第二十九話 『同志』
人ならざる者であり、人の魂を喰らう者。
二鬼の魍魎『
「最後に言い残すことはあるか?」
奥歯を噛み締め鋭い眼光で睨んだ。
「勝った気になるなよ…女ぁ!」
次の瞬間、叫び声と共に大きく開いた口の中から、毒牙が銃弾の様に飛び出した。
鈍い音がした。
牙が体にめり込む音だ。
しかし
「お前ぇええ…!
それは
手のひらにめり込んだ毒牙を力強く握りつぶすと、
強烈な一撃が
その衝撃で空中を舞いながら地面に倒れる。
「うぐふっ……!」
大の字に寝そべり放心状態となる。
その間にも
大きく歯を噛み合わせて音を立てる。
それを合図に、
「どうだ人間!これが僕の真の姿だ!貴様らなど全員まとめて丸呑みにしてやる!」
その体は十太郎や月乃が対峙した時よりも遥かに大きかった。
辺りの大木を
「さぁ…!誰から頂くとしよ…」
刹那…
それは目の前の
「なっ……」
「自ら当てる
「…ただの馬鹿か。」
半分に裂かれた体は激しく燃え上がり、
もはや声など聞こえることもなく、二鬼の魍魎は灰になるまで静かに燃え尽きた。
「…あんたは?」
十太郎の声に反応し、
「
十太郎と月乃は
「俺は
「月乃です!」
「お前たちこそ、こんな所で何をしている?見たところ…ただの剣士では無さそうだが…」
すると
刀の中から発する微かな妖気に気がついたのだ。
「…まさか…お前…」
何かを言いかけた
「
それは男の声だった。
十太郎たちの背後から足音が近づいて来る。
「『
「お前が速すぎんだよ。ほら…『
すると別の男がその後を追って、息を切らしながら駆け寄って来る。
「はぁ…はぁ…二人とも早いじゃないかぁ。もう少しお年寄りを
見た目は茶髪の四、五十代の男。
着物の帯から黒い羽織を
たまらず十太郎たちの隣に座り込む。
「よいしょっ…失礼するよぉ。」
十太郎たちはこの状況に困惑する。
「いきなり驚かして済まなかったねぇ。僕達は君達の味方だよ。」
「味方って…」
十太郎は八重一郎を見つめた。
「お前たち…刀に魍魎を宿しているな?」
十太郎は何も言わず、二本の刀…
すると二本の刀はそれぞれ、
すると
「『
するとその言葉に反応し、清姫が口を開いた。
「随分と魍魎に詳しいようじゃな。研究者か何かか?」
「笑わせるな。貴様ら魍魎を
「ふんっ…」
相対する清姫と
今度は天狐が口を開く。
「その刀にも魍魎を宿しているようだな。」
すると刀は小刻みに震え出し、緋叉那はそれを左手で押さえる。
「あぁ。
「好んで人間の下につくか…変わった魍魎も居るのだな。」
「ふっ…」
緋叉那は天狐の言動に対し鼻で笑った。
「何がおかしい?」
「いや…貴様らも同じだと思ってな。その少年の下についているのだろう?」
すると緋叉那の問いかけに対し、清姫は怒りを露わにする。
「ふざけるな…!誰がこんな小僧の…」
話の途中だが、十太郎は清姫の前に立ち言葉を遮った。
「俺は清姫の心臓を喰った。そして自分の心臓はもうこの世には無い。」
風樹と八重一郎は目を見開いた。
緋叉那は表情を一切変えず、相変わらず冷たい目で十太郎を見つめる。
「それで…どうなった?」
緋叉那は質問を続けた。
十太郎は自身の左胸に手を当てた。
「死なない体になった…。」
さすがの緋叉那も、この言葉には驚いた。
「死なない…?」
すると清姫が話し始める。
「小僧は
緋叉那は腕を組み、少しの間考えた。
「体質ごと魍魎の能力に変える人間は見た事が無い…。」
「じゃろうな。魍魎の心臓を喰らう
清姫の毒舌に、十太郎は苦笑いを浮かべた。
十太郎達は緋叉那一行と共に、身を隠していた
元太は月乃のもとへ駆け寄る。
「姉ちゃん…!!!」
「元太…よく頑張ったね。」
月乃は元太と同じ目線までしゃがみ込み、頭を優しく撫でた。
吉介は地面に敷かれた
すると月乃の刀から長子が実体として姿を現した。
「まったく…こいつはいつまで寝ている。」
そのまま長子は眠りにつく吉介の腹を軽く蹴飛ばした。
「ぐふっ…!」
吉介は慌てて飛び起き、辺りを挙動不審に見渡す。
「あ…あれ?…ここ…どこ?」
場の状況を理解していない吉介に対し、長子はため息をついた。
その様子を緋叉那一行は見つめていた。
十太郎は緋叉那に語りかける。
「月乃の刀には『
「…なるほど。惜しい人間が二人も…」
「…え?」
すると緋叉那の後ろから風樹が前に出た。
「おい緋叉那。お前まさかこいつらを仲間にしようってんじゃないだろうな?」
風樹は不満げな表情で言った。
しかし緋叉那はどこか遠くを見つめ、再び口を開いた。
「
「…あぁ。」
「お前の目的はなんだ?」
単刀直入に問いかけた。
十太郎を見つめるその眼光は、心の奥の奥まで見つめられているような感覚だった。
しかし十太郎は動じなかった。
心に誓った思いを…ありのままを打ち明けた。
「…この手で『
その目は真剣そのもの。
それは緋叉那の目にも映っていた。
「風樹…私はお前の事も、八重一郎の事も仲間にした覚えは無いぞ。」
「…あ?」
「全ての魍魎を滅するという使命を持った
『同志』だと思っている。」
冷徹なその目は
「十太郎…お前を同志として我ら『
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