第6話


(さてと、それじゃあ行くとしますかね……っとその前にちゃんと挨拶しておくかな)そう思って向かった先は職員室の隣にある部屋だったのでドアをノックした後で中へと入った。「失礼します!今日限りで転校する事になりました相島です、よろしくお願いします!」元気よく挨拶しながら中に入るなり軽く頭を下げたところ相手はとても驚いた様子だったがすぐに我に返ると返事をしてくれた。「えっ?あぁ、こちらこそよろしくね……ところで本当にこんな時期に転校してきても大丈夫なのかい?確か試験は受けていないんだろう?」その問いに素直に頷くと先生は申し訳なさそうな表情を浮かべた後で「すまないね、本当なら色々と準備を手伝ってあげたいところなんだけど今はちょっと手が離せそうにないんだよ……なので申し訳ないけど今日はこれで帰ってもらっても構わないかな?」と言われたもののこちらも最初からそのつもりだったのですぐに承諾するとそのまま学校を後にする事にした。

14 こうして自宅に戻ってきた後、部屋のベッドで横になっていると唐突にインターホンが鳴った――慌てて出るとそこにいたのはなんとミホだった。「……あっ、ごめんね!こんな時間に突然訪ねてきちゃって迷惑だったよね……?」こちらの様子を伺うように聞いてきた彼女を部屋の中に入れるとひとまずソファーに座らせた後で俺は冷蔵庫から麦茶の入った容器を取り出してコップに注ぐなりそれを差し出すと彼女は一口飲んで喉を潤すとホッと一息をついた後で話しかけてきた。「……あのね、実は貴方に大事な話があるのよ……だから聞いてくれるかしら?」そう言ってきたので小さく頷いて了承の意思を示した。

15 それからミホはこれまでの経緯について語り出したのだがその話は非常に信じ難い内容ばかりだったので最初こそ半信半疑であったが彼女の真剣な表情を見ていた事もあり、最終的には信じる事にした。なぜならここまでの話でようやく分かった事があったからである……それは彼女が何者なのかという事であった。それというのも以前に見た夢の内容を思い出した事からまさかとは思っていたものの、その予想は的中しておりどうやら彼女は俺と同級生だったらしいのだ。そう考えた上で更に話を聞いていると驚くべき事実が発覚した……それはミホの正体がかつてのクラスメートだったという事だ! それを聞かされた瞬間、俺の頭の中は混乱してしまったがそれでも何とか落ち着こうとした……何しろ相手は既に死んでしまった人間なのだと思い込んでいたからである。しかしここで重要な事に気付かされた――いや、思い出したというのが正しいのかもしれないが、以前夢の中で見た時は顔を思い出せなかったものの名前だけははっきり覚えていたという事だ……! それからしばらくの間、彼女と話をしているうちに徐々に当時の記憶が甦ってきた事で遂に全ての出来事を思い出した俺は嬉しさのあまり思わず泣いてしまった――何せもう二度と会う事は無いと思っていた相手に再会出来ただけでなく過去の事を思い返す事が出来るのだから。そしてそれは彼女も同じだったのか涙を浮かべていた。

そうして互いに泣き止んだ後で改めて自己紹介を済ませたところで気になっていた事を聞いてみようと思ったが既に遅かったようだ……何故なら彼女はとっくに眠りに入っていたからであった。

16 こうして新たな一歩を踏み出す事を決意した日から早くも一ヶ月が経過してしまった頃の事だった――俺はすっかり通い慣れた道を進みながら学校へと向かっていた……その道中で例の公園を通りかかるとベンチに座っている人物と目が合ったので挨拶をすると向こうも微笑みながら返してきた後でこう言ってきた。「おはよう、何だか元気がないみたいだけど大丈夫なの……?」心配そうに声をかけてきたミホに対して何でもないと答えた後で俺はその場を後にした。

そして放課後になった頃、俺は一人教室に残っていた……というのも授業が終わった直後、いつものように他の生徒に誘われるがまま遊びに行ったのはいいが途中で財布が無い事に気付いたので一旦、校舎に戻ってきたからである。それからしばらくして何とか見つけ出して帰ろうとしたその時、後ろから声をかけられて振り返るとそこに立っていたのはまたしても彼女――ミホであった。「あの、もしかして財布を探しているのかなって思ったんだけど違ったかな……?」遠慮がちに尋ねてきた彼女に頷きながら事情を説明すると「だったら私が一緒に探してあげる、こう見えて探し物は得意なのよ!」と言った後で早速手伝ってくれたおかげで無事に見つける事が出来たので礼を言いながら頭を下げると「どういたしまして、でも次からはちゃんと確認しなきゃダメだよ!」と言われた後で二人で笑いながら校舎を出ると正門前で偶然にも担任の先生に遭遇した――そこで俺達は立ち話をしながら途中まで一緒だった帰り道を辿り始める事になったが、ふと先生がこんな事を口にした。「それにしても最近の君は変わったよな……前まではずっと無口だったから心配だったけど、今じゃ明るくなってクラスのみんなとも仲良くやっているみたいだし先生としてはとても嬉しいよ」それに対して俺もまた同じ気持ちだと答えると続けてこんな質問をしてきた。「ところで最近になって何かあったのかい?例えば誰かと一緒に遊んだりとか、あるいは恋をしたりしたとかそういう経験をした事があるなら是非聞かせてほしいんだが……」それを聞いて一瞬ドキッとしたがそれでも動揺する事なく正直に答えた――するとそれを聞いた相手は嬉しそうに微笑んでいた。

そんな会話をしている最中にも自宅が見えてきたので挨拶をして別れる間際、不意に呼び止められたかと思うと「君には君だけの生き方があるんだしこれからも自分なりに頑張ってくれよ」と励ましてくれたのだった……その言葉は俺にとって何よりも励みになるものであった。

17 こうして学校生活を満喫していたそんなある日の事、たまたま通りかかった時に耳にした生徒達の会話を耳にした途端に俺は衝撃を受ける事となった――その内容とはなんと先日に開催された学園祭の最中に起きたとある事故に関するものだったからだ。そしてそれについて詳しく話を聞こうと思った矢先、近くにいた女生徒がこちらに気付いて近付いてくるとこう言った。「あれっ、相島君じゃん!ねぇ、丁度良かったわ!今から時間あるかな……ちょっと話しておきたい事があるから来てくれる?」そう言ってきたので頷くと手を引かれる形で連れて行かれた先は空き教室でそこには既に数人の男女がいたがその中にミホの姿もあったのですぐに声をかけるなり声をかけた。「おい、どうしてここにいるんだよ……というかそもそもなんでお前までいるのか説明しろよ」それに対して少し困った顔をした後でこう答える。「……実は私達、付き合ってるの……ほら、これ見て!」そう言って見せられたのは一枚の写真で、そこに写っている人物を見た俺は驚きを隠せなかった……何故ならそれは紛れもなく自分自身だったからだ! それを見ているうちに一つの疑問が浮かんだ――という事は、もしや目の前にいるミホの正体というのは?そう考えていた俺に対し彼女が告げたのは衝撃的な一言だった。

18……私はね、貴方の本当の姿を知っているのよ……だから、今こそ教えて頂戴……貴方が誰なのか、一体誰のおかげでここにいられるのか……ね?」そう言われた瞬間、全てを悟った俺は自分の本名を明かしてから静かに頷くとそのまま全てを打ち明けた――かつて魔王と戦った際に受けた傷が原因で死を迎えたはずの自分がなぜ未だに生きていられるのか、それどころか今まで生きてきた日々の中で何があったのかも含めて包み隠さずに話したところで改めて彼女に感謝の言葉を送った。すると彼女もそれに応えるようにして微笑んだ後で今度はこんな話をした。

「……実は私ね、貴方に出会う前に不思議な女の子に出会ったの……その子は幽霊なのに不思議と温かい感じのオーラを持っていてまるで女神みたいな人だった……だけどその女の子が私の事を助けてくれたおかげでこうして今でも楽しく過ごせる事が出来ているのよ……だから本当に感謝しているの、だから貴方にも知っておいてもらいたかった……ただそれだけなの」そう言った後で再び俺に抱きついてきたミホはそのまましばらく離れようとはしなかった……そんな彼女の気持ちに応えるべく俺もまた同じように抱き締め返すのだった……

19 そして次の日の事だった――突然、学校中にある放送が流れ始めたのだがそれがあまりにも突拍子もない内容だったもので誰もが困惑していたところだったがその直後、校内中に悲鳴が響き渡った。俺は何事かと思って廊下に出るなり辺りを見回してみたものの何も無かったのでとりあえず近くの窓から外を見てみたところなんと大勢の人達が宙に浮いていたから驚いてしまった! 慌てて下の方を覗き込むようにして見てみたがその真下には誰もおらずどうやら屋上にいるようであった。それからしばらくすると今度は校舎内にいる全員が次々と浮き上がり始めておりその様子を見ていた他のクラスメート達が次々に悲鳴を上げながら教室から出て行こうとしていた……だが俺だけは全くその場から動こうとはしなかった――いや、正確に言えば動く事が出来なかったのだ!というのも俺が立っている場所もまた空中に浮かんでいる状態にあったからである……それもなぜか分からないものの自分だけは床に足をつけて立っていられたのである! それからしばらくしてようやく異変の原因が判明した……それは何とこの学校そのものが浮いている事が判明してからすぐに全校集会が行われる事となったのだがそこで教師達は信じられない事を話し始めた――つまり今、起きている事は何者かによる仕業であるという事だった! 20 確かに思い返してみればおかしな点はいくつもあった……例えば昨日の夕方に起こった謎の光だ。あの光はおそらく何かの現象だったものと考えられなくも無いのだが問題は何故、そのタイミングであんな事が起きたのかという部分だった。更に言うなら学校全体が宙に浮いているという状況に誰かが気付くだろうにも関わらず一向に騒ぎにならないのも妙といえば妙な話ではないか……! それらの事を改めて考えてみると、もはや答えは一つしか思い浮かばなかった――すなわち何者かが学校の設備を操作したとしか考えられないのである!しかしそうなると気になるのはその目的であるが、いくら考えても分からなかったので仕方なく後回しにして次に考えたのが何故、今になってこんな行動に出たかという点であった。なぜならこれはまだ始まりに過ぎないかもしれない可能性があったからだ――現段階ではあくまでも憶測でしかない為、断定は出来ないまでも警戒する必要はあると感じていたのだ。

そして翌日になるとまたしても同様の事件が発生した事で今度こそ確信に変わった――それはやはり外部から何者かが学校に対して何らかの影響を及ぼそうとしている事が明らかになってきたからである。とはいえ昨日とは違いこちらは比較的小規模ではあったのであまり混乱に陥る事は無かったものの、このまま事態が悪化していけば大変な事になるのは間違いないと誰もが思っている中、ついに犯人と思しき人物からのメッセージが届くのだった。『我が名は暗黒教団の幹部の一人であるカケルである。我々は現在、お前達人間を抹殺する為に準備を進めている最中であり、そのためにもこの学校に隠された秘宝とやらを探し出そうとしているのだ。もし我々の邪魔をすればどうなるかは言わずとも分かるであろうからせいぜい頑張る事だ……』そこで終わった直後、俺のスマホに通知が届いたので確認するとこんな内容が書かれていた。

『お前は我々にとって必要な人間だ……だからこそ生かしておいてやろうと考えているのだがそれを決めるのはこちらなのだ』

それを読んだ直後に俺はハッとした――というのもこれまで何度か感じたあの感覚が再び襲ってきたからである……そして同時に思い出したのはかつての戦いで死んだはずの親友や家族といった面々の姿だったがいずれもハッキリとした記憶ではなく夢で見ただけのようなもので、しかもそれらの大半は自分に関わるものだった。

そう、まさに今のこの瞬間こそが自分にとって大切な時間だという事に気付かされたからこそ思わず涙ぐんでしまう程の感情が沸き上がってきた……と同時に俺は悟った――きっと自分はこの戦いが終わるまでずっとここで生き続ける運命なのだろうと……だからこそ今は目の前の脅威を何としてでも阻止しなければならないと改めて心に誓ったのだった。

21 そんな訳で学校側が警察と協力して調査を開始した一方で俺達はいつものように登校して普段通りの生活を送っている間に一日を終えた俺は放課後になって帰宅する事にしたのだが校門を出る前にふと立ち止まって考え事をしていたその時、「やぁ、こんな所で会うなんて奇遇だな!」と言いながら話しかけてきた人物がいたので顔を上げるとそこにいたのはミホと同じクラスの女生徒だった……名前は確かユキノだったっけ?と思いながら頷いていた後で早速用件を聞いた所、返ってきた言葉がこうだった。

「今日は珍しく一人なんだね、もしかしてこれから帰るとこだったりするのかな?」それに対して肯定の意思を示すように頷いた後で逆に質問をしてみたところ笑顔で答えてくれた……なんでも彼女は今日に限って一人で帰る事になったらしく暇だったので誰か知り合いを探そうとしていたのだそうだ。それを聞いた俺はそれならちょうどいいと思い彼女を誘ってみることにした――そしてその結果、快く了承してくれたのでそのまま一緒に帰る事になったのだが歩きながらお互いの話をした後で不意にこんな事を口にした。「ところで相島君は最近何か良い事でもあったりするの?」それを聞いて一瞬、戸惑った俺だが素直にこれまでの事を話すことにした……すると彼女は笑いながらこう言った。

「なるほどね~そんな事があったんだ……だけど、そういう思い出って結構忘れちゃったりするものよ?それに誰だって忘れた方が良い事もあるしね!」それに対して俺は少し考える素振りを見せるとこんな返事をした。「……まぁ確かにそうかもしれないけど、俺にとっては今こうして話している時間が一番の思い出だから大切にしたいなって思うんだよ」それに対して彼女が不思議そうに首を傾げたので俺はさらに続けた。

「だってさ、今こうしてお前と一緒にいて話をしてるだけでも十分に楽しいしこれからも仲良くしていけたらって思ってる……もちろん迷惑じゃなかったらの話だけど……」それを聞いていた彼女の表情が明るくなったのを見て俺もまた自然と笑顔になった後でそのまま歩き続けていた。「……ねぇ、今度うちに来ない?」突然の誘いに驚いた俺が慌てて聞き返すと彼女からはこう返された。

「私ね、君ともっと仲良くなりたいと思ってるんだけどダメかな……?」そう言われて断れるはずもなく頷いた後で彼女と連絡先を交換するとその日は別れた後で家に着くとすぐに寝てしまった。ちなみに後日、連絡を取り合った際にデートに誘われたがその行き先については敢えて伏せておこうと思う。なぜならそこは俺と彼女にとってとても大事な場所だからなのである! 22 ミホから告白を受けた次の日の事だった――その日もまた例によって校内中が浮き上がった状態で学校生活が始まるのかと思っていたが特に変化はなかった為、不思議に思った俺がその理由を考えている内に一つの結論に至った。

つまり昨日の事件は学校側が仕掛けたものであり、自分達に危機感を与えるためのデモンストレーションに過ぎなかったのだと気付いた時には既に手遅れになっていたのである。何故ならその日の昼休みが終わる頃に学校全体が巨大な影に覆われたかと思うとそこから何かが落下してくるような気配を感じた次の瞬間には凄まじい衝撃が襲いかかってきて屋上にいる俺だけでなく周囲の建物も巻き込んでいったのでそのあまりの凄まじさにしばらく身動きが取れずにいた。ようやく動けるようになって屋上から周囲の様子をうかがってみたもののそこにはもはや先程までの景色はどこにもなく全てが消し飛んでしまっていた。当然、学校そのものが無くなってしまった以上、ここにいてもしょうがないと判断した俺はその場を後にした……

そうして無事に帰宅してから部屋で一息ついていると急に目眩に襲われて倒れそうになったところ、咄嗟に何かに掴まろうとしたところで目が覚めた。「……なんだ、夢か……」そう思った途端に安心した自分がいたがそれは無理もない話だった……というのも実際に俺は夢の中で学校の屋上にいた訳なのだがそこに現れた人物を見て驚愕してしまったからだ!何故ならその人物というのが今、目の前にいる少女だったのだから……そこで俺はハッとすると慌てて周囲を見渡したのだが幸いにも誰もいないようでホッとした。

だがそれも束の間、すぐに違和感を覚えたので再度確認してみるとなんと目の前に立っている少女の体が透けている事に気付いたので思わず大声を上げながら飛び退くと向こうも驚いており、それからお互いに自己紹介を済ませてから状況を確認し合うとどうやら俺達には共通の秘密がある事が分かった。そのおかげで打ち解けた事で徐々にではあるが心を開いていくと今度はこんな質問をぶつけてきた。「ねえ、私達ってさ本当に恋人同士なのかなぁ?」それに対し首を傾げていると再び問いかけられたので俺はこう答えた。「そうだな、たぶん間違いないんじゃないか?……もっとも本当のところはよく分からないけどさ」

するとそこで彼女は笑い出した。

その無邪気な様子を眺めていると不思議とこちらまで明るい気持ちになれるのでいつの間にか俺も一緒になって笑っていた。そんな俺を見て彼女はますます笑みを深めると続けてこんな言葉を口にするのだった。「私は貴方が大好きです、そして貴方も私を好きでいてくれると嬉しいなって思っちゃったりするんですよ?」それに対して頷くとそれを見た彼女が満足気に頷くなり手を繋いだ上で二人で歩き出した後で校舎の外にある校庭に向かって歩いていき、やがてたどり着くなり手を繋いでいると不意に辺り一面が光り始めたので目を開けていられなくなった俺達は目を閉じた。その後、しばらくするとどこからか声がしてきたので耳を傾けてみるとこんな声が聞こえてきた。

『汝らはお互いを想い合いながらもすれ違ってしまったようだが、それもここまでだ……後は二人の手で幸せな結末を掴み取るがいい』

そしてその直後、俺は意識を失った……。

23 目が覚めると最初に目に入ってきたのは見慣れない天井であった。「……ここは、どこだ?」そう呟きながら体を起こした所でふと隣を見た俺は思わず叫びそうになったものの寸前のところでどうにか抑え込む事に成功した。何故ならそこにいたはずの彼女がどこにもいなかったからで更によく見ると自分のいる場所が保健室のベッドの上だという事に気が付いた事でようやく状況が飲み込めてきたのでホッと胸を撫で下ろした……というのも先程、見ていたのは悪夢のような出来事であり現実ではなかったのだという事実をようやく受け入れられるようになったからである。

それから少しして落ち着きを取り戻した頃になって改めて周囲を見回した結果、やはりこの場所にいるのは自分だけのようだと悟った瞬間に強烈な孤独感に襲われた俺は寂しさを紛らわせるためにスマホを取り出してみると一件のメッセージが入っている事に気付いてそれを開いてみると、それが母親からのものだと判明した瞬間に飛びつくようにして読んだ後ではすぐさま彼女に電話をかけた――だが、何度かけてみても一向に出る気配がなかったのでやむなく留守電を残す事にした。ところが肝心の内容について何も考えていなかったせいで結局悩んだ末に無難なものしか残らなかったがとりあえずこれでいいだろうと思って電話を切った後で小さく溜息をついた後に呟いた。「はぁ~なんでこうなるんだろう……」

そうしていると誰かが近づいてくる気配を感じ取った俺は反射的にそちらに目を向けるとミホがいた……しかもなぜか制服姿のままで立っていたので思わず面食らってしまったのだがそれでも何とか気を取り直した後で声をかけようとした時、先に向こうから声をかけられたので驚いているとこんな事を言われたのだった。「ユウ君、ごめんね……さっきは電話に出られなくて……実はさっきまでお母さんと一緒にいたんだけど、その時にちょっと用事ができたからって言われて仕方なく帰ってきたところだったんだよ~」「あぁ、そうだったのか……いや、俺の方こそごめんな……いきなり電話かけたりしてさ」それに対して彼女が首を横に振った後で笑顔を浮かべるなりこんな事を言った。

「ううん、気にしないで!……それよりも、さっきの話の続きなんだけどね?せっかくだし、ここで続きをしよっか!」「え……?続きって何の事だ……っていうか、そもそもここどこだよ!?」

24 あれから俺は改めて彼女から聞いた内容を整理する為に少し考える時間をもらう事にして一人で考え事をしていると不意に肩を叩かれてしまったので振り向くとそこにいたのは何とカレンだったので驚いた俺は思わず仰け反りながら叫んだのだがそれに対して彼女は笑みを浮かべながらこう返してきた。

「あははっ、驚かせちゃったみたいだね~ごめんごめん」「……まぁ別に構わないけどさ……それにしてもお前ってよく笑うようになったよな?」そう言うと彼女は嬉しそうな顔をしながら答えてくれたのでその様子を眺めていたのだが直後にこんな事を言ってきた。「うん、やっぱり笑顔が一番だよね!……でもさ、私だけじゃなくてみんなだって笑顔の方が絶対に素敵だと思うよ!」「そうかぁ?俺なんかよりミホとかの方がよっぽどいい顔してると思うけどなぁ……」それを聞いたカレンはクスクスと笑った後でこう言った。

「ふふっ、それは違うよ~確かにユウ君が一番じゃないかもしれないけど私が見る限りではユウ君の笑顔が1番輝いてるように見えるんだよ~!」それを聞いて複雑な心境になった俺が黙ってしまったのを見た彼女はなおもこう続けてきた。「だからもっと自信を持って良いと思うよ!少なくとも私は応援してるしいつだって味方でいてあげるからね♪」その言葉を聞いた俺は照れくさくなったものの悪い気はしなかったので感謝の気持ちを伝える為にも笑顔で返すとそれを見た彼女もまた笑顔になるのだった……

こうしてしばらくの間、二人きりで過ごした後になってから俺はある事を思い付いた。「そういえばさ、前に話したけど俺が作った料理を食べてみない?そろそろ完成しそうなんだよな」そう言って彼女を誘い出すことに成功した俺はそのまま屋上に向かうとその最中にも会話を続けてからようやくたどり着いた時には既に日が暮れていたので日が落ちるのが早まっていると感じた一方でその分だけ寒さが増しているような気がしたものの特に気にしなかったので早速、料理を食べようという事になり完成したものを食べさせようとしたものの、その時になって肝心な事に気が付いたので慌てて中断したのだがその際には既に遅かったらしく、それを目にした彼女がとても悲しそうな顔をしていたのを見て心が痛んだのですぐに謝って謝った後で今度こそ手渡すと嬉しそうに頬張り始めたのでその様子を見守っていた俺だったが完全に油断していた事もあり、突然、口元を押さえたかと思えば苦しげに悶えていた彼女を見て急いで駆け寄ると声をかけたり背中を擦ったりしたものの効果がないようだったのでパニックになっているうちに彼女の容態が悪化すると次第に意識が薄れていくのを感じた。「……あれ、ここはどこだ……?」そう思いながら周囲を見渡してみるとそこには誰もいないばかりか景色が真っ白なのでますます混乱してしまったもののそこでようやく自分が置かれている状況に気が付く事になった。何故なら今の自分は制服を着ておらず何故か白いワンピース姿で立っている事に気付いたからだった……そして何よりも不思議なのはこの空間に存在しているのが自分だけではないという確かな実感があって尚且つ他にも複数、存在しているような気がしてならなかったからだ。

そんな状況に陥った事で不安に駆られながらもここから出る手段を模索しようと歩き始めたのだがそれから間もなく何もないと思っていた前方に突如として扉が出現した事で呆気に取られた次の瞬間には扉を開いてその中に入った途端、目が覚めたので時計を確認したところ、どうやら時間にして約3秒ほどの出来事だったらしい……そこでふと思い出した俺は枕元に置いてあるスマートフォンを手に取ると着信履歴を確認してみた所、やはりミホからの不在着信が入っていた事からかけ直そうと決めてから画面を開くと留守電が残っている事に気が付いた。

『あっ、ユウちゃん……ごめんね!こんな時間に電話をかけたりして……どうしてもすぐに伝えたい事があったんだ』

『えっとね……今日、私は生まれて初めて男の子とキスをしたの!』……それを聞いて最初は何かの間違いだろうと思ったものの次に聞こえてきた言葉によってそれが現実のものである事を理解させられた俺は思わずガッツポーズをすると大喜びした挙句、その後に続く言葉を聞き逃さない為にスピーカー機能をオンにしたのだった……というのもこの時の俺にはもはや彼女が何を言っているのかさっぱり理解できず、唯一理解できたのが例の夢の事だけでそれ以外は全くといっていい程に理解できなかったのだ。だがそれも束の間で最後の部分を聞き終えるなり完全に固まってしまった俺の体はやがてブルブル震え始めたと思ったら途端に目から涙が溢れてきた事で慌てて手で拭おうとしたがその手さえも震えていたせいでなかなか思うようにいかないので諦めてしばらく泣き続けていた……

それからどれ位経っただろうか……やっと落ち着いたところで再び再生しようとした際に手が震えている事に気付いた俺は溜息をつくと一旦、深呼吸をしてから気を引き締めると気合いを入れてもう一度聞いた結果、またしても意味不明な発言が聞こえた事に困惑しながらも今度はしっかりと聞き取れた内容をまとめてみると、以下のようになった。

まず、結論から言ってしまえばミホはキスだけでなく更にその先の事を求めていた事が分かった……とはいえさすがにこれには驚きを通り越して困惑したものの同時にそこまで好かれていたという嬉しさもあってすっかり上機嫌になっていたところに続けて聞こえてきた内容を耳にした瞬間、愕然とした。というのもその次の内容が衝撃的なものであったからだ……というのも彼女は夢の中で俺に告白をされてそれを承諾した上で恋人同士になったまでは良かったもののそれからというもの、一向に進展がないまま今に至っているのが我慢ならないという理由で自ら俺をベッドに誘って行為に及んだのだという……そして、これがミホにとっての初体験となった訳だがその際、かなり強引になってしまったのでもしかすると嫌われてしまうかもしれないと思った矢先に目を覚ましてしまったらしい……だがそれでも諦めきれなかったミホは俺の電話番号とメールアドレスをメモしておいた上で別れ際にキスをしてきた事で満足してくれたのか最後は笑って帰って行ったそうだ……つまり、彼女が言っていた話したい事というのはまさにこの事だったのである。「あぁ……なんてこった……」

そんな事を考えていた俺はいつの間にかその場に蹲っていた後でそのまま頭を抱えているとそこへ誰かがノックする音が聞こえた為、慌てて起き上がるなり返事をするなりで対応した結果、入ってきたのは母さんだったので思わずドキッとしたのだがそれ以上に驚かされたのは相手がまだ中学生くらいの少女を連れてきておりその子のお腹が大きく膨らんでいた上に明らかに出産直前といった感じだったからである……ちなみに彼女については後から知った事なのだが俺と同年代だという事もあり、仲良くなれそうだと思っていただけに内心ガッカリした。そんな気持ちを隠しながら会話を続ける事にした俺が早速気になった点を聞いてみると案の定、返ってきた答えがあまりにも予想外なものだった。「それで、この子の名前はもう決まってるの?」「えぇ、もちろんよ!私の大切な娘なんだからちゃんとした名前を考えておかないとね!」「ふーん……どんな名前なんだ?良ければ教えてくれないか?」「うん、いいよ!この子はね、私の娘だから『ミナト』って名前にしようと思ってるのよ」「へぇーそうなんだ……でもなんでその名前を選んだのか理由を聞いてもいい?」そう尋ねると相手は少し考える素振りを見せた後で口を開いた。「……うーん、特にこれといった理由はないかな?強いて言うならなんとなく思い浮かんだ名前がそれだったというだけの話だよ」それを聞いて驚いた俺だったがすぐに別の質問をぶつけてみた。「じゃあ、もしかしてさ……ミホと知り合いだったりとかするのかな?」「え……?どうしてそんな事を聞くんだい?」不思議そうな顔をする相手に対して俺はある確信を抱いていたので思い切って言ってみる事にした。

25「なぁ、お前ってさ……ミホだろ?違うか?」「え!?な、何を言い出すのいきなり……」「いいから黙って俺の質問に答えてくれよ……どうだ、当たってるか?それともただの人違いか?」「……う、ううん、その通りよ!よく分かったね!」「あぁ、何となくだけどそんな感じがしてたからさ……」「そっか……それなら仕方ないよね」

するとその直後、突如、目の前の光景が一変したかと思うと気が付けば目の前には見覚えのない部屋の景色が広がっていたので慌てて周囲を見回してみるもどこにもいなかったのでとりあえず誰かいないかと探して回ったのだがいくら探しても誰もいなかった為に途方にくれていると後ろから誰かに呼ばれた気がしたので振り返ったところそこにはさっきまで一緒に話をしていたはずのミナが立っていた。「おい、どうしたんだよ?さっきからぼーっと突っ立ってるけど何か悩みでもあるのか?」そう言われてようやく我に返った俺は彼女に謝罪した後に先程の事を話すと何故か笑い出した後でこう言った。

「……ぷっ、アハハハッ!……何だよそれ、一体どういう事なんだよ!?」「いやいや、それはこっちの台詞なんだけどさ……何でお前はここに居るんだ、そもそもここはどこなんだよ……?」「はぁ?……おいおい、マジで大丈夫かお前?まぁ、別に心配する必要はないぜ、だってここはお前の夢の中だからな」「へ……?いや、ちょっと待てよ……俺が見てる夢って事なのか?でも、それにしちゃあ妙にリアルな感じがするんだが……」「んー言われてみればそうかもなぁ……っていうかそんな事よりもお前に一つ、大事な話があるんだけどいいか?」「……何だ?」「実はさぁ……私はユウの事が好きだったんだよ」「……へっ?い、今何て言った……?」「だからぁ、俺はお前のことが好きだったんだって何度も言わせんなよな~」「す、好きってどういう……ていうか本当に俺の事が好きなのかよ……嘘じゃないのか?」「あぁ、本当だよ……だからこそ今まで隠しておくつもりだったんだけどさ……さっきのキスがきっかけで我慢できなくなったらしくて気付いたら夢の中で押し倒してたみたいでさーいやーほんとビックリしちゃったよ……アハハハッ!!」それを聞いて唖然としている俺をよそに爆笑しまくる彼女を見ながら思った事はただ一つ……

