第5話


「――おや、君達はここで何をしているんだい?」そう言いながらこちらへ近づいてきたのは学園長で名前は【スピカ・ラティフォリア】といい普段はこの学校の敷地内にある屋敷に住んでいる女性なのだが年齢は確か50歳を過ぎており見た目に反して若く見える理由は恐らく、エルフ族特有の特徴である長命のおかげなのかもしれない。そんな彼女こそがこの学園の設立者である為、誰もが尊敬して止まないというまさに偉人的存在なのだ。そんな人物が何故、ここに姿を現したのかと言えば先程の会話から分かる通り俺と彼女の様子を見に来たのだろう――というのも俺がここを訪れた目的についてはまだ誰にも話していないのだが、それがかえって裏目に出てしまったようだ。だが今更後悔しても仕方がないと開き直ったところでまずは状況を説明しようと思ったので先程のやり取りを掻い摘んで説明する事にした……すると彼女はどこか呆れた表情を見せながらも溜息をつくとそのまま立ち去っていった――というのもどうやら最初から俺の存在には気付いていたらしく、途中から会話を盗み聞きしていたらしくその上で全てを察してくれたのだ。

というのも以前に一度、彼女と共に過ごした経験があるから理解出来たわけだが仮にも彼女は『元冒険者』なのでそれくらい朝飯前なのだろう……ただ、その際に一つだけ疑問に思った事があったので去り際に呼び止めたところ振り向いた彼女は笑みを浮かべながら答えた。

「……あぁ、それは多分、私の知り合いに似たような子が一人いるからだよ」と答えた後で今度こそ立ち去っていったが俺は未だに信じられないまま呆然としていたがふと我に返ると再び歩き出して目的の場所へ向かっているといつの間にか隣にいたアリスに話しかけられた。

「……ねぇ、さっきの人とはどういう関係なの?」不意にそんな事を言われた俺は戸惑いを隠せなかったが同時に言いようのない恐怖を感じていた。何故なら彼女の表情は笑っているにも関わらず目は笑っておらず何か得体の知れないものを感じさせられる雰囲気だったからであった。その為、下手に嘘をつく事も出来ないと考えた末に本当の事を話す事に決めた……というのも既に隠し通す事が出来なくなった以上、下手に取り繕う必要はないと感じたからである。そして俺はこれまでにあった出来事を包み隠さず全て話した――ただし自分が異世界からの転生者だという話は除いてだが、そうでもしないと彼女を混乱させてしまう可能性があったからだ。また何故、その必要があったのかといえば彼女の口からある事実を聞きたかったからである。というのも以前、一度だけ同じ世界出身の仲間から聞かされた事があったのだが、その内容というのが『とある人物の名前』だったのである。

その名前が何なのかはまだ判明していないがもしかしたら彼女がその答えを知っているのではないか?と思い至ったので意を決して尋ねたところあっさりと教えてくれたので驚いた――というのも俺が予想していたものとは大きくかけ離れていた為だ。まず初めに彼女は俺の事を覚えていたばかりか『カレン』という少女にも心当たりがあるらしい――それを聞いた時、俺は心の中で喜びを感じたと同時に一安心できたが問題はここからであった……というのも実はその少女はこの世界に存在しているのではなく遥か昔に生きていた人物であるという事を教えられたからである――とはいえ彼女は今も生きているので会う機会もあるかもしれないが残念ながら居場所は分からなかった。

それから一通り話し終えた彼女は俺に向けて謝罪した後でお礼を言うとその場を後にしたのだがその直後、突如として目眩に襲われてしまい倒れそうになっていた。それを心配したアリスが声をかけてきてくれたおかげで意識を取り戻した俺は彼女に心配させてしまった事を謝るなり改めて感謝の言葉を告げた上で改めて本題に入る事にした。というのも本来の目的である『宝探し』をしなければならない為、俺は彼女を屋上へ連れて行くとそこに置いてあった宝箱を開けた――その結果、出てきたものは一冊の書物だったのだがそれを手に取ってページをめくってみると書かれていたのは驚くべき内容ばかりだった――それは魔王と呼ばれる者の力について書かれたものであり中には『不死の力を手に入れる事が出来るらしい』という記述まで記されていたのだ。俺はそれを見た途端、歓喜するのと同時にこれを使えば世界を征服出来るかもしれないと思った瞬間、ふと嫌な予感を覚えた――というのも過去に似たような展開を何度も経験した事があるだけに思わず冷や汗が出そうになったのである。

そこで気を取り直した俺は改めて周囲を見渡す事にした――というのもこの校舎内は現在、生徒達によって占拠されている状態でありその中には俺のクラスメイトや顔見知りの生徒も数多くいた――その為、もしここで大きな騒ぎを起こしたりすれば間違いなく巻き込まれてしまうのは間違いないだろう――だからこそ細心の注意を払う必要があるのだがそんな中で突然、声をかけてきた者がいたので振り返るとそこにいたのはミウであった。「やっと見つけたよ、ユウ君……」彼女はそう言うと微笑みながら歩み寄ってくるなりこう続けた。「ずっと探してたんだけれど見つからなくて困っていたんだぁ~」そう言ってきたかと思えば抱きついてきたので動揺してしまったが直後に彼女が耳元でこう囁いた事で納得したのである。「それで例の本を見つけたんだけれどね……それ、私も持ってるんだ♪」それを聞いて益々不安になったがそれでも俺は確認する必要があると判断して早速、その書物を読んでみた結果、驚愕する事となった。というのもその中に記されていた内容があまりにも衝撃的だったからである――その理由の一つとしては『かつて天使と呼ばれた少女が自らの命を代償として封印した悪魔を復活させた人物の正体』と記された一文に目が止まったからなのだが……とはいえ他にも注目すべき点はあった。なぜならそれが記されている場所は魔界の最奥にあると言われている【地獄】に存在し、しかもそこには門番となる強大な力を持つ魔族がいるという噂話まで記載されていたからだった。ただ幸いにも場所が場所なので簡単に行けるような場所ではなかったため当面の間は様子を見る事にしたところでひとまず安心した――ちなみにミウも同じ考えに至ったらしく、むしろ一緒に行動しようと言う提案までしてきた程だったので俺も了承した上で今後の計画を練る為にも一度、自宅へ戻る事にしたのであった。

翌日、俺はミウと一緒に登校して教室へ向かうと真っ先にルシフェルの下へ向かったところで昨日の件を伝えた後、そのまま他愛のない話をしながら時間を潰した。その後でアリスとも合流し、三人で話をする事になったのだが話題としてはもちろん昨日の出来事についてだった――どうやら二人はあの書物の内容を知っているらしく詳しく聞かせてほしいと言われてしまったのである。その為、二人に対して正直に話した後は互いに意見を交換していたのだが結果的に得られた情報といえば一つだけだった。

というのも肝心の内容はほとんど解読されていなかった上に文字自体が古代のものを使用していた為、誰も読めない状態で放置されたままの状態だからで恐らく今後も発見される可能性は限りなく低いと思われた。ところがその一方で俺達が入手した書物には魔王に関する情報が書かれているだけではなくその能力についても詳細に記されており、それについて興味を持った俺は二人に説明する事にした……とはいえ実際に試すつもりはなくあくまでもあくまで仮説を立てただけである。というのも以前にも話した通り、この世界では既に魔王が存在しているもののその力は未だ謎に包まれている為、迂闊な真似はできないからだが少なくともこの書面に記されている内容はかなり信用できるものだと言えるので今後、役立つ可能性もあると考えた上での提案である。すると二人が賛成してくれた事もあり、とりあえず次の休み時間を使って試してみようという話になり早速実行に移す事にした……といってもさすがに授業中にやるわけにはいかないのでまずは放課後になってから行う事が決まったところでチャイムが鳴った。というわけで一旦解散する事となったわけだがこの時の俺達はまだ知らなかった――まさかこの後、予想外の事態が起こる事になるなど予想すらしていなかったのだから……

昼休みに入った途端にミウが訪ねてきたかと思えば話があると言ってきた事から不思議に思っていたのだが、どうやらアリスの件であるらしく彼女は以前から気になっていたらしく思い切って聞いてみたところやはり同じ答えが返ってきたので少しだけ安心した。というのも俺と付き合い始めた頃からアリスがどこか変わったように思えたからだが特に気にした様子もなく普段通りに接するようになっていたから尚更、気になったらしい。しかし、いくら親友であっても異性の事については中々聞くに聞けなかったみたいで、今までは我慢していたそうだが今回ばかりは黙っていられなかったようで思い切って尋ねてみることにしたようだ――もちろん俺にはその意図が分かっているので答える事にしたものの一つだけ問題があった……何故ならその内容が恋愛関連だからだと言っても良いものだったからである。そもそも俺がこの世界にやってきた理由は自分の故郷を探すのと同時に恋を成就させる目的もあったわけでそれは今でも変わらない。だからこそ俺は素直に自分の気持ちを伝えようとしたその時、不意に何者かの視線を感じたような気がして周囲を見回すとそこにいたのは偶然にもカレンの姿があり目が合うなり笑みを浮かべていたので思わずドキッとした。

だが、そんな気持ちを悟られまいとしたのも束の間、今度は彼女の隣にルルさんの姿が目に入った事で更に動揺してしまったのだがそれも無理はなかった……というのもここ最近になって彼女とは顔を合わせていないどころかろくに話す機会もなかった為、少し気まずい気分になっていたからだ。とはいえいつまでもそうしているわけにもいかなかったので勇気を出して話しかけようとしたところ突然、彼女から手招きをされてついて行くと人気のない場所へ連れていかれたので内心、緊張しながらも何か用事でもあるのかと思っていた矢先、彼女が口を開いた。

「実はですね、一つ頼みたい事がありまして……」そう言った後で続けてこう告げた。「最近、ユウ様の近くに誰か別の方の姿が見受けられますしそのお知り合いが誰なのか教えていただけないでしょうか?」そう言われて即座に思い浮かべたのはルシフェルだったが果たしてそれを答えても良いのかどうか迷った挙句、黙り込んでしまった。何故なら以前にも同じ質問を投げかけられた際にはぐらかしてからというもの何も聞かれなかったからであり、それが理由の一つであった――しかし、この時だけは違ったようで俺が黙っているのを見て彼女は笑みを浮かべた後、こんな事を口にした。

「別に私は責めているわけではないのですよ?だって、それは仕方ない事だと思っていますからね……それに今の貴方は過去の記憶がない状態ですから当然と言えば当然だと思いますが、もし私との約束を守っていただけるなら今後はその方の事も詮索しないつもりでいます。ただ万が一の事が起きてしまうと困るのも事実なので事前に聞いておきたいと思いましてね」それを聞いて納得した俺はようやく彼女に事情を説明した。そして一通り話し終えたところで再びカレンから問いかけられる事になったがその際、何故そんな事を尋ねるのかと尋ねた所、返ってきた答えは予想外とも言える答えだった。

というのも、彼女は昔から俺と一緒にいる時間が少なかった事に寂しさを感じていたらしく、せめて学園にいる間だけでも一緒にいたいと思った結果、思いきって頼んでみたのだとのこと。もっとも俺の気持ちを優先して考えたうえでそう決めた為、断られても仕方がないと考えていたらしい。

それを聞いた俺は申し訳ない気持ちで一杯になったのだがそれと同時に彼女を傷付けてしまったのではないかと後悔したのと同時にそこまで考えてくれていた事を知ったことで嬉しくもありながら感謝の気持ちを伝える事にした。「ごめん、本当に悪かったと思ってる……」そう言いながら頭を下げると彼女もまた笑みを浮かべながら首を横に振ってみせた後、逆にこう尋ねてきた――「もし許されるのならこれからもユウ様の事を想い続ける事は許してもらえますか?」その問いかけに俺は即答する事にした。なぜなら既に答えが出ているようなものだったからだ――もちろんその答えは決まっている。その為、改めて彼女にその気持ちを告げたところでお互いに笑みを浮かべると抱き合いながらキスを交わした……

その後、俺は急いで教室へ戻ったのだがちょうど休み時間が終わったタイミングだったので無事に済んだもののもう少し遅ければ危なかったかもしれない……とはいえ何事もなくて良かったと思いつつ席についた所でカレンが俺の耳元で囁いた。

「先程の件ですが私達の事を他の生徒に話さぬようお願いしますね……何せ相手は学園長なので話がこじれると面倒な事になりますのでご理解ください」そう言われた直後、俺は冷や汗を流しながらも無言で頷くしかできなかった――というのも彼女の口から聞かされた相手というのがこの学校の長であるアルフェルドだったからだ。ちなみになぜそうなったかというと以前にミウから教えてもらった話で彼はかなりの切れ者であり、なおかつ魔法の腕もかなりのものだと聞いていたからだった。おまけに実力主義者らしく相手が誰であろうと特別扱いする事もなく、むしろ敵と認識すれば容赦なく攻撃するような危険な性格の持ち主らしいので彼の機嫌を損ねる事だけは避けねばならないと思ったのだった。

(まあ仮にも教師なのだから流石に生徒相手に危害を加えるような事はないだろうが問題はそこではなく、もし仮に彼が俺の事を知っていたとしたらどう反応するのかという疑問が浮かぶのだがそれについてはひとまず考えない事にした)とはいえ一応は注意喚起しておくべきだろうと考えた俺はミウにある頼みごとをするとすぐに教室を後にした。それから数分後、カレンと別れた後に自分のクラスに戻ると授業を受ける事となったのだがそこでとある事実を知ったのである――どうやらこのクラスでは体育の授業を受けられない事が判明したので急遽、別の教室に移動する事になってしまったからだ。ちなみに理由は簡単でこのクラスには【女子しかいない】という事だった為、男子である俺達ではどうしようもなかったのだ……その為、見学するという選択肢もあったがそれだと時間を持て余してしまう恐れがあったので結局、男女共に教室で着替える事にしたのである。そんなわけで俺も渋々、更衣室へ移動しようとしたその時、後ろから声をかけられた。

振り返るとそこにはアリスの姿があったものの、その表情を見る限りどこか様子がおかしいような気がした。しかしその理由はすぐに判明することになる――何故なら声をかけてきた直後にいきなり抱きついてきたかと思えばキスをしてきたからである。突然の事だったので動揺していると、それを見たミウ達が慌てて駆け寄ってきた事でどうにか落ち着きを取り戻したものの未だに混乱したままの俺に構わず、アリスはさらに言葉を続けた。

「実は先程、ある書物を見つけたのですが解読してみたところ驚くべき内容でした。その内容について皆さんにもお話ししたいのでどうか来て頂けませんか?」そう聞かれて一瞬、悩んだ末に頷いた後で案内された先は図書室だった……ただし、普段とは別の場所である事はすぐに理解できた。というのも普段は多くの生徒が利用しているというのに誰一人として見当たらないばかりか鍵までかけられているのだから、これでは入る事も出来ない。一体どうしてなのか不思議に思っているとここでアリスが説明してくれた。なんでも今日は休館日の為に施錠されているとのことだったが、どうやら彼女はそれを知らずに開けようと試みていたらしく仕方なく魔法で鍵を開けるつもりでいたようだ。つまり本来、ここは一般生徒は利用できない場所だったのだがそれでも入ろうとした理由を尋ねると彼女はこう答えた。

「実は以前、気になる噂を耳にしたものですから確認しておきたいのです」その言葉を聞いた瞬間、思わず動揺してしまったが同時に不安にもなった……というのもその内容については何となく予想がつく上、何よりルシファーの一件を知ってしまった今となってはもはや無関係ではないからである。しかし俺が何かを言うよりも先に彼女はこう告げてきた。「とはいえ、ここに記されている内容が本当かどうか分かりませんので出来れば貴方の口から説明して頂きたいと思っているのです」その言葉に頷きながら周囲を見回すと幸いにも誰もいなかった為、話をすることにした。するとまずはルシファーの件や俺との出会いについて尋ねられたので覚えている限りの事を説明すると納得してくれたようで次にルシフェルについての情報を教えるよう要求されたが生憎とこれに関してはほとんど知らないので代わりに魔王について知っている事を話すと少しだけ驚いたような表情を見せた後でこう言ってきた。「なるほど、そういう事でしたか……だから私の事についてもご存じだったわけですね」そう言って納得した様子を見せたものの、どこか腑に落ちない様子でもあったので気になった俺は何かあったのかと聞いてみたところ意外な回答が返ってきた。

「いえ、特に何もないです。ただ少し気になっているのは貴方のその能力ですね……」突然、意味深な言葉を口にして首を傾げている俺を見て何かを察した様子の彼女は笑みを浮かべながらこう言った。「まさか自覚がないのですか?」そう言われてますます訳が分からなくなったが彼女は気にする様子もなく、そのまま続けて言った。

「恐らくはそれが貴方が特別な存在である所以でしょう……というのも本来であれば貴方はこの世界に来ていない存在ですからね」そう言われてようやく理解した俺は自分がどんな世界に転生したかを思い出していた――というのも以前、俺が口にした世界というのは所謂、パラレルワールドと呼ばれるもので可能性の一つとして存在しうる別の未来だという事を思い出したのだ。というのも前にカレン達から聞いた話では過去を変えてしまうことで新たな分岐が生まれると聞かされたがまさにその状況になっているのではないかと思ったのだ。

だが、そんな考えをよそに彼女はさらに続けた。「それに本来ならこの世界における勇者と賢者の立場にいたはずですよ?それなのに何故、貴方は記憶を失いつつも今のような状態になってしまったのでしょうかね」そう言われて俺はふと考えてみた……確かに言われてみればその通りかもしれない。というのも本来は二人一組のパーティーだったにも関わらず今は一人で旅をしている上に勇者や賢者でもない一般人と変わらない生活を送っているから無理もない。

しかも、もし本来の力を取り戻せば更にとんでもない事になるのは間違いなかった為、どうしたものかと考えているうちに彼女は話を続けていた。「そういえば貴方には妹がいると聞きましたけど、名前は何ていうのかしら?」その問いかけに答えるべく名前を言うと彼女は何度か頷いた後で笑みを浮かべたまま口を開いた。「やっぱり、そうでしたか。実は以前から気にはなっていたのですよ。何せ私の知っている妹の名前と一致しているのですから当然ですね。でもそうなると貴方の目的は果たされていないのかもしれませんね……」その言葉の意味を理解することは出来なかったものの、彼女の表情を見る限りでは決して嘘を言っているようには見えなかった。だからこそ気になり尋ねてみると「そうですね。もし宜しければ私と賭けをしませんか?」という答えが返ってきた――もちろん最初は断ろうと思ったが、よくよく考えてみればこのまま放置していても仕方がないと考えた上で承諾した。そして彼女からの条件は至って簡単なものだった――それは彼女が満足する結果を出せれば妹の件について教えるというものだったのだがそれに対しても了承する事で交渉が成立した。とはいえ、俺自身はどうやって彼女に満足させるのか全く分からなかったので何をすればいいのかと尋ねると彼女はこう答えた。

「そうですね……なら一つお願いがあるのですがよろしいですか?」その言葉に対して首を縦に振ると今度はこう言われた。「それでは明日以降、私は貴方のクラスへ転入するので一緒に授業を受ける許可を貰えないでしょうか?それも他の生徒と同じ扱いをして頂くという条件付きでお願いしますね」正直言って、なぜそんな事を望むのか分からずに戸惑ったものの別に断る理由もなかった為、受け入れることにした。

するとそれを見た彼女は嬉しそうな表情を浮かべた後、改めて挨拶をしてからその場を後にしたのでその後姿を見送ってから俺達も教室へと戻った。こうして長かった一日が終わりを告げた――もっとも翌朝には早速、カレンの事がばれてしまった為に質問攻めにあった挙句、クラス中の生徒が集まる騒ぎにまで発展してしまうのだがこの時はまだ知る由もなかった。

それから数日が経過し、アリスが俺達の元へとやってくるようになってから早くも一週間が経過したのだが今のところ大きな問題は起きず、ごく普通の学園生活を過ごしていた……いや、一つだけ気がかりがあった。というのもアリスに絡まれるようになったせいなのか、はたまた俺が原因なのかまでは分からないものの一部の女子生徒達の間で不穏な動きを見せるようになった為、注意しなければと考えていたのだ。何故ならこの学校は実力主義の傾向が強いせいで生徒達も皆、それなりの腕前を持っている者ばかりなので下手にちょっかいを出して怒らせてしまえば命取りになりかねないと思ったからである。

とはいえ、まだ何も起きていないので様子見で済ませておけば問題ないだろうと思い、引き続き様子を見守ることにした――しかし俺の判断は結果的に間違っていたのかもしれないと思うようになる事件が起きたのは翌日の放課後の事だった――この日、ミウ達は用事があって参加できないという事だったので久しぶりにカレンと二人で下校しようとした時、校門を出たところでアリスに呼び止められた。というのも先日のお礼がしたいと言われて断り切れず、仕方がなくついていく事になったのだが向かった先は意外にもカフェだった……というのもてっきりどこかに寄ろうと提案されると思っていたので意外に思いながら席に座って注文を終えると先に待っていた彼女が笑顔で話しかけてきた。

「急に誘ってしまい申し訳ありませんでした。ただどうしてもお話したい事がありましたのでお誘いしたのですが……もしかして迷惑だったでしょうか?」そう聞かれたものの特に用事はない為、首を横に振って見せると安心したのか笑みを浮かべて話し始めた。「そうですか、良かったです!では単刀直入にお聞きしますが貴方達はどうしてここへ来たのですか?見た所、普通の生徒とは違う雰囲気を感じますが」そう尋ねられた瞬間、俺はすぐに理解した……というのも今の俺達は普通の人間とはかけ離れた姿をしているからだ。そもそも魔族と関わりを持っていれば普通、人間ではないと気付くのが普通であり、実際にそれを知っていた上で聞いてきたのだから間違いないだろうと思った。とはいえ正直に全てを話してしまうと問題になりそうな気がしたのでどうにか誤魔化す方法を考えていたところ、そこで彼女がこんな事を口にした。

「ああ、ごめんなさい。どうやら余計な事を言ってしまったようですね。実は貴方以外にも似たような境遇を持つ生徒がいる事は把握していますので無理して言わなくても大丈夫ですよ」その言葉を聞いて内心でホッとしていると続けて彼女はこんな事を口にした。「ちなみに私やミレーユさんは人間と悪魔のハーフですけどね」と付け加えられたので思わず驚いたが同時にある事実に気付いてしまった……なぜなら彼女もルシファーと同様に人間に害を及ぼす存在だからだ。その事実を知った事で俺が言葉を失っていると察した彼女は申し訳なさそうに謝ってきたので気にしないように伝えた。しかしここでふと気になった俺は思い切って尋ねてみた。

その質問に対し、彼女は少し間を置いた後でゆっくりと語り始めた。「これは誰にも言わないで頂きたいのですが実は私には婚約者がいるのです。相手はとある国の王子だったんですけど、ある日を境に姿を消してしまって行方知れずになったんですよ」そう言った彼女の瞳はどこか悲しげだったので思わず心配してしまったが彼女はそれを察したようで再び口を開いた。「大丈夫です。既に立ち直ってますので……それよりも続きをお話してもいいですか?」その言葉に頷いて返すと彼女は小さく深呼吸してから話をし始めた。「私が悪魔である事に悩んでいた頃にある方に出会ったんです。その人は私達のような存在の事をよくご存知の方だったんですがその方と出会って私は自分の生き方を改めようと思えたのです」

「つまりはそのお方のおかげで今の貴方がいるという事ですか?」

「ええ、その通りですよ。あの方と出会ったおかげで今の私がいると言っても過言ではありませんからね」そう言われた俺はその人物について興味を抱いたものの残念ながら名前については教えてもらえなかった。とはいえ、その事についてもいつか話してくれるような気がしていたその時、ふいに彼女がこう言ってきた。「そういえば自己紹介がまだでしたね。私の名はルシフェル・ヴァルゴといいます。一応、魔王の娘ですが気軽に話し掛けて下さいね」その名乗りを聞いて驚きはしたものの特に気に留める事はなく、そのまま頷いた。すると彼女は安堵したような様子を見せた後、再び話を続けた。

「実は貴方に一つお願いがあるのです」突然、そう切り出されたがすぐに思い浮かんだのはカレンの事だった……といっても俺の中では彼女の存在はただの協力者だとしか認識していないので特別視するような間柄ではない。だからここは無難な返事を返した上で断ったのだがそれを聞いた瞬間、何故か悲しそうな表情を浮かべると続けてこんな提案を持ち掛けてきた。「ではこういうのはどうでしょうか?私の目的が達成できたらその時は貴方にお任せしたいと思いますので是非、協力して頂けないでしょうか?」その言葉に対して少し悩んだ後で答えを出す前にまずは妹の件に関して話すかどうかを確認してみると彼女は素直に首を縦に振った為、それなら構わないと言ってから改めて詳しく話を聞く事にした。すると意外な事実が発覚した――何と彼女には双子の妹がおり、名前をアスモデウスといったらしい。その話を聞いて内心、動揺していたものの彼女の話の続きを聞くとどうやら双子は生まれた直後に母親の手によって引き離されたのだという。

