狂ったもの 都時彰編 4

皆河さんには今後は俺の言うことを聞く代わりに綾城の事を好きだとバラさないという条件で納得させた。

それよりも俺は皆河さんと2人っきりのLDKで気づいた事がある

「皆河さん」

「何?さっそくパイずりしろって?そりゃあ思春期なら当然かもしれないけど空気読んで」

「皆河さんには言われたくないよ!!違うからね!!今この部屋ものすごい臭うんだけど」

よく考えても見てほしい。今皆河さんは冷凍されたネズミを鍋に直接入れて解凍しているんだ

そうすれば、あの動物園に行ったときに発生する獣臭い感じをもっと癖のある感じにしたものがここに立ち込めているんだ

「おかしいな。ここ、21貼あるんだけど」

「そりゃ確かに広いなあって思ったけど今はそこじゃない!!くさいの!!この部屋が!!」

それでもまだ皆河さんは不思議がっていた

「こんなのかえちー先輩のゲロに比べたら全然大したことないよ」

「何と比べてんだよ!!むしろこっちの方が断然上だろ!!」

「うわー···彼女のどんなところが好きって聞かれたら全部って答える男性の街角インタビューとかバラエティーでやってたりするけど、さすがに彼女のゲロの臭いも好きとかないわー。引くわー」

「違う!!皆河さんの嗅覚が狂ってるの!!」

このネズミの臭いをいつも嗅いでればそりゃあ麻痺するだろうことは、まあ贔屓目にみて良しとしよう。

だがこの問題はそれだけではなかった

「それと皆河さん、レモンの香水使ってる?」

「あっ。よく分かったね。そう、中国人のママがよく中国へ行く際に買って来てくれるから気に入ってるの」

ちょっとこのネズミ臭にレモンは相性悪いなぁ。お陰で頭がクラクラする

でも、その事を批判するのは女性は嫌がると思い、言うのはそこまでにした

「とにかく、俺はペルートさんに水を持っていく」

「ほいよー」

ここにいつまでも居る訳に行かないのでスタコラサッサと2階へ上がった

「ありがとう。少し長かったな」

「ちょっとここのお嬢様とネズミの臭い問題についての談義をだね」

「アッハハハ!あれか~。あれな~····。慣れちゃいましたね···」

ペルートさんがベッドの天井を見つめ遠い目をしている

ドンマイ

「まあ。封入パックごとの湯煎ならそこまで臭いはしないんですけどね。今回は1匹袋から直接だから余計ですね」

「?···ならそうすれば良いじゃん?なぜわざわざ」

「今回は急ぎでしかも1匹の蛇のみのご飯です。直接の方が短い時間で解凍できますし、袋のままは基本大量にエサやりする時なんです」

「ほうー。あ、そうだ。ペルートさんスマホ持ってる?」

「持ってますけど···。まさか都時、お前我が君に黙って浮気を」

「断じて違う。じゃなくて俺、楓さんの写真持ってるけどほしいかなって」

「全部ください」

わかりやすいなあ

「これが楓さんのお兄さんから昔の楓さんの事を俺が知ってる事に恥ずかしがっている写真で、これは俺が楓さんの上に乗ってセーラー服を脱がし気味にした写真、背中の真ん中にほくろがあるだろ。俺的にはこれがポイント高い。で、これが楓さんが街でナンパされて遅れた事を俺に報告したときの赤面顔の写真。とそれと、これは楓さんの小学生時代の写真。で、ごめん。この後プールに行ったんだけど水着写真は納めることはできなかった」

そう言いながらペルートさんとスマホのアドレス交換プラス写真をライ〇に放り込んでいく

「いや、いいです。それはレベル高いでしょう。待て。プールに行ったですと?」

ペルートさんが俺に目を見開いて近づいてくる。こえーよ、そして傷は良いのかよ

「白のフリルのビキニをお召しになられてました」

「なぜ私を呼ばなかったんですか!!」

「まだペルートさんの存在を知らなかったので」

「くぅ~~~~!!知っていれば一眼レフでバシバシ撮っていたのに!!」

心底悔しそうに掛け毛布を顔まで引っ張り身悶えするペルートさん

気持ちは分かりますけどそれ、やったら捕まりますよ。市民プールの撮影は厳禁ですので

「それにしても、いやはや良い写真です。これは我がアガート家の家宝にしよう」

「それは良かった。あとあと、これ、俺が楓さんの髪をドライヤーで乾かしてる時の楓さんの反応してる写真とその時の会話の録音」

いそいそとペルートさんにイヤホンの片方を渡し俺のスマホに繋げて2人で聞く

「おお、おお。これ、ドライヤーで髪乾かしてるだけなんですよね?」

「そうですよ」

「それなのになんという事でしょう。いや、我が君の髪に触れるというだけでも大挙なのだ。これは癒される。2人は交尾してないのか?」

「してないですよ。ペルートさん的にはしてない方が嬉しいでしょうに」

「む!まぁそうなんですけど、ほら。私飛び級したって言ったじゃないですか?だから10歳くらいにはもう大学に行ってるから周りは当然大学生じゃないですか?」

言われて改めて気づいた

そうだ。飛び級ってすごい事くらいの認識しかなかったけど、まだ小学生が大学生と一緒に勉強することになるんだ。

それってコミュニケーションとかとりづらいだろうから、放課中とか大変だろうな。精神的に

「で、その時に周りの女子大生達が彼氏とのセックスの話とかしてるのを聞くわけでもないのに聞こえてくるんですよ。席が隣だから」

「あ~」

それ、当時小学生なら気まずいだろうな

「私的にはセックスにはヘドが出るくらいの感情しか湧かなかったですけど、その生徒達は気持ちいいだの良かっただの言ってるもので、やっぱり一般的にはそういう認識なんだろうなって思いましたので」

「そうか····」

こういう時、なんて答えたらいいんだろう。

確かに、小学生ならまだ体が出来てない頃だから、そんな事するべきじゃないのは明らかだ。

なら、いつならそう思えるのか。それこそ本人じゃないと分からない部分が大きいし、何よりそういうのは女性の考えを優先するべきものだから男の俺の考えを女性のペルートさんに教えるのは齟齬が発生するかもしれない

だから、簡単な事だけ教える事にする

「確かに、気持ち良いことなのかもしれない。でも、それはお互いが納得してやる事だからさ。だから、ペルートさんの場合は自分がやりたくなって、それで相手も同じならそれで良いと思います」

