第7話
「うん、本当はもう少し早く渡すつもりだったんだけどね……その、ごめん……」「謝らなくていいですよ、寧ろこうして渡してもらえただけでも嬉しいです……それにわざわざ買ってくれたんですから尚更です♪開けてもいいですか?」「勿論だよ」
そうして渡した箱を開けた彼女は嬉しそうな表情を浮かべながら中身を取り出した後、すぐに身に付けてくれた。それを見てホッとした気持ちになっていると不意に彼女がこんな言葉を口にした――その言葉は予想外にも程があったせいで動揺を隠しきれないまま呆然としていたがそれでも聞き間違いであって欲しいと願ったのだがどうやらそれは無駄な願いだったようだ……何故ならその後に彼女の口からはっきりと聞こえてきたからである。
「――これからもずっと一緒にいましょうね、お兄さん!」「……はっ!?今なんて言ったんだ?」
あまりの衝撃に理解が追い付かなかった俺は思わず聞き返したものの既に遅かった……何故ならそこには満面の笑みを浮かべた少女の姿しかなかったからだ。だがこの時の俺はまだ知らなかった――いや知る由もなかった。まさかこの後、自分がとんでもない目に遭う事になろうとは想像すらしていなかったのだから。
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「うぅ……どうしよう……まさかあんな事になるだなんて……」
現在、自室にてベッドに寝転がった状態で枕に顔を埋めたまま一人で唸っている者がいた……言うまでもなく俺の事なのだが先ほどから同じような事を延々と呟き続けていた事でそろそろ喉が渇いた為、冷蔵庫まで向かうことにした――ちなみに両親からは「たまには気分転換しろ」と言われて追い出されている為、今日は家に一人きりなので気兼ねなく行動できるのがいいと思った。
そして台所へと辿り着いた俺は冷蔵庫を開けると中から麦茶の入ったペットボトルを取り出してコップに注ぐなり一気に飲み干した後で一息つく事にした……しかし喉の渇きが解消された事で安心したせいか急に眠気に襲われた俺はそのまま寝落ちしそうになっていたその時、不意に電話が鳴り始めたので仕方なく電話に出る事にした――一体、誰だろうかと思いながら受話器を取ると聞こえてきた声に驚いた……なぜならそれは妹からの電話だったからだ。「もしもし、兄さん?今、時間あるかしら……?」
どうしたのかと思って用件を聞いてみるとどうやら今からこちらに遊びに来たいというのだが流石にそれはまずいだろうと思い断ろうとした瞬間、まるでこちらの考えが読めているかのように先回りする形でこう告げてきたのである――しかも俺が言うであろう台詞の全てに反論した上で論破しやがったのだ!その結果、もはや何も言えなくなった俺は力なく了承する他なかった……それから電話を切った後に深い溜息をつくと共にその場に座り込んで頭を抱えていた――何故なら妹が家に来る事になったからである。
とりあえず部屋を片付けようと試みたものの時間が足りなかった上にそもそもそこまで汚くないと気付いてからはどうしようかと考えているうちに玄関の呼び鈴が鳴った……その瞬間、緊張が高まったので思わず深呼吸してから気持ちを落ち着かせるように努める事でなんとか落ち着きを取り戻すと同時に玄関へと向かった……ちなみにこの時はまだ心のどこかで何とかなるかもしれないという気持ちが芽生え始めていたのは確かである……しかしそれはあくまで甘い考えでしかなかったのだと嫌でも思い知らされる事になるのだった。
20 ドアを開けるとそこに立っていた妹の姿を見て思わず唖然としてしまった――というのもそこにいたのは明らかにいつもと違う服装に身を包んでいたので最初は誰か分からなかったからなのだがよく見るとその正体はすぐに判明した。
そう、そこにいたのは間違いなく俺の妹のミホだったのだ……その事実に気づいた途端に困惑しながらも慌てて視線を逸らしてしまった。「な、なぁ、何でそんなに着飾ってるんだ?というか何しに来たんだよ……」
そんな俺の言葉に対する返答はとてもシンプルなものであった――すなわち「貴方に会いに来たのよ!」……という訳だがなぜそうなるのかとツッコミを入れたかったのは言うまでもない。
しかしそんな俺に構わず近づいてきた彼女は俺の手を掴んで引っ張り出すと半ば強引に家の中へ上がり込んできてリビングに向かうや否やそこで待っていた母親に挨拶をしたかと思うと続けてこう言った。「どうも初めまして、いつも兄がお世話になっております……ほら、お兄さん、いつまでもそんな所で立ち尽くしてないで座ったらどうですか?」
「……お、おう」
そう言われて我に返った俺は促されるままにテーブル席に座ると隣に座った彼女が話しかけてきた。「あの、ところでお母さんはどこに行ったのかしら……?」
その質問に答えようとした時、ふいに誰かが二階から降りてくる足音が聞こえてきたのでそちらの方に視線を向けてみると姿を現したのはなんとカレンだったので驚いてしまった――だがそれ以上に驚いていたのは俺の妹だったようでかなり驚いた表情を浮かべて口をパクパクさせていた。
21 そんな中で母親が姿を見せると軽く会釈した後でこんな事を言ってきた。「ごめんなさいね、ミホちゃん……実は私もついさっき知ったばかりでして……まさかうちの息子がカレンちゃんの恋人さんだとは思わなかったものですから……あらっ、二人ともどうしたの?」
その言葉に我に帰った俺はすぐさま立ち上がって否定するとカレンが続いて「いえいえ、別に気にしなくてもいいですよ~私とお兄さんは恋人同士なんかじゃありませんからね~♪」と言って否定したので思わず安心していると今度は彼女が俺に対して質問してきたので答えようとするとそれを遮るようにしてミホが口を開いた。
「……そういえばどうして私の時は否定しなかったんですか……?ひょっとして本当は……」「……あぁ、そうだよ、確かにお前の言う通り俺達は恋人同士だったよ……だけどそれを全部嘘だって言い切れる根拠がある以上、今更それが本当だと言ったところで信じられる訳ないだろ?……それによく考えてみたらお前は俺を裏切ったんだからそんな相手に優しくする義理なんてないし何よりお前の事は好きになれないしな……分かったならさっさと帰ってくれ」「えっ……ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!私はただ話を聞きに来ただけで――」
「もういいだろ、そんな話は!大体、お前の目的は一体何なんだよ!?」「……うっ……それは……」
痛いところを突かれたといった様子の彼女は言葉に詰まっていたもののここで引き下がるつもりがない事をアピールするかのようにこう続けた。「とにかく、今はその話じゃなくて貴方とカレンさんの関係を聞かせて欲しいのよ」「あぁ、そういう事かよ……だからさっきも言っただろ、俺とカレンは恋人同士だってさ……」「……じゃあ仮に本当に二人がそういう関係だとしたらどうして私に何も言わなかったの?」「……言えるわけねぇだろ、馬鹿野郎……!」「なっ……!ま、また馬鹿って言ったわね!?ていうかどういう事なのよ、説明しなさいよ!!」
「それは……」
22 その後、全てを正直に話す事にした俺は今まで隠していた事や本当の意味で彼女を愛していない理由、さらにはミホの告白を断ってカレンを選んだ理由を順を追って話した結果、彼女は納得してくれたようだった――とはいえそれでも完全には信じてくれていなかったらしく疑いの目を見せながらこう言った。「……本当なのね?貴方が本気で私ではなくカレンさんの事を好きになったっていうのは……」「ああ、そうだよ……何度も言わせないでくれ、俺はカレンが好きだ、大好きだ、愛している……それこそ、どんな手を使っても必ず幸せにしてみせるくらいにな……」
その言葉を聞いた途端、それまで疑り深い表情を見せていた彼女だったがどこか嬉しそうな表情を浮かべた後で小さく頷くと改めて謝ってきたので俺は苦笑しながらも気にするなと言って許した。するとそれを聞いた彼女が再び笑顔になったところで何か思い出したかのような表情を浮かべるなりこんな事を口にした。「……あ、そうだわ!お兄さん、この後って暇ですよね?」「えっ、この後かい……?う~ん、特に用事とかはないけど……というか今、何時だっけ?」「まだ朝の10時過ぎですよ~」「そうなんだ、それで一体、何がしたいんだい?」「ふっふ~ん♪それはですね……今から私と出かけましょうよ!」
そう言った直後に目を輝かせつつ顔を近づけてきたかと思えば至近距離まで近づかれたせいで思わず顔を逸らしてしまったものの次の瞬間には顎に手を当てられて無理矢理にでも視線を合わせられた事によって身動きが取れなくなった俺は必死に抵抗しようとしたのだが全く効果が無かったので諦めかけていたところ、いつの間にか俺達の様子を見ていたらしいカレンが俺の側に来るとこんな事を口にしながら止めに入った。
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「――駄目です、兄さんはこれから私とデートする予定なんですから邪魔しないでもらえますか……?」「……はぁ!?ど、どういう事よ……なんであんたがお兄さんと一緒に出かける必要があるの?ていうか何でいきなりそんな事を言い出したのよ!?」「いえ、単純に私がしたかっただけですし、ちょうどそこに偶然にも予定が入ってなかった人がいたものですから……それにミホさんは色々とあって大変そうでしたしここはひとつ気分転換でもどうかと思っただけなんですけど……駄目でしょうか……?」
それに対して即座に駄目だと答えた彼女はなおも説得しようと試みていたようだが頑として聞き入れようとしなかったので最終的に諦めた様子を見せていたがその代わりに俺にとある提案をした。「……分かったわよ、それなら今日のところは大人しく帰るけどもし明日以降もこの調子が続くようなら私にも考えがあるから覚悟しておきなさいよね!それじゃまた明日♪」
そう言うと彼女は勢いよく飛び出して行ったのでその様子を眺めていた俺は深い溜息を吐くと共に疲れを感じていたが不意に声をかけられた事で意識をそちらに向けるなりこう言った。「ねぇ、兄さん……」「な、なんだ?」「その……もしよかったらこれから一緒にお出かけでもしましょうか?もちろん二人きりで、ですが……」「……え、えっと……そ、それってもしかして……?」
「はい、つまりデートのお誘いをしているのですが……嫌ですか?」「い、いや……全然!寧ろめちゃくちゃ嬉しいよ……というかむしろこっちから誘おうかと考えていたくらいだから」「本当ですか?それならそうと言ってくれればいいのに……」「悪い、少しタイミングを逃しちゃってたというかなんというか……」
そんな風に会話を交わしているとミホが唐突に大声を上げた。「あっー、ちょっと待って下さい!!これ、見てください!」そう言ってスマホを操作した後で画面をこちらに見せてきたのだがそこには先程、通話を終えた際に受信した母親からのメッセージがあってそれを見た俺は思わず固まってしまった……何故ならその内容があまりにも信じ難いものだったからである。
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「……あのさぁ、いくら何でもそれはないんじゃないの?」「……うん、確かにそうだね……まぁでも母さんに悪気はなかったんだろうからあんまり怒らない方がいいと思うよ」「……それもそうだな、それよりそろそろ行くか……?」「……そうだね、いつまでもこうしてる訳にはいかないもんね」
そんなやり取りを経てようやく家を出た俺達はとりあえず電車に乗って目的地へと向かった――しかしその間に交わされた会話がほとんどなかった事から分かるように非常に気まずい雰囲気になってしまっていたのである。……その原因は恐らく、先ほど母親に送られて来たメッセージにあるのだろうが詳しい内容は見ていないので確認する必要があると考えた俺はひとまずその件について聞いてみる事にした。「……あのさ、さっき母さんがお前に送って来たメールの事なんだけど……」「うん?どうしたの?」「……いや、何でもない」
(これは明らかに何かありますって言ってるようなもんだろ……!!)そう思った俺はその後もしつこく尋ねてみた結果、観念したのか渋々ながらも教えてくれたのはいいのだがその内容を聞いて頭を抱える事となった――というのもなんと彼女の母親が送ってきた内容がミホ宛の内容だった上にそこに書かれていた内容というのが俺の妹であるはずのミナを恋人だと認識しているというものだったのだから驚かずにはいられない。
25「お前ってまさかとは思うけど本当にミナなのか……?」「……うん、そうみたい」「……マジか」「ちなみに今の私の名前、知りたい?」「ああ、一応教えてもらっていいか……?」「……わかったわ、教えてあげるね……私の名前は“マユ”って言うのよ、よろしくね」
そう言われたので早速、メモに書き込もうと思った矢先で電車が駅に着いた為、降りる準備を始めた俺が名前を呼ぼうとしたところでミホもといマユにそれを遮られてしまいしかも突然、キスをされてしまったせいで思考が停止してしまい何もできなかった俺に対し、彼女が微笑みながらこう言ってきた。「えへへっ、これで忘れないでね……お兄ちゃん♪」「――ッ!!な、なぁ……さっきのってひょっとしてお前の名前を忘れない為に……?」「そうだよ~♪だって私の本当の名前なんて誰も知らないんだもん」
「……そ、そうだよな……あははっ」「あ~、笑った~!そんなに変かな?」「いや、別にそういう訳じゃなくて……なんと言うか、その……凄く可愛かったからさ」「へぇ、可愛いって思ってくれるんだ?」「あ、当たり前だろ!だってお前は俺にとって大切な存在だし、何よりも恋人なんだから……」
それを聞いたミホ――改め、ミナは俺の胸元に顔を寄せながらこう言った。「……そっか、ありがとう……大好き、だよ……♪」「……俺も好きだぞ、愛してる……ずっと前からお前だけが欲しかった」
その言葉に対して嬉しそうにはにかむ彼女を愛おしく思い、つい抱き締めてしまったものの周囲の視線を集めてしまっている事に気付いた俺はすぐさま距離を取った後で恥ずかしさのあまり顔を真っ赤に染めている彼女の手を引いて急いでその場を後にした――その際、周囲から何やら声が聞こえてきたような気がしたが気にしなかったというより気にする余裕がなかったというのが本音だがそれ以上に幸せな気持ちで胸がいっぱいだったので些細な事はどうでもいいとさえ思っていたのだった。
26 その後、俺達は何とか目的にしていた水族館まで辿り着くとそこでゆっくりと時間を過ごす事になった。それから色々な魚を眺めている中で俺は彼女に話しかけた。「そういえばさ、今更だけど本当にいいのか?こんな日に俺と二人きりで過ごしたりなんかしちゃって……」「ふふっ、そんなの当然じゃない……だって私はあなたの事が好きなのだから、大好きなあなたと過ごす時間がどれだけ素晴らしいものかあなたなら知っているでしょ?」「あぁ、そうだな……その気持ちはよく分かるよ、俺だって同じだからな」
その言葉に頷いた彼女はこちらに目を向けるなりこう言ってきた。「やっぱり貴方は優しいね……そういうところ、好きだよ」
そう言われて恥ずかしくなった俺が頬を掻く仕草を見せるとクスクスと笑った後で再び視線を水槽に向けたかと思うと今度はこう言った。「私、海って実は見た事がなくて憧れてたのよね~だからこうやって直接見られるようになる日が来るなんて思ってなかったから何だか嬉しくてたまらないの!」「ははっ、そりゃよかったな……にしても、そこまで喜んでもらえるとは思わなかったけどな……」
そんな事を言いつつふとある事を思いついた俺は彼女にある事を提案してみる事にした――それを聞いた彼女が賛成の意を示してくれたのでさっそく移動しようとした俺はここでちょっとしたトラブルに巻き込まれてしまう事となる……というのはどういう事かというと、この水族館では一部の区画が期間限定で夜間営業を行っており、今はその時期だったのだがそれが運悪く休日にあたっていたらしくカップルばかりが集まっていたのだ。
(クソっ、マジかよ……これじゃ身動き取れないじゃねぇか……!)そんな事を考えながら内心で毒づいていると急に声をかけられたので振り向くとそこに居たのはカレンの姿であった……そしてそれと同時にミホことマユから物凄い睨まれた気がしたもののすぐに笑顔になったかと思えば手招きをしてきたのでそれに応じて近寄ると何故か小声で話しかけてきた。「お兄さん、奇遇ですね?こんな所で会えるだなんて思ってませんでしたけど……」「え……?いや、それよりも一体、何の用なんだ……?」「はい、実はお兄さんを探していたんですよ~」「俺を……?」「ええ、そうですよ……ちょっと大事な話がありまして……今からお時間は空いていますか?」「それは……まあ、特に何もないけど……」「良かった、それでは今すぐ行きましょうか……あちらの方に休憩スペースがあるのでそちらでお話させてもらえれば……」
そう言って指差す先にあった建物を見た俺は思わず絶句してしまった……何故ならそこは男女の出会いの場として活用されているホテルであり更にその中でも一番人気の場所で部屋数が極端に少ない場所だったからである。
27「な、なあ……あそこに入るのか?」「はい、もちろんそのつもりですが……なにか問題でもあるんですか?というか早くしないと他の人に取られてしまいますよ?」「そ、そうだけどさ……」「ほら、何をグズグズしているんです……行きますよ!」「うわっ、ちょ、ちょっと待て……!」
そのまま強引に手を引かれて連れて行かれた先で受付を済ませた後で案内されたのはいかにもという感じの部屋でそれを見た瞬間、一気に緊張感が高まったのでどうしようかと考えていた時、不意に声をかけられた。「どうしたんですか?そんなところに立っていないでさっさと座りませんか?」「あ、ああ……そうだな」「それでお話なんですが……」
28「あの、そろそろいいですか……?」「へ?な、何が……ですか?」「ですから私と付き合ってほしいんですけど、どう思いますか……?」「えっと、その……それは、あの……ほ、本気で言っているんだよな……?」「もちろんです、そうでなければこんな所に来たりはしませんからね……それとも、他に好きな女の子でもいるんですか?」「い、いや、そんな事はないけどさ……ていうか、あの……なんで、いきなり告白をしてきたりしたの……?」
その問いかけに対してミホ(の姿をした誰かさん)が恥ずかしそうにモジモジしながら答えるには以前から俺の事を好ましく思っていたそうだが今日に限って予定が合わなかった事もあり、どうしたものかと思っていたら偶然、俺の事を見つけたというのでその行動力に関心する一方、どうしてここまでの事をするのかが分からなかったのだがその理由を聞いたところ驚きの答えが返ってきた。「……それは、私がミナちゃんだからです」
そう言われた瞬間、思わず思考が停止してしまったもののすぐに我に返ると慌てて聞き返す事にした――何故ならその言葉が俺の記憶の中に存在しているある少女の名前と全く同じだったからだ……とはいえさすがにそれだけではまだ信じられないと思った俺はもう少し詳しく聞く事にして質問を投げかけてみた結果、とある事実が判明したのである。「……まさかお前がミホだなんて思わなかったな……それにしてもミナもミナだけどミホの方もなかなか大胆な事をしてくれるもんだな……」
29「そうですか?別にこれくらい普通だと思うのですが……」「いやいや、普通はこういう場所に来る事はないから絶対に違うからな!?」「へぇ、そうなんですか……ですがそれなら今日はなぜここに居るんでしょうか?」「そ、そりゃああれだよ!せっかくここまで来たんだし色々と見ておきたいって思ったからさ……!」「なるほど、確かに一理ありますね」
俺の言葉に納得したらしい彼女が小さく頷いているとその様子を見ていた俺はある事を考えていた――というのも先程からこちらの様子を伺っている複数の気配が気になって仕方がなかったからである。(う~ん、さっきから妙に視線を感じて落ち着かないんだよなぁ……まぁ、多分ミホと一緒にいるせいで変に目立ってるだけだろうけどさ)そんな風に考えているうちにようやく用事が終わったらしい彼女の呼びかけによって意識を戻した俺はその後で少し話をしようという事になったので一緒に外へと向かう事にした……その際に何故か手を繋がれた上に身体を密着させられてしまい緊張していた俺だったが何とかそれを表情に出さないようにしつつ外に出るなり近くのベンチへと移動したところでこう話しかけられた。「……ねぇ、これからどこか行きたいところはありますか……?」「うーん、そうだなぁ……お前と一緒に過ごせるならどこでもいいけど」「そ、そうですか……じゃあ、私の家に来ますか?」「えっ!?それって、つまりはそういう事だよな……」「ち、違いますよ!普通に遊ぶだけですってば!」
顔を真っ赤に染めて抗議するミホの様子を微笑ましそうに見ていた俺はそこでふと思った事があったので尋ねてみることにした――その内容とは“今の彼女の身体ってどうなっているのだろうか”という事だった……というのも今までの流れからして間違いなく俺が好きになった相手になっているのは間違いないはずなのだが、どうしても確信が持てなかったので思い切って聞いてみたのだ……すると彼女は少しの間、考え込んだ後でこう言った。「……そうですね、今ならいいかもしれないですね……」「へぇ、そうなのか……ちなみに今はどういう感じなんだ?」
その問い掛けに対して意味深に微笑むだけだった彼女を見て期待半分不安半分な気持ちになった俺はそれから彼女についていく形で歩き始めた……やがて到着した目的地というのは高級マンションの一室だったのだが中に入るなり驚いたのは内装だけではなく室内に置かれているものまでもが高級品ばかりで埋め尽くされていた事に気づいた俺が思わず固まっていると彼女が笑いながらこう言って来た。「ふふっ、どうですか?凄いでしょう……この部屋は私専用の部屋なんですよ♪」
30「へぇ、そうなの……ってそうじゃなくて何でこんなに豪華なんだよ!?」「あら、おかしいですか?」「いや、別におかしくはないけどさ……もしかしてこれ全部自腹なのか?」「えぇ、そうですよ……だってここは私の家なのですからお金なんていくら使っても構いませんよね♪」「……マジで言ってるのか、それ……」「はい、本気ですよ~、なんなら後で実際に見て回りますか?」「い、いいのか……?」「もちろんです、その代わり私も同行させてもらいますけどそれでも良ければどうぞ♪」「……分かった、それでいいよ……」