その為、現在は行方不明になっているのだがそれでも諦めきれず、ずっと探し続けているのだと言っていた。その話を聞いた時点で俺には嫌な予感しかなかったがとりあえず今は先の話を聞かせてもらう為に何も言わずに話を聞き続けた。そして彼女の口から飛び出した言葉は俺にとってあまりにも残酷なものだった――というのもどうやらその二人はかつて魔王軍に所属していた幹部の一人であるルシファーに仕えていたというのである。しかも彼女達曰く、自分達こそが正統なる血筋で現在のルシファーの配下達は所詮、出来損ないでしかないとまで言い切っていたのでその言葉を耳にした俺は複雑な心境だった――なにせルシファーは俺達が倒した男だったからだ。そんな気持ちを押し殺しながら話を聞いていたのだが今度は衝撃的な内容を口にするのだった。それは現在、行方知れずとなっている妹の事だった――なんでもカレンが召喚したあの勇者によって殺されてしまったのだという。だが実際には死んでおらず、別の場所にいるのではないかと考えているらしい。その理由としてはルシファーの死と同時に他の者達も消息不明になったらしく、もしかすると生きている可能性があるかもしれないと考えたからだという。ただし確証はないが可能性としては高いだろうという話だった。その話に対して、俺も同意するしかなかったので黙って頷いた後、彼女にこう告げた――「分かりました。もし協力出来る事が何かあれば力になりましょう」その言葉を聞き、笑顔を浮かべると礼を言った上でその場を後にしたのだった……こうしてこの日を境に俺の日常は大きく変わっていったのだがこの時の俺にはまだ知る由もなかった。なぜなら俺が去った後のカフェに新たな客が現れたかと思うとそこに座っていた人物が笑みを浮かべて呟いた。

「……ようやく会えましたね」と……その直後、店から出て行く人物を見送った後で店員に声をかけた後にこう言った。「これで役者は全て揃いました。いよいよ大詰めです……皆さん、心してかかってくださいね」その言葉に頷いた店員を見て満足げな笑みを浮かべた後で窓の外を見つめながら独り言を呟くように言った。「待っていてください。もうすぐ貴方の元に行きますので……」そう言って立ち上がった彼女はそのまま店の奥へと消えていった――それから暫くの間、この店には新しいアルバイトが入る事はなかったそうだ。

カレンと一緒に学校へ登校した日の放課後、いつものように帰宅しようと廊下を歩いていると突然後ろから声を掛けられたので振り返るとそこには見覚えのある男子生徒が立っていた。その彼は以前、俺に絡んできた連中の一人だったのですぐに誰だか思い出したのだが今回は何もしてくる様子もなかったので不思議に思っていると向こうがこんな事を口にした。「おい、そこのあんた……いや、もう面倒くせえから単刀直入に聞くけどあんたがアリス様のお気に入りだって噂されてる奴だろ?」

その言葉を聞いて俺は心の中で(やっぱりそう来たか)と思いつつ、返事をする事なく黙ったままでいるとそれを見た相手が苛立ったのか口調を強めながら言った。「なあ、黙ってないで何とか言ったらどうなんだ?あ!?」そんな事を言われた俺は溜息交じりにこう返す。「それで、何の用なんだ?また殴られにでも来たのか?言っておくが俺は忙しいんだ。お前に付き合っている暇はない」「ちっ、相変わらず口が悪い奴だな。まあいい……用件を言うぞ、ついてこい」そう言って歩き出す彼の後ろを仕方なくついていく事にした。

それにしてもまさか向こうから呼び出してくるとは予想だにしてなかったせいで思わず身構えてしまったのだがどうにか冷静に対応する事が出来たのでそこは一安心だと思ったものの相手の正体を知っている以上、油断はできないので気を引き締める事にした。その後、彼に連れて行かれたのは人気のない場所でありそこで足を止めたところで再びこちらを睨みつけてきたので思わず警戒してしまった直後、こんな事を口にした。「なあ、俺と勝負しないか?」「……どういう事だ?」「なに簡単な事だ……お前が勝てば俺達はもう二度とお前に関わろうとはしないし邪魔もしない」「……なるほど、それがお前の条件という事か?」その問いかけに小さく頷く彼を見て俺は迷った挙句、その申し出を受ける事に決めた――何故ならこのまま放っておいてもいずれ同じ事になるだろうしそれにこれ以上、面倒な出来事に巻き込まれるのはごめんだったからだ――するとそれを確認した後で懐から小さな石を取り出すと俺に向かって投げてきた。「受け取れ!」言われた通り、受け取るとその途端、光を放って消えてしまったので驚いて固まっているとそんな彼に対し、こう問いかけた。「ルールを説明する。これからお前はこの結界の中で俺を捕まえてみろ。もちろん魔法や魔術の使用は一切禁止だ」そう言われて思わず首を傾げるしかなかったがそれを口にするより先に彼が言った。

「じゃあ始めようぜ、先手は譲ってやるから好きな時に来いよ」その言葉に無言で返すとゆっくりと間合いを詰めていった。だが相手は一歩も動かず、その場から動こうとはしなかった為、このままでは拉致が明かないと判断した俺は一度、大きく深呼吸をした後で攻撃を開始した。しかしそれと同時にある違和感を覚えていた。というのも先ほどからずっと一定の距離を保ちながら動いており、こちらの出方を伺っているようだったからだ。だからこそ隙を見せるまで攻撃をせず、様子を伺っていたところ相手の視線が自分の右手にある事に気が付いた瞬間、慌てて後ろに下がった次の瞬間、何かが通り抜けていくのを感じ取って冷や汗を流してしまった。そして再び視線を戻すと彼が不敵に笑みを浮かべながら言った。

「へえ~今のを躱すか……やるじゃないか。それじゃあ少し本気を出してやるとするか!」そう言った直後、その姿が消えてしまい、必死に気配を探り始めたものの中々見つけられずにいたがここでふと思い付いた事を試す為にその場で立ち止まってみる事にした。すると案の定、背後に回り込んだ彼が拳を繰り出したので反射的にそれを受け止めたのだがその瞬間、予想外の事が起こった――なんと素手で受け止めているはずの手に凄まじい痛みが走ったので慌てて手を見ると皮膚が裂けており血が滴り落ちていたので驚いているとその様子を見ていた彼から嘲笑混じりの言葉が返ってきた。「おいおい、どうした?もしかして俺の攻撃を受け止めるつもりだったのか?だとしたら悪い事は言わないから止めておけ。じゃないと後悔する事になるからな!」それを聞いた後で一旦、後方に飛び退いた事で改めて相手を観察してみると今まで気付かなかったものが色々と見えてきた。まず最初に気付いた点は彼の手にあった傷だった……よく見ると手の甲の一部が鱗のように変化しており恐らくはこれが原因である可能性が高いと判断した俺は一つの仮説を立てた。

(もしかしたらこいつ、魔族なのか?だとすれば何故人間の姿のままなのかが気になるところだが……まあそれはどうでもいい。それよりも問題はあいつがどんな種族なのかだ!)その事ばかりを考えている内に痺れを切らしたのか攻撃を仕掛けて来たのでそれを全て受け流しながら反撃のチャンスを伺い続けていた。だが、やはりと言うべきか中々隙を見せないので攻めあぐねていたがそれでも諦めずに戦い続けていると遂にその時が訪れた。

相手の攻撃パターンに変化が見られた瞬間、ここしかないと判断してその攻撃を正面から受け止めると同時にそのまま押し返して体勢を崩した所に渾身の蹴りを放ったのだがそれは相手には届かなかった――というのも寸前で避けられてしまったのだがそんな事は最初から予想していた為、次の行動に移るまでの時間を作る事に成功していた。その結果、僅かな時間だが考える余裕が出来たのでどうやって倒そうか考えていると不意に脳裏にカレンの姿が浮かんできたので咄嗟に閃いた策を実行に移すべく、あえて無防備な姿を晒した直後にその場に片膝をついた。

その直後、俺が諦めたと勘違いしたのかニヤリと笑みを浮かべたままこちらに向かってきた彼だったがその途中で急停止してしまう事になった――なぜなら足元に巨大な穴が出現したからである。当然、足場を失った彼は悲鳴を上げながら真っ逆さまに落ちていく中で俺もすぐに追いかけようとしたが足元が崩れて穴に吸い込まれていく光景を目にした直後、何かに掴まる為に手を伸ばそうとしたがその前に目の前が真っ暗になった……そして意識を失う直前に誰かの話し声が聞こえた気がしたが何を話していたのかは聞き取る事が出来なかった。だが最後にこんな言葉が耳に残った。

「これは貸しだからね~」

目を覚ますと知らない場所に立っていた――周りを見渡しても誰もいない事から自分一人だという事が分かった俺はとりあえず状況を整理しようと思った矢先、背後から誰かに肩を叩かれてしまった。驚いて振り向くとそこには見知らぬ女性が立っていたので思わず身構えているとそんな俺を見てクスッと笑った後、自己紹介を始めた。「驚かせてごめんなさいね。私の名前はサテラ・アガリアネシス、よろしくね!」それを聞いて俺は彼女の正体に何となく気付いていたが敢えて気付かない振りをして自分の名前を告げた後で握手を交わした後でお互いに簡単な挨拶を済ませた後でこの場所の事を尋ねた。すると彼女は笑みを浮かべながらこんな事を口にした。

「ここは貴方達の世界とは別の世界、つまりは異世界よ。私はそこに住む一人の精霊に過ぎないわ」彼女の言葉に驚きつつも更に質問しようとしたところで彼女の方が先に口を開いた。「貴方の言いたい事は分かるけど今はその事よりも他に話すべき事があるから後にしましょう。それより私が貴方をここへ連れて来た理由は一つしかなくて、貴方がとても大きな使命を与えられた存在だという事を知ってもらいたかったからなのよ」「……どういう意味ですか?」その問いに対して首を横に振って答えようとしなかったので仕方なく引き下がる事にして詳しい話を聞く事にした。

彼女が言うには今現在、この【アルスティア】と呼ばれている世界は危機的状況に瀕しているらしく、その原因となる存在こそが他でもない俺なのだと告げられたのですぐに反論した。何故なら俺が勇者として召喚されたのはカレンに頼まれたからだと聞いたからだと言ってみたのだがどうやらそれだけではないらしく、他にも何か理由があるような言い方をした彼女に詳しく話を聞いてみるととんでもない話を聞かされる羽目になった。

その話によればかつてこの世界は二つの種族に分かれて対立していたのだという……それが天使族と呼ばれる天界の民と魔人族の魔人達であり、彼らはお互いがいがみ合いを続けていた結果、全面戦争に突入したのだそうだ。だが戦況は一向に好転する事なく悪化の一途を辿っていく一方だったので見兼ねた神がとある手段を用いて二人の力を均等に分け与え、和解するように仕向けたという……しかしそれでも収まる気配がなかった両者は今度は自分達の中から選ばれた代表が雌雄を決する事によって決着を付ける事を提案したそうでそれに同意した神によって俺とアリスが選ばれたのだそうだがそこでアリスが俺の事を気に入ってしまった事で事態は大きく変わってしまったらしい。というのも本来ならアリスではなく俺が神の代理人を務める筈だったらしいのだが俺が辞退した事で彼女と神による代理対決となったのだが結局、両者共に納得できなかったので仕方なく二人が話し合った末に決めた結論が「ならいっそのこと両方の世界を統合すればいい」という事になりそれを実現する為だけにこの世界に呼ばれたのだとか……正直、最初は信じられずにいたものの現にこうして別世界にいるので信じるしかなかったので受け入れざるを得なかった。

だが問題はここからで実際に双方の世界が統合されると互いの世界の情報が混在するようになり、次第にお互いの生活習慣や考え方などが異なっていくうちに不満を抱く者が増えていき争いが起きたのだという。その最たる例というのが魔王と魔族である。元々、天使族と魔人族はこの二種族で構成されていたらしいのだがいつしか魔王という存在が現れ始めて勢力を拡大していった事により天使族は衰退していき、ついにある問題を起こしたのがきっかけとなって大規模な戦争が起きてしまい、その際に大半の仲間を失ってしまう結果となったのだという……なので何とかして彼らを救いたいと思っていた矢先に俺が現れたので利用しようと考えて接触を図ったのだという。だが肝心の本人はこちらの事情など知った事ではないので完全に無視していたが、そんな彼女の気持ちを踏み躙るかの如く様々な嫌がらせや妨害行為を行っていたようでそれによって俺の仲間達までも巻き込んでしまい、結果的に全員の命を奪う事になったのでそれを知った時は怒りを通り越して呆れてしまった程だった……とはいえいつまでも嘆いている訳にもいかないので早速、本題に入ろうとしたがその前にある事を頼んでおいた。「一つだけ確認したいんですが、もし仮にどちらかの世界を選択した場合は二度と戻れないのでしょうか?」「残念ながらそれはないわね」その言葉を聞いて安堵したのだがそれと同時に新たな疑問が生まれた――そもそも何故、俺達を呼んだのかという理由だ……それについて問いかけてみたところ意外な答えが返ってきた。「実は今の所、どちらの世界で生きるか決めかねているのよね……だから貴方達には申し訳ないけれどしばらく時間を頂戴。勿論、元の世界に戻す事も出来ないからこのままこの世界で生きていくしかないわ」それを聞いた俺は少しだけ考えてみた後で結論を出す事にした。(恐らくどちらを選んでも後悔するだろうな)そう思いつつもこれからの事を相談する為にカレンとアリスを探す事にし、まずは近くにいた精霊の少女を連れてその場を後にした。

二人を見つけるまでに大した時間は掛からなかったが何やら話をしているようだったので割り込むのを躊躇ったので少し離れた場所で待っている間に今後の事について考え始めた。(さてどうしたものか……まさか異世界に来てしまうとは思いもしなかったがそうなるとやはり気になるのは魔族の方だな。何せあのクソ親父の娘だったなんてな!確かに顔付きなんかは少し似ている気がするんだが果たしてどうなんだろうな……よし、だったらいっその事、両方救ってやるとしようじゃないか!まあ一応はあいつの指示に従う形になる訳だがそれは癪だからな。ここは好きにやらせてもらうぜ!!)

そうと決まった後は即座に行動に移す事にした――カレン達の元に戻った直後に二人にだけ聞こえるように小声で話すと案の定、心配されたがそれも想定内だった俺は安心させるべく、笑顔でこう告げたのだった。「大丈夫、きっと上手くいくから俺を信じて欲しい!」それを聞いた二人は顔を見合わせて頷くと俺に全てを託す事にしたらしく、力強く頷いてくれた事でようやく決心がついた。そして最後に彼女達に感謝の意を伝えた後でそれぞれの目的を果たす為の行動を開始する事にした……と言っても俺にはもうこれといった用事はなかったりする。何故なら既に目的を果たしているのだから……だがその前にまだやり残した事があったので実行する前に準備を行う事にした――まずは精霊の女性に頼んでとある物を作ってもらい、次にカレン達に協力を仰いで周囲の人達を安全な場所へ避難させてもらった後、いよいよその時が訪れた……それは俺が魔王の力を手にしてから実に2度目の出来事だ。

最初に会った時は偶然だったが今回は違う……俺が自分の意思で選択した結果、生まれたものだった。その為、躊躇いは一切なく全力で解き放つ事が出来たのでその結果、瞬く間に周囲を覆い尽くす形で広がっていったかと思うとそのまま勢いが衰える事なく拡大を続けていき遂には地平線の向こう側にまで到達したのを確認して一息吐いた俺はそのまま空高くまで飛んで行き、そこから地上を見下ろした。

そこには何も存在していなかった……あるのは闇に包まれた黒い世界だけでそこには一切の光が存在していなかったのである。そう、これこそが俺の望んだ世界であり誰にも邪魔される事のない二人だけの世界に他ならなかった。だからこそ思う存分暴れ回ろうと心に決めていたのでとりあえず適当に目についた城に向かう事にした――ちなみに現在の格好は以前と同じく白一色で統一されたものだった。しかも翼だけは漆黒という違いがあったのだが、これには特に深い意味はなく単なる気紛れで選んだだけなので大して気にする必要もなかった……そして到着した城の門を破壊して中に入ってみるとそこは荒れ果てた状態で人の気配すらしなかった。どうやらここもまた魔族に支配されているようだと判断した俺は真っ先に魔王の間を目指す事にした。

途中、立ち塞がる者は皆殺しにした――といっても実際には殺していないのだがね。何故なら殺してしまっては面白くないと思ったからだ。どうせやるなら楽しみながらの方が断然良いに決まっているので敢えて生かしておく事にした――ただし例外として俺と同じ種族に限られているのだがな。そのおかげで思った以上にスムーズに進めたお陰でさほど時間も掛かる事なく辿り着いた魔王の間は予想通り、誰もいなかったがその代わりという訳ではないのだろうが城内にいる配下達は何故か俺の事を見るなり逃げ惑うばかりでまるで歯が立たなかった。だがここで逃がすつもりはないのでさっさと始末する事に決めて攻撃を仕掛けると呆気なく絶命してしまった……どうやら実力差があり過ぎたらしい。

(それにしても呆気なさ過ぎるだろ!?いや、もしかしたら俺が強くなり過ぎてしまった影響なのか?だとしてももう少し手応えのある奴はいないのかよ!!はぁ……まあいい、とにかく先へ進むとするかな)そう思った後、魔王の間を抜けた俺は次の階層へと向かうのだった。

しかしそこも似たような感じだったので少し拍子抜けした俺は若干、飽き始めながらも探索を続けるととある扉を発見したので早速、中へと入った。そこで待ち構えていたのは二人の男女であり、男の方は見るからに強そうな見た目をしており女の方も露出度が高くて派手な服装をしていたのだが、どちらも俺と目を合わせた瞬間に硬直したので構わず攻撃しようとしたら不意に背後から声を掛けられてしまった。

「――お待ちなさい!!」声の主の方へ振り返ってみるとそこにいたのは見覚えのある少女でその正体はすぐに判明した。何故なら彼女はカレンと一緒にいた女性だったからだ。彼女の姿を見た途端、俺は一気にやる気をなくしてしまった。というのも別に彼女が嫌いになった訳ではなく単純に興味を失っただけなのだがそれでも一応は敵なので警戒する素振りを見せながら声を掛けた。「一体、何のようだ?言っておくが俺はお前達とは争うつもりは無いんでね」「そんな事よりも私を無視して行くつもりですか?」そう言われて思い出した俺は改めて目の前にいる二人をまじまじと観察してみた。一人は見覚えがあったがもう一人の少女は初めて見るので念のため、鑑定魔法を掛けてみた結果、アリスという名前だと分かったので思わず驚いてしまった。何故なら彼女もまた俺の仲間だったからなのだが何故、この場にいるのか不思議に思ってしまい、その理由を尋ねてみると思わぬ答えが返ってきた――何でもカレンと行動を共にしていたが突如、現れた男に襲撃を受けて瀕死の重傷を負った挙句に拉致されて今までずっと監禁されていたらしいのだが先日になって隙を突いて逃げ出してきたそうだ……そんな話を聞いてすぐに怒りが込み上げてきたがどうにか抑え込んで詳しい事情を尋ねると予想外の内容だったため更に驚きつつも納得できた。つまりアリスは俺の身代わりとなって犠牲になったという事になるのだろう……ならば尚更の事、こいつらを生かしておく訳にはいかないと思い直した直後、突然、目の前にナイフが突き刺さったのを見て何事かと思って確認してみるとそこには剣を構えたままこちらを睨んでいるアリスの姿があった。「お忘れですか……?私の事を?」その問い掛けに対して首を横に振って答えたものの本当は覚えていたのだがあえて知らない振りをした。するとそれを見抜いていたかのように鋭い視線を向けていた。「……やはり貴方でしたか」そう言って溜め息を吐いたアリスを見た俺は内心で謝罪しつつも視線を彼女から外した次の瞬間、いきなり斬り掛かってきたので咄嗟に受け止めると押し返して反撃に転じようと一歩踏み出したのだがそれよりも早く背後に回り込まれてしまい羽交い締めをされた上に身動きが取れなくなったところで今度は首筋に刃物を当てられてしまったので観念せざるを得なかった――ちなみにカレンも同じ目にあっており、二人揃って床に伏せさせられてしまった。

そんな状態のまま暫く待っていると先程、投げ飛ばした奴が戻って来たので様子を窺ってみると彼は俺達を見て驚いた様子だったがやがて何かに納得した様子でゆっくりと近づいて来たかと思えばその場に座り込むと自己紹介を始めだした。「まさか本当に生きて帰ってくるとは思いもしなかったぞ、息子よ!」その言葉に驚愕すると同時に疑問を抱く事になった――そもそもこいつには子供なんていない筈だと思いながら見つめていると彼の方でもこちらの正体に気付いたらしく、笑みを浮かべながら声を掛けてきた。

「……ふむ、その様子だと覚えていないようだな。まあ無理はない。お前を産んだのは私が初めてだからな」それを聞いた瞬間、衝撃のあまり言葉を失ってしまった……だって考えてもみてくれ!自分が産んだ子がこんなにも化け物みたいな存在だったんだからそりゃ驚くだろう。何せ俺はてっきり普通の人間だと思っていたし実際に魔族の血を引いているとはいえ人間と殆ど変わらなかった筈なのだからだが、現実はどうかというと……確かに体は普通の人と比べて頑丈な方ではあるがそれ以外は別段、目立った特徴はなかったように思う。強いて言えば身長が少し低めくらいなものだろうか……まあ今はそれどころではなかったので一旦、置いておくとして他にも気になった点があるとすれば瞳の色が左右違う色をしていた事くらいで他には何もないように思えたが一つだけ妙な違和感を覚えたのだがそれが一体何なのかまでは分からなかったのでこれ以上、考えるのは止めた――何故なら時間だけが過ぎていき、埒が明かないと感じたからだ。だから思い切って直接、聞く事にした。「どうして俺があんたの子だと思ったんだよ?どう考えてもあり得ないだろうが!?」そう叫ぶと奴はあっさりと肯定してみせた――どうやら俺を拾った際に自分の血を飲ませた事が理由だった……それもただ単に俺の親である証明をする為にしたのではなくもっと別の意味合いもあったようだがその件については後々、説明するという事でひとまず納得した――だがそうなると新たな疑問が生まれてくる訳だが一体いつどこで俺の存在を知ったのかという事だ。

それに気になるのはあいつから微かに魔力を感じ取れるという点にあるのだがこれは気のせいなのだろうか……それとも何かの間違いなのか俺には全く分からなかったので素直に聞いてみる事にした。(うーん、どうしようかな……ここで真実を告げたとしても信じるかどうか微妙なんだよな。だけどいつまでもこうしてても仕方が無いのでここは正直に話して信じてもらうとしようかな!!)そう思った俺は意を決して話す事にした――全ては自分の意思で行った行為であり誰かに強要されたものではないと……その結果、案の定、二人は信じられないといった表情を見せていたが俺が嘘を言っている様子もないと判断したらしく、静かに耳を傾けていたので一安心した俺は話の続きを始めた。

実はこの世界とは別の世界で暮らしていた事、魔王によって滅ぼされそうになった際、勇者と名乗る奴に助けられて成り行きで仲間になって一緒に旅をして色々な出来事を経験しながら様々な国を回っていた途中でこの城に辿り着いてそこである事件をきっかけに異世界転移する力を手に入れた俺はそのまま世界を超えてこの世界にやってきた事などを全て話し終える頃にはすっかり夜が明けて太陽が昇っていた。そのせいもあって辺り一面を照らし出す眩い光のせいで目を細めていると不意に視界が歪んでいくのを感じてこのまま消えてしまうのだろうかと思ったので最後にこれだけ伝えておいた……これでもう二度と会う事はないと思うから後悔しないように精一杯生きろと。それから数秒後には完全に意識を失ってしまい、その後、目を覚ますと見知らぬ天井が見えたので体を起こしてみると近くにアリスが眠っているのが見えた。

それを見た俺はどうやら無事に帰る事が出来たんだなと安堵した後で周囲を見回しているとそこは先程までいた魔王の間でなく見慣れた光景だったのでどうやら無事に戻ってこれたようだ――もっとも既に日は昇り切っており、あれから数時間が経過している事が分かったが不思議と空腹感が無かった事に違和感を覚えながらも試しに何か口にしてみるかとベッドから出ようとしたその時、横から声が聞こえてきたので視線を向けるといつの間にか起きていたらしいアリスが俺の腕を掴んで離そうとしなかった。「……何処に行こうとしているのですか?」そう聞かれたので答えるべきか悩んだ末、ありのままの事を話したところ物凄く残念そうな表情を見せながらこう呟いた「そうですか……もう会えないかもしれないと思っていましたが、やっぱりそうだったんですね」そんな彼女に何て声を掛けていいのか分からなかった俺だったがふと頭に過ったある考えがあったので実行に移す事にした――即ち、それは彼女に魔法を使ってみて貰うというものだ。