ペルートさんは目を丸くする

「·····そうか。ああ、でも今日は我が君の可愛らしさに興奮して眠れそうにないかもしれないです」

「それはオーバーだろ。」

「何を言いますか!!あの我が君ですよ!!あの素朴な雰囲気といい、ハムスターが持つような守ってあげたいオーラ全開の生物は国の特定保護指定にでもするべきです!!」

「そこまではどうかと思うけど楓さんがかわいいのは事実なのでそこは認めましょう。」

「本当ですよ!!どうやったらあんな素敵な人と良い関係になれるのですか!!何か口説き文句はあるんですか!!」

「ペルートさんの中で俺はプレイボーイに見える?」

「な訳ないじゃないですか。よくて中の下の男ですよ」

「そこはまあ······的確な評価をありがとう?」

「これでも芹沢楓ファンクラブ創始者に敬意を評して評価を甘めにしてるんですよ」

「現実はもっと厳しかった!?」

「あなたは目に火傷負ってることを忘れてませんか?それでプレイボーイはできないでしょう?」

「ハハハハ!確かにな」

正直忘れていた。確かにそれでプレイボーイはないわー

「でも楓さんのあのビクビクした感じは何かそそりますね」

「分かります分かります。なんかいじわるしたくなる感じありますよね、あの人」

「しかも抱きしめたくなる。あの雰囲気」

「わかりみが深い。やっぱり我が君はあのまま黒髪ショートでいてほしいですね」

「そうだよね。あの人の雰囲気にすごい合ってるしザ·かわいいの象徴みたいな感じで、華奢な体型も本人はコンプレックスに感じてるみたいだけど、むしろそれが良いんですよあの人の魅力には」

「そうですね。女性は胸だけじゃないです。雰囲気、そう。雰囲気です。我が君のあの雰囲気はそうそうその辺の女性にはいませんよ」

「まったくその通りだ!!楓さんは儚い守りたい弄りたい3拍子そろったかわいい人なんです!!」

「とどのつまりは我が君はかわいいと!!」

「そういう事だな!!あー楓さんかわいいよーーー!!」

その勢いで2人して楓さんかわいいを息の続く限り連呼しまくって。お互い息切れを起こす

「何度言っても足りない可愛らしさですねこれは!!楓さんがかわいいのが悪い!!」

「そうですそうです!!だから私もあんな事をしでかしても問題ないと」

「そこは反省してください」

そこでペルートを寝かせる

そうして眠りにつこうとするので俺は下に降りる事にした

「ちょいちょい、そこのお前さん」

そう言うのは俺がペルートさんの部屋から出て右側から聞こえてくる。皆河さんの声だ。

「なんですか。楓さんが待ってますので俺は帰りますよ」

「冷たいなー。じゃあ帰るなら今ペルートとトトキンが会話してる内容を録音したこのスマホのデータをかえちー先輩に」

「お呼びでしょうかお嬢様」

疾風(はやて)の如く、右側の襖を開けると8畳の和室になっていた

襖を開けた左に2つ蛇のゲージが置いてある

「うむ」

ここで楓さんに俺とペルートさんの芹沢楓ファンクラブの活動がバレると後々まずいので従わざるをえない

「すまないが、ぼくの蛇自慢を聞いていっておくれ」

「あれ?確か10匹飼ってるって?姉岳さんが言ってたような」

「あとはここの押し入れ」

「わーお」

俺が入ってきた北の襖入り口の向かいには押し入れが2つ扉のものが2セット並べてあった。というよりこれは壁全体が押し入れ状態だな

そこの真ん中に厚み20センチほどの板とちょうど2つの襖の真ん中に壁がある構造である。内壁は土壁になっているようだ。

そこに上下それぞれ1個ずつ、爬虫類用のゲージが8つ置かれていた

「ですが紫衣お嬢様。時刻は夜22時を回っておりますので帰らない訳には」

「もしもし、かえちー先輩?今夜トトキンはぼくの家に泊まりたいって言ってるから帰って良いですとお母様にもお伝えください。はい、ではお疲れ様でした」

そそくさとそんなことを宣って電話を切る。

あんたなんて事をしてくれてんだーーー!!!

そんなことをしたらどうなるか。ほら、俺のスマホが鳴り出した

『彰くん。どういうつもり?』

「ち!違うんです楓さん!!これは皆河さんが勝手に言ってるだけで」

『なら直ちにこちらに来なさい。拒否権なんてないわよ。』

そりゃあ俺だって立ち去りたいし逃げたい。だけど逃げられない。

僕っ娘小悪魔がこちらに小さく微笑んでスマホをふりふりしてやがるから

「ごめん。楓さん。ペルートさんの容態が良くないから俺心配で」

『それはわたしも心配だわ。でもそれは医者の仕事であって彰くんの仕事ではないわ。ほら、帰れるでしょ?』

すみません楓さん。そこを論破しても帰れる事にはならないんですよ。残念な事に

「み、皆河さんが誘惑してきて」

『何?しょせんあなたもおっぱい星人だったと?そういう認識でいいの?ならもうわたしに付きまとわないで』

困る!これは困るぞ!!

「あ!楓さん、実は皆河さんは綾城の事が」

「あーーーー!!!もうこんな時間だった!!ゴメンねトトキン!!ぼく少し空気が読めない所があるから帰っていいよ!!」

ここで、対皆河さん用の伝家の宝刀を使用する

少し?皆河さんがおかしな事を言う

「てな訳で帰ります」

『·····なんか隠してない?2人とも』

「全然!!そんなそんな!!楓さんに俺が隠し事なんて!!じゃあ急いで向かいますので」

『車に乗ったら問い詰めるわよ』

帰る足が鈍るじゃないか!!楓さん恐ろしい人!!

まあ、帰れる段取りは整ったのであとは竹やぶを抜けるだけだが


家を出た瞬間に楓さんがいた


「ぎゃああああ!!!」

「彰くんが紫衣さんにとられないか心配だから来てみたら····とりあえず、スマホの写真は没収します」

これ!アカンやつや!!めちゃくちゃ聞かれとるやつや!!

「まったく!!外にも聞こえる声でわたしがかわいいかわいい連呼するんじゃないわよ!!聞いてるわたしの身にもなりなさいよね!!」

そりゃあまさかここまで楓さんが来てるとは思いもしなかった訳なので声を大にもしますとも

「ペルートさんにも消しとくように言っといてよ」

「ぜ!全部ですか?」

「ううん。さすがにそれはかわいそうだから彰くんに剥かれてる写真だけ消せば良いから」

それ、俺が一番お気に入りのやつや!!ペルートさんも同じ感性なら血涙流すぞ

そして俺のスマホを操作すると本当に写真を全消去してしまった

「えぐっ!えぐっ!」

俺の癒しコレクション達が~!!

「そんな事で泣かないの!ほら車まで行くわよ」

「楓さん、帰り道分かるの?」

「ええ、だって一回紫衣さんに案内されたんだもの。そりゃあ覚えるわよ」

思い出した。この人頭良かったんだ。

そのままの足で楓さんは竹やぶを抜けて車に乗り込んだ

俺も後に続く

いつになったらスマホ返してくれるんだろうか

「ごめん。お母さん、出して」

「彰くん。楓を泣かせたら分かってるわよね」

椿さん。顔が雪女になってますよ!