(コイツ、やっぱりミホじゃないな)そう確信した俺はすぐにこう告げた。「……悪いんだけどさ、そろそろ正体を現してくれないかな?多分、気付いているとは思うけどさ……」それに対して先程まで笑っていたのが急に黙り込むと暫くした後でようやく返事をしたかと思えば「あーあ、気付かれちゃったかー……せっかくユウちゃんと楽しくお喋りしてたのになぁ……」そう言いながら頭を掻き毟り始めたのを見て俺はある疑問を口にした。「そういえばさ、どうして君はこんな場所に一人でいる訳?」「ん?あー、まぁなんていうか……私はここに閉じ込められてるからなーっていう感じなんだよね」それを聞いた俺が思わず聞き返したところ相手は溜息をつくなりこう続けた。

「実を言うと私も昔は普通だったんだけどさ……いつからか分からないけどある日を境に性格がガラッと変わっちゃって気が付いた時にはこうなってたんだよな」「……なるほど、そういう事だったのか」「そうそう、あの時は色々と苦労しましたねぇ……まぁ、今ではすっかり慣れちゃったけどさーあっ、因みにアンタの記憶にあるミホってのは私が作り出した幻影みたいなモノだからさ、あまり気にしないでくれてもいいよーむしろ、あんな子の方が都合が良いんだよね」それを聞いた俺は一瞬、頭にきたもののすぐに冷静さを取り戻すと気になっていた事を聞いてみた。「……それでさ、ここから出るにはどうすればいいと思う?」「……うーん、それが分かればこんなに困ってないんだけどねーまぁ一つだけ心当たりがあるとしたら夢から覚める事じゃないかなぁ?」その話を聞いた俺は改めて周囲を見回したがやはり出口らしきものは見当たらないばかりか先程、見つけた扉も何故か消滅しており完全に手詰まりの状態になっていた。

そんな状況に不安を覚えつつもどうしたものかと考えていたその時、背後から声を掛けられたのに気付いて振り返るとそこにはミホの姿があった……しかしその姿は半透明でしかも所々、透けている事に気付いた俺が驚いている間に近づいてきた彼女が突然、抱きついてきたので動揺した俺は慌てて引き離そうとしたものの相手の力があまりにも強かったせいか全く離れる気配がなかっただけでなく耳元でこんな事を囁かれると同時に首筋を舐められたので思わずゾクッとした途端、今度は耳に息を吹きかけられてしまい変な気分になってしまった。(……ま、まずいぞ……このままだと色々とヤバい気がする……!)そう思ったものの身動きが取れずになすがままになっていた俺の体はついに反応してしまい徐々に火照ってきたのを感じ取った相手がニヤニヤしながらこちらを眺めていたのに気づいた直後、このままではいけないと危機感を覚えた俺は何とか逃げようとしたのだが体が痺れてしまったせいで思う様に動かせずにいる事にもどかしさを感じていると彼女がゆっくりと顔を近づけてきたので思わず身構えるとそこでふとある事を思い出した。

(……そういえばミホが俺に告白してきた時も確かこんな風になってたよな……?もしかしてこれはあの時のお返しという事なんだろうか……?だとしたら俺も覚悟を決めないといけないな……)そう考えた俺はそっと目を閉じるなり体を預ける事にした――その結果、唇を奪われた後、更に耳や首といった箇所を責められて悶絶してしまった結果、息も絶え絶えになりながらも辛うじて意識を保っている状態になっていたのだがそんな時、耳元に顔を寄せていた相手がこんな事を口にし始めた。「フフッ、これでもう準備は整ったね~後は仕上げだけ……それじゃ最後の一踏ん張りいくよ~!」そう言って再び襲い掛かって来た彼女の行動によって絶頂を迎えさせられた直後に目が覚めた俺はその場で暫くの間、呆然としていたのだがしばらくして落ち着いてくると途端に先程の事を思い出して恥ずかしさが込み上げて来た為、布団を被るなり身悶えていると不意にドアをノックする音が聞こえたので返事したところ部屋に入ってきたのはミホだったので慌ててベッドから飛び起きると相手の方へ顔を向けたものの何も言えずにいたのだがそんな俺を心配した彼女が声をかけてきたので返事をしようとしたところでいきなりキスをされた挙げ句、舌を絡ませられてしまい頭が真っ白になった俺はただされるがままにされていた。

「おはよう、ユウくん……どうしたの?ボーッとしてるけど大丈夫?」「えっ……?あ、あぁ……だ、大丈夫だよ!それよりちょっと喉が渇いたからお茶でも淹れてこようと思うんだけどミナは何を飲む?」「うん、ありがとう……それじゃあ冷たい麦茶が欲しいな」「分かった、ちょっと待っててくれ!」そう言うと俺は急いで部屋から出て台所へ向かうなりグラスを取り出すなり氷を入れるなりしてから部屋へ戻ると早速、二人分のお茶を注いでからテーブルの上に置いておいた。「ほら、お待たせ……って、あれ?どうした?」「ううん、何でもないよ……それよりもさ、昨日はどうだった?ちゃんと私を満足させてくれたかな?」その一言を聞いた瞬間、俺は飲んでいたものを吹き出しそうになり慌てて堪えた後で大きく咳き込んでしまった。

26「ゴホッ……ちょ、ちょっと待て!それってどういう意味だよ?」「えー、そのまんまの意味なんだけど?というか昨日、何があったか覚えてない訳じゃないんでしょ?それなら今更しらばっくれる必要なんてないよねー」「いや、あれは……そ、そもそも俺は別にそんな事、一言も言ってないからな!?」「ふーん、そういう割には随分とお楽しみだったようだけどなー……」そう言われた俺は言葉に詰まってしまったがどうにか話題を変えようと考えを巡らせていたところふと気になる単語を耳にしたような気がしたのでそれについて尋ねてみた。「そういやお前、さっき満足がどうとかって言ってたような気がするんだが一体何の事なんだ……?」「え……?それは昨日のアレに決まってるじゃん、もしかして寝ぼけてたの?」そう言われて思い返してみると確かに思い当たる節があったので小さく頷いたところそれを見た彼女は笑いながらこう口にした。

「へぇ、意外だなぁ~ユウはてっきり朝にはしっかり起きてそうなイメージだったのに案外お寝坊さんなんだね!」「……う、うるさいな……そんな事よりもいい加減教えてくれないか?昨日の夜にあった事を」するとそれを聞いた彼女は一瞬だけ考え込む素振りを見せた後で静かに話し始めた。「……うーん、本当はあんまり話したくはないんだけどここまで知られちゃってるなら仕方ないよね……えっとね、実は昨晩のうちにユウのお母さんに会って話をしたんだよ」それを聞いて驚きながらも何故そのような行動に出たのかを尋ねたところ予想外の答えが返ってきたので驚いたものの納得できない点があった為、それを問い詰めてみるとようやく話してくれた……というのも俺がミウに対して話した内容が全て嘘であると見抜かれてしまったらしい。

その後、話の内容を全て聞いた後で何か心当たりがないかどうか聞かれた際に素直に答えたところ納得した様子を見せたので安心した俺だったのだがそれと同時に一つ、疑問が生まれた為に質問してみたところ案の定、知らないと答えられてしまったのでこれ以上、聞いても無駄だと判断して引き下がったのだった。それから数日後、いつものようにミホと一緒に下校していると例の事件について考えていた時に彼女がある提案をしてくれたので俺はそれに乗る事にした。「……という訳で今日はここでお別れだな、ミホ」「そうだね、また明日……じゃなかった、今日の夜にいつもの場所で会おうね」こうして彼女と別れた俺はある場所へ向かうべく足を進めていった。

そうしてたどり着いたのは以前にミユ達と待ち合わせをしたあのビルだったが既に夜遅かった事もあり人通りが少なかったせいもあってか周囲に人の気配は全く感じられなかったのでこれ幸いとばかりに建物の中へ入るなり屋上を目指してエレベーターに乗り込むなりボタンを押すなりした。そして無事に目的の階まで到達した事を確認して降りるなり辺りを警戒しながら進んで行くと程なくして目当ての扉を発見したのでゆっくりと開いて中に入るなり鍵を閉めてから改めて辺りを見回してみる事にした。

(ここも前に来た時と同じだな……さて、そろそろ頃合いかな)そう思って時計を確認しようとしたその時、背後に誰かの気配を感じた俺はすかさず振り返ると同時に銃を構えてみせたのだがその瞬間、思わず固まってしまった。何故ならそこにいたのは俺のよく知っている顔であり以前と同様にこちらを見つめていたが明らかに様子が違っていたからである。その証拠に虚ろな目をしたままこちらへ近付いてきたかと思えば急に抱き着いてきてキスを始めたばかりかそのまま強引に服を脱がされてしまい困惑しているところへ更なる追い打ちをかけてきた為、もはやどうする事も出来ない状況に陥ってしまった……だがそこへ突如、ミホの声が聞こえてきた事で我に返った俺が我に返るなりすぐさま抵抗しようとしたところで再び動きを止められてしまうと今度はどこからか現れた無数の手が絡みついて身動きが取れなくなった直後、どこからともなく現れた鎖が両手首に絡みついたと思ったら一気に締め上げられて苦痛のあまり絶叫した挙句、思わず涙目になって助けを求めたもののその声は届かなかった。そこでいよいよ死を悟った俺は観念したかのように目を閉じたのだがその直後、全身に電流が流れた様な感覚に襲われた途端、意識が遠のいていきやがて意識を失ってしまった――

あれからどれ位の時間が経ったのだろうか?目を覚ました俺の視界に真っ先に飛び込んできたのは見慣れた天井であった。(……どうやら生きているみたいだな)そう思った矢先、部屋のドアが開き誰かが入って来るなりこう言った。「あら、ようやく起きたのね……気分はどうかしら?」その声の主が誰なのかすぐに分かった俺は慌てて上体を起こすなり相手の方を見ながら返事をした。「えっ……?あ、あぁ、少し怠いけど特に問題はないと思う……」それに対してクスッと笑ったかと思うと歩み寄ってきた彼女がこちらの額に手を当てたかと思えばこう告げた。

「それならよかったわ、もし貴方が死んだら色々と困るもの……何せ貴方は貴重な存在なんだから」そう言うとそっと手を離してから近くにあった椅子に腰掛けると溜息をつきながら続けて話しかけてきた。「全く、まさかこんな事になるだなんて思わなかったわよ……でも結果的に上手くいったから結果オーライってとこかしらね~」そう言いながらこちらを眺めている彼女に対してふと気になった事があったのでそれについて聞いてみる事にした。「なぁ、ルシフェル……あの時、どうして俺とミホの記憶を変えたりしたんだ?……やっぱりアイツの正体がバレたらまずいからか?」それに対し彼女が首を横に振りながら否定するなり逆に問いかけてきた。

「……じゃあ、聞くけどもしアンタの彼女が実は悪魔だって事が知られたらどうなるのかしらね?」「それは……多分、誰も信じないだろうしむしろ信じろという方が無理な話だと思うぞ?現に俺だって未だに半信半疑な位だしさ……」それを聞いた相手は鼻で笑った後、更にこう続けた。「フッ、そんなの当然よ……それにこれは単なる口実に過ぎないんだからね~まぁ、仮にアンタが信じてくれなくても私は一向に構わないんだけどさー」その言葉を聞いた俺は一瞬、理解が追いつかなかったがすぐにその意味を理解して唖然としていたのだがそんな彼女に向かって思い切って質問をぶつけてみた。「……という事はもしかしてお前の正体を知ってるのは俺だけって事なのか?」「そういう事になるわね……でも安心しなさい、私も別にバラすつもりなんて更々ないし寧ろそのつもりはないから」その言葉を聞いてもいまいち納得できなかった俺が首を傾げているとそれを見た相手がこんな事を口にした。

「……そもそもこの話はあくまでも仮説に過ぎないし本当にそうなのかもハッキリしないのよね……だから今の時点では何とも言えないってのが正直な感想よ……それでも一つだけはっきりと言える事はあの子にとってユウの存在は必要不可欠だったという事だけよ、だからあの子は自ら身を引いて離れようとしていたんでしょうね……ただそれも叶わなかったみたいだけど」そう言って意味深な笑みを浮かべた彼女を見た俺は戸惑いつつもどういう事なのかと尋ねようとしたのだがその前に彼女が言った。

「……そういえばまだ伝えてなかったわね、私がここに来た理由を……それはアンタに伝えるべき事があったからよ」「伝えるべき事……?それって一体……」俺がそう言い掛けた瞬間、目の前にいた彼女が突然、姿を消したので驚いて周囲を見渡したその時、後ろから何者かによって口を塞がれてしまった為に必死に抵抗するも力及ばずであっという間に押し倒された後、組み伏せられたまま身動きが取れない状態になってしまった俺を見つめながら彼女は静かに呟いた。「……単刀直入に言うわ、このままだと近いうちにユウの命が危ないのよ」それを聞いた途端に血の気が引いていくような感覚を覚えた俺は必死になって相手を振りほどこうとしたもののビクともしないまま、なおも語り掛けてくる彼女を睨みつけながら心の中で叫んだ。

(くそっ!何なんだよ、コイツは!?どうして俺にこんな事をするんだよ……!)そんな事を考えている間にも相手は淡々と話し続けている。「……でもね、私としてはそれは避けたいところなの……何故ならこのままいけば間違いなくあの子はユウの前から姿を消してしまうでしょう……でもそんな事、絶対にさせたくない……だって私にはもうユウしか残ってないんだもの……その為にも今から貴方にある提案をさせてもらうんだけど……もしそれを受け入れた場合、貴方は一生、元の世界へ帰る事が出来なくなってしまうわ……それでもいいの?」それを聞き終えた俺は思わず動揺してしまい反応に困っていたがそんな様子を気にする素振りも見せずに彼女は続けた。

「……フフッ、何を迷う必要があるっていうの?どうせ元の生活に戻ったところで楽しい事も何もないんだから今ここで死んでくれたほうがお互いにとって都合が良いじゃない……とはいえ、もちろん選択するのはあくまでも貴方の意思次第だから無理にとは言わないけどさぁ……一応言っておくと今なら引き返せるけどどうしましょうか……?」そう言われた俺はすぐに返事をしようとしたが何故か声が出ないばかりか指一本すら動かす事も出来なかったので戸惑っているとその様子を見かねたのか彼女が笑みを浮かべながらこう言った。「そんなに難しく考えなくて大丈夫よ、今すぐ結論を出さなくてもいいから……そうね、また後日ここに来てくれたら良い答えを聞かせてもらえると嬉しいんだけど……それでいいかしら?」その言葉に小さく頷いた俺を見て満足したのか彼女に対して背を向けるなりこの場を立ち去ろうとしたのだがその直後、背後から声を掛けられたので振り向くとそこには見覚えのある人物が立っていた。「へぇ、誰かと思えば君か~それにしても随分と早い再会になったね、お姉さん的には凄く嬉しく思ってるんだけどどうかなー?ほら、せっかくだし一緒にお茶でもしてかない?勿論、ご馳走するからさ!」「……悪いが遠慮させていただくよ、何しろこれから予定が立て込んでるのでな」そう答えたのはなんとミホ本人だったのだが驚いた事にその姿はまるで別人のようで口調も異なっていた上に髪色も黒ではなく明るい茶色に変化していた。

するとそれを聞いた彼女が残念そうな表情を見せながらもすぐに笑みを浮かべてこう告げた。「ふーん、そっかぁ……それは仕方ないよね、何せ君は忙しい身の上みたいだしさ……でも、もしも気が変わって時間があったら是非ここに寄ってくれると嬉しいかな♪じゃ、そういう訳で今回はここまでにしておきましょっかなー」そう言った後で指を鳴らした直後、周囲の景色が全て変わったかと思えば俺はいつの間にか元の部屋に戻ってきていたのだが先程の出来事を思い出している内に徐々に怒りが込み上げてきた為、思わず拳を握りしめながらこう呟いてしまった。

「……クソッ!何だよ、あいつは!一体何が目的であんな真似をするんだ!?」そこへ誰かが駆け寄ってくる気配を感じて咄嗟にそちらに目を向けるなり思わず身構えてしまったのだが次の瞬間、聞こえてきたのが聞き覚えのある声だったので恐る恐る振り返るとそこにいたのは紛れもなくミホである事が判明した。「良かった……目が覚めたみたいだね?大丈夫?」そう言いながら俺の身体を抱き寄せて頭を撫でてくれていた事で落ち着きを取り戻したところで先程の出来事について話そうとしたがそれを遮るかのように彼女が口を開いた。

「心配しないで……さっきのは私の分身だから」その一言を聞いて呆気にとられていると彼女は再び口を開くなりこんな事を口にした。

「さっきは本当にごめん……実は私、どうしても貴方に伝えなきゃいけない事があってそれで……」そこまで言い終えると急に口ごもったかと思うと視線を逸らしただけでなく頬を赤らめつつ黙ってしまったのを見て不思議に思った俺が首を傾げながら彼女を見つめているとようやく決心したのか意を決したような表情をしながらこう言ってきた。「あの、実は……ずっと貴方に隠していた事があるんだけど聞いてほしいんだ……」それに対して無言のまま頷いてみせるなり彼女がそっと目を閉じてからゆっくりと顔を近づけてきたかと思えば不意に唇を重ねてきた。そして突然の事に驚いていた俺もそれに応える様にしながら相手の身体を抱きしめながらしばらくキスを楽しんだ末にようやく顔を離した後、互いの額をくっつけたまま至近距離で見つめ合いながらミホはこんな言葉を口にするのだった。「実はね……今までずっと私の事を騙していてごめんなさい……私の正体は悪魔なんです……」その言葉を聞いた途端、驚きのあまり絶句してしまった俺だったがそれと同時に彼女の瞳に映っている自分の姿を見た瞬間、それが嘘ではないという事を理解したと同時に目の前にいるのが本当に本物の悪魔なのだと分かった俺は思わず息を飲み込んでしまった――それからしばらくして我に返った俺はとりあえず落ち着こうと深呼吸をしてから改めて彼女に問いかけた。「……えっと、つまりお前は悪魔だと名乗っているけど本当は違うって事になるんだよな……?だとしたら一体どうしてそんな事を言ったりするんだ?」それを聞いた彼女が俯きながら小声で答えるにはこういう理由があったらしい。

というのも本来の姿のままだったら人間と同じ様な生活など到底出来ないと考えたらしく正体を隠す為にはどうすれば良いかを考えた結果、自分のような人間に化ける事で人間の世界に溶け込む事にしたそうでその事を打ち明けたのは俺が初めてだと言っていた事から考えても相当悩んだ末の決断だったのだろうと思い、同情せずにはいられなかったのである――その後、色々と話を聞いた後ではあるが先程の件に関しては別に気にしなくても構わないという事を伝えた上で今度は俺の方から話があると言いだした。

それを聞いて最初は首を傾げていた彼女であったが話を聞いているうちに納得した様子を見せると微笑みながらこう言った。「なるほど、そういう事だったのか……確かにそれなら問題ないかもね~」そう言いながら頷く様子を見る限り彼女も理解してくれた様なのでホッとした俺はそこで一息ついた後で話題を変える為にもこちらから話しかける事にした。

「ところでお前って普段は何をしているんだ?」その問いかけに彼女は少し考えてからこう答えた。「……うーん、基本的にはのんびり過ごしてるかな?後は暇潰しとして人間界に行ってみたりする事もあるしね」「……そうなのか?」「まぁ、たまにだけどね~あ、そういえば最近面白い奴を見つけたんだよねーその子といると何だか退屈しないし楽しい気分になれるのよね……」その時の事を思い出した様子で嬉しそうな表情を浮かべる彼女を見ていた俺としては何となく複雑な気分だったもののそれを悟られないように注意しながら相槌を打ってみせた後で更に質問をぶつけた。「それじゃあ最後に聞くけどさ……お前は俺の事、好きだったりするのか?」この問いかけに対して一瞬、キョトンとしていた彼女だったがその直後には顔を真っ赤にさせながら慌てふためいた挙句、混乱状態に陥っていたのでその様子を微笑ましく思いながら眺めているうちに少しだけ緊張が和らいできた気がした俺は思い切って自分の気持ちを伝えてみる事にした――するとそれを聞いた彼女は少しの間だけ黙り込んでいたものの静かに頷いたのでその様子を見た俺は小さく頷き返した後にこう言った。

「……そうか、ありがとな」そう言いながら優しく抱きしめるとそのまま彼女をベッドに押し倒す形で覆いかぶさり、服を脱がせてから首筋や胸元に口づけをした。「んっ……あぁ……」そんな彼女の可愛らしい声を聴きながらじっくりと時間をかけて全身を味わった末に何度も愛し合った俺とミホだがその日の夜はいつになく盛り上がったせいか疲れてしまい二人で一緒にベッドに入るとすぐに眠りに落ちてしまったのだが翌朝になって目覚めた俺達は互いに裸の状態のままで眠っていた事に気付くなり思わず苦笑いしていたがやがて目が合うなり自然と笑みがこぼれたのでどちらからという訳でもなく軽くキスをした後で起き上がるなり支度を済ませた後で朝食を取る為に食堂に向かうなり注文を済ませてから料理を待っている間、何気ない会話をしていると昨夜の一件を思いだした俺は思わず苦笑いを浮かべてしまった。

(まさかミホの口からあんな発言が出るとは夢にも思わなかったな……それにしても昨夜の出来事は今でもハッキリと覚えているから忘れる事はないだろうな)

そう思いながらふと隣を見ると何やら楽しそうに微笑んでいる彼女の姿を見て嬉しく思っていたその時、誰かが近づいて来たので何気なく目を向けた瞬間、思わず心臓が止まりそうになったのだがその理由というのは昨日出会ったカレンだったのだが以前と比べて明らかに様子が違っているのが分かったからだ。

その姿はミホ同様に髪色と瞳の色が黒くなっていた上、肌の色まで変化していたので驚いた俺が唖然としている中で隣にいた彼女が笑みを浮かべながらこう答えた。「フフッ、そんなに驚かなくても大丈夫ですよ?ほら見て下さい、私達の姿は以前のものとは全く違うでしょう?」「……いや、そんな事言われてもだな……」そう言いかけてからハッと気付いた俺が咄嗟に口を噤むとそれに気付いた彼女が笑みを浮かべたまま説明し始めた。

「……どうやら貴方は既にご存知だったみたいですね、これは貴方のお仲間さんの姿を借りたものなんですよ♪」

「なっ、何だって!?」

その言葉の意味を察した俺はすぐに問い詰めようと立ち上がったのだが直後に聞こえてきた笑い声に気付いて振り向くとそこには見知らぬ女性がいたのだがその顔を目にした瞬間、背筋が凍るような感覚がしたので慌てて目を逸らそうとした矢先、背後から抱きつかれながら囁かれた。「ねぇ、ちょっといいかな……?」「な、何だ……?」そう言って振り返った先にいたのはミホだったのだが先程とは異なり、髪が明るい茶色に染められており瞳も黒いので雰囲気こそは違うが外見そのものはカレンそっくりだった。「私、今凄く寂しいんだよね……だからこれから一緒にどこか行かない?」そう耳元で囁いてきたかと思うといきなり首筋に舌を這わせてきたのだがその直後、突如として激しい痛みに襲われて思わず悲鳴をあげてしまうと近くにいた別の客達が一斉に俺達の様子を伺い始めた。

それを見てようやく我に返ったミホが咄嗟に俺の首に噛みついていたのを引き離すと謝罪してきた。「ごめんなさい、つい我を忘れてしまいまして……大丈夫ですか?」心配そうに声を掛けてくれた彼女に対して何とか返事をしようとしたその時、何者かによって背後から襲われたので抵抗を試みたものの全く歯が立たずに床に倒れこんでしまった俺を見て驚いたミホが助けに入ろうとした時、それよりも早く誰かが動いたと思ったら一瞬にして目の前に現れていた人物を片手で払い除けたのだがその直後に聞き覚えのある声が耳に届いてきたので見てみるとそこにいたのは俺の知っている姿に戻ったカレンだったのだがそれを見たミホはすぐに表情を曇らせた。

何故なら彼女が先程までとは違う姿で戻ってきたからなのだがその原因となったのはおそらく隣にいる悪魔のせいだろうと思いながら睨みつけていたのだがそれに対して彼女が笑いながら答えた。「あらあら、怖いですね~そんなに睨まなくてもいいじゃありませんか……それより貴方、中々面白い事を考えているみたいじゃないですか♪折角ですしその計画、是非とも私もご一緒させていただきたいのですがいかがでしょうか?」そんな提案を受けて思わず顔を見合わせる事となった俺達はその後で相談した結果、彼女の誘いを受ける事にしたのだ。

こうして新たに二人を加えた上で計画を実行に移す事になった俺はひとまずは彼女達を連れて部屋に戻るとまずはミホを部屋に残して俺だけが別の場所に向かった――向かった先は城の中ではなく街の中にある宿だったのでそこで一晩を過ごした翌日、再び城に戻って来た俺はミホに留守を任せた上で部屋から出るなり廊下を歩いていた時にカレンに遭遇したのだが向こうも俺に用があるらしく呼び止められた。「……ねぇ、私に話があるんでしょう?」そう言われた俺は黙って頷くと早速、用件を伝える事にした。「……お前に頼めば何でも叶えてくれるんだよな?」「ええ、その通りですよ……もっとも貴方が思っている程、万能ではありませんけどね」そう言いながら不敵な笑みを浮かべる彼女だったがそれに構う事なく俺は続けて言った。

「……それなら俺と一緒にこの国を滅ぼさないか?」それを聞いた彼女は少しだけ考えるような素振りを見せたがすぐに頷いてみせるとこんな言葉を口にした。「なるほど、そういう事でしたか……それなら良いですよ、貴方に協力してあげます」そして最後にこう付け足したのだ。「ですがその代わり、一つだけ条件がありますけどよろしいですか?」「……ああ、分かった」そう言いながら首を縦に振った後でどんな条件なのかを尋ねるとこんな事を言い出した。

「実はある場所に行きたいんですがその場所へ辿り着く為にはいくつかの障害があってとても難しいらしいんですよ~そこでその場所に案内して欲しいのです」「……なるほど、つまりそういう事か」その話を聞いて納得した俺は小さく頷いた後でこう答えた。「それじゃあ明日になったら迎えに行くからそれまで待っていてくれるか?」「はい、構いませんよーそれではお待ちしていますね」それからしばらくしてその場を後にした俺は自分の部屋へと戻るなり早速、準備を整えた――それは何故かというと今から俺がやろうとしている事にはどうしても必要な物があったからだ。

それから夜になるまでの間は特に変わった事もなく普段通りの生活を送った後で夕飯を終えた後、入浴を済ませてから眠りにつく事にした――ちなみに今回は特に何もなかったので安心して下さいw 翌朝、目を覚ました俺は着替えを終えると荷物を持ってから部屋を出て食堂へと向かった――いつもならここでミホやカレンと一緒に食事をする事が多いのだが今は二人きりなので静かな時間が流れていた。

とはいえ互いに気まずいと思ったのか会話する事はなかったがそれも束の間、食事を終えてから部屋に戻った後に出掛ける準備を始めたのだがこの時にミホにある事を打ち明けてみた。「……え?どういう事?」その話を聞いた彼女は最初こそ驚いていたもののすぐに落ち着きを取り戻すと何か考えを巡らせているのか暫く黙り込んでいたがやがて口を開いた。「……なるほどね、事情は分かりました」そう言ってから軽く微笑んだ後で更にこう続けた。「だけど一つ問題があるわね……」それを聞いた俺は何が問題なのかを聞くとそれに対してこんな答えが返ってきた。「だってその方法だと私達の正体を隠す事が出来なくなるからね~」確かに彼女の言う通りだと思ったので少し考えた後で新たな提案をしてみた。

その結果、ミホも納得してくれた様だったのでそのまま支度を済ませると宿を出る事にした――というのも昨夜、彼女に告げた頼みというのは自分が人間の姿になってとある人物に成り代わって欲しいとの事だったからだ。その為、変装用の服等を購入してから待ち合わせ場所に向かうとその途中、ミホが心配そうな表情を見せながらこんな事を尋ねてきた。「本当に大丈夫なの?正体を知られてしまっても良いのかしら?」「あぁ、構わないさ。別にバレて困るものでもないしな」「そ、そうなの?ならいいんだけど……」

彼女の反応を見て察した俺が思わずニヤけていると不意に立ち止まったのでどうしたのかと尋ねると何でもないと返された後でまた歩き出した。

その様子から何かを察しながらも敢えて聞かない事に決めたのだが目的地である町に到着した途端に突然、ミホが俺の手を掴むなり強引に引っ張ったので不思議に思った俺が理由を尋ねるよりも先に人混みの中へと入って行くのが見えた。

