第六話 『天下五剣の一振』
人ならざる者であり、人の魂を喰らう者。
この物語の主人公『
その刀は『
世界に
「国綱さん…『天下五剣』の一振が
十太郎の問いかけに対し、国綱は静かに
「私…取りに行く!」
安が勢いよく駆けだした。
すると国綱は、安の腕を力強く引いた。
「待ちなさい。お前は皆んなと一緒に村の外へ逃げるんだ。」
「でも…!」
「安!」
叫んだのは十太郎だった。
「お父さんの言うことはちゃんと聞くんだ。」
真剣な目で訴える。
程なくして、安は両目に浮かべた涙を
娘の背中を見つめる国綱は、何とも言い難い複雑な表情を浮かべていた。
そして十太郎に背を向けたまま口を開いた。
「十太郎…童子切がお前の手に渡っていて良かった。」
「え…?」
「これも何かの
そう呟くと、国綱は振り返った。
「お前に俺の最高傑作を
「国綱さん…。分かった!」
互いに背を向け、国綱は走り出した。
十太郎の目の前には、今にも暴れだしそうな牛鬼が待ち構えている。
すると十太郎は、両手で刀を握り力を込めた。
「天狐!…力を借りるぞ!」
その瞬間、刀の中で眠っていた天狐が勢いよく目を覚ました。
そして自分の妖力が十太郎に吸い取られている事を悟る。
「お
「だから借りるって言ったろ!」
すると刀から白い煙が出現し、十太郎の姿を包んでいく。
その様子に牛鬼が興味を示した。
やがて煙は晴れ、十太郎の姿を映し出す。
するとそこには五人の十太郎が立っていた。
「ふっ…私の分身の応用か。」
天狐がそう呟くと、真ん中の十太郎を除く四体の分身は、刀を軽々と持ち上げた。
「思った通りだ。刀が重いのは清姫と天狐を封印している本体だけ。分身には影響しない!」
四体の分身は牛鬼に向かって一斉に飛びかかった。
すると刀の中から天狐が語りかける。
「確かに…分身の持つ刀には、私の妖力による刀への重力の影響は無いようだ。だが…」
分身体の十太郎は、牛鬼の足を切りつけた。
「妖力を持たぬ刀はただの鉄に成り下がる。」
しかし牛鬼の足には傷一つ付かず、刀が押し返される。
そして上から巨大な拳が降ってきた。
この攻撃により二体の分身が消えた。
「くそっ…!やっぱり妖力を借りた程度じゃ駄目か。」
次々と分身が攻撃され、早くも全ての分身が消えてしまった。
「
天狐の挑発に心を
図星を突いてくるのが
「うるせぇ。大体…お前の望みは何だ?」
「決まっているだろう。
「出来ねぇの分かってるだろ!あほか!」
二人の会話を無視して、牛鬼の鉄拳が飛んでくる。
十太郎は思わず刀を離し、体だけ回避する。
拳は地面に直撃し、激しい衝撃が襲う。
振動により刀は地面に倒れた。
牛鬼は十太郎の姿を追ってくる。
「
指の関節を鳴らし、牛鬼を挑発する。
刀は十太郎の目線の先、牛鬼の真後ろにある。
「所詮は牛…真っ直ぐ突っ込むことしか出来ねぇだろ!」
十太郎の言った通り、牛鬼は真っ直ぐ十太郎を目掛けて突っ込んできた。
それに対抗し、十太郎も牛鬼目掛けて走り出す。
巨大な体の弱点を突き、
牛鬼は拳を大きく振りかぶった。
その瞬間、十太郎は刀に向かって加速する。
しかし牛鬼は両足を地面から離し、空へと向けた。
体は逆さまになり、真下には十太郎が見える。
「やばっ…!」
そのまま巨体ごと拳が地面に突き刺さる。
とてつもない衝撃で地面が大きく
地面に着地すると、そのまま拳を押し込む。
すると牛鬼の腕が小刻みに揺れ始めた。
その先には、巨大な拳を刀の刀身で防ぐ十太郎の姿があった。
背中は
「ぐぐぐ……お…めぇ……」
刀の重みに加え、牛鬼の巨体がのしかかる。
持ち堪えているのが不思議だ。
よく見ると、剣先と
しかし地面が崩れるのは時間の問題だ。
いつ崩れてもおかしくはない。
そうなれば、目の前の刀は十太郎の体にめり込み、胴体は真っ二つになってしまうだろう。
十太郎は絶体絶命の危機の中にいた。
「んなろぉおおお…!!!」
その時、牛鬼の背中に何かが刺さった。
牛鬼の興味はそちらに向くと同時に、拳の力が弱まった。
重力に解放された十太郎は、この機を逃すまいと懸命に這い上がる。
牛鬼は己の背中に刺さった何かを右手で抜いた。
それは一本の刀だった。
「やっぱその刀じゃ…貫通は出来ねぇか。」
そこに立っていたのは国綱であった。
左手には鞘に収められた別の刀を持っている。
牛鬼は背中から抜いた刀を口に
「ひでぇなぁ…。
国綱のその言葉は牛鬼に届くはずも無かった。
しかしその言葉は、どこか十太郎に向けて発した様にも感じた。
牛鬼は
国綱は左手に持っていた刀を宙に放り投げた。
「大事に使えよ。十太郎。」
すると牛鬼は、宙を舞う刀を目掛けて拳を振った。
しかし、その拳の上には十太郎が乗っていた。
拳を蹴り、勢いよく刀へと飛ぶ。
「あぁ…分かってるよ。」
そして刀を握ると同時に、目にも留まらぬ速さで
「その刀は俺の最高傑作。父『安綱』の技術と俺の努力の結晶が生み出した最強の刀…」
巨大な拳は真ん中で綺麗に裂け、やがて血の雨が振る。
「天下五剣の一振…『
牛鬼は不気味な雄叫びを上げ、切られた拳を天に
どうやら痛がっている様子だ。
「安綱さんが打った童子切で出来たんだ。だったら…」
十太郎は二本の刀に力を込めた。
右手に童子切…
左手に鬼丸。
「天狐!引っ越しだ!」
童子切から出現した黄色の煙が、徐々に鬼丸の方へと吸い寄せられ、刀の中の天狐を光が包む。
「何が引っ越しだ。…まぁ、一人の空間が出来るだけ良しとするか。」
「二度と戻って来るんじゃないぞ。
清姫は童子切に…そして天狐は鬼丸に。
十太郎は刀を交差させ、大きく振った。
「こりゃあいい……負ける気がしねぇ。童子切が『
牛鬼は痛みにより、更に凶暴化し、辺りを
十太郎は狙いを定め、地面を踏みしめる。
そして鬼丸から天狐の妖力を吸い、体に流し込んだ。
地面を思い切り蹴り、一瞬にして牛鬼の頭上へと飛ぶ。
これは天狐の『
しかし余りの勢いに頭上を通過してしまう。
「おっとっと…!この速さには慣れが必要だな…。」
そのまま家の屋根に着地し、再び牛鬼に向かって飛び込む。
「はぁああああ!!!」
真正面から突撃するが、目の前からは大きな拳が迫って来る。
十太郎は鬼丸を逆さに持ち、童子切を後ろから押し当て、十字架の型を作った。
そのまま勢いよく直撃し、拳は十字の形に切断され、十太郎はそのまま進んで行く。
牛鬼は堪らず勢いよく腕を振り上げた。
頭上を舞う十太郎は、童子切を空高く振り
「これで決める…!」
その瞬間、童子切は
「『
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