俺、雪山にでも埋められるんですか!!

車は5分もしたら住宅地を走っていく

「あ、もしもしペルートさんわたし楓ですけど」

『我が君!!』

俺が2人の怒りに触れないように窓の外を見ていたら、楓さんのスマホからペルートさんに電話していた

こちらにも聞こえるくらいの大音量でペルートさんは話しているのが分かる

これ、ペルートさん今夜眠れるかなぁ

これ、俺のアドレスから自分のスマホにペルートさんの連絡先打って電話したな。

「わかったわかった。じゃあペルフォニアさん」

ペルートさん、楓さんにはファーストネームで呼ばれたい願望があるようだ

「毎週土曜日にライ〇電話してあげる代わりに私のセーラー服脱がし気味写真消して」

容赦ないな楓さん。

すると向こうからぐはっ!という声が聞こえてきた。

心情お察しいたします。

「じゃないと電話しないですからね。もし嘘ついて消してなかったらもう口を聞きませんから」

『消しました!!!』

苦渋の決断だろうにペルートさん。簡単にやってのけたようなタイミングだけど声量と涙声で気持ちは伝わりますよ

「よしよし、良い子です。ならまた来週のどよいや!!さすがにこれ以上話しは!!ペルフォニアさんも体調わるいでしょうから」

『問題ないです!!!』

ちょっと増強剤の効き目が強すぎたようでして。

「わたしが問題あるの!!明日睡眠不足になってたらペルフォニアさんのこと嫌いになりますよ!!はい、そうですね。おやすみなさい」

これ、ペルートさんは楓さんのメイドをやった方が万事解決なのではないかと思えてくるのですけど。

完全に楓お嬢様の言うことを聞いてるし。

そしてスマホの通話を切ったらそこは俺の家、正確には椎堂のアパートだった。

「じゃあ到着。おやすみ彰くん」

「はい。おやすみなさい」

そう言って家に帰ろうとするときに気づいた。そうだ、俺のスマホはまだ楓さんの手の中だ

俺はスマホを返してもらうべく振り変えろうとすると首筋に柔らかい感触があった

そのすぐ後にカシャッというシャッター音

「·······」

顔全体とセーラー服の胸元の鎖骨部が真っ赤な楓さんと目が合った

「ちょっと!!何か言いなさいよ!!違うの!!本当は背中にハグの写真を彰くんに送ろうとしたのに彰くんが振り変えるから!!」

で、俺が右向いた瞬間にキスと

正直な話、背中ハグよりこっちの方が良かったから俺的にはラッキーだな

背中に楓さんが抱きついても感触がイマイチだし。

現に俺の右腕の感触はセーラー服の素材70肋骨の感触30の割合しか得られないので

「彰くん。なんで腕をさすっているの?」

「ち!違います!!まだ虫がいるので痒いだけです」

「へえ?ほう?もう9月下旬も秒読みなのに虫ねえ?」

楓さんの目に光が宿ってなかった

「さ!さあさあ!もう楓さんは帰らないと!!せっかくの美少女の肌が寝不足で荒れたら大変ですから!!」

「調子良いこと言って、あ、お母さん。今日彰くんの家に」

「駄目です」

「···椎堂さんもいるし」

「駄目です」

こちらもこちらで動かないようなので粛々と乗り込み車は夜の闇に消えた。

今回の事あったら、般若にもなりますよね椿さん。



そして文化祭の準備期間の到来

場所は大手ショッピングモール。その名も『karajan-カラジャン-』

俺は姉岳さん、皆河さんと出し物の団子屋で出す団子とお茶の選定に来ていた。

実際、2人だけでも良いのだが。

どうも、皆河さんが暴走した時に止め役がいないといけないため、監視目的の姉岳さんと2人がかりで止めなくてはならないことを姉岳さんから聞かされていた為こうなっている。

