誕生日(盗撮犯は兄でした。)

「眠いなら寝ればいいだろ」

「んー」


寄りかかってくる兄を逆方向に押し飛ばす。普段なら眠くなったらすぐに自室に戻るのに、今日は妙にしぶとい。


「俺はこれ見たいからいるんだよ」

「俺も…みたいから」

「じゃあ何見てるか分かる?」

「んー」


目はかろうじて開いているがやはり意識は半分ほど飛んでいるようだ。番組はそろそろ終盤に差し掛かっている。


「もうそろそろ寝るけど」

「あと5分…」

「それ寝てるやつが言うやつだから」


バタバタと画面が転換してスタッフロールが流れ始めた。正直後半からは横でうとうとしている兄が気になって内容が入ってこなかった。ため息を吐きながらテレビを消す。


「俺もう寝るから」

「あと1分…」

「だから、それは布団の中でいうやつなんだよ」


いきなりがしりと掴んできたが、日常茶飯事なので驚かない。むしろこれ以上大声になって近所迷惑になったら大変だ。


「あと1分で寝させてくれるんだな?」

「あと30秒」

「なんだその細かい時間設定」


時計の秒針が部屋に響く。心の中で数字を数えていると兄はゆっくり抱き着いていた腕を離していく。


30


そこまで数え切ったその時だった


「…おめでとう!」

「え?」


開口一番、兄はそう呟くと俺の頭をポンポンと撫でる。

ぽかんとしていると兄がスマホを見せてきた。その時間は0時ちょうど、そして日付は。


「誕生日…?」

「もしかして忘れてたのか?」

「まぁ…忘れてたわけじゃないけど」


言葉の通り忘れていた訳ではない。けれど…


「恋人同士じゃあるまいし、日付変わってすぐ祝われるとか思ってなかった」


率直に言うと兄は驚いた顔を見せる。


「でも兄弟だろ?」


純粋な目に射抜かれて少し言葉に詰まった。

そうだ、兄はそういう人間だった。ちょっと俺に執着しすぎな気もするが心優しく誰よりも俺を祝ってくれるそんな人。


「…そうだね」


そこまで考えて、俺は兄に笑ってそう言った。

祝ってもらえるのは、素晴らしいことである。



(暗転)

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原案っぽいやつの倉庫 めがねのひと @megane_book

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