第九話 『銘刀・数珠丸』
人ならざる者であり、人の魂を喰らう者。
しかし刀に触れた瞬間、外道は十太郎の体に乗り移ったのであった…。
体が小刻みに震え、自由が効かなくなる。
「くっ……今度は俺かよ…」
思わず地面に膝をつく。
「小僧…どうした?」
気を抜けば、すぐに体を持っていかれる。
ここに静かな闘いが始まった。
「影女め…ここから逃げたか。」
地面を蹴り上げ、穴から外へ出る。
そこには横たわる恒次の姿があった。
「なんだ…もう終わったのか。」
天狐は辺りを見渡す。
すると封印の刀を握りしめて
「
様子がおかしいことに気がついた。
十太郎は今まさに闘いの
「くっ……くそ……」
頭の中にお
次第にそれは、はっきりとした言葉として聞こえ始める。
「死にたい…助けて…嫌だよ…殺して…」
負の感情が騒いでいるのだ。
それは人々の悲痛な叫び…そして怒りであった。
「殺す…殺してやる…許さない…許さない!」
声は次第に大きくなっていく。
左手で頭を押さえ、なんとか意識を保とうと踏ん張る。
「くっ…なんなんだよ…これ…」
すると十太郎の中から、赤い妖気と共に外道が姿を現した。
「人間よ…これが貴様らの本性だ。人間を
十太郎は地面に刀を刺し、
外道がじわじわと体を
「寂しい…悲しい…助けてよ…お兄ちゃん…」
「くっ……やめろぉ…やめて…くれ…」
体は
そんな時、十太郎の目の前に天狐が現れた。
「…天狐…」
「
「くっ…」
「お主には無理だ。ここで諦めろ。」
天狐の言葉に怒りが込み上げてくる。
しかし怒りの感情は外道にとって好都合。
「そうだ…もっと怒れ。もっと感情を自由に爆発させるのだ。そうすれば貴様も楽になれるぞ。」
その時、十太郎の頭にある言葉がよぎった。
『…貴様が
それはいつかの清姫の言葉であった。
『何をそんなに迷う必要がある?』
『迷ってんじゃねぇ。考えてんだ。』
十太郎は自分の言葉に気付かされる。
再び頭の中に記憶がよぎる。
『俺が全ての魍魎をこの手で封印した
「そうだ…俺は誓ったんだ。だから…こんな所で諦める訳にはいかないんだ。」
天狐の言葉が頭をよぎる。
『お主には無理だ。ここで諦め…』
その時、十太郎は目を大きく開き顔を上げた。
「諦めるか馬鹿野郎ー!!!」
握りしめた刀を天狐に向けて勢いよく突き出した。
剣先は天狐の顔の寸前で止まる。
「ふん…やっと目を覚ましたか。」
「はぁ…はぁ…あぁ…待たせたな…。」
「誰も主など待っておらぬわ。」
十太郎は刀を空に
その瞬間、刀は紫色の光を放ち始める。
「これは…封印の…」
「
十太郎はゆっくり
「清姫を封印した時の
すると外道は十太郎の行動に驚いた。
「くっ…貴様!何をする気だ!?」
慌てふためく外道を
「腹ぁくくれよ!外道!」
刀は勢いよく十太郎の腹に突き刺さる。
再び紫色の光を放ち、辺りを包み込んだ。
影が引き伸ばされ、視界が真っ白になった。
光が消え視力を取り戻すと、腹には刀が突き刺さっていた。
「…いってぇええ!!!なんじゃこりゃあ!」
十太郎はその場で
しかし少し冷静になってみると、腹に痛みは全く感じなかった。
「…って…あれ?全然痛くない。」
刀を腹から引き抜く。
体に突き刺さっていたというよりかは、体をすり抜けていた感覚に近い。
出血も無く無傷だ。
「すげぇ…何だよこの刀…」
刀身を眺める十太郎の視線の先に、ぼんやりと人影が映る。
恒次が立っていたのだ。
「少年よ…よくぞ外道を封印してくれた。」
恒次は十太郎に歩み寄る。
「あんたが…恒次さん?」
「あぁそうだ。その刀は『
「数珠丸…これが…。」
しかしその時、十太郎の背後から
慌てて振り返ると、そこには影女が立っていた。
十太郎と天狐は刀を構えた。
「まだこいつが残っていたんだった。」
「
すると十太郎は恒次を
「恒次さん…あんたは下がっててくれ。それと…この刀借りるぜ!」
「少年…まさかあの魍魎を封印するというのか…?」
「あぁ…俺に与えられた使命だからな!」
恒次は地面に刺さった童子切に視線を向けた。
「あれは…『
再び視線を十太郎の方へと戻す。
「少年…君は一体…」
「
影女の影はみるみる巨大化していく。
そしてそれは、大きな牙と爪をもった
「外道…
その呼びかけに応じ、影女の体から赤い妖気が漏れ出す。
外道は封印されていなかったのだ。
赤い妖気は影女の作り出した影の獣に乗り移る。
「なんだよ…あれ…」
「
「んなこと聞くんじゃねぇよ…。」
影の獣は赤い妖気を
「…どっちも化け物じゃねぇか。」
かつて
影女は不気味な笑みを浮かべた。
「さぁ…ゆくぞ外道…!」
「我ら百鬼ノ魍魎の力を見せてやる!」
再び闘いの
張り詰める空気に
先程までの外道とは、妖気の質も重さも違う。
「
「了解…んじゃあ俺は…あの化け物ね…。」
十太郎の表情が引き
無理もない。外道が取り憑く影は、建物三つ分相当の大きさだ。
「まずは奴らを引き離すぞ。」
天狐の合図と共に、十太郎達は左右に散った。
十太郎は童子切を地面から抜き、外道の元へ駆け出す。
天狐は既に影女の前まで移動していた。
「次こそ主の息の根を止めてやる。」
「ほざけ…!化狐!」
二鬼の魍魎が衝突し、激しい砂煙が舞う。
天狐は刀を乱舞し、影女を押していく。
「
「影がある以上…私は切れぬぞ!」
天狐は地面を力強く踏みしめた。
その瞬間、天狐の両脇から二体の分身が出現する。
「『
分身は五…六…七…と増え、最終的には九体もの分身が連続攻撃を仕掛ける。
影女は
「うぐっ…くっ…!」
最後の斬撃が腹に突き刺さった。
「どうした?さっきまでの
「くっ…くそ…」
「お主本体に妖力を当てていれば、影の中には逃げれんだろう。」
影女は刀を刺されたまま地面に膝をついた。
十太郎は全速力で走り、外道の背後に回り込もうとする。
しかし十太郎の歩幅では、直ぐに巨体に追いつかれてしまう。
気がつけば天狐達の居る方へと近づいていた。
「どうやってあの巨体と闘えばいいんだよ!」
逃げることしか出来ない十太郎は、ついに天狐を横切る。
「…何をしているんだ…あの
十太郎は天狐の方に視線を向けると、そちらは既に勝負がついていることに気がつく。
するといきなり足を止め、二本の刀を構えた。
「正面からぶった斬るしかねぇか。」
十太郎は童子切と数珠丸を構え、再び外道に向かって走り出した。
「清姫!あれをやる!」
そう言い放った瞬間、十太郎の体は
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