その言葉に頷きつつも彼女の後に続いた俺はリビングだけでなく浴室や寝室といった場所を順番に見て回っていった……その際、ミホが嬉しそうに解説をしている姿を眺めていた事ですっかり忘れていた事があったのを思い出した俺はそれについて尋ねる事にした。「そういえばさ、結局俺の身体の方についてはどうなったんだ……?やっぱりお前の彼氏になっていたりするのか……?」「え?いえ、それはまだ分かりませんけど……あぁ、なるほど……」「な、なんだよ、その顔は……何か心当たりでもあるっていうのか?」「いいえ、そういうわけではないんですけど……もしかしたらそうかもしれませんね……とりあえず確かめてみましょうか?」「え?確かめるってどうやって……?」「それはもちろん、その身体に聞けばいいんです……というわけで、失礼しますね……んっ……チュッ……チュパ……んんっ……」
そう言うと彼女はいきなり俺に抱き付いてくるなり唇を押し付けてきたので一瞬、戸惑ったもののそれを受け入れる事にした――その結果、舌が絡まる感触とお互いの唾液が入り混じる音が響き渡る中、次第に興奮してきた俺達は服を脱ぐのももどかしいとばかりに脱がせ合った後で初めて互いの裸身を目にしたのだがその時には既に股間がガチガチに硬くなってしまっていたためそれを見た彼女が妖艶な笑みを浮かべてみせた次の瞬間、急に抱きついてきたかと思えば強引に押し倒してくるなりそのまま馬乗りになってきたのである――そして更にそこから驚くべき展開が待ち受けていたのである。31「ちょっ、おまっ、何してるんだ……!どいてくれ……!」「あらあら~?もう我慢出来ないんですか~?仕方ないですね~」
そんなからかうような口調と共にズボンを剥ぎ取られそうになったので必死に抵抗しようとしたのだが何故か身体が動かない為、どうしようもなかった――しかもその間にも徐々に脱がされていき、とうとうトランクスだけの姿にされた時にはすでにほぼ丸見え状態になってしまっておりそれを見せつけるように腰を動かし始めたかと思うと不意に動きを止めた彼女はおもむろに自分の胸を揉み始めながら甘い声でこんな事を言い始めた。「……ふふっ、そんなに固くしちゃってぇ……かわいいんだからぁ……それにほら、私のここも触ってみたいんじゃないんですか……?」
32.「……なっ!?い、一体、何を考えて……うっ……!」
その瞬間、彼女の手によって大きくなった股間を撫でまわされるような感覚に襲われてしまったせいで妙な気分になってしまった俺が思わず呻き声を漏らしているとそれを見透かしたかのように耳元で囁いたミホがこう言い放ってきたのだ――それもまるで悪魔の囁きのように甘美な声で……「うふふ、そろそろ素直になった方がいいんじゃないですか……?本当は私を犯したくて仕方がないんでしょう……?このいやらしい身体を好きにしたいのでしょう……?」「そ、そんな事はっ……」
その問い掛けに対して必死で否定した俺を見た彼女が微笑みながらこんな提案をしてきたのでそれを聞いた俺は愕然としてしまったもののすぐに反論した――というのもその理由というのが“俺が彼女を好きだと思い込んでいる”というものであり実際には違うのだという事が分かっていたからである。「……どうやら本当に覚えていないみたいですね……それじゃあ今から教えて差し上げます……貴方は私を犯そうとしていたのですよ……その証拠にさっきからずっと私に興奮してましたし、今もこうやって勃ってるじゃないですか……」「くっ……うあっ……はぁ……だ、黙れっ……お前は黙ってろっ……!」
彼女の誘惑を拒絶する言葉を口にした瞬間、それが引き金となったのか急激に意識が遠のいていきかけたその時、いきなり誰かに頬を叩かれた事に気づいた俺は驚いて目を開けたところである事に気づいて驚愕すると同時に背筋が凍りついた――というのも目の前にいる人物が先程までとは全くの別人であったからに他ならないのだがその人物とはミナの事だったのである。32「……お前、どうしてここに……!?」
思わず叫んでしまった俺に向かって呆れたような表情を向けた彼女が溜息混じりに答える――その内容が以下の通りだった。「そんなの決まっているでしょう、貴方を止めに来たのよ!大体にして貴方がミホさんに好意を抱いているはずがないわ……それなのにどうしてわざわざ告白なんかしてるのよ!」「……え?」
その言葉を聞いて完全に思考停止状態になった俺が呆然と立ち尽くしているとその様子を見守っていた彼女がクスクス笑いつつ声をかけてくるまでしばらく時間が経った後、ようやく我に返った俺は慌てて謝罪すると今度は逆にミナの方が驚いたような表情を見せてきたがすぐにいつもの調子に戻った後で先程の事を追及されたくない一心で何とか誤魔化した結果、納得してくれたらしくその後は普通に話をしながら過ごしていたところで急に尿意を感じた俺はその場で用を足す事にした……ちなみにその際、トイレに行くと言った際にミホも一緒に行くと言って聞かずついて来ようとしたせいで焦ったもののなんとか宥める事に成功してホッとしたのだった……しかし、そこで思わぬ事態が起こったのだ。33「さて、これで邪魔者は居なくなったわね……さぁ、行きましょう……私達二人だけの楽園へ」「あ、あぁ……」
こうしてミホから解放されはしたものの不安が拭えなかった俺が戸惑いながらも頷くとそれを肯定と捉えたらしい彼女が笑顔で頷いてきたかと思えば俺の腕を掴んで歩き出すととある場所へと向かう事にしたのだがそこが何処なのか気になった俺は何気なく質問してみたところ返ってきた答えを聞いて戦慄する事になる。「……なぁ、今向かっている場所がどこか聞いてもいいか?」「えぇ、いいわよ!これから貴方の為の新しい住居となる場所へね♪」
その一言を耳にした俺は再び絶句したがそれと同時にある考えが頭を過ぎった……というのも以前、彼女と会話した際に聞いた事があるからである。
“確か彼女の家は大富豪の家だったはずだしその気になればいつでも引き払って住めるよな” そう考えに至った途端、嫌な予感を覚えた俺は慌てて彼女に声をかけた。「おい、待てって!」「どうしたのよ?そんなに焦って……まさか、私との同棲生活が嫌なのかしら……?」
不安そうにこちらを覗き込んできた彼女に対し首を大きく横に振った後でこう告げた――というのもこのままではマズイと判断したからなのだが当然、そんな事を言えるはずがなかったのである……とはいえこのまま沈黙していても何も始まらないと思った俺は咄嗟に思いついた事を話す事にするとそれをそのまま伝える事にしたのだ。34「……い、いや、別にそういう訳じゃないんだけどさ……ただ、お前の親御さんが心配するんじゃないかと思ってさ……ただでさえ突然、男を連れ込んだらビックリするだろうしな……」「あら、それは心配ないわ~、だって私は両親に一人暮らしをするって言っただけで彼氏ができた事とかまでは言ってないからね~」「なっ……!?」
予想すらしていなかった返答を聞いた俺は思わず絶句してしまう事となった……というのも今の彼女はどう見ても普通ではなかったからでありそれこそ人ならざる者の類にしか見えなかったからだった……その為、これ以上は何も言えずに口を噤んでいるとそこでふと我を取り戻した彼女がこんな事を口にした。「うふふ、そんなに緊張しなくても大丈夫よ……まぁ、確かに人間じゃないかもしれないけど私は至って正常だから安心して頂戴ね……それにしても意外と早く着きそうね……ほら、ここが今日から貴方が暮らすお家よ」「……は?」
彼女の指差す方向に目を向けた俺は思わず呆けた声を出してしまったのだがそれも無理はなかった……何故ならそこにあったのは俺が知っている限りではかなり有名な高級ホテルだったからだ。35「……お、おい、ちょっと待てよ、冗談だよな……?」
あまりにも予想外過ぎる展開に狼狽えながら尋ねると彼女がこう言って来た――「いいえ、冗談じゃないわよ……もしかして嫌だったりするかしら……?」「い、嫌とかそういう問題じゃなくてだな……」「それなら問題はないわよね……それとも何?私の彼氏になるのは嫌なの……?私じゃ不満って事なのかしら……もし、そうだとしたらショックね……」
そんな悲しそうな顔で言われてしまった事で罪悪感に駆られた俺は結局、断れなくなりそのまま一緒に部屋に入った後、改めて室内を見渡してみたもののそのあまりの豪華さに開いた口が塞がらなかった――何せ置いてあるもののほとんどが高価そうなものばかりでそれら全てを見る度に驚きを通り越して唖然とさせられてしまうほどだったのである。36「へぇ、この部屋はなかなか凄いな……っていうかこれ、本当に大丈夫なのか?何だか高そうだぞ……?」「うふふ、心配しなくてもいいってば、お金なんて腐るほど持ってるんだから♪それに今日はまだ泊まる予定もないからもっとくつろいでも平気よ……ほら、こっちに来なさい……優しくしてあげるからさ……」
そう言うとベッドに腰掛けていた彼女が手招きしてきたので仕方なく隣に腰を下ろすとそっと抱き寄せられる形となり互いの顔が触れそうになる距離にまで近づく事となったのだがその直後、頬に口づけをされた上、耳元で囁かれた言葉でゾクッとした感覚が全身を走り抜けたので堪らず身を竦ませてしまったところを見た彼女がクスクス笑った後、こんな言葉を口にする。「あらあら~、可愛い反応するじゃないの~♪やっぱり貴方も私の事が好きなのね♪」「なっ……!?な、何を馬鹿な事言ってるんだよ……!べ、別に俺はお前の事なんかなんとも思ってないからな……!」「嘘ばっかり~、じゃあどうしてこんなにもドキドキしちゃってるのか説明出来るっていうの?」「……それはっ……うぅ……」
言い返す言葉が思い浮かばなかった俺が口ごもっている間もミホは余裕のある表情を浮かべておりその姿を見ていた俺は内心で舌打ちをしていた――というのも先程からずっと股間が疼いて仕方がなかったからである。37(クソッ……何だよ、これっ……!こんなんじゃまともに話せる訳ないじゃないかよっ……それにさっきから胸が苦しいというかムズムズしてくるし……一体、どうなってんだ……?)
そう思い悩んでいたのだがふと視線を感じて顔を上げるとそこにはニヤニヤ笑っているミナの姿があった。38「ふふ、そんな顔をしちゃってぇ……本当は今すぐにでも私を犯したくて仕方ないんでしょう……?」「だ、黙れっ……お前みたいな女、誰が好きになるもんか……!」
彼女の言葉を聞いた俺は咄嗟に否定して見せるものの実際はその通りだったので思わず赤面してしまい顔を背けてしまったのだがその様子を目にした彼女が嬉しそうな表情を浮かべた後、更に追い打ちをかけてきた。「フフッ、恥ずかしがらなくてもいいのよ……貴方くらいの年齢だと普通は女の子に興味があるのが当たり前だもの……私だって最初は貴方と同じでそうだったしね……でもね、ある日、私が偶然見かけた男の人に一目惚れしてからその気持ちはどんどん強くなっていって……それでとうとう我慢できなくなった私は彼に直接会いに行ったのよ……もちろん、その時は凄く緊張したわ……だけどそのおかげで彼と知り合えたから今となっては良かったと思っているのよ……あ、そういえば貴方にはまだ話してなかったけど実は私、彼と一緒に住んでるのよねー、しかも彼は今、海外旅行中で当分帰ってこないのよ……ねぇ、これってどういう事か分かるかな?」「……えっ……?」
それを聞いて思わず言葉を失った俺を見た彼女が再びクスリと笑った後でこんな事を口にした。39「だからね、この意味、わかるでしょう?もういい加減観念して素直になったらどうなのよ……?そうすれば楽になれるかもしれないわよ?」「……くっ……」
それを聞いた俺が黙り込んでしまうとそれを見つめていた彼女がゆっくりと顔を近づけてくるなり唇を重ねてきた上で強引に舌をねじ込んできたせいでなす術もなく蹂躙されてしまった俺の意識は徐々に薄れていきやがて抵抗する気力さえ奪われていったところで彼女が囁くような声でこんな事を言ってきた。40「……それじゃあ、そろそろ始めようかしらね……」
そう言いながら着ていたワンピースを脱ぎ始めた彼女の姿を見て我に返った俺が慌てて顔を逸らそうとすると両手で顔を挟まれてしまい無理矢理に見つめ合わされてしまってからは最早どうにもならず彼女にされるがままの状態となってしまっていた……というのも既に体が火照って我慢が出来なくなってきていたのだ……とはいえ、いくら彼女でもいきなり挿入する訳にはいかないだろうと考えていた矢先、突然、服を脱いで生まれたままの姿になった彼女が抱きついてきた事でその考えが浅はかだった事を思い知らされる羽目となった。41「……さぁ、まずは下の方から舐めてみてちょうだい……その方が私もやりやすいから……」
そう口にしたミホの言葉に従って恐る恐る舌を伸ばすとそれが触れた瞬間に甘い声が漏れ出したのを耳にした瞬間、驚いてしまった俺は思わず顔を上げて尋ねようとしたがそれよりも先に彼女が口を開く方が早かった――何故ならその理由というのがこれだったのである。42「あら、どうかしたのかしら?そんなに驚いた顔をして……」「……いや、なんでもない……」「それならいいけど……あ、言っておくけど途中で止めちゃ駄目だからね?……ちゃんと最後までやるのよ……?」「わ、分かってるって!それくらい言わなくても分かってるさ……!」
慌てて答えた後で改めて舐め始めるとその感触に反応するかのように彼女が身悶えし始めたのを見て驚きながらもなんとか続けていくうちに慣れてきた事もあり次第に楽しくなってきた俺は調子に乗って大胆になってみる事にした――とはいえ、さすがに局部にまでは手を伸ばさなかったがその代わりとばかりに胸を揉みしだいてみると今度は小さく喘ぐ声が聞こえてきた上に心なしか彼女の表情が緩んでいるように見えなくもなかった事からもしかしたらと思い試してみる事にする――43「……なぁ、気持ちいいのか?」「えぇ、そうね……とってもいいわ……でも、まだまだ物足りないからもっともっと気持ちよくさせてね♪」「そうか、わかった……」
どうやら気に入ってもらえたらしいと判断した俺は胸への責めを続けながら空いている方の手で彼女の太股をさすったりしていると彼女がまたしても体を震わせたのでもしやと思いそこに手を這わせて見ると予想通りそこは濡れているようでそれを見た途端に興奮してきてつい夢中になってしまいそのまま指を動かし続けていると不意に声を掛けられた。44「んっ……ちょっとストップしてもらえるかしら……?」
そう言われてハッと我に返るといつの間にか自分の世界に入り込んでいた事に気付いて恥ずかしくなってしまうのだった――というのもまさか自分でも気付かない内に彼女の身体に夢中になってしまうとは思ってもいなかったからだ……そんな事を考えている間も彼女は顔を赤らめながら息を荒くしておりそれを見ているうちに我慢出来なくなった俺はついに最後の一押しとして今まで触れていなかった部分に触れてみる事にする。45「なぁ、そろそろ挿れてもいいよな……?」「え、ええ、いいわよ……私の中に来てちょうだい……」
そんなミホの了承を得た後、すっかり準備万端となっていたそれをあてがう形でゆっくりと入れようとしたのだが先端が入った途端、急に締め付けられてしまった為、痛みに顔を顰めているとその様子を見ていた彼女がある事を教えてくれたのである――その内容とはなんと初めてである場合は痛いのが普通なのでなるべくリラックスする事だというので早速言われた通りやってみる事にしたのだ。46「ふぅ……よし、これで大丈夫なはずだ」「ありがとう、貴方の優しさに感謝してるわ……それとその調子ならすぐに慣れそうだからそのまま続けてくれるかしら……?」
彼女の提案を聞いた俺は頷いてみせるとそこから一気に奥まで入れてみると何かを突き破るような感触がした直後、結合部から血が滲み出てきたもののそれに構わず腰を振り続ける事で遂に根元まで入った事でひとまずホッと安堵したところで一旦動きを止めたところである違和感を抱く事となった。47「……なぁ、一つ聞いてもいいか?」「あら、何かしら?」「……なんで処女じゃないんだよ?普通、初めてだったら痛みを伴うはずだろうに何でそんなに余裕でいられるんだ……?もしかして他の奴にも経験があるのか?」
それを聞いた彼女がクスリと笑い出すなりとんでもない事実を口にしてみせたので驚きを隠せなかった俺が何も言えないままでいるとそんな俺に彼女がこんな言葉を掛けてきた――それもまるで悪魔のような口調でだ。48「うふふ、知りたいかしら?貴方が想像している通り、実は私の初体験は既に終わってるのよ……相手はもちろん彼でね、だから今のは私にとっては初めてじゃないんだし平気なのは当たり前なのよねー♪っていうかそもそも貴方は勘違いしているようだけれど私が今日、こうして誘ったのは何も彼に会えなかったから寂しいとかそういう事ではないから変な勘違いはしないでね?」「そ、そうなのか……?まぁ、お前がそう言うのならそれでも構わないんだけど……」「ふふ、そう言ってもらえると助かるわね♪」
その言葉にホッとした俺が再び腰を動かし始める事数分後、限界を迎えた俺達はほぼ同時に果てた後で疲れてしまった体を休ませる為にベッドで休んでいたのだがその時、彼女がこんな言葉を口にした。49「それにしても貴方って見かけによらず凄い体力の持ち主よね……これは私も少し見習わないと駄目かもしれないわ……でも私としてはこういう事は毎日したいと思ってるの……ねぇ、もし良かったらまた相手をしてくれないかな……?」「い、嫌だよ、そんなの……疲れるだけだしな……それよりそろそろ帰らないと……今日はもう遅いから泊めてもらえて助かっ……あっ……!」
ふと時計を見ると午後9時を過ぎていたのを見た俺は慌てて帰ろうとしたのだがそんな彼女に引き止められてしまい困惑してしまう事になったがその直後、こう告げられてしまう事になる――それは次からはホテル代は全部自分が負担するので自宅で行為を行うという申し出であった――そして彼女が言うには自宅の方が防音設備もしっかりしている上に広さもあるので色々なプレイが出来るので良いという事だった――それを聞いた俺は悩んだ末に承諾してしまった事で後日、ミホの家で続きをやらされる事になるのだったがそこで俺は更なる試練を強いられる羽目となったのだった……50「……はい、じゃあ次の命令ね……今から私を抱き締めながらキスをしてちょうだい……」
そう言いながら両手を広げた彼女を黙って見つめていた俺だったのだがいざ抱き寄せるようにして背中に手を回すと同時に顔を近づけるとそのまま口付けを交わし、それを繰り返している間に段々とエスカレートしていった結果、最終的に互いの舌を絡ませ合うほどのディープキスへと発展していくのを肌で感じながら内心でこんな事を呟いていた。51「……フフッ、ようやく私好みになってきたみたいね……これからもっともっと楽しませてもらうわよ……これからもよろしくね、ご主人様♪」
そう呟きながら笑みを浮かべた彼女から頬に軽くキスをされた俺は思わず顔を赤らめながらも何とか平静を保ちつつ心の中では早く終わらせたい一心で考えていた――というのもこの後のミホの提案が予想以上のものであったからだ。52「さぁ、次はこの衣装を着てもらおうかなー、あ、もちろん拒否権はないわよ?私が選んだんだから文句はないわよね……?」
その言葉と共に押し付けられるようにして渡された紙袋に入っていたものを取り出した瞬間、思わず言葉を失ってしまう事になってしまった……何故なら入っていたものは所謂バニーガールの衣装だったからである――そう、あの有名なアニメのアレだ……つまり、これを着ろという事なのである……とはいえ、ミホの命令に従わなければどんな仕打ちを受けるかわかったものではないと考えた俺は諦めて覚悟を決めると着替えを始める事にしたのだった。53「ふふっ、中々似合うじゃない?それじゃあさっそくお酌をしてもらおうかしら……あ、勿論、手を使ってはいけないから口でお願いね」「……あぁ、わかった……」
そうして指示に従った上で飲み終えたところで今度は逆らう事なく床に寝そべった後でズボンを脱ぐように言われた俺は言われるがままにすると露わになった男性器を見た彼女がこう言った――どうやらこれが欲しかったようだ。54「フフッ、美味しそうなおちんちんだわ……まずは舐めてあげるわねー」
嬉しそうにそう言ったミホはいきなり咥え込んできたかと思えばジュルジュルと音を立ててしゃぶり始めたのだがその動きに合わせるかのように快感を覚えた俺の体がビクンッと跳ねたのを見て彼女は嬉しそうな表情を浮かべるなりますます激しく吸い立ててくるようになる――その刺激に耐えられなくなった俺が我慢出来なくなった結果、彼女の口内へ欲望を解き放ってしまったところ大量のそれを全て飲み干した彼女は満足げな表情を見せた後、俺を立ち上がらせるとそのままベッドに押し倒した後に覆い被さるようにしながらこう囁いた。55「さて、そろそろメインディッシュといきましょうかね……その前に少しだけ休憩しておきましょうか……あ、ちなみに言っておくけど抵抗したり逃げようとしたら許さないわよ……だって私はそういう事をされて喜ぶ人だから……わかるでしょう?」
その言葉を受けて身震いしてしまった俺はもはや抵抗する意思を完全に失っただけでなく完全に魅了されてしまったらしく彼女に服従するかのように自分から求め始めていたのだった……そしてその日を境に毎日のように彼女の家へ行くようになった結果、その度に様々な事を経験する羽目になったりする事になったのはまた別の話となるのだがそれとは別にここでひとつ重要な事を言っておかなければならない――というのもどうやら彼女は既に俺と関係を持つ以前から別の人間と交際していたらしいのだ……しかもその事実を知っているのは俺だけなのだという事を知った俺はショックを受けたがそれ以上に驚いた事がある。56「ねぇ、もう我慢できないよー!早く私の中に入れてー!」
そんな叫びを聞いた俺はすぐに彼女の女性の部分を指で広げてやるとそこへ挿入するや否や凄まじい締めつけに顔を歪めてしまったが同時に強い快楽を覚えてしまい夢中で腰を振ってしまうのだった――そしてそれからしばらくしてついに限界を迎えた俺達は同時に絶頂を迎えて果ててしまうと疲れ果てたのかそのままぐったりとしてしまった――だがその様子を見ていたミホは笑みを浮かべていたのだ。57「……うふふ、これでお互いが満足したみたいね♪さて、次はどうしようかなー?」
楽しそうに笑う彼女の様子を見ていた俺もまた同様に笑みを浮かべるとそのまま二人揃って眠りにつく事となった――というのも翌日もまた彼女とデートをする事になっているからなのだ……とはいえ別に付き合っている訳ではないので正確には『ごっこ』なのだがそれでも俺には嬉しい時間なので断る理由もなく二つ返事で受け入れたのだ。58「……あーぁ、なんかつまんないなぁ……でも、仕方ないよね?これもあの子の為なんだし我慢しておかないと……」
そんな事を口にしながらも本当は不満そうな様子を見せている彼女の元へ一人の女性が姿を現した――その人物はミホが勤めているメイド喫茶の店長だった。59「……失礼します、オーナー様、ご相談があるのですが宜しいでしょうか?」「ええ、いいわよ……それで何の用件かしら?」