「茶釜もだめなの?」

「1個万単位のお買い物はNGに決まってんだろ」

「クルメグは胸も器量も小さいなぁ」

いや、皆河さんの方が大きいだけで姉岳さんもありますよ。

「アンタ人前だからって手出さないなんて思うなよ!!」

「姉岳さんストップ!!ストップ!!ここで問題起こすと文化祭も中止になりかねませんから止めてください!!」

これ俺が姉岳さんも止めなきゃいけないのか。

トコトコ歩いていると、たこ焼きの売り場が目の前に、鉄板の上のたこ焼きの焼けた匂いとソースの匂いがこちらにも伝わってくる。

「トトキン」

「ダメです」

「むぅ。ケチ」

「今日はお茶と団子の為に来たんです。そういうのは次の日にしてください」

「買ってくれたら良いことしたげるのに」

「楓さんがいるから間に合ってます」

「でも、前にかえちー先輩セックスは二十歳になるまでだめだって言ってたよ」

あの先輩、どんだけ身持ちが固いんだ。

外村先輩もおかしいけど、それはそれで思春期男子は持ちませんよ。

「おいルォシー!人前でセックスとか言うなよ!出禁食らったら私達どころか中学にまで影響受けるんだから自重しろ!」

「たこ焼き」

「わかったから!買うから大人しくしてろ!」

姉岳さんが皆河さんを甘やかしていた

たこ焼きを頬張りご満悦な皆河さんと少しイライラしながら進む姉岳さんの間で戸惑う俺。

この空気のまま買い出しするのか。

そして向かったのは昔ながらの団子が売ってるということでやってきた団子屋だった

「ルォシー。重ねて言うけど高いのはNGだからな」

「大丈夫だって。1本194円だって言ったじゃん。クルメグはカリカリし過ぎだよ。それじゃあ男の1人もできないよ」

「うっせえよ!!誰のせいでこうなってると思ってんだ!!表へ出ろてめえ!!」

「姉岳さん!!抑えてください!!姉岳さんが暴走してどうするんですか!!」

姉岳さんを後ろから抱きしめて止める

言われて、ハッとした姉岳さんが落ち着きを取り戻した

「ごめん。私クラス委員長なのに」

「い、いえ」

「と!とりあえず····離れろ。お尻に当たってるし」

「ごめんなさい!!」

男口調の姉岳さんなんだけど体は出るところしっかり出てて締まってる所は締まってるので細身ながらもスタイルの良い人なのである。

ちなみに目測では少しあるくらいのCカップなのではと思うが、細身で形もまん丸な為脱いだらもっとあるかもしれない。隠れた逸材である

腰回りも楓さんとひけをとらないのだが、いかんせん性格で損をしている感が否めない。

でも抱きついたら俺の下半身は正直なことがわかった。

「送信と」

「皆河さん。何を誰に送ったの?」

「個人情報なので教えません」

「その個人情報に俺も含まれてると思うんだけど、さっきカメラのシャッター音聞こえたよ」

「トトキン、ここまでクルメグ相手に疲れて幻聴でも聞こえんだよきっと」

「違うって、やっぱり!違います楓さん!!浮気じゃなくって!!」

この猫娘、案の定俺と姉岳さんのハグの写真を楓さんに送りよった

『ちょっと恵さんに代わってくれる?真実を知りたいから』

俺は言い訳しかしないとみましたか。

俺はスマホをスピーカーフォンにした。

「もしもし、すみません!あれは私がちょっとルォシーに怒ろうとしたのを都時が止めてくれただけなんで!!」

『本当に?何か変なことされてない?』

「大丈夫!ちょっとお尻に都時のアレが当たっただけで」

『····都時くん、文化祭の準備が終わったら私に電話するように』

「楓さん!!誤解ですって!!」

有無を言わさず電話を切られた

「わりぃ都時」

「あー······。正直立ち直れないかなぁ。これは」

姉岳さんが困った顔をする

この人、責任感の強い人だから自分を責めてるんだろうな

「団子100本当日持ってこれるように手配したから」

俺と姉岳さんがそうこうしている間に勝手に皆河さんが団子の注文をかけていた

「お前なにやってんだーーー!!私の監視下でしか注文しちゃだめってあれほど言っただろ!!」

「でもそっちでイチャイチャしてたから」

「イチャイチャじゃねえ!!暴走と謝罪しかしてねえ!!」

青筋たてている姉岳さんにも皆河さんは動じないでいる

「まぁまぁ、1本194円の団子をみたらし50本こしあん50本で注文しただけだから合計19400円。学校側の予算の50000円には大丈夫でしょ。はいこれ、領収書。」

そう言って姉岳さんに渡された紙には確かに皆河さんが言った通りの事が書かれている

「あんた、こういう事しっかりできたんだな」

「酷いなあクルメグ。ぼくが学年成績トップなの知ってるでしょ」

本当にな。神様の今世紀最大のイタズラじゃないかと思うほどにこの事実はおかしい

「でもバカと天才は紙一重だって言うし」

「クルメグ。ぼくには何を言っても傷つかないとか思ってない?」

「あんた!私の言うことスルーするでしょ!」

「それは違うよ。時と場合でスルーしてるだけだよ」

また姉岳さんが暴れるのは確定演出だったのでお姫様抱っこして次のお茶を買いに向かった。

「離せ!!はーなーせーー!!」

俺、思うにこの2人は混ぜるな危険だから別担当にすればいいだけじゃないのか


そしてまたそこでも、皆河さんは多種多様な煎茶を売ってるお店の前で俺が姉岳さんをお姫様抱っこしてる写真を楓さんに送ったが為に俺と姉岳さんは弁解を余儀なくされ。金木犀の花をブレンドした煎茶を30g1900円のものを13袋24700円。団子と合わせて合計44100円となり、予算内には納まったが姉岳さんと楓さんの怒りは収まらなかった。

「じゃあルォシーはこっちへ」

「いて!痛いってクルメグ!!ごめんぼくが悪かったから耳を引っ張らないで!!自分で歩けるからさ!!」

「いや!だから楓さん!!あれは不可抗力で!!」

『何が不可抗力よ。5分前の約束も忘れて胸が大きいからってお姫様抱っこなんて···わたしだってされたいわよ』

「プールの時とかペルートさんの時とかしたじゃないですか!!」

『普段しないでしょ』

そりゃあしないですよ。恥ずかしいし

『とにかく。今度そのショッピングモールへわたしも連れていく事。いいわね』

「は、はい。わかりました」

そしてスマホを切ってから気がついた。

これが楓さんからのデートの誘いじゃないかということに。そこ行きついたのは1時間も後の事だった。



そしてそのまま教室へ行って文化祭実行委員長。もとい生徒会長に領収書を渡す

「確かに、予算内だな。頑張ってくれ」

「生徒会長、楓さんのクラスは気になりませんか?」

「まあ。気にならないかと言われれば嘘になるが。おれも見回りでは行くつもりだ」

「良いですね。生徒会長権限って、無料で中へ入れるんだから」

「馬鹿言うな。これでも大変なんだぞ。今年は何故か全クラスやる気のようでそれ全部回らないといけないし、活動内容に問題がないか精査したり規定違反がないかとかな。昨年の事があるから余計にな」

「昨年?何かあったんです」

「ふみののクラス。まあ、楓のクラスでもあるが、そこはお化け屋敷だったんだが、ふみのが誰彼構わず中で性行為してたから問題になったんだ」

お化け屋敷禁止の原因は外村先輩だったと!?

