第八話 『銘刀・鬼丸』
人ならざる者であり、人の魂を喰らう者。
この物語の主人公『
『
ゆらゆらと揺れる女の影。
地面から浮き出る影の刃。
十太郎は二本の刀を構え動きに備える。
その時、
同時に影の刃が十太郎に襲い掛かる。
十太郎は刀でそれを
しかし影の刃は次々と出現し、切っても切っても影は元に戻る。
「んだよ…!これじゃあきりがねぇ…!」
十太郎はどんどん後退していく。
影は壁を走り、加速しながら追って来る。
「私の影からは
素早く手数の多い攻撃は防ぐので精一杯だ。
すると十太郎は、視界に入ったある物を手掛かりに
地面を踏み締め、
両手でもう一本の刀…
「私の妖力で…今度は何をするつもりだ?」
天狐の問いかけに、十太郎はただ笑みを浮かべて見せた。
そして刀を勢いよく振り上げた。
「これでどうだぁあ!!!」
振り上げた刀からは、竜巻のような突風が放たれた。
影女はすかさず自らの影の中に身を隠す。
突風は辺りの
洞窟は暗闇と化し、そして影は消えた。
「どうだ!これなら影の攻撃は出来ねぇだろ!」
影女は再び実体を見せる。
十太郎の言う通り、影の能力は発揮出来ていないようだ。
「おのれ…人間め…」
十太郎の機転により
その時、背後からとてつもない妖気を感じた。
どうやら影女とは別のもののようだ。
「人間よ…。我々の邪魔をするな。」
十太郎の背後から姿を現したのは、右手に刀を持った何かだった。
しかし暗闇
しかしそれから感じる妖気は凄まじいものだ。
その時、再び
火の
そしてただならぬ妖気の持ち主が姿を現した。
それは右手に刀を持った僧侶だった。
「新手か…?」
十太郎の問いかけには反応を示さない。
それどころか完全に目を閉じている。
僧侶の背後から赤い蒸気が出現する。
それは次第に恐ろしい鬼の顔へと形を変えていった。
「
二鬼の魍魎に囲まれてしまった十太郎。
このままでは挟み撃ちに合う。
逃げ場を完全に失ってしまった。
すると十太郎は、ふと鬼丸を見つめ、刀の中の天狐に語りかける。
「天狐…お前は確か『自由』が欲しいって言ってたよな?」
「…それがどうした?」
十太郎は刀を地面に突き刺し
「刀を軽くする条件だ!ずっと考えてたけど…良い方法を思いついたぜ!」
「何をするつもりだ?」
「戦闘時…俺に協力する代わりに、お前は自由に
天狐は驚いた。
しかし天狐にとっては、刀の外へ出る
「面白い…。だがどうやって…?」
「『具現化』の要領でやる。刀を
すると鬼丸から黄色い妖気が溢れ出した。
「出来るかだと?随分と舐められたものだな。私は百鬼ノ魍魎一の妖術使い…」
そして妖気は刀を呑み込み、天狐の姿へと変化した。
「
次の瞬間、天狐の姿は一瞬にして消えた。
次に姿を現したのは影女の目の前だった。
「なっ……!」
「よう…影女。」
影女の胴体は天狐の鋭い爪に引き裂かれる。
「ちっ……!」
分裂したはずの胴体は影の中に消えた。
そうしている間にも、外道に操られた僧侶が十太郎に襲い掛かる。
十太郎は素早く童子切を抜刀すると、刀と刀がぶつかり合い火花が散る。
すると刀の中の清姫が呟いた。
「化狐め…調子に乗りおって…」
「なんだ…?