それから数分後、人気の少ない場所でようやく手を離してくれた事でホッとしたのだがそれと同時に妙な視線を感じるようになっていた俺は警戒しながらも周囲を見回していた――その時、突然後ろから抱きつかれたので咄嗟に離れようとしたがそれを阻むように抱きついてきた人物が耳元でこう囁いた。「探しましたよ、やっと見つけた……」その声を聞いて思わずゾッとした俺は何とか振り払おうとしたがその前に首を締め付けられて声が出せなくなってしまったので必死になって抵抗しようとしたもののそれすらも無駄だった……やがて意識を失いかけた瞬間、誰かの声が聞こえてきたのでその方向に視線を向けるとそこには見覚えのある顔があり、それが誰だったのかを思い出した俺は小さく呟いた。

(そうか、お前だったか……)そして目の前が真っ暗になったところで記憶が途絶えた――

それからどれぐらいの時間が経過したのだろうか?ふと目を開けるとそこは薄暗い空間の中で一人きりになっていた事から辺りを見回していると背後から気配を感じたので振り返るとそこに立っていた人物は間違いなく俺自身だったのだが様子がおかしい事に気付いた俺が呆然としているとそいつは不気味な笑みを浮かべながらこう言った。「どうだ、お前の身体を支配した気分は最高だろう……?フフッ、これでようやくこの身体も私のものだな……だがまだだ、まだ足りない……もっともっと力を蓄えなくては……フフフフフッ、アッハッハッハッ!!」その声を聞いた直後に俺の意識は再び遠のき、気を失った。

あれからどれだけの時が流れたのだろうか?再び目を覚ました俺が最初に目にしたのは見覚えのある光景で真っ先に隣に目を向けるとそこにミホの姿があったが彼女も同じように気を失っているようだったので慌てて声を掛けようとした直後、誰かが部屋に入って来たかと思うとこちらに近付いてきたのが分かったのでそちらに顔を向けるとそこにいたのはルシファーだったのだがその表情はどこか浮かない様子だったので気になって声をかけようとすると彼が先にこんな事を言ってきた。

「おい、お前達。いつまで寝てるつもりだ、さっさと起きてこっちに来い!」その声が聞こえた瞬間、ハッとした二人が同時に起き上がったのでようやく目覚めたのかと溜め息をついた後に起き抜けで状況が掴めていない様子の二人に向かって説明しようとしたのだが次の瞬間、いきなり部屋の扉が開いたかと思うとそこから数人の男達が入ってきたのを見て咄嗟に身構えると彼らは俺達の前で立ち止まり、先頭にいた男性がこちらを睨み付けた状態でこう尋ねてきたのだ。「貴様ら……何者だ?どうやってここに入ってきたのだ……」その問いに対して答える代わりにミホが前に出た後で男性の顔を真っ直ぐに見つめながら答えた。「……私はカレンです……貴方のお名前をお聞きしても宜しいですか?」それを聞いた彼は怪訝そうな表情を浮かべた後で後ろにいた仲間達に声をかけた後、改めて尋ねた――「もう一度聞くぞ、貴様は誰だ?」その問いに答えたのはカレンだったのだった!「……やれやれ、仕方ないですね~本当は貴方のような小物に名乗るつもりはないのですが……特別に教えてあげましょう、私はミホです」「なッ!?馬鹿な、そんな筈はない……!あの者は一体、どこへ行った!?」動揺した様子で声を荒げる彼に対し、クスクスと笑う二人のカレンが顔を見合わせてから再び口を開くと言った。

「何をそんなに驚いているんですかぁ?……まさか私、偽物とでも思いましたかぁ?酷いなぁ、傷ついちゃうな~♪それに貴方はもう気付いてるんじゃないのですか?」「……何の事を言っている?」首を傾げる彼の目の前で二人の身体が溶け合うように混じり合い、次第に変化していく様子をジッと見つめている間にとうとうその姿は全く別のものに変化していた。

そしてその姿が完全に別人に変わった途端、彼は驚愕のあまり絶句してしまった――なぜなら目の前にいる女性は紛れもない魔王サタンそのものだったのだ! そんな彼女を見た後で隣にいた女性が微笑みながら話し掛けてきたので我に返るとすかさず彼女を睨みながら問いかけた。「……何故だ?なぜお前が生きているんだ?」すると彼女が笑みを浮かべながら答えた。

「そうですね~簡単に言えば奇跡を起こしたんですよ♪貴方が私を封印してくれたおかげで自由を手に入れる事が出来ましたからね♪」「……くっ、ふざけた事をぬかしやがって……!」そう吐き捨てた後で怒りに任せて殴りかかった彼を彼女は避ける事なく受け止めたのだがその際、衝撃によって吹き飛ばされそうになったがすぐに体勢を立て直すとお返しとばかりにパンチを繰り出した。

そんな彼女達のやり取りを見ているだけしか出来ないでいると突如、大きな揺れが発生し始めた事に気付いた俺達は揃って窓から外の様子を窺うとそこには先程までは存在しなかった謎の物体が存在していて街の上空まで移動していたのでそれを見たミホは思わず叫んだ。「あれはもしかして飛空艇なの……?」どうやらあれが今回の騒動の原因となっているようだがそれよりも気になる事があったのでそれについて尋ねる事にした。「……なあ、カレン」「なんですか?」「あの乗り物について何か知っているのか?」「えぇ、あれこそ全ての元凶ですよ……と言っても詳しい事は分かりませんけどね」それを聞いた俺は少しだけ考えた後で小さく頷いた後でミホとルシファーに声を掛けた。

「ここは危険だ、一旦ここから出よう」「……ええ、そうね」「わ、分かりました」そして三人が部屋から出てから廊下を歩いている途中でふと気になった事があったので尋ねてみた。「……ところでお前はこれからどうするんだ?」「うーん、とりあえず適当な場所を探す事にしますよ」「……そうか、まあ頑張れよ」「はい、それではまたいつかお会いしましょうね」そう言って微笑んだ後、何処かへと姿を消した。

その直後、激しい揺れが襲った後で窓が割れる音が聞こえてきたので咄嗟に振り返ると先程見た飛空艇が再び現れたと思ったら今度は急降下を始めたらしく、このままでは街に激突しそうだという事に気付いた俺は即座に走り出そうとしたがその時には既に遅く、地面に激突した後で巨大なクレーターを形成してしまったのを見た後で呆然と立ち尽くしていると不意に背後から声をかけられたので振り返ってみるとそこにいたのはルシファーであり、彼は俺の顔を見た後で優しく微笑むとこんな事を口にした。

「心配するな、奴らなら無事だ……その証拠にほら、あそこを見てみるといい」そう言われたので目を凝らしてよく観察してみると建物の中から出てきたと思われる者達の中に先程の女性達の姿を見つけたので一先ずはホッと胸を撫で下ろしたのだがそれも束の間、ある事に気付いて顔を青ざめさせる事になるとは思いもしなかった。

それはルシファーが言った通り、無事だった事に安堵しているのと同時にもう一つの事実に気が付いてしまったからだ。というのもあれだけの威力を持ったものが街の中心部にある広場を直撃したのだとすれば大惨事になっているのは当然なのだが問題はそこではなく、どうしてそうなったのかという部分である。その理由は墜落する寸前、一瞬だけだが目に映った飛空艇の形状に心当たりがあったからだった。その形状こそが俺が知る限りではとある島国にしか存在しないものであり、だからこそ疑問を抱いたのだ。何故ならこの世界には存在しない筈なので……そんな事を考えていたその時、突如として背後から何者かに襲われた事でその場に倒れた後で意識を失ってしまった。

意識が戻るとそこには見慣れた景色があり、目の前には自分の家がある事から戻ってきたのだろうと考えたところで背後に目を向けるとそこには俺の姿になったルシファーがおり、すぐに察した。(なるほど、そういう訳か……)恐らくではあるが何らかの方法で過去に戻った俺はここで死んだらしいがそれを察していたルシファーは俺に成り代わってくれる人物を探していた所で俺達を発見して助けようとしてくれていたのだと理解するとそこで目が覚めた――

目を覚ますと見慣れない部屋にいたので最初は困惑したもののすぐに状況を把握する事が出来たのだがその部屋を見渡してみると様々な機器や機械が置かれており、その中でも一際目立つ場所にガラスケースが設置されていてその中には不思議な形をした剣のようなものが入っていた。

それを見て不思議に思っていると部屋の扉が開き、そこから一人の少年が現れたので誰なのかと思っているとそれが見覚えのある顔である事に気づいた。

(こいつはあの時の……?いや、違う……確か名前は田中太郎だったか?まぁ、何でも良いが今はそれどころじゃないからな)そう思いながら近付いてくる彼を見つめていたのだがその様子を見てある違和感を覚えたのでそれについて尋ねるとこう言われたので驚いた。「ああ、これかい?実は僕は人間じゃないんだよ……魔族なんだよ!」それを聞いて思わず後退りをしたもののそれでも彼が人間ではないという確証を得たかったので試しに質問してみる事にした。

「そ、そうなんだ……それで、その証拠を見せてくれないかな?例えば耳とか……」そう言うと不思議そうな顔をしながら首を傾げた後でこう言った。「何を言ってるんだい?ちゃんとこの通り耳が長いだろう?」そう言って見せてきた耳は確かに人間のそれとは明らかに違っており、しかもよく見ると頭の上に輪っかのようなものが浮かんでいるのも見えた。だがまだ信じられない俺はさらに質問を続ける。

「へぇ、確かに凄いな……それなら他にも見せてもらいたい事があるんだが構わないかな?」「別に構わないけど……」「ありがとう、それじゃあ……背中の翼は動かせるのかな?」それを聞いた彼は頷いてから背中から羽ばたかせる仕草を見せた後、その場で軽く飛んで見せたのだがそれを見て確信した。やはりこの人は普通の人間ではないと……。

そんな彼の様子を見て唖然としていた俺に向かって彼はこんな事を口にしてきた。「これで分かってくれたと思うけど、僕は本当に魔族なんだよ。でも安心して欲しい、決して君に危害を加えるつもりなんてないからさ……それに君がここにいる理由は既に把握済みだからね」「……何だって?それはどういう事だ?」「簡単な話さ、君をあの世界から連れ戻す為にやってきたって訳だ」それを聞いた瞬間にようやく理解する事ができた。要するに自分はあの世界に閉じ込められていただけで本来はこちらの方が本当の世界で本来いるべき場所だという事を彼は教えてくれたので俺は彼に感謝の言葉を述べた後で気になっていたあの武器について聞いてみると意外な答えが返ってきた。

「あれはね、僕の相棒みたいなものなんだ……もっとも今の所、使いこなせるのは僕だけみたいだけどね。でも君は素質があるからいずれ使う時が来ると思うよ?」そう言われて半信半疑のまま、しばらく彼の様子を見ていたが特におかしな様子もなかった為、信じる事にしてから気になっていた事を尋ねた。「……ところでさっきからずっと気になってたんだけど、ここって何なんだい?見たところ医療施設か何かみたいだが……」すると彼がある方向を指差したので視線を向けたところそこにあったものを目にした瞬間、驚きのあまり固まってしまった。なぜならそこには大量の管が繋がった状態でカプセル型の装置の中で眠っている自分自身の姿があったからだ! そしてすぐに我に返るとこう尋ねようとした直後、再び大きな揺れが発生して今度は建物が崩れ始めたので急いで外に向かう事にしたのだがその前に彼と話をする時間が出来たので歩きながら話す事にした。「……なぁ、これは一体どういう事だ?」「さっきも話したようにあれは僕の仲間でね、君と同じであの世界に閉じ込めらているんだ」「……じゃあ、やっぱりあの世界には何かあるんだな?」そう聞き返すと無言で頷いた後、ゆっくりと語り始めた。

「まず先に言っておくと僕達は元々、同じ世界に住んでいた者であって君達みたいに異世界に飛ばされた存在じゃなかった。でも今から大体二、三年前ぐらいにいきなり現れた黒い渦によって引き込まれてしまったせいで今のような状態に陥ってしまっているのさ……そしてその原因を突き止めるべく研究を続けている最中、あの飛空艇を使って実験を行う予定だったんだけどまさかあんな事になるとは思ってなかったから少し慌ててしまって……だから申し訳ない、もう少し早く行動に移せば良かったと思ってる」「気にするな、こうして助けてもらえただけでもありがたい……それに悪い夢はもう見なくていいんだからな」それを聞いた彼は小さく微笑むとこう口にした。

「……うん、僕もそう思うよ」その後で外へ出た俺達は崩壊していく街並みを見つめながら今後について話し合う事にした。というのも俺が元いた場所は跡形もなく消えてしまったので当然、他の街へ行くにしてもここからはかなりの距離があるのでまずは移動手段として何かないかを考えた結果、乗り物を探す事になった。「……よし、それじゃあ探しに行こうじゃないか」「……ああ、そうだな」そうして歩き始めて数分後、俺は先程、目を覚ました部屋から見えていた飛空艇を操縦している人物を目撃するとその人物に対して話し掛けてみた。「すいません、そこのあなた……ちょっといいかな?」「……何だい、僕に用でもあるのかい?」「はい、実はあなたの持っている乗り物に乗せて欲しいんですけどお願い出来ますかね?」それを聞いた男性は訝し気な表情で俺を見た後でこんな事を口にした。

「すまないがお断りさせてもらうよ。何せ、見ての通り運転中で手が離せない状態だからな……他を当たってくれ」そう言って取り付く島もない態度を見せる男性に対してある提案を持ち掛けた。「……分かりました、では代わりに僕が運転しますので目的地を教えてくれませんか?」その問い掛けに対して相手は暫くの間、考え込む素振りを見せた後で渋々といった様子で答えた。「……はぁ、仕方がないか。それなら教えてやるからしっかり付いてこい!」「ええ、もちろんですとも!」それから飛空艇に辿り着くまでの間、俺は男性の話に耳を傾けていた。どうやら彼も元々この世界の住人であり魔王軍に所属していた兵士の一人らしいのだが現在は部下共々、軍を辞めて別の道を歩んでいるのだという……そして現在、彼らはとある島にある小さな町を拠点に生活をしているのだという話を聞き終えた後でふと疑問に思ったので尋ねてみた。

「……ちなみにその島で暮らすようになった理由って一体何なんですか?」「あぁ、それかい?実は数年前まで住んでいた場所があってね、そこで知り合った友人と一緒に過ごしてた頃もあったんだけどある時、彼が病を患ってしまったんだ。最初は大した事はないだろうと高を括っていたのだけど一向に良くならなくて最終的にはもう余命僅かである事を告げられてしまったんだよ」「なるほど、つまりその人は病気のせいで亡くなったという訳ですか?」「まぁ、そういう事だね……それで途方に暮れていた頃に例の黒い渦が発生した事を知り、思い切って飛び込んでみるといつの間にかこの世界に迷い込んでいて現在に至るというわけなんだよ」「……そうですか、それは何というか……そのお悔やみ申し上げます」「はははっ、別に気にする必要はないさ。むしろ今ではこうしてまた誰かと交流を持てるようになって嬉しい限りだからね。まあそんな事もあって今は気ままに生活しながらここで暮らしてるという訳だ」それを聞いていた俺は彼に対してこう言ってみる事にした。

「もしよろしければ今度からはあなたがここに遊びにきてみてはどうですか?そうすればきっと喜ぶと思いますよ?」すると彼は一瞬、キョトンとした表情を浮かべた後で苦笑いをしたかと思うと俺にこんな事を言い出した。「ああ、それなんだけど……多分、難しいかもしれないんだよね……」それを聞いて気になったのでどうしてなのか聞いてみるとこんな返事が返ってきた。

「実は少し前、仲間の内の一人がここを離れようとしてるんだよ……理由は分からないけど何となくそんな気がするんだよね」それを聞いて彼がなぜ、あんな態度を取ったのか分かったような気がしたので深く詮索する事はせずにそのまま見送る事にした。それから暫くして目的のものを発見した俺と男性はその近くに着陸させてから中へと乗り込んだ。その際、彼に向かって別れの挨拶を済ませるとエンジンを入れて離陸しようとしたのだが何故か上手く起動せず、何度か試した後にようやく動く事ができたのでホッと胸を撫で下ろしていると急に機体が動き出した!「え!?ちょっ、何で動いてるんだい?さっきまで動かなかったはずなのに!」それを見た男性が慌てた様子で止めようとするもすでに遅く、徐々に高度を上げていくにつれて次第に安定し始めたところでこのまま何事もなく飛び立ってくれると思った矢先、今度はとんでもない事が起こった!「なっ、何だって!?」突如、機内に大きな衝撃が走ったかと思えば計器類に次々と異常が生じ始め、やがて警告音が鳴り響いたので咄嗟に緊急用のスイッチを入れるとモニターに映し出された情報を目にした途端、愕然としてしまった。

何故ならそこには『エラー発生』と書かれた文字が表示されており、その直後に画面いっぱいに真っ赤な文字で書かれた警告文らしきものが現れたのだ!しかもそれはどんどん増えていき、最終的に全ての画面に埋め尽くされてしまった為、まともに読む事はできなかったが最後にこう書かれていた。【これより脱出ポッドによる強制排出を実行する】その一文を読み終えた直後にいきなり機体が大きく揺れ動いた事により、座席から投げ出されそうになったので咄嗟に掴まりながら顔を上げると目の前に広がっていたのは無数の亀裂と隙間の出来た部分だった。それを見てようやく理解してしまう。

(これは……落ちる!!)そう思った時には既に手遅れであり、俺達を乗せたまま機体は急降下を始めたので必死に何かに捕まろうとしたものの結局それは叶わなかった為、せめて彼だけでも助けようとしたところで彼は諦めたかのようにこう言った。

「残念だけどここまでのようだね、君とはもっと話をしたかったんだが仕方のない事だ……」それを聞いた俺は彼に謝ることしかできなかったが彼は首を横に振るとこう言ってくれた。「いや、別に構わないさ……ただ君みたいな人に会えて嬉しかったからね。でも出来れば最後に名前を聞かせてくれないかな?」その言葉に頷いて答える事にした。

「俺の名前は田中太郎です、こちらこそありがとうございました!」そしてついにその時が来た!次の瞬間、大きな衝撃を感じたと同時に意識を失ってしまったのだが次に目を覚ました時にはあの浮遊大陸から遠く離れた地上の上で倒れていたので不思議に思っていると隣で横たわっていた男性がゆっくりと起き上がった後で言った。「やれやれ、酷い目に遭ったものだね……」それに対して苦笑いを浮かべながら同意するしかなかった俺はすぐに飛空艇の状態を確認しようと外に出たのだがその時に目にしたのは悲惨なものだった……何しろあちこちの部分が酷く破損しており、おまけに燃料漏れが発生していたのでこのままではいつ爆発してもおかしくなかった。なので急いで応急処置を施した後で何とか飛べる状態にまで戻した俺はとりあえず彼を休ませる事を優先したのだった――これが今回の経緯である。そして話を終えた後で再び外の様子を確認するとやはり先程と同じように崩壊した建物が映し出されていたが唯一、違う点があるとすれば空に巨大な光の輪のようなものが浮かび上がっているという点であった。それを見た彼は驚いた様子でこんな事を口にした。「……どうやらあれが最後の砦らしいね、あの光が消えればこの浮遊島は間違いなく消滅してしまうようだ」それを聞いた俺も同じ意見だったが問題はどうやって破壊するのかという事だと考えていたら唐突に声が聞こえてきた。「――その役目、私にやらせてくれないか?」その声は女性のものらしく俺は思わず辺りを見回してしまった。

しかし当然ながら誰も見当たらないので再度、空に目を向けると先程よりも明らかに高い位置に謎の物体が浮かんでいる事に気が付いた。「あれは一体……それに君は何者なんだい?」俺がそう尋ねると彼女はこう答えてくれた。

「私はミレイユ=ルミナシス……かつてこの世界を救った英雄にして世界を破壊する者だよ」

第3節 異世界からの帰還とこれからの事 あれからカレンを連れて近くの村へと避難した俺達は早速、彼女の容態について確認を行った。だが結果は予想通りで何も手掛かりになるような物は見つからなかった。「くそッ、本当に何もないのかよ!」「落ち着きたまえ、仮にそうだとしても何らかの手段が残されているに違いないんだ」それを聞いた俺が小さく頷くのを見た後、彼はこんな事を口にした。「……とにかく僕はもう少し周囲を探してくるよ」それを聞いた俺は心配になり声を掛けた。「大丈夫か?もう日が暮れ始めてるから今日はこの辺りにして休んだ方が――」だが途中で彼の異変に気付き、話を中断する事にした。

というのも彼の顔には大量の汗が浮かんでおり顔色も悪く、とても平気な様子には見えなかったからだ。「……すまないが後の事は任せるとするよ。少し無理をし過ぎたせいで体が動かなくなってしまったようだ」それを聞いていたカレンはすかさず俺に向けてこんな提案を持ち掛けてきた。「ねえアキラ、ここは一旦、彼に任せて私達は休んでおくというのはどうかしら?」「えっ、だけどあいつ一人じゃ危ないだろ?まだ近くにいるかもしれないのに何かあったらどうするんだよ」「なら尚更、一緒に行動した方がいいと思うの、その方が安全だしもしもの時にも対応しやすくなるわ」「……なるほど、それもそうだな」

こうして俺とカレンは彼と別れる事を選んだ後で近くにあった宿屋に向かう事になったのだがその際、ある事を思い出したので歩きながら彼女に尋ねてみた。「そういえばお前って何か武器を持ってないのか?さすがに丸腰のままって訳にもいかないだろう?」すると彼女も同じように思い出したのかポンと手を叩くなり答えた。「あ、言われてみれば確かにその通りよね!ちょっと待っててちょうだい、今取ってくるから」それから数分ほど経って戻ってきた彼女の手には長い柄のような物が握られていた。「ほらこれよ、実は私が持っている中で一番攻撃力のある武器なの……その名も〝ドラゴン・スピア〟といって元々は伝説の槍なのよ!」そう言って彼女が見せてきたのは穂先の先端に竜の頭部があしらわれた物々しいデザインをしており一見、おもちゃにしか見えない代物だった――まあ実際、そうなのだがそれを知らない俺にとってはかなり異様な存在に映った。

すると彼女はそんな俺に苦笑しながら話し掛けてきた。「あらやだ、もしかして私の事を見くびってるのかしら?こう見えて結構、すごいんだからね!」それを聞いた俺は軽く笑いながら謝りつつもそれを受けとった後で改めて彼女を労う事にした。「ありがとうな、お前がいてくれて助かったよ……じゃあ今日はもう休もうか」「ええ、そうね」そして宿へと到着した俺達は早速、部屋に入るとそれぞれ別々に眠ることにした。それから数十分後、そろそろ眠りにつく頃になった時、不意に声を掛けられたので目を開けるといつの間にかカレンが俺の枕元に座っていたのだ。「……眠れないのか?」「うん……なんだか緊張しちゃってさ、目が冴えちゃってるの」そう言いながら微笑む彼女を見ていると何故か無性に愛しさがこみ上げてくるのを感じたので気が付けば自然と抱き締めていた――こうして俺と彼女の夜は更けていったのだが朝を迎えた時に見たものがとんでもない事態を招いてしまうなどこの時は夢にも思わなかった。

それは突然、やってきた――翌朝、目を覚ました俺は真っ先に違和感に気付いていた――何故なら隣に眠っているはずのカレンの姿が無かったからだ。まさか何かあったのかと不安に駆られながらも慌てて起き上がると室内から物音のようなものが聞こえたので恐る恐るそちらの方へと目を向けてみるとそこには信じられない光景が広がっていた!なんと部屋の中に置いてあるベッドの一つに見知らぬ女性が腰掛けており、さらには服を脱いでいる最中だったのだ――もちろん、その行為の意味する事は一つしか考えられない……つまりそういう事なのだ。しかもそれだけではない――よく見ると女性の顔からは見覚えのある特徴があったのだ。(あれ……この人、ひょっとして昨日の!?)それは紛れもなく昨夜の内に見つけた少女だった――なぜ、彼女がここに居るのだろうかと疑問に思う一方で嫌な予感を覚えていたその時、女性はいきなり服を全部脱ぎ捨てるとこちらへ向き直り、笑顔でこう言った。

「おはようございますご主人様♪」「……へ?」それを聞いた俺は一瞬、聞き間違いかと疑ってしまった。何故なら目の前にいる彼女は明らかにおかしな発言をしていたからだ。しかしどうやら気のせいではなかったらしく続けてこんな事を言われたので俺は完全に言葉を失ってしまった。「あの~どうかなさいましたかご主人様?私でよろしければお背中を流しましょうか?」その言葉に耳を疑った直後、ようやく我に返った俺は慌てて反論した。「ちょ、ちょっと待て!!一体何を言って……」だが次の瞬間、その言葉を遮るように後ろから声が聞こえたかと思うと何者かに抱き着かれた――その正体はもちろん、裸になっていたカレンなのだがそれを見た俺は思わず叫んでしまっていた。

なぜなら彼女はまるで勝ち誇ったかのような表情でこちらを見てきたからだ――それを見て瞬時に悟ってしまった。(やられたっ……!!)そう考えた理由は二つあった――まずは彼女の恰好についてだ。昨日まではきちんと服を着ていたはずなのに今の彼女には布切れ一枚すらも羽織っていない状態であり、おそらく目の前の女と同じく脱衣したのだという事は明らかでありもはや言い逃れはできない状況にあると判断した俺はこれ以上は何も言うまいと決めた上ですぐに行動に移った。そして素早く彼女の方を向いた後でそっと抱き締めた後でそのまま優しくキスをした。「……え!?」突然の事で驚いた様子だったがそれでも抵抗する素振りを見せなかったので更に強く抱きしめる。すると最初は体を強張らせていたものの次第に身を委ねるようになっていったので頃合いを見計らって唇を離した後はゆっくりとベッドに押し倒すとそのまま覆い被さった状態で耳元に囁いた。

「――愛してるぞ、カレン」それを聞いた瞬間、カレンの目から涙がこぼれたが俺は何も言わずに何度も唇を重ね合わせた。

やがて満足したところで唇を離すと次に相手の胸に手を当てた――その柔らかさを堪能しているとカレンの方から恥ずかしそうに話しかけてきた。「あ、あの……そろそろ続きをしてもよろしいんですよ……?」その言葉を聞いていよいよ我慢できなくなった俺は一度、体を起こしてから改めて彼女の裸体を眺めた後でもう一度尋ねた。「本当にいいんだな?今ならまだ間に合うんだぞ?」それを聞いた彼女は顔を赤らめながらもしっかりと頷いて答えてくれたのでそこで俺も決心がついた。「……わかった、じゃあ行くぞ」

その直後、俺は勢いよく体を重ねた――その結果、お互いの愛を確かめ合った俺達はその後で余韻に浸りながらも再び深い眠りについた。だがその時の俺にはまだ知る由もなかった――これが後に壮絶な出来事を引き起こすきっかけになるという事を……

異世界から戻った翌日、目が覚めた俺はすぐに異変に気付いた。というのも隣にいるはずのカレンの姿が見当たらなかったからだ――なので部屋から出る前にまず周囲を見回してみたが特に異常は見られなかった為、ホッと胸を撫で下ろす事にした。「やれやれ、朝から一体どうしたというんだ……」そんな事を呟きながら俺は先に朝食を取る為に宿屋を後にした。そしてしばらく歩いて辿り着いた場所で食事をしながらふと昨日の事を思い出してみたが不思議とそこまで深刻な気分にはならなかった。(……きっと彼女もどこかで元気そうにしているんだろうな)そう思うとむしろ嬉しくなってきてしまった。何故なら俺の恋人にはもう一つ、大事な存在がいるのだから当然だ。とはいえあまり考え事をしていても仕方ないのでとりあえず店を出た後、別の場所へと移動しようとした矢先、突如として声が聞こえてきた。「おいアキラ!」聞き覚えのある声だったので振り返ってみるとそこには親父の姿があったので俺は少し驚きながら挨拶を交わす事にした。「ああ、どうもこんにちは」そう返すなり相手が不思議そうに聞いてきた。「おや、お前さん今日は一人なのかい?いつも連れている娘はどこにいったんだ?」その問いに俺は正直に答える。「あいつは今、家にいます、だから今は俺一人で来ました」「ふむ、そうか、だったらちょうどいいかもしれんな」それを聞いて何のことかと思ったがそれを聞くより先に彼はこう口にした。「実はお前さんに渡したい物があってな……ついて来なさい」

それを聞いた俺は彼についていくと人気のない場所まで移動して足を止めるなり持っていたバッグの中をまさぐって一枚の紙きれを取り出した――それを受け取った俺は早速、内容に目を通していくとそれが何なのかを理解した。それは地図であった――しかも俺が現在、住んでいる町や周辺の森などを詳しく示した非常に分かりやすい物だったのだ。「これは……どこで手に入れたんですか?」思わず尋ねる俺に相手はこう答えた。「実は知り合いに頼んで調べてもらったんだ、お前の彼女が住んでいた家についても知っているかもしれないと思ってな……」それを聞いた俺はある事に気付くとすぐに尋ねてみた。「あの~一ついいですか?もしこの情報に誤りがないとすればあいつの居場所はこの辺りだと思うんですが」そう尋ねると親父は小さく頷きつつこう言った。

「そうだな、ほぼ間違いなくその辺りにいるはずだと思うぞ……もっとも詳しい位置までは分からないけどな」それから少しだけ会話した後で最後に別れの挨拶を交わした後で宿屋へと戻る事にした。(……待ってろよ、今すぐ迎えに行くからな)そう考えながら歩いているといつの間にか顔が綻んでいた。こうして目的地を決めた俺は足取り軽く町を後にすると街道を突き進む形で旅路を急ぐ事にした。