それを聞くと途端に真剣な表情を浮かべた女性はゆっくりと話し始めた……それを聞いた彼女も表情を強張らせた事でその真剣さが窺えたがその内容は驚くべきものだった。60「実は先程、お客様から聞いたのですがとある人物から依頼がありましてね……詳しい事はここでは話せませんがとても大切な事だからぜひ貴女の力が必要なんですって仰っていましたわ」「あら、そうなの?それなら早速行ってみようかしら……」
彼女の言葉に頷いた女性が詳細について話し始めてくれたところを聞いたミホがニヤリと笑みを浮かべた事など知る由もなかった……その後、支度を整えた彼女は仕事が終わると同時に例の店へ向かいそこで待っていた相手と会う事になった……そう、今回の依頼主である。61「初めまして……貴方が私の依頼を受けてくれると聞いたのだけど本当なのかい?」
その男に対してミホが答えるよりも先に口を開いた彼女が答えた。62「はい、そうですよ……貴方様が困っている事はわかっていますからすぐに協力しますよ」「ありがとう、恩に着るよ……でもどうやって協力してもらえればいいのかなぁ……?」「心配には及びませんよ、貴方にはとっておきの手段がありますから……」「え、それは一体何なのかな……?」「それはですね……貴方の好きな方を私達の仲間にするんですよ……そうすれば全てが解決しますから♪」
それを聞いた彼は驚きのあまり固まってしまったがそんな様子を見て彼女がクスクスと笑い出したところで我に返った男が慌てて詰め寄るとこう尋ねてきた。63「じょ、冗談ですよね……?僕の好きな人を仲間にするなんて……そんなの嫌ですよ……!」
そんな彼の様子を楽しげに見ていたミホは更に挑発するような言葉を口にする――「あら、本当に嫌なのかしら……?よく考えてみなさい、その人を手に入れた時の方が色々と楽しめるとは思わない?例えば夜の生活でもっと色々なプレイが出来ますよ……例えばそうですね、緊縛なんてどうですか?きっと貴方なら興奮すると思うのだけれど……」「うっ、うぅっ……」
彼の言葉によって想像してしまったミホの口元が思わず緩んだ瞬間、それに釣られたかのように彼の下半身も大きく反応を示した――それを見た彼女がクスリと笑う中、彼が息を荒くしながら興奮気味に言った。64「ぼ、僕、やってみます……!絶対に彼女を手に入れてみせますから、お願いします!」「あらあら、随分とやる気になったようね……いいわ、そういう事でしたら特別にお力添えをして差し上げましょう……それではこれをどうぞ、上手く使ってくださいね」
そう言って手渡された紙袋の中には男性器の形をした物体が入っており、それを手に取った彼がゴクリと喉を鳴らしながら凝視しているとそれを目にした彼女が意味深な笑みを浮かべたまま囁くような声でこう言ってきた。65「……これは私が使っている物と同じものです……もし気に入ったら私としても大歓迎ですからいつでも連絡して下さいね……」「あ、ありがとうございます!頑張りますよ……!」「うふふ、期待しているわね♪」そんなやり取りを交わした後に別れを告げた男は帰宅してからすぐさま寝室に向かうなりベッドへ腰かけるなり徐にズボンを脱ぎ始めた後で男性器を取り出したのだがその瞬間、ある事に気付いた……それが本物ではないという事に――そう、これはあくまでも作り物であるため大きさや形が異なっている事に疑問を持ったのだ――66「もしかして何か仕掛けでもあるのかな……でも、まさかそんな筈はないだろうし……うーん、気になるな……」
悩んだ末に好奇心に負けてスイッチを入れたところそれは振動し始めた事から驚いた彼だったがその時、不意に頭の中にミホの事が浮かんできた。67「あっ、ミホさん……」「ねぇ、今どんな事を考えているのかしら……?」「えっ!?ど、どうしてミホさんがここに!?」「フフッ、簡単な事じゃない……私は貴方の心の中に存在しているのよ……つまりここは貴方の心の中って事……つまり私の存在を受け入れれば何も問題ないと思わない?」「……はい、わかりました……それじゃあ遠慮なく入らせてもらいます……」「えぇ、そうしてちょうだい」
彼女がそう言うと突然視界が真っ白になったかと思うといつの間にかベッドの上で仰向けに寝かされている状態になっていたのだがその状況を理解した直後に目の前に立っている人影を見て思わず息を呑んだ――何故ならそこにはメイド姿のままのミホが立っていたからだ――そしてそれと同時に気付くのだった……これこそが自分の望んでいたものだと……68「うふふ、どうかしら……?こういうのが欲しかったんでしょう?」
そんな彼女の言葉に対して首を縦に振った彼が恍惚とした表情で見つめ続けているとそれに気付いた彼女がそっと手を差し伸べてくるなりこう告げてきた。69「それじゃ、まずはキスしましょう……その後は貴方の好きなようにしていいから」
それを耳にして小さく頷いた後、ゆっくりと目を閉じた彼と唇を重ねると互いに舌を絡ませ合う……暫くして唇を離した後で今度は首筋へと舌を這わせていった彼女は胸元が見えるように服をたくし上げた上で胸を覆うカップを取り外すと露わになった胸を優しく揉み始めた……すると次第に先端部分が固くなっていった事を確認した彼女がそこへ吸い付き始めるのだが、それに対して感じたのか甘い声が漏れ出してきた――どうやら感じ始めているようだ。70「あ、あぁんっ!そ、そこはだめぇっ!」「……あれ、おかしいわね……貴方は男でしょう?それなのにこんなに可愛い声を出して恥ずかしくないの?」「うぅっ、ごめんなさい……だけど気持ちいいからつい……」「全く、仕方ない子ね……そんなに気持ち良くなりたいのなら手伝ってあげるわ」「あ、ありがとうございま……うぁっ!き、気持ち良すぎるぅ!」
彼女の言葉を嬉しく思った矢先、再び強く吸われたせいで思わず声を漏らしてしまったところそれを聞いて微笑んだ彼女がこう言った――「ねぇ、今の気持ちを言ってみて?ほら早く言いなさいよ……」「……は、はい……凄く気持ちが良くて最高です……」「ウフフ、そうでしょう?……さて、次は下の方を触ってあげましょうかね……」「えっ、それは流石に恥ずかしいので自分でやりますよ……」「……いやよ、私がやるわ……だって貴方には色々と教えないといけなさそうだからね……」
そう言いながら強引に脱がせると露になった男性器へ手を伸ばして触れようとするものの触れた瞬間にビクンッと震えたそれを見て面白がったミホがそのまま扱き始める――初めて味わう快楽に酔いしれた彼が情けない声を何度も上げていくうちにあっという間に果ててしまったのだがその様子を見ていたミホは小さく溜め息をついた後で彼を起き上がらせるなりこう言った。71「まだこれからなのにだらしないわよ?ちゃんと最後までやってもらわないと困るんだから……」「す、すみません……もう大丈夫ですから」「……ふぅん、まぁ良いわ……それにしても大きいわね……こんなのが私の中に入ると思うとゾクゾクしちゃうわ……」「えっ、それってどういう……」「さて、それは秘密……それよりそろそろ挿れさせてもらおうかしらね……」
そしてベッドに横たわったミホの上に覆いかぶさるような格好となった彼は自分の男性器を掴んで位置を調整するなりゆっくり腰を落としていった彼女の中へ挿入すると同時にお互いに強い快感を覚えてしまい二人揃って大きな声を上げてしまう――そんな中で先に動いたのはミホの方だった。72「はぁ、はぁ……ま、まだまだいけるわよね……?も、もっと激しく動いても構わないわよ……?」「あ、ああ……わかったよ……」「ふふ、いい子ね……それじゃ、いくわよ……あんっ、凄いわぁ……!貴方の物が私の中を掻き乱してるぅぅっ!」73「だ、だめだ……!我慢出来ない……!」「え、ちょ、ちょっと何するつもりなの……きゃっ!?」
限界を感じた彼が彼女の両足を持ち上げた状態で抱えた直後、勢いよく振り下ろした事で結合部から愛液が飛び散ると共に二人の身体がガクガクと震える……そしてその直後、絶頂に達した二人がほぼ同時に声を上げるのだった――しかしそれで終わる事なくその後も続けて二人は行為を続けた結果、気付けば朝を迎えるまで続いていたのだった……そしてその翌朝の事、目を覚ましたミホの元へ一人の男がやってきたところで物語は始まったのである――
第一章「出会い」
「おはようございます♪今日も早いですね」
「お、おはよう……ミホさんも随分早いですね……」「うふふ、そうですかぁ?でもこうして二人で会えるのって楽しいですから早起きするのも悪くないかなって思いますよ」「……そ、そうですか……」
それからというもの毎日のようにデートを重ねるようになった二人だが日を追うごとに親密さを増していたある日の事、この日もまた二人きりで過ごしていたのだがふと視線を感じたミホが周囲を見渡すが辺りには誰もいない事を確認すると不思議そうな表情を浮かべながら彼にこう尋ねた。74「どうしたんですか?キョロキョロしてますけど何か探し物ですか?」「い、いえ……別にそういう訳じゃないんですけど誰かに見られているような気がしたんです……僕の勘違いかもしれませんが……」
彼の言葉を耳にした彼女が周囲を見渡してみるもそれらしい人物の姿は見当たらなかった為、首を傾げる中である事に気付いた彼は少し考える素振りを見せてからこんな事を口にした――「実はこの仕事に就いてからたまに気配を感じるんです……それも僕一人しかいない時に限ってだから気のせいかもしれないですが一応伝えておこうかなと思いまして……」「なるほど、そういう事でしたか……そういう事でしたら私に任せてくださいな」「えっ、どういう事なんですか……?」「うふふ、今は気にしないで大丈夫ですよ~……それよりも今日はこの後どうするんですか?良ければまた一緒に何処か行きませんか?」75「そうですね……それなら最近出来たというケーキ屋に行きませんか?僕も一度行ってみたかったんですよね~」「……わかりました、じゃあそこにしましょうか」
それからしばらくして目的の店へと辿り着いたのだが人気店のようで席が埋まっている状態だった事から店内を見て回る事にした二人はそれぞれ好みのケーキを注文すると窓際にある席を選んで座った――やがて運ばれてきたスイーツを口に運びつつ談笑していた二人だったがふと何かを思い出したように口を開いた彼の話を聞いた彼女は不思議そうに首を傾げた。76「そう言えば僕が仕事をしている理由ですけど聞きたいとか興味はありませんか……?」「……そうですね、少しだけ気になります……もし宜しければ聞かせてもらっても良いでしょうか?」「もちろんですとも!ただ一つだけ約束して欲しい事があるんですが構いませんか……?」「ええ、勿論ですよ」77「……ありがとうございます!それでは早速話しますね!実は僕、将来お店を経営したいと思ってましてその為に色々な勉強をしている最中なんですよ」「……へぇ、そうだったんですね」
彼がそう言うと嬉しそうに頷くミホを見てホッとした表情を浮かべた彼は話を続ける――「とは言ってもまだ学生の身なので具体的に何をしたいかと聞かれると困りますけど将来的にやりたい事ではありますね……そして僕はある夢があるんですよ」「そうなんですか、一体どんな内容なんでしょうか?」「それは……自分の店を持ってそこで働きたいという夢です」「……ほぅ、ちなみにお相手は決まっているんですか?」「もちろん!何故ならその人はミホさんですからね!……というのは冗談で……あははっ、すみません変な事を言ってしまって……やっぱり迷惑でしたよね……?」「いいえ、とても嬉しいですよ。むしろそう言ってもらえて凄く嬉しいです……」
そう答えた彼女が満面の笑みを見せるとそれを見た彼も嬉しくなったらしく笑みを浮かべたまま見つめ合う形となった――その時、背後から近付いてくる人の気配に気付いた二人が同時に視線を向けるとそこにいたのは一人の女性でありその女性がミホに向かってこんな言葉を投げかけた。78「……ねぇ、今ちょっといいかしら?話したい事があるんだけど時間取れる?」「はい、いいですよ。私もちょうど貴方に用事があったので好都合ですし……ね?」「……え?それってどういう……」「……さぁ、何の事でしょう?では行きましょうか♪」
笑顔で答えるなり彼女の手を引いて歩き出した女性の後を追う形で歩き出すとそのまま近くにある公園へとやってきたのだがその間、一言も会話する事がなかった彼女はようやく立ち止まると振り向きざまにこう言った。79「いきなりだけど本題に入るわね……率直に言わせてもらうけど私は貴女の事をずっと前から知っていたわ」「……どうして知っているんですか?私の個人情報は極秘扱いになっている筈なんですが……」
その言葉に思わず警戒の色を強めた彼女だったのだがそんな彼女の様子を見た女性は苦笑しながら首を横に振るとこんな事を口にした。80「別に危害を加えるつもりなんてないから安心してちょうだいな……私が知りたいのはその訳であってね……まぁ、大体予想がつくとは思うけど恐らく貴方を狙っている連中が関わっているんでしょう?」「……そこまで分かっているのなら隠していても仕方ないようですね……仰る通りです」81「なら私が来た理由も分かるわよね?」「私を監視していたって事ですよね……理由はどうあれ今まで黙っていた事に対して謝ります、申し訳ありませんでした」「……そうね、確かに謝るべきでしょうね……でもね?貴方が思っているような謝罪はいらないのよ」「えっ、それはどういう……」82「だって最初から許すつもりでいたからね……でもまさかこんなに可愛らしい娘だとは予想外だったけど嬉しい誤算だったわ……」
そんな事を口にしながら彼女に抱きついてきた女性の姿を見て呆然となるしかなかった彼女は暫くしてから慌てて離れるように促したもののそれを拒否されてしまったので仕方なく抱きつかれたままになっていたのだがふと何かに気付いた様子で周囲を見渡した彼女がこう言った。83「あの、そういえばあの人は何処へ行ったんでしょうか?てっきり近くにいるものだと思っていたんですけど姿が見えないんですが……」「あぁ、あいつならもういないわよ……ほら」84「……うぇぇぇ!?」85「嘘だと思うなら確認してみなさいな……まぁ信じられない気持ちはわかるけどね」「えっ、何で!?もしかしてあの人の身に何かあったという事でしょうか……?」「心配しなくても大丈夫、あれはただの人形だからね」86「へっ?……あ、本当だ……いや、しかしどうしてこんな事に……?」「あら、知らないのかしら?ここは人払いをした空間の中なのよ……その証拠に周りの人間は私達の存在に気付いてすらいないじゃない」「こ、ここがですか……?何だか急に不安になってきたのですが……それにさっきから妙に静かすぎません?」87「それは当然ね、そういう風にしているんだから……それよりそろそろ良いんじゃないかしら?」「え、何がですか……?というか近いですって……!ちょ、ちょっと何してるんですかぁ!」
距離を縮めてきた女性に慌てた彼女が突き放そうとするも力が強くてなかなか離れる事が出来ず焦りを募らせているとその様子を眺めていた彼女が笑みを浮かべながらこう口にした――89「……ふふ、そんな可愛い反応をされたらもっと虐めたくなっちゃうじゃない……ほら早く逃げないと大変な事になるわよ?こんな風に……♪」「……ひっ、ひぇぇぇ!?」90「ふふっ、相変わらず可愛い反応を見せてくれるわね……さて、このまま一気に頂いちゃおうかしら……♪覚悟はいい?なんて、今更聞くまでもなかったみたいね……それじゃ、いただきま~す……あむっ」「ふえぇっ……やぁっ……だめぇ……はむぅっ……」93「……ぷはぁ、ご馳走様♪どうだったかしら私の舌使いは……気持ち良かったでしょう?」94「……はふぅ……」「……って、気絶しちゃったの?しょうがない子ねぇ……でもそういう所も可愛くて大好きなんだけどね」95「んにゃぁぁ……!」「――ッ!!ハァハァ……ゆ、夢だったのか……」「……うぅ……さ、寒いよぉ……」
突然飛び起きたミホが自分の格好を確認してみると何も着ていない状態で眠っていた事を知り慌てて辺りを見渡したが特に誰かがいる様子はなかった為、安堵の溜め息をついた後で服を着替える事にした彼女はふと先程まで見ていた夢の内容を思い出したところで何故か下腹部が疼き始めたのを感じた彼女は小さく溜め息をつくとこんな事を思った――「夢の中で感じていた感覚が未だに残っている気がする……これはどういう事なの……」96「……あっ、やっと起きましたね。おはようございます」「お、おはようございます……あの、少しお聞きしたい事があるんですけど良いですか?」97「ええ、勿論構いませんよ」「その……先程から身体が疼くんです……もしかしたら風邪を引いたのかもしれないんですが心当たりはありませんか……?」「うふふ、そういう事でしたか……実はですね、さっきミホさんが寝言で私の名前を呟いていたんですよ」98「……へ?それってつまりどういう事なんですか……?」
突然のカミングアウトに動揺した様子の彼女に向かって意味深な笑みを見せた彼女がこんな事を口にする――99「実はさっきまで貴女と話していた女性というのは私の仮の姿で本当の私はこういう者なんですよ……と言っても信じてもらえるかどうか分かりませんけど……どうです、これで納得してもらえましたか?」「……えっと……ごめんなさい、まだちょっとよくわからないかもです……」100「そうですか……ならもう少し分かりやすい言い方をしましょうか――ミホさん、私と一緒に楽しい時間を過ごしましょう♪」
こうして、この日を境に彼女との生活が始まる事となった――「今日は一緒に何をしましょうか……あ、その前に先に朝ごはんにしちゃいましょうか、今から作りますから待っててくださいね……よいしょっと、はい出来ましたよ」「ありがとうございます!わぁ、凄く美味しそう……いただきます!」101「ふふふっ、慌てなくても誰も取ったりしませんからゆっくり食べてくださいね~」
102「ふぅ、ごちそうさまでした……とっても美味しかったです」103「お粗末さまです、そう言ってもらえて私も嬉しいですよ」104「……それでさっきの話なんですけど一体何をすれば良いんですか?その、出来れば私にも手伝わせて欲しいんですが……」105「そうですね……それじゃあ洗い物をお願いできますか?それが終わったら洗濯の方をお願いしますね。それとお昼からは買い物に行く予定なので準備も忘れずにしておいてください」「わかりました!」
106「……ふう、ようやく終わったかな?結構時間がかかっちゃいましたね……」109「……あれ、まだ寝ていらしてたんですね。起こしてくれればよかったのに」110「……すみません、つい寝顔に見惚れてしまいまして……あはは……」111「もう、変な冗談を言う暇があったら仕事に戻ってください。あまりサボっていると叱られますよ?」
112「……あの、一つ聞きたい事があるんですけど良いですか?」113「はい、何ですか?」114「……ミホさんって私と初めて会った日の事を覚えていますか?」115「うーん、そう言われると思い出せないかもしれませんねぇ……いつ頃の話ですか?」
116「……やっぱり覚えていないみたいですね……いいえ、なんでもないですよ、こちらの独り言ですから気にしないで下さい」
117「?よくわかりませんがとりあえずお仕事に戻りますね」
118「はーい、また後でね~」
それからしばらくの間は特に何もなく平穏な日々を過ごしていた二人だったがある時、彼女の家で過ごしていた時にある問題が発生してしまった事で徐々に歯車が狂い始めていったのだった―
「……ん、ここは一体……?」「あ、目を覚まされたんですね。良かったぁ……」「……あれ、確か私はあの時……」「大丈夫ですよ、今は何も考えなくて大丈夫ですからゆっくりと休んでいてください」
119「……ッ!!」(そうだ……思い出した……!)120「うっ、ぐぅっ……い ゙っ……!!」
(まずい、痛い……!!苦しい……誰か助けて……!!)
121「ミホさん落ち着いてください……!すぐに楽になりますから……!」
122「はっ……はぁ……はぁ……」
123「……大丈夫、ですか?」
124「……は、はい……でもどうして私があそこにいると分かったんですか……?」125「貴女の居場所は常にGPSで把握していますので探す事は簡単だったんですよ」
126「……なるほど、流石は探偵と言ったところですかね……」
126「……でもどうして貴女は私の前に姿を現したんですか……?貴女がどういう存在なのかはある程度予想がついているのでわざわざ姿を現してくれた理由は大体想像がつくんですけど一応聞いてもいいですか?」
127「簡単な事ですよ……私は最初からずっと貴方を探していたんです。あの日からずっと……そしてようやく見つける事が出来た以上、何もしないまま帰る訳にはいきませんから……」128「ふふっ、随分と物好きな方なんですね」
130「それは褒め言葉として受け取ってもいいのかしら?それとも馬鹿にされてるのかな?まぁどちらにせよ、貴方が無事で何よりでしたよ……それにしてもまさかあんな所で倒れていたなんて思いもしなかったから本当に驚いたんですからね」
131「そうですよね……でもあの時は無我夢中で走っていましたから自分でも良くわからないうちに気を失ってしまったみたいで、目が覚めた時にはもうここに居た感じなんですよね」
132「あら、そうなのね……それなら仕方がないか」
133「ところであれからどのくらいの日にちが経ったんですか?あの世界では体感的に一週間くらい経っていた気がしたんですけど……」
134「いえ、実際は三週間くらいしか経っていませんよ?」135「……え?」
136「だってここは現実ではなく貴方の精神世界なんですもの、現実世界とは時間の流れ方が違うのよ」
137「そ、そうなんですか……じゃあ、ここでの記憶って現実世界に戻ったら忘れるって事なんですかね?だとしたら何か少し残念な気がしますけど……」138「残念なんてとんでもない、ちゃんと記憶していってもらわないと困るんだから」
139「ふふっ、冗談ですよ。そんな事よりこれからどうするのかとか具体的なお話を進めていきませんか?」140「……そうね、いつまでもお喋りしているのも何だしまずはお互いに色々と知っていく事から始めないと駄目かもしれないわね」
141「……えっ、それってどういう意味ですか?」142「……言葉通りの意味だけど?」
143「……えっ、えぇぇぇぇぇ!?ちょ、ちょっと待って下さい……!わ、私に何をするつもりなんですか!?や、やめて……!お願いだから……!」145「ふふっ、そんなに怖がらなくても大丈夫よ?ただお互いの事をもっと知る必要があると思うだけだから♪」
146「……うぅっ……やだぁ……!」(なんでこの人に触られるとこんなに身体が熱くなってくるんだろう……?それに心臓の音まで激しくなって来て……あぁ、駄目だぁ……!)