「
刀を
「そんときは天狐の体ごと鬼丸の鞘に封じ込める。それに…お前ら
「甘いのぉ。」
「なんだ清姫。そんなに俺の心配をしてくれてんのか?」
童子切に
「だったら…お前は俺と一緒に闘え!」
焔を
するとその時、童子切の焔が急激に弱まり出した。
「…清姫!どうした!?」
焔は完全に消え、一気に押し返される。
「くっ……!」
後退し体勢を整える。
「どうしたんだよ!いきなり…」
「分からんのか。奴の持っておる刀じゃ。」
清姫に言われるがまま、僧侶の持つ刀に視線を向けた。
刀は紫色の光を放ち、焔を吸収していたのだ。
「あれは…
「どうやら奴が恒次とやらで間違いないな。」
しかし恒次は完全に意識を失い、外道に操られている。
「これじゃあ下手に攻撃も出来ない…。」
十太郎の前に障害が立ちはだかるのであった。
一方その頃天狐は、壁を滑る様に逃げ回る影を追っていた。
「ちょこまかと…こざかしい。」
岩壁を爪で
「くくくく…どうしたどうした?お前の
派手に
「無駄だというのが分らんのか!」
ついに天狐は足を止めた。
そして目を閉じ深呼吸をする。
「『鬼丸』!」
言葉を放った次の瞬間、天狐の手のひらから、剣先…刀身…
刀を握った天狐は
「刀が重くてなぁ…。本来の速度が出せんかったのだ。」
影女に刀を真っ直ぐ向けた。
「これでお
天狐は地面を蹴り、
影女は風に押され後退する。
やがて天狐が目の前に現れると共に、影女の左腕が宙を舞った。
「うぐっ…!?」
見えなかった。
刀を振り上げたのか振り下ろしたのかさえも。
影女は再び影の中へ飛び込んだ。
しかし天狐はその先を読んでいた。
「逃すか!」
刀を横に振り風圧を飛ばす。
すると辺りの
影の中から実体は外へ放り出される。
「くっ…おのれ…!」
影女は地面に着地した。
しかし背後は既に取られていた。
「うっ…ぐっ…!」
背中を刀で一突きしたのは天狐の分身体であった。
影女はその場に膝をつき吐血する。
天狐の本体がゆっくりと近づき、刀を前に突き立てる。
「私の俊敏さが…なんだったかのう?」
天狐は影女を見下す。
その時、大きな爆発音と共に天狐の背後から大きな光が差した。
「なっ…!」
光により再び影が出現してしまう。
天狐はすかさず刀を振るも、影の中に逃げられてしまう。
刀は地面に刺さり、その隙に影女は十太郎の方へと向かった。
天井に空いた大きな穴。
光の正体はこれだった。
洞窟の上には、十太郎と恒次の姿があった。
「はぁ…はぁ…くそ…!」
息を切らす十太郎に、刀の中の清姫が語りかける。
「あの刀…厄介じゃな。
「おまけに外道がくっ付いてるから、攻撃すると恒次さんに当たっちまう…。」
「構わず切ればいいものを…。」
「とにかく…まずは刀から恒次さんを引き
「
「お前の得意分野をやる!行くぞ!」
十太郎は恒次に向かって勢いよく飛び出した。
それに合わせ恒次が駆け出す。
両者は刀を振り上げる。
十太郎は恒次の目の前で刀を振り下ろした。
しかしまだ間合いは充分にある。
当然の如く攻撃は
恒次は一気に間合いを詰め刀を振り下ろす。
しかし次の瞬間、足元から爆煙が吹き荒れる。
十太郎は最初からこれを狙っていたのだ。
恒次の動きに一瞬の隙が生じる。
十太郎は相手の刀の
思わず刀から手が離れ、後方へと吹き飛ぶ。
「よっしゃあ!」
徐々に煙は晴れ、二人の姿を映し出す。
すると恒次はその場で気を失っていた。
「ちょっと手荒くなったけど…これで…」
その時、十太郎は体に違和感を感じた。
「な…なんだ…?…体が…」
体が言うことを聞かない。
封印の刀を握った瞬間、外道は十太郎の体に乗り移ったのであった…。
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