第4節 二人の再開と思わぬ展開へ 1時間ほど経った頃、俺達はようやく例の集落があるとされる森に到着した。「ここがその〝黒の森〟と呼ばれている所ね……確かに不気味な雰囲気を漂わせているわ」彼女がそう言った直後に俺も周囲の様子を注意深く観察してみる事にしたがどこを見渡しても同じような景色ばかりで人の痕跡らしきものは何一つ見当たらない――どうやら無駄足だったようだと思った直後、背後から声を掛けられたので振り向くとそこに居たのはカレンではなく彼女の母親であるレナさんだった。「……やっぱり、あなた達も来ていたのね」そう言いながら近づいてくる彼女に対して俺とカレンは警戒した。するとそんな彼女に付いて来たらしい一人の人物が声を掛けてきた。「まあそう身構えないでくれよ」その声に驚いて目を向けるとそこにいたのはなんと行方不明になっていると思われていた父親――つまり俺の叔父にあたる人だった!しかも彼の傍には彼の仲間と思われる数人の男性が立っていたのだがよく見ると全員が見覚えのある顔ばかりであった。

それもそのはずで彼らは以前に村を訪れた際に見かけた人々だったからだ。そこで俺は思い切って聞いてみる事にした。「なあ皆……どうしてここに居るのか説明してくれ」それに対してまず最初に話し始めたのは彼らのリーダーであるラズロという人物だったがそれによるとどうやら全員揃って仕事の関係でこの村に訪れた際、森の中を散策していたら偶然、迷い込んでしまい気が付いたら俺達と同じ所にいたらしい――それを聞いた時、疑問を感じた俺は率直に尋ねてみた。「でもさ、確かあの村の人達の話によればこの辺には魔物が生息してるって言ってたよね?それに今まで何人もの人間が立ち入っているはずなのに誰一人として戻ってきた形跡が無かったって話なのに……」そこまで言った時点で皆が暗い表情をしている事に気付くと俺はすかさず謝罪すると共に話題を変えようと試みる事にしたのだった。「……悪い、なんか変な空気にしちまったよな……それよりもこれからの事について話そうぜ?」だが次の瞬間、不意に地面が大きく揺れ始めた事で俺達は一斉に動揺し始めた。

そんな中、俺は急いで周囲に視線を走らせてみたが別段変わった点は見られず原因は不明であったがそれでも地震そのものはさほど長い時間、続くような気配はなかった。(それにしても……やけに長いな)そんな感想を抱いていた直後、カレンの母親が急にこんな事を言い出した。「ねぇちょっと……これってもしかして、まずいんじゃないの?」その一言で我に返った俺はすぐに仲間達に声をかけた。「とにかく早くこの場所から出よう!何か嫌な予感がするんだ!!」それを聞いた彼らが同意するのを確認した後ですぐさま移動を開始した――その際、念のため周囲を警戒しながら進んでいきつつもなるべく距離を置くように心掛けていると程なくして何事もなく森の外へと出る事が出来た。

2日後、俺達は予定通り目的地に到着していた――そう、カレンの家だ。あの後、無事に森を抜けるなり街道に沿って歩いて行った結果、ここまで来るのに1時間もかからなかった――もちろん、途中、休憩を挟んだので実際には3時間程度掛かった計算となる。その為、既に昼を過ぎていたのでこのまま直接向かってしまうと日が暮れるまでに戻ってこられない可能性があるので今日は一泊してから明日改めて向かう事になった。その提案を受けたカレンの母親も反対はしなかった。

その後、町に着いたところで宿を確保した俺達は荷物を置いて一息ついた所で食堂へと向かう事にした――ただその前に彼女に声を掛けた後でこう尋ねた。「そういえばお前は大丈夫か?疲れているならここで休んでてもいいんだぞ?」それに対して彼女は首を横に振ってみせた。「……ううん、大丈夫だよ、ありがとう心配してくれて……だけど今は少しでもあなたと一緒に居たいから……」そう言って抱き着いてきた彼女を受け止めつつ俺は頷いた後で改めて二人で食堂へと向かった。ちなみにこの時にカレンの母親も誘ったがやんわりと断られた為、結局、二人だけで食事を取る事となった。(……さてとそれじゃあ食べるとするかな)心の中でそう思った後、注文を済ませた俺は出された料理を口にすると懐かしい味がしたので感動した。

そんな俺の様子を微笑みながら見つめていた彼女が不意に話し掛けてきた。「ふふっ、そんなに美味しかったのかしら?だとしたら良かったわ♪」その言葉に思わず苦笑いしつつも頷くと今度はこんな質問を投げかけられた。「そう言えばあなたが前にいた世界でのお話、もっと聞かせてもらえないかしら?」そう言われた事でどう答えるべきか悩んだ末、俺は逆に尋ねてみる事にした。「……そうだな、それならあんたはどんな事を話してくれるんだい?」それを聞いた彼女は少し考え込んだ後に何かを思い付いたらしくこんな事を口にした。「そうねぇ……じゃあ私が前に住んでいた世界のお話をしてあげるわね」それから少ししてお互いに話をした後、食事を終えた俺達は部屋へ戻るなり眠りに就いた。(なんだか、とても疲れたな……)そんな事を思いつつ布団を被った俺は目を閉じた途端に一気に睡魔に襲われてしまいそのまま意識が途切れてしまった。

翌朝、目が覚めると同時に俺はある事に気付いて驚いた――それは昨夜の出来事が全く思い出せなかったからだ!その為、慌てて記憶を探ってみることにしたのだがどういうわけか全く思い出す事ができなかったのだ。(一体どうなっているんだ……?昨日は普通に寝ていた筈なのに何故記憶が飛んでしまっているんだ!?)そう思って途方に暮れかけた時、すぐ傍から声が聞こえてきた。「どうしたの?大丈夫……?」その声は紛れもなくカレンのものだったのですぐに顔を向けるとそこには不安げな表情を浮かべた彼女の顔があったのでとりあえずこう伝える事にした。「おはよう、大丈夫だぞ……別になんでもないから気にするなよ」そう言って頭を撫でてやると安心した様子を見せたので俺は安堵した。(よかった……いつもの彼女だ……)そう思いホッと胸を撫で下ろした後でようやく完全に目を覚ました俺が真っ先にやるべき事を思い出したので早速、実行する事に決めた俺は着替えを済ませるとまだ眠っている彼女を優しく起こした上で声をかけた。「おい、起きろ!そろそろ出発するからな!」その言葉を聞いた途端、寝ぼけ眼でこちらを見つめてきた彼女にもう一度同じ言葉を掛けるとやっと目が覚めたようだったので朝食を取る事にした。

そうして準備を終えた俺達は町を後にするといよいよ目的の場所へと向かって歩き出した。それから30分程経過した頃、目の前に巨大な建物が見え始めたので思わず足を止めて眺める事にした。というのも外観からして明らかに他とは造りが異なるだけでなく規模もかなり大きいようでまるでどこかのテーマパークを思わせるような印象を受けるほどの物であったからだ。(……まさかとは思うけどこれじゃないだろうな)一瞬、脳裏に浮かんだ予想を否定しつつも入口と思しき場所へ近づいていくとその予想通りというかやはりそうだったようでそこはいわゆる関所のような役割を担っている場所のようだと察した直後、衛兵らしき人物がこちらに気付いた様子で声を掛けてきたので挨拶を交わした後で用件を伝えることにした。「どうも、おはようございます」そう告げると相手の反応は非常に良くあっさりと中へ通されたかと思うと更に奥へと進む事になった――とはいえ特に手続きが必要な訳でもなく単に確認だけ取ったというような感じだった為に思った以上に楽に入れた事は嬉しかった。(これなら問題なく入れるかもな……)そう思いながら歩いている内にようやく到着できたのを確認した後でカレンに声をかけて一緒に門をくぐった。

2人が通った先には様々な人々が行き交う光景がありそれを目の当たりにした俺達は驚きを隠せずにいた――何故ならここには今まで目にしたことのない服装の人々が溢れかえっていたからである!「凄いね、なんかお祭りでもあるみたい!」そんな風にはしゃいでいる彼女の隣で俺も興奮していたがそれと共に戸惑いを隠しきれないでいるとそこへ1人の女性がやってきたので声を掛ける事にした。「すみません、ちょっとお聞きしたい事があるのですがいいですか?」そう言うと相手は小さく頷いて応じてくれたのでさっそく聞いてみる事にした。「実はここに用があるんですけど場所が分からなくて困ってるんです……どこかご存じですか?」その質問に対して女性は小さく頷きながらもこう答えてくれた。「あなた達はどちらへ向かうつもりなんですか?それによって教える内容も違ってきますけど……」そう言われて考えた結果、正直に話す事にした俺はこれまでの経緯を簡単に説明する事にした――その結果、どうやら納得してくれたらしい女性が案内役を務めると言ってくれた事で話はすんなりまとまった。

第5節 思わぬ展開へと導く存在との出会い 1人の少女に案内される形でやって来たその場所を見た時にまず抱いた感想が〝異質〟というものであった。それもそのはずで周囲に広がるのはまるで中世の世界を彷彿とさせるような街並みだったのだからそう感じて当然だろう――事実、ここへやってくるまでの間、道すがら見てきた人々の服装もそんな感じであったし何よりも町の中を闊歩する人々の多くが剣を所持していた事が決定打となっていた。(なるほど、だからカレンのやつあんなに喜んでたんだな……)内心でそう思っていた時、少女が声をかけてきた。「どうかしましたか?」その言葉に俺はすぐに我に返った後で返事をすると彼女は微笑みながらこんな事を言った。「ようこそ、黒の森の町へ!と言ってもこの名前は今年に入ってからつけられたんですけどね……」そこで気になったので聞いてみる事にした。「どういう事だい?」するとそれを聞いた少女は詳しい説明をし始めた。「この町は元々名前すらなかったんですが数か月前に突然、出現した謎の物体から発せられるエネルギーにより活性化した結果、急速に発展したんです。今ではこうして活気に満ち溢れた賑やかな街に生まれ変わったのです!」そう語った後、嬉しそうな表情でこう続けた。「ただその代償として町の発展に伴って犯罪行為に手を染める者が増えた事もあって現在、町の治安を守る為の組織が必要になって来たんです。それが我々、警備隊なんですが今はまだ設立から間もなくて人手不足な状況なんですよ……」そう話した後で急に黙り込んでしまったので心配になった俺は思い切って声を掛けてみた。「なあ、どうしたんだ?何かあったのか?」すると彼女は再び口を開きながら答えた。「いえ……何でもないですよ」しかしそう言った後も浮かない顔をしていた事から気掛かりだった俺はそれとなく探りを入れてみることにした。

だがこの時の俺達は気付いていなかったのだ――自分達のすぐ近くに迫る脅威の存在に……! 2日後、無事に森を抜ける事に成功した私達は一度、町に引き返す事になった。というのもアリスさんの体調が万全でない上に武器を失った状態でこれ以上、旅を続けるのは不可能と言えたからだ。(やっぱり無理させすぎたのかな……)そう考えると申し訳ない気持ちでいっぱいになりかける私だったがそれでも彼が笑顔で話しかけてくれたおかげで少しだけ元気を取り戻す事ができた。そして目的地の手前で別れる事となった私達はお互いに別れの挨拶を交わすのだった――もちろん、その際、彼に抱きしめられたのは言うまでも無い。

そんな私達のやりとりを見ていた他の人達が苦笑いを浮かべている事に気付かぬままでいると不意に誰かがこんな質問をしてきた。「……そういえばお前、どうやってここまで来たんだ?確か前に聞いた時には別の世界で暮らしていたと言っていたはずだがもしかしてこことは違う異世界にでも飛ばされてきたとでもいうつもりか?」そう問われた私はどう答えるべきか迷った挙句、正直に打ち明けることにした――さすがに嘘をつき続けていてもいずれはバレてしまうと思ったからだ。(でもなんて説明すればいいんだろ……?そもそも信じてもらえるかな?)そんな事を考えていた私に対してカレンちゃんは私の目を見ながらこう言った。「ねぇ教えてほしいんだけどあなたはどうしてこの人の事を信じる事ができるの?だって普通だったらおかしいと思わない?自分が違う世界にいただなんて言われたところで信じられないと思うのが普通なのになんでそんなあっさり受け入れたりできるわけなの!?」それを聞いた途端、皆の表情が一斉に強張るのが分かったがそんな事はお構い無しに彼女はさらに続ける形で言葉を続けた。

「私には分からないよ!自分の事を何も覚えていないって言ってる人がそんな突拍子もない話を信じる事自体が!それに何より、なんでみんなしてこいつの事をそこまで信用しているんだよ!?確かに悪い奴じゃないかもしれないけどこいつは……!」そこまで口にした所で私はようやく我に返ると慌てて謝罪の言葉を口にした。「……ごめんなさい、言い過ぎた……」それに対して彼は気にするなと言ってきたのでひとまずホッと胸をなで下ろすと彼の方から話題を変えてきた。

「それでだ、お前がここへやってきた理由っていうのは結局なんなんだ?」それを聞かれて私はある事を思い出したので伝える事にした。「そう言えば言ってませんでしたね……実はこの世界にはある魔王と呼ばれる存在が復活しようとしているらしくてですね、それを阻止するためにやって来たんですよ」すると話を聞いた彼らは驚愕していたもののその中で1番早く立ち直ったリーダーと思しき人物から私に話しかけてきた。「まさか、あの噂が本当だとは思わなかったな……それでお前は本当にその戦いに参加するつもりなのか?」その質問に私は迷う事なく即答した。「はい、その為にここまでやって来たんですから当然です!」私が自信満々な様子で答えた事がおかしかったのか小さく笑った後にこう告げた。

「分かった、それなら俺達と一緒に来い。

そうすればお前の力にもなれる筈だしな」そう言われた事でようやく仲間になる事を許されたのだと実感する事ができた私は感謝の言葉を述べると改めて彼らの紹介をしてもらう事になった――ちなみに彼らが所属している部隊は『白狼隊』と呼ばれており普段はギルドの管理下に置かれているが必要に応じて招集されるという特殊な部隊なのだそうだ。そのため人数はおよそ20名ほどしかいないらしく今回、町へ戻って来たのはたまたま近くの村に滞在していたメンバーが戻って来たという事らしい。そしてメンバーの紹介が終わると今度はこちらから自己紹介を行うことにした。「それじゃまずは私からさせてもらうね、私の名前はルビアナっていうの!よろしくね!」そう言いながら元気よく頭を下げた彼女に続いて残りのメンバーもそれぞれ名乗り終えると最後にカレンちゃんが続き始めた。「わ、私の名前はカ、カレンって言います……よ、よろしくお願いします!」そう言ってペコリと頭を下げるとそれを見た男性達は微笑ましいものを見るような眼差しで彼女を見ていたのだが一方の私は不安だった……何故なら私の名前を聞いた途端、皆が明らかに動揺を見せていたからである。(どうしよう……まさか名前が違いすぎて困惑させているんじゃ……)そう思い始める私であったがそれを察してくれたのか隊長さんがこう言ってきた。「ああ、すまない。君の名前が予想外だったから少し驚いただけだ、だからあまり気にするな」その言葉を真に受けた私はホッと胸を撫で下ろした後でいよいよ本題に入る事にした。

第6節 少女の正体を知るための手がかり しばらく歩いて行くと徐々に辺りの様子が変わってきたような気がしたので周囲を見回してみたところ近くに小さな川が見えたのでそこで休憩を挟むことになった――どうやらこの辺りには危険なモンスターも生息していないようで安心して休息をとる事が出来たが、一方で俺はここで疑問に思った事があった。それは先ほどからずっと俺の後ろをついてきている少女についてだ。(それにしても何でついてくるんだろうか……)そんな風に考えていると不意に声をかけられた。「ねぇ、お兄ちゃんはどこから来たの?」その声に反応して振り返るといつの間にか目の前に立っていた少女に対して思わず驚いてしまう俺であった――というのも彼女があまりにも唐突に現れて話しかけて来たので面食らってしまったのだ。

(全く気付かなかったな……)そう思いつつ俺は返事をしようと口を開きかけたがそれよりも先に少女が話し始めていた。「ねぇ聞いてる?お兄ちゃんどこから来たのかなって聞いてるんだけど……」そう言われてようやく我に返った俺は素直に答える事にした。

「えっと、ここから結構離れた場所にある町だよ……」それを聞いた瞬間、何故か彼女は考え込んでいた。(もしかしてまずいこと言ってしまったのかな……?でも嘘をつくわけにはいかないしここは我慢するしかないか……)そう判断した俺は彼女の反応を窺っているとようやく口を開いた彼女が予想外の質問をしてきたのである。「じゃあさ、その町に行けばお姉ちゃんがいるんだよね……?」その言葉に一瞬、困惑したが何とか落ち着きを取り戻すとすぐに答えようとしたのだがそこで思わぬ横槍が入ったので見てみるとカレンちゃんが何やら怒った顔でこちらを見ていたので一旦、中断せざるを得なくなった……まあ、無理もないだろう。なにせ相手はまだ年端もいかない子供でありしかも迷子の可能性もあるのだから無闇に怒る事はできない。

だが彼女はそれが不満だったのかさらに問い詰めようと迫ってきた。(参ったな、どう対応すれば良いんだ……ん?)そう悩んでいる内に俺はふと視線を下に向けた時、あるものを見つけたのでそれを伝える事にした。

「……いや、もしかしたらいるかもしれないけど……」俺がそう言った途端に少女の表情が変わったのが分かった――まるで獲物を狩るかのような目つきに豹変していたのだ。その様子を見ていた仲間達は揃って冷や汗を流していたものの俺は構わず話を続行させた。「とりあえず町へ向かおうと思ってるんだが、君はこれからどうするつもりなんだ?」それに対して彼女は特に気にする様子もなくこう返してきた。「そんなの決まってるよ!お兄ちゃんと一緒にいるんだよ!」それを聞いた瞬間、カレンちゃんの顔つきが更に険しくなったので慌てて止めようとしたが遅かったようである。

こうして俺と少女は同行者を得ると同時に2人で町へ向かう事になったのだった……。

第7節 新たな出会いの始まり 1日半をかけてようやく目的の町に到着した俺達はまず宿屋へと向かうと一休みしてから情報収集をする為に聞き込みを行う事にした。だが、その途中である事に気が付いた……それは少女の事である。というのも彼女には聞きたい事がある為、この町を散策する際にはまず一緒に来てほしいと伝えた結果、喜んで了承したはいいのだが問題はその後だった――というのも先程から彼女にばかり目が行ってしまい話がまともに出来ないのだ。何しろ見た目はただの可愛らしい少女にしか見えないのでついつい目を奪われてしまうのは当然と言えば当然なのだがそれに輪を掛けているのが彼女と手を繋ぎながら歩いているカレンちゃんだったりする……まあ、それだけならまだしも周囲の人達の視線が痛かったりするので正直、勘弁して欲しいと思ったものの彼女は終始、笑顔のままだったのでひとまず良しとする事にした。ただそれでもずっと黙っているわけにもいかなかったので頃合いを見て話しかける事にした――すると突然、彼女がこんな質問を投げかけてきた。「ねえ、お兄ちゃん!お兄ちゃんは私の事どう思ってるのかな?好き?それとも嫌いかな?」そんな事を聞かれたので俺は迷わず答えた。

「……もちろん好きだよ」それを聞いた途端、彼女はとても嬉しそうな表情を浮かべるなり俺に抱きついてきたのだ。

「私も大好きだよ、お兄ちゃん!」そんな様子を見ていたカレンちゃんは頬を膨らませたままこちらを睨んでいたが肝心の本人は全く気付く気配すら見せなかった……もっともこのやり取りを見ていた周りの者達の反応は対照的だったがそれも仕方ないだろう。なんせ今の彼女の格好はとてもではないが年頃の女の子とは言えないからだ……だからこそあんな行動をしているわけでむしろこちらが正常とも言えるのかもしれない。

それからしばらくの間、少女と話し続けていたのだがさすがに疲れたらしく今はベッドでぐっすり眠っていた……ちなみにその間に他の者達はと言うと宿の部屋を借りて今後の予定についての話し合いを行っていた……とはいえこれといった案が出る事もなくどうしたものかと頭を抱えていたのだがそんな中、カレンちゃんがポツリと呟いた一言がその場の空気を一変させる事になる。

「私……この子の事を知っています」それを聞かされた全員が一斉に驚きを隠せずにいた……当然、それは俺も例外ではなく思わず尋ね返した。「ほ、本当にそうなのか!?」それに対して小さく頷くのを見た後、詳しい話を聞いてみるとどうやらある噂を聞きつけてここに来たというらしいのだがその内容を聞いて俺は首を傾げた。なぜなら彼女の言う噂の内容とは魔王が復活したという事だったからだ――しかしそれを聞いたところで誰も信じてくれるような様子は無く誰もが困惑していた。すると今度は彼女の方から提案があると言い出したので聞くだけ聞いてみる事にした……。

第8節 真相に迫るための手掛かり 1「つまり君は魔王の復活を実際に見たって事かい?」俺の質問にカレンちゃんが静かに頷くとこう続けた。「正確には私が暮らしていた村の近くで起きた出来事です、それにあの戦いからおよそ3年程経ちましたけど今も各地ではその話題で持ちきりでしたから知らない方がおかしいと思いますよ?」それを聞くと他のメンバー達も顔を見合わせて驚いていた……かくいう俺自身もまさか既に情報が知れ渡っていたとは思っておらず驚いているところだったがその一方で疑問が生まれたのでそれについて尋ねてみた。「だけどなんで今になって急にその話題を持ち出したんだ?そもそも君の出身はどこなんだよ?」そう尋ねるとカレンちゃんは再び黙り込む……それを見てやはり言いにくい場所なのだと察するとそれ以上は追及しない事にした。

一方、彼女はそんな俺をジッと見つめていたのだがやがて小さく息を吐くとこう答えた。「実は私は記憶喪失なんです」

「き、記憶喪失って……」突然の告白に俺は驚く他なかったのだがそれ以上に驚いた様子を見せたのは彼女以外の全員であった……どうやら彼らも知らなかったらしくかなり驚いていた様子だった。(でもそうなるとやっぱり彼女が嘘をついているという可能性が濃厚になってきたな……)そう考えると少し複雑な気分になったのだがそれでも信じるしか無かった……何故なら彼女は自分の事を知っているような口ぶりで話をしていたのにも関わらず結局は何も思い出す事ができずにいたのだ。なのでこれ以上、問い詰めても無駄だと判断した俺は話を変える事にしたのだった……

そして翌朝になるとさっそく少女を連れて町の中を歩き回る事にしたわけだがその際、意外な展開を迎えた事で俺の予想が確信へと変わる事となった――なんと俺達と一緒に行動したいと彼女が言い出したのである……ただしその理由としては自分が住んでいる町だからという理由で納得できるはずもなくかといって他に理由らしい理由も見つからなかったので仕方がなく同行を許可したのだがここで新たな問題が発生した……それはカレンちゃんの存在である。

というのも彼女も一緒に行動すると言い出して聞かなかったのだ……最初は単なるワガママだと思っていたのだが話を聞く限りでは本当にそう思っているようにしか思えず次第に呆れ果ててしまったのは言うまでもないだろう……とはいえこのまま放置しておくわけにもいかないので仕方なく同行する事を許す事にした俺だったのだがその事を報告するとそれを聞いた隊長さんはすぐに受け入れてくれたばかりか彼女の素性を調べる手伝いを申し出てくれたのである。

その為、これからの行動方針について話し合う事になったのでとりあえずまずは少女が行きたがっている場所に連れて行ってあげる事になったのだがそこはかつて住んでいた町であると言うので案内してもらう事にした――すると道中で様々な場所を見学する度に目を輝かせて喜んでいたのが微笑ましかったがそれと同じくらいに疑問が生じたのも事実だった。(何故、この子はそこまであの町に行きたがるんだろうか……?もしかしてあそこに何かあるのだろうか?)だが残念ながらどれだけ考えたところで答えは出てこなかった……まあ仮に見つかったとしても果たして教えてくれるかどうかは分からなかったので無理に聞き出すつもりは無かったもののやはり気にはなってしまうので考えるだけでも頭が痛くなる思いだったのである。

そうして歩いている内に町の中心まで辿り着いた俺は辺りを見渡すと懐かしい気持ちがこみ上げてくるのを感じていた――思えばこの街を離れてからそれほど長い期間を過ごしたわけではないもののこうして戻ってこられた事に俺は内心、喜びを感じておりしばらく眺めていると少女もその様子を見て同じように喜んでいたようだった。だがそんな俺達とは対照的に周囲を歩く人々は何やら訝しげな目でこちらを見つめていたので慌てて視線を逸らすと何事もなかったかのように歩き始めたのだった……。

第9節 勇者の正体を知る手がかり それからしばらくしてとある建物の中へと入った俺達は早速、話を聞こうとしたのだがそこに立っていた女性は俺の顔を見ると一瞬、戸惑った表情を見せたもののすぐに気を取り直したのかこちらへと近付いてきた後で声をかけてきた。

「えっと……もしかして以前、お会いしましたでしょうか……?」恐る恐る聞いてきた女性に俺は正直に答える事にした。「はい、そうですが何かありましたか?」俺が聞き返すと彼女は首を横に振って否定しつつこう言った。「いいえ、何でもありません……それでは改めてお伺いしますね、今日はどんな御用ですか?」それを聞いた俺は彼女に質問を投げかけてみた……するとそれに対して返ってきた返答は俺の想像していた通りのものだったので納得したもののそこでふと思い出したので聞いてみた。「そういえば以前に来た時よりも人が少なくなってるような気がしますが何かあったんですか?」それを聞いた途端、彼女は途端に暗い表情を浮かべてしまうと静かに話し始めた。「ええ、その事についてなんですが実はつい先日、魔王の手下を名乗る者が街を襲撃してきたんです」それを聞いて俺は思わず耳を疑った。「襲撃って……大丈夫だったんですか!?被害の方は!?」それを聞いた彼女は首を横に振った。「私達の街にはほぼ皆無傷でしたが幸いにも命だけは奪われずに済んだのですが怪我を負った方や家が壊された人達など大勢の方が出てしまいました……そのせいで多くの方が家を手放す事になったんですがお金がない為、困っているという状態なんです」それを聞くと俺は黙ってしまった……確かに金がなければ生活ができないのは分かっているのだがそれがいざ目の前に現実として立ちはだかるとどうしても心が折れそうになる気持ちを抑えながら俺は言った。「そういう事でしたか……分かりました、俺達の方で何とかしましょう」

「え?それってどういう事?」首を傾げる少女をよそに俺は女性の方に顔を向けると言った。「詳しい話は後ほどさせて頂きますがとにかくしばらくの間、ここに滞在しますので準備が出来次第、お呼びください」

「分かりました、ありがとうございます!」そう言って頭を下げる彼女の姿に後ろ髪を引かれながらもその場を離れた俺達は宿に戻る事にした。

「ねえ、さっき何の話をしていたの?」歩きながら少女はそう聞いてきたのだがそれにはカレンちゃんが答えた。「あの人達は私達の家族みたいな人達だよ」「ふーん、そうなんだ……じゃあ、私もお兄ちゃん達の家族になる!」その言葉に俺は思わず苦笑いしてしまった。なぜならその言葉がどういう意味を指しているのかが分かってしまったからである……というのもこの町には孤児施設がありそこには親を失った子供達が暮らしているのだがおそらく彼女の場合、そこが自分の居場所だと思っているからこそあんな事を言ったのだろうと考えた俺はこう返した。「気持ちは嬉しいんだけどさすがに君を養子に迎えるのはちょっと厳しいんじゃないかな?」そう言うと少女はショックを受けた表情を浮かべたまま黙り込んでしまうのだった。その後、俺達は宿屋に戻って休む事になったのだがその際、少女の姿がない事に気付いたカレンちゃんが部屋を飛び出すとそのまま探しに行ったので俺は美羽達と一緒に待っている事にした。

しばらくすると少女が一人で戻ってきたのでどうしたのかと尋ねると彼女は何も言わずに抱き着いてきたので頭を撫でながら尋ねた。「一体、何があったんだい?」そう聞くと彼女はゆっくりと顔を上げるとこちらを見ながらこう尋ねてきた。「どうしてみんなは私を除け者にするの?私がいると迷惑なの?」今にも泣きそうになっている彼女を見て少し迷った後、カレンちゃんに相談した後で決めた言葉を言う事にした……もちろん、本当の事を伝えずにだが。「……君がいるせいで皆は困ってるんだ」その答えを聞いた少女は目を見開いた後で俯いた……それを見た俺としては正直、心が痛んだのだがこれも全てはこの少女の為だと思い込んで堪えるのだった……。

翌日になってようやく目を覚ました少女を連れて再び町の中を歩き回ったのだがやはり昨日と同じく周囲の反応は相変わらずでしかも何故か俺達についてくる少女の事もあまり快く思っていない様子でヒソヒソと話している様子が目に入るようになっていた。その為、このままでは色々とやりにくいと判断した俺達は一先ず宿に戻る事にしたのだがその際に少女が服の裾を掴んで放そうとしなかった為に仕方なく同行を許した――とはいえ流石に部屋に入れるわけにもいかなかったので廊下で待ってもらう事にしたのだった。そして部屋で話し合った結果、少女についてはひとまず保留という事で意見が一致した事でその日は解散となり各自、自由行動を取る事になったので俺も出かける事にしたのだった。

そして街中を歩いていると偶然にも出会った人物によって思わぬ情報を得る事となったのである……その人物とはなんとあの隊長さんだったのである――とはいえ最初は半信半疑だったのだが彼が見せた手紙を見せるなり態度を一変させたのを見て確信した俺は話を聞くべく近くにある酒場へと入っていった。