(仮に彼女が何らかの事情であの世界に行ったままになっていた場合、きっと俺の事を探しているに違いない)そう思って試してみる事に決めたのだ俺はさっそくアリスに手を差し出すように言ってみると不思議そうな顔をしながら言われた通りにする彼女に向かって魔法を唱えた結果、予想通りの効果が出たようで彼女は困惑しながらも嬉しそうな表情でこちらを見つめてきた。それを見て確信した――どうやらアリスも同じくしてあの世界に行く事が出来るようになったという事を……つまりこれで彼女とはいつでも連絡を取り合う事が出来るようになったのだが肝心の元の世界に戻る方法は依然として分からないままだった。それでも何となくではあるがいつか戻る時が来るような気がしていたのでそれまで待つ事にした。ただしその際に一つだけ懸念すべき問題が出てきた――すなわちカレンの事についてだった。

何せ向こうは俺達がいなくなったせいで大騒ぎしているだろうから当然、心配するだろう。しかもその原因は確実に俺なので間違いなく殺される事になると思われるがその時はその時で諦めるしかないだろうと思っていた矢先、何やら外から騒がしい音が聞こえ始めたと思ったらいきなり扉が蹴破られて何者かが現れたかと思うとそこには見覚えのある人物が怒りの形相で立っていた。その顔を見て一瞬、誰だか分からなかったがすぐに思い出して声を掛けると案の定、反応があった「やっと見つけたわ!よくも私の計画を台無しにしてくれたわね!!」そんな事を言われて何の事か分からないまま呆然と立ち尽くしていると突然、殴りかかってきたので咄嗟に受け止めて反撃しようとしたら今度は蹴り飛ばされた挙句、床に叩きつけられてしまった。「――ッ!」そのあまりの衝撃の強さに声を発する事も出来なかったが辛うじて意識を保てていたお陰で気を失う事は無かった。

だからこそ必死に抵抗しようとしていたのだが体が言う事を聞かずにいると近付いてきたアリスが心配そうに声をかけてきた「だ、大丈夫ですか?」それに対して大丈夫と答えたかったのだが何故か声が出せなかった為、仕方なく頷いて答えた直後、カレンが再び襲い掛かって来た。さすがにこのままでは不味いと思って【身体強化】を使おうとしたのだがその前にまたしても乱入者が現れてカレンを止めると同時にこちらへ手を差し伸べてきたのでそれを掴んで起き上がるとその人物を見て思わず叫んでしまった「何であんたがここに居るんだよ!?」そう問い掛けた瞬間、そいつは溜め息を吐きながらやれやれといった態度でこう告げた「……ったく相変わらず鈍いやつだな」そう言われて気付いた――目の前に立っている人物こそ元クラスメイトの田中正也だと。

彼の名前は田中正男というありふれた名前だが見た目はお世辞にも格好いいとは言えないくらいにブサイクなのだが内面は非常に真面目で優しく困っている人がいたら放っておけないタイプの人間だ。そんな彼とは特に親しくしていた訳でもないのだが中学二年生の時に席が隣同士になった事がきっかけで少しずつ話すようになり次第に友達と呼べる関係になっていったが高校に進学してからは一切関わり合いが無くなったのでそれっきりだと思っていたのだがどうやら違っていたらしく彼がここにいる理由は恐らくだが俺と全く同じで巻き込まれたのだろうと勝手に推測してみた。

というのも彼のレベルは現在、45となっているのでかなり強くなっている上に職業の欄には聖騎士と表示されていたので間違いないだろうと思えたので納得していると急に彼から謝罪された。どうして謝られているのか理解出来なかったので理由を聞いてみるとなんと彼は俺達が消えた原因を知っているというのだ――それを聞いた途端、驚いた俺は彼に詳しく話を聞く事にした。「まず初めに言わせて貰うが今回の事は俺も一切、関わってはいないし詳しい事情については分からないままだ。何故なら俺にはお前達が消えた瞬間までの記憶しか無いからだ」そんな話を聞いて首を傾げてしまった俺はどういう事なのか説明を求めたら驚くべき事実が判明したので驚愕する事になった。何でもあの時、教室にいたのは俺とアリスの二人だけだったらしく他の奴らの姿はなかったというのだ。それを知った瞬間、背筋に冷たいものが走るのを感じた。何故ならその理由というのがどう考えても一つしかないからだ――まさかと思うがカレンの奴の仕業なのではないかと疑いを持ち始めるのだった。だがしかし何故、俺達を狙う必要があったのかと考えた時に浮かんだ答えとして考えられるのは俺達が勇者である可能性が高いからではないかと推測したので一応、聞いてみる事にした――もし本当にそうだとしたら非常にマズい状況にある訳で何とかして対策を考えなくてはならないのだが果たしてどうしたものか……するとここでようやく口を開いた田中の口から驚きの発言を聞く事になる。

なんと彼もまた魔王を倒した張本人であるという事実を知らされた俺は思わず驚いてしまった――なぜならこれまでの流れでいくと俺が倒した事になっている筈なのだから一体どうなっているんだと考えていたら不意に笑い声が聞こえてきたかと思えばいつの間にか俺の隣にいた奴が話し掛けてきた「……どうやらその様子だとまだ記憶が戻っていないようだな」そんな事を言ってきたものだから意味が分からず首を傾げると今度は逆隣りに立っていた女からも同じ台詞が聞こえてきたので益々、混乱する羽目になった。

そんな俺達の姿を見た彼らは互いに顔を見合わせると何かを相談し始めた。その内容について気になるものの口を挟む事が出来ないまましばらく様子を眺めていると話がまとまったらしく、こちらを向いてきたので一体何を言うつもりなのかと思っていると最初に話し始めたのは女の方で名前を清水美咲といい、職業は魔導士であるらしい。次に話し始めた男は田端修平という名前で職業は勇者だそうだ。

この情報を聞いた時点で彼らの言っている事が嘘だと分かった俺は二人を交互に見つめた後でもう一度、尋ねてみた。「今、聞いた内容をそのまま受け取るのなら君達が魔王を倒してくれたという事でいいんだよね?」そう言うと二人は頷きつつ返事をした後、こちらの様子を伺うようにしていたので試しに聞いて見ることにした「……でもさ、仮にそれが本当だとしてもそれならなんでわざわざこんな所に連れて来たの?それにアリスもだけど皆の姿が見当たらないのはどうしてかな?」その問い掛けに対して二人が答えた内容はとても信じられるような内容ではなく俄かには信じられなかった……というのも彼らはここではない別世界に行っていたというのだ――それも既に十回以上も繰り返しているとの事だった。

そんな話を聞いた俺は思わず絶句してしまったのだがすぐに気を取り直して二人にこう尋ねた「なら、聞くけど魔王は本当に倒されたんだよな?もし本当なら証拠を見せてくれないか?」そう言うと二人は顔を見合わせてから頷くと何かを取り出すような動作を始めた。そして次の瞬間、それぞれの手には一冊の本らしきものがあり、それをこちらに手渡してきたので開いて読んでみると確かに魔王との戦いの記録のようなものが記されていた。

それを見た俺は嘘じゃないと確信したもののそれと同時に妙な胸騒ぎを覚え始めた……というのもこれまでに聞いた話や今の行動などから察するに彼らが行っている事がどうにも正しいとは思えない上に何よりあの場にはアリスがいたはずで彼女の姿がどこにも見えないという事はつまりそういう事なのだ。そう思った直後、俺はある事を確信した――それはあの場に彼女がいた以上、その戦いに参加していた可能性は非常に高いので恐らく何らかの理由によって戦闘不能に陥ったのではないかと思った。そうなると残された道はたった一つしかなくて、一刻も早く元の世界に戻って彼女を救うしかないと思い至った結果、再び尋ねる事にした。

「なあ、悪いんだけど俺にかけたっていう呪いみたいな魔法を解いてはくれないだろうか?実はその所為で帰る事が出来ないんだ……」そう伝えると何故か二人とも難しい顔を浮かべて考え込んでしまったので俺は内心、苛立っていた。というのもここまで来ても尚、躊躇う理由が分からなかったのだ。

ただ、そのおかげで分かった事がある――これはあくまでも憶測に過ぎないがもしかすると彼らには出来ない事なのではないかという事だ。そもそも仮に出来るのであれば最初からそうしている筈だという結論に至った俺は意を決して言ってみる事にした。

「悪いけど俺にはもう時間がないんだよ!こうしていられるのも残り僅かな時間でいつ消えるかも分からない状態だしだから頼むよ!」そう告げるなり深々と頭を下げてお願いしてみると最初は戸惑っていた彼らだったがすぐに決心した様子で頷いてくれたのを見て俺はホッと一安心したところでさっそく実行に移す為に部屋を後にする事にした――無論、アリスも一緒に連れていく事に決めていたので彼女に声を掛けた後で連れ出した。すると案の定、付いて来ようとしたのだがそれを強引に引き止めた後で俺は【転送】を使った直後に意識を失った――その際、誰かが必死に叫ぶ声が聞こえたような気がしたが何を言っているのか聞き取れなかった事からきっと気のせいだろうと言い聞かせるのだった。その後、気が付いた時には例の神殿へと戻って来ていて目の前にはカレンの姿があった。それを確認した俺はとりあえず話をしてみる事にしたのだが向こうは俺の話を聞く気は無いようで突然、殴り掛かってきた。慌てて回避しようとしたものの反応が少し遅れてしまいモロに喰らってしまったのでその場に蹲っていると今度は蹴りを入れられて床を転がり回った末に壁に叩きつけられた挙句、追い打ちをかけるかのように頭を踏みつけられたので苦痛のあまり悲鳴を上げていた。

その後もしばらくの間、暴行を受けた挙げ句、飽きたのかようやく解放してくれたかと思うと最後にとんでもない事を言い出した「本当はこんな事をしたくなかったのよ。でもあんたが素直に従ってくれないからこうなっただけであって本来なら私一人で充分なんだから」そう言いながら睨みつけて来た。その言葉から推測する限りだとやはり彼女も記憶があるらしく恐らく俺と同じく巻き添えを食らってここに来たと思われる。だからこそここは冷静に話をするべきだろうと思って話し掛けようとした瞬間、彼女は溜め息を吐くと「はあ、もういいわ。どうせあんたなんかいてもいなくても同じな訳だし好きにしてちょうだい」そう言ってどこかへ立ち去ろうとしたので咄嗟に呼び止めた。

すると彼女は面倒臭そうな態度で振り返って来たものの一応、立ち止まってくれる事には成功したのですかさず謝罪した後で改めて質問してみたのだが結果は予想に反してノーリアクションだった――それどころか無言のまま立ち去る姿を見て俺は内心で焦っていた。というのもこのままだと最悪、彼女と敵対しなければならなくなるからだ。とはいえいくら考えてみても今の状況では打つ手など思いつかなかったので大人しく諦めるしかなかった……と思っていたら背後から何やら音が聞こえてきた為、振り向くとそこにはアリスが立っていた。しかもどういうわけか全身傷だらけになっていて特に腕に至っては骨折でもしているのかぶらりと力なく垂れさがっていたが、そんな事よりも何よりも気になったのは彼女の顔である――何故なら今にも泣き出しそうなくらいに涙をボロボロと流しており見ているこっちが痛々しい気分になった程だ。

そんな状態なので声を掛けようとしたがそれより先にアリスの方から声を掛けてきた「……ま、真樹様」それを聞いた俺は返事をしようとするも上手く声が出せなかった。だがそれでもなんとか喋ろうとすると彼女が先に口を開いて喋り始めた「私はこれまでずっとあなたの事をお慕いしておりました」その言葉を聞き、思わず胸が高鳴るのを感じていた。

だがしかし次に放たれた言葉によって一気に冷めてしまった。というのもその内容が『愛している』とかではなく単に好意を寄せている程度の意味合いだったと分かったからだ――とはいえそんな事をいきなり言われても非常に困るのは確かでありましてや今の俺にとっては邪魔でしかなく出来れば放っておいて欲しいというのが本音だったので適当にあしらおうとしていた。

するとここで今度は田中達がやって来たかと思えば全員が同じような事を言い出して来る始末で余計に訳が分からなくなった俺は戸惑いながらもこう聞き返した「ちょっと待ってくれよ……一体なんの話をしているんだ?今はそれよりもやらなきゃならない事があるだろ!?」すると彼らは一斉に黙り込んでしまい何とも言えない雰囲気になってしまった。

そんな状況の中で俺はどうするべきかを考えていたところ、突如としてどこからか声が聞こえてきたので驚いて周囲を見回しているとそれが俺の脳内に直接語り掛けてきているのだという事に気付くと同時にこの現象に既視感を覚えた。ただし前回とは状況が違い、今回の場合に限って言えば誰の声なのかは既に分かっていてその人物こそ俺が探していた人物であるアリスだった。

そこでまずは確認の為に彼女を呼んでみた所、普通に返事があったので間違いなく本人である事が分かると安心していると不意に視界が真っ白になり何も見えなくなってしまった。やがて光が消え去るとそこは最初にいた場所と同じ場所であり相変わらず俺だけしかいなかったがその代わりに別の人物が一人立っていた。その相手は言うまでもなくカレンなのだが何故か彼女はとても悲しそうな表情を浮かべながらこちらを見た後、すぐに俯いてしまった……どうやら今の彼女には何か事情があるようだと思った直後、徐に顔を上げたかと思えば再び喋り始めた。

「……ごめんなさい。今の私に言える事はこれくらいしか無くて、それに私がここにいる理由すらも思い出せないからどうしていいのか分からないの」そんな台詞を聞いた俺はすぐに彼女が何を言わんとしているかを察した。というのもこれまでに見てきた彼女達の記憶を思い返す限りにおいて明らかに何か重要なものを抱え込んでいたとしか思えないからである。実際、他の連中がそうだったように魔王を倒した後の話が全く出てこなかっただけでなくそもそも勇者一行に加わる事自体、あり得ない話で本来ならもっと別の場所にいるべき人達であるのは明らかだと言えるだろう。

そんな話を聞いた後で改めてカレンの姿を眺めてみたところ、これまでの二人と違って外見上は何も変わってはいないのだが一つだけ変化があったのに気付いた――それは表情だった。具体的には目が虚ろでまるで人形のような作り物めいた感じがするという具合だったのだが何故そう思ったのかという理由までは分からなかったので首を傾げていると急にカレンの姿が視界の中から消えた。それと同時に周囲の風景までもが一変してしまい辺りを見回すとそこに映っていたのは俺が初めてこの異世界へと降り立った際に見た神殿そのものだったがただ一つ違う点があるとすればそれはここが地下だという事だ。その証拠に見上げてみるとそこには見覚えのある巨大な時計が設置されておりその針が指す時刻は午前11時58分となっていた。それを見て俺はすぐにある考えに至った。つまり、ここから抜け出すには残り時間以内に元の世界へ戻る必要がありそれを達成しないと永久に閉じ込められてしまう事になると考えた瞬間、脳裏に浮かんだのは他でもないカレンの顔だったが同時にそれが失敗してしまった事にも気付いてしまうのだった。

結局、彼女の望みを聞く事が出来なかったどころか助ける事も出来ずにいた上に結果的には彼女まで巻き添えにしてしまう形となってしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになっているとそこへ再び誰かの声が聞こえてきた。それも先程の声とは異なりどこか聞き覚えのある声で誰なのかを確認するべく振り向いてみるとそこにいたのはカレンだったが先程とは違って様子が違っていた。

具体的に言うと今現在の見た目は幼女になっており服装の方は白いドレスといった格好でいかにもお姫様といった感じの格好をしておりそれを見た俺は思わず見惚れてしまっていたのだが当の本人は特に気にした様子も無く平然と話し掛けてきた。その為、慌てて我に返った俺は彼女に一体何者なのか尋ねると驚くべき答えが返ってきた。というのも彼女は何と、女神であると名乗ったのだ。それを聞いて最初、冗談かと思ったがそれにしては色々と納得できる部分が多く、加えて神というだけあってその力は圧倒的でそれこそ魔王すら容易く倒す事が可能らしい――もっともそこまでの力を持つのなら何故、自分でやらないのかと聞くと「確かにそれ相応の力は持っているけれど私の場合はあくまで世界を維持する為に存在するだけでそれ以外の目的はないの。それに元々、人間という存在はこの世界には必要のない存在だと認識していたからね」と言って微笑んだ。それを聞いた俺はどういう事か尋ねた。

すると彼女が言うには本来、人間は存在するべきではないものであり本来なら存在してはならない異物であるという事を聞かされた。ただ、そうなると疑問が残る事になるのでそれについて尋ねようとした矢先、突然、彼女が「そういえばさっき、あなたのお友達に会ったわよ?」と言いながら微笑んできたので思わず驚いた表情を浮かべた。すると彼女は「そんなに驚かなくても大丈夫よ?私はあくまでもここに迷い込んだ人間を元の世界へ戻す手伝いをするだけだから直接、手を貸す事はないのよ」そう言って来たので俺は安心した一方で少しだけ残念な気持ちもあった――というのも先程までの出来事を考えるとあの空間は現実ではありえないものだっただけにもしかしたら実際にあった出来事を追体験させられたのではないかと思ったのだ。とはいえそうだとしたらなぜあんな内容の夢を見なければならなかったのか全く分からず困惑していると、そこへ今度は女神様が「一つ聞いてもいいかしら?」と言いながらこちらを見つめてきた。それに対し頷くと「あなたはこれからどうするの?」と言われたので正直に自分の想いをそのまま伝えた。するとそれを聞いた彼女(女神様と呼ぶのも変だと思った為)はクスクスと笑った後に俺に言った「なら私と一緒に来なさい。あなたが本当に求めているモノを与えてあげる代わりにあなたには私の力になってもらうけど構わないわよね?」そう言われて即座に頷き返したものの最後の方は何を言っているのかさっぱり理解出来なかったのだが聞き返す暇など無く彼女は続けてこう告げてきた「それじゃ早速だけど行きましょうか」そう言った直後に足元が光り輝いたかと思うと徐々に浮遊感に襲われていって気付いた時には目の前が真っ白になっていた。そして次の瞬間、目を開けるとそこはさっきまでと同じ光景ではあったがよく見ると微妙に違っている事に気付き思わず目を見開いてしまった――何故なら今まで無かった筈のものが存在していたからだ。その対象とは……そう、俺を含む仲間達である! それを見て驚きを隠せずにいた俺はふとある事に気付いて振り返ってみたのだがそこには案の定、誰も居なかったがその代わりにある事に気が付いた。それは時計の文字盤にあった。実はついさっきまでは文字盤なんて無かった筈なのにいつの間にか出現していたのだ。ちなみに今の時間は午前0時2分であり日付が変わった事が確認出来たところでようやくホッと胸を撫で下ろすことが出来た――とはいえまだ気を抜くわけにはいかないのでまずは他のメンバーの様子を見ておこうと視線を下に向けるも何故か誰の姿もなかった……おかしいな?と思いつつよく見てみると足元に何やら倒れている姿があったので近付いて確認して見るとそれは田中達だった。どうやら俺がアリスと話している間にここへ来たようで今は全員がぐっすり眠っていた。……まあ、今はとりあえず彼らを放っておいても問題は無いので一先ず置いておくとして次は周囲を見てみる事に決めて見渡してみると少し離れた所に俺達がいた建物があり、そこへ向かう事にした。というのも他に見る所が無かったというのが大きいがそれ以上に一刻も早くこの空間から出る必要が出てきたからである。なぜなら先程、確認した通り、時間が0時2分と表示されており残り時間も既に12時間を切ってしまっているからだ。このまま何もせずにいたら俺達は全滅する恐れがあったので何としてもその前にここを出て次の街を目指す必要があったのである。

それから移動を開始した俺は建物の入口から中に入るとそのまま廊下を歩いて行き階段を上がって二階へ移動して探索を続ける事にした。まずはこの建物がどんな構造になっているのかを知る必要があると思い一通り歩き回った後、食堂や浴室にトイレなどといった生活に必要な部屋を全て確認してみた結果、ここは宿屋である事が判明した。しかもかなり立派な造りをしていて一見するとただの家のようにしか見えないくらいの広さがあった事から恐らく相当な高級宿だと分かった――ただし一階に関しては完全に無人だったのでもしかすると空き家だったのかもしれないがそれでもこれだけ大きな建物の所有者なら相当なお金持ちなのだろうと思って調べてみるととんでもない事に気が付いてしまった。

というのも……なんとここは俺が泊まったホテルだったのだ。とはいっても別に自慢出来るほどのものでもないのでスルーしようとしたその時、俺はある事に気付いた。それはこのホテルの経営者が誰なのかという事である。もちろん、名前を見れば分かるだろうが念のため、確認の為に部屋の入口付近に置かれた案内板を確認してみるとやはり思った通りでこの場所のオーナーが『鈴木雅之』と記されていた……どうやらこの名前は彼の本名だったようだが正直言ってどうでも良かった。

というのも彼が一体いつからこの宿を経営しているのか分からなかったからである。何せ彼に関しての情報が全くもって不明なのだから仕方ないと言えばそうなのだが仮に知っていたとしても今の俺にはどうでもいい情報であったのは間違いない。なにしろ彼は俺の父親であり、かつこの異世界にいる魔王なのだから。そんな事を考えつつ改めて室内を見渡してみると豪華な装飾の施された壁や床が目に入った。また天井に設置された巨大なシャンデリア等を見るとそれだけで目がチカチカしてくるほどだったのだが、それと同時にここが間違いなく現実世界ではないと再認識させるのだった。しかし同時に何故、こんな事になったのか不思議でしょうがなかった。だってそうだろう?まさか実の父親に殺されて死後の世界(?)へ飛ばされるなんて普通、考える訳がないだろう。だが実際にこうして飛ばされた以上、事実を受け入れるしかなかった。なので俺は気持ちを切り替えた後、次に外へ出る事にした。

それから俺はまず、外の状況を確認する為に正面玄関へと向かったのだが途中、窓から見えた景色があまりにも衝撃的だったので思わず固まってしまった。何故なら目の前に広がっていたのは夜にも拘わらず、大勢の人達によって賑わう街並みだったからである――しかもその数は優に万を超えているだろうと思われた。それだけの数の人間が集まる場所といえば一つしか思い浮かばなかった俺はすぐにその場所へ向かう事にしたのだがここで困った事態に直面してしまった。というのも現在の俺は幼女の外見をしていたので当然ながら一人ではまともに歩く事すら出来なかったのだ。そこで仕方なく誰かに頼もうとした直後、運良く誰かが近くを通り掛かったので声を掛けたところ快く引き受けてくれたばかりか親切にもおんぶしてくれたのでお礼を言うのだった。ちなみに声を掛けてきた相手についてだが、それは他でもない親父――つまり魔王本人だったのである。その為、最初は警戒していたが「大丈夫だ」と言われ、背中を押されると不思議と悪い人じゃないような気がしてきたので言われた通りに身を委ねる事にした。するとそれを確認した後でゆっくり歩き出した事で揺れ具合は凄かったが安定感が凄く、とても安心できる感じがしたので思わず欠伸をした後、眠りに就くのだった……。

「……きて……起きて下さい」

そんな声が遠くから聞こえたのと同時に体を揺すられるのを感じた私は少しずつ意識を覚醒させていくと目の前に見覚えのある女性の姿が視界に映った為、誰なのか尋ねようとしたところで不意に体が重くなったような感じがしたので違和感を覚えつつも再度、起き上がろうとするものの上手く力が入らないせいで再びベッドに倒れてしまうとその様子を見ていた彼女が微笑みながら言った。

「まだ本調子ではないのでしょうから無理しない方がいいですよ?」

「すみません……」

彼女の言葉に謝罪しつつ体を起こそうとするも思うようにいかない状態のまましばらく過ごしているとやがて部屋のドアがノックされる音が聞こえたかと思うと聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「……失礼するよ?」

そう言って入ってきたのは紛れもなく私だった――ただその姿を目にした私は思わず絶句してしまうもそんな私に近付いてきた私が言った。

「おはよう♪」笑顔で挨拶をしてくる私に対し、慌てて挨拶を返そうとすると突然、私の口が開かなくなった。するとその様子を見た私が笑みを浮かべたままこう言った。

「ごめんね……今だけ静かにしてもらうね?」

その直後、今度は体の至る所に痛みを感じた。そのせいか表情を歪ませる私に対して目の前にいる私が笑みを浮かべながら近付いて来るのを見た私は心の中で必死に助けを求めるもその声は当然の如く誰にも届く事はなかった――そして遂には私の目の前で立ち止まった私に向かって手を伸ばしながら口を開いた。

