弟(盗撮犯は兄でした。)
「…ん?」
静かな部屋にピコンと機械音が響いて振り返る。目の前にはやけににやついた兄の姿。あぁまたかと持っていた本を置くと兄は少し不満げに声を上げた。
「なんで置くんだよぉ、そのまま読んでればいいのに」
「気が散るからやなんだよ」
本を読んでいる自分を撮りたかったなどとほざいているが今週でもう5回目である。一体本を読んでいるだけの動画の何が面白いんだか。
「ちょっとどこいくの?」
「部屋」
「待って!俺も行くから」
「なんで来んだよ!」
「えぇ!」
わざわざスマホを向けたまま部屋にまでついて来ようとする兄を大声をあげて引っぺがす。こちらとしては至極当然な結果だと思うのだが、兄が捨てられた子犬みたいな顔を見せるもんだからなんだかこちらが悪いことをした気分になってくる。しかしここで甘やかしたら週7ペースで邪魔されかねない。
「ほら戻って…で撮影もやめて」
「それはちょっと…」
「なんでだ…よっ!」
とりあえず撮影だけはやめさせようと、スマホを俺に向けたままの兄からスマホに取ろうがするとひょいっと避けられる。
「なんでそんなに撮りたがるんだよ!」
「俺の勝手やろ!」
「別に撮らなくてもいいだろ!」
「いーやーだー!」
何とか取り返そうと試みるが俺より背の低いはずの兄からスマホを取ることは出来なかった。
何故こんなにも兄は俺を撮ることに執着しているのか何度か考えたことはある。でも俺はただのブラコンにしては少し変わっているなぁくらいしか思っていなかった。しかしそんな浅はかな考えは俺の部屋から小さな小型カメラが出てきたことによってがらっと崩れていくことになる。
俺の兄はブラコンなんてポップな言葉じゃ片づけられるようなものじゃなかった。
(暗転)
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