一方、その頃になるとカレンちゃんは少女と一緒に遊んでいたようだがその様子はまるで本当の姉妹のように見えて微笑ましかった……というのも二人は出会ってからずっと同じベッドで寝ていたらしく寝相が悪いからと言っていつも端の方に追いやられていた俺の事を思っての行動だと知り何だか複雑な気分になったものの悪い気はしなかったので良しとする事にした――するとちょうどそこへ例の隊長さんがやって来た。彼は俺を見るなり手招きしてきたので近付いてみると開口一番でこう告げた。「君にお願いしたい事があるんだが聞いてくれるかな?」そう言われた時、何となくだが何を言われるのかを察した俺は迷わずに頷いた。するとそれを聞いた隊長さんは嬉しそうな表情を浮かべると続けて言った。「実は最近、魔王軍の配下を名乗る連中があちこちで暴れているらしいんだ……それを止めるために力を貸して欲しいんだよ」それを聞いた俺は小さく息を吐くとこう返した。「つまりはその連中の所へ行って倒してくればいいんですな?」それに対して頷く彼を見た俺は頷くとさっそくその場所を聞き出した。そしてその情報を頭に叩き込むと店を後にした――それからしばらくして、宿に戻ると待っていた二人に事情を説明すると同時に今から行ってくる事を話した。

「それなら私も行くよ、お兄ちゃん!」当然のごとくそう言ったカレンちゃんに対して俺は首を横に振った。「今回は二人じゃ無理だ……だからここで待っていてくれないか?」俺の言葉に少女は渋々といった様子ではあったが納得してくれたようだったが問題はもう一人の方だ。「だったら僕も連れて行ってくれ!」そう言ってきた彼女に俺は首を捻った。「でも危ないかもしれないぞ?それでも良いのか?」「良いよ!それであの街を守れるのなら構わないさ」その言葉を聞いて俺は彼女の決意が固いものだと知ると大きく頷いてから同行を認める事にした――それからしばらくして支度を終えた俺達は目的の場所へと出発する事にしたのである。

第10節 新たな仲間との出会いとその強さを垣間見る こうして俺と隊長さんの二人で向かう事になったわけだがまずは情報を集める必要があるので聞き込みを行う事にした。しかし残念ながら得られた情報は皆無であり手掛かりになりそうな物は一切なかった事からこれは空振りかと思ったその時、不意に声をかけられた俺は振り向いた先に居た人物を見て思わず驚いた……何故ならそこにいたのは見覚えのある顔だったからである。「あれ、あなたは……」

すると向こうもまたこちらの顔を覚えていたようで話しかけてきた。「確か前に一度、ここに来た事がありましたよね?」「ああ、あの時の……」「やっぱりそうでしたか、ところで今はお一人ですか?」俺が首を縦に振ると相手は何かを考えているような素振りを見せた後でこんな提案をしてきた。「もしよろしければこれから私達とパーティを組みませんか?」それを聞いて少し戸惑ったものの特に断る理由もないと思った俺は承諾して共に行動することにした――そこで互いの自己紹介を済ませてから目的地まで向かう途中、改めてお互いの目的について確認し合ったところどうやら彼らは今起きている事件の真相を突き止めるべく動いているらしかった。「実は僕達も似たような目的で動いてるんです」そう言われて気になったので詳しく聞いてみる事にした。すると彼らは元々はこの町の生まれではなく別の場所からやってきた人達だという事が分かった――なんでも魔王軍に故郷を襲われた際、生き残った人々が避難している場所があったのだというのだがそこに身を寄せていた際にたまたま遭遇したという魔物に襲われた時に彼らに助けられたらしくそれ以来、行動を共にするようになったのだという。その話をしてくれた時、彼らが妙に浮かない表情を浮かべていた理由がよく分かった俺は思わず同情した……だがそんな彼らの力になりたいと心から思ったのは言うまでもない事だろう。「ところで話は変わりますがあなたの名前を教えて頂けますか?」そこで俺は自分の名前を名乗ると相手の名前についても尋ねてみた。

彼の名前はロゼッタと言い普段は武器職人として生計を立てているのだそうだが今日は休みを利用して冒険者をやっているのだそうだ……ただし実力の方はそこそこある方らしくこれまでも多くの功績を残してきたのだが肝心の魔法の才能がないせいでまともに魔法を使えない為、周囲から馬鹿にされる事が多くあまりいい気分ではないとの事だった……ちなみになぜそんな事を知っているのかと聞かれてしまったので素直に答えたら苦笑いされてしまった。まあ俺自身、別に気にしていなかった上にむしろそれが普通だと思っているので仕方ないと思ったのだがそれを聞いていた彼女がこう口にした。「そんな事ありませんよ、少なくとも僕はロゼさんの味方です」「ありがとうございます、そう言ってもらえるだけでも十分嬉しいです」そんな彼女に対して優しく微笑む彼に続いて俺の方もお礼を言ったのだがその時、不意に何かが視界に入り込んできたかと思うと同時に俺の腕にしがみついてくる感触があったので目を向けてみるとそこには先程の少女がいた……なので驚いて固まってしまったのだが直後に発せられた声を聞いてようやく相手が誰なのかを知るのだった。

「……パパ?」少女にそう言われた瞬間、俺は慌てて首を振った後で否定するように言った。「違う、俺は君のお父さんじゃない」だが彼女はその言葉を聞いた瞬間、悲しそうな表情を浮かべると今にも泣き出しそうになったので困ってしまった俺は咄嗟にロゼさんの方に視線を向けると助けを求めた。「すみませんがこの子を泣き止ませる方法を知っていませんか?」すると彼は少しだけ考える素振りを見せるとすぐに何か思いついたのか少女に向かってこんな質問を投げかけた。「ねえ君、もしよかったらお兄さん達が捜している人について一緒に調べてみないかい?」「え……?」突然の提案に驚いた様子の少女は少し考えると再びロゼさんの方を見つめて小さく頷いた後でこう言った。「……うん、分かった」「良かった、ありがとうね」「えへへへ……」少女の頭を軽く撫でると嬉しそうに笑う姿を見て彼も満足そうな表情を浮かべていたが俺としては内心、冷や汗をかいていたのだ……というのもまさか自分の事を『パパ』などと呼ぶとは思っていなかったからである。

だがそれと同時に俺は不思議な感覚を抱いていた――その呼び方に違和感や不快感を抱かなかったのもあるのだがそれよりも不思議と懐かしい気持ちになっていた事に違和感を覚えていたのだ。とはいえいつまでもこうしているわけにもいかないので気を取り直して目的地へと急ぐ事にしたのだった。

しばらく移動を続けた結果、ついに俺達はその場所に到着した……しかし目の前に広がる光景は想像とは大きく異なるものであった為に驚きを隠せないでいると不意に声をかけられた。「もしかして初めてここへ来られたのですか?」振り返るとそこには先程出会ったばかりの男が立っていたので正直に頷くと彼は説明を始めてくれた。何でもここは以前、魔王軍の拠点が置かれていた場所であり現在は悪魔達の街となっているという話だったのだが実際に行ってみればまるで別の世界のように変貌を遂げていたので言葉を失ってしまったのである。「なるほど、それは確かに気になるな……」「はい、それにどうもこの街はおかしいんですよ……ほらあそこを見てください」男が指差した先に目を向けるとそこには巨大な城のような建物が見えたのだがよく見ると入口らしき部分に大きな岩が置いてあるのが見えた。しかもその上からは大量の水が滝のように流れ落ちている為、中に入るにはまずこの大岩を破壊しないといけないように思えた……そこで俺が魔法で壊そうかと考えていたその時、男はとんでもない提案をしてきた。

なんとあの男は俺と二人で協力して大岩を破壊するという無謀とも言える作戦を提案してきた……だがそれを聞いた俺は少し考えた後、男の方を見ながら頷いてみせた――するとそれを見た彼が笑みを浮かべてきた直後、何やら少女の姿が見えなくなったのでどこに行ったのかと思いきやふと背後から気配を感じたので振り向くといつの間にやら少女が隣に立っておりこちらを見つめている姿が目に入った。「お兄ちゃん、私も手伝うよ!」そう言うと彼女は俺達に近付いてきてこんな事を口にした。「私の力で一気に片付けるからその間、時間を稼いでくれるかな?」それを聞いた俺達は顔を見合わせてから同時に頷いた後で彼女に声を掛けた。「それじゃ任せたぞ!」「任せといて!絶対に成功させるからね」元気よく返事をした後で少女は目を閉じ始めたので俺と男はいつでも魔法を発動できるように身構えているとその直後、周囲の空気が一瞬にして張り詰めていくのを感じた……そして数秒ほど経過した後で目を開いた彼女は俺達に向かって指示を出すと共に杖を構えた――するとその直後、彼女を中心に風が吹き荒れていった。

やがて風が収まった頃には地面は大きく抉られておりそればかりか周辺の木々さえも根こそぎ消し飛ばされていたので凄まじい威力だという事はすぐに理解出来た。だがその一方でこれだけの威力があるにも関わらず本人は涼しい顔をしている事から彼女の力の底知れなさを改めて思い知らされる事となったのである。その後、準備が整った俺達は一斉に動き出すとほぼ同時に少女も行動を開始した。

それからしばらくして何とか大岩の前まで辿り着く事が出来た俺と男は即座に魔力を溜め込むと一斉に解き放った……その結果、轟音と共に放たれた攻撃によって目の前の障害物を跡形もなく破壊することに成功した……だがそれによって発生した衝撃波で街全体が揺れた事で少し不安を覚えたが今はそれを気にするよりも先にやる事があると思った俺は急いで少女の元へ駆け寄ると声をかけた。「お疲れ様、あとは休んでてくれ」「う、うん……」俺の言葉に頷きつつもその場にへたり込んだ少女を見て一安心したところで次はロゼさんの手伝いに行こうかと思ったのだがどうやら向こうも終わったらしく笑顔でこちらに駆け寄って来た――それを見た俺はホッと一息つくと同時に次の目的の為に動き出した――そう、この街に住む住人達を救い出すという大切な目的を達成するために……。

第11節 意外な出会いと再開を果たす 無事に目的の人物を捜し当てた俺達だったがその人物を見た時に思わず固まってしまった……なぜならそこに居たのはまだ幼い少年であったからだ。「おいガキ、てめぇの親父はどこに行った?」するとそんな俺に答えるかのように一人の女性が近付いてくるとこう口にした。「申し訳ありませんがあの子ならもうここには居ません……恐らくですが魔王様の元へ向かったのではないかと……」その言葉に耳を疑った俺はもう一度、女性の事を見ると続けてこう尋ねた。「それはどういう事だ?」だが彼女は俺の質問に答える事なくそのまま姿を消してしまったので呆然と立ち尽くしていると隣から声を掛けられた。「とりあえず今はあの人の話を信じるしかなさそうだよ」「そ、そうですね……」彼に言われて納得した俺は頷いてみせるとこれからどうするかについて話し合う事にした……だがその前に一つだけ気になることがあったので尋ねてみる事にした――「ところで隊長さんはあの女性の正体に心当たりはあるんですか?」すると相手は首を横に振るとこう答えた。「いや、初めて見る顔だった……少なくとも俺は知らないね」どうやら彼の知り合いではないようだったがそれなら一体、誰なのだろうかと考えた時にある考えが浮かんだ。

何故ならその答えは一つしかないと思っていたのだがもし違っていた場合は余計な混乱を招きかねないと判断した為、あえて口にしなかった――とはいえこのままここで考えていても埒が明かないのでひとまず町の中心部へ向かうことにした俺達は歩き始めたのだがその際、俺の腕にしがみついている少女がじっと俺の顔を見つめている事に気付いてどうしたのかと尋ねるとこう口にした。「パパ、さっきから難しい顔をしてたけど何か悩み事があるの?」俺はそれを聞いてどう答えればいいのか悩んだ……というのも先程、少女に抱きつかれた際に不思議な懐かしさを感じたので思わずパパと呼ばれて驚いてしまったが別に不快な感じは一切なくむしろ嬉しかったのでそのまま受け入れた……のだがよくよく考えてみればどうしてそんな風に感じるのか分からなかったのだ。だがそれ以上に気になる点があった……それは『ママ』と呼ばれた瞬間、なぜか胸の奥がズキッと痛み出した上に妙な感覚を抱いた事だ――その為、もしかしたら本当に自分は父親なのかもしれないと思ってしまったのだが流石にそんな事はないだろうと考えてそれ以上は深く考えないようにした。「あぁ、大丈夫だ……それよりもさっさと目的地に向かうとしよう」「はーい!」こうして元気よく返事をするとまたくっついてきたので内心ドキドキしながら先を急いだのだった。

その後もしばらく歩いたところでようやく中心部と思われる場所に到着したので辺りを見渡してみると大勢の人が暮らしている事が確認出来た。ただそれでも様子がおかしい事に気が付いたのは町の人達の表情が暗くどこか怯えているように見えたからである……するとそんな中、近くにいた中年の男が声をかけてきたので話を聞いてみるとこんな話を聞かせてくれた。「……この街の住人達は皆、かつて住んでいた場所から逃げ出した連中なんだよ」その男によると以前、この町には大勢の人々が住んでいたのだがある日を境に全員が姿を消すという事件が起きて以降、行方不明者が続出したという――その為、住人の中には未だにその恐怖に怯えたまま過ごす人も少なくないそうだ。ちなみに先程会ったロゼさんとこの男性とは昔、同じパーティーを組んでいた時期があってその頃はよく交流していたそうなのだがある日、魔物に追われた際に囮となって彼を逃がす為、犠牲になってしまったらしいのだがその時に受けた傷が元で死んでしまったのだという……しかしその後、遺体を捜索したところ何故か見つからず終いだったので仕方なく諦めていたのだが最近になって突如として彼の墓が現れたという話を聞きつけたのでもしやと思った男性はロゼさんに連絡して様子を見に来てもらう事にしたのだった。「そうか……教えてくれてありがとう、おかげで助かりました」話を聞いた後で礼を述べると彼は嬉しそうに笑いながら言った。「いやいや気にするな、それよりも気を付けろよ?今、この周辺一帯は魔物達が支配しているという噂だからな」それを聞いた俺はお礼を言うと急いでその場を後にした――というのも今の話だけで十分、収穫があったのですぐに次の行動に移りたかったのだ……なのでまずは少女と共に情報収集をする為に街の人々に聞き込みを始めたのだがそこでとんでもない事実を知ってしまう事になるのだった……。

最初に聞き込みを開始した結果、気になる情報を入手した俺達は一旦、その場を離れると小声で話し合った。「どう思う、ミユちゃん」「そうですね……もしかするとルビちゃんの父親は魔王軍の関係者なのかもしれませんね」確かに俺もそう思っていたところである……何せあれだけの事をやってのけたにもかかわらず何の反応もなかったからだ。とはいえ仮にそうだとして何が目的なのかが全く分からないのも事実だった。

そこで俺達はこの事を隊長さん達にも伝える事にした……とはいえ俺達に出来る事は限られていたので実際に行動を起こしたのだがその際にちょっとした問題が発生した――「すまないがここを通してもらえないだろうか?」そう言って男の前に立った人物は全身鎧に身を包んだ騎士風の女性であった……彼女はしばらく無言で立ち尽くしていたのだがやがて剣を抜くとこう叫んだ。「これ以上、先へ進むとお前達の身に危険が生じる……だから今すぐに引き返せ!!」それを聞いた俺達は一瞬、驚いたものの冷静に判断してから頷くとすぐに踵を返した……するとその直後、背後から激しい爆発音が聞こえてきたので恐る恐る振り返ると先程まであったはずの道が無くなっていた。「これはいったい……」「おそらく彼女がやったんでしょう、それより急がないと追い付かれますよ」隊長さんにそう言われたので頷いてみせると移動速度を上げて走り出した。

しばらく進んだ先で別の道に合流した事で安堵しながらもさらに進む事しばらくしたところで急に立ち止まったかと思うと隊長さんがこう言った。「さてここから先は別行動になる訳だが君達はどう動く?」俺は正直、迷っていた。なぜなら彼の言う通り、ここまで来てしまえばそれぞれ別々に行動した方が効率的だからだと考えていたからである。だが同時に少女を放っておく訳にもいかない事も理解していた。

だがその時、不意に服の裾を引っ張られた感触を得たので振り向いて確認すると不安げな表情を浮かべている少女と目が合ったので俺は出来るだけ優しい口調で話しかけた。「大丈夫だよ、ちゃんとパパが守ってあげるから安心して」「……分かった、でも危なくなったらすぐに逃げるんだよ?」そう答える少女の頭を優しく撫でてから俺は彼女に尋ねた。「それじゃそろそろお別れだな……大丈夫か?」少女は黙って頷くと同時に俺の腕を強く掴んできたので苦笑しながらも彼女の手をそっと外すと懐から紙を取り出しながら声をかけた。「ほら、これを持っておくんだ。もし迷子になったらこれを目印にして探すからね?それと最後に一つだけ、君のお母さんに会ったとしても俺が迎えに来るまで決して会ってはいけないよ、約束出来るかい?」「うん、約束する!絶対にママには会わないって約束するから心配しないでね、お兄ちゃん」そう言うと少女は俺の手を握ってきた。

それを見た俺は再び頭を撫でてあげると今度は彼女の方から頬にキスをしてきた。するとその直後、俺の身体が淡く光り始めたのが分かって驚いたのだがその理由はすぐに判明する事となった……というのも俺の足元に魔法陣が出現したかと思えばそこから光が伸びてきて徐々に俺の身体を覆っていったのだ。どうやら少女が魔法を使ってくれたようで俺は少女に対してお礼を言うと別れの挨拶を告げた――そしてそれが合図となり魔法陣が発動すると瞬く間に景色が一変し、気が付けば見知らぬ場所に辿り着いていた。

それからすぐに向かったのはこの周辺についての情報を手に入れる事であったがまず向かった先は街の中心にある酒場であった……そこには多くの人達が集まっていたが誰も俺に興味を示していなかった事からこれなら普通に話を聞いてもらえそうだなと思った俺は近くにいた店員に話しかけるとこれまでの経緯やこれから何をしようとしているのかについて話した……するとそんな俺をジッと見つめていた女性店主が言った。「なるほどねぇ、事情は分かったよ。ところであんた、その子供とは知り合いなのかい?」その言葉に思わず少女の方に視線を向けると笑顔で頷いていたので俺も頷き返すと続けてこう答えた。「あぁ、この子はある人の大切な忘れ形見だ」「ふーん、そうか……それなら仕方がないね、そういう事なら助けてあげるよ」「え、いいんですか!?」思いのほかあっさりと承諾された事で拍子抜けした俺が思わず聞き返すと相手はこう答えた。「別に構わないさ、ただその代わりといっては何だけどあんたにはある人物を捜し出して欲しいんだよ」それを聞いた瞬間、俺の頭の中に一人の人物が浮かび上がった。「その人物というのはもしかして……」「お察しの通りだよ、あんたの父親の親友である“勇者様”の事だよ」その言葉を聞いた俺はやっぱりかと思いつつ、心の中でため息をついた。

その後、酒場をあとにした俺はそのまま街の中心部へ向かったのだがそこではちょうど先程の集団による襲撃があったらしく多くの人々が倒れている姿が見受けられた。

どうやら彼等は街の人々には危害を加えずに物資のみを狙っていたらしくその為、命までは奪われる事はなかったそうだが代わりに建物などの財産がかなり奪われたらしくこのままでは住む所はおろか明日の生活すらままならないといった有様だった。

しかしだからと言ってどうする事も出来ない為、仕方なくその場を後にする事にした俺は他に情報がないかを確認する為に別の場所へ向かおうとしたのだが不意に何者かの視線を感じたので周囲を見回すもそれらしい人影を見つける事が出来なかった――いや、そもそも相手が何者なのか全く分からなかったのだ……というのも周囲には多くの人達がおりしかも皆が下を向いていたせいもあるかもしれないがそれ以前に気配すら感じなかったのである。

だが次の瞬間、いきなり足元の影が伸びて人の姿になったかと思うと目の前に現れたのは黒い装束に身を包み仮面で顔を覆った男だった。「初めまして……というべきなのかな?とりあえず初めまして、私はとある組織の使いの者です」男がそう言うとゆっくりとお辞儀をしてみせた後、手を差し出して来た。

なので警戒しつつも握手を交わした瞬間、男は笑みを浮かべながら口を開いた。「実はあなたにご協力をお願いしたい事があるのですが……聞いていただけますか?」俺はその申し出を受ける事にした。「分かりました、それでどのような内容でしょうか?」「はい、単刀直入に申し上げますとこの街を壊滅させて欲しいのです」それを聞いて驚きのあまり思わず言葉を失ってしまった……というのも目の前にいるこの男はつい先程まで町の住民達を襲撃していた連中の一員だったからだ。

そんな俺の様子に気付いたのだろう……仮面の男が慌ててこう口にした。「あぁ誤解なさらずに……私達は何もあなた方を苦しめようとは考えていません、ただ単純に邪魔な存在を消して欲しいと依頼されただけですから」それを聞き安心した俺は大きく頷いた。

何故なら以前であればそのような事はあり得なかったので彼が嘘を言っている訳ではない事が分かったからだ……それに俺自身、こういった状況に慣れ始めていたせいか動揺しなかった事に内心で安堵していると突然、目の前の男が何かを思い出したような仕草を見せた後に再びこちらに顔を向けると言った。「そうそう、先程申し上げた通りこれは私達にとって邪魔者を排除出来るだけではなく金儲けにも繋がる良い案件なんですよ」「……それはどういう事ですか?」「いえね、あなたが引き受けてくれたら色々とサービスしてあげると言われましてね……ですからこうしてあなたの元にやってきたという訳なのですよ」

「えっ、それってどういう――」

そこまで言いかけてハッとした……なぜなら今、自分が立っている場所がいつの間にか変わっていたからだ。「それでは後はよろしくお願いしますね」そう言うと彼は再び姿を消したのだがその時、俺はようやく気付いたのだった……これがあの不思議な空間なのだと。つまり自分はまんまと敵の罠に嵌ってしまった訳だという事を知った俺は悔しさで唇を噛み締めながらもすぐに行動に移った。理由は二つあった。

一つはこのまま放置しても良い結果にはならないと判断した事……そしてもう一つは早く助けに行かなければという思いだった。だからこそ急いで移動しようとした時、背後から聞き覚えのある声が響いてきたので驚いて振り返ってみるとそこには先程出会ったばかりの男が立っていた。「良かった、間に合ったようですね……さぁ行きましょうか!」そう言いながら手を差し伸べてきた彼の手を握ると俺達は一緒に走り出しながらある場所を目指す事にした――その場所というのがこの騒動を引き起こした張本人の元である。だがそこへ辿り着くまでの間に様々な問題に直面してしまったせいで何度か死にかけたもののどうにか無事に辿り着けたので一安心する事ができた。「……あれっ、そういえばここは何処なんだ?」ふと気になって尋ねようとした直後、まるで狙ったかのようなタイミングで目の前に扉が現れた。「ここに首謀者がいるはずなので入りましょう」そう言われて頷いてみせた俺は彼に促されるままに扉を潜ると部屋の中では大勢の男達が慌ただしく作業していたものの俺を見るなり手を止めて一斉にこちらへと視線を向けた。

その瞬間、俺は思った……どうして彼等は俺達がここを訪れる事を分かっていたのかと。確かに最初に見た時も不思議に思っていたのだが、今はそれ以上の違和感というか既視感にも似た感覚を覚えた俺は戸惑いを隠せないでいると背後から誰かが声をかけてきたので振り向くとそこには見覚えのある男性の姿があった。

そう、その人は俺のよく知る人物であると共にかつて共に戦った仲間であり現在は別の仕事に就いているはずの人物であった。「おや、久しぶりじゃないか!今日はどんな用事でここへ来たのかな?」そう問いかけられた俺はすぐに返事をするべく口を開こうとしたその時、先に口を開いた者がいた……それは目の前の男性からの依頼を受けたという男だった。「――あなたは一体誰なんですか?」その男の言葉を聞いた俺は咄嗟に振り返ると同時に身構えつつ問いかけると相手は答えた。「おっと自己紹介がまだだったな……まぁ君達の予想通り、私の名はルドラだ――もっとも今の私は既に名前すらも残っていない存在だがね」それを聞いた俺と男は驚きつつも黙って話の続きを待った……すると彼は言った。「私が今回、君達に依頼を出したのはある人物がこの世界に存在しているかどうかを確認する為だったんだ。何しろその者は本来、ここにいるべきではない存在だったからね……だから君がそいつを連れてきてくれて助かったよ」

その言葉を耳にした瞬間、全てを理解した俺に対して彼はこう続けた。「さてここからは交渉の時間だね、君にやってもらいたい事はもう分かっているだろう?」そう言われた俺が無言のまま頷くと彼は満足そうに頷き返すと言った。「よろしい、なら早速だが行ってもらおうかな――この世界を滅ぼしたいならまずはそこに転がっている役立たず達を殺せ!!話はそれからだ……」その直後、ルドラと名乗る男の周囲に次々と異形の存在が姿を現し始めた……それを見た俺とその男は互いに顔を見合わせると覚悟を決めたかのように頷き合うと各々の武器を手に取った。そしてそれが戦闘開始の合図となった。

その数分後、その場に残されたのは俺だけとなり周囲を見渡してみたが誰も立っていなかった事を確認するとホッと一息ついた後、床に倒れ込んでいた人物に近づくと無事かどうかを確認したところ息があったのでひとまず安堵した俺はすぐさま外に向かって歩き始めた。その理由についてはただ一つ、この場に留まっていたら新たな敵が現れないとは言い切れないからである――現にルドラと名乗った男が生み出した怪物の中には明らかに人間とは異なる姿かたちをしていたり禍々しい雰囲気を漂わせている者達もいたのでそれらがまた現れないとも限らないと考えた俺は足早にその場を立ち去ったのだった……ちなみに後で聞いた話なのだが彼等が何者なのかについて尋ねてみたところルドラという名前以外、教えてもらえなかったらしいのだがどうやら彼らは元々この世界の住民だったらしい――ただある日を境に何らかの理由で姿を消してしまいその結果として他の世界の人間に寄生する形で生き長らえてきたというのだ。

ただしあくまでも生きる為に必要最低限の食事だけを取ってきてあとは宿主に全てを任せていたらしくこれまではずっと平穏な日々が続いていたのだという……だが今回のように突如として自分達の意思で行動を始めたケースは極めて稀だと聞かされていたのでもしかすると俺がこの世界にやってきた影響によるものなのかもしれないと考えているうちに外へ出た俺はそのまま森を抜けた後、草原へとたどり着いた――そこは先程までとは違い人気もあまりなく穏やかな雰囲気が漂っている中でようやく緊張の糸が切れたのか思わず座り込んでしまった俺の元へと近付いてきたリミスさんが心配そうに声を掛けてきたが大丈夫である事を伝えた後、立ち上がると改めて周囲を見渡してみた……すると遠くから街の住人達が走ってくるのが見えたのでそちらへ向かう事にした俺達は揃って歩き出すと街の人達から歓迎され感謝の言葉を受け取った。そしてその中でも一際、感謝の念が強かった老人に話を聞かせてもらう事となった。

何でも老人はこの街で代々、受け継がれてきた大事な仕事をしておりそのお陰で今の今まで何不自由なく生活する事が出来たのだがある日、突然街にやって来た連中に大切な家や財産を全部奪われてしまったのだそうだ……そんな話を聞かされた俺達はお互いに顔を見合わせると同時にこう考えていた……これは偶然ではなく仕組まれた出来事ではないかと。とはいえ仮にそうだとすれば一体誰が何の目的でやったのかという問題が生じるのだがここでふとある人物の事を思い出した俺は慌てて彼女に確認してみる事にした……すると返ってきた答えは案の定、同じ考えを持っていたようだった。そこで詳しく話を聞きたかったのだがその前に彼女が口を開いた。

曰く、その人物は黒い外套を身に纏っていたという……それを耳にしてまさかと思い彼女にあるお願いをした直後、突然背後に気配を感じた俺は思わず振り返った……そこには先程出会ったばかりの男が立っていた。「お気付きになりましたか?……そうです、先程のお話に出てきたのは私です」そう言って頭を下げるなり彼はこう口にした。「あなたに依頼したいという依頼がありましてこうして参った次第なのですが宜しいでしょうか?」

「……依頼って、一体何をすれば良いんですか?」俺の質問に対して男はゆっくりと顔を上げた後、こう答えた。「はい、実は……この方を殺して欲しいのです」そう言った男から手渡された写真にはどこか見覚えがある顔が映っていた。「……誰なんですか、この人は?」率直な疑問をぶつけてみたのだが何故か相手は沈黙したまま何も答えなかったので仕方なく別の話題を口にする事にした。

何故なら彼の様子を見る限りでは下手に問い詰めれば逃げられそうな気がしたからだ……それというのも先程からずっと視線を感じたままだったのである――まるで監視するかのように。「ところで何故この人物を殺す事が依頼の内容なんですか?」再び質問した直後、ようやく相手が口を開いた……しかしそれは予想外のものだった。「……それはまだ教えられません」そう口にしながら笑みを浮かべた男を見た俺は直感的に嫌な感じがしたもののこれ以上追及しても無意味だと思ったので諦める事にした。