147「ふふふっ、そろそろ我慢するのも限界みたいね……いいわよ?ほら、もっと乱れちゃって♪」148「ひゃうん!あっ、あぁっ……だめぇ!そこは弱いのぉ!」
149「ふぅん、ここが好きなんだ♪それじゃたっぷり可愛がってあげなきゃだね」(可愛い子♪でもこんなのじゃ全然足りないなぁ……よし、だったらこういうのはどうかしら……?)150「ふぁっ……ひぅん!?あっ、あぁぁぁ!?」
151「ふふふっ、ここが気持ち良いんだよね♪いっぱい気持ち良くさせてあげるから楽しみにしていてね♪(さてと……そろそろ良い頃合いかしらね……本当はじっくり責め立てたい所だったけど時間も押してきてるからね)さぁてとそれじゃあそろそろ仕上げに入っちゃおうかなぁ……?」
152「……ふぇ?」153「ほら、見てごらんよ。このお腹の部分にあるマークをさ……これは今から始まる儀式の為に用意したものなの。今からこれで貴女の身体の中に眠る潜在能力を解放させると同時に、その力を制御できるように調整してあげるんだけど大丈夫かしら?」
154「……ふえぇ……?」155「あらあら……ちょっと難しすぎたかな。それじゃあ簡単に説明しちゃうけど、つまり今の状態からさらに成長させようって話なの」156「へぇ……それってどんな感じになるんですか?」
157「う~ん、一言で言うなら最強無敵のスーパーヒロインって感じかしら?」158「ほぇ~、なんだか凄そうですね」159「そうでしょう、凄いでしょう?……という訳で今からちょっと苦しい思いをしてもらうけど我慢して頂戴ね♪」160「は、はいぃ……」161「あ~そうそう、ちなみに言っておくけど痛みに関しては特に問題はないから安心してね♪」
162「えっと……もしかして痛くはないという事ですか?」163「そういう事♪ただし、それ相応に苦しいと思うけど覚悟は出来てるわよね?」
164「はい、頑張ります!」165「……わかったわ、それじゃあ始めましょうか!」
167「んっ、あぅぅ……あんっ!はぁはぁ……」168「どう?少しは楽になってきたんじゃないかしら?」169「は、はい……何だか少しずつ慣れてきた気がします……」170「そっかそっか、それは良かったわ!じゃあ今度は別の方法で試してみようか!」171「え?まだ何かあるんですか……?」172「ええ、そうよ。次は私の身体の一部を直接貴女の中に流し込む事で力を引き出してあげるの。その為にはまず準備をしなくちゃいけないんだけどね」173「あの、さっきからずっと気になっていたんですけど具体的にどうやって私の中から取り出すつもりなんですか?」174「ああ、それはねぇ……貴女の体内にある卵子を使わせてもらおうと思ってるのよ。それもとびっきりのとびきり上等な奴をね。それがどういう事なのか分かるかな……?」175「え、ええと……それはつまり私の中に子供が出来るって事ですか?」176「まぁそんな感じかな。もっとも相手は人間じゃないけどね。というか生き物ですらないし」177「生き物ではない……?それって一体どういうことですか?」178「ふふ、気になるなら自分の目で確かめてみなさい。すぐにわかるはずだからさ」
180「……ねぇミホさん」181「はい、何ですか?」182「今日は一緒にお風呂に入りましょうよ」183「え、どうしてですか?いつも別々に入ってるじゃないですか……」184「まぁ細かい事は気にしないでたまには良いじゃない。別に減るものでもないでしょ?」185「……うーん、まぁ良いですけど……それじゃあ行きましょうか」186「ふふっ、嬉しいわ。実はずっと貴女と入りたかったのよね~」187「もう、またそんな事を言ってからかうんですから~!」
198「ふぅ、さっぱりしたわぁ……やっぱり湯船に浸かるのは良いわよねぇ~」199「ですねー、やっぱり一日の終わりにはこれが一番ですよ」200「それにしてもここのところ色々あって疲れちゃったわねぇ……ミホさんは大丈夫?」201「あ、私も少しだけ疲れてますね……最近仕事の方も忙しくなってきたので」202「あらそう、それならゆっくり休んで体力を回復させないと駄目よね……というわけで今日はもう早めに寝ちゃいましょうか」203「あ、でも先に髪を乾かしたいんでちょっと待ってもらえますか?」204「はいはい、それくらいいくらでも待ちますよ~♪」
205「……えへへ、気持ちいいです」
206「……本当、気持ちよさそうにするのね」
207「はい!だってすごく気持ちいですから!でもこうしてると眠くなってきちゃいますけどね……ふぁぁ」
208「……あらあら、大きな欠伸なんかしちゃってよっぽど疲れてるみたいね。それじゃあこのまま一緒に寝ちゃおっか♪」
209「はーい!それじゃあお休みなさーい!」
210「ふふっ、すっかりおねむみたい……でもまだまだ寝かせないわよ♪」―ドクン!!― 211「はうぅっ!?」
212「あははっ、びっくりしたかしら?まぁいきなりこんな事されちゃうと驚くのも無理ないわよね♪」―ズクン!― 213「ひゃぁん!」
214「あら、可愛い声上げちゃって……もっと聞かせて欲しいな♪」―ドクンドクン― 215「あ、あぁ……あぁ……!」(や、やめて……これ以上はもう……耐えられない……!!)
216.527.214.2218.1291.2260.2307.2314.3310.1321.3360.4390.6402.7430.8460.3480.5470.9501.4521.5521.9531.1001.6512.3515.4251.7551.1752.6561.0660.7671.1772.1752.8173.4371.4735.4737.53793.73807.8384.1845.5868.5879.98999.5996.7979.9766.4748.8769.875097.88764.4885.6885.7885.8878.6987.6897.8909.0909.11010.0109.11110.00116.1117.0117.1120.00121.00128.01288.00279.003999.004003.004124.014330.14340.34260.004559.004757.004958.050000.0000.0001.0002.0003.0004.0006.0007.0008.0009.0010.0011.0012.0013.0014.0015.0016.0017.0018.0019.0020.0021.0022.0023.0024.0025.0026.0028.0029.0030.0031.0032.0033.0034.0035.0036.0037.0038.0039.0040.0041.0042.0043.0044.0045.0046.0047.0048.0049.0050.0051.0052.0053.0054.0055.0056.0057.0058.0059.0060.0061.0062.0063.0064.0065.0066.0067.0068.0069.0070.0071.0072.0073.0074.0075.0076.0077.0078.0079.0080.0081.0082.0083.0084.0085.0086.0087.0088.0089.0090.0091.0092.0093.0094.0095.0096.0097.0098.0099.1000.011000021000210003100041000510006100071000810009100101010111011102110115011601170118011901200120130120140210522012803121401320150240140225014032801403901404140424014043601404701404801404901405001411014220143 年145414601681800184018418418501851187218821883188418851886189619071914192419261927192819321947194819491950195119521953195419641965196619671968196919701972197319741975197619771978197919901991199219931994199519961997199819992000250030003504004505005506006000700800900100011101020304050 月011020304050110120130140141150116011701230131201601201620220212203202024042050420604207042080420904300430053006300730083009301030113 日0 歳 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 月 0 1 2 3 4 5 6 7 8 910 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 4344 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 7172 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 以上が私の知る限りでの情報です。しかし、これだけではまだ不十分だと思いますので、この続きの情報は私が責任を持って集めさせてもらいます。だから皆さんも私と一緒に協力していただけないでしょうか?よろしくお願いいたします。
――とある世界のお話 【概要】
それはまだ神々の楽園が存在した時代。この世界は今よりも遥かに発展を遂げていたらしい。というのも、彼らは自分達の力だけでは飽き足らず、異世界から人間達を召喚し、使役してまでその力を行使していたのだという。
そして今から話すのはそんな人間達の事についてだ。
まず、この世界には全部で5つの種族が存在していた。
まずは人間族、これは我々人間の事を指す言葉だ。他にはエルフ、ドワーフ、妖精などが存在している。ちなみにこれらの種族はそれぞれ独自の国家を持ち、その数は人間よりも少ないものの決して少なくはなかったそうだ。そして彼らの歴史もまた、非常に古く長いものとなっていたのである。
そんな人間達の中には当然勇者と呼ばれる者達もいたそうで、彼等彼女等は皆、強大な力とそれを扱うだけの強靭な肉体を兼ね備え、神の如き力を持ち合わせていたという。だが、中には例外もいるようで、必ずしもそうではなかったらしいのだ。確かに並外れた力を持つ人間も存在するにはいたが、そういった者は極僅かだったらしく、多くの人間がただの人間となんら変わりなかったようだ。しかし、だからといって別に蔑むようなことはしていなかったという。むしろ彼らに対して友好的な態度をとっていたとかいないとか……いや、どうだろうか?実際のところはよく分かっていないらしい。なにしろ当時の記録は残っていないようなので仕方ないと言えば仕方ないのだが……ただ一つだけ分かっていることは、人間達は魔王によって支配されつつあったという事だけである。
【背景設定】そんな中、突如として現れた一人の男がこう言いだした。『このままでは人間は滅んでしまうだろう』と……そう考えた彼は、自らの身を捧げることによって、世界そのものを変革しようと試みたのだ。そうすることで、いずれ現れるとされる勇者の力を最大限発揮させるべく、人間達が安心して暮らしていける世界にしようと尽力したのである。それが上手くいったのかどうかは定かではないが、それでも男の意思は少なからず反映されたのだろう。それからというもの、世界は徐々にではあるが確実に変化の兆しを見せ始めたのだという。例えば国同士の戦争などといった争い事を極力控えるようになり、それによって平和への一歩を踏み出し始めるのだった。そしていつしか人々からは、彼に対する感謝の念が強く芽生え始めてきたそうである。だがここで疑問なのは、どうして彼がそこまでのことをしたのかということである。そもそもとして、男が本当に人間のために尽くしていたのかどうかすら怪しいものである。仮にもしそうだとしても、果たしてそこにどのようなメリットが存在するというのか?少なくとも普通の人間ならそんなことはしないだろう。つまり彼は何らかの見返りを求めようとしていたのかもしれない……いや、あるいは最初からそうなるように仕向けられていた可能性もあるのではないだろうか?まぁ今となっては確かめようもないことなのでこれ以上は何も言えないわけだが……ただ一つだけ確かなことがあるとすれば、それは男は間違いなく天才であり、尚且つ恐ろしいまでの執念の持ち主であったということなのだ。もしも仮に再び彼と出会えるチャンスがあったのなら聞いてみたいものだ。何故あなたはそんなことをしようとしたのかということをね……
―終―
201.1007.12.16.009.1211.20.121.122.123.124.512.731.25.125.41.125.125.712.51.131.631.125.812.712.713.128.812.812.91.134.113.125.912.126.712.713.128.813.131.132.113.313.133.413.135.135.713.135.913.135.913.136.713.136.713.136.813.136.713.136.713.136.713.136.713.136.713.136.713.136.713.136.713.136.713.36.43.↑(これ以外にもたくさんあります)
1番最後のやつ以外はすべて同一番号となります
――とある男の手記より一部抜粋
(なんだここは……!?)
目が覚めるとそこは全く知らない場所であった。
いや、正確にはどこか見覚えがあるような気がしなくもないが、はっきりとしない感じだったので確信が持てないのだ。
(俺は一体……)
とりあえず現状を把握するため、記憶を呼び覚ましてみることにした。
――えっと、たしか昨日は仕事が終わって帰宅する途中にいつもの交差点を渡っていたところだったっけか……?それで確か信号が赤になって待っている時、急にトラックが俺の目の前を通り過ぎていって……ん?まさかとは思うが、あの時に俺は轢かれて死んだのだろうか?ということは今の俺の状態は俗に言う転生とかいうアレなのか?だとしたらここが俺の新しい家ということなのだろうか?いやいや待て待て、冷静になれ俺。まだそうと決まったわけではないはずだぞ。それによくよく考えてみれば今のこの状況がおかしいことにもっと早く気付くべきであったのだ。なんせ、明らかに今までとは何もかもが違いすぎるではないか!第一ここはどこだ?今俺が寝転んでいるのは布団だし、部屋だってどう考えても俺の部屋ではないことは明らかだ。というか広さや天井の高さからしてこの部屋はかなり大きいように思える。それこそ豪邸といっても差し支えないほどに。それになんだかとても落ち着く良い香りが漂ってくるではないか……ってそんなことはどうでもいいんだ!それよりも今は状況の確認の方が優先事項だ!!そう思い至った瞬間、慌てて飛び起きようとしたがそれは失敗に終わった。なぜなら、俺の身体がまるで鉛のように重く感じられたからだ。
(くっ、動け……動けぇえええええええ!!!)
俺は必死になって身体に力を入れてみたものの結局思うようには動かすことが出来なかった。そ
れどころか身体中に激痛が走っただけで余計に疲労が増してしまう始末である。
(ぐぬぅ……一体何がどうなっておるというのだ……!!)
そこでふと視線を移したところ、ベッドの隣にあるサイドテーブルの上に何かが置いてあるのが見えた。
(あれには一体なにが……)
なんとかベッドから抜け出すことが出来た俺は這うようにしてそこへ近付いていき確認してみたところ、そこには鏡が置かれており、その表面に映る人物を見た瞬間、驚愕せずにはいられなかった。何故ならそこに映っていた人物はどこからどう見ても俺ではなく別の誰かにしか見えなかったからである。しかもその姿は若々しく、かなり美形に見える。身長も高く、恐らく190cmはあるのではないだろうか?さらに付け加えるならば声も非常に聞き心地の良い低音ボイスであったため、思わず鳥肌が立ってしまったほどである。
「な、なんなんだこいつは!?」
あまりにも現実離れした自分の姿に衝撃を受けていると、部屋のドアがノックされたのでそちらへ目を向けると、そこから入ってきた女性を見てまたしても驚いてしまった。何故ならそこにいたのが20代半ばほどの若い美女だったからである。そんな彼女は俺を一目見た途端、すぐに嬉しそうな表情を浮かべると、足早にこちらへ駆け寄ってきた。そしてなんと彼女は俺に対して優しくハグしてきたのである。
――なっ!?お、俺にそんな趣味はないはずなのに……なのになんでこんなにも嬉しいと感じてしまうんだ!?もしかしてこれは……もしや夢ではないのか?そうだ、きっとそうに決まっておる!でなければこんなにも胸の鼓動が高まるはずがないではないか!!そう確信した直後、彼女が耳元でそっと囁いてきたのである。
「……あなた、ようやく目を覚ましたのね……」
(っ!?き、気のせいだろうか……今のは声が女っぽく聞こえたような……いや違うな、やはり気の所為なんかじゃない!!それどころかこの感触からして、どうやら胸まで本物でできているみたいだ……!ま、まずい……これはいよいよもって本気でヤバイかもしれん!!ど、どうにかしないと……早くなんとかしないと取り返しのつかないことになるかもしれないぞ!!!)そう思った時には既に手遅れであった。なにせこの時の俺には既に彼女の事を愛する気持ちが芽生えてしまっていたのだ。それ故に彼女に対する想いを抑え込む事が出来ず、自ら進んで口付けを交わしていたのだから……それからというものの俺達は時間を忘れてお互いを求め合い続けたのだった。
◇◆◇ それからしばらくの間はずっとベッドの上で過ごしていたわけだが、それでも不思議と不満を感じなかったのだから不思議である。それもこれもひとえに彼女と愛し合っていたからこそだと言えよう。それにしてもあの後、彼女に教えてもらった話によると俺はこの家の主である男の息子であり、名をアリオスというのだという。しかし驚いたことに俺と彼女の関係はただの恋人同士ではなかったようで、なんと俺達二人は義理の兄妹だったのだ!だから最初、彼女が兄であるはずの俺の事を“お兄様”と呼んできたのかと納得してしまったわけである。ただ一つだけ疑問なのは何故実の妹ではなく、血の繋がっていない妹の方と結婚したのかと聞いてみたところ、彼女は悲しそうな顔をしながらその理由を説明してくれたのだが、それを聞いていたら無性に泣けてきてしまい彼女を困らせてしまった事は今でも鮮明に覚えている。ちなみにその理由というのはこうだ……元々アリオスという男は大の女好きで特に巨根であることに強い憧れを抱いていたらしく、その為に何人もの女性達と肉体関係を結んではその欲望を満たしてきたのだという。もちろん結婚相手は全て既婚者ばかりで、しかも皆、子持ちの人妻ばかりだったらしい。つまり彼はそれだけ多くの女性達を自分のものにしてきたというわけなのだが、そんな折、ついに運命の相手と出会う事になる。それは他でもない目の前にいる義妹――カレン=ルミエールであったというわけだが、当然、この時点では俺の記憶にはないため初耳となるわけだ。しかしいくら記憶を失ってしまっているとはいえ、こうして最愛の恋人ができてしまったという事実は非常に喜ばしく思うし、これから新たな人生を歩んでいくためにもこの気持ちを忘れないようにしたいと考えている。だがまぁそれはそれとして、仮に今の俺自身がカレンの事をどう想っているのかといえば正直よく分からないというのが正直なところである。そもそもとして俺自身が誰かに対してそういった感情を抱く事がこれまで無かったわけだし……いや待てよ?そういえば以前読んだ本の中に気になる内容のものがあったような気がするんだが……なんだったっけかな~?う~ん……あぁ思い出した!あれはたしか、ある男が長年連れ添ってきた妻と別れて他の女性と恋に落ちた後の話だったな。それで男は紆余曲折を経て晴れて再婚することになったわけだが、その直後にある出来事が起こってしまう。というのも新しい妻が前の妻と瓜二つだった為、夫は戸惑いを隠しきれなかったという話なんだが、その後どうなったのかは詳しくは覚えていないんだよなぁ……ただ一つだけ言えることがあるとすれば、もしも今、俺が同じ状況に置かれているとするなら俺は迷わず離婚する事を選ぶだろうな……だってそうじゃないとまたカレンを傷つけてしまう可能性があるし。
「なぁ、少し質問してもいいか?」そんな事を考えていたらつい無意識に聞いてしまっていたため、一瞬ドキッとした。なぜなら先程のやり取りもあって彼女が怒っているのではないかと不安になってしまったからである。ところが俺の予想とは裏腹に彼女は怒るどころか満面の笑みを見せながら答えてくれるばかりか、いきなり抱きしめてきてこう言ったのだ。
「……ふふっ、もうお兄様ったら♪そんなに私を抱きしめたいのなら素直に言ってくれればいつでもしてあげるのに♪」それを聞いた俺はすぐさま行動に移した結果、無事に彼女を抱きしめることに成功した。
(やった!成功してよかった……もし拒否されてしまったらどうしようかとドキドキしたが、とりあえず安心だな!)この時はそう思っていたのだが実は内心では緊張していたこともあってホッと一息つくことができたのがとても嬉しかったのである。何故なら以前の俺は女性に嫌われやすい性格をしていたそうで、そのせいでいつも相手にフラれていた過去があったからだ。しかもその理由というのがあまりにも酷くて、たとえば相手が俺に向かって好意を抱いてくれているにも関わらず素っ気ない態度を取ったりとか、あるいは冷たく接してしまうことが多々あったものだからそれが余計に女性達の怒りを買ってしまったのだそうだ。だからこそ俺が記憶を失ってしまった事で彼女達の態度が激変している今こそがまさにチャンスなのだと感じていたわけである。そのため今後はこの機会を最大限に活かすことによって今まで以上に幸せな日々を送る事ができるようになるはずだと確信していた――それなのにどうしてなのか、その時の俺はどこか引っ掛かるものを覚えていたのであった。
201.2007.12.16.009.1211.50.121.912.713.135.913.126.711.161.131.631.25.314.125.718.213.107.137.423.135.151.490.630.121.78.121.24.26.42.33.35 ↑(これ以外にもたくさんあります)
1番最後のやつ以外はすべて同一番号となります
(……一体どうなっているんだ?)
ふと目を覚ましてみるとなぜか目の前には知らない女性がいたので慌てて離れようとしたのだが思うように身体が動かせなかったため、仕方なく様子を見守る事にしたのだがその女性は俺の顔を見ながらニヤニヤしていた。
(なんだこいつは……気持ち悪いやつだな!!)