「でもあれ?外村先輩って生徒会長と付き合ってたんじゃ」

「いや、その頃はまだお互い付き合ってなかった。」

「しかしあの人って。こう言ってはなんですけどビッチだったんですね。せっかく」

その時。生徒会長に怒られるかと思ったが驚いた顔をするだけだった。

なぜその反応なのだろうと思い、後ろを振り返ると

扉の上側一部にはめられたガラスから黒地に茶色いメッシュ髪の女子生徒がこちらを驚愕の表情で見つめていた

「外村先輩!!」

俺は思わず走り出していた

なんでだろう。俺は外村先輩の彼女でもないし友達でもない、自分の彼女の親友なだけであって。

向こうも走り出した事もあってか走り出したら止まらなかった

生徒会長も走っているのだろうが、あの人はどこかで息切れてるんじゃなかろうか。後ろから追いかけてる気配がない

あの人は勉強より体力向上するべきじゃないかと思うんだが。

「ぎゃ!!!」

俺は生徒会長にかまわず階段を降り3階から2階に来たところで外村先輩の叫び声が聞こえたので一階まで行くと


頭から血を流している外村先輩がいた


俺はすぐ救急車を呼んだ

「外村先輩!!大丈夫ですか!!」


「大丈夫なわけねえだろうがクズ!!!」


····俺はそこまでこの先輩と付き合いが長い訳じゃないけれど、こんな風に怒る人じゃなかったはずだ。

あの発言は俺が憎いほどのものだったのかもしれない。でも俺にはこの人は頭を強く打った影響なんじゃないかと思えてならなかった。

俺は電話相手である消防本部の方に意識はあるが頭から出血しているため至急来るように連絡した

俺は楓さんに電話した

「楓さん。外村先輩が階段から落ちましたから来てください」

『はあ!?ちょっと今行くわ!!』

「呼ばなくていい!!誰だよそいつ!!」

俺は衝撃の発言に言葉が出なかった

まさか···この人···。

そこへ息を切らせて階段を降りてきた生徒会長が一階の現状を目の当たりにして立ち止まったのと楓さんが追い抜いたのは同時だった。

「ふみの!!大丈夫!?」

「んだよ!!さわんな!!誰だてめえ!!」

楓さんがあまりの衝撃に震えて号泣していた 。

程なくして救急車が到着したので外村先輩と騒ぎを聞き付けた外村先輩のクラス担任(楓さんから聞いた)の氷見 木籠(ひみ こごも)先生を乗せて走り出した。

「彰くん。ふみのはどうなっちゃうの?」

楓さんは俺の胸にすがり付いて泣いていた

「分かりません。まだ先生から聞かないと」

本当に俺達は無力だ。中学生である以上、同乗したところで邪魔にしかならないのだろう。容態の説明は先生、もしくは親が聞く事になる。当然の事ではある。

だが、こういうとき側にいてあげられない悔しさがなくなる事はない。



後日、病院に搬送された結果外村先輩は一命は取り留めたが、頭を強く打った事による記憶障害と左半身麻痺。それと感情のコントロールが上手くできなくなった事が伝えられた。

これは楓さんから聞いた話である。

そして、この話を聞いた後なぜかその話をしてくれた楓さんの担任の氷見先生から放送ではなく文化祭準備の際に呼び出されたと思ったら紙を握らされ、そこに

『20分後用事があるからと言って職員用の駐車場まで来て』

と書かれていた。

こういう役目って生徒会長(彼氏)か楓さん(親友)ではないのか?

なんで俺?


書かれた通り、抜ける際平間さんに伝えて出てくるとそこには赤いボディのトヨタのRAV4に乗ってサングラスをかけた氷見先生がいた。

俺は何も言わず車に乗り込むと、発進させた。

「なんで俺なんです?」

ここで氷見 木籠(ひみ こごも)、32歳。AB型、見た目かわいい印象も受けるがどちらかというとスポーティーな感じのボーイッシュ20代といったイメージが最初にくる。

休日のなにもない日は趣味の登山に行くため、スタイルも良い。胸も椎堂に負けず劣らずのFカップくらいだろう。

性格も誰とも分け隔てなく明るく話す開放的な人なので先生、生徒双方からウケが良い先生だ。

なぜ俺がそんな事を知ってるかというと俺が帰る時早めに楓さんのクラスに行って待ってると、この先生と話す機会があるからだ。

「その様子だとこれから行く宛に察しついてるようね」

「外村先輩の病室ですよね?でもこんな形じゃなくても放送で呼べばいいじゃないですか」

「あまりこういう事すると一部の生徒を特別視しているとか問題になるのよ」

「なるほど。じゃあこれから外村先輩を元気づける目的なら生徒会長か楓さんでも」

「········」

そこで氷見先生は苦虫を噛み潰したような顔をした

「外村さんのお母さんとは同級生なのよ」

「マジすか!?」

「ええ。昔、実家の富山にいた頃からの付き合いよ」

「へえ」

「で、ここからが本題なんだけど。玲子、外村さんのお母さんなんだけど。男に見境がないの」

俺は黙って氷見先生の話を聞くことにした。

「もう、あいつは子供の世話そっちのけで男遊びしてるのが目に浮かぶわ」

「でも、それは昔の頃の話であって今は違う可能性だって」

「あのね、あの救急車で運ばれた日、玲子も病室に来たんだけど開口一番何て言ったと思う?」

「大丈夫?とか」

「違うわ『良いところだったなのに邪魔すんな』よ」

「········」

「正直に言っていいわよ。クズだって、私だって思ってるから」

「····それでその後、外村先輩は」

「なんかそんな対応がいつも通りみたいでね。無表情でやりすごしてたわよ。かわいそうにね。着いたわ」

そこは近くの市民病院だった

氷見先生の後に続いて病院まで歩いていく。

「昔から男を金づるか性欲の捌け口にしか見てないやつでね。昔私も一緒に金稼ぎしないかって誘われたわ。それだけの体なのに生かさないのはもったいないとかって。断ったけど」

俺はこれからどうすればいいのだろう。

この先生はそんな話を俺にする意味は何なのだろう。

「なんで都時くんかって聞いたわね。あなたなら外村さんを救えるかもしれないって思ったからよ」

「俺、ただの中学生ですよ?」


「あら?私、芹沢さんを変えた能力は認めてるわよ?」


その話に驚きと思ってもない称賛に戸惑いの気持ちが走り抜けた。

「何を言ってるんですか?俺は何もしてませんよ」

「あなたは知らないでしょうけど、芹沢さんって一年生の頃は誰とも話をしないタイプだったのよ。話しかけても会話を最小限にしたり無理矢理切り上げるから、私も困ってたのよ。成績は良いから余計注意しづらいし。唯一の外村さんにも構うなオーラ全開だったなあ。それでも頑張って話しかけてくれたのは外村さんだけだから感謝しかないけど」

でも、と先生は前置きしてからその困り顔を喜びに変えて話続ける

「あなたに会ってからは違うわ。前は話しかけられたらうるさいなって内心思ってただろうあの子が、ちゃんと人の話を聞くようになったから」

あの人、昔はそうだったんだと思ったのが最初の感想だった。

確かに人の輪に入るのが苦手そうなタイプだとは思ったけどそこまで距離をとるとは思わなかったからだ。

でも、基本俺はあの人には弄って遊んでた記憶しかなかったから変えたという言葉に違和感しかなかった

「ここ最近では笑うようになったから、あの子に告白する男子も増えたしね。」

それはちょっと聞き捨てならないですね。

「先生、その生徒の名前分かります?」

「分かりやすいわね。大丈夫よ、あの子流されやすいタイプだけどそこはちゃんと断ってるわ。私にもどうやって断ったらいいか相談に来てたし」

「それで先生からのアドバイスは何て?」

「もうバッサリ言ってしまえばいい!って」

「····先生って恋愛経験ないって前に外村先輩から聞いたんですけど」

「うっさいわね!山と結婚してるからいいのよ!あの子そんなこと···。助けるの止めようかしら」

先生が私怨で動いていいんですか。

「とりあえず、芹沢さんには私が恋愛経験無いことは内緒にして」

「なぜです?」

「····あの子の中では私は数々の男をものにしてきた恋愛マスターって事になってるから」

先生、あの人に嘘ついたんですか?