そして代わりに別の質問をぶつけた。「それでどうやって殺すつもりなんですか?そもそもここは一体どこなんです?」「ここですか……ここはそうですね、あなた方にとっては異世界にあたる場所です」それを聞いた瞬間、俺は即座に嘘だと思った……というより信じられるわけがなかった。なぜならつい先程までは現代日本の風景が目の前に広がっていたのに次の瞬間、いきなりこんな殺伐とした光景が広がっているなど普通に考えればありえないのだから――そう思った時、不意に一つの可能性が頭を過ぎった……もしやこの現象を引き起こしたのはこの目の前の男ではないかという事である。

その可能性に思い至ったのは言うまでもなくルドラの存在があったからだ……もし奴がこの男と組んでいたとすればここまで非現実的な状況を実現させる事も不可能ではない。そう考えた俺は男に気づかれないように距離を取った後、密かに魔力を練り上げるとその魔法を発動させる機会を伺う事にした。(よし、これならいけそうだな)そう思いながら魔法を放とうとしていたその時、突如地面が大きく揺れた事で狙いを外してしまったせいで魔力が暴発してしまい辺りに砂埃が舞ってしまった為、咳き込みながらどうにか立ち上がった直後、周囲の様子が変わっている事に気付き驚愕する羽目になった――何せ辺り一面は岩だらけの荒れ地になっていたからである。しかもそれだけではなく俺の足元に巨大な穴が出現した上にまるで吸い込まれるかの如く落ちていく最中、ある言葉を耳にしたのだ「それではまた会いましょう」と――。

その言葉の意味を考えようとしていた矢先、突如として意識を失った俺は気が付くとベッドの上に横たわっていたものの見知らぬ部屋にいるという事実に気づいた途端、咄嗟に起き上がろうとしたのだがすぐに体の自由を奪われている事に気付いた――というのも両手足に手錠のようなものが装着されており思うように動けないばかりか首には謎の首輪のようなものをつけられている事から少なくともこの部屋から出るのは不可能のようだった。「目が覚めたようだね、気分の方はどうかな?」そこへルドラと名乗る男性が姿を現したので睨み付けるような視線を向けた。

すると相手は笑みを浮かべながらこう返してきた。「そんなに怖い顔をしなくても大丈夫だよ……それに君の命を奪ったりはしないから安心したまえ」それを聞いた俺は思わず「ふざけるな!」と叫んでしまう――すると男性は一瞬、悲しそうな表情を浮かべた後にこう告げた。「君は勘違いしているみたいだね……私は君を生かすつもりでいるのだよ、何故なら君こそが最後の希望だからだよ」そう告げられた俺が首を傾げると男性はこう続けた。「今から説明してあげるけど落ち着いて聞くんだよ……いいね?」それに対して頷いてみせた直後、男性は語り始めた。

「まず君が気になっているであろうこの場所についてだが私が作り出した異空間だと考えてくれて構わない……つまり今ここにいる限りはいくら暴れても無駄な事だし、たとえ助けを呼んだとしても誰かが気付く事はないのさ」そこまで話したところで一度、咳払いを挟んだ男性は改めて続きを口にした。

「では次にこれから君にやってもらいたい事を簡潔に説明するけど……まずはこの世界にいる人間を1人残らず皆殺しにしてこの世界を滅ぼしてもらいたい」その話を聞いた俺は思わず唖然としてしまう――それも当然だろう、何故ならいきなり世界を滅亡させるなどという物騒な提案をされたら誰だってそうなるはずだからだ……だがそんな事を言われてもはいそうですかと納得出来るはずもなく俺はすぐさま拒否した。「冗談じゃない!どうしてそんな事の為に俺が命を張らなければならないんだ!?」そう反論した瞬間、相手の表情が変わったかと思うと鋭い眼差しを向けてきたので思わず怯んでしまった――何しろこれまでにない程、冷たい目をしていたからだ。

するとそれを見た相手はこう言った。「ほう、そうか……なら仕方ないな、無理にでも協力してもらう事にしようかな……」そう言いながらゆっくりと俺に歩み寄ってくる彼に対し必死に後退りするのだが壁に阻まれた挙句、身動きが取れなくなった……そんな俺を見て薄ら笑いを浮かべながら近づいてくる相手から逃れようとしたその時、不意に首筋に痛みを覚えた直後に意識が遠のいていくのを感じた俺は何とか抵抗しようと試みたものの結局は無駄だった――そのまま気絶してしまったからである。

その後、目を覚ますと再び別の場所に移動させられている事に気付いた俺は周囲を見渡すなりここが以前まで暮らしていた自分の部屋だという事が判明したのでひとまず安堵していると部屋のドアが開き、そこから見覚えのある顔が現れた……どうやら両親のようだ。

すると父親の方が俺を見るなり笑顔でこう口にした。「もう起きても大丈夫なのか?」その問いかけに頷くと今度は母親の方が近付いてくると心配そうな表情で見つめてきた後で優しく抱き付いてきた。突然の事に驚きつつもどうしたのか尋ねてみると彼女は目に涙を浮かべながら言った。「だってあなたは2日も目を覚まさなかったのよ?このまま一生、目が覚めなかったらどうしようかと思ったじゃない……!」それを聞いた瞬間、俺もつられて涙を流しているといつの間にか傍に来ていた妹が頭を撫でてくれたおかげで少し落ち着いたのでお礼を述べた直後、両親が同時に頭を下げたかと思うとこんな事を口にしてきたのだった――「「本当にすまなかった」」そう口にした両親はこれまで黙っていた事を謝罪し始めたのだ。

その内容を聞いていくうちに今回の事件に関して彼等は以前から関与していた事が分かったので改めて尋ねようとするもそれよりも先に二人が口を揃えて謝ってきたので何も言えなくなってしまった……とはいえ既に終わった事なのでこれ以上は蒸し返すつもりはない。ただ気になる点があるとすればなぜ今回に限ってこんな行動に出たのかという点だ――なぜならこれまでの二人はあくまでも普通の親として俺達を育ててくれていただけに今回の件に関しては明らかに不自然であり不可解だったからだ。しかし、それでもなお真相を語る気がないらしく最後まで口を割らなかった事もあり、諦めた俺は一先ず学校へ通う事になったので制服に着替えようと服に手をかけたのだがその瞬間、違和感を覚えたのでふと自分の体を見下ろしてみたところ胸辺りに痣のようなものが出来ていた為、慌てて鏡を見て確認してみるとそこに映っていた自分の背中に羽のような模様が浮かび上がっていた事でこれが何なのかを察した俺はすぐに服を着ると部屋を飛び出した。そして向かった先は勿論、あの地下室である――そこには予想通り彼が待っていた。

「よく来たね、その様子だとどうやら私の言葉が理解できたようで嬉しいよ」

「それよりこの羽は一体何なんだ!?答えろ!!」

「……まあ落ち着きたまえ、話はちゃんと聞いてあげるからさ」

「……くそっ、覚えてろよ」

「ふふ、良い心掛けだね……ところで一つ聞きたいんだけどいいかね?」

「何だ……?」

「さっき私に言っていた"あんた達だけは許さないぞ"という言葉の意味を教えてもらえないかな?どうも気に掛かってしまって仕方がないんだよ」

「それを聞いてどうするつもりなんだよ?」

「さあ、どうだと思う?」

「……どうせ答えないんだろ、だったら教えてやる義理はない」そう言って立ち去ろうとした瞬間、相手が再び声を掛けてきた。

「そういえば先程、面白いものを見させて貰ったんだが君も見たかね?」

「いや、俺は知らないが一体、何を見せたんだ?」

「ふむ、ならば特別に見せてあげようじゃないか……こちらへ来なさい」そう言われた俺は警戒しながらもルドラの元へ向かった直後、目の前に一枚の写真を差し出されたので手に取って眺めてみるとそこには何と俺自身の姿が写っていた為に思わず驚いてしまうと同時に困惑してしまった。「おい、どういう事だこれは?」そう口にするなり問い詰めてみると彼は笑みを浮かべてこう返した。

「簡単な話だよ、君はあの時死んだ筈だったんだけど残念ながら死んでいなかったのさ……つまり仮死状態だったというわけだが運良く私達が通りかかって蘇生させる事が出来たというわけだ」

「待て、話がおかしいだろ?俺は確かに首を切り落とされたんだぞ」その問い掛けに対して彼は答える事なく笑みを浮かべたまま俺を見つめ続けていた……そこで確信した――こいつは間違いなく俺の敵であると……そう思った瞬間、反射的に殴り掛かろうとしたらルドラによって取り押さえられた。

それから程なくして解放された事で冷静になった俺はある事を考え始めた。(まさかこいつの目的は俺とあいつを接触させる事なのか……?)しかしそれが事実だとしたら何故、そんな事をする必要があるのかと思案した結果、一つだけ思い浮かんだのが彼の言う"あいつ"というのが誰なのかという問題である……そもそもの話、この世界には人間以外にモンスターと呼ばれる生物がいる事からおそらくそいつの事を言っているのだろうと考えついたもののその根拠が乏しいせいでいまいち確証を持てないまま悩んでいると不意にルドラが声を掛けてきたので振り向くと同時にこう告げられる。

「実はもう一つだけ頼みたい事があるんだがいいかな?」それを聞いた時、断るべきか悩んだものの今後の事も考えておこうと思い立った為、話を聞く事にした……すると彼から伝えられた内容は次のようなものだった。「君にはある人物を殺してもらいたい」そう言われて俺は思わず首を傾げたものの一応、話を聞いてみる事にした……何故ならここで断れば確実に殺されると思ったからである。

そして話を聞いた後、ようやく納得した俺が頷くとルドラは早速、準備に取り掛かった――とは言っても特にする事もなく待っているだけなのでその間にこれからの行動方針を考えておく事にした……と言ってもあまり選択肢は多くないのでさっさと決める事に決めた。

(取り敢えずまずはあいつを探さないとな……それにもし見つけたら一発、ぶん殴ってやる!)そう心の中で呟きながら拳を握り締めた直後、ふいにルドラに呼ばれた俺は振り返ると何故か笑顔を浮かべていたので思わず後退ってしまうも次の瞬間、信じられない事を言い出したので驚きのあまり固まってしまった――というのもなんと彼にとある魔法を使ってもらう事になるかもしれないと言われたからだ。

それは対象の存在を感知出来る魔法なのだが習得するにあたってかなり危険な状態に陥る恐れがあると聞かされた事で躊躇った結果、一度は断ったのだがどうしても必要だからと言われてしまった事もあって最終的には渋々ではあるが了承するとさっそく呪文を唱えて発動するや否や体が光り出したかと思うとその直後、視界が暗転したかと思えば気付けば別の場所に移動していたのには驚いた――それも見知らぬ場所である上にまるで牢獄のように感じた。

そのせいか不安を感じ始めたその時、どこからか聞き覚えのある声がしたので目を向けるとそこに現れたのは俺が探していた奴だったので咄嗟に飛びかかった……そう、こいつが犯人なのだと確信したのだ。しかし直後に予想外の事態が起きた――なぜなら相手は避けようともせず微動だにしなかったばかりかあろうことかこちらの攻撃を受け入れたのだ。その為、相手の腹部に深く突き刺さった腕を見て驚いていると不意にルドラが現れて言った。

「おめでとう、君が探していたのは彼であってるよ……ただし本物ではないがね」その言葉を耳にした俺は動揺しつつも腕に力を込めた。「どういうことだ……説明しろ!」だがいくらやっても相手にダメージを与える事すら出来ないので次第に焦りを募らせていると背後から声が聞こえたので振り返ってみるとそこにいたのは俺と同じ姿をした何者かだった……それを見た俺は驚きを隠せなかったがそれ以上に怒りが湧き上がってくるのを感じた。

なぜならその者は紛れもなく自分が殺したはずの相手だったからだ。それに気付いた直後、目の前の奴が口を開くなり笑みを浮かべながら話しかけてきた。

『お前の言う通りだな』

『は?』

『俺はお前に殺されたよ……それで気が付いた時にはここにいた』

『なっ……』あまりの衝撃的な内容を受けて言葉を詰まらせてしまう。

だが同時にこうも思った……仮にこいつが偽物だとしても自分を殺した相手に変わりはないから容赦する必要はないだろうと考えていたからだ――もっともそれがただの強がりだという事は自分自身が一番分かっていたが他にどうしようもない以上、やるしかなかった。

そうして覚悟を決めた後で目の前にいる奴を見据えながら構えを取った次の瞬間、突然現れたもう一人の俺に顔面を蹴飛ばされてしまいその場に倒れ込む……その際、後頭部を強く打った影響で意識が朦朧とし始めながらもどうにか立ち上がった。

しかし直後に背後から衝撃を受けた瞬間、そのまま地面に倒れ込んでしまう……その後、顔を上げるとそこにはいつの間にか俺の姿があったので驚愕していると奴はこんな事を口にした。

『俺はあんただよ、まあ正確に言うと未来のな』そう口にした直後、突如として視界が変わると同時に薄暗い部屋の中に立っていたので周囲を見渡すも窓がない事や出入り口が見当たらない事からどうやら閉じ込められているのだと気付いた。

そこで試しに壁を何度か殴ってみたものの傷一つつかなかっただけでなく逆に拳を痛めたのですぐに止めると今度は出口を探し始めた。

すると間もなくそれらしきものを見つけたのだがどうやら鍵がかかっているらしく開かないので仕方なく別の方法を考える事にした。

しかし当然ながら簡単に諦めるつもりはなく色々と試したものの全て空振りに終わり、どうしたものかと考えている最中、突如、目の前に大きなスクリーンのようなものが現れた事で視線を向けるとそこに映し出されたのは……「何だよ、これ……」映像の内容を見て愕然となる。何故ならそこには血塗れになって倒れている両親の姿が映し出されていたのだから当然の反応であった。

そんな状況の中で再び場面が変わったかと思えば次に映し出されたのが先程まで見ていた光景の続きだった事で思わず固唾を呑んで見守っていると両親がこちらに向けて何か言い始めると同時に画面の端に文字が表示された為、読んでみるとその内容が驚くべきものだった……「えっ、何でこれが……いやでもあり得ないだろ!?」そう、なぜなら書かれていた内容が両親の声でこう聞こえたのだ。「私達の分まで幸せに生きて」その直後、二人の体が光に包まれたかと思うと次の瞬間、爆散して消滅してしまった……その瞬間、俺は完全に我を忘れてしまい狂ったように叫びながら壁を叩きまくった挙句、最後には床に向かって何度も何度も頭を打ち付け始めた。「嘘だ、嘘だぁぁぁ!!絶対に信じないぞ、そんな事は絶対にありえないんだぁぁ!!!」そんな事を叫びながら必死に抵抗し続けた。やがて限界を迎えた瞬間、意識を失う直前にこう思った――なぜこうなったのか、どうしてこんな思いをしなければならないのかと激しく憎悪しながら。

(ああ……そうかそういう事だったのか)そこまで思い出したところでようやく理解した……何故、こんな目に遭わないといけないのかという疑問に対する答えが判明したのだ。つまりあの事件を引き起こしたのは他でもないこの俺自身だったのだと……だからこそ今、目の前に広がっているのは過去の記憶なのだという結論に至った。それと同時にこれは夢なのだと悟った直後、俺の意識は現実へと引き戻された……それから暫くした後で目を覚ました俺はすぐさま自分の体を確認してみると案の定、変化していた事でやはりあれは夢ではなく過去に起きた出来事なんだと確信した。

(となると今の俺の目的は二つか……)そう思いながらまず最初にすべき事を考えているとふと一つの疑問が浮かび上がる。それはどうやってここから脱出するのかという点だ。そもそもの話、ここは一体、どこなのかさえ分かっていない以上、安易に動くのはあまり良くないと考えたもののそうしている間も誰かが来る可能性は十分にあるので悩んでいる暇はないと割り切る事にした――とはいえ具体的な案は何も浮かんでいないのでとりあえず周囲を確認してみる事にして一通り見て回った後で脱出できる方法はないか考えたものの残念ながら見つからずじまいのまま時間が過ぎていった為、諦めて寝る事にした。(明日こそ何とかしなければ……)そんな事を思いながら瞼を閉じたのだった。

翌日、目覚めた後は身支度を済ませてから食堂へ向かうべく部屋を出た後、廊下を歩いて行きつつこれからについて考えていた。

(そういえば昨日はあんな事があったからな……まだ外の様子については見ていないんだよな)そう思いながら歩いているとちょうど良いタイミングだと思ったので外に出てみようとした……しかしここで予想外の事態が発生した――何と扉が全く開かないのだ。なので押したり引いたりしてみたものの結果は変わらずに無駄な時間だけが過ぎていく……そんな状況が暫く続いた後、ある事に気付く――それは外から人の声が聞こえてきた事である。そのおかげで少しだけ希望が見えたのでまずは扉に耳を当てて聞き耳を立ててみると聞こえてきたのは明らかに男の声だったのでおそらくは国王様に関係のある人物なのだろうと思いながら静かに待っていると何やら物騒な会話が聞こえてきて思わず身震いしてしまうも気を取り直して次の言葉を待っているととんでもない事実を耳にする事になる。

「本当に殺すのですか?」

「……そうだ」

「……分かりました」それを聞いた瞬間、全身が震え出したのは恐怖心からだと直感的に感じ取ると共に冷や汗が流れ落ちるのを感じつつもどうにか抑えようと試みる。すると更に会話が続いたので黙って聞いているとその内容が徐々に明らかになっていった。

要約すると今回のターゲットである俺を殺せるのは国王様だけらしい事が分かった――その理由としては相手が強力な存在であり下手に手を出せば返り討ちにされる恐れがあるからだという話だそうで、その為、今回は国を挙げて大々的に行う事になったようだ。

それを聞いて最初は何を言っているのか理解に苦しんだものの詳しい話を聞いているうちに何となくだが察しがついた――というのも今回、俺が暗殺する相手はとある王国にある騎士団に所属している人間なのだが実は最近、彼によって多数の死傷者が出た事で国民からの批判が相次いでいた事もありこれ以上、放置するのは危険と判断した王様がとうとう重い腰を上げたらしいのだ。そしてそんな彼を倒す為に選ばれたのが勇者の称号を持っているルドラで、俺は彼のサポート役として呼ばれたらしかった。

しかしここまでなら何も問題はなかったがその事を話す際にルドラはある条件を出してきたらしくその内容を聞いて耳を疑った――というのもその条件とは彼を倒せば褒美として好きな物を何でも与えるという事だったようでそれを聞くなりすぐに食い付いた国王様は迷わずに承諾したというのだ。

それを聞いた時、まさか本気でやるつもりなのかと思ったもののよくよく考えてみれば別におかしくない話だと考え直した――何せ今の彼は見た目こそ幼女の姿をしているが実際には魔王軍の幹部でもあるのだ。しかもその中でも上位に君臨しており、実力だけで言うなら俺やルドラを上回っている事から仮に彼が本気を出したとしても勝てない相手ではない事を知っていたからだ。だが仮に負けた場合、その時はどうなるかといえば答えは単純で命は奪われずに解放されるだろうというのが容易に想像出来る。

何しろ相手は国王様と言えども所詮は人の子であるから子供を殺すような真似はしないだろうし万が一、失敗した場合でも死ぬ事はないはずという考えに至って納得しつつ様子を窺っていると遂にその時が訪れた――どうやら準備が整ったようで合図が出るや否やルドラが飛び出して行くのを見届けた後、俺は物陰に隠れて見守る事にしたのだが正直、勝てるかどうか怪しかった……なぜなら現在の彼女のレベルは53で対する向こうはまだ1なのだからどう足掻いても勝てるはずがないからだ。ましてや今は変身前の状態でいるため素の状態となっているにも関わらずここまで差があるのだから尚更、勝ち目があるとは思えないでいるとここで彼女が動いた。「悪いけどさっさと終わらせるよ」そう言っていきなり姿を消すと同時に奴の背後に現れ、そこから攻撃を加え始めた事で瞬く間に防戦一方となりながらもどうにか対処するも次第に追い詰められて行くのが分かったので内心では焦りが生じていた。

(不味いな……このままではいずれ負けてしまうかもしれない)

そう考えながら見守っていたらここでルドラの動きが変化した事に気付いたので不思議に思っていると直後に驚愕するような出来事が起こる。なんと奴が持っていた剣を手放したかと思えば次の瞬間、そのまま拳を握り締めながら殴り掛かっていったのを見て驚いたがその直後に起きた展開を見た事で思わず言葉を失ってしまった――何故なら攻撃を食らった瞬間に何故か体が燃え盛っていき最終的に跡形もなく燃え尽きてしまったからである!これには流石の俺も呆然としてしまった。なにせ本来ならこの時点で決着がついてしまっているはずなのにまだ生きているどころかむしろパワーアップしたような気さえしたのでもしかしたら奴は俺以上に強いのではないかと思っていたところで再びルドラの攻撃が始まったので見ていると今度は素手でやり合うつもりなのだと判断してその様子を眺めていたのだが……結論から言えば俺の予想は大きく外れた形となった。何故なら何と彼女は魔法を使い始めただけでなく体術すらも織り交ぜて戦うようになっていたのだ!しかもその動きはどこか洗練されているように見え、実際にかなりの腕前なのは一目瞭然だった――それ故に驚きを隠せずにいたものの同時に一つの可能性に思い至った。

(そうか!恐らく、そういう事か!)

何故そう思ったのかと言えばそれは彼女の姿が変化していたからだ――正確に言えば本来の姿に戻りつつあると言った方が正確かもしれないが、それでも十分に強力であった事は間違いなかった……何故ならさっきまでの幼い容姿から一転して大人の女性へと変貌を遂げておりスタイル抜群の美熟女になっていたからである。ちなみに髪の色は金色で肌の色は雪のように白く瞳は赤眼と日本人ではあり得ない色の組み合わせであったが違和感なく似合っていた上に妖艶さが醸し出されていたせいか同性であっても思わずドキッとする程の美しさがあった。

そんな美女が凄まじいまでの拳技を振るい始める光景を見て俺は思った――これこそが《魔神王》の名に相応しい存在であり決して敵に回したくはないと……こうして彼女による一方的な戦いが繰り広げられた後、最後に残った国王様が無残にもボコボコにされてしまって完全に戦意を喪失してしまい敗北を認めた上で謝罪の言葉を口にしていたところルドラが再び姿を現した。「もうこれで分かったよね?私に逆らうとどうなるのか……」そう口にすると同時に全身から禍々しい魔力を放ち始めて周囲を侵食していきそれが収まった時には辺り一面が凍り付いていた……しかもそれだけではなくいつの間にか地面も真っ白になっていて足元からピキピキという音が聞こえていたのでおそらく氷の大地にでも変化しているんだろうと推測する――もっとも既に俺の足元にまで到達していたのでもはや逃げられそうにもなかった。

そしていよいよ本格的にまずいと思った次の瞬間、不意にこちらを向いた彼女が告げた言葉は意外なものだった……「さてとそろそろ本題に入るとしようか、お前はこれから私に殺されて消滅する訳だがその前にどうしてもやっておかなければならない事がある」それを聞いて疑問に思っていると彼女がゆっくりと近付いて来たところで突然抱き付いてきたかと思えばそのまま唇を重ねてきたのだ!これには当然の如く動揺したのだがそんな事などお構いなしにキスを続けるばかりか舌が口内に入り込んできた事によって激しく絡め合い濃厚な口付けを交わし続けた。それによって段々、意識が遠退いて行くのを感じた後、俺はその場に倒れ込んでしまい身動き一つ取れなくなった……それからしばらくして意識を取り戻した後でようやく終わったのだと安堵したのも束の間、目の前に広がる光景に愕然となった。

何故なら目の前に広がっていたのは見慣れた俺の部屋だったからだ――おまけに日付を確認するとつい先程に戻ってしまった事が判明した事で改めて自分の立場を理解した瞬間、絶望してしまう……そんな最中、突如として何者かが部屋の中に侵入してきたので慌てて振り返るとそこにいたのは例の少女だったのだ!その少女は俺が自分の正体に気付いて驚いている様子を見つめながら口を開く「まさかこんなに早くバレちゃうなんて思わなかったなぁ」「……え?」

突然の告白に呆気に取られていると続けて少女がこう告げてくる「でも仕方ないよねぇだって君がいけないんだから……あんな酷い目に遭ったっていうのに全然、懲りてないみたいだからちょっとお仕置きしないとと思って来てみたんだよ?」それを聞いた瞬間、背筋に冷たいものが走るのを感じて震え出した直後、彼女に体を押さえつけられたかと思うと強引に唇を塞がれる……それもまた先程と同じように濃厚でねっとりとした絡み付くようなキスだった。それからしばらくした後で唇が離れると俺は自然と彼女を抱き締めていて自らキスを始めていた。

するとそれを見た彼女が嬉しそうな表情を浮かべると共にこう言った「やっぱり私の見立て通りだったね……君は本当は私とこういう事をしたかったんだ」そう言われた瞬間、一気に顔が熱くなった気がしたが構わずに続けていると不意に股間部分に何か熱い感触を覚えたと思ったらあっという間にズボンの中に侵入してきた。

その瞬間、ビクッとして思わず口を離してしまうも即座に両手で頭を抑えられると再びキスを始めた事でされるがままになっているうちに気が付けば全身が火照っていた。やがて呼吸が苦しくなってきた頃になってようやく解放されたので必死に息を整えている間、彼女がニヤニヤしながらこちらを見ていたが気にせずに呼吸を整えていた。

暫く経って息が整ってきたのを確認したところで彼女に向かって質問してみた「何でこんな事をするんだ?それにさっきのあれは何なんだ?」その問い掛けに対し、笑みを浮かべながら答えた彼女の口からとんでもない事実が告げられた――何と彼女は本物の魔王本人なのだという衝撃的な内容を聞いて一瞬、思考が停止しかけたもののどうにか気を取り直して更に聞いてみると案の定、肯定されてしまったので絶句してしまった。だがその直後、魔王本人が俺に何を望んでいるのかを聞いたところ予想外な言葉が返ってきた。それは自分を殺して欲しいというものだった――しかしそれを聞いた途端、戸惑いを見せた俺に対してその理由を説明し始めた。何でも自分はとある理由からこの世界に封印されていて今までの間、ずっと一人ぼっちでいた事……そのせいで人肌が恋しくて仕方なかったので自分と付き合ってくれた人間を手当たり次第に連れ去っては自らの欲求を満たし続けていたそうだ――そして今回は俺がターゲットに選ばれてしまったのだという……それを聞いた時、すぐにでも断るべきだと思ったが彼女の顔を見て躊躇してしまい結局、承諾してしまった。その後、早速、行為に移るべく服を脱がそうとしたのだが途中で手を止めて代わりに耳元で囁いた後にこう告げた「どうせなら君も気持ちよくならないかい?」そう言われて戸惑ったが言われた通りにしてみたら確かに凄く気持ちが良かったので思わず声を上げてしまう。それを聞き届けてから彼女も服を脱ぎ始めるなり露わとなった裸体を目にした俺は興奮を覚えてしまい、無意識のうちに手を伸ばしていて胸を揉んでいくと次第に艶のある声が漏れ始めた。

そんな彼女の反応を楽しみつつ徐々に下の方へと手を伸ばそうとしたその時、突如背後から何者かの気配を感じたので振り返ってみるとそこには先程の幼女の姿があり、こちらを睨みつけながら立っていたので思わず動きを止めて呆然としていると不意に話し掛けられた。「全く、油断も隙もあったもんじゃないわね!」そう言い放つと同時に手を前に翳した瞬間、凄まじい魔力が放たれて俺達を襲う。

するとその直後、急に意識が遠くなって視界がぼやけていく中で最後に目にしたのは勝ち誇った様子で笑みを浮かべる少女と不敵な笑みを浮かべた幼女の二人が揃ってこちらを見つめている光景だったがそれと同時に俺という存在はここで消滅した――そして次の日の朝、目が覚めると自分の部屋にいた事を確認して安心したところで一安心する一方で夢であって欲しいと願うばかりであった。

第7話 完次回、第8話へ続く ルドラによる《魔神王》の力の行使によって見事に敗北した事でこの世界から消滅してしまった元勇者――そんな彼を目の当たりにした者達の反応は様々だった。ある人物に関しては喜び、ある者は悔しみ、また別の人物は呆然と立ち尽くすといった具合で特に最後の人物については他の二人とは異なり心の底から祝福しているようでとても穏やかな表情を見せていたのだった――その人物とは国王様であり彼が消滅した直後に現れたかと思えば何も言わずに黙ってその場を後にしたので周囲の人々は一体どうしたのだろうかと首を傾げていたが事情を知っている者達にとっては何も語らないだけで充分に理解出来るのでそれ以上は何も言う事はなかったのだが中には納得していない者もおり、その筆頭である一人の女性がいた……言うまでもなくルドラの事について言及していたのだがそれに対し、仲間達は複雑な表情をしていた事からも色々とあった事が容易に窺えた。

その一方でもう一人の女性はどこか寂しそうな様子を見せていたのだがこちらはどうやら男性の方に対して思うところがあるらしく彼の名前を何度も呟いていたのだがそれを知る者は誰一人として存在しなかった。それから数日後、王城にて新たな国王が就任した事により正式に《魔神王》の存在が世間に公表されると同時に今回の一件が明るみになったのだが同時に王国内で起きていた数々の不祥事が発覚し、それが大きな引き金となって国内は混乱状態へと陥ってしまう。しかもその発端となるきっかけが勇者の消失だという事もあり、世間からは『天界の裏切り者』呼ばわりされてしまい国外からも非難を受ける事となったが当の国王様は特に気にした様子もなく普段通りの生活を送ろうとしていたのだ――ただし一つだけ気になる点があったので調べてみたら驚くべき結果が出てしまったのでこの件について関係者を集めて話をする事にした。