「――おやすみ」その瞬間、目の前が真っ暗になり何も見えなくなった私はそのまま深い眠りに落ちていった……。

「はぁ……やっと大人しくなったわね」そう言いながら溜息を吐くもう一人の私を見つめながらアリスが尋ねた。

「ねえ、本当にこれで大丈夫なの?」

それに対し私は笑みを浮かべてこう答えた。

「ええ、大丈夫よ。後は意識が目覚めるのを待っている間に私達の仕事に取り掛かりましょう」そう言った直後、私達は部屋から出て一階へと降りていった。その後、カウンターにいた女性に話し掛けたところ驚いた表情で理由を尋ねられたので事情を話すと奥の部屋に案内された私達はベッドの前で待機しているとしばらくして目を覚ました様子の女性がゆっくりと起き上がってきたので傍にいた私が声を掛けてみた。

「……あなたは誰ですか?」虚ろな目をした状態で尋ねてくる彼女に対し、私は優しい口調で答える。

「落ち着いてください。あなたの娘さんは無事に助けましたよ」それを聞いた瞬間、彼女は目に涙を浮かべながらもお礼を言ってきたので軽く受け流した後に続けてこう言った。

「さあ、そろそろ行きましょうか」そう言うと同時に私達は彼女に肩を貸して部屋を後にした……。

それから私達は建物を出ると人目に付かない場所に移動して転移魔法の魔法陣を展開すると全員を乗せてから起動させた。その結果、次の瞬間には一瞬にして目的地に到着したのだがその様子を見ていた女性は目を見開いて驚く中、私達は早速、次の作業へと移った為、声を掛ける。

「では始めますね?」その言葉に頷いたのを見て微笑んだ後、手をかざして魔法を発動すると光に包まれている人物の中から1人の男性が現れるもその姿はまさに死んだ時と同じだった為、思わず目を背けてしまう私であったが他の皆も同じなのか辛そうな表情を見せる。

無理もない……何しろ自分達のリーダーである彼が無残な姿になって目の前に現れたのだからショックを覚えるのも無理はない話なのだが当の本人はその事についてはあまり気にしてないらしく逆に心配そうな様子で話しかけてきた。

「大丈夫か?もしかして俺の姿を見てショックを受けているのか?」そう聞かれた私はすぐに否定するが正直言って複雑な気持ちでいっぱいだった……何故なら今の彼は全身血だらけだったからだ。その理由を聞くと先程、自分が殺された時についたものである事を知らされたので納得する一方で気になる事が幾つかあったので質問をしてみると意外な事にあっさりと教えてくれただけでなく自分の生い立ちについても話してくれた。それによると彼――いや、魔王は自分の父親の事を嫌っていたらしい。何でも父親のせいで幼い頃から散々酷い目に遭わされていたからだそうでしかも母親は幼い頃に病気で亡くなってしまった上に兄弟もいなかった事から孤独の中で育った結果、他人を信頼する事ができなくなってしまったそうだ。

その為、友達と呼べるような相手は誰もおらず、ずっと独りで生きてきたそうだがそんな生活に変化が訪れる事となったのは魔王が10歳の時だった――というのも母親との思い出がある街を訪れた際に出会った少女との交流がきっかけであり、彼女とは年が近い事もあり次第に親しくなっていったのだという。そして2人で行動するうちに互いに惹かれ合うようになった彼らはある日、将来を約束した仲にまで発展するのだがそれを知った父親によって引き離されてしまい、以来、彼は母親の故郷であるこの国に移り住むようになるのだった……だがそれはあくまで表向きの話であり実際には父親は彼に魔王の力を継承してもらう為にあえて離れた街に行かせたという訳だ。そして数年後、魔王の力を引き継いだ彼は力を制御する事が出来ず暴走させてしまうのだがこの時はまだ自覚していなかったので何故、そうなったのか分からなかったが後に理解したらしい。どうやらこれは父親が仕掛けた罠だったのだ――何故ならこのタイミングで自分に攻撃を仕掛ければ必然的に仲間や友人達に危害を加える事になると知っていたからこその行動だったのだろう……その証拠に彼の元に駆けつけてきた者達は全て死亡しており唯一生き残っていたのが幼馴染の少女だけだったという話だ。それを聞いて言葉を失う私とは反対に淡々と語る彼の表情はどこか哀しげな雰囲気を漂わせていた。というのも全てが終わった後、意識を取り戻した彼の元にやってきたのがかつて共に過ごしていた仲間達だった――その中には恋人もいたらしく、全員が泣きながら抱き着いてきたという話を聞いて思わず涙を流してしまう。

それを見た彼が慌てて慰めているとその様子を見守っていた他のメンバー達が微笑ましそうに見つめていたのだがその表情はとても嬉しそうだった。それから数日が経過した頃、彼から事情を聞いた私達は全員で話し合った結果、今後についての話し合いを始めたところで意見を出し合った結果、今後の方針を決めた後、行動を開始したのだった――魔王の生まれ変わりを探す旅を始める事を。

こうして俺達は新たなメンバーを加えて更に強力なパーティとなると共に異世界での目的を見出すのだった……

「――という感じかな?それでこれがその時の写真なんだけれど見てくれるかい?」そう言いながらスマホを取り出してある写真を表示して見せた瞬間、俺達の間に静寂が流れたかと思うと最初に声を上げたのは俺の妹である莉緒だった。

「お兄ちゃんってこんな綺麗な人だったんだね♪何か女として負けた気分だよ……」そう言ってガックリ項垂れる彼女の様子を見た美羽と楓ちゃんが顔を見合わせて苦笑しているとそれを聞いていたアリスが俺の腕に抱き着きながら問い掛けてきた。

「ところでどうして勇者様はこんなにも若返ってしまったのかしら?」その質問を受けた俺は少し悩んだ末にこう答えた。

「恐らくだけど魂だけがこの世界にやって来た影響だと思うよ」するとその言葉を聞いたアリスは目を輝かせながら言った。

「まあ、そうなの!?それならきっと向こうの世界にいる私の体にも同じような現象が起きているのかもしれないわね!」それを聞いた俺はすぐに納得したものの他の女性陣達はいまいち理解出来ていない様子だったので説明していく事にした。というのも俺がこの世界に来た理由こそが彼女が言うように現実世界にある彼女の体に異変が起きたからである……というより俺自身もそうだったし何より彼女と一緒に暮らしているマユナも同様に年齢を重ねていないという事実があるのだから間違いないだろう……だがしかし一つだけ不可解な点もあったりする。それはどうやってこの世界にやってきたかについてだ。何故なら本来なら俺を含めてここにいるメンバー全員はあの事故で死ぬはずだったのだが気が付けば見知らぬ土地で目が覚めたのだから驚きである。それに気が付いた時点でここが元の世界とは違う事を察した俺はひとまず周囲を見渡しながら確認してみたがやはり知らない場所なのでどうしたものかと考えていたところ突然、頭の中に声が響いてきたのだ。

(こんにちは……勇者様)

(え……?あ、はい、どうもです……)突然の事に困惑しつつも返事を返すと次に聞こえた言葉に思わず絶句してしまう。何故ならそれが俺をこの世界に導いた女神様のものだったからだ。

その話を詳しく聞くとどうやら彼女はこの世界の管理者であり全ての命を管理する立場にある存在なのだが管理している内に人間達の間で流行っている遊びに興味を持つようになり自分もやってみたくなった為、今回の事件を引き起こしたのだという事が判明した瞬間、俺は唖然とした表情で呟くのだった。

(何をやっているんですか、あなたは?)呆れた様子で話す俺に慌てた様子を見せた女神だったが気を取り直したのか改めて話を続けていく。ちなみにその内容は先程、聞いたばかりの話でまさか本当に起きるとは夢にも思わなかったので正直言って信じられなかったというのが本音であった。そもそも神様が人間に成り済ましてゲームに参加するなど前代未聞だし普通に考えればあり得ない話だと思うのだが仮にも神という立場なのだからこれくらいの事をやっても不思議ではないかもしれない。

そんな事を考えつつ話を聞いた上でこれからの事についても話し合う中でとりあえず今は情報収集をしながらゆっくり休む必要があるという事で話がまとまった事で今日はここで解散する事になったのだがその前に一つ気になった事があったので尋ねてみた。

(そう言えばさっき言っていた“ジャンル”って一体何なんですか?それともう一つ、“チート能力”って何でしょうか?)

そう尋ねると再び慌てふためく女神に対して疑問を抱く中、代わりに美羽が質問に答えてくれた。

「チート能力というのはつまり特別な能力を授けるという意味よ。例えば私ならどんな魔法でも自由に使える事や相手のスキルをコピーできる事が該当するのだけれど他には特定の条件で発動するタイプもあるのよ。

それから“チート”というのは簡単に言えばズルみたいなものね……要はその人が元々、持っている力を遥かに超える能力の事を指すの。ただし大抵の場合はペナルティーが発生するけど中にはデメリット無しで使用できる物も存在するそうよ。だから使い方次第では何でもありな状態なのよ……もちろん使いすぎればいずれ罰を受ける事になるでしょうけどね?」

そう教えてくれた後で苦笑する彼女に釣られて俺も苦笑しているとそこで思い出したかのように尋ねてきた。

「……ところであなたの名前は何ていうのかしら?」

(名前ですか?……俺の名前は佐藤雄介と言いますが)

そう答えると彼女は微笑みながら言った。

「じゃあこれからは佐藤雄介君と呼ばせてもらうわ。これからも宜しくお願いね」

(はい、こちらこそ宜しくお願いします)そう答えながら頭を下げた後で別れの挨拶を交わした俺達は転移魔法で自分の部屋へと戻ってきた後、ベッドに横になりながら考える――一体、自分はこの世界でどういった行動をするべきなのかを……

翌日から俺達による新たな冒険が始まるのだった。まず最初は情報を集める事を目的として手分けして聞き込み調査を行った結果、様々な情報を手に入れる事が出来たのでそれらを元に今後の方針を固めていく事となった。そしてその結果、決まった事が大きく分けて二つある――まずは一つ目の“異世界から来た人達を全員探し出して保護する”というものだ。これには勿論、理由があった……それは以前、俺とアリスの2人で倒した魔王が残したメッセージの内容にあった『この世界に生きる者は全て滅ぶ』という言葉がずっと引っ掛かっていたからだ。

何故ならもしそれが本当だとしたら今頃、他の皆がどうなっているのか全く分からない状態で不安を募らせながらも生きている可能性があると考えたからだ。そこで仲間達にはもしもの場合に備えて戦える力を身につける事に専念するよう告げた。その為、各自は修行を開始する事になったのだが肝心の俺自身については未だに何の手がかりも見つける事は出来なかったものの一つだけ手掛かりと言えるものがあった――それは写真の中に写っていた人物だ。何故なら彼の姿を見た時に不思議と懐かしさを感じたのと同時に何か大事なものを思い出せそうな気がしたのだ……だが結局、思い出すには至らなかったが。

こうして始まった旅は思っていた以上に順調に進み始めた一方でもう一つの目的は元の世界へ帰還する方法を探し当てる事なのだがそれについては難航していた。というのもこれまで色々な場所を巡り歩いて様々な文献を調べたり街の人達に尋ねたりしたもののこれといった情報は得られなかったからだ……それでも諦めずに捜索を続けているとある日、立ち寄った街で一人の少女が泣いている姿を目にした俺達は思わず足を止めてしまうのだった――何故ならその子は前に俺が助け出した少女だったからである。そんな事情もあって声を掛けた俺達は事情を聞いてみる事にした――すると少女は話してくれた。実は彼女には親と呼べる人がおらずずっと孤独の中で暮らしてきた事を……

その話を聞いた瞬間、俺は何とも言えない気持ちになったのと同時に彼女の気持ちを理解した上で優しく抱き締めながら告げる。

「大丈夫……もう俺達がついているから心配しないでいいよ?」その言葉に反応するようにして泣きながら頷く彼女を見て思った……きっとこの娘も自分と同じなのだろう、と。だからこそ放って置けなかったのである。そして暫くして落ち着いた頃を見計らって話し掛けると今度は自分の口から自己紹介を始めた。それによると彼女はこの街に住んでいるらしく年齢は16歳なのだそうだ。また見た目通りまだ子供っぽいところはあるが頭の良い方なので本が好きで暇さえあれば読書をしているという話を聞かされた時には驚きを隠せずにいたがすぐに納得する事になった。というのも今いる場所について尋ねられた際、真っ先に出てきた言葉が書店の名前だったからだ。何でも幼い頃から通っている馴染みの店でお小遣いが入った日などは足繁く通うのだという話を聞けて内心、ホッとするのだった――何せ彼女の服装はあまりにもボロボロだったのでもしやと思って聞いてみたのだがどうやら正解だったようだ。

それから一緒に行動する事にした俺達は街中で買い物をしたり食事をしたりしながら過ごした。その際、彼女が持っていた本が気になりつつも購入するとそれを大事そうに抱えながら嬉しそうな表情を浮かべる様子を見ていた俺は思わず笑みを浮かべていた。何故なら今までの人生において誰かを楽しませるような行動を取った記憶が無かったので新鮮な気持ちで過ごせたのが良かったのだろう――それに何よりもこうして誰かと楽しく会話をしたのは久しぶりだったからである。そうして充実した一日を過ごした俺達は宿屋に戻る途中で別れるとその日は就寝したのだった……翌朝、目が覚めると早速、着替えた後で身支度を済ませると部屋を出るなり先に食堂へ向かった。ちなみに昨夜のうちに部屋の鍵は返してあるので何も問題は無い……というのも万が一、何かあった際に困るからである。

そんな事を考えながら食堂へ向かうとそこには既に全員が揃っていたのですぐに空いている席に座ると朝食を食べ始める。その後、今日の予定について話し合っていると不意に楓ちゃんから提案があった。その内容とは最初に出会った場所へ行ってみたいというものだったので皆もその意見に賛成したので向かう事に決まったところで早速、出発の準備をしてから街を出た俺は街道に沿って移動を続けていった――その間、他愛のない会話を交わしながら歩き続ける中で俺は改めて考えてみる。この世界に来てからの生活を振り返ってみて気が付いた事といえば、やはり自分自身の年齢もだがそれ以外の変化として身体能力が飛躍的に向上していた点にあるだろう。これは恐らく異世界で暮らすようになった影響なのかもしれないがそれにしたってここまで変わるものなのかと思わずにはいられなかった。なぜなら現実世界では考えられない程、跳躍力が上がっておりその気になれば木の枝に飛び移る事も可能なくらいだったのだから驚きもするだろう。ちなみに現在の能力は以下の通りとなる。【名前】ユウスケ・サトウ 【種族】

人間 【性別】

男 【年齢】

17 【レベル】

3 【ランク】

SSS 【体力】

860 【魔力】

690 【攻撃】

600 【防御】

570 【敏捷】

480 【運】

100 【スキル】

アイテムボックスlv.EX 言語理解 超回復 隠密 気配察知 マップlv.EX(MAX)

罠感知 調理 料理 建築術lv.8 魔法付与(マジックエンチャント)

全属性魔法 創造魔法 時空間魔法 召喚魔法 隠蔽魔法 鑑定魔法 【ユニークスキル】

限界突破 潜在能力解放 完全偽装 聖剣召喚 聖炎魔法 魔剣魔法 神速再生 天歩 無詠唱 無限収納亜空間世界 獲得経験値増加 獲得経験値共有化 【エクストラスキル】

探知妨害 状態異常耐性 千里眼 念話 身体強化 高速情報処理 錬金術 錬成 精神強化 幸運強化 成長率増加 加護付与 言語理解 全武器適性二刀流 称号 迷い人 ゴブリンキラー ウルフスレイヤー オーガキラー 龍殺し オークの悪夢 ゴーストバスター ワイバーンの殲滅者 ドラゴンスレイヤー 災害級の魔物 ダンジョンマスター 魔王の討伐 神々の注目 女神の祝福 竜神の祝福死神の注目 精霊王達の興味 剣聖の弟子 超越者への道標

「さて、とりあえず最初の目的地までは到着出来たけどこれからどうするの?」

「……うーん、そうですね。ここは予定通りに周辺の散策から始めましょうか」

ルビアナさんからの問いかけにそう答えた私は続けて言う。「ただ闇雲に動き回っていても意味が無いですから今日はここら辺で野営して明日から本格的に動くようにしましょう」

私がそう言うと全員が頷いてくれた。それから私達は準備を始める事となり各々作業に取り掛かる中で私はアリスと共に周辺警戒を行いつつテントを張る手伝いをした。それから程なくして準備が整ったところで食事を済ませてから見張りをどうするかという話になるのだが、最初は私とアリスが担当しようと思ったのだがそれは却下されてしまう。というのも理由は単純で私達二人しかまともに睡眠が取れないからだそうだ。その為、他の人達はぐっすりと眠ってしまう事になるのだがそこは仕方の無い事だと考えて受け入れたのである。それから数時間後、すっかり夜が更けた頃になると辺り一帯は暗闇に包まれる中、皆が眠りについたのを確認した後で私も眠る事になった。その際、隣で眠っていた筈のアリスの姿がいつの間にか居なくなっている事に気付いた私は嫌な予感を覚えながらも彼女を探すべく動き出した――とはいえこんな暗闇の中ではいくら身体能力が高くなったからといって視界が悪くなる事は避けられない。なので手当たり次第に探していこうと決めると行動を開始したのである。

「――ねぇ、アリス見なかった?」

(……ん?)

そんな事を考えていると背後から声を掛けられたので振り向いてみるとそこには美羽の姿があった。どうやら私を探してくれていたようだ……しかし残念ながらその問い掛けに対して首を横に振ってみせるとそれを聞いた彼女は落胆の色を見せた。というのも彼女はアリスの親友の一人でもある為、今回の旅にも同行する事を望んだものの危険な旅になる事が分かっているので渋々ながら承諾してくれたらしいのだ。そんな彼女が何故ここに居るのかと気になった私は思い切って尋ねてみた――すると案の定、先程の反応の通りであったらしく彼女もまた眠れないという理由で外を歩いている最中に私の姿を見つけて声をかけたのだという事を聞かされる。そこでお互いに顔を見合わせると苦笑いを浮かべてしまう……すると不意に彼女は言った。「やっぱり、あの件が原因で寝られなくなったのかしらね?」

「……それはどうかしらね?」

彼女の問い掛けにそう答えながら脳裏にはあの時の映像が浮かびあがる……だがすぐに頭を振って意識を切り替えると今度は彼女の方から尋ねてきた。「それよりもあなたの方はどうなのよ?」

それに対して今度はこちらから逆に問いかけるようにして質問をぶつけてみる事にした。「そうね……強いて言えばあなたが言っていた言葉がずっと引っ掛かっていてね」そう言って再び苦笑する私に美羽もまた苦笑しながらこう言った――“この世界を救う事が出来るのはユウ君しかいないから”、という言葉の意味についてである。

というのも彼女が口にした言葉こそがずっと気掛かりな部分でもあったのだがそれ以上に気になるのがその理由についてだ。何故ならその話を聞いた時には特に疑問を感じるような内容では無かったのだが今となって考えてみれば違和感があったからだ。何故なら彼女の話では魔王を倒した勇者は他にも存在しているのだから。にもかかわらず何故、私だけが救えるというのか――しかもそれがどうして私でなければいけないのか、という事も含めて色々と謎が多く残されている状況なのだ……だからどうしても納得がいかなかったのである。だからこそ直接本人に話を聞いてみようと思った矢先にふと思い立ったので彼女に相談してみると意外な返答を聞く事になった。どうやら彼女は以前にも同じような現象を見た事があるというのだ――ただしその時は実際に見た訳ではなく夢の中での事だったというが。それでも手掛かりには違いないので詳しく聞かせてもらったところ以下のような感じだった。それによるとまず夢で見た内容は以下のようなものである。「光の中で何か巨大な存在が現れて私を手招きしていたのよ。それで恐る恐る近付いたらいきなり大きな口を開けたかと思えばそのまま丸呑みされて……」

「……え、ちょっと待って!まさか食べられたって事はないよね!?」

思わず不安になった私が思わず聞き返すとそれに頷いた後でこう言葉を続けた――「……まぁ、目が覚めた時に思わず悲鳴を上げてしまったくらいには驚いたんだけどね」

そう言いながら笑う彼女を見て安心したのと同時にそんな夢を何度も見ているのかと思うと気が気ではないというのが本音だが、だからといって安易に大丈夫だとは言い切れないのが難しいところだ。何せ実際に自分が体験していない以上、何とも言えないというのが正直なところなのだから……とはいえ少しでも情報が欲しいと思う気持ちは変わらないので引き続き聞き続ける事にした。そして話を聞き終えた後は感謝を述べてから別れを告げるとその場から立ち去った私はすぐにアリスの捜索を再開した。すると暫く進んだ先に人影らしきものを見つけた瞬間、思わず足が止まる事となった。なぜならそこには確かに人影が見えたのだがどう見ても普通ではなかったからである……なぜなら頭部からは山羊のような立派な角が生えているだけでなく全身が黒い鱗のようなもので覆われていたからである。

その姿を見た私は瞬時に理解した――あれが以前、美羽が言っていた魔物だと……だがそれと同時にある疑問も浮かんだので試しに聞いてみる事にしてみた。というのももし仮に本当にあれが魔物だとすれば人間と同じ見た目をしている事に矛盾が生じるのではないかと思ったからなのだが……するとその回答を聞いた瞬間に納得した。どうやらあれは悪魔と呼ばれている種族の一種らしく基本的には人間と共存しているのだという。だが一部の地域では悪魔の眷属として扱われる事もあるらしいのだが今回に限って言えばそういう理由で狙われたのだという話を聞かされた。というのも実は彼らは人間の持つ特殊な力を欲しているようで定期的にそういった力を持つ者が現れないかを監視しているらしいのだ。もちろんそのような話を聞かされたとしても到底、信じられない話ではあると思うのだが何故か否定しきれずにいる自分に気付くと戸惑いを覚えつつもルビアナさんが語ってくれた話を思い出す事でどうにか心を落ち着かせる事が出来たのである。(それにしても、どうしてこんなに心が乱れているんだろう……?)

そう思ったところで改めて考える……これまで幾度となく死線を潜り抜けてきた事もあり多少の事では動じない自信はあったが流石にこれは例外中の例外だと思ったからだ。その為、冷静に分析してみる……その結果、導き出された答えは一つしかなかった。つまり恐怖心を感じているのだと結論付けると同時にその理由については心当たりがあった。それは先程聞かされた内容が嘘や冗談でないと仮定するのであれば目の前に佇む人物こそ件の救世主と呼ばれる存在だと悟ったのである。

(――って、何でこんなタイミングで現れるかな……!)

そう内心で愚痴りながら必死に冷静さを取り戻そうとしているとそれに呼応するかのようにその人物が話し掛けてきた。「……ふむ、お前はもしや……」

「え……?」

(いや、まさか……でも、そうだとしたら辻褄が合うわね)

「……なるほど、そういう事だったのか」

(――って、勝手に一人で納得するなっ!?というか誰なのよあなたはっ!!)

そんなこちらの心中などお構いなしといった感じで勝手に納得した様子で一人頷く相手に憤りを感じながら叫ぶように言うと彼はゆっくりとした口調で答える。「……俺の名はルシファー、かつてこの地に住んでいたと言われている大天使の魂を受け継ぐ者にして神により力を与えられこの世界に召喚された者だ」

「か、神によって召喚されただって……そんなの信じられる筈がないじゃん!」

相手の口から飛び出した言葉を聞いた私は驚きのあまりそう返すと即座に否定した。そもそも神の存在自体を信じていない私にとって彼の話はあまりにも現実離れしており到底受け入れられるものでは無かったからである――しかしそんな考えを嘲笑うかのように彼が右手を掲げると突然、周囲に凄まじい魔力が溢れ出したかと思うと同時に地面に巨大な魔法陣が出現した。それを見た途端に背筋が凍りつくような感覚を覚えたものの決して目を逸らすまいと決意しながら見つめていると次の瞬間、魔法陣から何かが這い出してきたのである。それを見て最初に抱いた印象は『美しい』というものであった。まるで女神のような美しさを放つ女性が姿を現したからだ。そんな彼女の姿を見つめながら私は思った――なぜならば彼女からはルビアナさん達と同じような雰囲気を感じ取ったからに他ならない。だがそれと同時に彼女が身に纏っている服を見た瞬間、思わず言葉を失った。何故ならその女性の服装が私の着ているものと同じだったからである……その為、私は動揺しつつも無意識に問いかけてしまう。「もしかして貴女は……」

(……と、ここで一旦区切らせていただきますね)

それから数分後、私は先程の続きを話し始めていた――というのも今の彼女はとても穏やかな表情をしていたのだがその反面、こちらに向ける視線はとても厳しいものだったからであった。恐らく先程の話が彼女の逆鱗に触れてしまったのだと思い謝罪しようと口を開く前に彼女に先手を打たれてしまう……というのも彼女はこう言ったのだ――“何故、私の存在を隠していたのか?”、と。そこで私は全てを正直に話すと約束してこれまでの経緯を語った。

「――という訳なんですよ。ちなみに私のステータスカードにも記載されていない事は全て本当ですからね」

そう言って苦笑いを浮かべる私を無言で見つめていた彼女だったがしばらくして溜息をつくとこう切り出した。「そうですか……事情は分かりました、とりあえずは信用しましょう」

「え、それじゃあ……」

私の問いに対して彼女が頷いてみせるのを見てホッと胸を撫で下ろした。というのも彼女は私が今まで見てきた中で一番と言っても過言ではない程に厳格な性格をしている為、怒らせたら何をされるか分からないという思いがあったからである。だがそんな不安が杞憂に終わった事で安心した私は彼女に礼を述べてから続けて質問を投げ掛ける事にした――すると少し悩んだ様子を見せながらも答えてくれたのは良いのだがその内容は衝撃的なものだったので驚かされてしまう。なぜなら彼女の説明によるとこのダンジョン内には現在、私以外にも数名の転生者がいるらしくその人達は既に地上へ帰還を果たしており残るは私だけだというのである。それを聞かされた瞬間、一気に脱力感に襲われたのでこのまま座り込みたい気分ではあったがまだ問題が残っていた事からそれどころではないと判断して気持ちを切り替えた後に話を聞こうとした――その時だった、背後から気配を感じたので振り向くとそこには見知った人物が立っているではないか……「ミユさん?何故、ここに?」

「ユウ君に用があって来たんだよ」そう答えた後で私が抱いていた疑問について話してくれた後、本題へと入るべく口を開いた。「さて、そろそろ話しても良い頃合だと思うから話すね」「それってどういう……」その言葉の真意について理解出来ずにいた私が尋ねようとした矢先に彼女が口を挟んでくる。「まぁ、見てれば分かるわよ」

(え、どういう事なんだろう……?)