自分の見栄の為だけに

「違うのよ!!あの子、私のこと恋愛マスターなんですよねってすごいキラキラした目で言ってくるからあの目の輝きを失うような事をしたくなかったから仕方なくよ!!」

そして楓さん、 コミュ障だからってそこまで情報がいかないとは

「なんか外村さんがニヤニヤしながら楓さんと話してるとき私を見てるから。あれは楓さんはこのまま泳がせとこうって目だったのね。今やっと分かったわ」

「俺、楓さんが詐欺に遇わないか心配になってきました」

「奇遇ね、私もよ。だから今後とも楓さんをよろしくね」

「了解しました。で、これから外村先輩を攻略と」

「本当は芹沢君にしたいんだけど、あの子って堅物なところあるからこういう対処は無理そうだなって思ったから」

「あ~~~~~~~~~確かに」

「······一応、あなたの先輩兼生徒会長だということを言っておくわね。」

「かといって楓さんだとパニックになるだけで対処できない可能性大ですもんね。」

「よく分かってるようで何よりね。そして、これも一応あなたの先輩だということを言っておくわよ。」

楓さんは先輩に見えないのがデフォだから良いんですと心の中だけで反論することにする。

「じゃあここが外村さんの病室だから、私は外にいるからあなただけ入りなさい」

「先生は入らないんですか?」

「あの子の中で私の事をすごい嫌っているから入ったらまた喧嘩になるだけよ」

この先生、精神年齢低いのかな。

俺は言われた通り『702』とプレートに表示された扉を開く。

「んだよ。あたし頭痛いんだけど」

ベッドに仰向けのままそういう外村さんのあなたには包帯がぐるぐる巻きにされていた。

「外村さん。自分の名前分かります?」

「なめてんのか!外村文乃。母親玲子、父親は尚文(なおふみ)だって。はいはい。家族の記憶はあるから大丈夫ですよ~。出てった出てった。」

「お母さんは病室に来たって聞いたけどお父さんは?」

「来るわけねえだろ、離婚したし。バイクで事故って植物状態だし。」

は?

この人、何をさらっと言ってるの

「こういうのなんだけど。俺にそんなこと言っていいの?」

「うっせー。あたし家族の記憶しかねえからよ。もうどうしたらいいのかわかんねえんだ。」

もう、自暴自棄になってるというのか

「なら、その事を先生とか医者とかには」

「はあ?なんで赤の他人にんなこと言わなきゃなんねえんだよ?」

ごもっともです

そこで外村さんはこちらに体を向けてからしっかりとした目付きで言った


「あんた、あたしの彼氏なんだろ?」


·········は?

俺はパニクった。

何?何をどうしたらそんなことに?

「あたしのピンチの時に真っ先駆けつけてくれたし。あのうぜえセンコーにあたしに彼氏がいることは聞いてたからよ。あたしなりに事態を整理した結果だよ。誰かに何か話したいけど誰でもって訳にいかねえから、なら彼氏のおめえなら良いかってさ。あの母親なんて問題外だし」

······氷見先生。あなたはとんでもない事をやらかしてます。

まず、彼氏がいることを伝えるなら名前まで伝えてください。写真を見せるとか。

そして、ここに俺を呼んだ時点でこのままだとじゃあなんで彼氏は来てねえんだってキレる事態になってしまうじゃないか。

「外村さん」

「文乃でいいって。気恥ずかしいのはわかるけどさ」

ここが完全個室な為、助け船を出せる人もいない。そもそも出せるとも思えないけど。

「····文乃さん。スマホとか持ってないんですか?」

「ああ。暗証番号わかんねえから。アレ(母親)に預けた」

これ、もう捨てられてるやつか

「でも待受画面とかから何か思い出すかも」

「ああ。一生ダチとかって書かれた髪の黒い女とのツーショットだったよ」

生徒会長、外村先輩の中では妹に負けてますよ。

「髪の毛茶色のままなんですね」

「地毛が茶色なんだよ。これ、前のあたし黒いメッシュ入れたな」

それは知らなかった。

「覚えてるのは小学生の頃がぼんやりとだな。あの頃はまだ父親もいたな。母親とどこか出掛けててあたしはコンビニの弁当2つ渡されただけだったっけ。基本そんな感じ。家から出て遊ぶときは前もって言えばお金もらってたけど」

それは育児放棄とまではいかないけど、不干渉というやつなのでは。

「いつからか忘れたけど父親がバイクで事故ってからは母親は色々男作って遊んでたんだろう事は想像つくよ。父親が仕事の時も別の男の家に行ってたのは分かってたし」

聞くに耐えない話だと思う。

「男から貢がせた金で暮らしてたようなもんだな。それからは。そういう店で働けばって言ったら『競争率がはげしいから』ってさ。まあ、母親30手前くらいじゃね?なら若いの入ってくりゃそりゃ負けるだろ」

