第二話 『玉藻に棲む魍魎』
人ならざる者であり、人の魂を喰らう者。
そして
名を『
その者、この物語の主人公なり…。
『
十太郎は刀に『
この魍魎こそ人々が恐れていた
十太郎は刀を背に担ぎ、
村を出て随分歩いて来たが、それにしても…刀が重い。
人一人担いでいるのではないかと思うくらいだ。
十太郎は自身の感覚を疑った。
刀を背から降ろし、試しに地面へ落としてみた。
やはり気のせいではない。
刀が落ちた瞬間、地面に亀裂が入った。
かなりの質量だ。
これも清姫が言っていた『
あれから清姫は一言も口を開かなくなった。
何か企んでいるのだろうか。
しかし今は先を進むのが先決だ。
再び刀を背負い歩き始める。
全ての魍魎を封印するとは言ったものの、何の手がかりも無い。
ひたすら進むが、ただただ体力が奪われるだけだった。
十太郎はついに足を止めた。
「駄目だ…。このままじゃ一向に前へ進まない…。」
ふと弱音を吐いた。
すると十太郎の背から、何やら怪しげな煙がゆらゆらと立ち込めてきた。
そして十太郎の背に覆いかぶさり、姿を現した。
「清姫…!?」
そう…それの正体は清姫だった。
「どうやって…」
「安心しろ。これは
「実体じゃないって…現に
確かに
「要するに…この姿では
「どうでもいいけど…重いんだよ。お前。」
「貴様…
「
やっと口を開いたかと思えば、体力どころか精神力まで奪いにかかる始末。
急に疲労が体を襲ってきた。
思わずその場に座り込む。
すると清姫は、この時を待っていたと言わんばかりに、十太郎の元へ詰め寄る。
「どうした?
十太郎の
「構うな!お前の話は聞かん!」
「何をそんなに気を
いや…そうで無いことは、清姫の表情から読み取れる。
これは人を
「お前の言うことなんて信じられるか。どうせ何か企んでるんだろう。」
「なに…ただ貴様が
「誰が…!お前なんかにやるかよ。」
そうは言ったものの、このままでは全ての魍魎を封印するという使命は
まずは一つ一つ、目の前の障害を乗り越えていくしか道はない。
今がまさに最初の障害だ。
どうにか刀の重量を元に戻す方法を探らねばならない。
手っ取り早く解決する方法は、清姫本人に交渉する他選択肢は無い。
だが封印を
「何をそんなに迷う必要がある?」
「迷ってんじゃねぇ。考えてんだ。」
清姫にとって、封印を解くのと同等…もしくはそれ以上の好条件…。
十太郎は
「…分かった。お前を
思いもよらぬ発言に、清姫は思わず目を見開く。
そして大きな口を開け、腹を抱えて笑った。
「あはは…!とうとう頭が
しかし、十太郎の目は真剣そのものだった。
「今すぐとは言ってねぇ!それには条件がある。」
十太郎の言葉に、清姫の笑い声が
「条件?なんじゃ?言ってみろ。」
「俺が全ての魍魎をこの手で封印した
清姫は呆然と立ち尽くす。
「その代り…俺の旅に協力しろ。」
だが次第に笑みがこぼれだした。
「あはははははは!」
再び大きな笑い声を上げる清姫。
十太郎は少し苛立ちを見せ、問いかける。
「何がおかしい!」
すると清姫は一度呼吸を整えた
「無理じゃ。」
そう一言だけ呟いた。
今にも何か言い返して来そうな十太郎を、右手で軽くあしらった。
「貴様…この世に魍魎が
考えたことが無かった。
清姫の質問には答えることが出来なかった。
「『
この世には自分が知らないだけで、それ程までに危機が迫っていたのかと。
「…くっ」
絶望した。
しかしそれとは裏腹に、別の感情も生まれた。
それは希望だ。
十太郎は再び意志を取り戻した。
「要するに…あと九十九体を封印すればいいんだろ?そっちのが分かりやすくて助かるぜ。」
それは決して十太郎の強がりでは無かった。
「やってみせるぜ…必ず…!」
清姫は十太郎の中に確かな意志を見た気がした。
どのみち刀に封印されている以上、自由にはなれない。
それに旅を続けていれば、いずれは妖力が完全に戻るはず。
上手く利用して、体を奪う機会を待つのも手だ。
ここは十太郎の条件を呑むことにした。
「良かろう…。では貴様がもし百鬼ノ魍魎を全て封印出来た暁には、必ず
「あぁ。…だが勘違いするなよ。」
十太郎は刀の剣先を清姫の中心に向けた。
「百鬼ノ魍魎を封印し、お前を解放した後…次は完全に封印してみせる。」
清姫は笑みを浮かべた。
「その時は気は抜かぬ。貴様に
「望むところだ!」
まずは何とか、目の前の障害を乗り越えたのだった…。
『
一度足を踏み入れたものは二度と帰っては来ない。
「その死神が
十太郎は今まさに、その森に足を踏み入れていた。
「魍魎だと言っておるじゃろ。…この森に入った時点で
十太郎は辺りを警戒して進む。
刀が軽くなった分、動きに余裕が生まれる。
それにしても不気味な森だ。
湿気がしつこく霧が
視界が悪いうえ、足元が不安定だ。
いや、先程より明らかにそうなっている。
辺りの木々が騒ぎ始める。
風が強まり、不気味な気配が強くなる。
十太郎は刀を握りしめた。
すると突然、目の前の霧が晴れ何かが現れる。
それは一匹の
「なんだ…狐か。」
ほっとする十太郎。
だが次の瞬間、背後からとてつもない殺気を感じた。
振り返ると、そこには白い着物姿の大きな女が立っていた。
慌てて距離を取り、刀を構える。
「何をしている!敵は後ろじゃ!」
清姫の呼びかけに反応し、正気に戻る。
大きな女は既に姿を消していたのだ。
理解が追いつかない。
先程目の前に現れた狐こそ、
気づいた時には既に、
寸前で
「……っつ!!」
まともに突き刺さっていれば、ひとたまりもない。
瞬発的に刀を振ったが見事に
間合いを取り体勢を整える。
「あいつが…この森に
容姿は、黄色系の髪に白い着物を着た人間の
「奴は玉藻に
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