第五話 『銘刀・童子切』
人ならざる者であり、人の魂を喰らう者。
この物語の主人公『
その
世界に
「童子切…?」
刀に
安には十太郎の言葉など聞こえてはいない。
すると十太郎は刀を
「あ…っ」
安は我に返り、そして立ち上がった。
「あの…どうか、うちの
必死な訴えに、断る理由も思いつかなかった。
翌日、十太郎は村の鍛冶場を訪れることにした。再び重い刀を引きずり鍛冶場を目指す。
「ぐぬぬぬっ……どうにかなんねぇのかよ…!この重さは…。」
すると刀の中から天狐が語りかける。
「
こんなはずでは無かった。と言わんばかりの、引き
すると今度は清姫が口を開いた。
「
十太郎は我慢の限界だった。
徐々に苛立ちを見せる。
「お前に関しては条件付きで契約交わしてるだろ!何をそんな偉そうに…」
天狐は不思議に思った。
「そうだったのか。ならば私にも何か条件を提示することだな。それ次第では、この刀が格段に軽くなるだろう。」
そうこうしてる間にも鍛冶場に着いた。
中から安が出迎える。
「十太郎!こっちこっち!」
元気に手を振る安だが、それに応えるだけの気力は十太郎には残っていなかった。
中へ進んでいくと、金属を打つ
「お父さん!連れて来たよ!」
安が呼びかける方には、刀を打つ体格の良い男の姿があった。
男は手を止め十太郎の方を見つめる。
「いらっしゃい。君が…」
「
「『
国綱の視線は、すぐに十太郎の持つ刀の方に向けられた。
それに気付き十太郎は刀を前に出す。
「おぉ…!これは…」
今にも触れてしまいそうな程、刀に接近する。
「あ……えっと…これは…」
十太郎は
国綱は不思議そうな顔をしている。
「お父さん…この刀に触れちゃ駄目。体の力が吸い取られるの。」
「何だって…!?」
どうやら隠し通しても仕方がないようだ。
十太郎は国綱に全てを話すことした。
「確かに…この刀は父が打った刀だ。」
国綱の前には、
安は席を外し、十太郎と二人だけだ。
「童子切…その刀で鬼を切ったとされる。」
「…鬼?」
「言い伝えだがな。しかし、まぁお前さんの話に寄ると、その刀で魍魎を二体も封印してんだろ?だったら有り得ない話じゃねぇ。」
十太郎は静かに
国綱は刀について深く語り始める。
「父『
「要するに…本来これは封印に
「そうだ。童子切は
それは身を持って実感している。
次に魍魎を封印出来たとしても、もうこの刀は動かなくなるだろう。
「最悪の場合…刀が魍魎に耐えきれず、粉砕するだろうな。」
「そんな…。」
もしそうなってしまえば、最悪の結末になってしまう。
「他に…魍魎を封印出来る刀は存在しないんですか?」
十太郎は問いかける。
しかしここで国綱はある疑問を抱く。
「どうしてそこまで『封印する』ことにこだわる?封印せずとも、殺してしまえば問題は無いはず…。」
核心をついた質問だった。
すると十太郎は、自らの手のひらを見つめた。
「悔しいけど…俺一人じゃ何も出来ないんだ。少しだけど旅をしてて分かった。俺は弱い。」
開いた手のひらを強く握り締めた。
「
国綱は十太郎の真剣な眼差しに圧倒される。
「俺は人間だ。だけど…刀を通して
十太郎の信念は、国綱にしっかりと届いていた。
「よし!分かった!そこまで言うなら……お前に『
「天下五剣?」
「この世に存在する全ての刀の中で、優れた能力を持つ
「…もしかして…この刀も?」
「あぁ。童子切は天下五剣の一振だ。さっきも言ったが、普通の刀では切れない鬼や魍魎を切ることが出来る。『
十太郎は童子切に顔を近付ける。刀に
「そんな凄い刀だったのか…。」
「一般人には、どれも同じに見えるだろうよ。切れりゃ良いんだからな。」
不満げな態度をとる国綱に、十太郎の
「それじゃ駄目なんだ!俺にはその天下五剣が必要だ!」
十太郎の
「教えてくれ…その
国綱は表情を
「きゃあああああ!」
しかしその瞬間、外から女性の悲鳴が聞こえた。
二人は慌てて立ち上がる。
すると安が扉を勢いよく開けて入ってきた。
「大変!村に鬼が出た!」
一気に緊張が走る。
十太郎は重い刀を持ち上げ、鍛冶場を出た。
人の波が押し寄せる。
鬼から逃げているのだ。
十太郎は波に逆らいながら進んでいく。
すると目の前にとんでもないものが出現した。
「おいおい…冗談だろ。」
それは村の建物を超える巨体だった。
十太郎はまるで空を見上げる時の様に、首を後ろに
体は人間と同じく手足があり、灰色の皮膚が不気味さを
頭には大きな二本の
十太郎は
「ば…化け物じゃねぇか…。」
すると清姫が、刀から上半身だけ具現化する。
「あれは『
「牛鬼…?」
「見た通りじゃ。頭が牛…胴が鬼。奴は
その時、牛鬼は両手を大きく振り上げ、地面に向かって叩きつけた。
「うわっ!」
激しく地面が割れ、
刀の重みでどうにか吹き飛ばずに済んだ。
「野郎…どうしてこの村に…」
「決まっておるじゃろう。
「…餌?」
「貴様ら人間の
辺りには人々の悲鳴が飛び交う。
十太郎は持っていた刀を地面に突き立てると、両手を刀の
「おい
牛鬼に向かって言い放つ。
しかし牛鬼には届かず、目の前の家が破壊される。
「…あれ?」
「言葉は通じぬと言ったばかりじゃろ。馬鹿なのか貴様は…。」
次第に十太郎の顔が熱くなる。
「うるせぇ!分かってるよ!」
牛鬼の興味をこちらに向かせたとしても、刀の重みで素早く動くことは難しい。
そうこう考えていると、背後から足音が接近してきた。
振り返ると、そこには安と国綱が立っていた。
「十太郎!」
「まさかお前…こいつとやり合おうってのか?」
「まぁな!けど、刀が重くて持ち上がらねぇ。今作戦練ってるところだ。」
すると安は、国綱の服の
「お父さん!『
安の言葉に、国綱の表情が険しくなる。
十太郎は問いかた。
「
「お父さん!このままだと村が壊されちゃう!お父さん!お父さん…」
安は必死に訴えかける。
その目には涙を浮かべていた。
「国綱さん…その神社に…あるんですね?」
十太郎は静かに問うた。
「『天下五剣』の一振が…。」
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