そう考えている間にも彼女は淡々とした口調で話を進めていく……どうやら私にしか伝える事が出来ないような事を話したいらしいので黙って聞く事にした。「……という訳で貴方は私達に協力してほしいのよ」

「……なるほど、それで俺が手伝えば元の世界へ戻る方法が見つかるという事ですね?」

私の問いかけに静かに頷いた彼女を見ながら思わず笑みが零れる……何故ならその話の内容は私が望んでいた通りの展開だったからだ。だが一つだけ気になる点があったのでその点を尋ねてみると案の定、否定されてしまった。だがすぐに代わりの提案をしてきたので今度はこちらから質問をしてみると返ってきたのは予想の斜め上をいく内容だった。というのもなんと彼女達が持っている魔法書の中にそれらしい内容の書物が存在しているのだという……それを聞いた瞬間、私は心の中でこう思っていた――「よっしゃー!キタコレ!!」、と。

というのもこれまでずっと悩み続けていた問題が解決するかもしれないと考えただけでも胸が躍りだすくらい歓喜していたからである――なぜならこの世界に来てからずっと気になっていた部分があったのだがそれが何なのかという明確な答えを出せずにいたからだ。だからこそその糸口がようやく見つかったような気がして嬉しくなったというのが正直な感想だったのだ。そして興奮を抑えきれない状態でいるといつの間にか話が進んでいたようでアリスを探す為に同行する事になったようだ――もっとも既にその必要は無くなっていた訳だがそれでもこうして一緒に行動できるというのは嬉しい限りなので良しとする事に決めたのだった。

そんな事を考えている内に話は終了したようなので最後に一言だけ挨拶を交わしてからその場を後にした私は仲間達がいる場所へ戻ろうとしていたところで突然、声を掛けられた――「お待ち下さい、貴方には聞きたい事があるのです」

「えっ……あっ、はい」

声の聞こえた方へ視線を向けてみるとそこには先程出会ったルビアナさんが佇んでいたので思わず驚いた表情を見せてしまった後で返事を返すとこちらに近付いてきたかと思えばこんな事を言い出したのである。「実は貴方と一緒に居た女性にお会いしたくてここへ来たのですがどうやらいらっしゃらないようですね……ですがもし見かけたら教えてくれませんか? どうしてもお聞きしたい事があるんです」「ええ、構いませんよ。ただあまり時間は取れないと思いますがよろしいですか?」

私がそう返答するとルビアナさんは笑顔を浮かべながら頷いたので一安心する一方でこれからどうしようかと考える事にした――なにしろ美羽とは逸れたままの状態が続いているので下手に動く事は出来なかったのだ。もちろん彼女と連絡を取る手段があれば問題ないのだろうが生憎とその術を知らない以上、どうする事も出来ないのが現実なのである……とはいえ今は出来る事をやるしかないと思った私は改めて気持ちを切り替えると皆の下へ戻って行ったのである。

そしてその頃、残された者達の間ではちょっとした出来事が起こっていたようだ――というのも話を終えて帰ろうとしていた際にふとある事が気になったので思い切って尋ねたところ予想外の言葉が返ってきたからだ。「そう言えばさっき言いそびれていたけど何でルシファーって名前なの?普通に考えればルシファーじゃなくてサタンとかの方が妥当だと思うけど……」「ああ、それはですね……最初は悪魔族の中から適当な者を選べと言われていましたが色々と考えて最終的にその名前に落ち着いたんですよ」

「ふーん、そうなんだ……じゃあ、もう一つ聞かせてほしいんだけど貴方の本当の目的って何?」「私の……ですか?」「うん、だってそうじゃないと辻褄が合わないし」「別におかしな事はないと思いますけどね、だって私は元々この世界にいた存在なんですから……つまりこの世界に召喚された勇者としての役目を果たさなければいけないのですよ」

「……やっぱりそうだったんだ」

その言葉を聞き、薄々気付いてはいたがこれで確信を得た事で内心で安堵していると彼がこう続けてきた――ただし一つだけ問題がある為、迂闊に行動する訳にはいかないという事を。それを聞いて私は納得がいったと同時に彼の言い分を認めた上でこう提案したのである。「確かに言われてみればその通りだね……でもそうなると一つ気になる事があるんだけどさ、どうしてルビちゃんがその使命とやらを受け継ごうとしているのかな?もしかして誰かに脅されてるとかだったりする?」「そうですね……まぁ、そんなところです」

(これは困った事になったなぁ……)

そう考えていた時、ふと視線を感じ取り振り返るとそこに立っていた人物はこちらに向けて手を翳すと魔法を発動した後にこう言い放った。「それではまたお会いしましょう、魔王陛下様……」

次の瞬間、強烈な閃光に襲われたかと思うと意識が遠退きそのまま倒れ込んでしまう。そんな私を抱きかかえた人物に向かってこう言った――“ご苦労さまでした”、と。その直後、彼はニヤリと不敵な笑みを浮かべると共に姿を消してしまう。そして一人取り残された女性は溜息をつきながらもその場から移動を開始する事にしたのだった―。

あれから暫く経った頃、私達はダンジョン内にある大広間にて休憩をしていた……というのもあれから様々な場所を訪れてみたものの目ぼしい成果が無かった事が原因なのだがそんな中で意外な事実が判明したのである。それは今まで謎に包まれていた『転生者』に関する記述が見つかったのだ……だがその内容は驚くようなものだったので思わず唖然としてしまったくらいだ。というのも記されていた内容はこうだった――“彼等は元々、この世界とは異なる世界の住民であったのだが神の怒りに触れてしまい命を落とした後にこの世界で転生した存在である”、という内容だったからだ。それ故に今現在もこの世界のどこかで生きている可能性がある為、警戒する事が必須であるという事を踏まえた上で今後についての話をしようとしたその時、突如として激しい揺れを感じた事でバランスを崩しそうになった私は咄嗟に近くに居たミユさんの体に掴まると地震は直ぐに治まったので安堵したのだったが同時に疑問が浮かんだ。何故なら先程の揺れはこれまでに経験した事の無いものであった上にダンジョン内ではあり得ないと思っていたからだ(それに今の現象はまるで地響きに近いものだったし、もしかすると地下にある何かの施設が何らかの影響を受けたという可能性も考えられるかもしれないわね)

そんな私の推測を裏付けるかのように周囲では動揺する声が聞こえてきていたがそんな中で冷静に状況を判断していた人がいた――アリスだ。そのお陰で冷静になる事が出来たのを確認した私は彼女の言葉を待つ事にした。それから間もなくして彼女はゆっくりと口を開く。「どうやらこの奥に隠し部屋があるみたい……それも恐らく何か重要な物が隠されてそうな予感がするから早く見に行こうよ」「そうね、行きましょうか」

その言葉を聞いた私が賛同する形で他のみんなも同じ様に頷きあった後で先へ進もうとした直後、アリスが私達を引き止めたかと思えばとあるお願いを口にする。それを聞いた私とミユさんは顔を見合わせると互いに苦笑を浮かべながら頷いた後、彼女を先頭に歩き出す。そして数分後、ようやく辿り着いた先には重厚な造りをした扉があった事からこの先に何かあるのは間違いなかったのだがその前に立ち塞がる者がいた。その正体はなんと先程、私達の下へ訪れて協力してほしいと言った人物だったのだ……だがそれだけでなく隣には知らない女性の姿があったので誰なのかと思案した末に一つの結論に至った私は静かに頷くとこう答えた。

「ええ、良いですよ……ただし条件があります。それは私一人で向かうという事です」

それを聞いた途端、周囲の空気が一気に重くなったのが分かったがそれでも臆する事なく真っ直ぐに見つめ続けた結果、折れたのか大きな溜息をついた後でこう返してきた。「……分かりました、貴女の望み通りに致しましょう。ですが私も同伴させて頂きますよ?」「構いませんよ、むしろその方が好都合なので寧ろ助かりますね……なんせ、こうして一緒に来なければ罠が発動する仕掛けになっているみたいなので邪魔だけはしないで下さいね?」「……なるほど、そういう事でしたか。なら仕方ありません、どうぞ先に行って下さい」

そう言うとあっさりと道を譲った彼女を訝しげに見ていたアリス達を安心させる為に一言告げた後で軽く肩を叩くなりそのまま扉を開かせるべく力を込めるのだった―。

扉が完全に開かれたところで一歩、中へ足を踏み入れると自動的に明かりがついて明るくなった事で思わず眩しさに目を細めた。だがすぐに目が慣れた私は部屋の中を見回してみる……そこはまるで研究室を彷彿とさせる光景だった事もありこの場所が本当に異世界なのかという疑問すら浮かんだがそれ以上に気掛かりなのはアリス達の行方だ。というのもここへ足を踏み入れてからまだ一度も彼女達の姿が見えない事に焦りを覚えたからである……というのも先程までは一緒に行動をしていたにも関わらずここへ入った途端に離れ離れになってしまったのだ。しかも辺り一面には無数の魔法陣が描かれている事から何者かの手によって仕組まれたものだと判断する事が出来る……とはいえその方法は不明のままなのだけれど、とりあえず手掛かりを探そうと思い立った私は行動を開始する事にした。

(さてと、一体どうしたものか……)

心の中で呟いた私は室内を調べている最中でふと視界に入ったものに釘付けになった――というのもそれは一冊の本だったからである。というのも見るからに古い時代の書物のように見受けられる表紙に金箔が貼り付けられている事が分かったので興味を持った私はそれを開いてみたのだがどうやら日記のようだった……そこには驚くべき内容が書かれていたのである。というのもその内容はあまりにも衝撃的だったので最初は信じられなかったものの実際に目にしている時点で信じるしかないだろうと考え直した私は読み進めていくうちに段々と恐怖にも似た感情が芽生えてきた事によって背筋が寒くなる感覚を覚えたところで思わず身震いしてしまったのだったがそれと同時にある可能性を見出した。

何故ならば日記の内容がどれも同じ人物による記述だった事が判明したからである――つまりこれらの内容は全て一人の女性が体験したものと捉える事も出来るという事に思い至った私は益々、謎めいてしまったので頭を抱え込む事になる……というのもこれらが全て同一の人物によって書かれたものだとしたら明らかに常軌を逸した内容ばかりなので、もし仮にそうだとするのなら一体何の為に書いたのだろうかと考えた時、脳裏に浮かんだものがあった。それは以前、美羽から聞かされた話の中で出てきた勇者と呼ばれる存在だった。つまりこの書物の内容はその勇者と呼ばれた存在が残した記録だと考えられるのである。

(だけどどうしてここに?まさかこれが魔王城の最奥にあったものと関係が……?)

そこまで考えた時だった、突然後ろから声を掛けられたので振り向くとそこにいたのはルビアナさんとアリスさんだったのだが二人の様子を見る限りだと特に怪我を負っている訳ではなさそうだったので安堵したのだが直後にミユさんから思わぬ言葉が聞こえてきた事で思わず絶句してしまう。何故なら彼女の言った言葉の中に“美羽がいない”という内容が含まれていたからだ――それを聞いた私は慌てて周囲を見回すも姿が見当たらない事に焦燥感を抱きながらも必死に探す事になった。だがいくら探してみても彼女が姿を現す事はなく途方に暮れていた時、再び頭の中に声が響いた。その声はルビちゃんであり何故か酷く取り乱している様子だった為、心配になり声を掛けた瞬間、とんでもない事実が発覚する事となった……そう、美羽は魔王城の奥にある謎の装置の中に閉じ込められた挙句、現在進行形で魔力を吸われ続けているというのだ――そして魔力を吸い取られた後は魂を抜き取られ肉体だけが残り新たな依り代へと変わる仕組みとなっている事を告げられ、私は愕然としながら言葉を失ってしまった……何故ならこのまま放置しておけば美羽は間違いなく命を落としてしまうのだから……だが幸いにも吸い取られている量は微々たるもので今のところはまだ猶予はあるようだった。だからこそ今は耐え凌ぐ事しか方法がないのだがいつまた暴走を始めるか分からない状態なので一刻を争うという事で私達は手分けして探索を始めたのだが結果は思わしくなかった。何故なら隠し部屋の類が見つからないのだ……そうなると考えられる可能性は一つだけ、既に誰かが侵入した後だという可能性が高いという事に気付いた私はある人物の後ろ姿が脳裏を過ったのと同時に駆け出した。

「ちょっと、急に走り出したりしてどうしたの?」

背後から掛けられる声に対して私は足を止める事無く、こう答えるのだった。「ごめんっ!私、行かなきゃいけないところがあるからミユさんはアリスさんと一緒に先に行ってくれないかな?」そう言って強引に話を切り上げた直後、目的地へ向かう事にした。すると今度はアリスさんから呼び止められる。それに対して振り向いた上で事情を話すと納得してくれたようで素直に頷いてくれたのを確認した後で小さく手を振り感謝の意を示した後、その場を後にした。

(絶対に助けてあげるから待っててね……!)

そんな強い想いを抱きながら走る速度を上げたところで不意に前方を歩いていた人を呼び止めた。それは私にとってとても馴染み深い人物だったからだ――その人物とはリミスであり彼女も私に気付くや否や笑顔で出迎えてくれたのを見て嬉しくなったのは言うまでもなく私も同じような表情を浮かべながら歩み寄ると声を掛けるのだった。「良かったぁ~、リミスさんがいてくれて心強かったよぉ……」

それを聞いた彼女は苦笑いを浮かべた後でこう返す。「いや、こっちこそ丁度良いところに来てくれたって感じかな」「えっ?それってどういう意味なのかな?」「……だって今から向かおうとしていた場所は最深部にある『例の装置』がある部屋だからさ……まぁ詳しい話は歩きながらするとして案内役を務めさせてもらうよ」「ありがとう、リミスさん!」

そう言った後で彼女の後に続いて歩き出した私はいよいよ大詰めを迎えつつある事に対して気を引き締め直すと覚悟を決めると足早に歩き始めるのだった―。

それから暫く経った頃、リミスさんの後に続いて辿り着いたのは今まで訪れたどの場所よりも一際、不気味なオーラを漂わせる空間が拡がっていた……それは明らかにこれまでとは違っていた為、緊張感が高まったがここで立ち止まっていても仕方ないと思った私は彼女に声を掛ける事にした。「ここがそうなんだね?」「うん、そうだよ。でもこの先が問題でね……どうやらここから先は一本道になってるみたいでしかもその先に何が待ち受けているのか全くもって不明だから気を付けて進む必要が出てくるんだ」「なるほど、それで私達に同行するように頼んだって事なんだね?」「……うん、その通りなんだけど一つ言っておかないといけない事があるんだ」

そこで言葉を区切ったリミスさんは私の瞳を見つめるなり神妙な面持ちで口を開いた。「さっきも伝えた通り、ここから先にはどんな危険があるのか分からないから場合によっては引き返してもらっても構わないからね?それでも良いかい……?」「もちろんだよ、元々そのつもりだったしね。だから遠慮せずに私を連れて行ってくれるかな」「……そっか、じゃあ早速行くとしようかね」「うん!」

そんなやり取りを終えた後、ゆっくりと前へ歩き始めた私達はそのまま奥へと進んでいく。だが程なくして通路の幅が次第に狭くなってきた事もあって歩くのが困難になってきたので自然と歩みのスピードが落ちた事で少しずつではあるが不安が押し寄せてくるようになった私は思わず足を止めた。その直後、リミスさんが声を掛けてきた事で我を取り戻した私が前を見ると彼女はその場で立ち止まり、何かを待っていた。それを見た私が疑問に思っていると次の瞬間、どこからともなく地響きのような音が聞こえてきたと同時に足元がグラついた事で体勢を崩しかけた私は倒れそうになったところをリミスさんに支えられる形になりながら安堵の息を漏らした――ちなみにこの時の彼女の表情は険しかった。まるで何かを警戒しているかのようでもあった……しかし、その理由はすぐに判明する事となる。なぜなら目の前に現れたモノが原因だった―それも人の数倍はありそうな巨人だったのである。

当然の如く呆然とした私と対照的にリミスさんは冷静ではあったものの険しい表情を浮かべたまま目の前の敵と対峙していたので思わず声をかけた。すると返ってきた言葉があまりにも衝撃的過ぎて私は驚愕する事になるのだが、どうやらこの巨人はかつてここを訪れた者が造り上げた代物らしい事が分かったのだ――しかもその者の狙いは世界を滅ぼしうる力を持っている存在を封じ込めるというとんでもない内容だったのだ。そんな事を聞かされた私は即座に思った……もしかしたら自分が探し求めていた美羽がそうなのではないかと―。だがそんな考えを打ち砕くように巨人が再び動き始めた事により戦いが始まるのだった―。

(一体どうしたら良いんだろう……?)

目の前にいる巨軀の怪物と相対していたリミスさんはこちらを一瞥したかと思えば無言で頷くなり再び視線を戻してしまったので私は一人、その場に立ち尽くしたまま途方に暮れていた……何故なら先程の会話で聞いた内容を思い返してみると私には戦う手段がないからである。というのも以前にルミナさんから聞かされた話の中に勇者と呼ばれる存在は特別な力を持っていてそれを行使出来る者だという話があった事からその力を扱える可能性があると考えたのだが現状では何の知識もない上、その力を扱う為に必要なアイテムを所持していないという事もあり、今のまま戦っても勝算は限りなく低いだろうと思えたのだ。その為、どうすれば良いのかと必死に考えていたところある一つの可能性が浮上した――もし仮にこの異世界へ迷い込んでしまった時に身に付けた能力を引き出せたらどうなるのだろうか?といったものだ。そもそもここへ来た理由であるルビちゃんやミユちゃんが持っている能力がどのようなものなのかすら知らなかった上に私自身、使えるのかどうかすらも定かではなかったが藁にも縋る思いでやってみる事にした私は目を閉じて意識を集中してみた……すると頭の中でとある言葉が浮かんだ事に気付いたのである。

(これが私の潜在意識の中における本当の姿なんだ……)

そんな事を思いながら次に頭の中に思い浮かんだものを心の中で叫んだ――その瞬間、眩い光が身体を包み込むような感覚を覚えた私は恐る恐る目を開く……するとそこに見えたものは信じられない光景だった―。何故なら先程までは普通の人間と変わらない容姿をしていた筈だったのにいつの間にか全身に金色の紋様のようなものが浮かび上がっていたのだ。更に変化が起こったのは外見だけではなかった。なんと身体が軽くなったような気さえしたのだ……試しにジャンプしてみると普段よりもずっと高く跳べたような気がした。そして自分の意思で動く度に感じる事の出来る圧倒的なまでの高揚感を得た瞬間、自然と口角が上がるのが分かった……それは恐らく、無意識のうちに笑みを浮かべたのかもしれないと思ったが今はそんな事はどうでも良かったのだ――何故ならこれからする事を思えば今の状態の方がよっぽど好都合だと思えたからだった。そう考えた私は一度、深呼吸をした後に目の前で暴れ回っている巨軀の化け物を見据えた……すると不思議と恐怖心は消えていた。それどころか不思議な事に高揚感が更に高まっていき先程以上の力を出せる気がしていたのだ。

だからこそ私は再び意識を集中して念じた。(目の前の敵を殲滅せよ!……と)

その途端に頭の中に呪文のようなものが浮かぶと同時に唱えてみると突然、全身が光り輝き始め、それがやがて身体の中心部分に集中し始めたかと思うと徐々に形状を変化させていく事によって私は確信するに至った。

つまりこれは紛れもなく“剣”だという事を。

そして遂には光の球体となっていたそれは私の右手に収まると同時に瞬く間に形作られていき気が付けば一振りの剣へと変化していたのだ。それを確認した私は満足気な笑みを浮かべるとすぐに行動を起こす事にした。まずは手始めとして相手の動きを封じるべく呪文を唱えたのだ。「我が眼前に存在する全ての者達の動きを止めよ、<拘束>」すると私を中心に魔方陣が出現してそこから放たれた光が巨体へと絡みつくかのように伸びていった直後、身動きが取れなくなったのか苦しそうな声を上げるなり藻掻いていたが残念ながら既に手遅れであった……何せ術者である私が解除しない限りはずっと続く代物なのだから――なのでその間に素早く間合いを詰めるとそのまま跳び上がると渾身の一撃を叩き込んだ。

その結果、相手の胸部を一刀両断したところで見事に真っ二つにされた身体は左右に分かれて崩れ落ちると動かなくなった。その様子を見ながら私は内心、安堵していた。何故ならいくら特殊な能力を持ち合わせているとはいえ所詮は生身の人間である以上、一撃でもまともに食らえば無事で済むとは思えず最悪の場合は死を迎える恐れがあったのでかなり神経を使ったからだ。その為、戦闘が終わったと判断した私はその場で座り込むと乱れた呼吸を整えるようにゆっくりと呼吸を繰り返しながら休んでいると不意にリミスさんが歩み寄ってきた。そんな彼女が差し出してくれた飲み物を受け取りながら感謝の言葉を伝えるとリミスさんも安堵した様子を見せたので少し安心したものの私はまだ肝心な事を済ませていないと思い、気持ちを切り替えた後で立ち上がると口を開いた。「ねぇ、これでもう終わりなのかな?」「うん、一応そうなるんだけどその前に一つだけ確認したい事があるんだ」「……それは?」「えっとね、私達の力が封印されているのはこの先に在る装置に眠っていると思うの」それを聞いた途端、私は確信した―それは私達の目的であり希望でもある事を……だからこう告げるのだった。「じゃあ早速、行こうっ!」「……本当に大丈夫なんだよね?」「はい、もちろんですよ!むしろここまで案内してくれたお礼も含めて絶対に助けてみせます!」「……分かった、そこまで言うなら私も最後まで付き合ってあげるよ」

そう言ったリミスさんに続いて一緒に歩き始めた私はいよいよ大詰めを迎えた事による緊張感から思わず生唾を飲み込んでしまう……だがここまで来た以上はもう引き返す事も許されないので覚悟を新たにした私は前を向いて歩き出した。そしてそれから程なくして目的地に到着した私は大きな扉を見つめながら小さく息を吐くなり覚悟を決めてから扉の奥へと足を踏み入れる事にした。

扉を開けた先で待ち構えていた光景を見た私達は驚きのあまり言葉を詰まらせてしまった。というのも目の前に広がっているのは想像を超えた広大な空間が拡がっていたからである―まるで何かの競技場を彷彿とさせるほどの規模を誇るそこには明らかに人の手が加えられていたと思われる痕跡が幾つも残されていただけでなく所々で機械のような物も散見されたが何よりも異質な存在感を放つ物がそこにあったのだ。それこそが他でもない、あの巨人を生み出す原因になったであろう代物……見た目だけでいえばまるで卵のような形をしているが時折、脈打つように明滅している事から生きているのは間違いないようで私達は暫くの間、その場で立ち尽くすしかなかった……しかし、いつまでもそうしていられる訳もなく、私は意を決すると声を掛けてみた。

だがその直後、今まで以上に激しい揺れに見舞われた事で我に返った私は急いでリミスさんの傍まで駆け寄るなり状況を把握する為に声を掛けたのだが返ってきた言葉は予想外なものだったのである。「この揺れ方はどうやら何かが起きようとしてるようだ……早く逃げないと不味いかもしれないね」「……ッ!?」それを聞いた私は慌てて振り返ったのだがその時には既に遅く、天井を突き破って現れたものを見た瞬間に戦慄した。何故ならそこにはあまりにも巨大過ぎるものが佇んでいたのだ。しかもその見た目は明らかに生き物というよりも機械を思わせる姿をしていて、尚且つ身体のあちこちから無数のケーブルが伸びている事から動力源となる核があるに違いないと考えた時、脳裏に浮かんだ事を口にしたのだった―。

(まさかあれが美羽なのか?)