「····」

もう何て声をかけたらいいかわからない。

女性の体の事はわからないけど、そんな事をしてて危なくないのかとか、子供の事はどう思ってるのかとか言いたいことはあるが、それを俺が言う事なのか迷ってしまう。


俺がぐちゃぐちゃ考えていると文乃さんが抱きついてきた。

最初に感じたのは消毒液の匂いだった。


抱きついてきたとはいってもこちらに倒れ込む感じで右腕を回しているだけだったが

文乃さんの体はすごい温かくて柔らかくて癒された

「左腕、動かないんですね」

「左足もだな。まったく動かねえ」

思考に沈んでいた心がクリアになった。

「なんかこうして親に抱かれた記憶がないから余計かな。落ち着くわ」

「文乃さん····」

「うぷっ」

文乃さんが吐きそうになっていたので机にあったそれ用らしき銀の器を口元へもっていったら何とか間に合った

「まだ吐き気あります?」

文乃さんの体を抱き寄せて支えてあげる。

「サンキュー。···たまにな。でも常に側にこれ置いてあると匂いでまた吐きそうになるからよ」

「後は何か症状ある?寒いとかここが痛いとか」

「頭がズキズキ痛てえぐらいだな。気持ち悪いしクラクラするし。最初はもっと酷かったけどよ」

「医者呼ぼうか?」

「いいいい。もう薬もらったし、見ても変わんねえよ。安静にしてろって言うだけだよ」

もう何度か言われた後か。

そりゃあ医者に頼まなくなるか。

「そこの吐き気止めと痛み止め取ってくれる?」

すると文乃さんからそんなことを言われるので机の上にある小さな紙袋にそう書かれてるものから適量出して口に入れる

水はペットボトルの物が1本置いてあったからそれを蓋を取って少しずつ飲ませる

「ぷはっ。悪いな」

「後は寝てて下さい。ちょっと水を何本か買ってきますので」

「待って」

「なんです?まだ暑い日が続きますし時間が経つと喉渇きますよ?」

「ちげえよ。ちょっと···寝るまで手ぇ繋いでくんねえか」

俺は目をぱちくりする

「意外か?以前のあたしはおめえにどんな風だったかわかんねえけどよ。これが今のあたしだよ。こんだけ部屋は広れえのに誰もいないのは···慣れてる筈なのになぁ」

文乃さんの目から一筋落ちてくる

俺は何も言わずに文乃さんの白くて消毒液の成分で少し荒れた手を握った

「サンキュ」

文乃さんはその一言だけ残し目を閉じた。

それから30分後くらいには寝息をたて始めたのでそっと手を離して掛け布団の中に入れてかけ直した

そして退室しようと部屋を出たらそこに氷見先生がコンビニの袋を持って立っていた

「はい、水。15本買えば何とかなるでしょ」

「先生って常日頃ジャージですけど数学教師ですよね?計算しないんですか?」

「うっさい。ジャージの方が動きやすいんじゃ。昔好きだった彼が数学教師目指してたから追いかけたんじゃあ。文句あっか」

俺は先生から受け取ったそれをそそくさと文乃さんのベッド横の机に置いて帰ろうとする

病人がいるところで騒ぐ訳にもいかず氷見先生も帰ろうとする前に俺は服を掴まれた

掴んできたのは茶色の髪の毛を背中まで流したミステリアスな雰囲気の女性だった。

歳は氷見先生と変わらないくらい。ただ癒されると男子生徒の間で評判の氷見先生のソレと違いその笑顔には冷たい印象を受ける。

「これを文乃のところに」

渡されたのは小さな紙袋だった。中には大金が入っていた。大体500万くらいだろうか

ここで騒ぐのは憚られるのでベッド脇にその紙袋だけ置いて今度こそ病院を出た

「文乃さんのお母さんですか」


「助かったわぁ。文乃の世話せずに済みそうだから」


氷見先生が殴ろうとしたのは既に嫌な顔をしていて予想済みだったので、全力で組伏せて止めた

「止めて下さい先生!!教師辞めたいんですか!?」

「うっさい!!この馬鹿は殴んないと気が済まないの!!」

文乃さんのお母さんは氷見先生を蔑みの視線で笑っていた

「あ!そうそう。あなた名前は?」

「····都時彰ですけど。外村玲子さんですよね?」

「じゃあ都時くん。スマホのアドレス教えてくれる?文乃の世話頼みたいから」

ちょっと俺があの馬鹿親を殴りたくなってきたんだけど。

「別にただでとは言わないわ。私の都合がつけばいつでもヤらせてあげるわよ。そういうの興味ある年頃でしょ?」

「残念ながら俺には彼女がいるんで間に合ってますよ」


「あら?文乃なら他の男にもヤらせて稼がせるつもりだけど」


「「·········」」

もう。2人して殴り倒してやろうかという考えが頭を過る。

「そんな顔しなくても。あの子は小5で処女喪失してるから。顔は良いしスタイルは申し分ないからすぐ買い手はついたわね。あの時で5万円だったかな。できれば木籠くらいの胸があるといいんだけど。まあ、中学生に望むのは違うか」

かくいう玲子さんの方が胸はある。Gカップくらいだろうか

でも、どこぞの椎堂さんが中学生でそれなのですが、絶対に教えてやるもんか。

「本当はすぐ退院させてまたヤらせるつもりだったんだけどね。ここの医者がまだ退院できないってぬかすからさ。今までは絶対ゴム有りでさせてきたけど、今度からは生OKにしようかしら。それで一回20万にして。顔の麻痺までは無かったのはラッキーね」

「都時君離して!!!もう許さないこんなやつ!!!私はどうなってもいいから殺してやる!!!」

「それは俺だって同じですよ!!!でも、ここで氷見先生がやったら全校生徒が泣きますよ!!!」

本当にこの先生の人気はそのくらいあるからやらせるわけにはいかない。

「何も怒ることないじゃない木籠。ワタシがその頃にはヤりまくってたのは知ってるでしょ」

「アンタはどうなろうと知ったこっちゃないわよ!!!でも!!子供まで巻き込まないで!!!あの子には幸せになってもらいたいの!!!担任として母親として!!!」

「何言ってるの?母親はワタシだし。これでお金も入るのだから幸せよ。でも変なのよね。前はお金がもらえるからってヤることに抵抗なかったのに、あの子が去年のこのくらいの時期から嫌がるようになったの」

アンタなんか母親じゃないと声の限り叫ぶ氷見先生。

おそらく生徒会長が止めていたんだろう。セックスに対する考えを変えるまで滾々と言い続けたに違いない。

あの人が堅物で良かったと思う一瞬だった。

「で、どうする?ヤる?ヤらない?」

俺は無言でスマホをクズ女に投げた

待受のロックは解除してある。

「あはっ!なーに?人のこと言うに事欠いて、あんただって他に女作ってるじゃん。顔はイケてないのにねえ。ねえチンポ?やっぱりチンポがいいの?ヤる時が楽しみね 」

俺のスマホの待受画面は楓さんが俺の首筋にキスをしている写真になっている。

何が楽しいのか。こちらをお気に入りの玩具を見つけた子供ような目で発言する。

氷見先生が俺を女の敵でも見るかのような視線で見上げてくる。

「勘違いしないでください。文乃さんの事を考えての行動です。別にあんたとどうなりたいとか毛頭ないから」

俺の一言に急に冷めた視線に変わる玲子さん。

「あっそ。まぁいいわ、男にも金にも困ってないから。はい、これがワタシの連絡先だから。何かあったらよろしく~」

そう言って投げ渡されたスマホを受け取る時にはあの女は近づいてきた高級車に乗り込んで走り出していた。

そして突然の大雨に見舞われた。

俺がなす術もなくいると暴れる氷見先生に気づいたので慌てて解放した。

二人して急いで車に飛び乗った。

「もう!!都時君が組伏せるから全身びしょ濡れじゃない!!胸まで染みてるし!!ああもう気持ち悪い!!」

そう言うと俺がいるのもお構い無しに青のジャージと黒のシャツを脱ぎジャージと同じ色のズボンも脱いで運転し始めた。

俺は先生の黒いスポーツブラと白いショーツ姿に内心ドキドキしていた。

「先生!!周りから見えますよ!!」

「もう暗いしこの大雨だから問題なし!!」

この先生大雑把過ぎるだろ。

先生は暖房をガンガンにかけ、俺の足元に服を置いた。

「あなたも今のうちに脱いどきなさい」

「いえ。俺は先生ほど濡れてないので」

「そ」

本当は脱ぎたくて仕方なかったが、脱ぐと俺のアソコが大きくなっていることに気づかれてしまうかもしれなくて、なるべく暗くなる空に近い学生服の黒色で隠したかった。

そして、着いたのは見知らぬマンションだった。

「ここの4階が私の部屋だからシャワー使って」

生乾きのジャージとズボンを穿き、自動ドアの入り口に入っていく先生の後を先生が置き忘れたシャツを持ってついていく。

「先生わるいですよ。家でシャワー浴びますって」

「何言ってるの?あなたの家私分かんないし。いいから!子供は大人の厚意に甘えなさい」

入り口の機械にカードキーを差して開けていく先生が俺の手を引いてエレベーターまで乗せていく。

後で親御さんには連絡する旨を氷見先生に言われたがその事よりも先生の黒髪と上の方で小さく纏めたポニーテールが濡れたことにより解かれ、白くて綺麗なうなじと相まって女性らしさを際立たせてしまう。