「実はここ最近、不可解な現象が起きている事についてなんだがこれは恐らく、我々に対する警告だと私は思っている……というのも先日、《魔神王》が出現した時の事だがその際、奴はわざわざ私を呼び寄せただけでなく直々に力を行使してきたのだ……もっとも私が抵抗したせいで奴の方が逆にダメージを受けてしまって危うく消滅する所だったのだが……」「えっ!?あのルドラ様が!?」「あぁ……そしてそれだけではなく私だけではなく一緒に居た仲間達まで力を授けてくださったのだ!それもただの能力付与ではなくて私の場合はレベル100にまで達した上に新たな技までも教えていただけたのだぞ?他にも仲間の一人に至っては魔力値がカンストしていたり、もう一人だけ別の能力を持っていた者もいたんだが全員共通してレベル200になっていたりと正に破格の対応をして頂いたのだ」

その言葉を受けて誰もが信じられないと言った表情を浮かべるがそこですかさず国王が続ける「だがそれでもなお不安要素が残ったままだった為にまだ様子を見る事にしてしばらくの間は様子を見ていたら案の定、これだよ!なんと例の事件が起こってしまったんだ……その当事者たる彼は残念ながら救う事が出来なかったし、それどころか我々が助けに行くよりも前の時点で命を落としてしまっていたからね……ただ残念な事に彼と関わりがあった女性もまた巻き添えを食ってしまったようだからそこは申し訳なく思うよ……」「……っ!」それを聞いた全員が言葉を失ってしまい、気まずい雰囲気になる中、ふとある人物が疑問を口にした――ちなみに彼というのは誰を指しているのかは言うまでもないだろう……「一つお聞きしても宜しいでしょうか?」その問いかけに頷くとそのまま続けて質問をする――「そもそも今回の件を引き起こした元凶が誰なのか分かっているんですか?」それに対して国王はゆっくりと頷いた後で答える「それは勿論だとも!なにせ今回、こんな大事を起こしてくれた相手だからね……だから今から全て話すつもりだ」

そう言って真剣な表情のまま語り出したのだがその内容は以下の通りで最初に例の女性に関して話し始めた――その彼女はかつて王国の王女だったのだという……つまり彼女は元々、王族の一員だったという事になるがどういう経緯で国を離れたのか詳しい事は分からないそうだがその真相を詳しく知っている人物によるとどうも当時の王は彼女が自分の子供ではないという事実を知った上で自分の欲望の為に利用したのだという事が分かったらしいそうする事によって国民の不満を解消しようと考えての行いだったのだが結局は逆効果となり余計に国民達の反感を買ってしまった結果、結果として彼女の国は崩壊してしまう事になり、最終的にはクーデターによって乗っ取られる事になってしまったそうだ――その後の話によれば現在は行方知れずとなっており名前を変えながら転々としながら生活を送っているという噂を耳にしたのでもし見かけた際には捕まえて処刑するよう命じるつもりである事も付け加えた上で更にこう続けた「それから件の女性だが既に死んでいる可能性が高い」「え?」「何故なら彼女の遺体が未だに見つかっていないのだからな……だがそれはあくまでも彼女の体が発見されていないというだけであって実際は彼女がどこに行ってしまったのかは既に把握している……だからこそ彼女に関しては早急に確保するように手配しておいたのだがその前にこのような事態になってしまって本当にすまなかったと謝罪しておくよ……何せ私もまさかここまで大事に発展するとは想定していなかったものでね……とはいえこうなった以上、君達に頼む他ないと思っているのだが頼まれてくれるかな?」それを聞いて誰もが頷くのだった――その後、彼らはそれぞれ準備に取り掛かる為の準備に入った後、解散する事になったのだがその中で唯一人、ある考えを思い付いていた者がいた――その者とは言わずもがな、ルドラ本人なのだが果たして彼が何を思い付こうとしているのかというと……

第8話 完 第9話へ続く 【おまけ設定資料集】(2020/02/11更新)

<ステータス>

・攻撃力=物理攻撃の威力 武器を装備しても変化しない。

素手の攻撃力はそのまま自身の腕力に影響される。

・防御力=肉体へのダメージを軽減する力。防具を身に着けても同様で基本的に数値は上昇しないが一部の装備品には影響する事もある。

HPが0になると気絶する。また、部位欠損が発生した場合には回復魔法などで再生する必要がある。

ただし死亡した場合のリスクは一切考慮されていない。

稀に耐性スキルを所持していると無効化できる場合がある。

・MP=魔力量。魔法を行使する際に必要。

枯渇すると頭痛、目眩、吐き気などの体調不良に襲われる。

精神値との兼ね合いもあるので、使い過ぎによる精神的な疲弊は起こりうるが、実際に倒れる事はまず無い。

魔力は時間が経てば自然回復する。

魔力が0になった場合は意識を失い、暫くの間、動けなくなる。

基本的には戦闘不能状態となるが、死に至る事はない。但し例外はある模様。

<装備一覧>

(現時点では第2章までの物のみ掲載しています)

★☆★☆ 《通常衣装》 種類や見た目などは一般的な衣類と変わらないが耐久性に優れていて長持ちしやすいのが特徴。

但し、デザインはあまり変わらないものの材質は通常の服とは異なっているようで耐久性が高い反面、破れやすくなっており、着心地が良いとは言えない代物となっている。

色は基本的に単色のものが主流でバリエーションは少ない。

因みに男女共に同じ服装であり、スカートなどと言った性別を示す衣服は無い。

但し、一部では女性のファッションを楽しむ風潮も少なからず存在しているようだ。

〈冒険者〉 主な素材は革製品が多く、丈夫な上に軽いのが特徴だが、値段は他の衣服に比べて割高なのであまり好んで購入する者が少ないのが現状のようだ。

《冒険者シリーズ・剣士系》 動きやすさを重視しているせいか比較的、露出度が高くなっている場合が多い。一応、鎧を着用している者も少数ではあるが存在しており、その場合、防御面の強化と軽量化を目的としている事が多いので、実用性を重視するなら、そちらの方が良いかもしれない。

ちなみにこのシリーズは初期段階では男女共通のデザインとなっているので男性用も存在し、こちらは多少、生地が厚く頑丈に出来ている分、少し重たい印象があるがその分、耐久性があるので多少の損傷では問題なく着用が可能。また、女性用の冒険者シリーズと同じく軽さにも拘っているためか、全体的にスマートなシルエットをしており、スタイリッシュな仕上がりになっている。しかしその一方で機動性を高める為に関節部分を保護するような装甲が存在しないという致命的な欠陥がある事を忘れてはならない。更に言えば、それらの欠点を克服するための方法もない訳ではなく、単純に布面積を増やして肌を隠してしまうと言う荒業もあるがそれでは逆に格好悪い上に何より寒い時期にはとてもではないが耐えられないだろう……何にせよ冒険するなら寒さ対策は必須と言えるのかもしれない――余談ではあるがこれらのシリーズの派生品としてレザースーツのようなデザインも存在する。尚、こちらのシリーズは主に男性が愛用しているが性能面で優れていても何故かデザイン的な評判が悪く不評らしいので着る人は滅多に居ないようだ……

《剣士セット》 上下セットになっており、上は胸当てに下は膝丈くらいのハーフズボンといった構成で統一されているものが多いが女性の場合だと胸の谷間が強調されるように胸元が大胆に開いたシャツだったりスカート姿になったりするのでその辺りについては注意が必要だ!また、腰周りを覆うものは付いていないがベルト代わりに使うアクセサリー類はあるので特に問題はないと思われるが個人的には少し寂しい気がする……それと意外と通気性も良いので暑さに強い方ならば特に問題はなさそうだ!だがそれでも冬場の防寒対策としてマントを装備する場合もあるが、その場合は必然的に厚着になるため動きが制限されてしまうデメリットが生じるのでその点は要注意だ! 【追加アイテム編】

★☆★☆

・剣(ショートソード、ロングソード、ツーハンデッドソード)

片手剣を主とした近距離用の武装の総称。

片手で扱う事が前提とされている為、刃渡りの長さもある程度、短く作られているので携帯するには適しているかもしれないが威力はやや控えめで耐久性に欠けるのであくまで護身用として活用する程度に留めておくのが無難である――その代わりと言っては何だが軽く、扱いやすい利点があり、取り回しの良さから接近戦でもそれなりに戦えるようにもなっているようだ。また場合によっては二刀流にする人もいるようだが大抵の場合は一本だけで戦う事が多いみたいだぞ?

・槍(スピアー、ポールアックス)

長い柄の先に円錐状の穂先を取り付けた武器の総称である。別名、ハルバードとも呼ばれる事があるが元々は古代ローマ軍が使用していた武器である事からその名が付いているらしく、その名の通り、刺突に特化した形状をしたシンプルな造りになっているのが特徴。その為、斬るというよりは叩く用途で用いられる事が多かったそうだ……ただ最近はリーチのある武器を好む者が多いからかこちらを使用する者の数は減少傾向にあるようだ……とは言え決して皆無ではないし、それに必ずしも使えない訳でもないので油断はできないだろう……ちなみに重量自体はそれ程でもないが、その長さ故、狭い場所での戦いは不得手な傾向がある……がそれはどの武器においても同じことが言える事なので気にする必要はないと思うぞ!

★☆★☆

・斧、槌、棍棒、大鎌 打撃系の武装総称を指す言葉。

これらには明確な定義は無く、単に殴打目的で使用される道具を総じてこう呼んでいるだけに過ぎないが、一般的には両手持ちもしくは両手で扱うサイズの物を言う場合が多いので注意が必要である――中には投擲専用に作られた物もあるが基本的には戦闘に使うのが一般的だ……だがそれらは基本的に重量があるので扱い難いというのが本音らしい……更に付け加えるとこれらの武器を装備できるクラスには殆ど該当する者がいないので扱える者を探すだけでも苦労するのだとか……そもそもの話になるのだがこれらは全て金属製の物ばかりであり非常に重たく頑丈でもあるのだが一方で切れ味の方はと言うとあまり良いものではない為、戦闘に使用するのには向いておらず、どちらかというと作業用として使われている事が多いようだ。まぁそれでも鈍器としての用途には十分なのだろうが……とはいえそれらをどう扱うのかはその当人次第である為、何とも言えないところではある。因みに余談ではあるがハンマーに至っては鉄製だけではなく木製で出来たものも存在しているようでこちらも武器としては一応使えるそうだが武器として扱うには無理があるという意見が大多数を占める中、一部のマニアは頑なに使用しようとするのだが結果は言わずもがなである。やはり木製の物は武器ではなく、観葉植物のように観るに限るのだろう……。

《杖(スタッフ)》 先端部分が丸い玉状になっている魔法職御用達の杖の事を指す言葉で魔法の行使を助ける効果があるとされる素材で作られた物や魔法効果が付与してある素材が使用されているのが特徴。

ただし、その効果に関しては使用者の魔法の威力や効果を上げるものではなくてあくまでもその効力を高めるものであるため基本的には攻撃手段を持たない魔法使い系クラスの者しか使用できないのがネックと言えよう。しかしながら他の系統の職業でも攻撃手段を持っている者であれば使用可能となる可能性があるのに加えて魔攻上昇効果などの恩恵を得られる場合もあるので使い勝手が悪い訳ではないのだ――最もこれ程の上位互換が存在している以上、わざわざ使う必要が無いという事になってしまうかもしれないがそこは気にしないようにしよう!

★☆★☆ 《弓》 文字通り弓矢を用いた遠距離攻撃を行う事を目的に造られた武器の事を言う。主にボウガンなどが使用されるが、稀に和弓を使う者もいるらしい……またそれ以外にもある特殊な弓を使用して遠距離攻撃を行う者もいるという噂を耳にしたことがあるが実際のところは不明だ。ちなみに使用する際は弦を引けばいいだけの簡単な仕組みなのだが矢をつがえて射るのは結構大変でしかもかなりの腕力が必要になるらしいがそこは根性で何とかするしかないだろう。だがそれ以上に重要なのが弓そのものの性能であって、それによって攻撃力や飛距離が変わるだけでなく、命中精度も左右されてくるという厄介な代物なので腕前云々以前に運も必要になってくるようだ……よって一概にこれが正解だという答えはないのだと思われるが個人的に言わせてもらうなら個人的には初心者には弓よりも銃の方が向いているような気がするな……まぁ好みの問題だからその辺については各々に任せるしかないがね……とにもかくにも自分の命を預けるものなんだからしっかりしたものを使いたいという気持ちは良く分かるが、それで命を無駄にしたら元も子もないからな……そこんところはよく考えて判断してほしいところだ……。

第9話へ続く――

第10章開始しました。引き続き宜しくお願い致しますm(_

_)m 第4章までのまとめ 1〈基本ステータス〉 〈名前〉 : ルドラ=ナヴァロ

(本名)

: 鈴木雄一郎

(愛称)

: ユーちゃん、ルドラ様 2〈スキル〉 《通常スキル》 【物理耐性LV5】【精神汚染耐性LV2】

(【HP自動回復LV3】→【再生LV1】)

3【剣術LV3】

4【身体強化LV2】

5【毒耐性LV2】

6【採掘LV2】

7【言語翻訳】

8【空間認識能力拡張I】

→【感知拡張II】

9【魔力消費軽減I】

→【魔力効率改善I】

10【鑑定士の目LV1】

《取得可能スキル》 《魔法》 《加護》

『???』→【世界ノ理ニ導キ手】(条件達成)

11~15〈固有スキル〉 《種族固有スキル》 【変化】【飛翔】【浮遊】

16【???????】←NEW! 《一般スキル》 17【錬金術LV6】←UP! 18【裁縫LV7】←UP! 19【調合師LV5】

20【料理LV4】←UP! 21【罠作成LV3】←UP! 22【???】←New! 23【?????】←New! 24【鍛冶LV3】←UP! 25【??】←New! 26【細工LV5】←UP! 27【探索LV4】←UP! 28【危険察知LV4】←UP! 29【偽装工作LV4】←UP! 30【追跡LV4】←UP! 31【??】←New! 32【交渉術LV3】←UP! 33【???】←NEW! 34【言語学LV2】

35【潜伏LV2】←UP! 36【??】←New! 37【採取LV3】

38【風刃LV2】←UP! 39【土壁LV2】

40【??】←New! 41~42〈その他〉 42~43〈称号〉 《ギルドランク》 G = 登録したて F = 素人 E = 駆け出し D = 普通の冒険者 C = 一人前 B = ベテラン A = 一流 S= 英雄、勇者候補 T = 超越者(人外に片足突っ込んでる者達)

U = 魔王、神に匹敵する実力者(一部例外有り)

V = 超有名人(国から優遇されるくらい凄い人達)

W = 一流の達人(鍛錬によりこの域に達した者)

X =古強者(数十年、あるいは百年以上、一つの事を極めた達人の証)

Y = 伝説の戦士(歴史に名を残すレベル)

Z = 帝王(複数の国を滅ぼした実績がある)

《攻略ポイント》

・戦闘においての要注意点!! 戦闘における最重要課題とは何か!?……それは相手の力量を見誤らないことにある!!!相手が格上ならば絶対に挑まない事こそが最も重要なのである!!!!仮に勝てそうになかったら迷わず逃げることをオススメするぜ……なぜならそれが生存確率を少しでも上げる秘訣だからな……それに引き換え仲間がいるのならその限りではないと思うが……とにかく自分の実力に見合った相手に挑むべきだし、何より無茶だけはしないでほしい……死んでしまっては何にもならないからな……!!

★☆★☆

・生産職にとって最大の難関と言えるであろう鉱石集めについて今回は解説しよう……というのも最近までその重要性に全くもって気づいていなかったからだが、どうやらそれは俺が無知なだけで他のプレイヤーは当たり前のように知っていたようだ……だがこれは別に恥じるようなことでも何でもないし、そもそも知っているか知っていないかとでは大違いなのでこれを機に少し勉強してみる事にしたいと思う――なおここでは一般的に入手難易度が高いとされているものだけを紹介したいと思う。ただし俺の場合だと既にある程度の知識があるのでそれ程難しくはなかったりするのでその辺りはあまり期待しない方が良いかもしれないな……ちなみにまず最初に挙げられるのが金、銀、ミスリル、オリハルコンの四種類だな……それぞれの入手難度は以下の通りで順に、金、銀、銅、鉄、鋼となっているぞ。それぞれの特徴は下記の通りだ。

《金》 黄金色に輝く光沢のある金属でとても希少な為、市場にも滅多に出回らず入手が困難であると言われている為、主な用途としては装飾品や装備品に使用されるのが最も多いだろう……その為なのか特に高値で取引されることが多いのだがその理由は言うまでもなく美しい見た目と宝石としても重宝されるからだそうだぞ!また武器として使うと魔法と組み合わせる事により非常に優れた属性付与が出来る為、魔法職のプレイヤーが好んで使用することが多いらしいがそれ以外では余り好まれていない為、基本的には武器として使用するより観葉植物のように飾ったりしている場合が多いとの事である……だがもし武器として使用するとなるとかなり強力で非常に強力な力を秘めている為、扱い方には細心の注意を払い、十分に気をつけなければならないのだ。まぁそれも当然の話であり、何しろその威力は桁外れである事に加えて非常に壊れやすい為に武器としての耐久力は最低であり、使い続けると確実に武器が崩壊する事となる。

また魔法攻撃力の増強、及び魔法に対する防御力を高める効果を持ち、更に火、水、風、雷、地、氷、光、闇の全七属性に対しての耐性を持っているのに加えてその状態異常の効果をほぼ無効化出来る事から様々な面で役立ってくれるだろう。更に装備していると自身の魔法の攻撃力を飛躍的に上昇させる事が出来る他、武器自体の攻撃力も大幅に上昇するらしく、そのおかげで通常の攻撃力よりも数倍高い攻撃力を誇る事が可能となっているらしいが扱い方次第ではその真価が損なわれてしまう事になるので取り扱いには十分、注意するようにとの事だぞ! 次に紹介される鉱物と言えばやはりこれだろう――アダマンタイトだ!これは名前の通り非常に頑丈な上に魔法への耐性があり、さらに物理攻撃に対しても極めて強い耐久性能を誇りながらも重量が非常に軽いと言うまさに反則的なまでの素材であり、その需要の高さからも価値は非常に高く設定されているのだ――その為、市場にもなかなか出て来ないどころか基本的に産出されることは稀で、見つけたら即座に回収してしまう程のレアな鉱物な為、市場にはほとんど流通せず、主に国の研究機関や博物館、一部の貴族などが収集したり、コレクションしたりするのが一般的な使い方になっているようだな。ただしこの素材を武器や防具にした場合はその限りではないので場合によっては利用する事も検討するといいだろう――ただし、その分だけ素材代が高額になると思われるだろうがな……!それと余談ではあるが俺個人の見解を述べさせてもらえば正直言ってこれをそのまま使って作る武器や防具はあんまり好きではないな……だってこれどう見ても不純物が多すぎるんだもの……だから敢えて加工する際に余分な部分を削ぎ落とす作業をする訳なんだが……その結果出来上がった物は大抵の場合あまり質が良くなくてね……しかもそれで作られた剣などを使った場合だと必ず何らかの不具合が発生するという何とも酷いオチがつくんだこれが……だからそういう時は基本的に諦めて新しい物を買わざるを得なくなるって寸法だ……つまりはそういうことなんだよ……まぁ世の中そんなに甘くないから仕方ないよね! 最後に紹介させてもらう鉱石といえばやっぱりダイヤモンドだよな!!何故ならこの世界で一番高価な鉱石と言われており、その美しさと言ったら言葉に言い表せないくらいに綺麗過ぎるくらいの美しさを放っていることから『神の祝福』と呼ばれるようになり、別名、至高の物質とも呼ばれるようになった事で有名だからだ!ちなみにその価格についても馬鹿みたいに高価であり、もはや国家予算並の価値を持つ事もあるほどのとんでもない代物でもあるため迂闊に手を出しにくいという印象を受けがちだが実はそれほどでもないんだぜ!なんせダイヤというものは原石の段階で既にカット済みのものがほとんどを占めているのでそれを磨く必要もなく比較的簡単に手に入るからである! 但し、ここで注意しておきたいのがあくまで手に入れられるという意味であって決して入手できる訳ではないという事だ!何せダイヤモンドを加工するのは非常に高い技術と熟練された腕が必要とされており、なおかつ非常に手間暇がかかるものだから職人の中でも極々一握りの人しか扱う事が出来ないとさえ言われているほどだ!そんなダイヤが果たして俺達のような一般庶民に出回るのだろうか?という疑問が出てくると思うが実は結構手に入り易いんだなこれが!例えば今現在、最もよく目にする機会があるであろうジュエリーの中に使われている宝石類だがそれらは全て天然由来のものではなく人工的に作られており、言わば紛い物である事に間違いはない――そう考えたら何となく察しがつくんじゃないか?要するにあれと同じ事だ……天然物の輝きや魅力は到底敵わないもののそれでも値段を釣り上げようとするなら本物と同等のクオリティが求められる訳だがそれには相応の時間がかかってしまうのもまた事実であり、そうなると必然的に供給量も少なくなってしまうといった理由からダイヤの人気は低い傾向にあるといえるだろう!だがそれでも欲しいと思った人はどうするのか?……決まっているだろう、自力で採取するしかないのである!しかし残念ながら現実はそれほど甘いものじゃない――理由は先程述べたように非常に危険を伴うからだ。そもそも採掘場所自体が少なく、その中でもとりわけ有名な場所はダンジョンの中だったりする――そしてそういった場所に潜る場合は最低でもAランク冒険者くらいの力量は必要となり、Bランク冒険者程度の実力では自殺行為に等しいのである!それ故、 多くの冒険者達からは見向きもされない存在となってしまったが、中にはそれでも夢見る冒険者達がいて日夜努力を重ねながら己を鍛え上げていき、ついにはダイヤを手に入れて一躍時の人となる者も現れたりしている……その者の名は“アルバス=ファクティス”という冒険者で彼はかつてまだ駆け出しだった頃に一度だけ訪れた事があるのだがその時は運良く目的の物が発掘出来て無事に手に入れる事が出来たそうなのでそれから何度か訪れるうちに次第に要領を得てきた結果、数年かけてようやく自分の物にする事に成功したらしいぞ!ただしその際に使用した資金は当時の彼にとってはとても払える額ではなく借金する羽目になったそうだが今では何とか返済出来ているそうでもう無理して稼ぐ必要もないようだ……そんな彼から言わせてみれば今の時代はある意味チャンスの時代なんだそうだぜ……その理由についてはいずれ語る機会があればその時に話してみたいと思うぜ!! 〈ギルド〉〈アイテム〉〈錬金術〉〈鍛冶〉〈料理〉〈罠作成〉〈裁縫〉〈調合師〉〈細工〉〈潜伏〉〈危険察知〉〈言語〉〈解読〉〈言語学〉〈隠密〉〈偽装工作〉〈交渉術〉〈統率〉〈鑑定〉〈値切り〉〈目利き〉、〈解体〉〈探索〉

「よしっ、こんなもんか……」と俺はステータス画面を見ながら満足げに呟いた――えっ!?一体いつの間にこんなにレベルが上がったんだと!?確かにここ最近ずっと一人で黙々とレベリングに励んでいたけどそこまで経験値効率が悪かったとは思えないし、ましてや俺の記憶が正しければこのレベルに到達するまでにはまだまだ先があると思っていたんだがなぁ……?うーむ、分からん。まぁとにかくせっかく上がったんだからありがたく受け取っておこう――そうして早速新しく増えたスキルについて詳しく調べてみようと思い始めたその時、不意に部屋の扉をノックされる音が聞こえたと思ったらすぐに開いて一人の女性が部屋の中に入ってくるなり俺に話しかけてきた。彼女は《マリア》という名前で種族はエルフ族であるのだがその外見は非常に人間に近い為、一見すると区別がつかない事も多い。だがよく見ると僅かに尖った耳や美しい容姿や肌の色等の違いがあるのでそれが決定的な違いとなって判別出来るようになっているのだ――ただ残念な事に彼女に関しては他のプレイヤー達のように詳細なプロフィール情報を見る事が出来ないんだよな……それは何故かと言うと彼女がゲームの運営側のスタッフの一人であると同時にAIだからに他ならない……つまり現実世界において人間が操作しているNPCと同様の存在である為にゲーム内ではデータが存在しないという訳だな!とはいえ運営側が直接干渉してくる事はないもののサポート役のNPCとしてはかなり優秀な部類に入るのは間違いないだろう。

そんな彼女は部屋の中に入るとまず最初に俺の方を見た後でこう言った。

「お久しぶりでございます、マコト様」そう言って頭を下げる彼女につられて俺も頭を下げた後、挨拶を交わした。

彼女の見た目年齢は二十代前半といった感じだろうか……少し癖のある金色の長髪に蒼玉のような瞳と整った鼻筋、薄桃色の小さな唇といったまさに絶世の美女と呼ぶに相応しい程の美しさを備えており、それに加えてスタイルも非常に良く胸や腰周りが豊かでありながらお臍の辺りは少し引き締まっておりおへそが見えるような服とスカートを着用しているので見ているだけでも目の保養になりそうである。

ちなみにこれはあくまでも服装についての感想なので特に下心があったり性的な目で見ている訳ではなく単に客観的な事実を述べているだけに過ぎない為、勘違いしないでもらいたい……というよりむしろそちらこそいい加減にしないと本気で訴えられても文句言えない気がするんだが……本当に大丈夫なのだろうか?などと考えながら眺めていると彼女が何か思い出したような表情を見せた後、突然こんな質問をしてきた。「そう言えばお聞きしましたよ、遂にレベル99に到達したみたいですね?」そう言われた俺は小さく頷くとそれを証明するためにステータス画面を表示させてみせた。するとそれを見た彼女は感心した様子でこう口にした。「……やはり貴方は私の思っていた通りの御方ですね。まさかここまで早い段階で達成なさるとは思いませんでしたがさすがとしか言いようがありません。……ですが何故このタイミングでレベルを上限まで上げようと思ったのですか?これまではある程度余裕が出来るまでは上げない方針だったはずでしたのにどうしてでしょうか……?」そう質問されると俺は少しの間考えた後で正直に答える事にした――というのも別に隠し事をする必要もないし変に隠すより正直にあったことを話した方がいいと考えたからだ。だから俺はこう答えた――「俺がこのゲームを始めた目的の一つでもある【魔王討伐】を果たすためにはどうしても必要な事だと判断したからです。でもその前に色々と確認しなければならない事もありましたし、何より準備を怠れば足元を掬われる可能性があるので万全な状態に整えてから戦いに臨む必要があると判断しての行動ですよ」

それを聞いて納得した様子の彼女は続けてこんな事を口にした。「なるほど、そういう事でしたか……!しかしそれだけ慎重に行動されるという事はよほどあのお方との戦いが厳しいものになると考えているようですね?……確かに仰る通り、これまでの相手とは訳が違うでしょうからね……ですがだからこそ私はこうしてここにいるのですよ……!ですからどうか私を信じて任せて頂けませんでしょうか……?貴方様が望む結果を必ずや実現してみせると約束致しますので何卒ご容赦をお願いいたします……!」そう言いながら頭を下げてくる彼女を前に何も言えずにいる俺を見て察したのだろう、そこで話を切り上げてきたかと思うと再び顔を上げて今度はこんな提案をしてきた。「……さてそろそろ本題に入りたいのですが宜しいですか? 今回お呼びしたのは他でもない貴方にしか頼めない仕事があるからなのですが……」それを聞いた瞬間、俺は思わず首を傾げてしまった……というのも基本的にこういった依頼が来る時は前もってメール等で通知が届くシステムとなっているからだ。にもかかわらず今回はいきなり直々の訪問という形でやって来たのだから戸惑うのも無理はないだろう――しかしいつまでもそのままにしておく訳にはいかないと思った俺は思い切って彼女に尋ねてみることにした。

その内容というのが一体どういったものなのかを尋ねたところ返ってきた答えは意外なものだった。「――今回の仕事は貴方の持つ【鑑定眼】の力が必要になる案件なんです……

詳しい説明については現地にてお伝えしますのでまずは付いてきて下さいますか?」

それを聞いた俺としては疑問だらけだったのだがこのままここで突っ立っていても話が進まないと感じた為、仕方なく了承することにした――しかしそれとは裏腹に不安が募っていた事は言うまでもないだろう。

〈???〉

「……ここは……どこだ……?」

気が付くとそこは見たこともない場所だった……

辺りには草原が広がり、その奥では巨大な山がいくつも連なっているのが見える。

そしてそれらの山頂付近に雲がかかった状態でそびえ立っているのだがまるで生きているかのような存在感を放っているように感じられたのである――ただ唯一気になる事があるとすれば山の麓にある小さな街らしきものの姿だが、それもどこかおかしい感じがしたので不思議に思ってよく観察しているとその原因はすぐに判明した。それは建物そのものが大きく傾いているという点だ――そのせいで本来のバランスを保つ事が困難な状況下にあるように見えるもののそれでもなお原型を保っている状態には驚かされたものだ。そんな光景を前にしながらしばらく考え込んでいるとふと背後に気配を感じたので振り返ってみるとそこには一人の老人の姿があったのだった……そしてその姿を見た途端、妙な懐かしさを覚えたと同時にようやく自分の置かれた状況を理解したのである! 〈マコト〉「そうか、俺は……死んだのか!」