と……。

第4章へと続く……

次回は7月3日に投稿予定です。

【名前】

:不明(本名:佐藤

美紀→ミサキ・サトウ 偽名:なし→ルミナリア

元魔王軍所属の魔族 身長:155cm

スリーサイズ:B86

W55 H84 誕生日:9月8日

種族:エルフ

髪色:金→赤み掛かった金髪/肩より下の長さを後ろで結んでいる。瞳の色も金色。耳が少し長いのが特徴的。

武器:槍/弓/短剣etc……

→魔法メイン能力:精霊召喚(風の最上位)

水属性の魔法を扱う事が出来る。

特殊能力

精霊の加護:全ての風属を操る事が可能 火、地、光、闇等、自然界に宿っている力を使う事が可能になる。

神速の俊足:目にも止まらぬ速さを発揮する。

固有スキル

魔眼開眼:ありとあらゆるモノを見通す事が出来るようになり透視や未来視も可能となる。また自身の身体を媒介にして他の者にも使用する事が可能で魔力が続く限りは無限に使用する事が出来て一度見た能力を全て習得する事ができるが膨大な量の情報を一気に流し込まれる為、脳に多大な負荷が掛かってしまう欠点がある。更に使用すればする程、使用者の精神を蝕んでいく為、最悪の場合、廃人と化してしまう危険性もあるので要注意。但し、ある条件下で発動させる場合に限り、反動を抑えられる。また自身が危機に陥った際には自動的に発動する事もある。

絶対なる支配者:精神干渉、記憶操作といった相手に直接、干渉するあらゆる力を跳ね除ける事が可能な上に自身に向けられる攻撃を全て無効にするばかりか逆に利用出来るといった規格外の能力を持つ。

(ただし、効果には制限があり範囲や威力によっては時間が掛かる場合がある)

魔眼の継承者:魔眼持ちに対して絶大な効果を及ぼす事が判明している。

天賦の才:様々な分野に関する才能に恵まれている。

完全無欠:弱点が存在しなくなる 称号 異世界人 勇者 勇者パーティ 超越者 女神の契約者???の器 魔王 悪魔殺し 魔神殺し 殲滅者 殲滅王最強戦士 魔導王???の魂を受け継ぐ者(一部抜粋)

契約者(仮)←New!! 【ステータス画面表示について】

自分の意志とは無関係に常時表示される仕組みとなっている。その為、他人に見られると困るような情報に関しては本人のみに見えるよう変更可能であるがその際、本来の内容とは異なる文章が浮かび上がるようになっている。

======

<名

前> :

ルミナリア <種 族> :人族(混血:ハーフエルフとドワーフの混血)

<年

齢> :

15歳 <性 別> :

女 <属 性> :???

<状 態> :

正常 ←New!! <レベル> :1/100 ←New!!

<筋 力> :

12,000/12,000 <耐久力> :

8,000/8,000 <魔 力> :

10,000/10,000 <抵抗力> :

7,500/7,500 <敏捷力> : 9,900/9,000 <運勢>

365 /1,000,000 SP :

490/45,000 ←New!! <スキルスロット> ◇任意 ◇強制 : 創造魔法LV10 時空魔法LV1 影魔法LV1 身体強化魔法LV6 生活魔法LV10 付与魔法LV5 隠密LV5 ◇任意選択 【称 号】

世界を救う者 救世の勇者 魔王殺し 魔神殺し 英雄 救世主 超越者 【備 考】

本作のメインヒロイン。元魔王軍の幹部で現冒険者をしている少女。元は普通の女の子であったが、幼い頃に両親が何者かに殺害されてからというもの、各地を転々としていた過去を持ち、孤独な生活を送っていた事もあり常に一人で過ごしていた影響で他者との付き合い方というものが分からなくなっていた時期があったが、とあるきっかけによって考えを改めるようになり現在は新たな人生を歩み始めたばかりである。ただ、時折、一人になると不安な気持ちが込み上がってきてしまう事があり、それを払拭しようといつも一緒にいる仲間と冒険に出ようと決意し現在に至る。尚、本人にはその自覚はないようだが、無意識の内に惹かれるような存在が出来た場合にはその対象の事を最優先で考えてしまう事があるらしい。

性格は比較的温厚で優しい一面を持つが反面、正義感が強く曲がった事を嫌うなど頑固な面も持っている。基本的に何事に対しても前向きに考えるタイプだが恋愛に関しては非常に奥手で自分から異性に話しかける事は滅多にないが、いざ話しかけられると動揺して素っ気なく振る舞ってしまう事もしばしばあり、そのせいか、あまり良い印象を持たれていない事が多く同性から嫌われやすい傾向にある。だがそんな部分さえなければ大抵の男性は好意を抱いてくれる筈なので頑張ればいつかは報われる日が来る筈だと思っている。

第4章の始まりですが今回から第2章までの登場人物をまとめていきたいと思います( ̄ー ̄)bグッ! ではまず最初に登場した登場人物達を見ていきましょう!

『佐藤美羽』……本作におけるサブヒロインでありルミナリアにとって一番大事な存在である。ルミナリアにとっては初めて出来た同年代の友達であり親友でもある彼女はこれまで孤独だったルミナリアが心から信頼できる数少ない人物の一人でもあるのだがそんな彼女はある出来事が原因でこの世を去る事になってしまうのだがルミナリアが悲しみに暮れていると突然、神様と名乗る女性が現れて彼女の願いを叶える代わりに別の世界で生きてもらう事になるのだがその世界に転生してから既に二年が経過した今でも前世の記憶を取り戻した様子はなく自分がどうしてこの世界に来たのか、その理由を知る術は今の所、無い。尚、現在、彼女が置かれている状況は、かつてミユちゃんと呼ばれていた頃の彼女が経験していた状況と同じであり、それを知った時の彼女は複雑な気持ちを抱いていた……のだがそれも今はすっかり慣れてしまい今ではもう当たり前の事となっていた。

そんな二人の関係を簡単に表すなら互いに支え合っていける理想のパートナーと言った方が分かり易いだろうか? 因みに容姿については金髪碧眼でミディアムヘアーが特徴的で髪型はいつもポニーテールにしている。そして普段は大人しい性格をしているのだが一度でも怒らせると手が付けられなくなり、とても口が悪くなってしまう。

【名 前】

リミス・アルリアネス 【種 族】

ハイエルフ 【年 齢】

約600歳 【身 分】

エルフィーゼ王国第二王女→アヴァロン魔王軍所属 【レベル】

215 【体 力】

880,030(880,000)→850,000(850,000)

【魔 力】

65,000(57,000)→71,000(73,000)

【攻撃力】

570(520)→850(840)

(剣:100)→400(200)

(杖:100)→250(170)

(弓:75)→180(150)

(斧:35)→60(45)

(投擲:5)→10(0)

(格闘:10)

→25(10)

(盾:10)→5(15)

(杖:5)→10

(爪:3)→5

(鞭:3)→15

(槍:3)→15

(ナイフ:3)→12(5)

→短剣:10

→槍:10 →弓:5

→銃:5

→扇:3

→ハンマー:3

→ブーメラン:3

→投石紐:3

→爆弾:1

→その他:5

→鑑定:3

→アイテムボックス:1

→???:1

→隠蔽:1

→全言語理解:1

→探知:1

→念話:1 →気配察知:1

→鷹の目:1

→鍛冶:1

→錬成:1

→建築:1

→料理:1

→彫金:1

→裁縫:1

→乗馬:1

→操車:1

→栽培:1

→伐採:1

→木工:1

→商売:1

→御者:1

→教育:1

→考古学:1

→生物学:1 →経済学:1

→経営学:1

→法律:1

→経済:1

→交渉:1 【属性耐性系】

闇耐性50% 火属性耐性40% 水属性耐性10% 土属性耐性30% 風属性耐性5% 雷属性耐性3% 氷属性耐性1% 光属性耐性0% 闇属性耐性100% →恐怖20% →苦痛15% →睡眠8% →毒12% →呪い14% →混乱13% →即死7% →炎上9% →暗黒8% 【状態異常系】

気絶0% 【戦闘補助系】

身体能力強化50% 【武器】

ミスリルの大剣【防具】

風の法衣(+靴)

:敏捷力+1 風の法衣(+手袋)

:敏捷力+1

:魔力+2

銀の首飾り :魔力+3

:魔力の腕輪

:MP+500

:魔封じの指輪

:消費MP半減

:偽装の腕輪:装備者のステータス画面の表示を偽装できる

:魔力操作

:魔法発動後の待機時間の短縮

:能力吸収

:相手の能力を吸収する事ができる

:スキルスロット 【称 号】

勇者の妹 勇者の仲間 超越者 悪魔殺し 魔神殺し 英雄 救世主 魔王殺し 英雄殺し 超越神の加護を受けし勇者 世界を救うモノ ***

***

第4章に登場する登場人物です!この人物達も後々、登場するので忘れないようにしてくださいね♪ では次に紹介する人達はこの人たちです!!

『レギンレイブ』・・・魔界の魔物を統べる女王であり、《七色竜》の一角でもある存在で圧倒的な戦闘能力を誇りその実力は計り知れない。魔王軍を裏切った理由は単純にルミナリア達に興味を持ったからであるとの事だがどうやらそれだけではなさそうだ。またその正体は異世界より召喚された勇者の一人だったらしく、元々はただの人間であったそうだがとある事をきっかけに勇者の力を手に入れる事が出来た事からその力に酔い痴れてしまい悪の道へと進んでしまう事になる。その後は仲間や家族といった周りの者達にも裏切られ最終的には命を落とす事になるのだがその後、再びルミナリアの手によって復活を果たすと彼女を自らの主にして忠誠を誓う事となる。ちなみに彼女の見た目は黒髪黒目で黒いゴスロリドレスに身を包んだ十代前半程の少女に見える。尚、背中には小さな翼が生えていて空を自由に飛べる事も可能だが地上を走る事の方を好む傾向があり、これは空を飛ぶよりも走った方が早いという何とも彼女らしい理由があるからのようだ。そして彼女の強さを象徴する特徴として一つ目の特徴としては常に相手を見据えるような視線を向けており、その視線には威圧感と迫力がある為、敵に対してプレッシャーを与えてしまう効果がある。二つ目の特徴としては口元からは鋭い牙のような歯が見える事で相手に畏怖を与える効果もあるらしいのだが実はこれ以外にも隠された特徴があるのだがそれを知る者はまだ少ない。三つ目は彼女の最大の特徴と言っても良いだろう、それは全身を覆う強固な漆黒の鎧である。一見すると重厚そうな外見なのだが実際はそこまで重いという訳ではなく寧ろ軽すぎると感じる程なので移動速度も速く動き回る事が可能なのである!その為、敵に接近される事もしばしばあるがその時は腰に差している刀を抜く事で対応しているようだが、相手が強ければ強い程に彼女の攻撃速度は増していき最終的には目にも止まらぬ速さで相手を切り刻んでいく!ただし、それでも倒せなかった場合には一旦退却する事もあるようでそういった判断力は意外としっかりしているらしい。四つ目に特徴的な点として、彼女には特殊な固有技が備わっているのだが、その技の名は『神魔双滅』といい二つの異なる属性の力を同時に放つ強力な一撃を放つ事が出来るのだが残念ながら今の所、それを使えたのは彼女がルミナリアの配下になった後で、尚且つ、使えるようになったのがルミナリアの力が戻った後だという事もありまだ完全に制御しきれてはおらず暴発してしまう恐れがあった為に実戦での投入が見送られる事になった経緯を持つ。

尚、ルミナリアは彼女の事を気に入っている様子で主従関係を超えた友情に近い感情をお互いに抱いているようだ……しかしそんな二人にはある秘密があるのだが今はまだ明かせないようである。そしてそんな彼女の秘密を知る者が一人いるのだが果たして……? 第4章のメインキャラクター達の紹介でした~!次回以降で第4章に出てくる新キャラを何人か紹介していく予定です♪お楽しみに~♪ それでは最後になりましたがいつも私の作品をお読みになってくださる皆様に感謝の気持ちを込めてこの作品の簡単な設定集を投稿します。もし興味があれば読んでいってください♪ではどうぞご覧あれ!!!( ̄ー ̄)bグッ! まず最初に本作の主な舞台となるエルフィーゼ王国について簡単に説明しておきますね!( ̄ー ̄)bグッ!エルフィーゼ王国とはアヴァロン魔王軍が攻め込もうと画策していた大陸の中心に位置している王国なのですがこの国では初代エルフィーゼ王が国を大きく発展させる事に成功して以降、今日まで平和が続いていたのですが最近になり、その平穏が破られようとしていたのです!何故ならエルフィーゼ王国の北の方角にある《マレカシア連山》と呼ばれる場所に生息する魔獣達が凶暴化し始めたからです。その影響により多くの街や村が襲われる事態に陥ってしまった上に最近では王国に最も近い都市でも被害が出たという噂もあり王国は未曾有の危機を迎えていたのですがそこへ颯爽と現れたのは我らが勇者様である佐藤美羽ことミディアムさんだった! 最初はミディアムさんの姿を見た兵士達は最初こそ警戒をしていたもののミディアムさんが国王様の元へ向かうように促すと渋々ながらも言う通りにするのでミディアムさんはそのまま謁見の間へと通されそこで正式に王へ救援を要請した後にミディアムさんはその場を後にしたのだった!ミディアムさんが立ち去って暫くした後の王の間でのやり取りについては省略させていただきますのでここでは触れません!(*- -*_ _)ペコリ……とりあえずミディアムさんと兵士長らしき人物が話し合いを終えた後は王様直々にミディアムさんに指示を送った上で彼女は一人で行動を開始した!その際、ミディアムさんは王都に住む人々に声をかけて回ったところ人々は快く了承したので彼女は早速、行動を開始しようとしたその時でした。何と!?突如、現れた謎の女性がいきなり攻撃を仕掛けてきたではありませんか!?当然、突然の奇襲を受けて戸惑う人々でしたがそんな中、たった一人だけ動揺せずに立ち尽くしていた者がいた……そう、それこそは我らが勇者こと佐藤美羽ちゃんだったのだ~!!!しかもこの時、既に美羽ちゃんは例の剣を手に持っていたみたいでそれに気付いた私は「流石だな……」と感心しているとその直後、驚くべき光景が目に映ったのだ!!なんと美羽ちゃんが突然剣を構えながら謎の女性に斬りかかったかと思うと女性は咄嗟に後ろへ下がったんだけどどうやらその動きは予想外だったらしくて明らかに驚いていた様子だったわ!!まぁ、私も内心は驚いたけどね?だっていくら何でもあの距離からの斬撃なんて避ける事は不可能なはずよ?だけど現に彼女は紙一重で避けてみせたのだから驚きもするわよ?それで今度は謎の女性の方が反撃しようとしたところでまたもや美羽ちゃんが謎の女性と剣を交え始めたものだからもう何が何だか分からなかったわ! 結局、この後は二人共その場から姿を消してしまったから詳しい事情を聞く事は出来なかったのだけど後日、改めて王に呼び出された私だったけどその時の話でやっと状況が理解できたのであった!!何と驚くなかれ、二人が戦っているのを目撃した人達の証言によれば美羽ちゃんの攻撃を女性が避けてから反撃に移った際に二人の体が光ったように見えたらしくそれが気になってもう一度確認する為にその場にいた人々が全員集まってきて確認してみると確かに光っていたらしくそれを見た人達が驚いている間に謎の女性が姿を消してしまったそうだ。ちなみにその証言の中に美羽ちゃんと戦った女性の容姿に関するものがあったからその特徴を聞いてみたんだけど……その女性は長い黒髪に白い巫女装束を身に纏った美少女で年齢は美羽ちゃんよりも少し下くらいじゃないかという話だったが問題はその後の行動だった。なんと!姿を消したはずのその少女が美羽ちゃんの前に突如として姿を現して再び襲い掛かってきたらしいのだ!! これには流石の美羽ちゃんも戸惑いつつもどうにか応戦しようと頑張ったみたいだけど少女はその全てを華麗に受け流しつつ余裕の笑みを浮かべながら戦っていたようだ。そして戦いの途中で少女の放った『水龍激』という魔法による攻撃によって美羽ちゃんがピンチに陥った所でまたしても姿を消す少女……だが今度は先程とは違って美羽ちゃんの周りに結界が張られていて中にいる彼女に手出しが出来なくなってしまった為、どうする事も出来ずにいる少女に向かって美羽ちゃんはニヤリと笑みを浮かべると次の瞬間には『天叢雲剣』という名の剣を取り出して少女の方へ勢いよく振り上げたらその衝撃波は物凄い勢いで少女へと向かっていき彼女を包み込んだと思ったら一瞬で消し飛ばしてしまったではないか!!!この様子を見た私は開いた口が塞がらなかったがそれ以上に驚いた事があった……それはなんと!少女が立っていた場所には小さな女の子が倒れていてどうやら先程の少女がこの女の子に変化してたらしいけど一体どうやってこんな姿になったのか気になったので私が尋ねると何故か急に焦りだした様子となったので更に追及してみたらようやく白状してくれたのでその内容を聞いてみるとどうやらこの少女の正体こそが件の噂の女性だったらしいのだ。

この事実を聞いた私と国王様は驚愕した!何故なら今まで正体不明だった謎の女性が実は自分達と同じ人間であり、しかもまさかあんな小さな子供だったなんて思いもしなかったからだ!しかしどうして彼女はそのような姿になっているのかと不思議に思っているとここで国王様が衝撃的な言葉を口にした。なんと!彼女は魔王軍の幹部であり、その正体はかつて世界を滅ぼそうとした魔神の一人であるらしい。しかしそんな恐ろしい存在であったはずの彼女が今では幼女の姿をしていてとても可愛らしい姿をしているからこれは一体何が起きているのだろうかと思っていると彼女の口から驚くべき真実を知る事になったのであった。

『ルミナリア』という名前を耳にした瞬間、俺は思わず目を見開き固まってしまう程驚いてしまうのと同時にルミナリアという名は以前にも耳にしていたのでもしやと思い彼女に向けてこう尋ねた……すると予想通りというべきか俺の思った通りの反応を示したので俺は確信したのである。目の前にいる幼い少女がかつて俺が死闘を繰り広げた相手である事を――

そう、目の前に立つ少女こそが俺を殺した張本人であり、かつて異世界において最強と謳われていた伝説の魔王の一人でもある《七色竜》の一角を担っている《紫電龍皇シデンリュウオウ》こと《ルミナリア・アルディスト・ノーレッジ・サタンロード》なのである!

(それにしてもまさか生きていたとはな……)

あの時の戦いでは確かに奴の命を奪う事が出来たのだが今にして思えば俺もまだまだ甘かったという事なのだろう。こうしてまた彼女と相見える機会が巡ってくるとは思ってもみなかったが今回ばかりはそうは言ってられない。というのも今の彼女は以前と比べて遥かに力が増しており、下手をすれば今の俺ですら歯が立たない可能性もある程の力を秘めているからである。何せ以前は魔力こそ凄まじい力ではあったがそれ以外は普通の幼女程度の力しか持ち合わせていなかったのに今の彼女には当時の頃の面影は全くなく今の彼女は完全な別次元の存在となっていると言っても過言ではないだろう。とはいえそれでも尚、負ける気はしないのだが……

そんな事を考えている間に目の前のルミナリアが何やらぶつぶつと言っていたようだが今は特に気にしなかった俺はそのまま無視して歩き出そうとするのだが……ここで予期せぬ展開が訪れた! なんと、あろう事か俺についてきたいと言い出したのだ!!これには流石に驚きを禁じ得なかったのだがそもそもこいつには自分の拠点に戻るべき理由もあるはずなのだが……などと考えているうちにも勝手に話が進んでいくのでこれ以上は何も言っても無駄だと判断してから放置する事にしてこの場を去る事にしたのであった( ́-ω-`

)フゥー……

こうして王都を後にした俺達はひとまずマレカシア連山へと向かう事になったがその間は終始無言だったので会話はなかったのだが道中では何度か魔獣に襲われたものの特に問題なく蹴散らしながら先へ進んでいると途中で休憩がてらに立ち寄った村では魔獣の群れに襲撃されたとの事だったので急いで対処に向かおうとするが村人達の話では相手はゴブリンだと分かったので大した事はないと伝えると俺達の事を心配してなのか彼等は「無茶だ!」と言って止めようとするが「心配はいらない」と言ってから先に行かせた後はミディアムさんと二人だけで迎え撃つ事にしたのだったがその際にミディアムさんが気になる発言をしたのだった!それは「あの者達はおそらく何者かの手によって強化されている」というものでその言葉を耳にした瞬間には嫌な予感を感じていた俺は念の為に装備の確認を済ませておく事にしてからすぐに現場へと向かった。するとそこで待ち構えていたのは既に自我を失った様子のゴブリン達の姿があり、その様子を確認した俺は即座に戦闘体勢を整えた上で先手必勝と言わんばかりに素早く駆け出すなり瞬く間に敵を切り刻んでいくとそれに反応するかのように残りの仲間達も動き始めた……いや、厳密に言うと動き出したのは俺一人だけであり他の仲間はまだ呆然と立ち尽くしたままであったがそんな彼らに向かって襲い掛かる一匹のゴブリンの姿があった!そう、これこそが今回の事件の元凶である例の《ホブゴブリキング》だったのである!だがこの時の彼はまるで狂人の如く我を忘れているようだったので冷静に状況を判断した上で行動に移ることにした俺はまずは彼を取り囲むようにして仲間達を配置させて逃げ場を封じてから同時に仕掛ける事にし、全員が一斉に飛び出した後でまず最初に俺が放った斬撃により奴の首が宙を舞うと続けて他の面々による一斉攻撃により一気に体力を削り取ることに成功した。その結果、無事に勝利を収めた俺と仲間たちはそのまま先を急ごうとしたその時だった!! なんと!突然現れた謎の女性によってまたもや奇襲を受けたばかりかその女性の攻撃により窮地に陥ってしまったではないか!?当然、このままでは不味いと思った俺はどうにかして打開策を見出すべく奮闘したが女性の方が一枚上手だったのか全く隙を見せないまま俺を追い詰めていく一方でもはやここまでかと思った時であった……突然、俺の前にミディアムさんが現れて助けてくれたかと思うと今度は何と!先程まで何も出来ずに立ち尽くしていたはずの仲間の内の何人かまでもが突然動き出すと見事な連携技であっという間に相手の女性を追い払ってくれたのだ!! これには流石の俺も驚かずにはいられなかったがそれと同時にある事に気付いていた……どうやらこの人達には何か不思議な力が宿っているようでどうやらそれを使って俺を守ってくれたらしい。なので試しに尋ねてみると驚いた事に彼らは全員、元人間だったのだ!どうやらこの能力を手に入れた経緯は分からないみたいだがその力を使いこなす事自体は出来るらしい……ならばこの力で何とかなるかも知れないと判断した俺は皆に指示を出しながら女性の後を追ってみた所、辿り着いた先は廃墟となっていた城だった事からもしやと思い、そのまま中へ侵入してみると案の定、そこにいたのは紛れもなく探し求めていた例の女性とその傍らにはこれまた見覚えのある女性がいたのだが彼女達を見た瞬間、俺は驚きのあまり硬直してしまった……!何故ならそこにはかつての宿敵でもあった魔王の一人である《雷龍皇サンダードラゴン》の姿がそこにあったのだから!!しかしなぜ奴がここにいるのか気になった俺は思わず質問してみる事にしたのだったがその際、不意に彼女が不敵な笑みを浮かべたので何かあると察した俺は警戒すると共に剣を抜いて身構えた。だが直後、彼女は思わぬ一言を口にしたのだ!「よく来たな……我が愛しき勇者よ!!」