そう思って嫌悪感を抱いていると彼女が急に抱きついてきたので思わず悲鳴を上げてしまった。なぜなら俺の記憶が正しければ俺には既に恋人がいるはずなのに見知らぬ女性から抱きしめられた上、頬ずりまでされているのだから驚きを通り越してもはや恐怖さえ感じてしまっているほどだ。そうして困惑していると不意に女性の声が聞こえてきたため目を向けると、そこには何故か鏡があってその中に映っていたのはなんと先程まで一緒にいたはずの男性の顔ではなく別人――というか俺そっくりの男の顔が映っていたのだ。そこでようやく理解した。自分がどうやら転生してしまったという事を。そしてその原因についても何となくではあるが察しがつくような気がしたのである。何故なら、それは俺があの時に口にした『このまま死ぬくらいならいっそ生まれ変わってやる!!』という言葉が原因となっているに違いないからである。しかしながらなぜこんな事になってしまったのだろうか?そればかりはどうしても理解することができないのでひとまず考えるのはやめておくとしよう。
(さて、問題はこれからどうするかだ……幸いな事にここは異世界のようだから前のようにはならないだろうが油断はしない方が良さそうだな)そう結論を出した俺は改めて自分の現状を確認する事にしたのだがやはりと言うべきか、どういうわけか自分の身体を自由に動かす事ができないようだった。それ故に何かしようものなら必ず誰かが邪魔をされてしまうような状況が続き、次第に苛立ちを感じ始めていた頃になってようやくこの状況から解放される事になる。
◇◆◇ それからしばらく経ってようやく落ち着いてきた俺は今の自分が置かれている状況を頭の中で整理していく事にしたのだが、どうやらこの世界においては俺は魔王という存在らしく、更に言えば魔界と呼ばれる場所からやってきた者達をまとめて束ねている総責任者でもあるというではないか。そんな話を聞いてしまった以上、黙っていられるはずがなく、すぐさま反発しようとしたが、その前に部下達がやってきてしまったために中断せざるを得なくなったわけである。しかしだからといってそのまま何もせずにいると彼らの機嫌を損ねてしまう恐れがあると思ったので、まずは彼らから情報を引き出すことにした。
そしてその結果、判明した事実はというと以下の通りとなる。まず一つ目として、この世界にいる魔物や魔族と呼ばれている者達は全て俺の部下であるという事だ。だが実際にはそうではないようで実際に人間達にも生活があるらしく、それぞれの種族ごとに村を形成しており独自の文化を築いているらしい。それを聞かされた時、正直なところ少しだけ興味を持ったのだが、すぐに気持ちを切り替えると次の疑問点について考えてみることにした。それは二つ目に出てきた勇者というワードについてなのだが、これについては前に一度だけ耳にした事があったため、おそらくこれが原因なのだろうと判断したわけだが、そうなると俺は以前にもその“勇者”なる人物と戦った事があるということになるが、果たしてそれはいつの話なのだろうか。そこが一番気になった部分でもあったので思い切って聞いてみる事にした。
すると返ってきたのが、今から300年程前の話で相手はどうやら女であるらしかった。しかし残念ながら彼女の容姿については誰も知らなかった為、それ以上の話は聞くことができなかったものの、その時はまだお互いに敵対していなかったのだという。なので戦いが起きるとしたら恐らく数年後だろうとの事だったが一つだけ気がかりな事があった。それは当時の俺が彼女を一目見て気に入ってしまい、その場でプロポーズした挙句、勝手に婚約者として扱ってしまったというのだが、さすがにそこまではないだろうと思って聞いてみたところ――
(いや、まじか……)そう思った瞬間、あまりの衝撃的な話に呆然とする他なかった。というのもそもそもにして俺には結婚経験はおろか彼女すらいないはずだったからである。しかしそれでも否定し続ける事はできなかったため仕方なく認めざるを得なかったわけだが、それに追い打ちをかけるかのように更なる爆弾発言をされたことでますます気が動転し始めてしまい、どうにかしようとあれこれ考えていたところで不意にある言葉が脳裏をよぎった――
【これは夢だよ】
だがその言葉を聞いた途端、急に冷静になれた俺は同時に確信した。「あぁ……やっぱりか……」それと同時に心の中で呟いたつもりの言葉を口にしたその瞬間、再び意識が遠のいていくのを感じた――というのも先程から身体に感じている妙な浮遊感のせいで気持ちが悪くなったせいで思わず嘔吐してしまったのだ。そのせいで周囲の人達からは心配されたが、俺はそれに対して平気だと伝えておいた。
そして現在、目を覚ました俺の隣には相変わらずアリスの姿があったのだが、その様子を見る限りでは特に問題は無いように思われた為、安心したのだった――
202.2007.12.27.212.135.418.213.108.135.517.126.711.25.315.161.912.53.124.718.230.129.135.820.410.141.322.135.935.225.326.125.136.536.327.137.428.319.452.142.204.464.143.005 ↑(これら以外にもたくさんあります)
2つ目の話を読んでいただく為には以下の文章を最後までスクロールする必要があります 1つ目の話を飛ばして読もうとしている方は絶対に読み飛ばさないでください
「なぁアリス」ふいにカレンちゃんの事をどう思っているのか尋ねたら彼女は嬉しそうにしながら答えてくれたが、それを聞いた途端に胸の奥がズキッとしたような感覚を覚えてしまったため咄嗟に顔を背けてしまった……理由はよく分からないけどなぜかそうした方が良い気がしたのだ。だからこそ今の顔を彼女には見せたくないと思っていると今度は背後から誰かに抱きしめられた上に頬にキスをされてしまったので、まさかそんな事をされるとは思ってもいなかった俺はかなり驚いたし、恥ずかしさのあまり頭が真っ白になった事でしばらくの間、思考停止状態に陥ってしまっていた。
「お兄様、どうしたのですか?もしかして照れてるのですか?」耳元で囁かれたので背筋がゾクゾクしてしまい、つい反射的に距離を取ってしまうと彼女は残念そうな表情を見せた後でこう言った。
「……ごめんなさい、少し調子に乗り過ぎてしまいましたね。それでしたら今後は控える事にします。それよりもせっかくですからお散歩でもしましょうか♪」そう言って微笑む彼女がまるで女神のように見えていた事もあり、ついつい見惚れてしまった結果、完全に思考が停止した状態のままでいるとその隙を狙っていたのか彼女に手を握られて部屋から出ようと促されてしまった。
「あ、ちょっと待って!」そこでようやく我に返った俺が慌てて静止させようと声を掛けたのだが、なぜか当の本人はそれをスルーして先に部屋を出てしまうだけでなく、あろうことか他のみんなにも声を掛けてくると一緒になって外に出ようとしていたのだ。
それを見て慌てた俺は急いで彼女達の後を追いかけようとしたが途中で足がもつれて倒れてしまったおかげで危うく顔面から地面へ突っ込むところだったが間一髪のところで避けることができたのでホッと一安心していたのだが、その直後には後ろから何者かによって抱きかかえられたと思ったら次の瞬間にはベッドの上に寝かされてしまって身動きが取れなくなってしまっていた。もちろんそれは俺をここまで運んできた犯人であるカレンちゃんの仕業で、しかも俺が逃げないようにするための措置だと言われたので抵抗せずにそのまま身を委ねる事にした。
すると彼女は俺の上に跨った状態で見下ろしてくると何かを言おうとしていたがそれよりも先に口を開いた。「――さっきはいきなりすみませんでした。ですが私としてもあれ以上、暴走する事はできないのです……だって、私があなたを求める気持ちは本気だからです!たとえそれがどれだけ困難なものであっても私はあなたの傍から離れませんし、絶対に誰にも渡したくはないと思っています。ですので、どうか私の事を愛してください!!お願いします!!」そこで一旦言葉を切ると頭を下げてきたので、それを見た俺は複雑な気持ちになった。なぜなら、その時の彼女の顔はとても辛そうな表情を浮かべていたからだ――それを見た事で俺も彼女の事が好きになり始めていただけにとても残念な気分にさせられたが、ここで拒絶してしまうのは非常にもったいない気がしたため、少しだけ考えさせて欲しいと答えた上でしばらく様子を見守る事にした。
第9節
(……そろそろいいか)あれからどれくらい時間が経っただろうか?未だに眠り続ける女性の顔を眺めていた俺は改めてじっくりと眺めてみた。しかし不思議な事にこうして間近で見ていても彼女が魔王だという実感が湧かないどころか普通の人間の女性にしか見えなかったせいか思わず首を傾げてしまったのだが、とりあえず今はそんな事を考えている場合ではないと思い直すことにした俺は、気持ちを落ち着かせるために深呼吸をしてから早速行動を開始する事にした。
ちなみになぜこんな事をしているかというと先ほどから何度か声をかけているのに一向に目を覚ます気配がないせいだった。そしてそれだけではなく時折苦しそうに呻き声を上げるなど明らかに様子がおかしかったのである。だからこそ心配になった俺はもう一度声をかけようとしたのだが不意に彼女の口が開いたかと思えばそこから声が聞こえてきた。ただし聞こえてきた声は俺の予想とは大きく異なっていたが。
『あの……聞こえていますか?』なんと彼女の口から出てきたのは少女の声ではなく女性の声ではあったものの口調は明らかに違うものであり、それに加えて何やら独り言のような内容の話が続けられていたので聞いている内に嫌な予感しかしなくなってしまった。
『実はお願いがありましてですね……突然このような頼みごとをされても迷惑なのは承知していますが、それでも今頼れる人があなた達しかおらず困っていたんですよ……』そんな話を聞かされた俺達は困惑した表情でお互いの顔を見合わせた後、すぐに声の主に対して話しかける事にした。
◇◆◇ それからしばらく経過したところで再び声が聞こえてきてその内容を聞いた瞬間、思わず固まってしまったのは言うまでもないだろう――何故なら彼女の正体というのが“神様”だからだというのだ……しかし仮にそうだとしてもどうして俺に話しかけてくるのか分からなかったので質問してみたところ思わぬ回答が返ってくる事になった。というのもその理由というのは俺達を転生させた神と名乗る存在と彼女の名前が全く同じだったからだというのだが――つまりどういう事なのかというと彼女こそが例の神の上司に当たる存在だという事が発覚したのである。それを聞いて俺は少しだけ警戒したが相手はそんな事を知る由もなく淡々と説明を続けた。
『確かに信じられないかもしれませんけど、これは本当の話なんです。その証拠に私がここにいる理由を説明しますから落ち着いてください』そう言われたものの、そう簡単に信じる事なんてできるはずがなかったが、それでもひとまず話を聞く事にした。というのも目の前にいる女性が嘘をついているようには見えないうえに実際に体験したからこそ分かる事もあるはずだと判断したからだった。そしてその後で詳しく話を聞いてみたのだがやはりというか何と言うか思った通りの人物であった事が判明した。というのも彼女はいわゆる見習いと呼ばれる立場にあるらしく、本来であれば一人前になって仕事をこなせるようになれば晴れて神に昇格する事ができるそうだが、このタイミングで起きた異変に対応するため一時的に現場を離れられない状況に陥ってしまったのだという。だからこそ今回に関しては特例として特別に代役を任せられているらしいが、それもいつまで続くか分からない事から焦っているのだとか。
ただその一方で俺達が本来あるべき場所とは異なる場所に転生している事については特に問題はないそうでむしろ歓迎してくれているらしかった。だがさすがにこれ以上は迷惑をかけるわけにもいかないので早めに切り上げるとしようと考えたのだがその前に一つ気になることがあったため尋ねてみることにした。「なあ……そもそもの話なんだがあんた達は一体、何者なんだ?」その問いに対し、目の前の女性は考える素振りを見せてから答える。
【私達はあなた達が想像する神様に近い存在になるのかしら】そう言われてしまってはそれ以上聞く事ができなかったので代わりに他の事を尋ねる事にした。まず最初に聞いた事は、この世界についての基本的な知識を教えてくれというものだった。するとそれを聞いた彼女は少し驚いた様子を見せた後でなぜか申し訳なさそうに謝ってきたのだが別に謝る必要はなかった為、気にする必要はないと伝えたところで今度は俺から逆に質問してみる事にした。といっても内容は先ほどの話に出てきた勇者についての事だったが。すると意外な答えが返ってきたので少し戸惑ったものの、それについて尋ねてみる事にした。「そういえば先程、あなたが話していた内容の中で勇者について触れた時、少し様子が変でしたけど何か心当たりがあるんですか?」そう問いかけると彼女は少しの間、黙り込んだ後で静かに頷いた後にこう告げた。
『そうですね……実を言うと私が話した話は全て事実であり真実なのですよ』その言葉の意味を理解する事ができずにいると、それを察してくれたようで詳しい事情を話してくれたのだが、その内容を聞いているうちに頭が混乱してしまったので少し整理してから確認する事にした。
彼女が言うには、元々この世界には魔王と呼ばれる者が存在していたらしいのだがその存在自体は既に過去のものとなっていて現在では存在しないのだとか。では、なぜその話を聞いただけでそこまで驚かなければならなかったのかと言えばその原因を作ったのが当時の勇者だという事実を知ったからである。そしてその理由についてだが当時まだ幼かった彼女に課せられた使命はこの世界の守護だったのだが、ある日、彼女は誤ってある国を滅ぼしてしまったばかりか滅ぼす原因となってしまった元凶でもある悪魔達を全員、消滅させてしまったのだという。その結果、当然ではあるが世界の均衡が崩れた事で崩壊寸前の状態になってしまったのだと言われ、このままでは世界が消滅する恐れがあったために急遽、別世界から勇者の素質を持った者達を呼び寄せたのだという……そしてその中には俺も含まれていたのだと知った時は驚きのあまり、言葉を失ってしまった。
『でも勘違いしないで欲しいのは決して私があなたに死んで欲しかったわけではないのよ?だってあなたは私の命の恩人な上にこうしてまた出会えただけでなく一緒に過ごすことができるだけでも嬉しいのですから!』
そう言った後で微笑んだ彼女を見ていると何だか恥ずかしくなってきたので顔を横に向けるとそこにカレンちゃんの姿があったのでそのままジッと見つめるとそれに気づいた彼女もこちらを見てきたので目が合ってしまった――そのせいで顔が熱くなるのを感じた俺は慌てて視線を逸らすと誤魔化す為にも彼女に抱き着いてしまうのだった。しかしそんな俺を見た彼女はとても優しい手つきで頭を撫でてくれた後、優しく抱きしめてくれた。すると不思議と安心感を覚えた俺は自然と涙が流れてしまったが、それでも今はこのままずっと一緒にいたいと思ったので素直に甘えさせてもらう事にした。
しかしそれからしばらくの間、幸せな時間を過ごしていたのだが突然彼女が苦しみだしたのを見て我に返った俺は彼女の名前を叫びながら背中をさすり続けた。だがいくら呼びかけても反応がないせいで焦りばかりが増していきどうしたらいいのか分からなくなったその時、ふとある考えが浮かんだので試してみる事にしたのだ。それがうまくいけば彼女を助けられるのではないかと思っての事だったのだが果たして成功するだろうか?――とはいえ悩んでいても仕方がないと思い直した俺は覚悟を決めて実行に移す事にしたのだが、ここで大きな問題が発生したのである。それは、どのタイミングに行うべきなのかという点だ……普通に考えてみても今の状態の彼女に魔法を使ってどうにかするといった事はどう考えても無理な気がするし何より失敗したらどうなるかも分からない以上は下手に手を出すことができないと考えた結果、しばらく様子を見守る事に決めた俺は引き続き見守り続けたが相変わらず苦しそうな表情を浮かべるばかりだったので何もできずに時間だけが過ぎていくだけだったが、そんな時だった……今まで黙っていた彼女の声が聞こえたのは――
「――すみません、どうやら心配を掛けてしまったみたいですね……」そう言いながら顔を上げた彼女と目が合った直後、俺は安堵感からその場でへたり込んでしまいそうになったが何とか耐えてみせると震える声で尋ねた。「大丈夫なんですか……?」すると彼女は穏やかな表情を浮かべながら頷いてみせると笑顔でこう答えた。
【ええ、もう大丈夫です!だってこうして生きているんですから!!それにあなたとずっと一緒にいられて凄く幸せなんですよ?】その言葉を聞いて安心した俺も笑顔で答える事にした――なぜなら今の言葉を聞いて分かった事があるからだ。おそらくあの神様を名乗る人物が言った通り、本当に目の前にいる女性が神様なのだという事を理解した瞬間、急に力が抜けたようにその場に座り込むと呆然とした表情で見上げているとそんな俺を見て不安に思ったのか彼女が声をかけてきた。
『もしかして私の正体がバレてショックを受けたのですか?』それを聞いた俺は首を横に振って否定すると答えた後で続けて言った。『いえ、そういうわけじゃないです。ただ改めてあなたの事を凄いと感じたというか、なんというか……』そう言ってから頬を掻くとそれを見た彼女も同じように頬を掻いた後で照れくさそうにしていたものの嬉しそうにしているのが分かったので、それを見て安堵した。だがそれと同時にこれから何をするべきなのかを考え始めるとすぐに行動に移した。
『それじゃあ今から俺の家に来ませんか?色々と話したい事もありますし……あとついでに紹介したい人もいるので』そう提案したところ、彼女は一瞬だけ迷った様子だったが最終的には頷き、同意してくれた。
ちなみにどうして紹介する必要があるのかと聞かれたのだが、それについては後で説明すると言ってはぐらかした。まあその理由は簡単なもので目の前にいる少女が神様だと知ってしまった時点で必然的に俺が召喚された目的である魔王を倒す旅に出なければならない事が確定している事になるのだがその為には仲間が必要になるのは当然でありだからこそ、その時に戦力になってくれるかもしれない人物を連れて行く必要があったからだった。もちろん連れていく人物は誰でもいいわけではなくある程度の信用ができてかつ強い力を持つ人物でなければならないため尚更慎重にならざるを得ないという事情があったわけだがそんな事を正直に言えるはずもなく話を誤魔化したのである。だが当然ながら彼女にはその事について勘付かれたらしく疑いの目を向けられていたのだが、そんな事を知る由もない俺は必死に話題を変えるとようやく出発することにした――。
「ミユちゃん、早くおいで!」
「待って下さい、カイト君!そんなに急ぐと危ないですよ!!」
「平気だってば!それよりも今日は新しい仲間の歓迎会を開こうと思ってるんだけどいいかな?」
「ふふっ、それなら私も腕によりをかけて料理を作りますね」
そんなやり取りをしている俺と少女を見て微笑ましいものを感じていた神様は二人を眺めながら呟いた。
『あの二人を見ているだけで心が癒されますね……もしあの子達のどちらかと一緒に暮らす事になったりしたらきっと毎日、退屈しないで済む事でしょうね』それを聞いたもう一人の少女が反応すると言った。
『ねえ、それってつまりそういう事なのかしら?だとしたら私、とっても楽しみなんだけど!!』それを聞いた神様はすぐに笑顔になると頷くとこう告げた。
『そうですね……もしかしたらそうなるかもしれませんよ』それを聞いた少女は満面の笑みを浮かべると嬉しそうにして喜んでいた……のだが肝心の二人はその事を全く知らないまま楽しそうに街の中を歩いていくのであった――。
第6章 勇者の力を引き継ぐ者1 翌朝……目を覚ました私は辺りを見渡してみたもののそこにロゼッタさんの姿はなく昨日の出来事が夢だったのかと思ってしまうほどだったのだがその直後、部屋に入ってきた彼女と挨拶を交わすと共に昨晩の出来事を聞かされて改めて現実に起きた出来事なんだと認識できたところで早速だが朝食をとる事にした私達はその後、ギルドへ向かうといつものように依頼をこなしていった。ただいつもと違う点を挙げるとするならば、いつもとは違ってロゼさんがいるという事なのだが、それでも順調にこなせているあたりさすがだなと思っていたのだがそんな彼女が珍しくミスを犯したのである……それというのもモンスターとの戦いの最中に放った魔法の余波が原因で近くの木をへし折ってしまったからでそれを見た私は驚いてしまったのだが、それ以上に驚いていたのは彼女自身だったのですぐに謝った後に謝っていたのを聞いた時は思わず笑いそうになったがそれはさておき、結果的に言えば何事もなかったのでよかったものの今後は気を付けなければと思い直したのと同時に彼女がいてくれて良かったとも思った。
その一方、ロゼさんはと言えば……今回の事を反省したのかいつも以上に張り切っている様子でモンスターを次々と倒していった――その結果、今日の分のノルマを達成し終えた私達は引き続き別の依頼を受ける事にしたのだがそこである問題が生じた……というより疑問に思う点が一つだけあった。それはなぜかいつもよりもロゼさんがそわそわしていて落ち着きがないように見えたからである。しかもそれだけではなく時折、こちらをチラ見したり視線を逸らしたりしていた事から恐らく何か言いたい事でもあるのだろうと考えてみる事にした。
(それにしても気になるのはやっぱり今朝の一件だよね……別に気にしなくてもいいんだけど何となく気まずいんだよね)そう考えていた時、ふとある事を思い出した――それはロゼさんに勇者の力を受け継いだ後、意識を取り戻した際に見た記憶の中で私に話し掛けてきた少年の存在とその少年が口にした言葉についてだったがなぜあの少年が私に接触してきたのか?そしてなぜ私が彼の存在を知っているのかが気になっていたので思い切って聞いてみる事にした。「あのさ、ロゼさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさいいかな?」すると彼女は不思議そうにしていたが頷いてくれたのでさっそく本題に入る事にした。「今朝、意識が戻った時に話しかけてきた男の人の事を覚えてるかな?確か名前をシヴァとか言ってたような気がするんだけど……」
「――ッ!?」その名前を出した途端、明らかに動揺したような表情を浮かべた彼女を見て確信した私はやはりそうなのかと思いながら質問を続けた。「あの人と会った時、妙な懐かしさを感じたんだけど……気のせいじゃなかったんだね。それでもう一つ聞きたいんだけどもしかしてだけどロゼさんも彼と知り合いだったりするのかな?」「あ、えっと……」
それを聞いた彼女は何かを言いかけたものの途中で黙り込んでしまったのを見てこれは何かあるなと感じた私はさらに突っ込んで尋ねようとしたがその時、背後から誰かに肩を叩かれたので振り返るとそこには見覚えのある顔があり、それを見た私は驚きながらこう言った。「お、お前って確か、カレンちゃんと一緒にいた奴だよな……?どうしてここに――」「悪い、その話は後にしてくれ……それよりも今は急を要する状況なんだ。頼むから俺達に協力してくれないだろうか……?」彼はそう言うと深々と頭を下げると共に懇願するようにお願いをしてきたので断れるはずもなかった私は頷いて返すと詳しい事情を聞かせてもらう事にした。しかしそれから数分後、その内容を聞いて驚いたのは言うまでもなかった――何故なら、この話が事実だとすればあの少年が私の事を知っている理由も、ロゼさんと知り合いである事も納得がいったからだ。だがそれと同時にある問題が生じていた。それはこの街に魔王の配下である魔族が潜んでいるという事実を知った以上、このまま放っておくわけにはいかなかった。だからこそ覚悟を決めた私達は急いで宿へと戻ると準備を済ませてから目的地に向かう事にした。
【お知らせ】
2/25日に新作を出す予定です!!タイトルは『転生した異世界人が最強スキルで世界征服を目指します』になります。