そう呟くなり俺はその場で項垂れていた――

あの時、マリアさんに連れられて向かった先にあったのは一つの洞窟であった。

その場所で俺はとある実験に協力して欲しいと言われた上で案内されたのだが、その際に見せられたのはなんと【アイテムボックス】と呼ばれるもので実際に使う事が出来る代物であるらしく、更に詳しく話を聞いた所によればどうやらこれに使われている素材自体が貴重な物である上に入手する事が非常に難しいとされている為に数自体も少ないのだという……ただしそういった希少性ゆえに高額で取引されており市場に出回る事がほとんどないのだそうだ。その為、もしこれを手に入れる事が出来たら一攫千金も夢じゃないらしい――ただしその代わりに使用する際に大きなリスクを背負う事になるのだが果たしてその事についてはまだ知る由もなかった。

その後、早速使ってみようと思い始めた矢先にマリアさんから待ったをかけられた事で思わず戸惑ってしまう事になったが理由を聞くと彼女はこう答えたのだ――まず第一にこれを扱えるようになるには相応の訓練が必要であること、第二にそれに耐え得るだけの精神力が必要とされる為、今の時点では使いこなす事はほぼ不可能に近いだろうという事、そして最後に習得する為に必要な条件はただ一つ……“己の全てを犠牲にしても構わない”という覚悟を持てるか否か、ただそれだけである!……まぁそう言われてすぐに実行できるかどうかというのはまた別の話だけどな!!とにかく今の俺に出来るのはこの【アイテムボックス】を自在に使えるようになりたいと強く思うだけである……!!そうしてそれからしばらくの間、黙々と繰り返していると不意に背後から話しかけられたので振り向くとそこにいたのは彼女であり、いつの間にか目の前に立っていて俺の様子を見ているようだった――それを見て少し驚いたものの特に気に留める事なく作業を続けていたらやがてマリアさんがこんなことを口にした。

「ふむ、その様子なら大丈夫そうだな」

その言葉に俺は手を止めるとこう返事をした――

「……どういう事ですか?」と尋ねると彼女はこう言った。

「なに、ちょっとした独り言だと思ってくれれば良いよ。それに君の場合は特に問題ないと思っておるからなぁ」それを聞いて俺は何となくだがその意味について察しがついた気がしたので素直にお礼を述べると改めて作業を続ける事にした。するとそこでまた声をかけられたので振り返ると今度は別の物を差し出してきたので何だろうと思いながら見てみるとそれは何やらカード状の物が数枚入ったケースのようだった……しかもよくよく見てみるとそれはトランプのような形状をしている事から察するにこれが例の品であるというのは間違いないと思われる。

そう考えた俺は恐る恐る中を開けてみたところそこに入っていたのは確かに俺が想像していた通りの物だった。すなわちこの中には【アイテムボックス】を使用するために必要な鍵となるものが入っており、これによって使用する際には対象の物を手放さずに中に収納するという仕組みになっているのである――なので今使っているものはあくまでただの媒体に過ぎず、ここからは別の手段を使って取り出す形になるのだと考えられるだろう……ちなみにこの【アイテムボックス】を起動させる為には専用の機械が必要な上、事前にある程度の知識が要求されるようなので残念ながら現状では扱いきるのは厳しいだろうとの事だった。よって今はとりあえず目の前の課題に集中しようと考えていた俺は渡されたそれをポケットにしまうと再び意識を手元に集中させた――そこからは特にこれといった変化はなかったのだがしばらくして急に目眩を起こしたかと思うと同時に激しい頭痛に見舞われてしまう――だがそれもほんの数秒程度で治まるとそれまで感じていた違和感も全てなくなっていたのである。それを確認した後で俺はその場に倒れ込むとそのまま意識を失ってしまったのだった……

目を覚ますと真っ先に視界に入ったものは知らない天井だった。

最初は一体、何が起きたのかと混乱したものの周囲を見渡してみてそこが宿屋の一室だと分かった所で一気に緊張が解けたのでひとまずホッと安堵したところでようやく落ち着きを取り戻したのである……そしてその直後、不意に横から声が聞こえたのでそちらへ目を向けてみるとベッドの横には椅子の上に座りながら本を読む女性がいた為、俺は思わず声をかけてみた。すると女性はこちらに気づくなりこう答えてくれた。「おや、もう起きられるようになったのかい?」その言葉を聞いて頷いた後、どうしてここにいるのか尋ねてみたらこう答えてくれた。「……あぁ、それなら君が倒れた時に偶然通りかかった人が私達を見つけてくれたんだよ。なんでも私がいない間に君に色々と世話になったようでね、それで目が覚めたらここに連れてくるように頼まれたって訳さ。……もっとも本人は急用が出来たと言って出て行ってしまったからここには私しかいないけどね」そう言うと再び視線を本の方へと戻してしまったのでそれ以上は会話を交わす事なく静かに待つ事にした。

それからしばらくすると部屋に入ってきた人達がいたのでその人達に事情を説明すると俺はこれからの身の振り方を決める為に一人、街へと繰り出した――もちろん、今後の事を考えて必要な準備を済ませておく為である。幸いにも【アイテムボックス】のおかげで資金面についてはさほど問題にはならなかったし当面は宿代に関しても心配する必要はなかったのであとはじっくりと時間をかけて探すだけだったのだ。そうしていくつかの店舗を見て回ってみる事にしたのだが……結論から言えばどの店でも似たようなものだった……何故ならどれもこれも性能が似通っており、なおかつ値段が高く設定されていたからである――これでは例え見つけたとしても手が出せるはずもないと思った俺は早々に諦めようとしたのだがその時だった……!「……お困りのようですね……?」

そう言って現れたのは一人の少年であった……年の頃はおそらく俺とそこまで変わらない感じで背格好もほぼ同じくらいだと思われる。

彼はこちらをジッと見つめた後で何かを思い出したかのようにハッとした表情を浮かべた後でこんな事を言い出したのである――「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね!僕はアルといいます、どうぞよろしくお願いしますね……!」そう言いながらペコリと頭を下げた彼に俺も同じく名乗った後にこう尋ねてみた。

すると彼の口からは驚くべき情報が飛び出してきた――なんと彼は俺が持っているそれと同等のものを所持しているのだというではないか……つまりそれが本当なら今まで頭を悩ませてきた問題の大半が解決する事になるとあって俺としては非常に有り難い話なのだが問題はどうやって確かめるかにあると思っていた矢先に向こうからこんな提案をしてくれたのだ。「でしたら試しに僕と一緒にお店まで来て頂けませんか?もしかしたら上手くいかずに帰られてしまうかもしれませんがその時は遠慮なく言ってくださいね!」

その言葉を受けて俺は迷わずに同行させてもらうことにした。

それからしばらく歩いてやって来た場所にあったのは何というか異様な雰囲気を漂わせた店ではあるものの特に嫌な感じはしなかったので意を決して中に入ってみることにしたのだがそこで待ち受けていたのは意外な展開だったのである!何故ならそこにいた店員から説明を受けた内容によるとこれはいわゆるレンタルショップと呼ばれるものであるらしく、ここではあらゆるものを試す事が出来るばかりか場合によっては購入する事も可能であるというのだ……それを聞いて驚いたのと同時にここならきっと大丈夫だろうと確信したので早速、始める事にした――というのも今回、探し求めていた【アイテムボックス】もここにあると聞いていたのでまずは試してみたいと思ったからである……しかしいざ始めてみると中々上手くいかないので悪戦苦闘しながら何とか試行錯誤しているとその様子を見ていた彼がこうアドバイスしてくれた。

そのおかげでなんとか無事に【アイテムボックス】を使えるようになったのだが肝心の性能の方はといえばとても満足のいくものではなかったものの、とりあえずのところは問題なく使用出来るようになっている事が判明して安心したのでこれで一安心だなと思いつつその日は帰路についた。そして翌日になってから早速、【スキルチェンジ】を行う事にしたのだがここで一つ問題がある事に気付いた――それは【アイテムボックス】を使用した場合、一度、収納したものを取り出す際はもう一度、手を触れて取り出さないといけないという点であった……その為、いちいち触れなければならなくなるとかなり手間がかかってしまう上に荷物を持ち歩くのとはまた勝手が違うので少し迷ったものの結局、このままでいく事に決めたのである――なぜなら今回の目的はあくまでも訓練であり戦闘における利便性や有用性などは全く必要無いと判断したからなのである! こうして全ての準備を整えてから向かった先は森の中であり、目的の人物を探してひたすらに歩いていると不意に声をかけられたので振り向いてみるとそこにいたのはマリアさんだったのだが彼女はこちらの様子を見ると開口一番、こんな事を言ってきた。「その様子だと準備の方はしっかりと出来ているようだねぇ……」それを聞いて小さく頷くと今度はこんなことを言い始めた――曰く、これから行うのはその昔に実際に起きたとされる“戦争”に関する事だというのである……それを聞いて何となくだがこの先、一体何が行われるのか想像がついた気がしたのでそれについて確認してみる事にしたのだがそこで返ってきた答えはまさかの肯定だった――これにはさすがに驚いたもののそれと同時に妙に納得している自分もいたのが正直な感想だった。

とはいえここまで来ておいて今更やめる訳にもいかないので腹を括ってそのまま話を聞き続けることにした俺はその内容を聞いてさらに驚かされたのだがそれでも最後まで耳を傾け続けた結果、ある事に気づいた――どうやら以前見た夢の通りに事態が進んでいるらしいという事だ……!!(だとしたらあの夢で見た女性もやっぱり同一人物なのだろうか……!?)そんな考えが頭を過った瞬間、ふと彼女の事が気になったがすぐに気持ちを切り替えて目の前の問題に向き合う事にしたのだった。

それからしばらくして休憩を取る事になった俺達は木陰に腰を下ろした後で一息ついたところで再び話し合いを始める事となった――その結果、とりあえず現時点では保留しておくことになったのである……というのもやはり現段階では不確定要素が多すぎる上にまだ確証が無い以上、下手な真似は出来ないと判断したからだ。そこで今後はしばらくの間、この街に滞在しつつ【アイテムボックス】についての研究を進めていくという話になって今日の所は解散となった。

屋敷に戻った後はいつも通りの生活を送っていきながらも並行して異世界に関する情報を集めていった結果、分かったことは大きく分けて三つあり、まず一つ目はこの世界で魔法を使用するにはある程度の魔力が必要になるということ……つまり魔法を使えるかどうかは生まれつきの体質によって決まるという事だった。二つ目はそもそもの話として俺達がこの世界に来たのは神からの招待によるものであり、そこには目的があっての事であると判明しつつあった……その理由というのがどうもこの世界のどこかに存在する魔王を倒すためだというのである。最後に三つ目なのだがこれについては最も重要かつ重大な事実が明らかになった事で俺の人生において大きなターニングポイントになると共にこの世界が単なる異世界ではなく現実なのだと実感させられた出来事でもあった……それ故に俺は今後、どう生きていくべきなのかを考えざるを得なくなったのだが結論はすぐに出た。俺はこれまで自分がやりたい事を好きなようにやってきたしこれからもそうやって生き続けていきたいと考えていたからである――だがそれを実行していく上で一つだけどうしても気掛かりな事があったのだ。果たしてこの選択は本当に正しかったのか?……いや、それどころか自分の決断のせいで多くの人達が命を落としてしまうのではないかという恐怖感に苛まれていたのだが幸いにも俺には仲間達がいるのだから彼らの力を借りれば最悪の未来を回避する事も不可能ではないと思い直したことで徐々に落ち着きを取り戻していたのだった。

5

「さぁ、今日も張り切っていきましょう!!」「……えぇ~っと、本当にやるのかなぁ……?」

そう言って気合いを入れてみたはいいもののフィナさんは相変わらず乗り気ではなかったようで不安そうにこちらを見つめてきた為、私は笑顔でこう答える事にした――「大丈夫ですよ!きっと成功しますって!!それよりも今は目の前の問題に集中しましょう!」

私の言葉に彼女が頷くなり改めて本を開いてみると今回は前回よりもスムーズに進める事が出来ただけでなくあっという間に完成することが出来たので大満足でした。するとそれを聞いた彼女が突然こんな事を言い出したのです。「あれ……?これってもしかして【アイテムボックス】じゃない?」「えっ、そうなんですか!?」そう聞いて驚きました……何故なら今まで何度もチャレンジしてきたものの全く成功する気配すらなかったので正直、諦めかけていたからです……!ですがそれから程なくして遂に完成した時には喜びのあまり思わず飛び跳ねてしまいました! その後、しばらくした後でようやく落ち着いてきたので彼女に報告してみたらこう返されてしまった。「なるほどぉ……だから急に調子が出てきたんだね」「えへへっ、ありがとうございます♪」褒められて悪い気がしなかったのもあってついついお礼を言ったのですがその時、私の頭の中にはある一つのアイデアが浮かんでいたので思い切って話してみたところあっさりと受け入れられた事で俄然、やる気になってきたのでさっそく行動を起こす事にしたのです! 翌日になってからいよいよ実行に移す時が来たので早速、出かける事にした私達は街の外れにあった空き家に入ると早速、作業を開始したのだがここでちょっとしたトラブルが発生した。というのもその理由は何故か扉が開かなくなってしまったからである……しかしだからといって立ち往生している場合ではないので何とかならないものかと色々試してみたものの一向に解決する兆しが見えなかった事から仕方なく力技でこじ開ける事にしたのはいいが案の定、完全に壊れてしまい中に入る事が出来なくなってしまったのだ。このままではどうしようもならないので他に手段はないかと頭を悩ませているとふいに後ろから声を掛けられたので振り返ってみるとそこに立っていたのはなんとラガスさんだったので私は驚いたもののすぐにこう言いました――「あの、どうかしましたか……?」

その問いかけに彼がゆっくりと頷いてからこう言ったので詳しく聞いてみることにしたのですがその内容を聞いているうちに段々と不安になってくるのが分かったものの今更、後には引けなかった為に渋々ながら承諾した。

そうして中に入った後でしばらく辺りを調べているとある事に気が付いたので彼を呼びつけるとすぐさま駆け寄ってきてくれたのだがその際の衝撃で天井に亀裂が入ったかと思えば次の瞬間、崩れてきた瓦礫で埋まった上に更に次々と落ちてきた破片によって身動きが取れなくなってしまっていた……その為、自力で抜け出すのは困難だと悟った私達はとりあえず助けを待つ事にしたのだがいくら待てども誰も来ないのでどうしたものかと考え込んでいるとそこで彼の口から思わぬ言葉が飛び出してきた。「すみません、実は先程から何度か試してみたんですが何故か開かないんですよね……」「……え?今、なんて言いました……?」「ですから何度やっても扉が開かないんですよ……困ったものですね……」

そんなやり取りをしていた最中、突如として轟音が鳴り響いてきた為に私達は思わず身を縮こませていたのだがそれからしばらくして静かになったところで恐る恐る顔を出してみることにしてみた。しかしそこで見た光景に思わず驚いてしまった……何故ならさっきまで私達がいた場所が完全に崩壊していた上に天井や壁など至る所がボロボロになっているだけではなくあちこちに穴が空いていて外の景色が見える状態になっていたからである――しかもそれは明らかに自然に出来たものではなく何者かによって故意に破壊したものである事は明らかであり、一体なぜこんな事になったのかが気になって仕方が無かったのだがその直後、ふと足元に何かが転がっている事に気付くと同時にそれが何なのかを理解した瞬間、全身に寒気が走るのを感じた……!!何故ならそこには先程まで生きていたであろうと思われる人間の遺体がありその頭部からはおびただしい量の血が流れ出ていたからなのだ――それを見て私は確信したのである。

(間違いない、ここは“殺人現場”だ……!!)

6 それからしばらくして意識を取り戻した私は周囲を見渡してみたものの辺りには誰もいない事を確認して安堵の溜め息を吐いたところでようやく冷静さを取り戻すとまずはこの状況を整理してみる事にした……まず第一に何故このような事態に陥っているのかという原因に関してだがおそらくあの【アイテムボックス】を使った際に発生した何らかの力が暴走したせいでこうなったのではないかと推測していたのだがそれについてはフィナさんも同じ意見のようで彼女も同様の結論に至っていたようだ――ちなみにこの現象についてはどうやら異世界人だけに現れるもので他の人達は気づいていないらしく、また仮に気づいたとしても自分達にはどうする事も出来ないのだという……その為、例え誰かが犠牲になっても自分達の身を守る方が優先すべき事になるのだと聞かされてショックを受けたりもしたけれど一方で納得している部分もあった。何故なら仮に異世界人がいなくなれば代わりにこの世界にいる別の人間が狙われるかもしれないという事は明白だったからである――実際、過去に似たような事件が起きていた事を聞いたばかりだったからだ……とはいえこのまま何もせずにいれば確実に命を落とすのは間違いない為、早急に対策を練らなければならないと考えていた矢先の事だった。

突然、外から何かが激しくぶつかり合う音が聞こえてきたかと思うとほぼ同時に建物が大きく揺れ動いたことで危うく倒れそうになるのであった――それでも何とか堪えようとした所でふと視線を上げるとそこにはとんでもないモノがある事に気が付いた……!!

「な、何だあれ……!?あ、あんなものがこの世に存在していたのか……!?」

目の前に広がる非現実的な光景を見て驚愕すると同時に激しい動悸と眩暈を覚えたが、それも当然だった――何しろそこには巨大なドラゴンがこちらを睨みながら唸り声を上げていたのだから……そんな状況に怯えながらもどうにか気を紛らわそうとしたその時、不意にどこからか悲鳴が聞こえてきた。

最初は誰のものか分からなかったもののすぐにそれがフィナさんのものだと分かった途端、慌てて声がした方へ向かってみたのだがそこに待ち受けていたのは見るに耐えない凄惨な死体だった……だが彼女の身に何があったのかを確認するべく観察を続けているとその理由はすぐに判明した――何と右腕が無いのである!! そしてさらに言えば胴体の一部も抉れていて恐らく即死に近い状態で死んだのだろうと考えた結果、フィナさんを襲ったのは間違いなくこの怪物なのだろうと判断した。するとその瞬間、再び凄まじい咆哮が響き渡ったので思わず身構えたがその直後、今度は別の場所から断末魔のような声が聞こえてきたのでそちらへ向かう事にした――するとそこにはなんとフィナさんが横たわっていたのだ!!

「ひ、酷い……!」

あまりの姿に目を背けたくなったものの懸命に堪える事に成功した俺は彼女に近づいていき様子を確かめてみることにした……というのも先程、見つけた時点で既に手遅れだったのだとしたらもう助ける事が出来ないと諦めていたのだが幸いにもまだ息があったのでほっと安堵した。しかしその一方でこのままでは時間の問題である事も理解していたので彼女を担ぎ上げてから移動を始めた。すると直後にドラゴンが襲い掛かってきたので間一髪のところで攻撃をかわすとそのまま近くの森の中へと入っていったのだがしばらくすると相手が追ってくる気配が無くなったので不思議に思っていると突如、後ろから声をかけられたので振り向いてみるとそこにいたのは驚くべき人物が立っていた。「お~い!大丈夫か~!?」

「あっ、はい!俺達は大丈夫です!それよりも彼女は助かりそうですか?」

「うーん、そうだなぁ……正直に言うと難しいだろうねぇ……」「……えっ?それってどういう事ですか……?」

「つまりはもう助からない可能性が高いという事だよ!……それに君の気持ちも分からなくもないけど今の現状で彼女が死んでしまったからといって悲しんでいる暇なんてないんだよ!なぜならこのままだと君まで死んでしまう事になるんだから!」

「……なっ!?ちょ、ちょっと待って下さいよ!どうしてそうなるんですか!?」「いや、むしろそうなるのが当たり前でしょ?だって考えてもみなよ……相手はこの世界の生態系の頂点に立つ存在なんだよ?それを君達だけでどうこう出来るわけがないし逆にここまで生き延びられただけでも奇跡的だというのによくやったと思うよ!!」

そう言われてしまうと返す言葉もないと思い黙り込んでいると不意にルシフェルが口を開いた。「……でも僕は信じてるよ!君達が必ずこの世界を救う事をね!もしそうすることが出来たのなら僕からのささやかなプレゼントとして一つ、願いを叶えてあげようじゃないか!」

彼の言葉に思わず耳を疑ったもののすぐに思い直してからこう尋ねた。「……それ本当ですか?」

すると彼は笑いながら頷いて見せた――それからしばらくして俺達の体が淡い光に包まれていくのを感じた事でついに元の世界に戻る時がやってきたのだという事が分かって嬉しくなったのだがそれと同時に不安も覚えてしまうのだった。

無事に元の場所に戻った後で真っ先に心配になったのはもちろんミホの事だ。まさかとは思うがあのまま殺されてしまったのではないかと思っていた矢先に不意にスマホが鳴り始めたので電話に出てみるとそこから聞こえてきた声はまさしく彼女の声だった――それを聞いた途端に緊張の糸が切れた俺は思わず涙を流しながら何度も謝った後でようやく落ち着いてきたので話をしてみると何でも彼女もあの場所で起きた出来事を夢に見たらしいので同じ夢を見たのかと驚いたもののお互いに無事だったことを喜び合っていたところでふとある疑問が浮かんだので尋ねてみることにした。

「そういえばお前さ、なんでさっきあんな所にいたんだ?というか一体どうやってあそこに入ったんだ……?」

そう聞くと彼女は一瞬、戸惑ったような表情を浮かべた後ではっとした顔になって俺を見たかと思うと急に謝り出したので俺は慌てて止めると理由を聞く事にした。するとそれに対して彼女がこう答えた。「えっと……実は私もあなたと同じ夢を見ていたんです。しかも全く同じ内容だったのでもしかしてと思ったんですが案の定、本当に起こったんですね……正直、凄く怖い思いをしましたしもしかしたらあなたが私を置いて一人で先に行ってしまうんじゃないかと不安に思っていたのですがこうして無事に会えたので安心しました……」「そっか、俺も同じだよ……まぁ、結果的にお前がいてくれて良かったと思ってるけどな」「……ふふっ、ありがとうございます♪」

その後、暫くしてから互いの連絡先を交換し合ったりなどしていたもののその間ずっと気になっていた事があった為に彼女に質問してみる事にした――ちなみにこの時の時刻は朝の4時頃だったので電話を掛けるにしても早すぎるのではないかとは思ったのだがどうしても気になった為、聞いてみようと思ったのだ。「あのさ、一つだけ聞きたい事があるんだけどいいか?」「何ですか?」「お前、今まで何処にいたんだよ?……そもそもこんな時間に一体何してたわけ?」

その問いかけに対して彼女は一瞬だけ表情を曇らせたように見えたもののすぐに笑顔に戻ってしまったので仕方なくこれ以上は聞かない事にした。何故なら何となくではあるが今、この場で聞くべきではないと感じたからだ――ただ気になる事といえば彼女の様子が普段と比べておかしいような気がするのだが気のせいだろうか……そんな事を考えていると不意に時計が目に入った為、時間を確認するともう朝になっている事に気付き、今日は休日なので特に急ぐ必要もないかと思っているとその旨を伝えてこれからどうしようか考えていた矢先の事だった……突然、彼女からこんな提案をしてきたのである。

「せっかくですから私の部屋に行きませんか?……といっても散らかってますが良ければどうですか?」「えっ……?別に俺は構わないけど……ていうか、いいの?」

あまりにも唐突な事だったので戸惑いつつも答えるとなぜか嬉しそうな表情を浮かべてから頷くと俺の手を強引に引っ張ってきた為、断る訳にもいかずについていくことにした……そして彼女の部屋に到着した途端、驚きのあまり言葉が出てこなかった。

というのも部屋の中はかなり汚かった上に物がほとんど置いておらずとても生活感があるようには見えなかったからだ――その為、一体ここで何をしていたのかを聞こうとしたのだがその前に「ちょっと着替えてきますので少し待ってもらえますか?」と言われて待つ事になったのだがふと視線を上げるとそこにあったものに衝撃を受ける事となった。

「これは……っ!?これって……まさか……」それは壁に貼ってあった一枚の写真であり、そこには笑顔でこちらに手を差し伸べているミホの姿が映っていたのだ――それを見た瞬間、様々な感情が込み上げてきたせいもあってか胸が締め付けられるような気持ちになった俺は涙を堪えようとしたがそれでも無理だった……何故なら彼女との思い出やこれまで一緒に過ごしてきた記憶が次々と蘇ってきたからである。そして改めて実感させられた……やはり俺にとってミホは大切な存在である事に変わりはないという事が。だからこそ彼女の身に危険が及ぶような事は避けたかったのだがそれも全ては叶わぬ夢になってしまった事を今更ながら後悔しているとそこで部屋のドアが開く音が聞こえてきた。

「お待たせしま……きゃっ!?」……ん?今、何か聞こえたような気がしたんだが気のせいかな……?「あ、あの……すみませんが出来れば後ろを向いてもらえると助かるのですが……」

あ~なるほどそういう事ね!さては俺の姿に見惚れてるな?まったく困った子だな……ま、仕方のない事だけどさ! とはいえ、このままじっとしているわけにもいかないので言われた通りに後ろを振り向くとそこには何故か顔を赤くして恥ずかしそうな表情をしたままの彼女の姿があった――それを見た瞬間、思わず心臓が止まりかけたのは言うまでもなかった。「そ、その……やっぱり恥ずかしいのであんまりジロジロ見ないで下さいよ……ほら、着替えたなら行きますよ!」

そう言いながら俺の手を握ってくる彼女の姿を呆然と眺めながらもどうにか我に返ると今度は別の意味でドキドキしてしまったが何とか落ち着くと黙って頷くのだった。それから部屋を出てから階段をゆっくりと下りていく中で改めて思ったのだがどうやら先程の服装が寝間着だったらしい……というのを知ったのはそれから間もなくの事であった。

階段を下りきった後で玄関で靴を履くと彼女は俺を家まで送ってくれると言ったのでお言葉に甘える事にした……するとその際に俺が持っている荷物に視線を向けながら「それで、一体何が入ってるんですか?」と尋ねられたので素直に中身を見せると興味津々といった感じになっていた――というのも先程、彼女が眠っている間に見つけた日記帳らしき物を見つけた俺はその内容を確認してみたところ内容はどれも似た様なものだったので一応、簡単にまとめてみた結果である……ちなみにその内容はこんな感じだ。

――――――

『×月△日 今日から高校生デビューだから頑張ろうと思う!新しい友達もたくさん出来たし学校に通うのが楽しみ!』

『×月□日 クラスメイトの中に凄くカッコイイ人がいる!!仲良くなりたいから色々アピールしようと思うけどどうやったらいいかな?』

『○月◇日 彼と隣の席になれた!これでもっと近付けると思ったのに他の女の子達が彼に話しかけてばかりいて邪魔だなぁ……』――

『☆月×日 どうして彼が私を無視するの?私はこんなに好きなのに酷いよ……!!こんなの耐えられないよぉ……!お願い、私を助けて』……といった具合である。恐らくこの文章から見て察するに好きな人に対して色々とアピールしたものの結局、相手にされなかったので次第に追い詰められて精神的にも追い込まれて自殺をしてしまったのだろうな。

――そんな推測をしながら読んでいると彼女がこんな事を口にした。

「それにしても、この人の想い人さんは何をやってるんですかね?」「う~ん、多分、その人なりに精一杯の努力はしたんだと思うんだよねぇ……だけどそれが逆効果になっちゃったんだろうね」

「え?そうなんですか……?」「……あぁ、あくまでも予想でしかないけどね」

そう言って誤魔化した後で俺達は駅に向かって歩き出した。

18 それからしばらく歩いてから駅前に到着すると改札を通り抜けてから電車に乗り込む事にしたのだがその際、彼女はホームに着くまでずっと俺の手を繋いだまま離そうとしなかった――おかげで周囲の目が気になってしまい恥ずかしかったもののそれ以上に嬉しく思っていた事もありされるがままになっているとやがて到着した際に手を離したかと思えば急に抱きついてきたので驚いていると耳元で囁いてきた。

「……私、決めたんです……これから何があっても貴方の事を全力で守っていくって……たとえどんな事があったとしても絶対に貴方のそばを離れませんからね」「……分かったよ、ありがとう……嬉しいよ」

彼女がここまで言ってくれるとは正直、思わなかった俺は自然と涙を流しながらお礼を言っていた――すると彼女もまた泣いていたのか俺と同じように何度も頷きつつ「こちらこそ、ありがとうございます……」と言って更に強く抱きしめてきたがそれに対して特に抵抗せずに受け入れる事にした――その直後、ちょうど電車が到着したらしく大勢の人々が乗り込んでいく中、ふと振り返るとミホと目が合った――すると微笑みながら小さく頷いてきたのでこちらもそれに応えるように頷き返すのだった。

その後、無事に目的の駅まで着いた後は電車を降りると駅から外に出た後で再び手を繋いで歩き出すことにした……ただその途中で気付いた事があるとすればそれはすれ違う人々が皆、こちらを二度見してくる事に気付いた時だった――その理由はおそらく手を繋いで歩いているからだと思うが実際にその通りだったようで何やら噂をしている様子すらあったので余計に意識してしまうようになったのだが一方で隣の少女は嬉しそうにしていた。

そんな事を思いながら歩いていたらいつの間にか自宅の前に到着していたので彼女に感謝の言葉を述べる事にした――というのもここに向かう途中ではずっと無言だった為に少し気まずい空気が流れていたのでようやく解放されたような気分になったからである。「それじゃぁ、俺はこの辺で帰るとするよ……色々とありがとな、お陰で助かったよ」

「……そうですか、それでは気を付けて下さいね……おやすみなさい♪」

「あぁ、おやすみ……っと、そうだ、忘れてた……はいこれ、良かったら受け取ってくれ……まぁ、大したものじゃないんだけどさ」「えっ……?これってもしかしてプレゼントですか?」

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