俺のアレがまた反応する。

先生は気にすることなくエレベーターを降り『506』の部屋にまたカードキーを差して入っていく。

「上がって」

そう言ってずんずん中へ進んでいく先生は1度こちらをついてきてるか確認なのか振り返ったきり俺の方を見ない。

「お風呂はここのすぐ左だから」

玄関から少し横に長い廊下を右へ少し移動した所にある扉を左手前へ引いた先にはキッチンと、冷蔵庫が置かれていた

その扉を越えた先のすぐ左を見ると、なるほど。木製の両引き戸になっている。

俺は先生に続いて中に入ろうとしたら先生が服を脱ぎ出した為、あわてて洗面所を出た。

「どうしたの?入ればいいじゃん?」

先生が両引き戸の間から不思議そうな顔を出してくる。

「いやいやいやいや!先生からどうぞ!俺より先生の方が濡れてますし」

「バーカ。生徒を優先しないで何が教師だよ。変に遠慮すんじゃないの。」

そう言うと俺を中へ引き入れてしまう。

先生はというと折れ戸を左に開け風呂場へ入ったと思ったらすぐ出てきてしまう

一糸纏わぬ姿で

「今、湯入れたからその間体洗ってて。って、どうした?様子がおかしいぞ」

「服を着てください」

マンションなので大声を出さないように耐えて何とかそれだけ言う事ができた。

「私は家では服を着ないから。ほら、先に洗濯回すから服脱ぎな」

「俺も男ですよ!」

少し大声になったが言いたい事は言えた。

そしたら先生が吹き出した。

「フッッッッハハハハハハハハハ!!馬鹿も休み休み言いなよ。まだガキな中学生がいっちょまえに何を言うかと思えば!あーハラいてえ」

「俺は本気ですよ」

「よせやい。何をどうすればこんな30越えたおばさんに興奮するんだよ。あんたたちは私に告白とかしてくるが、そんなにおばさんからかって楽しい?」

ああ。名もなき生徒Aよ、同情するぞ。

「いい?そんなのは一時の気の迷いよ。後で同じクラスに可愛い子がいればその子に告るし、スマホでもっと若い女性のAV見ればそれでおっ立てるの」

教師がAVとか、おっ立てるとか言って良いんですか。

「じゃあこうしない?都時君が先に入る。で、私も洗濯回したらすぐ入るという事で」

なんか納得いかないが、ここで揉めても時間の無駄なので先生にお尻を向ける形で全部脱いで折れ戸になっている先の風呂場に入りそそくさと閉めてシャワーを浴びた。

中はやはり1人暮らし用の設計だからか、1人なら少しゆとりのある広さになっていて、隣にはこれも1人でゆったりできる大きさのユニットバスが設置されていた。

と、そこで隣の洗面所兼脱衣所から音が聞こえてきた。

俺のスマホの着信音かなと思ったら氷見先生がとったので先生の物だろう。

こちらとしては先生が入る前に出たいからこれ幸いとばかりにシャワーを全身にかけていく。

「もしもし氷見ですが、ああ椎堂さん。」

あれ!?俺の携帯じゃねえか!?

「ごめんね、心配かけて。うん、大丈夫。ちょっと椎堂さんの誕生日プレゼントどうするべきか相談されたからその協力してたの。そしたら雨に降られて夜遅くなっちゃったから、今彼は私の家でシャワー浴びてるとこだから。あまり彼には怒らないであげてね。彼、この時間になるまで悩んでいたから。でも結局決めきれなかったけど!フフフフ!あ、この話、彼にはしないようにね。うん、ごめんね。明日には帰るからはーい。御両親にもそう伝えてくださいはい。おやすみー」

あの人は策士か。

これなら椎堂が怒るような事もなく家にも無事帰る目処が立つ

ん?待て、明日って言ったか?

てことは今日は泊まりって?

大丈夫か、俺の心臓。

また同じメロディが流れた。この流れはもしや

「もしもし氷見ですけど、ああ芹沢さん」

ですよね。かけてこない訳ないですよね。一緒に帰ってないですもん。

「ああ、うん。今彼は私の家に違う違う違う違う!違うって芹沢さん!私はもっと大人の男性しか見てないからいや彼が魅力的じゃないとかじゃなくてね!」

これは楓さん、嫉妬に狂ってると見たな。

あの人がこうなると止まらないぞ。

「あのね。彼は椎堂さんに誕生日プレゼントをちょっと違うって!芹沢さんから引き離そうとかじゃなくて!」

楓さん、今だけはナイス。おかげでシャンプーできる時間が稼げます。

「例えばね。芹沢さんが外村さんから誕生日プレゼントを毎年もらってたのにそれが今年もらえなかったらどってごめん!!別に芹沢さんを泣かせるつもりじゃ!!わかったわ!!水居市民病院の702号室にいるから!!」

ちょっとこれは体の隅々まで洗えそうだからボディソープ使ってしまおう。

「えーとね。都時君にとって椎堂さんってそのくらいの関係なの、付き合いが長い親友っていうね。だからそこで誕生日プレゼントくらいは渡してあげないと彼女としての器じゃないと思うわよ。最後には自分に振り向くって自信をもって少しくらいの女の子との交友関係を許容しないと。それがデキる女ってもんよ。うん。なれるなれる。芹沢さんならなれるから、何かあったらまた相談に乗るからまた来なさい。うん、いえいえ。あ、うん。この後も彼氏の予定でいっぱいだから都時君に構ってる時間なんてそうないからはーい、おやすみー」

なんか聞いてると嘘で塗り固められてる感がするんだが気のせいかな。

「あー、疲れたー」

そして入ってきた氷見先生は死んだ顔をして俺にのし掛かってきた

「先生、胸が!胸が当たってます!」

「うっせー。芹沢さん。あの子、やっぱりめんどくさいわー。メンタルごっそり持ってかれたわー」

「あのー。俺の彼女なんですけど」

「30越えると夜遅くまで体力もたないのよ。だるくなんのよ。もう20代のようにはできないのよ。こちとら20代に見えるように足掻いてるだけなのよちくしょー」

「俺、もう出ますね」

「浴槽に入りなさい。せっかく入れたんだから温まりなさい。これで湯冷めして体調崩したなんてあったら大変だから」

自分がどうあろうと生徒の心配はちゃんとするんですね。






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