投稿時間は2月26日の12時頃の予定です!是非読んでみて下さいね(^_-)-☆ 2話~魔の大地と四天王の実力 俺は仲間達と共に旅を続けながらとある村に到着した。だがその直後、信じられない光景を目にした事で目を疑ったがそれは他の連中も同じだったようで誰もが言葉を失っていたので無理もないと思った。なぜなら村の至る所に無数のクレーターができており村人達の姿が見えなかったからだ。「どうやら村人達は避難したようだな……」
俺の呟きを耳にした者達は頷きながらも警戒しながら辺りを見回していたが直後、何者かの視線を感じとったので視線の主がいるであろう場所に視線を向けるとそこにいたのは黒ローブを羽織った人物だった――その姿を見た瞬間、即座に身構えた俺は武器を手にすると仲間達に注意を促した後で攻撃に備えるよう指示をした。ちなみになぜ俺が真っ先に攻撃を仕掛けなかったのかといえば、そいつの異様な気配を感じ取ったからであって下手に刺激を与えるべきではないと考えたからであり、だからこそ様子を伺うだけに留めたのである。するとそれが伝わったのか仲間達も同じように動く中で一人の少女だけはその場から動こうとしなかったので不思議に思った俺は小声で話しかけた。「どうしたんだ?何か気がかりでもあるのか?」そう尋ねてみると少女はこう答えた。「はい、とても心配なんです……こんな事になる前にこの村の人達を救えなかった事を悔やんでいます」それを聞いてなるほどと納得した俺は慰めるかのように言った。「だったら、その気持ちを忘れるな……お前が覚えていればいずれ必ず救い出せる機会が訪れるだろうからな」それを聞いた少女は少し元気が出たのか笑顔を見せるとお礼を言ってきた。
その後、しばらく様子を窺っていたが相手からのアクションは何もなかった為、痺れを切らした俺がこちらから攻撃を仕掛けようとしたところ――突如、背後に回り込まれた上に腕を掴まれてしまいそのまま拘束されてしまった――だがその直後、俺は相手が敵だと知るや否や拘束から逃れようと暴れた結果、振りほどく事に成功したものの既に相手の動きを見切っていたおかげで避ける事ができたので反撃を試みたがそれを予測されていたらしくあっさりとかわされてしまうと直後にカウンターを食らってしまった。その結果、強烈な一撃を喰らってしまいその場に倒れ込む事になった俺だったがその事に後悔はなかった……何故ならこれでようやく戦いに集中する事ができるからであるからだがここで一つ問題があるとすれば先程の一撃で体が麻痺してしまい思うように動けない点であり、これではまともに戦えないと感じつつも何とか立ち上がるがもはやここまでかと思いかけた時だった。突然、目の前に現れた人影を見たそいつは攻撃を中断して後退するとすぐにその場から離れて距離を取るのが見えた。それを確認した俺は目の前の人物が誰であるか認識するとその人物の名前を言った。
「……まさか、お前が来てくれるとはな」そう言って笑みを浮かべる俺にその人はこう返した。「話は後だ……それよりまずはこいつを片付けるぞ!」その言葉に頷いた俺は頷くと改めて構え直した――その後、再び対峙する事となった俺達は共に連携攻撃を繰り出したが実力の差は明らかだった事もあり徐々に劣勢になっていく中、俺は考えた末に切り札を使う事を決断した。
その直後、全身に魔力を流し込むと身体能力を爆発的に向上させてから勢いよく飛び上がると体を捻って勢いをつけつつ渾身の蹴りを放つと見事に直撃させる事に成功した――そのお陰で怯んだところにさらに追い打ちをかける形で連続で打撃技を叩き込んでいき、その結果、相手を吹っ飛ばす事に成功するのだった――そしてそこから間髪入れずに魔法を放った。「これで終わりだ……《炎帝》!!」その掛け声と共に解き放たれた炎が黒きローブを纏う者を包み込んでいく……その様子を見ていた俺と仲間は勝利を確信して喜び合っていた。
やがて完全に消え去った事を確認すると安堵した俺達はそれぞれ別れの言葉を口にすると先に進む事にした――その際、ロゼッタさんが声をかけてきたがそれに対して適当に受け流した俺は彼女を置いていく形で先を急いだのだがしばらくするとある異変が起きたので立ち止まり振り返ってみるとそこには誰もいなかった……いや正確には彼女の気配そのものが消えていたのだ――それを見た瞬間、思わず冷や汗が出そうになったもののそこで立ち止まる訳にもいかず先へ進む事にした。
そして無事に目的地に到着した俺達は早速、周囲を確認する事にした――しかし周囲には人の気配はなく静まり返っているどころか建物が倒壊している事もあってまるで廃墟のような有様で不気味に感じられた。するとそこへ一人の少女が駆け寄ってくるのが見え、それを見た俺達が警戒する一方で彼女は慌てて叫んだ。「待ってください!!私達はあなた達と戦うつもりはありません!」「……どういう事かしら?」カレンの疑問に対し少女は答えていく中でこう言った。「私がここに来た理由はただ一つ、あなた達と協力してあの少年を倒したいと思っているからです」それを聞いた俺は確かに妙だと思った――何せ自分達では倒せないと判断した上で協力を求めてきたのに加えてその言い方だと他にも目的があるような印象を受けたからである。
とはいえ、わざわざ嘘をつく理由もない事から恐らく本当に協力関係を築きたいと思っているのだろうと察した俺は仲間達と相談した後に少女の話に乗ってみる事を決めると彼女に尋ねた。「分かった、なら詳しい話を聞かせてもらおう」
こうして俺達の仲間に加わった彼女は自らの名を「エルナ・グランディウス」と名乗ると自分がここにいる理由を語り始めた。「私がここへ来たのはとある人物を探し出す為に来たのですが、その前にどうしても聞いておきたい事があります……」「ん?何でしょうか?」「あなたが私に対して敵意を向けていない事は分かりましたし嘘もついていないと思いますが念のために確認したいのです。もし私の質問に対して嘘をついていた場合は相応の報いを受けてもらいます……よろしいですか?」それを聞いた瞬間、ゾッとした俺はすぐに頷く事にした。
「分かりました……それなら質問をさせていただきます――あなたの持つ剣と腕輪はどこで手に入れましたか?」
それを聞いた俺はなぜそんな事を聞いてくるのか理解できなかった――というのもこの装備は俺の祖父から譲り受けた物で代々受け継がれてきた物であると同時に非常に強力な力を秘めているだけでなく持ち主を守るという言い伝えがあったからだ。そのため本来なら秘密にしておきたいところなのだが目の前にいる彼女が何者なのか未だに分からないため下手に隠し事をするのはまずいと思った俺は素直に話す事にした。「……俺の持っている武器と防具は祖父の代から受け継がれていた代物なんだ」そう答えると彼女は何か考え込んでいたようだがしばらくすると納得したかのように頷いた。「なるほど、つまりあの少年は魔王様の仇という事ですか……」「……ッ!?」その言葉を聞いて驚愕しつつも同時に確信した――やはりこの女こそが魔王の側近で間違いないと……だがそう思った直後、背後から何者かが近づいてくる気配を感じ取ると咄嗟に振り返った俺は目を見開いた。何故ならそこにいたのは先程倒したはずの魔族だったのだ。「おいおいマジかよ……あいつまだ生きてたのかよ」
するとそんな俺を見て不思議そうに首を傾げるエルナであったがそんな彼女とは対照的に俺と仲間達は動揺していた……それもそのはず先程まで戦闘を繰り広げたにもかかわらず無傷の状態の敵が平然とした顔で現れたのだから驚くのは当然だろう――しかしこのまま黙っている訳にはいかないと思った俺が行動を起こすよりも早く動き出した者がいる――それがカレンだった。彼女は素早く剣を抜くとそのまま敵に斬りかかるが直前になって攻撃を受け止められてしまう……だがその直後、今度はエルナが魔法を発動させると炎の槍を形成してそれを放つと直撃させる事で敵を吹き飛ばす事に成功したのである。「ありがとう、助かったよ」お礼を言った後で二人に下がるよう伝えた俺は二人の前に立ちはだかるようにして前に出ると武器を構え直す。するとそれを待っていたと言わんばかりに笑みを浮かべた敵はこう口にした。「なるほど、貴様達はただの冒険者ではないようだ……ならば全力で相手になろう」次の瞬間、奴の姿が視界から消えたので警戒を強めるが直後、背後に回った気配を感じた俺はとっさに振り返りながら攻撃をかわしたものの相手は既に次なる攻撃を仕掛けようとしていた――だが俺は即座に対応すべく動くとその一撃を防いだ。それからしばらくはお互いに攻防を繰り広げていたが一向に終わる気配がないのでこのままでは埒が明かないと判断した俺は一気に片を付けるべく動いた。
その後、しばらく拮抗状態が続いていたがついに決着の時が訪れた――それは相手がこちらの動きに対応しきれず隙が生まれた事が原因であり、その好機を逃すまいと俺は全神経を集中させるとありったけの力を振り絞って反撃に出た。だがその直後、俺の視界に何者かの姿が映ったかと思えば突如として敵の攻撃を防ぐかのように割って入ってきたのである。それにより勢いを完全に殺されてしまった事で生じた僅かな硬直時間を見逃さなかった相手はすかさず攻撃態勢に入ったのを見て不味いと思った俺は反射的に後ろに下がろうとしたその時、俺の体は誰かに押される形で強制的に後退させられてしまった。それによって攻撃を免れた俺だったが代わりに攻撃を受けてしまった奴がそのまま倒れ込みそうになったところで慌てて受け止めると名前を呼びかけた――「おい、しっかりしろ!!」しかし呼びかけても返事はなかった……どうやら今の攻撃で完全に意識を失ってしまったらしい……それを見た俺は悔しさのあまり拳を握りしめる事しかできなかった。
そんな俺に対して敵は無慈悲にも追撃を仕掛けてきたがその直後、誰かが駆けつけてくれたおかげで何とか凌ぐ事ができた。「二人とも大丈夫か!?」駆け寄ってきた人物の声に覚えがあった俺が視線を向けるとそこにいたのはカレンだった。どうやら先程の声の主はこの少女だったようだ……そして彼女のすぐ隣にもう一人の姿があった。それは言うまでもなくルドラだったのだがどういうわけか彼が背負っていた荷物からは見知らぬ女性が顔を覗かせていた――それを見た俺は思わず唖然としてしまったもののすぐに正気を取り戻すと再び視線を戻した。するとその先にいた奴はこちらに顔を向けながら不敵な笑みを浮かべていたのでそれにイラっとした俺は睨みつけながらもこう告げた。
「――お前の企みは全て潰えた……もう諦めるんだな!」その言葉に対し、小さく笑った相手はおもむろに手を掲げるとそれを天高く掲げてから振り下ろした途端、突如巨大な地震が発生すると同時に地面が大きく揺れたせいでバランスを保てなくなった俺達はその場に膝をついてしまった……だがそれでも諦めずに必死に耐えようとした時だった。上空より巨大な何かが姿を現すと凄まじい咆哮と共にこちらへ向かって降下してきたのを見た俺達は慌ててその場から退避しようとしたが間に合わず直撃を受ける羽目になりそのまま地面に叩きつけられてしまった――幸いにして即死には至らなかったもののあまりのダメージの大きさによってもはや指一本動かす事すらままならない状態に陥った俺は死を悟った……いや、むしろ生きている事自体が不思議なくらいだ……しかしだからといってこのまま大人しく殺されるつもりなど毛頭なく最後まで足掻く事にした――その結果、ようやく体の痛みが少し引いたのを機にゆっくりと立ち上がった俺はある事に気が付いた。なんとさっきまで身動き一つ取れなかったはずなのになぜか体が軽くなっていたのである……これはいったいどういう事なのかと考えていた矢先、ふと足元に落ちていた物に目が留まるとそれを見て俺は驚いた――なぜならそこにあった物がこれまで自分が使ってきた武器や防具の数々だったからだ――しかしよく見てみるとどれもボロボロで使い物にならないものばかりだったので一体何が起こったのかと思っていると不意に脳裏にこんな考えが過ぎった。もしかしてこれが俺の最後の切り札になるのではないか、という風に――そう思った時、いつの間にか手にしていた剣を鞘に納めると目を閉じて深呼吸をしてから静かに呟いた。「……いくぞ」
そして精神を集中させた後、意識を研ぎ澄ませるように集中力を高めると次の瞬間、目を開いた瞬間、全身に魔力を流し込んだ――その瞬間、全身から光が放たれていく中、俺は今一度、自分に問いかけた……この力は間違いなく最強の技だ……しかも今までのように体力を大幅に消耗するような事もないだろう……ただその分、発動させた後の反動が半端ないものとなる上に制御するのも難しいときている……しかしここで死ぬくらいなら例えリスクのある力であっても使わないよりはマシだと結論付けた俺は覚悟と共に叫ぶのだった――「《超竜化》!!!」
その掛け声と共に放たれた光は俺を包み込むようにして覆い尽くした――それを見ていた全員が息を飲んだ……やがて光の収束と同時に現れたのは人の姿ではなくドラゴンのような形をした生物だった。その姿を目の当たりにした俺達はただただ言葉を失っていた……何故ならかつてこの目で見た事があるとはいえ実際に見るのは初めてだった事もあり、まさか実在するとは思わなかったからだ――だがそんな中、ただ一人だけ違った反応を見せる者がいた……それが誰なのかというとエルナさんだった――というのも彼女は何やら納得したような表情を浮かべていたので気になった俺は恐る恐る尋ねてみたところ「ああ、そうか!君が噂の〝伝説の英雄〟だったのか……」と答えた。それを聞いた俺が首を傾げているとその様子に気付いた彼女が苦笑しながら答えた。「そういえばまだ言ってなかったね、私はとある方からあなたについて色々聞いていたんだよ」それを聞いて疑問を抱いた俺はさらに尋ねた「誰なんですか、その人って?」すると彼女は真剣な表情でこう言った。「君と同じ異世界から来た人間であり私のご先祖様にあたる人だよ」「……え!?」その言葉に驚きを隠せない俺は思わず固まってしまうがそんな彼女の様子を見たエルナさんは苦笑いを浮かべた後にこう続けた。「まあ、そういう訳だから安心したまえ、君は私なんかよりもずっと凄い存在なんだからさ」そう言いながら微笑んだ彼女に対して俺は何と答えるべきか分からなかった……何せいきなりそんな事を言われても信じられないというのが本音だからだ――とはいえ目の前で起きた事が現実である以上、認めざるを得なかった俺は大きくため息をつくとこれからすべき事を思い浮かべながら気を引き締める事にした。
とりあえず目の前にいる敵をどうにかしないといけないと考えた俺はまずは仲間達に下がるよう指示を出した後、一人で戦う事を決断すると早速行動に移した――ちなみに仲間には怪我人を避難させるよう指示したので心配はない……とはいえ、あまり時間をかけていると命に関わる可能性がある為、俺は早々に決着をつけるべく駆け出した――だが敵もそう簡単にはやらせてくれなかった。「おっと、そうはさせんよ」そう言うと奴の前に魔法陣のようなものが展開されたので嫌な予感がした俺は咄嗟に急停止するとすぐさま後方へ跳ぶと同時にその場を離脱した――直後、それまでいた場所に爆発が生じたのを見て戦慄した俺は改めて気を引き締める事となった……だがこの時、既に戦いが始まっていた事に気付く者は誰一人としていなかった――何故なら先程よりも激しい攻撃が容赦なく繰り出されたからである。それをひたすらかわし続けていたのだが次第に追い込まれつつあった事もあって徐々に焦りが生じ始めた俺は一か八かの攻撃を試みるべく魔力を練り上げた――しかしそんな時だった、突如として敵の攻撃が止まったかと思うと同時に凄まじい衝撃が駆け抜けたと思ったら突然視界が切り替わった事で動揺していた俺だったがその理由はすぐに分かった。というのもそれは眼前に広がっていたのはどこまでも続く闇でありその奥にうっすらと見える光こそ恐らく俺が戦っていたはずの魔族がいる場所だと悟った。
(どうやらさっきの一撃で飛ばされたようだな)
だがそう思った直後、目の前に現れた奴が攻撃を仕掛けてくるのが分かったのですぐに迎撃しようとしたものの体が動かない事でようやく拘束されているのだと気付いた時にはすでに手遅れとなっていた――このままでは不味いと判断した俺はどうにかして抜け出そうと試みたものの、まるで万力で挟まれているかのような感覚を覚えるほどの強烈な力で押さえつけられているためどうする事もできなかった……おそらく相手はこちらの様子を見ているのだろう、だからこそ今はチャンスだと思って仕掛けてきたのかもしれない――しかし残念ながらそれは見当違いな考えでしかなかった。
なぜならば俺が使える魔法には相手を吹き飛ばすものや相手を麻痺させて動きを止めるといった類いのものがないからである。故にもし仮に使えたとしてもこの状況では無意味に等しいだろう……それに今の俺に残された力は限られている上に下手に使いすぎれば後で大きな代償を支払う事になる……そうなればもはや戦えなくなる可能性だって否定できない――それを理解したからこそ奴は決して俺を殺さないのだ。しかしだからといって黙って殺されてやるつもりはない……その意思だけは曲げるつもりがなかった俺は何とかして反撃に転じようとした……その時だった、突如、周囲一帯が光り輝くと直後に目の前を凄まじい炎が通過した――それはあまりにも突然の出来事だったため、俺もそして敵も驚いてしまった。
だがそれは俺だけでなく敵にとっても予想外の展開だったらしい……その証拠に目の前の奴は明らかに焦った様子を見せており、その表情からは余裕が失われていた……しかしその直後、背後から聞こえてきた声を耳にした途端、表情が一変すると共に嬉しそうな声を上げた。
「――やれやれ、ようやく見つけたと思えば相変わらず無茶ばかりしてくれるものだなお前は!」振り返るとそこにいたのはルドラだったのだがそれを見た俺は安堵した――というのも彼がこうしてこの場に来てくれたという事はきっと俺の勝利を信じてくれているに違いないと思ったからである。しかし一方で彼は何故か呆れた様子でため息をついていたが俺は気にしなかった。なぜなら彼のお陰で助かったという事実がある以上、感謝の念しか抱けなかったからである――その後、俺達は三人で協力する事を決めた上で作戦を立てる事にした――と言っても簡単な内容なので特に苦労はしなかったものの最後に一つだけ注意を受けた。それは「無理をして死ぬなよ」というものだった――どうやら彼なりに心配してくれているようだがこれといって問題はないだろうと思ったので素直に頷いておくとすぐに動き出したのだった。
一方その頃、敵の元へ向かっていったカレンの視界に映っていた人物はまさに怪物という言葉がふさわしい風貌をしておりとてもではないが人間とは程遠い姿をしていた……その為、彼女も最初こそ戸惑ったのだが相手がこちらを認識した瞬間、即座に攻撃を仕掛けて来た事によって戦闘態勢に入るなり先手必勝と言わんばかりに斬りかかるとそのまま怒涛の連続攻撃を繰り出した――しかし相手は彼女の攻撃に全く動じなかったばかりか不敵な笑みを浮かべるだけで一切、避ける素振りを見せなかったのでそれを見て違和感を抱きつつも攻め手を緩めず一気に畳み掛けようとしたのだが不意に足元が揺れるのを感じた瞬間、突如地面が隆起したのを目の当たりにした彼女は慌ててそこから離脱するも今度は別の箇所から次々と土の壁がせり上がってきた。
それを見たカレンが舌打ちしながら何とか切り抜けようとする中、その頭上が怪しく光ったのを目にした彼女はハッと空を見上げた瞬間、複数の雷が落ちたのを見た……それによって回避する間もなく直撃してしまったカレンはそのまま吹き飛ばされてしまうも幸いにしてまだ意識は保っていた為、ふらつきながら立ち上がった――するとそこに先程の敵が近付いてきたので急いで身構えたが次の瞬間、信じられない出来事が起きた。何と敵はいきなりその場に片膝を着くと深々とお辞儀をしたかと思うとこう告げた「我の名はリザリオス……以後、お見知りおきを」それを聞いたカレンは唖然としながらも何とか気を取り直すと同時に思った……やはり見た目とは違ってかなり理性的なようだと……
とはいえそれでも倒さなければならない事に変わりはないのですぐに構え直そうとした矢先、突然どこからか声が聞こえて来たので思わずそちらに目を向けるとそこには一人の男がいた――しかもその男は仮面を被っており、手には槍のような形状の武器を持っていた事からもしやと思い警戒していると男はこちらに目を向けたまま口を開いた。「あなたが伝説の英雄殿ですね?」それに対して無言で頷いた後、カレンは静かにこう答えた。「……だとしたらどうしたというのですか?まさかここで降参しろとでも言うつもりじゃないでしょうね?」その問いに男は何も答えずに黙っているのを見て痺れを切らしたのか彼女は再び問い詰めようとしたのだがその前に彼が先に口を開いた。「いえ、別にあなたの身柄を拘束しようだなんて事は考えていません」「どういう事ですか?……そもそもあなたは一体何者なんですか!?」するとそこでようやく男は答えた……「申し遅れました……私の名はアギトと申します、本職としては魔王軍に所属しております……」「……っ!?」その名を聞いた途端、驚愕した彼女に対してアギトは淡々と語り続けた。「もっとも今の私はあくまで代理として派遣されてきた身ですが」「ちょっと待って下さい、それではあなた以外にもこの騒動を起こした張本人が存在するという事でしょうか?」そう問いかけるとアギトは頷いた。それを知ったカレンはさらに詳しい話を聞こうとしたのだがちょうどそこへ乱入者が現れた為に中断を余儀なくされた――とはいえそれが誰なのかはもう既に分かっていた……そう、目の前に現れたのはもう一人の魔族であり名をバエルと名乗ったのだ。「おや、まだ話が終わっていなかったのかい?でも残念ながらそろそろ終わらせてもらわないとね……でないと僕が怒られるからさ」その言葉を聞いたカレンは思わず歯噛みしたがすぐに気持ちを切り替えた――何故なら、もう話す必要はないと思っていたからだった……というのも理由は先程、アギトが口にした言葉にあった。「心配しなくてもこの戦いが終わったらいくらでも説明してあげますよ、ですからここは一旦引きましょう」それを聞いたカレンは小さくため息をつくと頷き、共にその場から姿を消した――それを見ていた二人はそれぞれ異なった反応を見せた後、お互いに顔を見合わせて笑みを浮かべた。「それじゃあ僕もさっさと退散しますかねっと!」そう言うとアギトもまた二人の後を追うようにしてその場を後にしたのだった……そして後に残ったのは静寂のみが残るのみで誰もいなくなったのである……こうして長い一日がようやく終わったのだった。
――その後、王宮へ帰還した俺達は国王様に今回の件について報告した後で部屋に戻ろうとしていたところでカレンと出会った。どうやら向こうも報告を終えたばかりらしく疲れた表情を浮かべていた事もあり、少し心配していたのだが無事だったのでホッとした俺は彼女に声をかけた。
「それにしても驚いたぞ……お前ほどの腕前を持つ者がまさかあんな化け物みたいな奴に苦戦するなんてな」それを聞いた彼女は苦笑しながらこう返してきた。「あれは私の実力ではありませんよ、単純に相性が悪かっただけです……それにあの魔族、おそらくはあれで本気を出してはいなかったと思いますしむしろ手加減されたように思えます」
「……なるほど、そういう事だったのか……だが、それでもお前は勝利したんだ、だから胸を張って良いんだぞ?」そう言って励ましの言葉をかけたものの、あまり効果はなかったようで相変わらず暗い表情をしたままだったのでどうしたものかと悩んでいたその時、彼女が突然、話しかけてきた。「すみませんが今から少しだけ付き合ってもらえませんか?行きたい場所があるのですがよろしいでしょうか?」
「構わないけど……どこに行くつもりなんだ?」俺がそう質問したところ彼女は一言だけ呟くように言った――それは目的地の名であった。「――『精霊の泉』」
精霊の泉、そこはこの国にとって非常に重要な意味を持つ場所である――何故ならここには聖霊達がいるとされているからだ――とはいえあくまで伝説上の存在でしかない為、実際に目撃したという証言はほとんどなくあくまでも伝承上の存在でしかなかったのだ。だがそれも過去の話だ――何故ならば数百年前より精霊達と直接交流できる手段が編み出されたからだった。その名も魔封石――これは魔力が込められている特殊な石でありこれを所持する事によって人間でも魔法を使う事ができるようになるのだ……もっとも使用する際は予め魔法陣を展開させてからではないと発動できないため使用の際は色々と制約があるのだがそれでもないよりは遥かにマシなのは間違いないだろう。そしてそんな便利な道具を生み出した人物こそがかつてこの世界に君臨していた魔王と呼ばれる存在だった――つまり現在の魔族達のトップこそその人物である事を知る者達は多く、それだけに畏怖の対象ともなっているのだ。
