迷い込む世界(狭間の世界と放浪者)
白磁の霧に包まれて彼女はそこに立っている。
「相変わらず誰かを待っているのかい?」
「いや、誰かなんて待っていない」
遥か遠くの空虚を眺めながら彼女は言葉を紡ぐ。
一体何度この問答を繰り返したのだろうか。彼女がここに現れた時から?それとも俺がここの空間に魅せられた時から?少なくとも数えることを面倒くさくなるほどだったと思う。
ここは物語に見捨てられた者が迷い込む空間。
それ以上でもそれ以下でも何もない。全て生き切った者たちを裁くだけの俺には縁遠い世界。
そして彼女はここの管理人。否、そんな堅苦しい言葉は似合わないしおそらく違う。彼女の存在を俺の常識に当てはめることは出来ないんだろう。
「誰も来ないことを、私は待っているんだよ」
彼女は凛とした声でそう呟いた。霧に仲間と勘違いされて攫われてしまいそうな白い髪を揺らすのは誰かがまた迷い込んだ合図。最近知った。
「…行かなくていいの?」
俺の言葉に小さくため息をついて答えると彼女は霧の中に消える。せっかく会えたのに今日は邪魔されてしまったようだ。
「現実は、難しいね」
彼女が消えていった方向をじっと見つめながら、俺は消え入る声で呟いた。
(暗転)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます