらしい。

確かに金木犀の香りのお茶。あれも美味しかったし、また飲みたくなる客が出てくるのも分かる。

しばらくすると文化祭終了の放送が鳴り、そこからホームルームを経て解散となった。



まだ星宮先輩と帰るため2年6組の教室の前で待ってると

「あなた。またやってくれたようね?」

氷見先生に詰め寄られた。

ただ、氷見先生が教室を出てるのだからもうホームルームは終わっている。

俺は早いとこ。仕事を切り上げようとした。

「なんか俺しましたっけ?」

「したわよ!!何!?新屋敷さんを密室へ連れ込んで何してたの!?別に怒らないから正直に言いなさい!!場合によっては職員会議ものよ!!」

俺は充さんが新屋敷先輩の過去を話した事で本人がパニックになり、人の目を避ける為に文芸部の部室を使うことにした旨を伝えた

「そう、ならいいわ。逆にお礼しなくちゃね。ありがとう」

「本当ですよ。俺、そんな疚しい事をする生徒に見えますか」

「そうね。少なくとも芹沢さんをほったらかして外村さんに浮気するようなクズ野郎だという認識ではいるわね」

「あ!あれは緊急を要する為仕方なくですよ」

「······まあ。色々言いたいところだけど。新屋敷さんの件はそうしてくれて助かるわ。それは本人が一番思ってるところだと思うし」

「先生も新屋敷先輩の事を知ってたんですね」

「そりゃあ、あのニュース見てたし。あの子受け持った時、分かったもの。あ、あの子役の子だって」

「なるほど、ついでに昔のドラマもしっかり見ていたと」

「言い方に悪意があるのはまあいいとして。本人は言いたくはないのは分かってたから今までなるべくそういう話題は干渉しないようにしてきたのよ。今となっては、こうなった時の対処を考えるべきだったわ」