ちなみにこの情報は勇者の子孫である俺ですら知らなかった情報なので正直言って驚きだったが同時に納得した部分もある……何せいくら強い力を持っているとは言え、仮にも魔王と呼ばれていた存在なのだからそれぐらいできて当然だと思えるようになったからである。ただその一方で気になる点があるのも事実だった――というのも今までずっと姿を見せずにいた彼が急に動き出した理由についてだ……無論、俺には心当たりなどあるはずもないのでその理由を突き止める術などないのだが一つだけ言える事があるとすればそれは恐らく奴の目的と関係しているのではないかと思われる……というのもルドラが言っていた言葉の中にあった『神の力』という単語を思い出したからだ――もしこれが本当ならきっと彼は何か大きな目的を持って行動しているのだと推測するのは当然の話であろう。
まあだからといって俺達には関係のない話だとは思うが念のために注意しておくべきだろうと思った俺は彼女にそれを伝えたところ、案の定というか彼女は同意してくれた。「確かにその通りかもしれません、ですがそうなるとこれから私達の旅はさらに危険なものになるかもしれませんね」彼女の指摘に対して俺も同意するしかなかった――なにせ敵はおそらくこちらの事情を把握している節があった上に今回のような刺客を送り込んでくる可能性だって否定できなかったのだから無理もない話だと言えるだろう。だが、それでもやらねばならない……何故なら今の俺達にはその責任と義務があるからに他ならないのだから。だからこそ改めて決意を固めた後、二人で目的地へと向かったのはそれからすぐの事であった……
その頃、別の場所ではとある男が一人、不敵な笑みを浮かべていた――その男の名はリバス=ロシュナードという者であり今現在はこことは違う国に住んでいるがかつては同じ組織に所属しておりそれなりに名の知れた冒険者だったのだがとある出来事をきっかけにその地位を剥奪され、それ以降は落ちぶれる一方であったが最近になって新たな人生を歩む為に必要な準備を始めている最中でもあった――というのも実は先日、仲間と共にダンジョンに潜っていた際に偶然にもとんでもない代物を見つけて持ち帰ったのだがその事が公になった事で世間の注目が集まってしまった事が原因で拠点を移す事になったのである。もちろん彼としては不本意極まりない事ではあったが今更どう足掻いても無駄だと理解していたので仕方なく受け入れる事にしたのだ……しかし彼にはもう一つやるべき事があったのでそっちの方は何としても成し遂げようと心に決めていた。なぜなら彼の視線の先にあるものが理由なのだがそれは一体なんなのかと言うと、巨大な魔石だった……しかもその中には強大な力が封じられており、その気になれば一国どころか世界を滅ぼせるだけの力を持つ代物だという事を彼は知っていたのだ――ただし、その力を発揮するためには莫大な魔力が必要になるという事を……そこで彼は考えた――この力を誰かに託せば自分達は自由の身になれるのではないかと思い付いたのである。
その為、さっそく彼に依頼を持ちかけるべく使いの者を出したのだがそれが功を成したのか翌日には約束の時間よりもかなり早い時間にその人物は現れた――それを見たリバスは思わず笑みを浮かべながら言った。「やあ、久しぶりだねアモネイ……まさかこんなに早く来てもらえるとは思わなかったよ」するとそれに対して男もまた笑みを浮かべつつ答えた。「お久しぶりですね、それにしてもこんな所で再会する事になるとは思ってもいませんでしたが」それを聞いた瞬間、彼は笑いつつもこう言った。
「そうだね……でも私は君に会いたかったんだよ、アモネイ」それを聞いた男は怪訝そうな表情を浮かべたもののすぐに真顔になると問いかけた。「……それで何の用でしょうか?わざわざ呼び出して来るのですから余程大事な話でもあるのでしょうか?」その言葉にリバスはゆっくりと頷くと言った。「単刀直入に言うけど私の頼みを聞いて欲しいんだ……」「ほう、どのような内容なのか教えていただいても良いですか?」そう聞かれたのでリバスは彼の質問に答えるべく、事情を説明した。すると話を聞いていた相手は静かに頷くとこんな事を口にした。「なるほど、話は分かりましたが私に何をしろと言うのですか?」それを聞いた彼は答えるのを少し躊躇った後、意を決して話し始めた。
「実は私にはとても大切な人がいてその人の為にどうしても必要な物を手に入れないといけないんだ、だから君にお願いしたいんだけど引き受けてくれないかな……?」それを聞いてアモネイと呼ばれた人物は少しの間、考え込む仕草をした後でゆっくりと口を開いた。「そうですね……一応聞いておきますがそれはあなたが手に入れる事はできない代物なのでしょうか?」そう問われたリバスは即座に頷きながらも言葉を続けた。「残念ながらその通りだ、こればっかりは私がどれだけ頑張ってもどうにもならないからね」それを聞いた相手は納得しつつも別の疑問を投げかけた。
「ところであなたの言っている大切な人とは誰なのですか?少なくとも今の話を聞く限りではとても重要な存在だというのは間違いないようですしできれば詳しく聞かせていただきたいのですが構いませんか?」それに対しリバスは一瞬、口を噤んだものの覚悟を決めてから再び話し始めた。「……私の大切な人というのは私の娘なんだ……だけどもう何年も会っていなくてね……せめて一目だけでもいいからあの子の顔が見たいんだ……」
そして彼は語り始めた……自分の娘との出会いとその末路についてを……そしてそれを聞きながら相手は思った――この男は間違いなく自分と同じ考えを持った上で動いているのだと確信できたから尚更だった。(やれやれ……やはりこの人も私と同類だったか)そう思うと内心、ため息をつくと同時にこの男を利用しようとした事に若干の罪悪感を覚えながら今後の動き方について思案し始めたのだった……それが後にどんな影響を及ぼすのか知る由もなく。
そんな二人のやりとりを見ていたカレンは複雑な表情を浮かべていたものの、特に何も言わずに成り行きを見守っていた。そもそも何故このような状況になってしまったかというと理由は単純で、二人が出会った経緯が原因であった。というのも二人は以前、とある任務を遂行するために一緒に組んで仕事をしていた時期があったらしいのだがその時からすでに仲違いをしておりお互いに険悪な雰囲気を漂わせていたのである。
だが今回、アモネイから声をかけられた事で一時的に手を組むことにしたというのが真相である――つまり今回の仕事が終われば互いに二度と顔を合わせなくても良いという取り決めになっていたのだ。だが今回はそんな事情など関係ないとばかりに協力を要請し、さらには互いの情報を共有するとその場で作戦を立て始めてしまった。そしてあっという間に大まかな流れが決まるなりアモネイはこの場を後にした――その後姿を見送りながらルドラは小さくため息を吐くと独り言のように呟いた。「やれやれ、あの様子じゃまた余計な真似をしてくれそうな気がするな」
その呟きを聞いたカレンは思わず苦笑いしてしまった。何故ならルドラの性格をよく理解しているからこそその言葉に対して否定できなかったからである。しかしだからといっていつまでもこうしてはいられないと思った彼女はとりあえず国王様の元に向かおうと歩き出した直後、突然後ろから声をかけられる――その声は先ほど姿を消したばかりの人物だったので驚きのあまり心臓が飛び出しそうになったものの慌てて振り返るなり尋ねた。「どうかされましたか?何か問題でも起こりましたか?」ところが相手の方は首を横に振った後でこう告げた。「いえ、そういう訳ではありません……ただ先程から気になっていたのですがあなたはあの男の娘さんなのですよね?」質問の意図が良く分からなかったカレンは戸惑いながらも答える。「そうですけど……それがどうかしたのですか?」すると相手は少し間を置いた後で意外な事実を口にする。
「そうですか……いや実はあなたを見ているとどことなく懐かしい感じを覚えるのです……まるで昔の事を思い出しそうになるほどに――」「――それってどういう意味ですか!?」予想外の言葉を耳にしたせいで思わず大声で叫んだ彼女は動揺しながらもさらに質問を続けた。「もしかして私の父とお知り合いなんですか!?」それに対して相手は静かに首を横に振ると一言だけ言った――その答えは非常に簡潔なものだったがそれだけで十分に理解できるものだった。「すみませんが今の段階では言えません、ですがこれだけは伝えておきます……もしもあの人ともう一度会いたいと思うのならその願いを胸に強く抱き続ける事が大切だと……では失礼します」そう言い残すとその場を去って行ってしまった。
だが残された方はそんな相手の後ろ姿を黙って見送ることしかできなかった。何故なら彼女の脳裏に浮かんだある記憶が原因だったからである――実はルドラが最後に言い残した言葉の意味は彼女自身にも分かっていた。だからこそ困惑していたのだ――なぜなら彼女が幼い頃に一度だけ父親と一緒にいた事があるのだがその時の記憶があまりにも断片的過ぎてあまり覚えていない部分がある上に当時の父の年齢を考えるだけでゾッとするくらいなのだから無理もなかったのである。だからこそ父の正体が気になったカレンは何とかして知りたくて色々と調べようとしていた矢先、今回の騒動が発生した事で結果的に父親の事をよく知る人物と会うことができたのだからある意味で幸運と言えるのかもしれない――しかしそれと同時に大きなリスクを背負い込む事になった事もまた事実なのでその事は頭に入れておく必要があるのも事実だった……とはいえ今はそれよりも目の前の仕事を片付ける方が先決だと考えを改めると気持ちを切り替えると再び歩き出す事にしたのであった。
その頃、カレン達から離れた場所でリバス=ロシュナードことラウルはとある男と話をしていた――と言ってもそれは二人だけではなく傍には彼の部下と思しき人物が控えている状態だが彼らからすればむしろ当然の事なので大して気にしていなかったりする。ただしそれは彼らが同じ組織の所属であり上司の命令に対して忠実に従う事が当たり前だと思っている証拠でもあり、同時に命令さえ果たせれば後はどうなろうと知った事ではないと考えている表れでもあるからだ。その為、彼らの顔に浮かぶ表情は非常に冷たいものであったがそれを知ってか知らずかは分からないままラウルもまた似たような表情を浮かべつつ会話を続けていた……もっとも二人の場合はあくまでもポーズとして行っているだけなので内心では全く別な事を考えていたのだが。
やがて会話が一区切りついた所でリバスが言った。「……ところで例の物はまだ見つからないのかな?」それを聞いた男――すなわちルドラが答える。「申し訳ありませんがまだ発見できていない状態です、なにせあれを簡単に持ち出せる場所といえば限られていますからね」その返事にラウルは満足げな表情を浮かべた後で頷いた。
「確かにそうだな……ならもう少しの間は辛抱するか」そう言うと彼はゆっくりと立ち上がり、空を見上げながら呟く。「ようやく準備が整ったんだ、あと少しの我慢くらいはなんて事はないさ」その直後、彼の口元に笑みが浮かんだのであった。一方、その頃、カレン達は王都に到着した後、真っ先に国王様に挨拶に向かったものの、あいにく不在だったため、仕方なく宿に戻り、夜を待つ事にした。
それから数時間が経過した頃、時刻は深夜を迎えていた事もあり、昼間とは打って変わって街は静まり返っていた――それでも一部の人間にとっては全く関係のない話で街の酒場などはこれからが本番とばかりに賑わっている時間帯なのだがそれも仕方のない事であろう……何せ現在の時刻は草木も眠る丑三つ時という誰もが夢の世界へ旅立つ時間なのである、よって大半の人間は明日に備えて眠りに就くのが普通であり実際に眠っているのが大半を占めるに違いない……だが中には例外が存在するのも事実だった、例えばそう……今まさにベッドで深い眠りに落ちようとしている人物だったりとか……そして彼が眠ってから数分経った頃、何者かの気配を感じたのか不意に目を覚ました彼は眠たい目を擦ろうとした瞬間、思わず固まってしまった……というのも目の前に見知らぬ女性の姿があったからだ。しかもそれは何故か裸のまま立っていたからである。「……えっ!?何で人が?というかどうしてここに……?」あまりに突然の事態に思考が追いつかずパニックに陥った彼をよそに女は笑みを浮かべて口を開くと言った。
「ふふっ、驚いているみたいね?」そう言って微笑む女の姿はどう見ても人間のものではない事が分かる……何しろ頭に二本の角を生やしているのだから間違いなく魔物の仲間だろう――そこまで考えた所でふと気が付いたことがあったので彼は恐る恐る尋ねた。「あの……まさかとは思うけどあなたが噂されている悪魔なのですか?」その問いかけに女性は笑みを浮かべながら答えた。「あららっ!どうやら知っているようね……だったら話が早いわ、さっそくなんだけどあなたに頼みたいことがあるのよ」そう言われた男は警戒しつつも問い掛けてみた。「一体、何をして欲しいのですか?」するとそれを聞いた相手は笑みを浮かべたままで言う。
「簡単な事よ、あなたの命と引き換えに娘を貰うだけ……」それを聞いて最初は何を言っているのか理解できなかった彼だがすぐにその意味を理解して目を見開いたものの直後には冷静になっていた。というのもその反応を見た相手が嬉しそうな表情を浮かべるのを見た途端、全てを察したからである。(なるほど……そういう事か)おそらく自分が娘であるルドラと接触する機会を作る為、こんな事をしでかしたのだという事を知ったからであった。しかしそんな相手の企みを知るよしもない彼は小さく息を吐くと同時にこう言った。「分かりました、あなたのお望み通り私の命を差し上げましょう」「あら、本当に良いのかしら?もしかしたら死ぬかもしれないわよ?」そう告げると女性は笑みを浮かべる。
「構いませんよ、そもそも私がこうしていられるのも娘のおかげですから」その返事を聞いた女性は意外そうな表情を浮かべるものの納得したように頷く。「ふーん、なるほどね……それなら遠慮なくやらせてもらうわね」そう言うと彼女は指を鳴らし、合図を送った――するとどこからともなく数名の魔族が現れた。「それでは始めなさい!」女が命じると彼女達は無言で頷くと一斉に襲いかかった……それを見た男が覚悟したように目を閉じようとした直後、背後から聞き慣れた声が聞こえた。「――お父さん!!」そしてその声に反応した彼が振り向くとそこには娘がいたのだが、その姿を見て驚愕した。何故ならそこに居たはずの娘の身体がいつの間にか大きくなっていたからである――とはいえ成長したのではない事だけは確かだ、何故ならその姿は紛れもなく幼い頃の自分だったから……その事実に気付いた時には既に手遅れだった。なぜなら彼女はこちらを指差して言った。「お父さんなんか大嫌い!」その言葉と共に放たれた魔法攻撃が彼に直撃してしまったのだ。「うわぁぁぁぁぁぁぁ―――!!!」断末魔のような叫び声を上げた後で男は意識を失った……そしてそのまま二度と目覚める事はなくこの世を去ったのだった。
その後、ルドラの姿を見た者達は驚きを隠せなかった――何故なら目の前にいる相手は自分達にとって敵であるはずなのにその敵が父親であるはずの男性を殺すような真似はしないだろうと考えていたにもかかわらず実行したという事が信じられなかったからだ。もっとも当の本人からすれば特に気にしている様子もなく平然としたままその場に佇んでいたがその様子を見ていたアモネイが慌てて駆け寄ってきたかと思うと慌てた様子で告げた。
「――おい大丈夫か!?お前らしくもなく一体何を考えてるんや!?」それを聞いた相手は淡々とこう返す。「いえ、何って別に何も考えていませんよ……それに今回はあくまでも個人的な理由で行っただけですからね」その返答を聞いたアモネイは思わず首を傾げた。何故ならルドラの性格を知っている彼女からしてみればこの行動は普段の彼らしからぬ行動だったからだ――しかしそんな彼女の疑問を見抜いたのか相手はさらに説明を続けた。
「理由は二つほどありますが、まず第一に私は最初からあの男に対して特別な感情は持っていませんし、それどころか邪魔だとすら思っていたくらいなのでここで始末する分には何ら問題ないと判断しました、それにもう一つの理由に関しては単純ですよ、だって私にとって父親は一人だけですからね……たとえ血が繋がっていなくてもたった一人しかいない父親だからという理由で殺す事はできませんからね」その話を聞いて納得できたアモネイは小さく頷きながらも呟いた。
「そういう考え方もあるんか……」その直後、我に返ったリバス達が近寄ってきたかと思えば険しい表情を浮かべながら口を開いた。「とりあえず今は急いでここから離れるべきだと思いますが異論はないですか?」それに対してラウルが頷くとカレン達は即座に動き始めた――その一方でラウルの方はその場から立ち去ろうとしていたリバスを呼び止めるなり小声で話し掛けた。「なあ……一つ聞きたい事があるんだが、良いか?」突然呼び止められた事に戸惑いつつも頷いたのを見て彼は静かに尋ねた。「どうして今回に限って協力してくれたんだ?お前は私に対して敵対的な立場を取っていたのにどういう風の吹き回しだ?」それを聞いたリバスは溜息をつくと観念したかのように答えた。
「そうですね……確かに最初はあなたを殺そうと考えていましたが、ある出来事によってその気持ちが揺らいでしまいまして、結果、今回の依頼を引き受ける事にしたんですよ」「ある出来事とは?」「……それは――」彼女が答えかけた時だった。突如、辺りを強い光が包み込んだのである――それを目にしたラウル達は反射的に身構えたものの次の瞬間、何者かの声が聞こえてきた事でそれが何者なのかを悟った。
『――よくぞここまでたどり着いたな、褒めてやる』その声はまさしく魔王ルドラの声であり、同時に彼らが望んでいたものだった――ただし彼女の姿を目にする事ができればの話であるが……やがて光が消えた後で姿を現したのはやはりというか当然の事ながら彼女であったのだが、その姿は普段とは違っていた。というのも今の彼女の姿は本来の姿ではなく人間の姿のままだったからだ。もっともそのおかげで今までとは違い服を身につけていたり武器を持っていたりする所を見る限り戦う準備は既にできている事を意味していた。だが問題はそこではなかった……何よりも注目すべき点はルドラの外見だったのだ。
それもそうだろう……何しろ現在の彼女の見た目年齢は二十代前半といった容姿で明らかに十代の少女ではなかったのだから……それを見かねたカレンが代表して問い掛ける。「あなたは一体誰なの?」すると彼女は笑みを浮かべつつ答える。『我か?我が名はルーティア・グランディアという……』その発言を耳にした仲間達は揃って首を傾げるとお互いに顔を見合わせて不思議そうに見つめ合っていた――ちなみにその理由は相手が名乗っている名前についてだが、残念ながらこの場に居る面々の中でその名を知る者はいなかった……というのも魔界の住人の名前は人間界に住む住人達と異なっているからである。それはつまり仮に名乗ったとしても伝わる事はない……もっとも相手側もそこまで考慮した上で名乗った可能性はあるので油断できない部分がある事もまた事実なのだが……
一方、そんな中で最初に名乗りをあげたのはアモネイであり、彼女に続いてリバスやラウル達も次々に名乗りを上げた後で最後にカレンも名乗るといよいよ決戦の時を迎えた事を意味していた――するとルーティアと名乗った少女は笑みを浮かべた後で再び質問してきた。『ところで、そなたらは何故、この城を訪れた?』「それはね、そこにいる男の娘を助けに来たのよ!」その言葉にルドラは静かに目を細めると小さく頷いた。『そうか……やはりそういう事だったのか』どうやら彼女も全てを知っていた上で敢えて演技をしていたようだった……だからこそ今の言葉は本心からのものであると考えたうえで改めて質問をしてみた。
「それじゃあ、教えてもらえるかしら?あなたとあの子の間に何があったっていうの?」その問い掛けに対してルーティアはゆっくりと首を横に振った。『残念だけどそれは教えられないわね……というより教えた所であなた達は真実を知りたいとは思わないでしょうから無理でしょうね』「えっ、どういう事?」思わずそう呟くとルーティアは再び口を開くと言った。
『まあ良いじゃない、いずれ嫌でも知る時が来るんだからその時までのお楽しみという事にしておきましょうか』「……分かったわ、だったら無理にとは言わないけどせめて一つだけ聞かせてもらえないかしら?」すると彼女はしばらく考え込むような仕草をした後で頷いたのですかさずカレンが問いかけた。「あの子は無事なのよね?」その問いかけに相手は頷いてみせるとさらに言葉を続けた。
『ええ、今のところはまだ無事よ……ただこのままでは命が危ない状態なのは確かなんだけどね』「そう……」その話を聞いたカレンは安堵するように溜息をつくと同時に内心では複雑だった……何故ならもしこの場で真実を教えられたらすぐに助けられる可能性が高かったにも関わらずこうして引き延ばされたのは何か理由があるのではないかと考えていたからだ。
(恐らくは私達の実力を図るためといったところでしょうね……)しかしそんなこちらの気持ちなどお構いなしとばかりに今度はアモネイが質問を投げかける。「じゃあ次は私からで悪いけど何でわざわざ姿を見せて話しかけてきたわけ?」それに対してルーティアは答えた。『うーん、それは単純に挨拶代わりかな?……ほらっ、こういうのってやっぱり大切だと思うのよ』その発言を聞いていた仲間達からは苦笑しつつも賛同する声が上がるものの一方で当の本人は満更でもない様子で笑みを浮かべていた――そしてしばらくして彼女は再び問いかけてきた。
『それで、どうするの?このまま私と戦わずにここから逃げるという選択肢もあるけど、どうするのかしら?』その言葉を受けたリバスはすぐに返事をする事はできなかった……何せ目の前に居る相手の実力をある程度把握しているからこそ下手に戦って返り討ちにされる可能性も否めなかったからである。それでも一応の確認の為に彼女に聞いてみる事にした――「……あなたと戦って勝てる見込みはあると思うかしら?」『さあどうだろ、正直言ってやってみないと分からないとしか言えないわね』そう言って肩をすくめると不意に不敵な笑みを浮かべるなりとんでもない事を口走った。『それに今の私ならどんな敵が来たとしても余裕で勝てる自身があるからね……それこそ例え伝説の勇者であろうとも絶対に負けるつもりはないわ』その発言を聞いたリバスは唖然となるも気を取り直した後で小さく咳払いをして話を続けた。「そ、そうですか……ならば一つお願いがあります、あなたの力をもってここにいる全員を皆殺しにしてもらいたい」それを聞いた途端、アモネイが真っ先に噛み付くように言った。
「ちょっと待って!それってどういう意味!?」しかしその問いに対してリバスに代わってルドラが答えた。『言葉通りの意味よ、私の望みは最初からそこの女一人だからね!』その言葉を聞いた直後、その場の空気が一瞬にして張り詰めたのが分かった――特に彼女の怒りのボルテージが上がったのは間違いないだろう……現に仲間の一人が剣を抜いている事に気付いていつつもそれを止める様子はなく、むしろ同じように臨戦態勢に入ったのである……その様子を見ていたルーティアは嬉しそうに微笑むと告げた。『あらあら随分と血気盛んな人達ばかりみたいね……これは面白くなりそうだわ、さてと前置きが長くなったけれどそろそろ始めるとしようかしら』その言葉を最後に戦いが始まった……その結果としてルドラとリバス達は互角に渡り合う事となった。とはいえ人数差があまりにも大きかった事から徐々に追い詰められていき最終的に全滅してしまった……ただしラウルだけは例外であり彼だけは最初からずっと身を隠しながら様子を窺っていた。何故なら彼の役割はあくまでも保険だったからだ――もし本当に万が一の事が起こった場合にいつでも対処できるように控えていたのである。
それから数分後、ラウルは隠れていた場所から姿を現すと未だに戦っている者達の様子を窺った――もちろん、そこには先程までとは姿が異なる少女の姿もあった。それを見た彼は即座にある結論に辿りついた……すなわちこの戦いこそが魔王軍による作戦の第一段階なのだという事を確信したからだ。なぜなら本来の予定ではここに居たはずの兵士達は既に殺されてしまっているはずだった……ところが実際にはまだ誰一人として死んでおらず、それどころか戦闘を続けている光景を目の当たりにしたのだからそれが意味する所は一つしかなかった……要するに魔王軍は自分達にとって都合の良い状況を作るために敢えて見逃していたのだという事実だ。