それを聞いた瞬間、俺を含めた誰もが言葉を失ってしまったが中でも一番動揺を隠せなかったのは言うまでもないが俺本人なのだ。というのも何故ならば先程の発言には覚えがあったからに他ならないからだ――というのもあれは俺が異世界にいた頃の話で今から一年前の事になるのだがその時の俺はいつものように依頼をこなしていた際に出会ったとある少女と出会った時に彼女から言われたセリフこそが今のと同じだったからである! そう、あの時にも同じような事を言われていたので最初は冗談かと思って受け流していたのだがまさか今になって再び同じセリフを聞かされる羽目になるとは思いもしなかったがとにかく今は状況を把握する事が先決だと思って彼女に話し掛けてみるとやはりというべきか魔王の一人である《雷龍皇サンダードラゴン》だという答えが返ってきた……そしてこのタイミングで今度は魔王の側近の一人である《風帝サイクロンカイザー》こと《疾風王ゲイル》まで現れてしまったものだからますます訳が分からなくなったところで彼女が俺に告げた言葉は俺にとっても衝撃的なものだった!それは―――「貴様を我らの王として迎え入れよう」という驚くべきものでそれを聞いてもなお状況が理解できないままの状態でいると今度は二人がとんでもない事を言い出してきたではないか! なんと二人は自分達の主君でもある国王に対して反旗を翻したのだ!これにはさすがの二人も戸惑いを隠せずに慌てているようだったがそれに対して国王はというと特に気にする事なく二人に問い掛けてみたところ意外な返答が戻ってきたので詳しく聞いてみると何でも二人の魔王はかつて先代の勇者に倒されてしまったらしいのだ!そしてその事ですっかり弱気になっていたらしくこのままだといずれこの世界そのものが滅びてしまうのではないかと考えていたそうだがそんな中、新たな異世界からやってきた俺の存在を感知したらしくこうしてわざわざ挨拶に来たという事なのだがいきなりそんな事を言われても到底信じる事が出来ず困惑していると今度は何やら呪文のようなものを唱え始めると同時に魔法陣のようなものが出現したかと思えばそこから巨大な竜が出現するなりこちらへ向けて炎を放ってきたではないか! 突然の事に驚愕しながらも咄嗟に結界を張って攻撃を凌ぐ事に成功した俺はホッと安堵するがすぐに次の攻撃に備えようとしたのだがそこに割って入った者がいた為、その人物を見るとそこには先程と同様に国王様が立っていた……だがその表情は明らかに怒りに満ちたものであったので一体何をするつもりなのかと思っているとここで国王様が口を開いた。

「お主達、一体どういうつもりじゃ?先程、ワシは忠告しておいたはずじゃろう?次にワシの目の前でふざけた真似をしてみよ!その時は例え子供であろうとも容赦なく斬り捨てるからな!!」

その言葉を最後に殺気立った表情を浮かべたまま静かに立ち去ったのを確認した俺はようやくひと段落ついたかと思いながら溜め息を吐くと不意に声を掛けられたので振り向いてみるとそこに居たのはあの幼女であるルミナリアであった。

(こいつとは正直言ってあまり関わりたくはないのだが今回は助かった部分もあるのでここは大人しく礼を言う事にするか)

そう考えた俺は彼女の方に視線を向けてから感謝の言葉を口にする事にした。

「今回、お前のおかげで命拾いをしたようだ。ありがとうな!」

俺がそう言って頭を下げてみせると何やら彼女は驚いた様子を見せたがすぐに嬉しそうな笑みを浮かべると俺に抱きついてきたのだ!これには思わず驚いてしまいながらも離れようと試みたのだが意外にも力強く抱きつかれているせいで身動きが取れずにいたのでどうしたものかと考えているとここでまたしても予想外の展開が訪れる事となる!なんと!先程までは一言も話さなかった筈のもう一人の少女が唐突に喋り出したのだ!そのおかげでどうにか解放される事となった俺は改めて彼女と向き合う事にしたのだった。

こうして俺達と行動を共にすることになったミディアムさんとホムンクルスの少女、それに例の老人に幼女を加えた俺達は引き続き先へと進む事にしてからしばらくすると遂に目的地に到着したのである!そう、今目の前に広がる光景こそまさにこの世の終わりと言っても過言ではないほど凄惨な光景が広がっている場所なのである。その場所の名は――マレカシア大平原と呼ばれる場所でかつてこの場所では多くの魔獣達が暮らしていたと言われているらしいのだがそれが今や全て息絶えており、辺りには死体が散乱しており中には人間のものと思われる姿もあったが俺は敢えて気付かない振りをする事にしていた(もちろん彼等の家族や友人などの身内達は既に避難済みである事は確認済みなのでそこは安心していた)

そうしてしばらくの間、その光景を眺めていたのだが途中でふとある疑問を抱いたので隣にいる少女に訪ねてみた所、どうやらその少女は例の村で助けた女性であり名前はラフィネと言うらしい。そんな彼女によれば最近、この辺りで不審な人物を目撃したという噂を耳にしたのでそれを確かめにきたら案の定、噂の人物が本当にいたという事だったので慌てて後を追いかけたものの結局見失ってしまったらしい……しかしそれでも諦めきれずに付近を捜しまわっていた矢先、俺と遭遇したという流れのようだがその話だけを聞いているとどう考えてもおかしい点があったのでその点について質問してみるとどうやら俺が倒した相手こそが件の怪しい人物らしい事が分かったのだ!だがなぜそんな者がこの場所へ現れたのかと不思議に思っていたのだが実は以前にも同じ事があってその時にもこの村に現れた事があるらしくそれが原因で当時、村人達を避難させたのだそうだ! そう、これは後で聞いた話なのだがどうもあの女性は過去に何度か似たような事を起こしているようでそのせいで村の者達は恐れおののいてしまい、結果、今ではこの様に誰も住んでいないゴーストタウンと化していたようである……しかしどうしてその様な事態を招いたのかと言うとどうやら彼女が原因の様だがその理由というのが非常に恐ろしいものだった!というのも彼女は元々はある国で王女として生まれ育ってきたようなのだがある日、国を襲った天災により両親を失ってからは親戚に引き取られてそこで育てられてきたもののやがて自分が引き取られた理由が王族だからという理由で本当の両親は別にいるのだという事実を知ってしまうなり深い絶望に襲われた末に自らの手でその命を奪う事を選んだのだという……ところがその結果、自分という存在が生まれた事によりさらに罪の意識が増していった彼女は次第に生きる気力さえも失い、ただ息をしているだけの生きた屍のような状態へと陥っていたのだ。

そんな日々が続いていく内にいつの間にか自分は死霊系の魔物であるリッチとなり、そのまま当てもなく彷徨っていると今度はたまたまこの大陸に辿り着いたそうでその後は様々な街を転々としながら放浪の旅を続けていたところで俺と出会ったというわけだ。ちなみに彼女が俺の名前を知っていた理由だが実は以前にある町で勇者の伝説を調べた事があったらしくその際、俺が持っていた聖剣エクスティアを目にした事で確信したそうなのだがそれと同時に彼はこうも言っていた――もし私があなたの仲間になった暁には必ずやその願いを叶えてみせるともね! その言葉に感銘を受けたからこそ彼女を受け入れたという訳だがそれからは特にこれといった問題も起こらずに今まで過ごしてきていたらしい……しかし、先日の一件で再び心に深い傷を負ってしまった彼女は自分の存在を否定するかのように自ら命を絶とうとしていたところに俺達が現れてそれを止めた上に優しく声を掛けてもらった事で生きる希望を取り戻したばかりか、これからはこの人の為に生きようと思うようになったのだそうなのだがその直後に今回の一件が起きてしまった事で再び心を閉ざしてしまったのだという……とはいえ彼女自身、今回の件については反省しているらしくもう二度とこんな事は繰り返さないと約束してくれた。なのでこの件はもう終わったも同然だと思っていたその時だった……!突如、何者かの声が聞こえてきたので急いで声がした方へ向かってみるとそこにいたのはなんと!国王様と側近である二人だったのだ!!しかも驚く事にこの三人はかつての仲間の魔王だというではないか!?これにはさすがに驚きを隠しきれなかったがそれはさておき何故、彼らがこの場に居るのか気になったので早速聞いてみることにした!

「お前達もここに来たのか?」

すると彼らは皆揃って頷き、ここに来た目的を語り始めた――何でも、国王様はこの国で起きた出来事を調べていく内にここへ辿り着いたのだそうだが他の二人は偶然にもこの地へやって来た際、何か強い力を感じたのでもしやと思い訪れた結果、ここへたどり着いたのだという。それを聞いた俺は内心、冷や汗を流していた!何故ならここには奴がいるからだ!そう、黒魔術師の《幻魔皇シェイド》の姿が……しかし、今は下手に騒ぎ立てるわけにはいかないと思ったのでとりあえず彼らの話を聞く事にしてまずは話を聞いてみる事にした……その結果、わかった事が一つあった!それは国王様がここにいる理由についてだが彼も俺と同様にここに黒魔術師が居る事を予想したようでここまで来たはいい物の手掛かりすら見つからなかった事でどうしたものかと途方に暮れていたところで例の女性から話を聞いたので半信半疑ではあったが他に手段が無かった事もあり、仕方なくやって来たのだと説明した。だが肝心の奴は見つからないのでどうしようかと悩んでいた時にちょうど俺達が現れたという訳なのだ……そして話を一通り聞いた俺はようやく確信を得るに至った――つまり、今、目の前にいる三人の元国王はかつて勇者と共に魔王を倒した者達なのであると! こうして全ての真相を知る事となった俺達はお互いに顔を見合わせてから頷くと彼らと一緒に黒魔術師を探すべく捜索を始める事にしたのだった――「それにしてもここまで探して見つからないとは……」

俺は辺りを見渡しながらそう呟くと隣で歩いている幼女ことホムンクルスのミディアムさんが口を開いた。

「あの~……今更ですけど私、皆さんのお役に立っているのでしょうか……?」

その言葉を耳にして思わず首を傾げてしまうがすぐに気を取り直してから答えた。

「いや、十分に役に立ってるぞ!お前が居なかったらとっくに死んでいただろうからな!」

そう言って頭を優しく撫でてやるとミディアムは嬉しそうな表情を浮かべる一方で何やら羨むような視線を感じたので振り返ってみるとそこには羨ましそうな表情をしながらこちらを見詰めているラフィネの姿がある事に気が付いた!それを見た俺はやれやれと思いながらも手招きをするとそれに気づいた彼女がこちらへ駆けてくるなり勢いよく抱き付いてきたのでいつものように彼女の頭を撫でながら褒めてあげる事にしたのだった。

(そういえばこいつはいつもこうやって頭とか撫でる度に幸せそうな顔してたな)

そんな様子を見たホムンクルスの少女ルミナリアはと言うとやはり嫉妬しているのかミディアムを睨んでいたのだがそれに気付いた俺は苦笑しつつも彼女の頭も撫でようと手を伸ばした瞬間、

「……お主よ、ワシにはしてくれないのかの?」

そんな声が突然聞こえてきたため驚いた拍子に伸ばした手が止まり、そちらの方へ視線を向けると何と例の老人がその場に立っていたのである!!そう、今、目の前に姿を現した人物こそかの有名な伝説の魔法使いでもあるマレフィセントその人である!!!俺は思わぬ展開に言葉を失って呆然としていたのだがそこへすかさずルミナリアが飛びついてきた!

「――パパッ♪」

満面の笑みを浮かべながら飛びついてきた彼女を抱き抱えつつ再びマレフィセントの方に目をやるといつの間に移動したのだろうか……気が付くとそこに彼女の姿はなく、代わりに幼女の姿をした魔族らしき人物が立たずんでいた!しかもよく見るとその姿はラフィネに似ているような気がしてならないがそんな事などおかまいなしにこちらに歩み寄ってきたかと思うといきなり抱きついてきたのだ!!あまりの事態に困惑していると不意に声が聞こえてきたので見てみるとそこには先程まで居たはずの女性が何故か笑みを浮かべて立っていたので余計に混乱してしまい、もはやどうしていいのか分からずにいると今度は先程と同じく別の声が聞こえた為、その方向を見るといつの間にか姿を消していた筈の老爺の姿があったのだ!一体これはどういう事なのかさっぱりわからなかったのだがどうやら全員が本物で間違いないらしいがそうなると先程の彼女達は一体何者だったのだろうか……? いくら考えても答えが出ないのでひとまず考えるのをやめてこれからの事を話し合う事にした。とは言っても既に目的は果たしたようなものだったのでもう用はないのだが、だからといってこのまま帰るわけにもいかなかったのでとりあえず今後の方針を皆で話し合おうと考えた俺は皆に呼び掛けるとまず最初に意見を出したのはまさかの人物だった……というのも他でもない国王様だったのだがその内容というのは意外なものでこの周辺をくまなく探索した後、特に何もなければ引き返す事としたそうだ!ちなみに何故そんな回りくどい事をするのかと聞いてみたところ、どうやらこの場所は過去にも来た事があるらしくその際にとある物を見つけていたというのだ。

それを聞いた時、正直言ってそんなものがあるのか疑問を抱いていたのだが彼が言うにはそれがあると断言しているのでとりあえずここは彼に任せる事にして俺達は言われた通りの事を行う事になった――とはいってもすでにほとんど調べ尽くした場所ばかりなのでこれ以上探す場所がないので困ったものだと考えていたその時、不意に背後から人の気配を感じて振り返るとそこにはなんとシェイドが立っていたのだ!だがその表情を見た俺は瞬時に奴がどういう存在なのか理解したのでそのまま何も言わずにじっと眺めているとその姿を見た彼女もまた何も言わずに黙ってこちらを見つめてきたのでこちらから先に話を振る事にした。

「お前もこの大陸に来てたのか?まぁ、今となってはどうでも良いが」

俺がそう言うと彼女は小さく頷き、こう続けた。

「あぁ、私はお前に会う為にここへやってきた……もちろん私の復讐を果たすためにな!」

「……やっぱりそういう事かよ」

その台詞を聞いた途端、予想していた通りの返答が返ってきたので思わずため息を漏らしながらも再び視線を奴の方へと向けてさらにこう言った。

「それでわざわざ俺に殺されに来てくれたって事か……いいだろう、だったら望み通りここで決着をつけようぜ!!」

そう言った後、すぐさま聖剣エクスティアを取り出して構えたのだがなぜか目の前の女性は戦うどころか何もせずにこちらをじっと見続けているだけであって拍子抜けしてしまった俺は彼女に向かってこう問いかけた。

「……どうした、もしかして怖くて動けないとかじゃないだろうな!?」

その言葉に一瞬ではあったが確かに動揺している様子が窺えたのでここぞとばかりに攻め立てる事に決めた俺は素早く動き出して彼女に斬りかかろうとしたその時、突然横から割って入ってきた人物によって攻撃は防がれてしまった――それはなんと国王様の姿でいつの間にか現れた彼は俺とシェイドの間に立つなり俺の方を向いて話しかけてきた。

「そこまでだエルライナ君、気持ちはわかるが少し落ち着け!」

だがそんな事を言われて素直に引き下がれるほど俺もお人好しではないのですぐに反論しようとしたがそれを遮るかのように続けて話し始めた彼の話を聞いてようやく落ち着きを取り戻した俺は聖剣を鞘へと戻した……しかし、未だに奴の方は剣を構えたまま微動だにしていないのを見て訝しげに見つめていると、

「心配しなくてもいいさ、彼女には戦う意思は無いからね」

「……どういう意味ですか?」

国王様の言ってる事が理解出来ずにそう返すと彼は真剣な表情を浮かべて説明し始めた。

「――実はこのシェイド君は私が作った人形なんだ」

「……えっ!?」

予想外の事実を知って驚く俺を見て苦笑を浮かべる国王様だったがそれに構わず詳しい話を聞かせてくれたのでまとめるとこういうことである! そもそものきっかけは勇者と魔王の戦いが終わった直後まで遡るのだが戦いの舞台となった地の調査に赴いた国王様はそこで黒魔術の儀式の痕跡を発見したのだという!それも相当古いもので下手したら数百年単位で放置されていた可能性もある代物だという事で詳しく調査するべく準備をしている最中にふと思い立って魔法を発動させてみると案の定、上手く発動したそうで早速、黒魔術に詳しい者を呼び出したまでは良かったものの肝心のシェイドの姿がどこにも見当たらなかった為、国王様は仕方なく一人で儀式の跡を調査してみた所、地面に妙な跡が残っている事に気が付いてそれを調べてみるとそれが黒魔術の術式だという事が判明してそこから逆算して導き出した結果、このシェイドは黒魔術によるものだと結論付けたのだという……つまり、シェイドの正体とは呪いの一種である《傀儡》だったのである! その事実を知った俺はしばらく呆然としていたがすぐに我に返ってから改めて彼女の方を見ると彼女はようやく持っていた剣を下ろすとこちらへ近づいてきたので思わず身構えたがそんな彼女の様子を見て察した国王様がすかさず間に入ってくれたおかげでなんとか難を逃れる事が出来た――だがそれでもまだ警戒を緩めるつもりなど毛頭ない俺は念のため、いつでも戦える態勢を維持しながら二人の会話を聞くことにしたのだった!

(……とはいえ流石に今回は仕方ないな)

内心ではそう思いつつも決して口に出さず、成り行きを見守っていると不意にマレフィセントの方から話し掛けてきた。

「お主よ、先程はすまんかったのぅ……どうかワシの事を許しておくれ……」

「別に気にしてませんよ、それよりもどうして貴方が謝るのですか?」

「それはじゃな……いや、今は言うべきではないじゃろう……全てが終わった後で話すことにするわい」

そう言ってマレフィセントは静かに目を閉じて何やら考えている様子だったがやがて目を開けると俺の方に視線を向けてから再び口を開いた。

「――ワシの事はもういいとして次はお前さんの話を聞かせてもらうとしようかいの」

「……俺の事って、何の話だよ?」

急にそう言われて戸惑ったがその態度が伝わったのか奴は俺の前まで歩み寄るとじっと見詰め始めたのだが何をしたいのかさっぱりわからなかったので首を傾げると不意にマレフィセントがこんな質問を投げ掛けてきた。「なぁ、お前は一体何の為に力を求めようとしているのじゃ?もしよかったら教えてはくれんかのう?」

「――はっ?いきなりなんだよ!?」

そんな突然の問い掛けに対して戸惑いを隠せずにいた俺はどう答えていいか分からずに黙っているとそれを見た彼女はやれやれといった表情を浮かべるとこんな事を言い出してきたのだ。

「どうやら聞く耳を持たぬようじゃのう……ならこれでどうじゃ?儂には人の考えが手に取るように分かる能力を持っておる……これを使ってお主の記憶を少し覗かせてもらうとしようかのぅ」「おいっ!それって反則じゃないのか!?」

いくらなんでもそんなチート技を使われたらひとたまりもないと思って必死に抵抗を試みるがそんな事もお構いなしと言わんばかりに彼女が何かを唱えると俺の体が光り出し、そして徐々に意識が薄れていく中で彼女の声だけがはっきりと聞こえてきた――『安心せい、少し頭の中を弄くるだけじゃ』――そんな言葉を最後に俺は深い眠りに落ちるような感覚に襲われていった……。………………

(ここは一体……?)

まるで霧に包まれたかのような感覚の中、意識だけはある状態で立ち尽くしているとどこからともなく声が聞こえてきたので耳を傾けているとそれは聞き覚えがある声だったが誰なのか思い出すことが出来ずにいるとまたしても同じ声が頭の中に直接響くようにして聞こえてきた。『さぁ思い出せ!そなたにとって大切な者の事を!』その声が聞こえた瞬間、俺はハッとするように目を覚ましたのだがその直後、全身に痛みが走ったので何事かと思っていると今度は体中をまさぐられるような感触が襲いかかってきて思わず悲鳴を上げた!! するとその瞬間、パッと手を放してくれたお陰で何とか助かった俺は慌ててその場から距離を取ると目の前にいる者に向けて怒鳴り散らしたのだ!「お、お前らいきなり何をするんだよ!?ふざけんなよっ!!」

俺がそう叫んだのは何故かといえば目の前にいたのは例の三人娘でしかも皆、目を真っ赤にしながら俺を押し倒してきて服の中に手を入れて体を触ってきた挙句、舐めまわすかのように全身を見てきたのである――なので身の危険を感じた俺が叫ぶのも無理はないだろう……!しかしそれに対して三人はそれぞれ異なる言葉を返してきた。「ちょっとエルちゃんってば~あまり大きな声を出さないでよ~」

「――そうです、もっと静かにしてくれませんかね?」

「……そうだ、もう少し落ち着け」

上からラフィーネ、ロサ、レイシャがそれぞれそう言うと再び俺に向かって手を伸ばしてきたかと思うとまた服を脱がそうとしたので俺は必死になって抵抗を続けた! その結果、ようやく諦めてくれたらしく三人が離れてくれた事もあってホッと一息ついているとそこにマレフィセントが現れて話しかけてきた。「どうじゃったか?少しは記憶が戻ったかえ?」「……」

無言でいた俺だったがそれでも彼女は察してくれたらしく、小さく頷くと優しく頭を撫でてくれた――その手つきはまるで子供をあやすような感じで正直言って心地良かったが同時に気恥ずかしかった俺は思わず彼女から目を逸らすとそれを見ていた国王様がこう口にした。

「どうやらその様子だと思い出したようだね」

そう言われた途端、俺はハッとなって改めて記憶を辿る事にした――まず、シェイドの正体である黒魔術の術式についてはかつてこの大陸に訪れた際に発見したものと酷似していたので間違いないと確信して次に何故ここに自分が来たのかという理由について考えてみたところ、やはりあの時と同じく自分の中で強い力が手に入るという確信があった事からおそらくこれもそうなのではないかと思ったところでふと脳裏に何者かの姿が浮かんできたので確認してみるとそれは紛れもなく俺自身であったのだ……だがその姿は今よりもだいぶ若く見える姿だったのでおそらくはこの時の年齢は15歳前後だろうかと思われた(というのも当時はあまり外に出歩かない子供だった上に物心ついた時には既に魔王軍の大幹部の一人になっていたので実際に目にした事がないのだ)そしてここから先、何が起きたかというと突如として謎の老人が姿を現して俺に力を与えてやるから代わりに自分を殺せと言ってきたのだ……それを聞いた時は流石に困惑していたがすぐに考え直してこの申し出を受け入れると老人はニヤリと笑って姿を消したのだった……そして俺はその後の出来事を全て思い出した事でなぜあんな場所にいたのかその理由を知ったのだったがそれと同時にマレフィセントやシェイドの言っていた意味についても理解する事が出来たのでようやく謎が全て解けたと思っていたその時、突然横から声をかけられたので振り返ってみるとそこには先程まで倒れていたはずの少女が立っている事に気が付いたので驚いて見つめていると不意に少女はこんな事を口にした。「……お前が私を助けてくれたのか?」

その問いかけに肯定しようとした矢先、突如激しい頭痛に襲われた俺はその場で頭を抱えて悶え苦しみながらもなんとか返事を返そうとしたのだがあまりの痛さにまともに考える事も出来なくなりつつあった――そんな中、少女がこちらに近づいてきて心配そうにしているのが見えた……だがそんな彼女の背後にあの黒い怪物の姿が見えたような気がした瞬間、俺の中で何かが切れる音がして完全に自我を失ってしまった。

それからしばらくしてようやく意識を取り戻した俺はふと我に返った瞬間に自分の今の状況について冷静に判断しようと試みたのだがここで驚くべき光景を目にした俺は驚愕せずにはいられなかった!なんと先ほどまで少女だと思っていた女性が美しい女性の姿に変貌していたからである……!!

(ま、まさかこいつはシェイドなのか?だとしたらどうして急にこんな変化が起きたんだ?)