そう言う氷見先生の顔には憂いが浮かぶ。

だが、そこで俺と視線を合わせた

「だから、あなたの行動はあの子の傷をなるべく少なくしてくれたわ。ありがとう」

俺は本当に礼を言われる事をしたのか疑問に思う。

あの場に行かなければ、充さんの性格上あんな事を言うと分かっていれば。新屋敷先輩の事を分かっていれば避けれた所はもっとあったんじゃないかと思ってしまう。

俺は思考に沈んでいると肩に衝撃を受けた。

「うし、行くか」

星宮先輩だった。

隣にはちゃんと新屋敷先輩がいる。

さっきの肩に受けた衝撃は星宮先輩が俺の首に腕を回して肩を叩いた時のものだったらしい。

その衝撃を与えた張本人はニシシと悪人のように笑いながら俺を連れ去ろうとする。

チラリと前を向くともうそこには氷見先生は居なかった。

星宮先輩の隣にいる新屋敷先輩はすっかり笑顔だった。それも、中二病キャラの時のようなテンション上がった感じの笑った顔ではなく、日だまりのような微笑みだった。

多分、こっちの優しげで気弱な感じなのが素なんだろう。

楓さんも最初はこうだった。

そう。本当に気弱で、後輩にも意見を押し通せない人だったのに。どこで間違えたんだあの人は。

そして新屋敷先輩の背後でゴキ〇リを持ってお気に入りの玩具で遊んでいる子供のようなとびっきりの笑顔で近づいているトンデモ人間がいた。

「新屋敷先輩後ろ!!」

「え?キャーーーー!!!」

新屋敷先輩は驚いて後ろに転んで半泣きしていた。

「本上先輩!!新屋敷先輩やっと立ち直ったところに追加射撃しないで下さい!!」

「えーーー!これがわたしの励まし方なのにーーー?」

「絶対励ましてない!!むしろ悲しませてる!!」

本上先輩は拗ねてしまう。

唇を尖らせて、俺の方を向いて文句を垂れる

「これ、チャバネゴ〇ブリだよ。この綺麗な茶色は美学だって」

「そんな美学があってたまるか!!しまえ!!むしろ捨てろ!!」

本気で捨てようと俺が走り出すと本上先輩もガチで逃走していった。

早くもまっすぐ伸びた廊下からは本上先輩の姿は見えなくなっていた。

おそらく荷物も蝎諸々も持ってたし帰ったのだろう。

「ったく。あの先輩は」

「でも、トーキよぅ。本当に捨てたらダメだぜ?」

そういって星宮先輩が俺を窘める。

「なんでですか?確かにあの人にとっては大切かもしれませんが一般的にゴ〇ブリは排除するべきでしょう?」

「···これは噂なんだがな?」

そう前置きして俺の耳に顔を寄せる

「あいつ、昔ゴ〇ブリを殺した同級生をフルボッコにしたって話だぜ?」

····················。

「まさか···」

「いや、あいつ出身が兵庫とは聞いたから他に同じ小学校のやついねえし、わかんねえけどよ。あり得なくはないよなって、よくクラスでも話になるし」

「星宮先輩って噂に流されやすい人でしたっけ?」

「あーしをゴーイングマイウェイみたいに言わないでほしいけどな。さすがに暴力沙汰は気にするさ」

星宮先輩が泣きそうな顔をしている新屋敷先輩の手を繋ぎながら歩きだしたのを合図に俺も共に歩きだす

新屋敷先輩の怯えた姿を背後に捉えながら歩いていると下駄箱に到着。俺は学年が違うのでそこから2つほど奥にある下駄箱へ行かなくてはならないのでそこへ向かうと

「何やってるんですか?本上先輩」

「あきくんに愛のプレゼントをと」

俺の下駄箱の中を覗くとそこにはドデカいという言葉が似合うゴキ〇リが透明なアクリルケースに入った状態で鎮座していた。

そいつは1体だけなのだが長さが俺の人差し指くらい。横幅が人差し指中指の横2本分といったところか。

うまく見ればでかいダンゴムシと言えなくもないが、残念ながらこの茶色い体色と触角はGのものである。

本当にこの先輩、存在意義がこれってどうなのかと思うのだが。

皆河さんの蛇好きが常識枠に思えてきた。

そして、こいつの存在もだが。もう1つ問題点ができた。

「本上先輩」

「何?飼いたいならわたしに聞いて。手取り足取り教えるから」

「取らなくて良いです!それよりこれ俺の下駄箱ギチギチに入れてるから俺の靴か挟まって取れないんですけど!!」

「そっかー。そのアクリルケース取らなくて良いのかー」

「それは取って下さい!!あなたがしたことですよこれーー!!」

そう。このドアホ先輩がアクリルケースのと下駄箱の隙間を指2本やっと入るくらいしかない状態で入れやがったから靴が取り出せなくなっているんだ。

かといってここでアクリルケースをぶち壊すのは俺的にも困る。

どう見ても俺の靴の中にゴキシュートする未来が見えてしまうから

そうでなくても脱走したら学校内のパニックになること間違いない。

これ以上中学のツキッターが荒れる要因は作りたくないしなあ。

「これは後輩が先輩を頼りにしてくれてるとみた」

あからさまなマッチポンプですけどね。

「なんでも良いですからこれ取って下さいよーーー!!!これじゃあ俺が帰れないですよ!!!」

「しょうがない後輩だなー」

「どっちがですか!!」

どこの世界に後輩の靴箱にゴ〇ブリを入れる先輩がいるんですか。

本当に顔はかわいいのにこういう事するからマイナスなんだよなぁこの先輩は。

どうやらコツがあるらしく少しずつ角度を変えたら出せるようだった。

「入ったんだから出せるに決まってるでしょ」

「もうずっと入ったままにする気かと思いましたよ」

「そういう訳にはいかないんだなー。この子の場合は特に」

「?···ゴ〇ブリならほっといても大丈夫なんじゃないですか?」

「アキくん。ゴ〇ブリも生物だからね。ちゃんとご飯が必要なんだよ。まあ、一般的なゴ〇ちゃん達は水1滴で3日生き延びたり油1滴で5日生き延びるくらいだし」

やばいなゴキ〇リ。

「あ、あと髪の毛とか食器用洗剤とかお酒なんかも食べるよ」

「マジですか」

「基本なんでも食べるから生き延びるの。凄いでしょ?ほめてほめて」

いや、褒めたくはないな。

「で、このドデカゴ〇ブリの話なんですけど」

「違うよ。この子はヨロイモグラゴキ〇ブリだよ」

名前はどうでもいいんだけど

「で、この子は草食なの。」

「ほうほう。それってゴ〇ブリの中でも結構レアケースなやつですか?」

「そうなの。さすが未来のわたし」

「目指しませんからね。話の流れで聞いただけですからね」

「でもさぁ、アキくん。わたしは結構真面目に考えてるんだよね。アキくん昆虫マニアにしてしんぜよう計画」

「他を当たってください」



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