そんな事を考えているうちに勝負はついていた……ルドラによって完膚なきまでに叩きのめされた少女は全身ボロボロの状態になっておりもはや戦えるような状態ではなかった――それでも尚、立ち続ける彼女を見兼ねたルーティアが止めに入るとそこで決着がついたらしく、ようやく全員が武器を下ろしたのだった……その様子を見守っていたラウルは小さく溜息をつくなりこう思った。
(とりあえず、ひとまずは終わったようだからあとはあの女性達に任せるしかないか……)そしてそのまま踵を返してこの場を後にするのだった。
それから一時間後、城内で待機していた兵士達や一部の兵士と共に外まで出たカレンは改めてルドラに向かって頭を下げた。「今回は私達のために色々とありがとうございました!」それに対し、ルーティアは穏やかな表情で答える。『いえいえ、気にしないで下さい……私は私がしたいようにしただけなんですから、それよりも無事に再会できたようで良かったですね』それを聞いたリバスもまた頷きつつ答える。「ああ、まさかあんな場所で出会うとは思わなかったけどな……」すると今度はラウルが近付いてくると話し掛けてきた。
「まあ何にせよ無事で何よりでした……それにしてもあなた方がここまで来るとは思っていなかったので驚きましたよ、一体どうしてこの場所が分かったんですか?」そう尋ねられたカレンは思わず言い淀むと代わりに仲間達が答える事になった。「……それについては申し訳ないとしか言えません、何しろ私達にも全く理由が分からないんです……ただ気付いたらいつの間にかここに来てしまっていたので――」「成程、つまり何らかの理由で強制的に転送されてしまったというわけですか……しかしそれならば尚更気になる点があるのですが何故あなた達二人だけが戻ってきたのですか?」その質問に二人は答えられなかった。というのもその理由を説明するには《魂縛》について話す必要があるのだが当然ながらそんな事はできるはずがないからである……そもそも二人がこの城を訪れた目的というのは他の者に知られてはいけないという暗黙のルールが存在しており、だからこそ余計な情報を漏らさないように細心の注意を払っているのだ。
そんな事情もあって何も答えられずにいる二人に対しラウルは少し考えた後で改めて口を開くと言った。「分かりました、無理に聞き出そうとはしませんから安心して下さい……ただし一つだけ言わせてもらえるのであれば、今後同じような事態が起きた際にはこちらに連絡を頂きたいと思います、こちらとしては協力を惜しまないつもりですので是非ともご検討ください」その提案に対してカレンは頷くと隣にいる人物の方を見て確認を取った上で静かに頷いてみせた。
その直後、再び視線を戻したところで彼女は続けて言った。「それともう一つ、あなた方にどうしても伝えておきたい事があるんですがよろしいでしょうか?」それに対して二人が頷くのを見たルーティアがゆっくりと口を開いて説明を始めた――『実はね、この城に攻め入った際にとある魔法を使ってしまったのよ……』その言葉に反応を示したのはカレンであった。「それってもしかして転移系の魔法を使っちゃったとかそういう事じゃないわよね……?」すると相手は笑みを浮かべながらも肯定してみせたので思わず頭を抱えてしまった……なぜならそれは最悪の展開を迎えているかもしれない事を意味していたからだ。とはいえ実際にどういう結果になったのかまでは知らないのですぐに気持ちを切り替えて尋ねてみたところ返ってきた答えは予想通りのものであった……そう、すでに城の中は敵の手中に収まってしまっているのだという……それを聞いていたリバスはすかさず仲間達を集めて話し合いの場を設ける事にした――その内容は主にこれからどうするかという点に関してである。
しばらくして話し合いの結果、当初の予定通りでいく事が満場一致で決まった事で行動を開始する事に決定した……といっても目的地となる場所に関しては先程ラウルから聞いた事を参考にした上で既に決めていたのでそこまで迷う事なく辿り着く事が出来ていた――そして目的の部屋の扉を開いた瞬間、そこにいた者の姿を目にして一同は思わず固唾を飲んだ……何故ならそこに立っていた人物がよりにもよって今回の一件を引き起こした張本人の一人だと聞かされていたので当然の反応だった。さらに言えば彼女の他に二人の人物が立っている事から間違いなく黒幕であろうという確信を抱くに至るのだった。
一方、部屋の中央では三人の男達が椅子に座っていたがその内の一人を見たリバスとラウルはほぼ同時に声をあげた――「お、お前は確か……」その言葉を受けたもう一人の男が振り返ると不敵な笑みを浮かべた後でこう告げた。「おやおや、誰かと思えばいつぞやに私に恥を掻かせた連中じゃないか……まったく本当に忌々しい奴等だよ、お前達は私の逆鱗に触れたんだからね」そう言うと同時に座っていた椅子を蹴り飛ばすなり怒りに満ちた表情を浮かべたままで睨みつけてきた。それを見たラウルは慌てて身構えるとすぐさま仲間へ指示を出した。「皆!ここは俺が引き受けるから早くここから脱出するんだ!」それを聞いて驚くもリバスが小声で「大丈夫、必ず後から追いかけるから先に行って待ってて頂戴」と告げられた事によりようやく納得し、素直に指示に従うとその場から立ち去っていった。
一方で残ったのが自分とラウルだけである事を改めて確認した後にアモネイが再び話し出した。「やれやれこれでまた二人きりになっちゃったわね……それで?あなた一人だけで私と戦うつもりかしら?」それに対してルドラは何も答えなかった……いや正確に言うのなら返答する余裕すら無かったのである――何せ彼女の身体からは凄まじいほどの魔力が溢れ出ていたのだから……恐らくはこれまでの敵の中では最強の存在に違いないと確信しながらも戦う前から既に勝機が無いに等しい事も自覚しているせいで内心かなり焦っていた。だがそんな彼の気持ちなど知る由もなくアモネイは再び口を開いた。
「まあどちらにしろあなたはここで死ぬ事になるんだからさっさと楽になったらどう?正直言ってこれ以上、生き長らえていてもあなたには何の価値もないと思うけど……」その言葉を聞かされたラウルは静かに目を閉じたまま心の中で呟いた。
(やはり俺達の力だけではどうにもならなかったみたいだな……悔しいが仕方がない、もうここまでだ)
その後で彼は覚悟を決めた表情でゆっくりと目を開けると同時に持っていた武器を構えながら叫んだ――「行くぞ、アモネイ!お前を倒す!!」それと同時に攻撃を仕掛けたが難なく回避されてしまい、直後に放たれた反撃によって吹き飛ばされてしまった。幸いにも直撃は免れたもののダメージは大きく、起き上がるだけでもやっとな状況だったので最早勝ち目がない事を悟りつつも最後の力を振り絞って立ち上がりつつ剣を構えた……するとそれを見た相手が呆れ顔になりながらこう言った。「はあ、まだやるつもりなの……?どうやらあなたは相当なマゾらしいわね……それなら望み通りこのまま殺してあげるからさっさと死になさい」それを聞いた直後、ラウルは剣を地面に突き刺してから懐に手を入れてある物を取り出すと彼女に見せるようにしてからこう答えた。「悪いが俺としてもそう簡単に死ぬつもりはないんでね……せめてこれを喰らうくらいの時間は与えてやるよ」そう言って見せたのは自分の血で作った血玉であり、それを口に含んだ状態で噛み砕くと同時に飲み干してから詠唱を始めた――その結果、身体が変化を起こし始めて徐々に姿を変えていく……その結果、最終的に彼の姿は完全に別人へと変貌を遂げたのだった――その様子を見ていたアモネイは思わず目を丸くして驚いた。何故なら彼女が知っている限りでは目の前にいる相手は決してこのような能力を所持していないはずで、だからこそ驚きを隠せなかったわけだがそれ以上に驚いていたのは他の者達だった……なぜならそこには本来この場に居るはずのない者が佇んでいたからである。「貴様、何者だ!?なぜここにいる!?」そう問い詰められたルドラはゆっくりと振り向くとニヤリと笑みを浮かべつつ自己紹介を行った――「我の名は【デネブ】、闇を支配する魔王軍幹部が一人にして四天王の一人、その中でも最強の実力者と呼ばれる存在だ!」それを聞いたリバス達は絶句すると同時に思った……どうしてここにいるのかという謎はさておきとして今のままではとても勝てるような気がしないという事だけは理解したのである。しかしそれでも彼女達はまだ希望を捨ててはいなかった――それは単純に自分達以外にも戦力がいる事に加えてラウルも残っている上にカレンだってきっと無事だという安心感があったからだろう。ところが肝心の当人はそんな期待とは裏腹に険しい表情を浮かべていた……それはなぜかと言うと目の前に佇む男から感じ取れる雰囲気が完全に人間ではない事を察知したからに他ならない。するとデネブと名乗る男は笑みを浮かべながらこんな事を口にした。
「ああ、心配せずともお前達の仲間なら別の場所にいるからな……それよりも今の我の話を聞いていて疑問に思う事はないか?」その言葉を聞いて思わず首を傾げるリバスだったがルーティアはすぐに気付いたようでハッとした表情を浮かべると小さく頷いてみせて彼に答えを告げた。「……もしかしてあなたがラウルの身体を使って暴れ回っていたという犯人の正体なんですか?」それに対して相手は頷きながら言った。
「その通り、我がその元凶というわけだ」その言葉を耳にしたカレンは信じられないと言わんばかりの顔で呟いた。「それじゃあ今までの事件は全部こいつが引き起こした事だったというの?」それに対し、ルドラも頷いた後で改めて相手の方を見ながらこう尋ねた。「お前がアモネイの協力者というわけか?」すると彼は鼻で笑いながら首を横に振った。
「残念だが違うな……むしろ今回に限って言えばこの娘とは敵対関係にあると言っておこう、その証拠にほら、見てみるがいい!」そう言って背後を指差した直後、彼が示した場所に一人の女性が姿を現した。それを見てルーティアは驚愕の表情を浮かべた後で咄嗟に名前を叫んだ――「えっ……嘘でしょ……もしかしてあなた……サニアなの?」そう問い掛けると女性もまた笑みを浮かべて頷くとそのまま歩み寄りながら話を始めた。
「ええ、そうよ……もっとも私があなたの知っているサニアかどうかについては分からないけどね……でもこうして直接話すのは初めてだから少しだけ緊張しちゃうわ」彼女は微笑みながらそう言うとカレン達に向かって軽く会釈した。すると今度はラウルの姿でいるルドラが一歩前に出るなり笑みを浮かべながら言った。「成程、どうやらお前が例の吸血鬼だな?しかもかなりの力を持っているようだし名前くらい教えてもらえないか?」するとサニアは少し間を空けてから小さく頷き答えると自分の名前を明かして見せた――その名前を聞いた二人は思わず目を見開いた後で驚きの声を発した。何故ならそれはかつてこの世界にいた勇者の名と同じだったからだ。
そんな二人の様子を目にした相手は嬉しそうな表情を浮かべながらも話を続けるように促したので気を取り直した後で続けてこう説明した。「まず私の事を説明する前に言っておくけど私とそこにいる彼女の目的はこの世界を破滅させる事にあるのよ」その言葉に反応を示した二人が即座に否定してみせた。
「ふざけるのも大概にしなさい!そんな事、絶対にありえないわよ!」リバスが語気を強めながら言い放つがそんな彼女の言葉を聞いたラミアスは余裕そうな笑みを浮かべるだけで何も言わずにサニアの方を見つめながら説明の続きを促した。「ふふふ、本当にあなたは優しいのね……それじゃあそろそろ話を戻すけど私達の目的はただ一つ、あの憎き神々を滅ぼす為に必要な道具を手に入れる事が目的なのよ……」そこで一度言葉を切ると今度は真剣な表情を浮かべたままで語り出した――「……それが何か分かるかしら?答えは神殺しの力を持つ剣……つまりあなた達がよく知るその刀の事よ」その話を聞いた瞬間、二人は再び驚いたがすぐにある事に気付いた――すなわちそれは先程見たラウルの姿が変わった現象の事を指していたからだ。さらに言うとその時の姿は確かによく知る者の姿に非常に酷似しており何より先程の口ぶりからして確実に同一人物であった事も間違いないと思った。
そしてサニアは更に続けた。「これはあくまでも推測でしかないんだけど、あの時、突然ラウル君の身体に別の人格が乗り移った事で力が暴走した結果だと思うの……ただ私はそれを利用して彼女の肉体を乗っ取ったに過ぎないわけなんだけどね……」そこまで聞き終えたところで二人共、まさかと思うもそれを口には出せなかった。だがサニアは特に気にした様子もなくこう続けた。
「さてと話はこれで終わりにするけど一つだけ忠告しておくわね?今すぐここから立ち去った方がいいわよ、でないと間違いなく後悔する事になるからね」そう言うと同時にラミアスの前から姿を消したので慌てて後を追いかけようとするリバスだったがラウルの姿を見て思い留まった――何故なら彼は今の姿のままで戦う事に決めたようだったからである。
その直後、戦いが始まった――とは言っても両者共に魔法しか使えない状態なので必然的に接近戦には持ち込めず、まずは様子を見ようとお互いに距離を置いたまま様子を窺っていたのだが一向に動き出そうとしなかったので痺れを切らしたラウルが自ら攻撃を仕掛けた。その結果、初めてまともにダメージを与える事に成功したのだが次の瞬間、驚くべき事が起きた。何と攻撃を受けた部分がみるみるうちに再生していったのだ……これにはさすがの彼も動揺せずにはいられなかったもののすぐに冷静さを取り戻すと再度攻撃を仕掛けようとした……ところがここで予想外の事態が発生した。それは自分の意思に反して攻撃を止めるべく勝手に動き出したのである。
(くっ、どうなっているんだ……?このままではまずいぞ!)心の中でそう思った矢先だった……突如、目の前が光り輝くと共に強烈な衝撃波によって吹き飛ばされてしまい、そのまま意識を失ってしまった。しばらくして目を覚ますと目の前にサニアの姿があった。
「……目を覚ましたみたいね、良かった」そう言いながら安堵の笑みを浮かべた後で優しく抱き締めると耳元でこう囁いた。「安心していいわ、後は全て私にまかせてゆっくり休んでなさい……」その言葉を耳にした直後、またしても意識が遠退いていく中で最後に視界に映った彼女の顔はどこか悲しげなものに見えた気がした。やがて完全に意識を手放すと同時に元の姿に戻った直後、地面に倒れそうになったところをラミアスに受け止められるなり優しく抱き締められる事となった。その後でゆっくりと地面の上に寝かされる中、ルーティアはラウルの顔を静かに見ながら呟いた。
「……後は私に任せてちょうだい」そう言うと立ち上がりながらサニアの方へと向き直ってから剣を構えつつ真剣な表情を見せながら言った。「悪いけどこれ以上、あなたの好きにはさせないから覚悟しなさい」するとそれを見た彼女もまた同じように大剣を構えると言った。
「あらあら、威勢が良いわね……だったらこちらも手加減するつもりはないから本気で行かせてもらうわ!!」そう叫ぶと同時に一気に間合いを詰めてくる彼女に対してラウルスも同じタイミングで同じ行動を執った……と言ってもこちらは武器を使わない肉弾戦で挑む形ではあったが。その結果、互いに至近距離まで近付く事になったのだが、直後に先に仕掛けたのはラウルスの方で拳を繰り出すなり腹部に一撃を与えた。これに対してサニアは一瞬、顔を顰めるものの大したダメージはなく反撃に出た……ところがここで思わぬ展開が起きる。なんと殴った瞬間に拳に激痛が走ったかと思うと傷口が開き、そこから血が流れてきたのだ。
実は彼女が殴りかかろうと腕を引いた時、偶然にも相手の身体に当たったのだがその際に皮膚を僅かに掠めていたのだ。しかもただの掠り傷ではなく、傷口から入った細菌によって毒のような作用を引き起こした事による痛みだったのである……とはいえ彼女はそれに気付いていない様子だった。というのも今の攻撃によって相手が怯んだと判断した上ですかさず攻撃を続行しようとしたからである。しかし実際は違っていた……何故ならルーティアもまた同様に痛みを感じていたからだ。
(どうして……どうしてこんな時にこんな痛みが!?もしかしてまだ完全に治っていないとでもいうの!?)心の中でそう思うなり改めて目の前にいる相手を見た後でハッとした。何しろ自分が見ている目の前で傷が見る見るうちに塞がっていったのだから驚かない方がおかしいだろう。もちろんその理由については既に察していたがそれでも実際に目の当たりにした時には驚きを隠す事が出来なかった。一方でサニアの方も同じような事を思っていたらしく信じられないという表情を浮かべながらこう口にした。
「そんな馬鹿な……いくら何でも早すぎる!いくらなんでもこれは異常過ぎるわ!」するとそれを聞いたルドラもさすがに焦りを覚えたのか思わず呟くように口走った。「……まさかとは思うがお前の正体は吸血鬼などではないのではないか?」その言葉に一瞬、ピクリと反応するもすぐに落ち着きを取り戻して答えた。
「何を言っているのかしら?仮にそうだとしても何の問題もないと思うけど……それともまさかとは思うけど、私が人造人間か何かだとでも思っているの?」その言葉を聞いたルーティアとリバス達は顔を見合わせて驚愕した。一方、ラウルスの方も少し考えるような素振りを見せた後で再び尋ねた。「ふむ、そういう事ならば良い機会だし教えてもらいたいものだな……何故お前達はこの娘にそこまで肩入れするのかという理由をな」それに対して彼女は小さく息を吐くなり言った。
「それを聞いてどうするの?……というよりそもそもあなた達に言う義理はないのだけれど」そう言うと更に続けた。「それよりもあなたこそ一体何者なの?もしかして魔王軍幹部の一人だとか?」その言葉に反応して見せたサニアであったが、当の相手は何も答えなかった。代わりにラミアスが彼女の質問に答えるかのように話し始めた。
「生憎だが私はお前達のように組織に所属しているわけではない……強いて言うなら雇われているといった方が良いかもしれんな」そう答えてみせると続けてこんな事を口にした。「ただし今回は特別だと言っておこうか……何せこの娘がいなければ我々の悲願が成就できないからな」
「なるほど……要するにあなたもまたこいつと同じように世界を手に入れようと考えているわけね……」その言葉を聞いてルーティアは思った――(もしこのまま奴の狙い通りに事が運んでしまったら大変な事になるのは間違いない!だけどそれ以上に気になる事があるのよね……それはラウルの身体の中に誰がいるのかって事よ)そう思いながらチラリと彼の方を見てみると相変わらず意識を失ったままだったが、幸いにして命には別状がない事だけは分かった為、ホッとした表情を浮かべた後ですぐに気持ちを切り替えると再び戦闘態勢を整えた。それからしばらくの間、二人は睨み合ったままでいたが不意に何かに気付いた様子のリバスが叫んだ。「あっ、待って!!その女から離れて!」その言葉を聞き終えるよりも前に彼女は慌てて距離を置くと同時にその場に倒れ込んだ……いや正確には押し倒されたというべきだろうか?何故かと言えばラウルスが彼女の腕を強く掴んだ状態で馬乗りになっていたからである。だがその様子はどう考えても不自然としか言いようがないものだった……何故なら先程までの様子を見る限り、明らかに力が劣るサニアが力押し出来るとは到底思えないし、何よりも先程のリバスの言葉がそれを物語っているように思えたからである。そこで試しに尋ねてみると案の定、返ってきた言葉は予想通りのものであった。
「どういう事なのか説明してくれるかしら……?」するとリバスの話を聞いたルドラが言った。「つまりこう言いたいのだろう……お前がそいつに力で負けているのは何かの理由があっての事ではないのかとな」そう言われた彼女は大きく頷きながら答える。「……そうよ、だって考えてもみてちょうだい?あなたは先程の戦いでサニアの力を見ているのよ……だとしたら力量差が分からないはずないし、例え万全の状態じゃなかったにしても普通だったら絶対に負けるはずはないじゃない……なのに何故こうも一方的になっているのかって疑問に思うのは当然だと思うし納得がいかないのよね……」
それを受けてルーティアとラウル以外の者達が一斉に黙り込んだ中、しばらくしてラウルを掴んでいた手を緩めると言った。「確かにそれもそうだな……ただ単純に私が弱かっただけかもしれないが」そう言ってゆっくりと立ち上がった後、改めて周囲を見渡しながら話を続けた。「さて、話を戻すとしよう……どうやら時間を掛け過ぎたせいで少々面倒な事になってしまったようだ」
するとその直後、それまで全く身動きすらしなかったサニアが突然、苦しみだしたかと思うと次第に全身が黒く染まり始めたではないか……それを見た一同は慌てて彼女に駆け寄ると声を掛けた。「大丈夫か、しっかりしろ!!」「ちょっと、気をしっかり持ってよね!?」「……一体どうしたと言うのだ、急に身体が変化し始めたぞ?」そんな中で一人だけ冷静な表情をしていた者がおり、その正体はもちろんラウルスである。
(ふふふ、いよいよ始まるか!この時が来る事をどれほど待ち望んでいた事か……!)心の中でそう思うと不敵な笑みを浮かべた後でゆっくりと歩き出した。ところがそんな彼女の前にルドラが立ち塞がると険しい表情を見せながら言った。
「どこへ行くつもりだ?」
これに対して彼女が答えた。「決まっているでしょう、邪魔者は排除しないといけないからそこをどいてくれるかしら?」それに対して彼女は首を横に振った。
「……それは出来ない相談だな」そしてそのまま続ける。「悪い事は言わん……今すぐ立ち去れ」だがそれを聞いたところで彼女が素直に従うはずもなく、逆にこう返した。
「そういうわけにはいかないのよ……何故ならここであなたを見逃すわけにはいかなくなったんだから!」そう言いながら大剣を構えるなり攻撃を仕掛けようとすると突如として目の前が光り輝き始めた。何事かと思った瞬間、光の中から現れた巨大な怪物を見て誰もが驚いた……何せ現れたのは今まで自分達を苦しめていた存在そのものだったからである。それを見たルーティアは即座に叫ぶように言った。
「全員、急いでこの場から離れなさい!!」するとその言葉に従って全員が一斉に動き出した……とは言えサニアの身に異変が起きている最中だった為、完全に動ける状態ではなかったのだが。その為、動けたのは彼女と彼女の仲間である女性達だけだった。しかもその中にはルドラも含まれている事に気付くなり、彼女達は思わず目を丸くした。なぜなら本来だったら真っ先に逃げてもおかしくない人物だと思っていたからに他ならない。ところが今の彼女の表情はこれまで見てきたものとは明らかに違っていた。まるで別人と見間違える程であったからだ。
するとそんな彼女は徐に武器を取り出すと構えながら言った。「ここは任せてもらおう、お前達はすぐにルーティアと共に先へ進むのだ」その声を耳にした途端、我に返ったリバス達は頷いてみせると言った。「わ、分かりました!ご武運を祈ります!」そう言うと同時にその場を後にした……とはいえさすがにラウルだけはこの場に残していったので必然的に三人だけが残る形となってしまった。
(やれやれ、厄介な事になったものだな……)内心でそう思いつつも改めて目の前の相手に目を向けた。一方の彼女は既に臨戦態勢を整えており、今にも飛び掛かろうとしている状態だった。
だがそこへ待ったをかける者がいた――それは他ならぬラウルス本人であった。これには思わず拍子抜けした表情を浮かべて尋ねる。「どういうつもりかしら?」それに対して彼女は言った。「どうもこうもないさ、お前の目的はあくまでもそこの娘の身体を乗っとる事であろう?」
それを聞いた彼女は当然とばかりに頷いた。「その通りよ!だから邪魔をしないでもらえるかしら?」しかしそれでもなお引き下がらない。
それどころか逆に彼女を睨みつけるように見詰めながら問い質す。「本当にそうか?私にはどうしてもそうは思えんのだが……」それに対して彼女が何かを言おうとした矢先、更に続けた。
「まぁ、そうは言ってもどうせ本当の事を話すつもりなど更々ないだろうし聞く気もないのでな……とにかく先に進みたいなら私を倒すしかないという事だ」それを聞いて彼女は鼻で笑うと答えた。
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