そう心の中で自問したのとほぼ同時に背後から声が聞こえてきたので振り返るとそこには先程と変わらぬ姿のマレフィセントがいた――ただその表情からはどことなく動揺の色が見える事に気が付いて不思議に思っていると彼女はこう言った。「どうやらもう隠す必要は無いと判断したらしいな、これはつまりそういう事だ」「……」

そう言われて改めてシェイドの方を見ると確かに以前と比べて雰囲気が変わっており、更には禍々しいまでのオーラを感じるようになっていたのでもはや疑いの余地はなかったのだがそれでもなお信じられないという気持ちもあった為、恐る恐る話しかけてみた……「あ、あのぅ、本当に貴女はあのシェイドなんですか?」「ええそうよ」「……で、でもどうしてこんな姿に……?」

「簡単な話よ、貴方が私に黒魔術を施した時と同じように私が彼女に魔法を掛けただけの事だから」

その言葉を聞いた俺はすぐさま納得せざるを得なかった――何故ならそれは以前に俺がやった事のある行為であり、だからこそその方法を彼女も知っていれば簡単に実行する事が可能だったからだ。とはいえここまで完璧に姿を変えてしまうとは思ってもみなかったので驚いている最中、不意にマレフィセントはこんな事を言ってきたのだった。「……それにしてもお主は一体何を考えておるんじゃ?そもそもシェイドは存在そのものが不安定な生き物なのにわざわざそれを自ら作り出すなどと正気の沙汰とは思えぬのじゃ」

その言葉に疑問を抱いた俺は首を傾げてこう尋ねた「え、えっとそれはどういう意味なんだ?」すると彼女は答えてくれた「要するにお主がやっている事は一種の自己犠牲に近いという事じゃよ……自らの命を削ってまで人の為に尽くすというのはある意味、神に等しい行いと言っても過言じゃないわい。もっとも普通の人間ならとっくに死んでる筈じゃろうがお主には特殊な力があってそれが辛うじて可能になっているだけの話じゃからな、とにかくあまり無茶な真似はするもんじゃないわい……!」

それを聞いてようやく合点がいった俺は内心で苦笑しながらも素直に謝った――どうやら俺のやり方がいかに無謀だったのかを思い知らされた気がして反省するしかなかったからだ……しかしそれでも彼女の言う事を真に受けるのならまだやりようがあるかもしれないと思ったのと同時にシェイドが俺に向けてこんな質問を投げ掛けてきたのだった!「さて、お前の聞きたい事はそれだけか?だったら次は私から質問をさせてもらおう」

「えっ!?」いきなりそう言われて思わず聞き返した俺に対して彼女は小さく頷くとこんな事を口にした。「……単刀直入に言おう。私はお前が何者なのかを知らない……だから教えてくれないか?一体お前は誰なのだ?」

そう言ってきたシェイドの言葉に戸惑いを覚えた俺は何と答えていいのかわからないでいるとそれに構わず彼女は更に言葉を続けた「私を殺す前に聞いておきたい、もしよければ教えてくれないか?お前の名前や年齢、生まれ故郷やこれまでの人生なども含めて色々と……」

それを聞いた俺は何も答える事が出来ずに沈黙したままでいたのだがそれを見た彼女は何を思ったのかこんなことを言い出したのだ。「まぁいいだろう……今は無理して言わなくても構わないさ。それよりもこれからどうするつもりなのかを聞いてみたいんだが……」

その問いを耳にした瞬間、ハッと我に返ってから慌てて周囲を見回してみるとそこには国王様をはじめとした多くの人々の姿があった事を思い出した俺は慌てて姿勢を正すと改めてその場にいる者達を見渡してから静かに口を開いた。「皆さんにもお尋ねしたい事があるのですがよろしいでしょうか?」俺がそう言った途端、周囲の者達が一斉に注目したので緊張しながらもゆっくりと話し始めようとしたその時、急に体がふらついてしまいそのまま意識が遠のいていくような感覚に襲われると視界がぼやけていきそこで意識が途切れた……! それからしばらくして目を覚ますと目の前に見えた景色に見覚えがあったので一瞬戸惑ったがすぐにこの場所は自分の部屋である事に気が付くと安堵したのだったがそれと同時に妙な違和感を感じたので見てみるといつの間にかベッドに潜り込んできていたラフィーネに抱き着かれていた事に気付いた俺は驚きつつもとりあえず引き離そうと腕を掴んで強引に引っ張ったらなぜか余計にくっついてきて全く離れようとしないばかりか頬ずりまでしてきたので思わず叫んでしまった「うわっ!?な、何をするんだよ!」「む~エルちゃんのいけず~!」

それを聞いたラフィーネが不満そうに頬を膨らませていたので仕方なく頭を軽く撫でてやると嬉しそうに微笑んでいたので一安心したのだがそんな時にふとある事を思いついたので試しに口にしてみたのだ!「……なぁラフィーネ、俺と一緒に来る気はないか?」「ふぇっ!?」

唐突な言葉に目を白黒させる彼女に対し俺は優しく諭すように語りかけた。「今の話を聞いていてお前も何となく気付いていると思うけど実は俺達の旅の目的はこの世界を救うことにあるんだ……その為にはまだまだやらなきゃいけない事がたくさんあって一人きりでは到底無理だと判断したからこそ一緒に来てくれないかと頼んでいるんだ……」それを聞いた途端、ラフィーネは考え込むような素振りを見せてしばらくすると何かを思い立ったかのような表情をして俺の顔をじっと見つめるとこんな提案をした。「……ねぇエルちゃん、一つ聞いてもいいかな?」

「……ああいいよ、何でも言ってくれ」そう返すと少し間を置いた後で彼女が再び口を開いた。「……もしもだけど私と結婚してくれたら世界を救うお手伝いをしてあげるけどどうする?」「……はい?」あまりにも予想外の言葉だったせいか素っ頓狂な声が出てしまった。

それというのもまさか結婚という言葉が出てくるとは思わなかったし何よりそんな事を言われるとは思っていなかったので動揺を隠しきれないまま返事を待っているとラフィーネは少し顔を赤らめながらこんな事を口にした。「ほらぁ、よく童話とかに出てくるでしょ……悪い魔王を倒した勇者様がお姫様と結婚したりするもの!あれって何だか憧れちゃうんだよね!……でも流石にそこまでの贅沢を言える立場じゃないからせめて結婚する代わりに世界救うの協力するって事ならいいかなって思って言ったんだけど……どう、かな?」

そんな突拍子もない発言に俺は思わず苦笑いしてしまったものの不思議と不快感は無かったのでここは前向きに検討してみようと思って返事をした「わかった、じゃあ約束だよ!必ず世界を救ってみせるからその時は僕の妻になってくれるかい?」

それを聞いた彼女は嬉しそうな表情を浮かべるとすぐに頷いて見せたので早速行動に移そうと思い立つと立ち上がって彼女に背を向けたのだがふとあることを思い出して立ち止まった。

(そうだ、その前にこの剣と防具について確認しないとな……)

そう思って装備していた物を順番に調べてみた結果、特に変化が無いのを確認すると次に聖剣を手に取って刀身を眺めた後で鞘に納めた――そして改めて自分の姿を見るために鏡の前に立った時、思わず息を呑んだ……!何故ならそこに写っていた姿はまるで別人のように成長していたのだ……!!「これが俺なのか……?本当にこれは一体……」

思わず動揺しつつも今の自分の姿が以前とは比べ物にならない程に変わっている事を再認識すると何故か笑みが溢れてきた。「そうか……ついにここまで来たんだ……!」感慨深げに呟いた後で拳を強く握りしめていると不意に背後から声が聞こえたので振り返ってみるとそこにはマレフィセントが立っていたのである。「……その様子だと覚悟が決まったようだな」「ああ、これでもう迷う必要は無いよ……!」「ふふっ、良い心構えだ。これなら次の目的地に向かっても良いだろう、ただし準備だけは怠らないようにしておけよ」「勿論そのつもりだ、ところで今からでも向かえるのかい?」

それに対して彼女は頷きながらこう返してきた。「当然だ、でなければここまで来てはいないさ……さぁ行くぞ!!」

こうして俺達は新たな旅を始める為に旅立つ事になった――だがそれは後に語られる伝説の物語の幕開けに過ぎなかったのである……!

第1章

-完- 次へ >>目次 1 あれから数日後、私達はようやくシェイドの待つ洞窟の入り口へと辿り着いていた。

道中は本当に苦労させられたが何とか無事に着くことが出来た事に安堵の溜息を漏らしながらも洞窟の中を進んでいく事にしたのだがそこでシェイドに声をかけられた事で私は立ち止まると改めて彼の方を向いた。「それで?私を呼び出した理由は何なんだ?」私がそう尋ねると彼はこう切り出してきた。「……そろそろ本題に入るとしよう。実は君に頼みたい事があるのだが聞いてもらえるだろうか?」その言葉を聞いた瞬間、私の胸は激しく高鳴った――何故ならようやくこの時が来たかと喜びに打ち震えていたからだ……なぜなら彼に協力する事こそが自らの存在理由だからだと言えるからである! そう思いながら私は彼にこう告げたのだった「勿論ですともシェイド様!どうか遠慮せずに言ってください、貴方のためなら何だって致しますから!」興奮気味にそう答えた私を見た彼は一瞬だけ笑みを浮かべた後でゆっくりと口を開いた。「ならば話が早い……君に渡したい物があるからそれを取りに行ってもらいたいんだが頼まれてくれないか?」

その言葉に思わず驚いた私は戸惑いつつも彼にこんな質問をしてみた「あのぅ、ちなみにどんな物が要るんでしょうか……?」すると返ってきた答えは予想外とも言えるものだった「うむ、それなんだがな……美音子という少女を捕らえてきて欲しいのだ」「……えっ?そ、それってどういう……」突然の申し出に戸惑う私をよそに彼はこんな事を口にした。「まぁ落ち着け、別に難しい事ではない筈だ。何せ君の得意な魔法で眠らせてしまえば後はどうにでもなるのだから簡単な話じゃないか」

その発言を聞いて私はますます困惑してしまったがそれでも一応考えてみることにした――とはいえどう考えても怪しいとしか思えないし仮に彼が言う通りに成功したとしてもその後は一体どうすればいいのだろうか……?そう考えると素直に引き受ける事に躊躇を覚えたがそれと同時にここで断ったりしたら間違いなく怪しまれてしまうに違いないと思った私は意を決して首を縦に振った。「分かりました、やってみましょう……!」そう言って返事をすると彼も満足そうに微笑んだので私は更に続けた。「ただ一つだけ条件があるのですがよろしいでしょうか?」そう言うと途端に怪訝そうな顔をされたもののすぐさまこう言ってきた。「何だね、まさか今更断るつもりじゃないだろうな……?」「いえいえそんな事は決してございませんよ……もし成功させた暁には是非ご褒美をいただきたいのです」「……褒美だと?」不思議そうに首を傾げた彼に向けて頷くと私は続けてこう話した。「ええ、貴方がいつも連れていらっしゃる可愛い妖精達を見せてもらえないでしょうか?とても興味がありまして一度見てみたいと思ってたんです!」

それを聞いた彼はしばらくの間、黙り込んでいたのだがやがてゆっくりと頷いてくれたのでホッと胸を撫で下ろしたのだが同時にある事に気が付いた。「あれ、今『いつもの』と言いましたか?ひょっとしてあの子達は他にもいるのですか!?」思わず詰め寄った私に対し彼は平然とした様子で頷いた後、意外な事実を教えてくれた。「勿論だとも、彼女達はこの洞窟に住まわせているからな。もっとも滅多に姿を現さないが……」「……へぇ~、そうだったんですか!いやぁ楽しみですねぇ~!」思わずニヤニヤしているとそんな彼に呆れられてしまったのだがそれに構わず話を先に進める事にした。

「では準備が整ったら出発するとしよう、期待して待っているぞ」「はっ、承知致しました!すぐに行って参ります!」

2 そうしてシェイドの元を離れた俺は仲間達と一緒に近くの町へと戻ると必要な物資を買い込むことにしたのだがここでラフィーネにある事を告げた。「すまないが俺一人で行くことにするよ、皆はここで待っていてくれないかな?」俺の提案に対して最初に口を出したのはルシフェルだった。「どうしてお前がわざわざ一人で行く必要があるんだ、しかも私達まで置いていくなんて納得出来ないんだが……」「うん、そうだよ!だって僕達はもう仲間なんだからさ、皆で一緒に行った方が安全だし早いでしょ!」続いてスサノオも賛成してくれたもののラフィーネは違ったようだ。

どうやら彼女の考えとしては俺を危険な目に遭わせる訳には行かないと考えているようで頑なに拒んできたのでどうしたものかと考えていた時、ふいにある考えが頭に浮かんだ俺は彼女に近づいてから耳打ちした。(俺が戻ってくるまでに例の薬を用意しておいてくれないか?……頼む!)それを聞いた途端、ハッとした表情を見せた彼女は無言で何度も頷くのを見てホッとしたところで早速出かける事にした。

それから一時間ほど経過したところでようやく目的の場所である森に到着した時にはすっかり日が落ちかけていたのだがそんな中で俺は周囲の様子を確認しながら歩いていた……というのもこの辺りの森は非常に広いうえに深いところまで続いているため下手に入り込むと遭難してしまう危険性があるのだが幸いにもこの付近には大きな川があるのでその付近だけは比較的安全な場所なのである。だからあえてこの周辺を重点的に捜索しようと考えた訳だし当然、その理由について聞かれる事になるのは目に見えていたので予め説明をしておいた。(ここだけの話なんだけどこの近くにエルフ族の少女が捕まっているらしいんだよね……だからその子を助け出した後で君達の事も探してあげるからさ、今はとりあえず我慢していて欲しいんだよ)

そこまで話したら全員が渋々といった表情で納得したのでそのまま森の奥へと入っていったもののまだ昼だというのに森の中は相変わらず薄暗いせいでかなり不気味な雰囲気が漂っていた。その為、周囲に細心の注意を払いつつ注意深く進んでいったその時――突然目の前に誰かが立ち塞がったかと思ったらいきなり声をかけてきてこう言った。「おや、こんなところで何をしているのかな……?ここは君のような者がくるような所ではないんだが」そう言って近付いてきた相手を見て思わず目を見開いてしまった……何故ならそこにいた人物とはまさに探し求めていたエルフ族の少女であったからだ! 3 目の前にいる彼女がエルフ族だと分かると俺を含めた他の者達も驚いてしまったのだがその中でも最も反応したのはルシフェルでそのせいか少し怯えた様子だった。それを見た彼女は微笑みながらこう話しかけたのである。「心配しなくてもいいよ、君は確か人間達の国にいたよね……?僕はそこにいるシェイド様の使い魔なんだ」その言葉を聞いた瞬間、俺達は更に驚かされる事となった……なんと目の前の相手は神様の使いだったのである……!「ほ、本当なのですか!?」半信半疑のままそう尋ねると彼女は小さく頷いた後に自己紹介をした――名前はフィナと言うらしくシェイドに仕える神獣として生み出された存在であるという事を話してくれたのだ。

(なるほど、そういう事だったのか……道理で普通じゃない雰囲気を感じたはずだよな!)

心の中で納得する一方で今度は俺から質問する事にした。「ところで聞きたい事があるんですが宜しいですか?」「うん、僕に答えられる事なら構わないけど一体なんだい?」「ありがとうございます、実はここに住んでいるシェイドという方にお会いしたいんですけどどうすれば会えますかね?」そう尋ねるとしばらく考える素振りを見せた後でこう返してきた。「……分かった、僕から事情を説明して許可を取っておくよ。ただ今から話す事は絶対誰にも言わないでくれよ」

4 フィナさんの口から語られた内容は衝撃的なものだった……何故ならそれはこれから起こるであろう戦いについての話だからである!「――とまあ、そういう訳なので君が思っているよりも事態は深刻だというのが正直な感想だよ……何しろシェイド様は以前の戦いでかなりの深手を負ってしまったからね、今は何とか回復されたようだけど全盛期に比べるとやはり見劣りするだろう……そこで君にお願いがあるんだ、どうか彼を支えてあげてほしい……!」真剣な表情でそう言った彼女だったがすぐに何かを思い出したのか慌てて付け足すようにこんな事を言ってきた。「……ああ、でも勘違いしないでおくれよ!別に彼の力になりたいとかそういうんじゃなくて単に借りを作りたくないだけだというだけだからね、あくまでも僕の為なんだからそこのところは間違えないでくれたまえ!」それを聞いて思わず苦笑いしながら頷いてみせた後で彼女に感謝の気持ちを伝えるのだった――こうして無事に交渉を終えた後、俺は一旦屋敷に戻る事にしたので皆に事情を説明したうえでここで別れる事にしたのだがその際、ルシフェルにこう声をかけられたのである。「おいお前、本当に一人で行くつもりなのか……?」そう尋ねてきた彼女の表情はどこか悲しげだった――だが俺はそんな彼女に向けて力強く答えた。「……大丈夫だよ、俺を信じて待っていてほしい……!」その言葉を聞いた彼女はそれ以上何も言ってこなかったので安心した俺は改めてフィナさんにお礼を言った後で屋敷に帰るために再び歩き出した。

5 その後、屋敷に帰った俺は夕食を終えて皆が寝静まった頃に行動を開始した……ちなみに今夜は俺とスサノオ以外は既に眠りに就いている状態だったので邪魔されずに出歩く事が出来ると考えたのだ。そして現在、一人夜の森を彷徨っている中でふと気になったのは先程、会った少女の事だ……何故ならば彼女の名前を思い出せないばかりか姿すら思い出せなかったからである。

恐らくフィナさんの話にあった何らかの影響で記憶が薄れてしまっているのだろうがこればかりはどうする事も出来なかったので諦める事にした。(まぁいずれ思い出すだろうしあまり深く考えるのは止めにしよう……それよりも問題はどうやって彼女を助け出すかだよな)そんな事を考えながら周囲を見回した直後、俺はとんでもないものを目撃してしまったのである! 6 驚いたのは言うまでもないがその理由は二つあった……まず一つ目としては俺が歩いている場所は一本道になっており、さらに左右に生えている木々には等間隔に無数の蝋燭が取り付けられていたのだがそれが突如として消え始めたという出来事に動揺しない者などいるのだろうか?……否、そんなはずはないのだがそれ以上に衝撃を受けたのはもう一つの理由の方が遥かに大きかった。それは何者かが俺の後をつけているような気配を感じたのだ――しかも気のせいかもしれないが確実にこちらへ近付いてきているようだった。

7 流石にこれ以上、歩き続けるのは危険と判断した俺は近くにあった岩陰に身を隠すと相手が何者なのか確認する為に様子を伺う事にした。ところがいつまで経っても一向に姿を見せないので痺れを切らした俺は覚悟を決めると一気に飛び出した。すると次の瞬間、そこには驚くべき光景があった!なんと何とそこにいたのは全身が血だらけの男であり手には剣が握られていたからだ! 8 あまりにもショッキングな見た目をしていたせいもあり思わず叫び声を上げそうになった俺に対し男は静かにするようジェスチャーを送ってきたのでそれに従おうとした矢先、不意に男の口が開いたかと思えば意外な事を言い出してきたのである。「悪いんだが今すぐここから立ち去ってくれないか?その代わり君の事は誰にも言わないしこの通り武器も捨てるつもりだ……」それを聞いた俺は戸惑いつつも相手に尋ねた。「あのぅ、一つお聞きしても宜しいでしょうか……?」「……何だね?」警戒しているのか身構えたままでいる男に恐る恐る問いかけた。

「えっと、貴方は一体何者なんですか……?どうして私を追っていたんですか……?」

それを聞いた男は途端に気不味そうな表情を浮かべたもののしばらくしてから諦めた様子で語り出した。

「……そうだな、君には話しておいた方がいいだろう。実を言うと私はある国の騎士団に所属していたんだ、これでも一応団長という立場を任されるくらいの地位でね……しかし今は事情があって抜けてきたところなんだよ」「……なるほど、それでさっきの質問に答えてくれますか?」そう促すと彼は再び口を開いた。「確かに最初は君を捕まえようとしたんだけどどうも様子がおかしい事に気付いたんだよ……何故なら普通の人間ならば私の姿を見て怯えてもおかしくないというのに君はまるで恐怖を感じていないように感じられたからさ。そこで考えた結果、もしかすると君は我々とは違う世界の住人なのではないかと思ったんだよ。だから直接会って確かめてみたくなって追いかけてきたというわけだがこれで分かってくれたかな?」それを聞いていた俺は彼が何を言いたかったのかようやく理解した――どうやら俺の勘は正しかったようだ。

「ところで話は変わるがこれからどうするつもりなんだ……?出来ればこのまま帰らずに我々の国まで同行してもらいたいんだが駄目だろうか?」男がそう尋ねてきたが勿論断るつもりでいたものの一つだけ確認したい事があったので聞いてみた。「分かりました、その前にもう一つだけ聞かせて下さい!あなたは先ほど私が別の世界から来た人間だと言ったはずですけどそれなら帰る方法を知っているんですよね……?」それを聞いた瞬間、男の顔色が一瞬だけ変わったような気がした――これはつまりそういう事なのだと確信した俺は意を決してこう答えた。「……申し訳ありませんが元の世界に帰るつもりはありませんのでどうかご安心ください」そう伝えると相手はひどく残念そうな表情になった後で溜め息を吐いた。「そうか、君は帰らないつもりなのだな……?それでは仕方あるまい、君を殺してしまう事にしよう……!」そう言うと剣を鞘から抜き取った上でゆっくりと歩み寄ってきた――その時、俺は思わず後退ってしまったのだがそれでも何とか勇気を振り絞って構えを取った……もう後には引けないのだからやるしかないと思い込んだ末に勢いよく飛び出していった! 9 こうして始まった決闘は想像以上に激しいものとなった。何故ならこちらがいくら攻撃しようにも向こうはそれをことごとく避けてくる上にこちらは疲労していく一方でどんどん押され気味になっていったからである。このままではやられてしまうのではないかと危惧していた矢先の事だった――急に相手の動きが止まったのである!一体どうしたのだろうかと思っているうちに今度はこちらの番だと言わんばかりに剣を振りかざした瞬間、相手はその場に倒れ込んだのである……! 10

(……えっ、どういう事!?)目の前で起きた出来事が信じられずに戸惑っていたがそれとは別に何かが聞こえてくる事に気付いた……それは誰かの声ではなく頭の中に直接響いてくるものだったのだ。

『……聞こえますか、勇者様』「うわっ!?」驚いてしまいながらも辺りを見回すと声の主は目の前にいる相手だという事に気付き思わず二度見してしまった――というのもこれまで見てきた彼とは異なりとても美しい女性の姿になっていたからだ。

しかし彼女はそんな事などお構いなしといった感じでこう語りかけてきた――「驚かせてしまい大変申し訳ございません、実は貴方にお願いしたい事があるのです。その願いを聞き入れて頂ければ元の場所に戻してさしあげますし元の世界に帰らせてあげます、どうですか、聞きたくありませんか?」それを聞いて俺は迷わず首を縦に振った。

11 彼女が提示してきた条件は以下の通りだった――一つ目として異世界へ行けるようになるためには女神の力が宿っている指輪が必要であるので必ず手に入れるようにするというものだった。そして二つ目として旅をする中で遭遇した人々に対して無償で手を差し伸べる事であった――ただし悪人に対しては容赦する必要は無いというのでその辺りだけは気を付ける必要があったのである。それから最後に三つ目の条件はこれから向かう先で出会った人の名前は決して忘れてはいけないという事だったがこちらに関しては特に難しくなかった為、難なくこなす事が出来た。こうして全ての条件を満たす事に成功した俺は彼女の力で元いた場所に戻った後に屋敷へ戻ると早速ベッドの中に入った後で眠る事にしたのだった。

翌朝、目が覚めてからいつものようにリビングへ向かった俺はソファーに座って一息ついた後でふと昨夜の事を思い出してみた――すると不思議な事にほとんど記憶が蘇ってきたのだ。

おかげで自分の置かれている立場についても理解するに至った――何故ならば昨日まではただの高校生だったのに朝起きたら見知らぬ森にいた上に名前すらも思い出せなかったのだから。とはいえそこまで落ち込むような事でもなかったので何とか気持ちを切り替える事にした……何せ自分には帰るべき家があり、そこで待っている仲間がいるからである!そして俺は新たな気持ちで今日からの学校生活に挑もうとした矢先、ふと思い出した事があったのでルシフェルに声をかけた。「そういえばさ、まだ聞いてなかったけど君達は何の為に戦っているんだい?」その質問を受けた彼女はすぐに答えてくれた。「私達は神を倒す為に戦っています……ですが、残念ながら未だに成し遂げられそうにもありませんけどね」どこか悲しげにそう言った彼女を見ているうちに申し訳ない気持ちになってきたがその一方で一つの疑問が浮かんだので尋ねてみることにした。「あ、あのさ……もしかして俺が思っている以上に事態は深刻だって言っていたけどそれはどういう意味なんだい?何か知っているようなら教えてくれないかな?」

それを聞いた途端、彼女は少し悩んだ末にこう答えるのだった――「ええ、もちろん構いませんよ……むしろ私も貴方の意見を参考にして考えてみようと思っていましたからね!」

その後、俺はルシフェルの話に耳を傾けながら真剣に話を聞く事にした……果たして何が語られるのやらと思っていたものの彼女の話によるとフィナさんの言う通り戦いは既に始まっていたのだという。しかもそれはかつて大魔王によって世界を侵略された時の再来とも言えるほど酷い状況であり今の彼女達では手も足も出ないというのだから驚きである。

12 そんな話を聞いているうちに改めて感じた事が一つあった――やはり自分は勇者だったのだという事である。だが、同時に不思議に思った事もあった……何故なら自分に関する記憶を殆ど失っていたにもかかわらずどうしてこの世界に来たのかという事がどうしても理解出来なかったからである! そんな事を考えながら頭を抱えていると不意にルシフェルに話しかけられた。「ねぇ、貴方はもし自分が勇者じゃなかったらどうなっていたと思いますか……?」突然の問い掛けに困惑しながらも考えているとやがて答えが出たのでそれを彼女に伝えた。「きっと今頃、何も変わらない毎日を過ごして普通に高校を卒業してから大学へ入って普通の会社に就職してそれなりの人生を歩んでいたんじゃないかなぁ……ってそう思うんだけどね」すると彼女はしばらく間を置いた後で再び話し始めた。「……確かにそれが一番良いのかもしれません、しかし実際はそうはならなかったからこそ今に至っているわけですから貴方が思っているように上手くはいかないものなんですよ……」それを聞いた時、何となくではあるがこれまでの経緯が見えてきたような気がした……何故ならこの数ヶ月の間ずっと違和感を抱き続けていたからだ。

「なるほどね……じゃあ仮に記憶を取り戻したとしても結局は同じ道を歩んでいく事になるというわけかい?」俺の質問に頷いた後で「その通りです……だからこそ我々は今まであらゆる手を尽くしてこの世界を守ろうとしたのですよ」と言って話を終えたところでようやく長い夜が明けたので俺達は揃って学校へ行く事にしたのだった。

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